第317話 プロローグ 前編 

冥界の悪魔シリーズ 序章




愛知県西部の町はずれに大きな病院がありました。



病院の名前はジャファ記念病院。



名前の通り,表向きはジャファコンツェルンが経営し,

裏では闇組織JFの息がかかった病院でした。



その病院の4階の一室に二人の男が入院していました。



それは先日の各務原山で負傷した

今村の部下である,牟田と山下でした。



時間は深夜2時を過ぎた頃,その病室に

向かってひっそりと近づく影がありました。



全身を黒い服で身を包み,フードを

深くかぶり,どんな顔なのかは見えません。



その黒い人物はそっとその病室に入り込み,

懐から注射器を取り出し,彼らの点滴に何かを注入しました。



牟田「ぐっ・・・。」

山下「苦しい・・・。」






<山下(左)と牟田(右)>



数十秒後,二人は苦しみだし,

警報音が病室内に響き渡りました。



その警報を聞き,ナースが駆けつけた時,

黒いフードの人物は病室から姿を消していました。



その後,彼ら二人の死亡が確認されました。



この件は病院長から闇組織JFの源田に伝えられました。

病院長以下数名の幹部のみが闇組織JFとつながりがあるようです。



闇組織JFの本拠地バベル最上階の一室に山犬の山本,森熊の源田,

海猫の今村が席について真剣な表情で会議を行っていました。



部屋の中は高級ホテルさながらの装飾と広さで,

窓からは名古屋の夜景が一望できました。



つい先ほど今村の部下二人が

死亡したことが源田より告げられました。



今村「・・・。私としては心苦しいですが・・・。」

源田「仕方あるまい。彼らはあの各務原山の

一件で大きな過ちを犯した。消す以外に方法がなかった。」



源田は椅子に深く腰掛け,溜息をつきました。







すぐ隣で話を聞いていた山本が,



山本「本当は内心,喜んでいるんじゃねぇのか。

無能な人間はいらないっていうのがあんたの信条だろ。」



彼は不敵な笑みを浮かべました。



今村「フォッフォッフォッ。貴方と一緒にしないでいただきたい。

ただ,御前の御意向は全てにおいて優先される。」



山本「その通りだ。これ以上,“菊”に色々と探られるとやっかいだからな。

“菊”の暗殺計画の件もあり,今村の部下を消すのはこれでも遅いくらいだ。」



山本は右手をテーブルの上に置き,人差し指でトントンとテーブルを叩きました。



今村「何にせよ,組織の防衛は穴熊の源田さんの管轄。」



今村は源田に話を振りました。



源田「組織の警備は任せておけ。直属の部下,キラーにも

菊の幹部,小早川の息子の詳細を探れと命じてある。」

今村「諜報活動は藪蛇のアヤさんの管轄では?」



今村の質問に源田は,



源田「今回のキラーの任務はあくまでサポートだ。

そのために必要な情報を集めることは我々の管轄で問題ない。」



藪蛇のアヤはこの場にはいませんでした。



山本「小早川の息子は必ず殺す。

奴は以前,影(シャドー)の奴に盗聴器を仕掛けて

お前との会話を盗み聞きしている。」



山本が口を開きました。



今村「フォッフォッ。そうでしたね。だから私はすぐに源田さんに

連絡をしてバーを移転してもらったじゃないですか。」(第102話参照)



組織の存在を少しでも隠すためにそこまでやってしまうのが源田という男でした。



山本「それに,俺と源田サンが"例の件"で中野木署を

探った帰りに乗った車にも盗聴器が仕掛けられていた。

後を追わせた部隊の話では相手は小早川の

息子と平成のファーヴルだったそうだ。」(第181話参照)



山本は話を続けます。

源田は黙って聞いていました。



山本「奴らが繋がっていることは懸念事項だぞ。

菊とあのガキこそ,我々にとって最も

危険分子なのは間違いない。」



源田「そうだったな。あの時は部下を連れて,通常訓練の帰りだった。

俺はそのついでにお前と合流して中野木署付近まで行ったんだったな。」




どうやら山本はレオンさんの事をかなり警戒しているため,

今回の暗殺計画を実行し早急に消してしまおうと考えているようです。








第318話 プロローグ 後編 

冥界の悪魔シリーズ 序章




山本は小早川教授の息子であるレオンさんの事をかなり警戒していました。

そのため,今回の暗殺計画を実行し早急に消してしまおうと考えているようです。



山本「菊・・・。次は,次こそは必ず壊滅させてやるさ。

奴らは俺たちの組織に楔(くさび)を入れようとした。」



今村「そのセリフ,リ・セ・ッシュでも言ってたらしいじゃないですか。 (第177話参照)

それは沼蛭の彼の死を指しているんですか。でもあれは自殺のはずでしょう。

それにその後,こちらも警視庁のキャリア組を一人葬ったんですから痛み分けでは。

あの時はまだ菊と全面対決したわけではないでしょう。」



シックスユニットの一つ,沼蛭のリーダーは警視庁の

誰かとの抗争の最中に自殺していたようです。



それがどんな抗争だったのかはいずれ明らかになることでしょう。



今村「さて,もう夜も遅い。そろそろ休ませてもらいますよ。」



バベルの中層にも高級ホテルが経営されていました。

JFの幹部たちはそこで不自由ない生活ができるようです。



彼が部屋を出ようとした時,山本が,



山本「ああ,そうだ。元々,ヤツの部下だった

影(シャドー)と大西(グレイ)だったか。

そいつらはちゃんと仕事してんのか?御前に嘆願して,

アンタが自分のユニットに組み込んだんだろ。」



今村が振り返り,



今村「もちろんですよ。私の命じた指令を忠実にこなしてくれています。」

山本「ふんっ。どんな指令を出しているのやら・・・。どうせ教える気はないんだろ。」



山本は特に影(シャドー)の存在が少し気になるようでした。



今村「元々,影(シャドー)とは電話やメールでやり取りをしていたので,

顔を合わせたのは本当につい最近なんです。

君も彼の存在は知っていても面識はないでしょう。

彼って結構,組織の中でも謎な存在なんです。」 (第101話参照)



山本「ずっと一人で沼蛭を運営していた奴の元に,

1年前,御前の勅命により二人の部下が組みこまれた。」



山本の発言に,源田が,



源田「そうだ。だからあの二人は同期ということになる。俺はお前たちと違って,

以前からあの二人と面識がある。森熊は組織の警護と規律を任されているわけだから,

準幹部以上の顔と行動を把握する必要があるからな。」



と補足して付け加えました。



山本「ああ,そうだ。確認しておくが,先ほどの報告にあった,

今村の部下を殺ったのはあんたの直属の部下であるキラーなんだな。」



山本が源田に確認しました。



源田「ああ。奴は殺しのプロだからな。狙撃だけじゃなく

様々な殺しのテクニックを持っている。

遺体を石井軍医に引き渡すことが

決まっていたので,銃を使わずに実行させた。」



山本「俺に勝るとも劣らないコロシ好きなヤツだな。」



山本はなにやら嬉しそうです。



源田「ああ,奴はまさに“冥界の悪魔”だ。

どんな相手でも狙われたら最後,必ず殺される。」



源田は直属の部下であるキラーと

いう人物を相当信頼しているようです。



“冥界の悪魔(キラー)”の異名をもつ

手練れの暗殺者がリク君たちに迫ってくるのかもしれません。



今村は背を向け,手を振りながら部屋を出て行きました。

部屋には山本と源田が残っていました。



山本「まぁいいさ。どのみち菊の幹部は今回の作戦で必ず仕留める。」



彼はいきなりポケットに隠し持っていた

ナイフを壁に向かって鋭く投げました。



刺さった先には写真が貼ってありました。

その人物は今回のターゲットである小早川レオンでした。



山本「親子そろって組織にたてつくとは馬鹿な奴らだ。」



源田「俺はこの後,アヤの所へ行く。アヤから大西(グレイ)に

連絡を取ってもらい,菊の動向を探らせる。

闇の騎士(ダークナイト)が死んだ以上,奴に探らせるしかないからな。」



こうしてそれぞれの思惑を胸に,夜は過ぎていきました。



場面は変わってカブクワキングの店内。



すでに営業時間は終わっており,

バイトの灰庭氏が一人で片づけを行っていました。



すると彼の持っていた携帯電話に着信が入りました。







彼は点灯した携帯電話の液晶画面に映る

番号をしばらく見つめ,やがて電話に出ました。



灰庭「こんな時間に何の用で?」



・・・。



電話越しの相手と何か話をしています。



灰庭「なるほど・・・そういうこと・・・。

了解・・・。明日・・・。」



灰庭氏と電話をしているのは一体・・・?



本当にリク君の予想通り,彼が闇組織JFの一員である

大西(グレイ)なのでしょうか・・・?








第319話 レオンのおしゃれな休日 

冥界の悪魔シリーズ 第1章




夏の暑い日差しを遮って木々の生い茂る並木道をまっすぐ歩いていくと,

ピンク色の看板に「カフェ・オーシャン」と書かれた,

ブルースカイを基調としたとてもおしゃれなカフェがありました。



先週,新規開店したばかりですが,すでに平日の昼間から

ビジネスマンや大学生の憩いの場となっていました。



そんなカフェに一人の青年が英字新聞を読みながら

熱いコーヒーの香りと味を嗜んでいました。



彼の名前は翠川レオン。



中野木大学の院生で昆虫学を専攻しています。



しかし,それは仮の姿で本当は東京の

警視庁から派遣された警察官でした。



警視庁公安,闇組織JF対策の“菊水華”と

呼ばれるチームに所属していました。



彼は組織を壊滅させるため,闇組織JFの

本拠地がある名古屋にやってきたのです。



「優雅に一人で飲むコーヒーはまた格別にうまい。

こんな時は大学のレポートのことも忘れゆっくりしたいものだ。」




レオンさんは初めて訪れたこの店の

コーヒーをたいそう気に入ったようです。



「しかし現実は,潜入捜査で大学に潜り込んだだけなのに

学生と同じようにレポートの提出をしないといけない・・・。」




レオンさんが一人でぶつぶつと言っていると,

可愛らしい店員が声をかけてきました。



店員「あの,お客様,先ほどから何か独り言をつぶやいていますけれど,

当店のことで何か気になることがございますか。」



店員の胸につけられたプレートには

「立花 馨(かおる)」と書かれていました。



「いえいえ,ちょっと現実逃避していただけなのでお気になさらずに。

あれ,貴方って先日,オイラにこのお店のパンフを渡してくれた人ですよね。」






<カフェの店員 立花 馨(かおる)>



かおる「あ,そういえば!新規開店したばかりなので人が足りなくてマスターと

他のバイトの方と一緒に商店街で宣伝していたんです。」



どうやらレオンさんは街中を歩いていたところ,

たまたまこのお店のパンフをもらい,やってきたようです。



かおる「私,馨(かおる)と言います。

どうぞゆっくりしていってくださいね。」



とても笑顔が素敵な店員でした。



「あ,はい。それじゃあお言葉に甘えて・・・。」



レオンさんが再び英字新聞を読もうとしたとき,

店の入り口から少年たちが声をかけてきました。



それは少年昆虫団のみんなでした。



「あれ,みんな・・・。なんでここに?」



リク君たちはレオンさんの座っている席までやってきました。



「今日はまさらちゃんの長い

買い物に付き合う日だったんだよ。」


「悪かったわね。長い買い物で!」



まさらちゃんは後ろからリク君の背中を小突きました。



「レオンさん,髪型ちょっと変えたんですか?」

「あ,わかる?」







レオンさんは現役の大学生にしか見えませんでした。



「というか,なんかイケメンになりすぎじゃね!?

最初に会った時はもっと,ロン・・・。」(第31話参照)




トシ君はそこまで口に出し,飲み込みました。



「店の前を通ったらたまたまレオンさんが

中にいるのを見かけたから入ってみたんだ。」


「ああ,そういうことね。」



レオンさんは英字新聞を折りたたみ,店員さんを呼びました。



かおる「はい,お待たせしました。」



かおるさんが笑顔でやってきました。



レオンさんは昆虫団のためにジュースを注文してあげました。

オーダーを受けるとかおるさんは店の奥に戻って行きました。



「なんか,可愛い店員さんですね。さっきも何か

デレデレしながら話をしていましたよね。」


「いやいや,別にデレデレなんかしてないよ!」



彼は耳が赤くなり,目が泳いでいました。

動揺していることは火を見るより明らかでした。



リク君が何かに気付いたのか,

レオンさんの体をクンクンとかぎ始めました。



「ちょっと,何してるのよ!?」



するとリク君は,



「いや,なんかちょっと線香の匂いがすると思って。」



と言いました。



「ああ,午前中はちょっと

墓参りに行っていたもんだからね。」


「それってお父さんの墓か?」



イツキ君が聞きました。



「う〜ん・・・。」



レオンさんの返事はいまいち曖昧でした。



「まぁまぁ,そんなことよりも追加で

このスイーツも食べたくなったよ!」




トシ君が空気を読まずに勝手なことをしゃべりだしました。



結局,レオンさんは昆虫団と

小一時間ほどカフェで過ごしました。



「実はオイラもこの後,君たちに連絡を

しようと思っていたところだったんだ。」


「ああ,いよいよ明日キャンプだもんね!」



リク君が言いました。



「それもあるんだけど,相談したいことがあったのさ。

それとカブクワキングだっけ?

久しぶりにあの店に行ってみたいんだ。」


「相談?」



リク君はいまいち見当がつきませんでした。



「あんなところに何の用事があるのさ。」



イツキ君が聞くと,



「ほら,オイラは一応,昆虫学の院生でしょ。レポートを

書かないとだめなんだよねー・・・。そのネタに

なりそうなものを探しに行きたいわけ。」




みんなは潜入捜査も大変なんだな,

と思いながらも納得していました。



この後は,キングに向かうようです。








第320話 レオンのゼミ仲間 

冥界の悪魔シリーズ 第1章




レオンと少年昆虫団がカフェを出ようと席を

立つと,レオンさんのイヤコムに着信が入りました。



「おっと。こっちはプライベート用か・・・。」



レオンさんはイヤコムの通話ボタンを押し,会話に出ました。



「え?レポートのことで相談したい?オイラも今から材料を

集めようと思っていたところなんだけど・・・。

え?今どこにいるかって?地元に新しくできたカフェ・オーシャンだけど。」




レオンさんの相手はどうやら同じ大学の学生のようでした。



「え?近くにいるから今から店まで来るって?

いいよ,来なくて。え?もうすぐ着くって・・!?」




相手はいきなりイヤコムを切りました。



「相変わらず,マイペースな人だ・・・。

ヤバイ,まじで来るつもりか・・・。」


「なんか,大学院生に成りきって

捜査をするって大変なんだな。」




イツキ君が同情しました。



店の扉が開いて,誰かが入ってきました。



すぐにレオンさんを見つけ,

手を振りながらこっちに向かってきました。



それは,とても大学生には見えないような幼い顔した女性でした。



髪型はセミロングで目がクリっとしていて

とてもキュートな容姿をしていました。



彼女は“一 久遠(にのまえ くおん)”といいました。



久遠「レオン君〜!お待たせっだよ!

一緒にレポートを書こうっ!

あ,なんかいいにおいがする。

くおんも何か食べたーい!」



久遠さんはホットドックを注文しました。

程なく料理が届くとパクパクと食べ始めました。





<レオンのゼミ仲間 一 久遠(にのまえ くおん)>



久遠「くおん,コレ大好きなんだー!」



どうやらかなりマイペースな性格のようです。



久遠「さぁレポートだよ!レ・ポ・オ・ト!!一緒に書くんだよっ。

ってかこの子達はレオン君のお知り合い?」



久遠さんはリク達とお互いに自己紹介をしました。



「いや,だからオイラは別に自分一人でも書けるんだって!!」



少年昆虫団はそのやりとりを面白そうに見ていました。



「ははぁん!レオンさんって意外にプレイボーイなんだね。」

「いや,なんでそうなんの!?オイラ,

これでも結構困っている状況なんですけど。」




小声でまさらちゃんにツッコミました。



「いいじゃないですか。可愛い女性が同じ

ゼミにいるなんて。羨ましい限りです。」




「そう,言っていられるのも今のうちだよ・・・。

彼女,ちょっと変わっているから色々と大変なんだよ。」




今度はだぬちゃんにむかって苦言を呈しました。



「でも,この前,大学に行ったときには,

いませんでしたよね?蟷螂(カマキリ)っていう

教授だけしか部屋にいなかったと思うんですけど。」




久遠「ああ,え〜っとね。う〜んと,あの時はぁ・・・。」



大げさなしぐさで何かを思い出そうとしています。



「いや,別にたいしたことじゃないんで

無理して思い出さなくてもいいです。」




久遠「ああ,そうそう。あの日はね,

料理研究部の人たちと料理を作っていたんだぁ!!!」



久遠さんは何かを思い出したようです。



「わぁ,すごい!何を作っていたんですか?楽しそう!!

そういう大学生活ってなんか憧れるなぁ・・・。」




まさらちゃんはうっとりしています。



久遠「えっとねぇ!ゴキブリのチョコレートフォンデュ!

メタリックな色とチョコの色が上手いこと調和して最高なんだよね!」



「チーン!」



まさらちゃんはその場に倒れこみました。



「あたしのあこがれ大学キャンパス

ライフのイメージを返して・・・。」


「まさらちゃん,大丈夫・・・?気持ちはわかるぞ!」



もちろんゴキブリっていってもその辺に生息する

ものではなく,海外から輸入した食用ゴキブリだそうです。



久遠「あとはね,ゲンゴロウのスープ!

これもまた漢方薬みたいな味がしておいしいんだなぁ!」



「それは美味しいというのか・・・。」



今度はイツキ君があきれながらそう言いました。



久遠「あとはねぇ・・・。」



「もういいから・・・。わかったよ,

一緒にレポートを書く,書くから・・・。」




レオンさんはすでに疲れ切っていました。



「な,この人・・・結構大変だろ・・・。」



レオンさんの発言に少年昆虫団は全員同意しました。