第289話 君だったんだね・・・

 菊の華シリーズ 最終章




愛知県警本部にて・・・。



小会議室に二人の人物が向かいあっていました。

彼女はその日の朝に目の前に告白をしたばかりでした。



しかし,雰囲気からはそんな甘い感じの様子は無く,

男が目の前の女性を問い詰めていました。



黄金原「悪いが君のデスクを探らせてもらったよ。」



羽音々「・・・。」



彼女はうつむいたまま返事をしませんでした。



黄金原「そしたら,これが見つかったよ。これって,

"菊"の機密情報データが入った媒体だよね。」



彼はポケットからUSBのような小型の記録媒体を

取り出し,彼女の前でちらつかせました。



黄金原「君だったんだね・・・。がっかりだ・・・。

朝の告白は何のつもりだったんだ・・・。」

羽音々「あっあれは・・・。」



二人は何やらやりとりをした直後,

彼女は机の上にあったコップを

こぼして彼に中身をぶちまけました。



黄金原「なっ!?」



そのすきに彼女は部屋を飛び出していきました。

すぐに黄金原氏も追いかけました。



この後,すぐに赤神氏が防犯カメラを確認し,二人が

別々の車で署内を出ていったことを確認しました。



彼は他の菊の幹部に連絡をとり,二人を探し出すように命じました。

Nシステムの追尾により名古屋からさらに北に

向かっていることまでをレオンさんに伝えました。



レオンさんと少年昆虫団は連絡を

受け,北に向かって捜索を開始しました。



レオンさんが運転し,助手席にはリク君が座りました。



後ろにはイツキ君とまさらちゃん,最後部の列に

トシ君とだぬちゃんが座っています。



緊急事態なのでサイレンを鳴らし

ながら,二人の車のナンバーを探します。



「でも,なんで二人は署内から出てしまったの?」

「どうやら,黄金原さんは羽音々さんが

JFのスパイだという証拠を見つけたらしい。

それを問い詰められて逃げ出したん

じゃないかって赤神さんは推測している。」




レオンさんは運転をしながら

それらしい車がないか探しています。



「そうか。朝にスパイの件を赤神さんを通じて伝えて

もらったから黄金原サンも思い当たる節があって探りをいれたのか。

そしたらその証拠が出てきてしまった・・・。」


「うそ!そんなの信じられないよ!だって羽音々さんは

勇気を出して自分の想いを伝えたんだよ。

悪いやつらのスパイがそんなことをするわけないじゃん!?」




まさらちゃんは半分泣きそうにながら訴えました。



となりに座っていたイツキ君が

まさらちゃんを慰めていました。



「でもスパイだってばれないために告白とかをして

自分から疑いを逸らそうとした可能性もあるよね。」


「それを言ったら,黄金原さんが

襲われたのだって自作自演かもしれないじゃん!?」




まさらちゃんは後ろを振り返り,

ものすごい形相でトシ君を睨みつけました。



「う・・・。例えばの話だよー・・・。」

「そう言えば,桃瀬さんがさっきまで黄金原さんと羽音々さんが

拉致された現場を訪れているって聞いたな。ちょっと連絡してみるか。」




最新の携帯電話は番号を直接打たなくても

声だけで発信できる仕組みになっていました。



レオンさん達の車は江南線と呼ばれる

道路を北に向かってどんどん走っていきます。








第290話 誰が闇の騎士(ダークナイト)か

 菊の華シリーズ 最終章




レオンさんは桃瀬氏に連絡を取ってみましたが不在のようでした。



「向こうも忙しいようだ。着信履歴は

残るからそのうち連絡が入るかな。」




レオンさんが彼女に連絡を入れる少し前のことです。



菊の紅一点である桃瀬氏は部下と一緒に,黄金原氏と羽音々氏が

一昨日の夜に病院から本部へ戻る途中で誘拐された現場の前に来ていました。



桃瀬の部下は20代後半の男性で片岡といいました。



<桃瀬の部下 片岡>



彼はどうやら頭髪の主張が少なく,

年齢よりも上に見られることが多いようです。



片岡「桃瀬さん,こんなところに来てどうするんですか?

もう現場検証は終わっていますよ。」

桃瀬「・・・。」



桃瀬はずっと,周囲の建物を見渡していました。



桃瀬「狙撃現場は確認できたんだっけ?」

片岡「あ,はい。ここから500mほど

離れたビルの屋上からです。」



桃瀬氏は別の件で手が離せなかったようで

自分自身でこの現場の検証は行っていなかったようです。



そこで,自らの足で気になることがないかを確認しに来たのです。



桃瀬「500m・・・。よくあの暗闇の中,

翠川君たちの車を狙撃できたわね。」

片岡「敵にすごいスナイパーがいると

いう推理は間違っていなかったですね。」



桃瀬氏は,今度は地面に視線をやりました。



しばらく歩きまわって何か

見落としがないか,探し回りました。



その時,桃瀬氏の携帯に赤神氏から連絡が入りました。



内容はレオンさんが聞いたものと同じで黄金原氏と

羽音々氏が署内からいなくなり,捜索せよとのことでした。



桃瀬「まったく〜。一体何をやってるのよ。」



少し面倒臭そうにして現場を離れようとしました。



桃瀬「あれ,これって何・・・?」

片岡「どうかしましたか?」



桃瀬氏は何かを見つけたようで顔が硬直していました。



この表情は闇の騎士を手掛かりを見つけたかも

しれない驚きなのか,自らが闇の騎士で

その証拠を残してしまった焦りなのか・・・。



場面は再びレオンさんが運転する車に変わります。



「じゃあ,みんなは誰が闇の騎士だと思っているの!?」



羽音々さんを疑われたままで怒りがおさまらない様子です。



「やっぱり他に怪しいといえば,桃瀬さんじゃないですかね。」



だぬちゃんが持論を展開します。



「だって彼女は一流のスナイパーなわけですよね。

JFに腕利きの狙撃手がいるって言っていましたが,

それが彼女自身のことなんじゃないですかね。

あの目つきは絶対に何人か殺している気がしますよ。」


「おいおい。女性を見た目で判断するのは危険だぞ。」



イツキ君が大人な意見を述べました。



「俺はあの青山っていうバンドの

リーダーが怪しいんじゃないかと思う。」


「いやいやいや,それはないでしょう。」



だぬちゃんは青山氏に憧れていた

のでその意見を否定します。



「でもさ,この前一緒に青山さんのコンサートを

聴いてそのあとに楽屋に行った時,携帯電話で

"グレイ"っていっているのを聞いたよね。」


(第267話参照)



「え?なんだって。それじゃあ

青山サンが組織側の人間ってことか。」




イツキ君も初耳だったようで

驚きを隠せないようです。



「だから,あれは何かの間違いですって!」



みんなはそれぞれが自分の尊敬する人

以外の誰かが闇の騎士だと思っているようです。



そんな会話を最前列のリク君と

レオンさんは黙って聞いていました。



「闇の騎士(ダークナイト)なのか・・・。」



誰が怪しいかで持ちきりの中,

レオンさんの携帯電話が鳴りました。



その相手とは・・・。






第291話 そして,あの山へ・・・

 菊の華シリーズ 最終章




レオンさんたちは二人の車を発見できないまま,

北に車を進め,岐阜県との境まで来ていました。



時間はすでに午後6時を過ぎていました。

その時,レオンさんの携帯電話が鳴りました。



レオンさんは声でスピーカーモードに

設定して通話ができるようにしました。



電話の相手は赤神さんでした。



赤神「部下にNシステムで二人の車を追跡させたところ,

どうやら岐阜県の各務原山方面に向かったようなんだ。」



「ちょうど,県境に来ていますのでこのまま向かいますね。

岐阜県警にはそっちの方で許可をとっておいてください。」




少年昆虫団はそのやりとりをじっと聞いていました。



赤神「それについてはすでに話を通してある。

俺や青山,桃瀬もそっちに向かっている。

何か嫌な予感がする。慎重に行動しろよ。」



「大丈夫だよ!僕たちにまかせて!」



リク君が横から会話に入ってきました。



赤神「そうか。君たちも一緒だったな。

くれぐれも無理をしないでくれよ。」



そう言って電話を切りました。



しばらくして一行は各務原山に到着しました。





駐車場には何台か車が止まっていましたが,

その中の2台が黄金原氏と羽音々氏のものでした。



「ここで降りて山の中に入っていったんだな。」

「じゃあ本当に羽音々さんが闇の騎士でそれに

気づいた黄金原さんが追いかけていったってことですか。」




そのまま登山道入り口までいき,

夕暮れの山道を登ることにしました。



「足場が悪い所も多いから気を付けてね。」



レオンさんを先頭にどんどん登っていきます。



その途中で,まさらちゃんが



「やっぱり,私は羽音々さんが悪い人だなんて思えない!

これにはきっと何かわけがあるんだよ!」


「うーむ・・・。リク君はどう思う?」



レオンさんはリク君に意見を求めました。



「一つ引っかかっていることが

あるんだよなー・・・。なんだっけなぁ・・・。」




帽子の上から髪の毛をくしゃくしゃとかく

仕草をしながら思い出そうとしています。



「頑張って思い出すんだ!」



なぜか上から目線のトシ君。



「そうだ,あの時・・・。」



リク君は歩きながら自分が気になって

いることをみんなに話しました。



その時,レオンさんの携帯に

桃瀬さんから連絡が入りました。



桃瀬「さっきは電話に出れなくてごめんね。

でも用件はだいたいわかっている。

貴方たちが狙撃に巻き込まれた現場についてだよね。」



桃瀬さんは先ほどの現場で気になったことを説明しました。



「なるほど,そういうことか。実はリク君がたった今,

君が思っている事と同じことを言っていたんだよ。」




桃瀬「え,本当に?あの子って貴方が

言うようにすごい子なのかもね。」



桃瀬さんはリク君の事をとても

感心した様子で話していました。



桃瀬「私たちも今,各務原山に着いたから追いかけるわ。」



そう言って,通話が切れました。



「実はオイラも気になっていたことを思い出したんだ。」



レオンさんがみんなに何かを話しました。



「じゃあ,やっぱりアイツが闇の騎士なんだな・・・。」

「・・・。」



まさらちゃんの顔は暗いままでした。



「でも,二人を探すのを急いだほうが

いいんじゃないですかね。」


「その通りだ。でもこの山道を

バラバラになって探すことは危険だ。」




そうこうしているうちに山の中腹までやってきました。

そしてそこにあの二人の影を見つけました。








第292話 闇の騎士の正体@

 菊の華シリーズ 最終章




すでに午後7時を過ぎ,日がかなり暮れていました。

各務原山の中腹にあるちょっとした広場の

ような場所に二人の影がありました。



それは署内から飛び出した

羽音々氏とそれを追いかけた黄金原氏でした。



二人は何かを言い合っているようでしたが,

レオンさんは構わず出て行って二人の前に姿を現しました。



その後ろに少年昆虫団も一緒にいました。



「こんなところにいたのか。探したよ。」



羽音々氏は彼の視線をまともに

受けることができませんでした。



黄金原「君たちもやはり来てしまったか・・・。

本当は二人だけで話したかったんだけどな。」



「署内で何があったかのか話してくれるね。」





レオンさんは二人に向かってそう言いました。



リク君は黙って二人の様子を観察していました。



トシ君はレオンさんの顔が最初に合った時とは

別人じゃないか,と突っ込みたかったのですが,

シリアスなシーンだったため自重しました。



黄金原「午前中に君から“JFのスパイが菊の中に

いる”って報告を赤神さんを通じて受けただろ。

部下を疑いたくはなかったんだけどね,

彼女の机を探らせてもらったら出てきたんだ。」



「何が・・・?」



まさらちゃんがレオンさんの後ろに

少し隠れながら恐る恐る聞きました。



黄金原「我々の行動記録や調査記録の入った小型記憶媒体だよ。

こんなものを個人的に所持する許可なんて出ていない。

だとすれば何のために持ち出そうとしたのか。」



「それで彼女がJFのスパイである

闇の騎士だといいたいわけですか・・・。」




今度はだぬちゃんがレオンさんの後ろ

から顔をのぞかせ,そう言いました。



そのやり取りを羽音々氏は

うつむいたまま,じっと聞いていました。



後ろの草陰がゴソゴソと動き,現れたのは赤神氏,

青山氏とその部下らしき男性,桃瀬氏と部下の片岡でした。



赤神「やっと追いついたか。間に合って

よかった。翠川,すまなかったな。」



「いえ,大丈夫です。」



リク君は黄金原氏と羽音々氏に近づきました。



「役者もそろったことだし,今から僕が

全てを明らかにしようと思う。いいかな?」






一瞬レオンさんの方を振り向き,

レオンさんが頷くのを確認しました。



桃瀬「本当に大丈夫なのかしら。いくら頭が

いいっていってもまだ子供じゃ・・・。」



赤神「まぁ,そう判断するのは,

彼の話を聞いてからでも遅くないさ。」



リク君が口を開きました。



「実は,今日の午前中にレオンさんから赤神さんに

この菊の中に闇組織JFのスパイがいるってことを

伝えるようにお願いしたのは僕なんだ。」




そこにいるメンバーは一瞬,驚いた様子で

したが,特に誰も言いませんでした。



「赤神さんから他のメンバーに伝えて

もらうことで何か動きが出てくると思ったんです。」


「案の定,こうやって大きな動きがありました。」



その話を羽音々氏は下を向いた

ままじっと聞いていました。



その様子をまさらちゃんが

心配そうに見つめています。



黄金原「確かに,君たちがその事を伝えてくれた

おかげでこうやって敵のスパイが見つかった。

悲しいけれどこれが真実なんだね・・・。」



彼のその発言に対し,リク君がニヤっと

不敵な笑みを浮かべました。



その笑みの意味とは・・・。