第325話 レオンの同期@  

冥界の悪魔シリーズ 第1章




少年昆虫団と菊の幹部たちは二宮神社に集まっていました。



そこで赤神さんから菊水華の結成と闇組織JFとの

これまでの争いについて深く聞くことになりました。



赤神「2年前,俺は定年退職した上司が以前所属

してた公安部のあるチームについて興味を持った。

その上司から聞くと,日本を壊滅に追い込み,国家を破壊し,

そこに新たな国を作ろうとしている巨大な闇組織があると教えてくれた。」



その闇組織こそがJF(ジャパノフォビア)でした。



上司が所属していたチームは,彼らを壊滅させるために結成したものの,

大きな成果が挙げられていないということで,

当時の愛知県警公安部長によって解体させられてしまいました。



そこで,赤神氏は警察庁へ出向き,自らが

リーダーとなって再度そのチームを結成し,

捜査が続けられるように嘆願しました。



粘り強い交渉の結果,いくつかの条件をもとに,チームは再結成され,

"菊水華"という名前で闇組織JFを追うことになりました。



「そうだったんだ・・・。」



赤神さんの話は続きます。



赤神「そして,JFが全国にネットワークを持っていることが

これまでの資料からわかっていたので,全国の県警本部に

お願いをして優秀な警察官を集めたいと考えたんだ。」



その結果,各方面からの代表として青山氏,

桃瀬氏の二人が採用されたそうです。



それが1年半前のことでした。



レオンさんが菊に加入したのは今から約1年前だったようです。



「オイラは当時,警察庁の勤務だったが,

ちょうど警視庁に出向することになっていた。その時,赤神さんと

出会い,菊に来ないかって誘われたんでしたよね。」




赤神「警視庁に切れ者がいるって聞いたんで,名古屋から飛んで行ったんだ。

二つ返事でOKしてもらったときはとても嬉しかったことを覚えている。」



レオンさんは,自分の父が何か危険なことに

巻き込まれていないか,少し心配をしている時期でした。



そんな時に,日本には闇組織が存在すると

いうことを知って,菊に加入することを決めたようです。



「黄金原さんが加入した時には,すでに本物の彼は・・・。」



赤神「ああ,先ほど福岡県警から連絡があってな。彼の自宅の庭から白骨死体が見つかった。

現在,DNA鑑定中らしいがおそらく本物の黄金原 聡(こがねはら さとし)だろう。

菊へ加入することが決まったことが奴らに知れ渡り,

黄金原は闇の騎士(ダークナイト)によって殺害されてしまった・・・。」



まさらちゃんはその情報を知った時,とても悲しい気持ちになりました。



もし,本物の黄金原さんが生きていて,羽音々さんと結ばれたら

どんなにか幸せだったのだろうと思わずにはいられませんでした。



「それで,さっき言っていた,あの事の話はいつ始まるんだ?」



イツキ君が少しせかしました。



赤神「ああ,そうだったな。あれは4カ月前のことだ。

死んだのは翠川の同期,茶竹(さたけ)という男だ。」



「オイラから話します。」



レオンさんはそう言って,静かに口を開き始めました。



4か月前(4月)の東京都警視庁内部・・・。

レオンさんには警察学校の同期が何人かいましたが,



そのうちの二人が警視庁に勤務していました。



一人は警視庁捜査2課のキャリア組で名前を茶竹 銀(さたけ ぎん),



茶竹 銀(さたけ ぎん)



もう一人は組対5課の課長で紺野 航(こんの わたる)といいました。





紺野 航(こんの わたる)



紺野という名前は内部調査用に使用する偽名です。



昼休みの休憩中にレオンさんは茶竹に

呼ばれて捜査2課内の奥の個室にいました。



茶竹「実は,ついにあの巨大企業の大物に令状が出た。罪状は株のインサイダー取引,

および有価証券偽造の容疑だ。半年ほど前から内々に捜査を進めていたんだ。」



「それがオイラをここに呼んだ理由か?」



レオンさんの返事はいまいちそっけないものでした。








第326話 レオンの同期A  

冥界の悪魔シリーズ 第1章




捜査2課内でレオンさんは

同期の茶竹と話をしていました。



茶竹「まぁ,お前には本来は関係のない話だ。

警察庁から出向中だし,そもそもが管轄外だからな。」



「ああ,そうだな。だがお前がこうして世の中の悪事を暴き,

自分の正義を貫こうとしていることについては応援しているつもりだ。」




レオンさんは机に置かれていた湯呑のお茶をぐっと飲み干しました。



茶竹「今回の逮捕劇は,世の中がひっくり返るかもしれない。

そして実はお前が今,所属しているチームにも

関係があることがあるかもしれないんだ。」



レオンさんの目つきが変わりました。



「どういうことだ?」



茶竹「逮捕状が出たのはあのジャファコンツェルンの系列企業のCEOだ。

知っての通り,ジャファといえば日本一の巨大企業グループだろう。

彼らは政治家,警察,司法関係にも多くのコネを持っている・・・。

警察だっておいそれと手を出せる存在じゃない。」



レオンは立ちあがって茶竹氏に駆け寄りました。



「ジャファだと!?」



一度冷静になり,もう一度聞き返しました。



茶竹「そうだ・・・ジャファだ。名前は山口多門(やまぐち たもん)35歳。

系列会社のジャファITのCEOを務めている人物だ。

かなり巨額な金を投資で動かしているみたいなんだが,

とある企業を裏で脅迫し,内部情報を事前に得て,インサイダー取引を行っていた。」





どうも容疑が固まったことで裁判所から令状が出たようです。



「ジャファは菊水華が追っている闇組織だと,知っていたのか?」



茶竹「俺は赤神さんとも面識があるんだ。闇組織の

ことは少し前に聞いたことがあった。この山口という人物は

組織の中でもかなりの大幹部らしい。うまくいけば芋づる式に

組織の連中を逮捕できるかもしれないぞ。」



茶竹の顔は自信にあふれていました。



「そうか。これは朗報だ。いつ身柄拘束に動くんだ?」



茶竹「午後から,捜査会議を行う。

終了し次第,会社に乗り込むつもりだ。」



レオンさんは自分も連れて行ってほしいと頼みました。



茶竹「そう言うと思ったよ。捜査会議に参加することを

認めるように現場の連中に言っておく。

今回の件は一応,俺が捜査指揮を担っているからな。」



まだ30歳になったばかりの彼が捜査の指揮を

任されるということは相当の実力と人脈が

なければできることではありません。



この茶竹という人物はレオンさんに

負けず劣らず優秀な警察官だったのです。



「あいつはこのことを知っているのか?」



茶竹「紺野のことか?今回の件はあくまで

捜査2課の仕事だ。組対5課は関係がない。」



紺野氏とはレオンさんのもう一人の同期で

組対5課の課長を任されている人物でした。



「そうか。だからお前は“菊”を

動かすためにオイラを呼んだんだな。」




茶竹「そういうことだ。それにもう一つ報告があってな。」



茶竹氏は一瞬,言葉に詰まりましたが続けて,



茶竹「俺,3ヶ月後に結婚することになったんだ。

だから今回の件で手柄を立てておかないと

格好がつかなくてな。お前の力を借りたかったんだ。」



少し照れ笑いしながらそう言いました。



「お前が結婚!?いつの間に,彼女を作ったんだ。

おめでとう。ったく,抜けがけしやがって!」




レオンさんは自分のことのように嬉しそうでした。



しかし,残酷なことに茶竹氏が

結婚式を迎えることはないのです。



茶竹「お前こそ,結婚の予定はないのか?」



「ない。オイラはひとり身の方が楽だ。

少なくともこの件が片付くまではね・・・。」









第327話 レオンの同期B  

冥界の悪魔シリーズ 第1章




レオンさんは捜査会議に参加し,終了後,逮捕状を持つ

茶竹氏とその部下達と共にジャファITへと向かいました。



出発前に同期の紺野氏と警視庁の

出入り口手前のせまい廊下ですれ違いました。



紺野「大手柄みたいだな。うらやましい限りだ。」



そう言いつつも心はこもっていませんでした。



茶竹「悪いな,紺野。俺はこれを足掛かりにもっともっと偉くなるつもりだ。

"正しいことをしたかったら偉くなれ",が俺たちが教官から教わった言葉だからな。」



茶竹は部下を引き連れそのまま廊下を進んでいきました。



最後方にレオンさんがいました。



「今回の件は,菊にとっても重要な事件になるかもしれない。

場合によってはお前の力が必要になるかも・・・。

赤神さんのことはお前も知っているよな?」




紺野「ああ。この前,話をする機会があった。

でも俺が力になれるかはわからないって言っておいたよ。

俺は茶竹と違って出世に興味も無い。

無理に手柄をあげる必要もない。」



どうもこの紺野という人物は茶竹氏に比べると

出世欲がなく,惰性で警察官を務めているだけのように見えました。



それでいて課長を任されるということは

一体どういうことなのでしょうか。



レオンさんはため息をついてそのまま彼と別れました。

一行はIT本社の前まで警察車両で仰々しくやってきました。





ジャフファIT本社の受付で用件を伝え,エレベーターに乗り込みました。

そのエレベーターは景色が見えるように透明なガラス貼りになっていました。



ビルの半分くらいまでエレベーターが上った時,上から何かが降ってきました。

それはあまりに一瞬のことでしたが,確かに人影でした。



茶竹「おい,今のはなんだ!?」



「まずいぞ,人だ,今のは確かに人が上から落ちてきた!」



猛烈に嫌な予感を胸に秘め,エレベーターが

最上階に到着するのを待ちました。



すぐに山口がいると思われる部屋に乗り込みましたが,姿が見えません。

ちょうどその時,清掃会社の社員と思われる人物が屋上へ続く階段から降りてきました。



茶竹「おい,あんた。この会社のCEOを見なかったか!?山口という人物だ。」



清掃社員「ああ,その方ならさきほど屋上へ上がっていきましたよ。

私はその階段をずっと掃除していましたから間違いありません。」



清掃業者の社員は一礼をしてエレベーターで下へ向かっていきました。



茶竹氏は下で待機している部下に携帯電話をかけました。

レオンさんは屋上へ上がっていきました。



茶竹「そうか・・・。クソッ!?」



茶竹氏も屋上に行き,レオンさんの耳元で呟きました。



茶竹「山口が自殺した・・・。下に遺体が・・・。

ちくしょう!あと一歩だったのに!!」



彼はこらえきれない悔しさで力いっぱい地面をたたきました。



「これが闇組織ジャファ・・・。組織を守るためには

ためらいもなく自らの命を絶つのか・・・。

オイラはもしかすると,とんでもなく手ごわい連中を

相手にしようとしているのか・・・。」




結局,山口は自殺と断定され,被疑者死亡の

まま書類送検され,捜査は終了しました。








第328話 レオンの同期C  

冥界の悪魔シリーズ 第1章




山口の死は名古屋にあるジャファの

本部でもすぐに伝えられました。



闇組織JFの本部,通称”バベル”の内部には

JF幹部が集まる会議室がいくつか存在します。



そのうちの一室に,源田,アヤ,今村,東條,山本の

各ユニットのリーダーが集結していました。



さらに源田の横には組織からの命令で暗殺を

担う“キラー(冥界の悪魔)”も同席していました。





源田「沼蛭の山口が死んだ。警視庁の捜査2課の茶竹という人物に追い込まれ,

自らの最期を悟ったのだろう。組織を守るため,死を選ぶとは立派だ。」



山本「源田サン,水を差すようで悪いが俺はそうは思わない。

組織のことを想うならサツに疑われた時点で死ぬべきだった。」



非情な山本の言葉に誰も言い返しませんでした。



山本「ただ,奴らが組織に傷をつけたのは事実。

この借りは今すぐにでも返すべきだ。」



それを聞いたアヤが,



アヤ「そうね,こちらとしてもやられっぱなしと

いうのは気にいらないわ。ねぇ,そう思わない?キラーちゃん!」



アヤは源田の横に立っていたキラーに振りました。

暗にキラーに報復を促しているようでした。



キラーは何も言いませんでした。



源田「当然,報復措置を取る。この茶竹という人物を直ちに殺害する。

しかし,表だってやればこちらが疑われる。

あくまで事故に見せかけることが大事だ。キラーは暗殺全般を

こなすがあくまで専門は狙撃だからな。今回の件には向かない。」



源田は山本を見ました。



山本「任せな。報復は俺たち山犬がやる。いいな,東條。」



山本の反対側に座っていた東條はそう言われ,

首を縦に振り,了承の返事をしました。



<川蝉のユニットリーダー 東條>



源田「山口の部下,大西と影(シャドー)はどうする?

部下に組み込まれてまだ1年もたっていなかったはず。

あいつらもいきなりリーダーを失ってしまうとは・・・。」

今村「フォッフォッ。それはまたいずれで良いのでは

ないでしょうか。なんなら私が引き取ってもかまいませんよ。」



今村の提案に源田は,



源田「そうだな。それについては御前の

判断を仰ごう。御前の勅命が出ればそれが全てだ。」

山本「ああ,そうだ。御前のお言葉は

全てにおいて優先される。それが勅命だ。」



御前の存在はまるで新興宗教の教祖の

ように絶対視される畏怖の対象となっているようです。



それはあの山本ですら例外ではありませんでした。



源田「今日はもう一つ重大な議案がある。」

アヤ「何かしら?」



アヤは自分の髪をいじりながら退屈そうに聞きました。



源田「生命工学研究所から入った情報によると,施設内で

培養していた神の遺伝子を持つカブトムシ,

"漆黒の金剛石"が何らかの理由で全滅したらしい。」



話を聞いていた東條氏が



「それは一大事。」



と発言しました。



源田「東條の言う通り,これはかなりまずいことだ。

すでに御前のお耳も伝わっているが,明日,臨時の

御前会議が開かれることになった。」




なんと漆黒の金剛石は一度,

全滅してしまっていたのでした。



源田「おそらく『再度,漆黒の金剛石を見つけ,早急に

培養させ最後の研究を完成させよ』,と勅命が出ると思われる。」

アヤ「でも,今って4月でしょ?夏にならないと見つけようが

ないんじゃない?そもそもアタシ,あの虫,嫌いなのよね。」



アヤは変わらず面倒臭そうにそう言いました。



源田「だから,今から以前発見した場所を含め,

中部地方一帯を捜索対象にし,目星をつけておく。」




源田氏は話を続けます。



源田「そして6月中旬以降から一斉に捜索をかけることになるだろう。

それまで研究は基礎的な部分を除き,一時的に中断されるようだ。」



どうやら,漆黒の金剛石は今から4カ月前の時点で

何らかの事情により全滅してしまったようです。



そこで,再度捜索されるようになり,旭森林公園で昆虫採集に

来ていたリク君たちと,山犬は偶然にも出会うことになるのです。



こんなバベルでのやり取りなど当時のレオンさん達は知る由もなく,

ただ沼蛭のリーダーである山口をあの世に逃がして

しまった後悔で悲しみに打ちひしがれていました。



そうして,1か月の月日が経ちました。

それは5月,ゴールデンウィーク中のことです。