第221話 菊の幹部達B

菊の華シリーズ第2章




車の中で運転席のレオンさんが話を切り出しました。



「桃瀬さんは確か,警察内の射撃大会で優勝したこともあるらしいよ。」



真後ろに座っていただぬちゃんが驚いて



「マジですかー。暗殺者顔負けですね!」

「特殊部隊に所属中は何度か凶悪犯を射殺したこともあるって言ってたなぁ。

別荘に人質を取って立てこもった被疑者をロープウェイのゴンドラから狙撃して

解決した事件は警察関係者の中では知らないものはいないほどの伝説だよ。」




みんなは感心してレオンさんの話を聞いていました。



リク君は助手席で黙って考え事をしていました。



「次はどこにいくの?」

「オアシス22にある劇場だよ。黄金原さんは

そこでもサーカス公演を開催しているんだって。」




車はあっというまにオアシス22という建物の前に到着しました。



建物の中に入り,受付でレオンさんが話を

つけるとその奥に入れてもらえました。



劇団はけいこの途中でした。

中心で指示を出していた人物が黄金原さんです。







彼はこちらに気付き,



黄金原「おう,レオンじゃないか。それに昨日の

子供たちも・・・。何か用事かい?」



と声をかけてくれました。



「ああ,ちょっと聞きたいことがあってね。

少しでいいので時間をくれないかい?」




黄金原さんは舞台の袖に行き,理科の実験室に置いて

あるような小さな丸イスを人数分出してくれました。



黄金原「それで話って?」



リク君は先ほどの桃瀬さんの時と同じ説明をしました。



黄金原「事情はわかったよ。俺は九州・四国地区を

担当していて福岡県警に所属している。」



「その地域にもJFは関わっているのか?」



とイツキ君が聞きました。



黄金原「ああ,彼らは全国に組織を展開している。

詳しくは青山に聞いた方がいいな。

組織のある程度の全貌は奴が調べていたからな。」



さらに黄金原さんは自分が捜査した情報を話してくれました。



黄金原「たいしたことじゃないんだけどね・・・。

俺は一度,ある捜査中に組織の幹部と遭遇したことがあるんだ。」



「まじですか!?」



だぬちゃんは聞き返しました。



黄金原「別件でたまたま古い工場の中に張り込んでいたら

組織の人間が何人か集まってきて何かの取引をし始めたんだ。

幸い向こうはこちらに気付かなかったから,しばらく監視していた。」



「それで?」



トシ君も興味があるようです。



黄金原「幹部の一人がもう一人に向かって"闇の騎士(ダークナイト)"と呼んでいた。」



リク君は真剣な表情で



「ダークナイト・・・。」



と呟き,その名前を頭に叩き込みました。



黄金原「会話の内容からわかったことは,藪蛇(やぶへび)

という諜報部隊があること,そしてそのダークナイトって

いうのがその部隊に所属しているってことだけだ。」



少し間をおいて,



黄金原「でも,こんなことを聞いてどうするんだい?

今の話は菊の幹部なら全員知っていることだぞ。」



「ああ,そうだったね。じゃあ,行くとしようか。」



レオンさんはお礼を言って,皆と一緒に車まで戻りました。



「どうだい?何か収穫はあった?

オイラはさっき黄金原さんが言っていた,闇の騎士(ダークナイト)が

スパイとして潜り込んでいるんじゃないかと思っているんだ。」




レオンさんの予想は当たっていました。



「まだ,なんとも。とりあえず,全員から話を聞いてから考えてみない?」



リク君の提案にレオンさんは賛成しました。

そして,青山氏の元へ向かいました。








第222話 菊の幹部達C

菊の華シリーズ第2章




リク君達が青山氏の元に訪れた時,彼は

ジャズバーのカウンターで休憩をしていました。



青山「音楽が聴きたいなら夜に来ないとダメだろ。」



青山氏は振り向くことなく,そう言いました。

どうやらリク君達が訪ねてきたことに気付いたようです。



「いや〜,今日は音楽じゃなくて話を聞きたくてね。」



青山「ほう・・・。」



持っていた,グラスをカウンターに置き,振り向きました。







「こっこんにちは!あの,だぬは青山さんの

大ファンなんです!ぜひ,これにサインをしていただけますか!?」




青山「そうか,嬉しいね。いいよ。」



色紙を受け取ると,サッとサインを

書いて,だぬちゃんに渡しました。



「ありがとうございます!」

「おい,サインなんかこの前会ったときにもらえばよかっただろ。」



イツキ君が軽くだぬちゃんを睨みつけました。



「昨日は色紙がなかったんですよ!」



と,負けずに言い返しました。



みんなはカウンターから少し離れたテーブルに座りました。

青山氏は机の前までやってきて,



青山「それで,話とは?」



「実は・・・。」



先ほどと同じ説明をしました。



青山「俺は近畿・中国地区担当で所属は大阪府警本部だ。公安第3課にいた。」



軽く自己紹介をしてもらった後,



「青山さんはどんな捜査をしていたんですか?」



青山「俺は組織の全体像を追いかけていた。そして,全国で数多く起きている変死事件や不可解な

企業脅迫事件,謎のサイバーハッカー事件の裏に巨大な闇の組織が存在していることを突き止めた。」



青山氏は続けました。



青山「そして,その闇の組織が表向きはジャファコンツェルンとう巨大優良企業で,

裏ではジャパノフォビア(JF)という闇組織として活動していると俺は確信している。」



「俺は・・・?」



と気になった部分を反芻しました。



青山「あいつらは決定的な証拠を一切出さない。だが,俺は

やつらの仕業だと俺の警察官としての勘がそう確信している。」



「でも,すごいですね!レオンさんがJFのことを以前詳しく話してくれたのは,

元々は青山さんの情報だったんですね。」




だぬちゃんは少し興奮していました。



「うん,まぁ,そういうこと。」



イツキ君がさらに気になることを聞きました。



「なぁ,奴らのボス,御前について何か知っていることは無いのか?」



青山氏は店の隅にある本棚から雑誌を取り出してあるページを開きました。



青山「ここに写っているのがジャファのCEO(最高責任者)の顔と名前だ。」



みんなは驚愕しました。



「え!?御前の正体ってわかっていたの!?」

「っていうか,雑誌に載っているの!?」



トシ君も驚いています。



その雑誌には優良企業の特集記事がありました。



そこにジャファCEOのインタビューが掲載されていたのです。



その人物とは・・・。








第223話 菊の幹部達D

菊の華シリーズ第2章




雑誌には優良企業の特集記事がありました。

そこにジャファCEOのインタビューが掲載されていたのです。



青山「CEOの名前は“安重 昏(やすしげ ひぐれ)”。

年齢は書かれていない。一代で日本一,

世界有数の巨大コンツェルンを作り上げた人物だ。」







「じゃあ,警察はこいつが諸悪の根源だってわかって

いるのに逮捕できずに世の中に野放しにしているのかよ!」




たまらず,イツキ君が声をあげました。



青山「問題はそう簡単じゃない。そもそもこの企業が裏で

JFという組織を立ち上げ,暗躍している物的な証拠は無い。」



青山氏の言うことは最もでした。

彼らの手口は巧妙で決して証拠を残さなかったのです。



そして,生き証人は全て口を塞ぐのが彼らのやり方です。



「組織のボスが誰だかわかっているのに,捕まえられないなんて・・・。」



と,悲しそうな顔です。



青山「極端な話,自動車メーカートップの"オヨタ"や

"オッサン"の社長が悪事を働いたとしても

証拠もなしに逮捕できないのと一緒だ。

彼らは社会的な地位もある。ヘタをすれば警察の社会的信用を失う。」



「しがらみのある社会は色々と大変だね。」



リク君は少し同情していました。



「でもね,オイラはこの雑誌に載っている人物が御前だとは思っていないんだ。」



レオンさんの口から思いもよらない言葉が出ました。



「え,それってどういうことですか?」



皆はレオンさんに注目しました。



「こいつはおそらく影武者さ。御前は別にいる。オイラの勘だけどね・・・。」



青山「お前はこの前の会議でもそう言っていたな。

確かに,こいつがジャファコンツェルンの表の顔で

裏の顔が御前という可能性はあるな。」



青山氏もその可能性を否定しませんでした。



「じゃあ,御前がどういう人物なのかはわからないままってこと?」



と,聞きました。



青山「翠川の推理が正しければ,そういうことになるな。」



少しがっかりした様子で,



「そんな簡単に御前までたどり着ければ苦労はしないか・・・。」



青山「あと,わかっていることは,ジャファの本社が名古屋の

セントラルツインタワーだということだ。あのビルはジャファの所有だからな。

奴らはバベルと呼んでいるらしいぞ。」



「バベルって呼ばれていることはオイラの情報提供ね。」



レオンさんは協力者の情報を可能な範囲で菊のメンバーに提供しているようでした。



ただし,レオンさんが闇組織ジャファに

潜り込んでいるスパイと協力関係にあることは伏せていました。



青山氏の話を聞き終えて,車に戻りました。



「最後は,赤神さんの神社だよね?」

「げげ,あそこはここからだと結構遠いじゃん。」



心配する二人に対し,



「彼は今,県警本部にいるはずだよ。

ここからそんなに遠くないから大丈夫。」




車を15分ほど走らせると,愛知県警本部の前に到着しました。








第224話 菊の幹部達E

菊の華シリーズ第2章




レオンさんが県警本部の受付で話をつけると,

通行許可証をもらい,少年昆虫団の首にかけてあげました。



「さぁ,行こうか。」



エレベータで5階まで上がると,

一番奥の部屋に向かいました。



中に入ると赤神さんが忙しそうに書類の整理をしていました。

赤神氏はこちらに気づき,



赤神「翠川から連絡は受けている。場所を変えようか。」



と,言って,仕事にきりをつけました。



「お願いします。」



リク君は丁寧にお辞儀をしました。



小さな応接室に案内され,そこそこ高そうな黒いソファに座りました。

レオンさんは座る場所がなかったので,窓際で立ったままになりました。



向かい合って座る赤神氏は神社で見せるテンションの高い男ではなく,

スーツ姿で,仕事ができる男性のように見えました。







赤神「私のことについて聞きたいんだな。

私は愛知県警本部公安課課長の赤神だ。」



赤神氏は何から話そうか少し迷っている風に見えました。



「菊という組織は赤神さんがつくったものなのか?」



それを見かねたイツキ君が質問をしました。



赤神「ああ,そうだ。闇組織ジャファをせん滅するためには

全国から優秀な人材が必要だった。だが,大勢で動けば

敵の目に触れ,計画が失敗する恐れがあった。」



「だから,少人数で特別チームを作ったんですね。」



赤神氏はうなずきました。



赤神「組織全体については機密事項なんだが,幹部は私を含めて5人。

その下に数十名の準幹部が捜査に携わっている,とだけ言っておこう。」



どうやら組織構造については詳しく話せない内容のようです。



「先日,事故死に見せかけて殺害された人は準幹部だったんですね。」

「そういうこと。殺害されたのは黄金原さんの部下だった捜査官だ。

非番でドライブ中に事故で亡くなったそうだが,

昨日の山本達の会話から察すると,おそらく組織が車に細工をしたんだろう。」




その言葉に部屋が静まり返りました。



「奴らはなんて酷いことをするんでしょうね。」



さすがのだぬちゃんも怒りを隠せない様子でした,



「どうしてもっと早く対策チームを

結成してJFと対決しなかったんですか?」




赤神「俺が結成する前から過去20年の間に何度か別の人たちに

よってJF対策チームは結成されたよ。

しかし,確たる証拠もあげられず,

結成してもすぐに解散を余儀なくされた。」



リク君は納得しました。



過去にJFを壊滅させようとした

警察組織は全て失敗に終わっていたのでした。



赤神「今回も結成自体はかなり前なんだが,

なかなか上の許可がでず,幹部全員が名古屋に

集結することができなかった。

本当に結集させるのに苦労したんだ。」



「そうだったのか。」



と,イツキ君。



赤神「ああ,ただ君たちのことは翠川から聞いていたからね。

初めて会った日に翠川に連絡をしたよ。それから雨の日だったが,

菊の幹部が全員名古屋に結集できることが決まった時も翠川に連絡したな。」



「ええ,そうでしたね。」



レオンさんがうなずきました。



「レオンさんのことを信頼しているんですね。」



赤神「幹部たちのことは全員信頼しているよ。

ただ,翠川には幹部結集の時に助けてもらったからな。

とくに感謝している。」



そう言うとレオンさんは照れながら,



「よしてくださいよ。」



と謙遜しました。



赤神「さて,本題に入ろうか。」



赤神さんはどんなことを話してくれるのでしょうか。