第233話 鷺(サギ)

菊の華シリーズ第2章




倉庫の前には先ほどの黒いワゴン車が止まっていました。

レオンさんは慎重に車を停止させ,車から降りました。



「みんなはここで待っていて。」



ワゴン車の中を覗くと,すでに誰も乗っていませんでした。



「おそらく倉庫の中だね。」



リク君は勝手に車から降りてきました。

続いてみんなも降りてきました。



「ここに置いておくわけにもいかないか。

絶対にオイラから離れないようにね。」


「うん,わかった。」



みんなはレオンさんの後ろを

ついていくことにしました。







そっと,倉庫の扉を開けました。



中は長い間使われていなかったようで,大量のほこりが

飛び散っており,思わず鼻を覆いたくなりました。



倉庫は2階建てで,中はオフィスビルの一角の

ようになっており,細かく区割りされていました。



みんなは古くなった廊下を進みました。

しばらく歩くと階段があったので,登っていきました。



すると角の部屋から悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきました。

声が聞こえた部屋の扉は少し開いていました。



中をのぞくと黄金原氏と部下の羽音々さんがいました。

二人は部屋の一番奥で両手を柱の後ろに回され,縛られていました。



レオンさんは扉を勢いよくあけて注意をこちらにひきました。



「黄金原さん!」



レオンさんは叫びました。



黄金原「遅いよ・・・。」



かなり衰弱している様子でした。



「みんなは扉の後ろに隠れているんだ。いいね。」

「わかっていますよ。」



だぬちゃんが言いました。



しかし,リク君は戦う気満々でした。



すでに捕虫網を背中から取り出し,

2刀流の構えで立っていました。



闇組織JFの精鋭部隊5人が黄金原氏たちを取り囲んでいました。

その中のリーダーと思われる人物がレオンさんに向かって警告をしました。



精鋭R「我々はJFの精鋭部隊“鷺(さぎ)”。こいつらを消すのが

我らの役目。これ以上近づけば,お前の命も保証しない。」



精鋭部隊の隊長はやせ形で頬が少しこけて,

あまり生気がないような人物に見えました。



「あいつらはやはり精鋭部隊なんだ・・・。

それって昨日のやつらと同じってこと?」


「おい,大声でしゃべるな!」



トシ君が思わず部屋の外から声を出しました。



精鋭部下「どうやら,隠れているガキがまだいるみたいですね。」



トシ君のせいで少年昆虫団の存在が気付かれてしまったようです。



精鋭R「なるほど,お前たちが,昨日,“梟”に襲撃された連中か。

我々を奴らと一緒にするな。任務を失敗した情けない奴らだ。

我々は精鋭中の精鋭,それが“鷺(さぎ)”だ。」



どうやら闇組織JFの中にはいくつもの精鋭部隊があるようです。



精鋭R「堂々と助けに来たのはいいが,

少しでも動けば,こいつらの命はないぞ。」



部下の二人がそれぞれの首元にナイフの

ようなものをつきつけていました。



「・・・。」



黄金原「俺のことは気にするな!お前は任務を全うしろ!」



黄金原氏が叫ぶと,“鷺”の部下が彼の腹を殴りました。



精鋭部下「黙っていろ!」



黄金原「ぐっ・・・。やってくれるね・・・。」



すぐ横の柱にくくりつけられた羽音々が

心配そうな表情で黄金原氏を見つめていました。



「オイラが同じ立場なら黄金原さんと同じことを言ったと思う。」



レオンさんは構えました。



黄金原「そうだ,それでいい・・・。」



「二人とも人質である前に,警察官だ。覚悟もできている。

オイラの任務はお前たちの身柄を拘束して組織の全貌を暴きだすことだ!」




そう言った瞬間,敵の懐へ飛び込んで行きました。








第234話 二人の救出 前編

菊の華シリーズ第2章




レオンさんは一番手前にいた鷺の部隊員に襲いかかりました。

いきなりの奇襲に戸惑った隊員は顎に強烈なフックを食らい,よろけました。



さらに腹に一撃が入り,倒れこみました。



鷺隊長「おい,こいつをさっさと片付けろ!」



鷺の部隊長の怒号が響き渡りました。



「イツキ君,みんなを頼む。」

「ああ,気をつけろよ。」



リク君は扉の後ろにいた少年昆虫団を

イツキ君に任せ,自らは戦闘に参加しました。



「おおおおぉぉぉぉ・・・・!!!」



2本の捕虫網を突き出し,低空姿勢のまま

超高速で敵に突撃していきました。



−大地二刀流− 桜乱舞



乱撃により,敵の体から血しぶきがあがりました。

それはまるで桜の花びらが散るようでした。







部下「ぐおぇっ・・・!?」



そのまま倒れこみました。



「さすが,リク君。よし,あと三人だ。」



鷺隊長「くそっ,信じられん。これが梟が言っていた,

菊の実力者と平成のファーヴルというガキの力か!?」



部下「こうなったら,こいつらから殺してやる!」




残った部下の二人が黄金原さんと羽音々さんを

殺害しようと軍用ナイフを振り下ろしました。



−大地二刀流− 神速の打突 連撃



リク君の放った二本の捕虫網による打突が

敵が持っているナイフに当たり,手からナイフが離れました。



その隙に,レオンさんが相手の懐に潜り込み,

延髄蹴りを食らわせ,一瞬で倒しました。



もう一人は,慌てて,逃げ出そうとしました。



出入り口は黄金原氏たちがくくりつけられている柱から

さらに後ろに設置された貨物用エレベータとリク君達が

入ってきた所しかなかったので,無我夢中でリク君に突進してきました。



部下「どけっ!このクソガキ〜!?」



リク君は冷静でした。



元の長さに戻っていた捕虫網を再び構え,

軽く相手のみぞおちに入れました。



部下「ぐふっ・・・。」



もだえながらその場で倒れ込みました。



しかし,意識があったようで,立ち上がり

再び扉を目指して走り出しました。



「しまった!ちょっと手加減しすぎたか!?」



扉の目の前にはイツキ君が,その後ろには

まさらちゃんとだぬちゃんとトシ君がいました。



部下「よし,このガキならたいしたことねぇ!」



闇組織JFの精鋭部隊とは思えないような

情けない姿で,この部下はイツキ君達に襲いかかりました。



「きゃあぁぁ・・・。」

「こっちに来ますよ!?」



まさらちゃんたちはパニックになりかけました。



「イツキ君!?」



リク君が声を上げました。



「大丈夫だ,お前たちは俺が守る!!」



イツキ君が前に出ました。



「うぉぉぉぉ!!!」



イツキ君の右の拳が敵の顔面に入りました。



バゴッ!!!!



相手は鼻血を出しながら思いっきり倒れました。

まだ起き上がろうとしたので,さらに一発食らわせました。



部下「がはっ・・・。」



ついにノックダウンしたようです。



「はぁはぁ・・・。」

「大丈夫か!?」



レオンさんがすぐ近くまで来て

くれていたことに気づきました。



「ああ・・・。なぁ,見ていただろ?

俺だって・・・戦えるんだ!」




イツキ君はレオンさんに向かって,そう言いました。



「ああ,立派だった。稽古が実践に活きるようになってきた。」



イツキ君はレオンさんに稽古を

つけてもらい,実践力がついてきました。



後は,鷺の部隊長だけが残りました。








第235話 二人の救出 後編

菊の華シリーズ第2章




闇組織JFの精鋭部隊,鷺はレオンさんとリク君,

そしてイツキ君によって,壊滅させられました。



残るは精鋭部隊“鷺”の部隊長だけです。



「さてと・・・。」



鷺隊長「こんな・・・こんなはずでは・・・。」



「後は,アンタだけだな。おとなしく

捕まって組織のことを全部話してもらうよ。」




レオンさんは少しずつ,鷺のリーダーに近づいていきました。



その間に,リク君とイツキ君は黄金原氏と羽音々さんに

近づき,縛られていたロープを切りました。



「一つ,先に聞いておきたいんだが,オイラの車を

パンクさせたのも,君達の部隊なのか?」




鷺隊長「・・・。おまえ達はここで死ぬ訳だから教えてやる。

お前たちの車を狙撃したのはわが組織の優秀な狙撃手だ。

ちなみにその方は源田様の直属の部下だ。」



どうやら狙撃手はユニット森熊に属する人物のようです。



「なるほど。桃瀬さんの言った通りか・・・。」



鷺隊長「梟が任務失敗した理由がわかった気が

する・・・。だが,最後に勝つのは我々だ。」



鷺の隊長は部屋の一番後ろに設置された貨物用の簡易

エレベータのスイッチを押して一瞬で下っていきました。



「しまった,逃げられた!」



イツキ君が,悔しそうな表情をしました。

スイッチを押してもすでに反応がありませんでした。



「仕方ない。とりあえず,二人が無事でよかった。」



レオンさんは黄金原氏の無事を確認し,安堵しました。



黄金原「すまない。俺一人なら

多少の無茶はできたんだが・・・。」



ちらっと音羽々さんを見ました。



羽音々「あの,本当にありがとうございました。

私が頼りないばかりですみません。」



そう言って,深々と頭を下げました。



「気にすることはないよ。さぁ,ここから出よう。

もしかしたらまだ追いつけるかもしれない。」




一同は部屋から出ることにしました。



一方,梯子から脱出した鷺の隊長は

1階の中央部屋である人物に遭遇していました。



鷺隊長「申し訳ありません・・・!

人質の殺害は失敗してしまいました・・・。」



南雲「そうか。ならば,すぐにそのスイッチを入れろ。」



その人物とはユニット山犬の南雲でした。







鷺隊長「しかし,私の部下は・・・。」

南雲「残念だが,処分ということになる。」



その言葉に鷺の隊長は言葉に詰まりました。



南雲「スイッチを起動後,1分後に倉庫の

あちこちから火の手が上がる。さぁ押せ。」

鷺隊長「くっ・・・。了解しました・・・!」



敬礼後,手元にあったスイッチを押しました。



鷺隊長「では,我々もすぐに避難しましょう・・・!」

南雲「ああ,そうだ。残念だが,お前はここに残ってもらう。」



南雲氏は拳銃を取り出して,

鷺の隊長にその銃口を向けました。



鷺隊長「なっ・・・。これは一体どういう・・・。」

南雲「お前たちは今回の作戦を知りすぎた。

いや,山本さんはお前たちが何も知らないまま葬りたいのかな。」



南雲はにやっと薄ら笑いを浮かべました。



鷺隊長「どういうことですか!?我々は指示通り,

菊の幹部とその部下を拉致し,この倉庫へ運びました。

菊内部の情報を尋問で聞き出し,口を割らなければ殺害。

邪魔が入れば倉庫ごと燃やす作戦だったはず。」




鷺隊長は必死に自分たちの成果をアピールしました。



鷺隊長「ちょうど,尋問を始めようとした

矢先に邪魔が入ってしまいましたが・・・。」



その時,鷺の隊長は何かに気づいたようです。それは・・・。



第236話 燃えさかる倉庫

菊の華シリーズ第2章




倉庫1階の中央部屋で闇組織JFの南雲と

精鋭部隊の部隊長が対峙していました。



南雲は部隊長に銃を突き付けていました。



鷺隊長「まさか・・・。今回の作戦は・・・。」

南雲「おっと,それまでだ。」



そういうが早いか,南雲は引き金を引きました。



パッシュ!



鷺隊長「ぐはっ・・・。」



南雲の放ったサイレンサー付きの銃は,

正確に鷺の隊長の脳天に一撃を食らわせました。



その時です。



倉庫の壁が燃え始めました。



南雲「おっと,もう火の手が上がり

始めたか。さっさとズラかるとしよう。」



南雲は炎の中,漆黒の闇に消えていきました。



火の手が上がったころ,少年昆虫団達は

1階の階段まで来ていました。



「やばいですよ!なんで急に燃え出すんですか!?」

「これってさっきのリーダーの仕業かな!?」



みんなパニックになりかけていました。



「大丈夫だ。出口はすぐそこだ。あまりしゃべらず,

鼻と口をしっかりとハンカチで押さえておくんだ。」




イツキ君は冷静でした。



先頭を進むレオンさんとリク君は,周囲に敵が

潜んでいないか慎重に調べながら歩いていました。



「さっきの奴が奇襲を仕掛けて

くると思ったが,なさそうだね・・・。」


「うん・・・。もう逃げちゃったのかも。」



黄金原氏はまだ傷が治っていない羽音々さんに

寄り添いながら一番後ろを進んでいました。



そして,全員が無事に倉庫から脱出できました。

その直後,大きな爆発とともにさらに倉庫が燃え上がりました。



そこにいた者たちはただ,燃えさかる倉庫を

見守ることしかできませんでした。







5分後には救急・消防隊と地元の警察が到着して,

レオンさんは事情を説明していました。



黄金原氏と羽音々さんは多少けがを

していたので,病院へ運ぼうとしましたが,

搬送中に襲撃される恐れがあったので拒みました。



遅れて赤神氏が菊の部下と共に警察車両でやってきました。



赤神「大変なことになったな。みんな,大丈夫なのか!?」



彼は車から降りると心配そうな表情で近づいてきました。



「すみません。自分がついていながら・・・。」



赤神「仕方ない。子供も一緒にいたわけだしな。」



赤神氏は全員の無事を確認し,ひとまず安心しました。



赤神「二人はやはり県警本部に戻ろう。黄金原は明らかに

JFに狙われている。お前はしばらく本部で内勤だ。」



黄金原「わかりました。羽音々も一緒でよろしいですよね。」



黄金原氏は彼女のことも心配しているようでした。



赤神「ああ,もちろんだ。そして翠川は早急に

子供を自宅へ送り帰し,明日に備えてくれ。」



「わかりました。」



この後,レオンさんは無事に少年昆虫団を

送っていき,長い一日は終わりました。