第321話 灰庭とレオンと久遠 

冥界の悪魔シリーズ 第1章




レオンと昆虫団はカフェを出て,商店街から少し歩いたところにある,

伊藤店長が経営するカブクワ専門店のキングにやってきました。





レオンさんのゼミ仲間である,

一 久遠(にのまえ くおん)さんも

一緒についていくことになりました。



伊藤「おお,リク君。今日も来たのか。いいねぇ,飽きないで!」



店長の威勢のいい掛け声に,



「うん,ここのカブクワはみんな

元気で毎日見ていても飽きないんだ!」




と元気よく答えました。



伊藤店長の胸にはタグがかけられており,

「伊藤 整二(いとう せいじ)」と書かれていました



伊藤「あれ,後ろの人は・・・。」



「裏のアパートに住んでいる翠川レオンです。

ここへは以前も来たことがあると思います。

前回もこの子たちとご一緒したと思うんですが,

その時は,バイトの方が対応してくださったような・・・。」




すると,奥からまりんちゃんと

灰庭さんが出てきました。



まりんちゃんのタグには「海野 真凛(うみの まりん)」,

灰庭さんは「灰庭 健人(はいば けんと)」

とそれぞれ書かれていました。



まりん「みんな来てくれたんだ。でも,ごめんね。

今,ちょっと忙しくて遊んであげられないんだ。」



どうやらまりんちゃんはまたしても

新商品の棚卸のため忙しいようです。



灰庭「たしか,小早川さんでしたよね。またお会いしましたね。」



「ええ,そうでしたね。リク君から聞いたんですけど,

あなたも中野木大学に通っているんですよね。」




レオンさんが彼に近づき,話しかけました。



灰庭「そうです。僕の場合は,教授のお手伝いをしているだけですけどね。

ただ貴方とは学部が違うみたいなのでなかなかお会いする機会がありませんね。」



久遠「あ,くおんも同じ大学ー!一緒だねぇ!!

なんかすっごいイケメンさんだね!同い年かな!?」



久遠さんが二人の間に入ってきました。



灰庭「ボクはこう見えて結構,おじさんなんですよ。年は30歳です。」



久遠「ええぇ!うっそぉ!そうは見えない!!

なんかすっごいアンチエイチングやっているの??」



久遠さんは一人で勝手にテンションが上がっています。



久遠「年上の男性すごーい!かっこいい!!

素敵すぎてほわわんになってしまうかも。」



「(え,何を言っているんだろう,この人は・・・。)」



まさらちゃんもだんだんついていけなくなってきたようです。



「あれ?確かレオンさんも30だったよね。同い年ってことか?」

「しっ!久遠さんには一応23歳だと

言ってあるので,そのことは内密にね。」




イツキ君は,ああそうだったと納得しました。



「え?久遠さんも23歳なんですか?

全然そうは見えないですね。」




久遠「そっかなぁ?よく言われるけどなんでだろぉ。

あ,そっか!普段から昆虫食ばかり食べているから

美容にいいのかも!?まさらちゃんだっけ?今度一緒に食べてみる!?」



バタッ・・・。



「チーン・・・。」



まさらちゃんは再びその場に倒れこみました。



灰庭「それで今日はどんな御用で?

何か欲しいカブクワでも決まっていますか?」



灰庭さんが接客スマイルで聞いてきました。



レオンさんはしばらく店内を見渡し,

ある昆虫の前で足を止めました。



その昆虫とは・・・。








第322話 キャンプへ行く約束  

冥界の悪魔シリーズ 第1章




レオンさんはミヤマクワガタの入って

いるケースの前で立ち止まりました。





「う〜ん・・・。やはり虫は怖い・・・。」



灰庭「おや,ミヤマですか。好きなんですか?」



「ええ。ミヤマってなんかかっこいいですよね。

せっかくだからコレでレポートでも書こうかな。」




レオンさんはレポートの研究素材を探しているようでした。



久遠「へぇ,面白そうだね!くおんは,

何に何に何にしようかなぁ〜しようかなぁ〜。」



彼女の同じ言葉を繰り返すしゃべり方に,

だぬちゃんもだんだんとイライラしてきました。



「好きにすればいいと思いますよ・・・。」



灰庭さんはケースを目の前に持ってきてくれました。



店長「ちょっと,ここは任せるぞ〜。俺は他の客の接客をしてくる。」



店長はそう告げると,その場から離れていきました。



灰庭「僕もミヤマが大好きなんですよ。

でも名古屋じゃなかなか採集できないですよね。」



「そうなんですよね。」



二人はミヤマの話で盛り上がり始めました。



「あ,でもさ,明日行くキャンプ場の周辺

だったら採集できるんじゃない?

ガイドマップにそう書いてあったと思うよ。」


「そういえば,そうだったね。

じゃあ明日の夜はミヤマ採集ができそうだ!」




レオンさんは嬉しそうにしていると,



灰庭「へぇ,キャンプへ行かれるんですか?どちらまで?」



リク君が場所を告げました。



灰庭「面白そうですね。しかも

ミヤマまで採集できるとは興味深い。」



「なんなら灰庭さんも一緒についてくる?

一人くらい増えてもコテージだから平気だよ!」




まさらちゃんが灰庭さんをキャンプに誘ってみました。



「おい,いいのか!?あいつは“闇組織JF”の

スパイ,“グレイ”かもしれないんだろ?」




イツキ君がリク君だけに

聞こえるように言いました。



「そうなんだけど・・・。でもこうやって

みていると,とても悪い人には見えないんだよなぁ・・・。」




そんなことを言っていると,灰庭さんが



灰庭「え?いいのかい?」



乗り気になってきました。



久遠「はいはい〜!くおんも

一緒について行きまーす!」



久遠さんが横から立候補してきました。



「いや,今回は久遠さんはちょっと・・・。

また今度,どこかへ連れていってあげますから。」




久遠「ええ〜!なんかくおんだけ

仲間外れ〜!?ずるいよぉ〜!」



久遠さんはしばらくダダをこねていました。



「まぁ,仕方ないわな・・・。いくらなんでも彼女でも

ない女を泊まりで連れて行くわけにはいかんからな。」




イツキ君は相変わらず大人目線での発言ができる少年でした。



しかし,レオンさんの真意は別にありました。



この面倒臭いゼミ仲間とこれ以上,

深くかかわりたくなかったのです。



「え?レオンさんって彼女さんいるのかな?

久遠さんじゃないんだよね?」


「知らないよ。でもあの人は彼女じゃないだろ・・・。

あんなのがレオンさんの彼女だったら俺は泣くぞ・・・。」




レオンさんの女性関係は謎のままです。



灰庭「それでは僕も明日,ご一緒させてもらってもよろしいですか?

もちろん余分にかかる費用はお出ししますので。」



イツキ君は少し渋りましたが,結局,

灰庭さんも参加することが決定しました。



どうやら明日からのキャンプは

灰庭さんも加わり,大賑わいになりそうです。



「久遠さん,レポートの件はキャンプから帰ってきてからでいいかな?

フィールドワークした内容を必ずまとめて報告するからさ。」




久遠「う〜ん,仕方ないなぁ・・・。

そのかわり,またあのカフェでデートしようね!」



久遠さんがレオンさんに顔を近づけ,

にっこりとほほ笑みかけました。



「ああ,わかったよ。だから今日は,お開きにしよう!」



久遠「うん,わかった!また連絡するね!」



久遠さんは,その足で自宅へと帰って行きました。








第323話 レオンの相談事  

冥界の悪魔シリーズ 第1章




キングを出る前に,明日のキャンプのことに

ついて灰庭さんと打ち合わせておきました。



その帰り道,レオンさんは先ほどカフェで

相談しそこなったことを話したいと言いました。



ちょうど近くに噴水のある程よい大きさの

公園があったのでそこへ入っていきました。



みんなは公園内にある噴水のふちに腰掛けました。





「それで,どんなことなの?」

「実は,昨日からどうも誰かに

見張られている気がするんだ。」




レオンさんの表情はいつになく真剣でした。



「え?それってどういうことですか?」



とだぬちゃんが聞きました。



「わからない。もしかしたらJFの刺客が

オイラのことを探りに来たのかもしれない。」




イツキ君は思わず辺りを見渡してしまいました。



「何も・・・いない気がするが・・・。」

「いや,いる・・・。気配をかすかに感じるんだ。

オイラにしか分からない,ほんのわずかだが・・・。」




それを聞いてリク君も周りに注意を

払ってみましたが,わかりませんでした。



「なんかもしかしてヤバイ感じ?」

「ちょっと,不安を煽らないでよ!」



トシ君が不安をあおります。



「そうだね・・・。ひょっとして奴らの

暗殺計画のターゲットはオイラなのかもしれない。」




その推理にみんなは驚きを隠せませんでした。



「確かに,ありえるかもしれない。組織はレオンさんが

小早川教授の息子だってことは知っているはずだよね。」


「おそらくね。少なくとも研究所の人間は知っているはず。」



組織の山本たちがこの事実を知ったのは

つい最近で,石井軍医から知らされたようです。



石井軍医は山本のことを嫌っていたので,

ノアの書の探索と教授を殺害する依頼を出した時も,

必要最小限の情報しか与えなかったのです。



これは闇組織JFとJF生命工学研究所が立場上は対等で,

独立した存在だから許されることなのでしょう。



この時,レオンさんの直感は当たっていました。



公園から200mほど離れた茂みの中から

双眼鏡を使ってレオンさんを観察している人物がいました。



帽子を深くかぶり,サングラスとマスクを

しているので表情は読み取れません。



しかし,レオンさんのことを監視

している人物が確実にいるのです。



「ねえ,この前,渡しておいてノアの書は持っている?」



イツキ君は偽ノアの書を作り,影(シャドー)を使って組織へ返し,

本物はレオンさんに預けることにしていました。



「ああ,県警本部の重要機密文書保管室の

中で厳重に保管してあるよ。それがどうしたんだい?」


「いや,もしかしたらあのノアの書が偽物だってバレて,

それでレオンさんが狙われるだとしたらちょっと申し訳なくてさ。」




それはイツキ君なりの気遣いでした。



「大丈夫さ。例えバレたとしても,問題ないし,

そんなことで君が気を病むことはないよ。」




イツキ君はその言葉を聞いて少し気持ちが落ち着きました。



「でも,これからどうします?そんなに心配なら赤神さん

とかに報告しておいたほうがいいんじゃないですか?」




だぬちゃんが提案しました。



「ああ,それがいいかもね。」



トシ君は噴水の水を飲みながら同意しました。



「そうだな,今から赤神さんのところまで行ってみるか。

今日は神社にいるって言っていたから君たちも一緒に来るなら,

この後の昆虫採集も兼ねて神社へ行こうか。」




レオンさんは一度アパートへ戻り,車を取りに行きました。



そして,リク君たちは明日のキャンプの用意を済ませ,

少し早い夕食を食べてから,レオンさんの車で

赤神さんのいる神社へと向かいました。








第324話 菊,神社に集結  

冥界の悪魔シリーズ 第1章




レオンさんが赤神氏に連絡を入れると,

青山氏と桃瀬氏も呼んで,二宮神社に

落ち合うことになりました。



時間は夜の8時を過ぎていました。



駐車場に車を止め,神社の鳥居をくぐると,

赤神氏が境内の前で待っていました。



奥へ進み,赤神が神主でいる時に

生活している部屋の中に案内されました。



部屋は12畳ほどの畳部屋で

机と座布団が置かれていました。



すでに青山さんと桃瀬さんは中で待っていました。



青山「お疲れ。」



桃瀬「昨日は大変だったよね。まだ,

羽音々(はおとね)の意識は戻らないみたい。」



昨日未明に黄金原が闇の騎士だと暴かれ,

自暴自棄になり元部下の羽音々を刺し,重傷を負わせました。



最も,黄金原はリク君に圧倒的な力で打ちのめされ,

組織の狙撃手であるキラーに射殺されてしまいました。



赤神「黄金原の件だが,被疑者死亡のまま書類送検だ。

機密文書の窃盗,地方公務員法違反,そして殺人未遂罪となる。

結局,組織の全容は明らかにならないまま,この件は終わりそうだ。」





<赤神 俊一(あかがみ しゅんいち)>



赤神は一番の奥の席に腰かけ,

少し残念そうに語りました。



昆虫団とレオンさんも空いた席に

座らせてもらい,本題に入ることにしました。



「気づいたのは昨日からですが,どうやら

オイラの周りに不審な気配を感じるんです。」




青山「と,言うと?」



<青山 輝樹(あおやま てるき)>



青山氏は内ポケットに持っていたたばこを

吸おうとしましたが,子供の視線に引け目を感じて引っ込めました。



赤神「まさか,お前が組織の暗殺計画の

ターゲットになっているということか?」



「俺はその可能性が高いと思う。」



イツキ君がそう言いました。



桃瀬「どうして?」



<桃瀬 加奈(ももせ かな)>



隣に座っていた桃瀬さんが

イツキ君に聞きました。



「レオンさんは以前,組織の影(シャドー)っていう奴と

ノアの書の件でやり取りをしていて面識がある。

それに小早川教授の息子だから・・・。」




赤神「そうだな。教授から何か組織の情報が洩れているんじゃ

ないかと警戒して翠川を消そうとしている可能性は大いにある。」



赤神氏は腕を組みながら頷きました。



桃瀬「そうだとしたら,翠川君に護衛をつけて警護

しないと・・・!でないと,あの時みたいに・・・。」



桃瀬さんは悲しげな表情でそう言いました。



「大丈夫,オイラに警護は必要ないよ。

それに明日はここにいるみんなとキャンプへ行く予定だしね。」




青山「おいおい,何を呑気なことを・・・。

敵を甘く見るな。あの時のことをもう忘れたのか。」



青山さんがレオンにくぎを刺しました。



「あの時のことって何・・・?」

「気になりますね。何かあったんですね?」



リク君とだぬちゃんが聞きました。



一瞬,その場が静まり返りました。



トシ君が場を和ませようと机の上に登って

裸踊りをしようとしましたが,

まさらちゃんに睨まれたので止めました。



赤神「・・・。そうだな。君たちには話しておいた方がいいかもしれん。

我々と闇組織JFとのこれまでの抗争の歴史を・・・。」



「ああ,ぜひ聞きたいな。すでにもう俺たちはあの組織と

大きくかかわりのある当事者だぜ。全てを教えてくれ。」




赤神氏は少しためらって,



赤神「翠川,いいな?お前の同期の一人が殺された話を

この子達にすることになるが・・・。この子達の反応を

見る限り,お前の口からはきっと伝えていないんだろう。」



赤神さんの発言に昆虫団のみんなは

驚きを隠せませんでした。



「レオンさんの・・・?」

「同期が殺された・・・?」



二人はレオンさんに視線をやりました。



「もしかして,それってさっき話していたお墓参りのこと・・・?

お墓に眠っている人がレオンさんの同期の人だったの・・・?」


「ええ,かまいません。この子達には

すべてを知る権利があると思います。」




赤神さんは,



赤神「わかった」



と,小さく呟くと少し昔の話を始めました。