第1話 レオンさんの携帯電話

 菊の華シリーズ 第1章




今日はレオンさんのアパートに遊びに来ていました。

今度,キャンプへ行く予定になっていて,その計画を立てているようです。



「まず,どこへ行くかを決めるんだろ!」



狭い部屋でテーブルを囲んで話し合っていました。





なかなか行き先が決まらず,イツキ君がいら立っていました。



レオンさんが奥の台所からジュースを運んできました。



「オイラはどこでもいいよ。

車なら出せるから多少遠くても大丈夫!」


「でも,大学はいいんですか?夏休みとはいえ,

やらなくてはいけない研究とかもあるんじゃないですか?」




だぬちゃんが珍しくまっとうな意見を出しました。



「ああ,そうだね・・・。提出期限が近い

レポートもいくつかあったな・・・。」




「ねぇねぇ,レオンさんが通っている大学に遊びに行ってもいい!?

どんなことを勉強しているのかちょっと興味あるかも。」




まさらちゃんがレオンさんに尋ねました。



「あ,うん。別にいいと思うよ。といっても一日,

ずっと昆虫の研究をしているだけだけど。

もし大学内でわからないことがあれば学生課に

行けば色々と案内してくれると思うよ。」




まさらちゃんはジュースを飲みながらうなずきました。



「今日は午後から,大学に行く予定だよ。

来るなら案内してあげるよ。」


「行ってみるか?」



イツキ君がリク君に振りました。



「あ,うん。いいんじゃない。特に予定もないし。」

「ただ,ちょっと大学に行く前に寄るところがあるから

一緒にはいけないんだ。お昼過ぎに大学に来てくれると助かるよ。」




レオンさんはどこかに出かける用事があるようでした。



「あ,ちょっと失礼。」



そう言ってトイレに行きました。



その時,レオンさんのポケットから少し型の古い携帯電話が落ちました。



リク君は目の前に落ちてきた携帯電話を手に取りました。



「ずいぶん古い携帯電話だね。

スマホですらないよ。いまだにこんな

機種が存在しているんだね。」




トシ君が感心していました。



リク君がボタンを押すと画面が光りました。



「ちょっと,リク君。勝手に

人の携帯電話を見るなんてよくないよ!」


「うん。あれ,でもこれって・・・。」



みんなが集まってきて画面を覗き込みました。



そこには電話帳に登録されたデータはなく,

通話記録やメールの受信記録もありませんでした。



「中身が空っぽだな。何のために持っているんだ?」



しばらくしてレオンさんが戻ってきました。



「あ,携帯電話,こんなところにあったか。

最近はイヤコムが主流だからあまり必要ないね。」




そう言ってテーブルの上に置いてあった

携帯電話をポケットの中にしまいました。



「じゃあ,キャンプの件はまた後で話し合おうか。」

「そうですね。じゃあだぬたちも一度お昼を食べに帰りますよ。」



みんなは一度解散して,また午後から

レオンさんの通う大学へ行くようです。



レオンさんはそのままどこかへ出かけていきました。



どうやら大学へ行く前に寄るところがあるようですが・・・。








第2話 中野木大学にて

 菊の華シリーズ 第1章




少年昆虫団は昼食を食べて中野木大学までやってきました。







「でも,どこの研究室にいるのかな?」

「学生課っていうところで聞いた方が早いんじゃない?」



まさらちゃんは先ほどレオンさんに言われたことを思い出しました。



みんなは入り口からしばらく歩いた

ところにある学生課の窓口へ向かいました。



「なかなか広いんだね・・・。小学校とは大違い。」



「あたりまえじゃないですか。

地域で一番大きな大学なんですから。」




窓口へ到着するとリク君が学生課の人に

レオンさんのことを尋ねました。



「えっと,知り合いのお兄さんを訪ねてきたんですけど。

昆虫学を専門にしている大学院生で名前は

小早川レオンっていう学生さんなんですけど。」




窓口「しばらくお待ちください。えっと・・・。」



窓口の人はモニターを見ながら検索をしました。



窓口「小早川レオンという学生は在籍しておりませんが・・・。

ボクたち本当にこの大学に知り合いがいるのかな?

どこかの大学と勘違いしているとかじゃないかな?」



窓口のお姉さんはやさしい口調になって,みんなに聞き返しました。



「いや,そんなはずはない。たしかに中野木大学だって言っていた。」



窓口「えっと,レオンっていう名前の

学生なら4人いるわよ。三人は大学生で一人は院生ね。」



みんなは顔を見合わせました。



「その院生のレオンって苗字は?」



窓口「えっと,苗字は"翠川(みどりかわ)"ね。翠川レオン君。

大学院2年生よ。昆虫学の鎌切(カマキリ)ゼミに在籍しているようね。」



「ミドリカワ・・・?」



リク君は考え込みました。



「でも,その人っぽくないかな?

昆虫の勉強をしているって言っていたし。」




みんなはとりあえず“鎌切ゼミ”の元へ向かいました。



「なんか変ですよね?レオンさんって確か,ジャファの研究所に

所属していた小早川教授の息子・・・。だったら苗字も小早川のはずですよ。」




歩きながら苗字の謎について話し合っていました。



「確かに。まぁ親が離婚して母親の姓を名乗っているとか,

養子に入って苗字が変わったとか色々考えられるけどな。」


「もしくは,"偽名"・・・。」



みんなはリク君に注目しました。



「偽名って嘘の名前ってことでしょ?なんで

そんなことをする必要があるんだい?」


「まさか,レオンさんのことを

何か疑っているんじゃないだろうな?」




イツキ君はリク君をにらみました。



「いやいや,そうじゃないよ!レオンさんは

僕たちの仲間だよ!それは間違いない。でも・・・。」


「でも・・・。なんだ?」



イツキ君は問い詰めました。



「まだ,“何か”を隠している気がする。何かを・・・。」








第3話 レオンさんと協力者

 菊の華シリーズ 第1章




少年昆虫団はレオンさんが在籍する中野木大学へ遊びに来ていました。

昆虫学を研究している棟の2階にその研究所はありました。



扉は鎌切(かまきり)ゼミと書かれていました。



「なんか緊張するね〜。ノックとかすればいいのかな?」



まさらちゃんが躊躇している間に,

リク君がノックをして扉をあけました。



「あの〜,こんにちは。レオンさんいますか〜?」

「いきなりですね!ちゃんとあいさつした

ほうがいいとだぬは思うよ!?」




扉を開けきって,中に入りました。



すると奥から声がします。



どうやらこのゼミの教授のようです。



教授「おや,これはかわいいお客さんたちだね。

何か御用かな?私はこのゼミの教授,鎌切じゃ。」







見た目は60代のいかにも虫好きな

おじいさんといった雰囲気の教授でした。



研究室の中はたくさんの標本で埋め尽くされていました。



「おお,ここすごい!」



リク君は軽く感動していました。



「レオンって人がこの研究室にいると

思うんだけど。俺たち遊びに来たんだ。」




イツキ君が説明しました。



教授「おお,翠川(みどりかわ)君のことか。今日はまだ来ていないな。

どこかへ寄ってからここに来ると言っていたが・・・。」



その時,ゼミの電話がなりました。



教授が電話に出ました。

相手はどうやらレオンさんのようです。



「やはり,苗字は翠川でしたね・・・。」



だぬちゃんが小声でリク君に話しかけました。



教授「そうか,今日は来れなくなったのか。

あい,わかった。ん?子供たち?

ああ,来ておるよ。代わろうか。」



鎌切教授はリク君に受話器を渡しました。



「レオンさん?僕たちもう大学に遊びに来ちゃったよ。」

「ああ,ごめんよぉ。もう少し時間がかかることに

なってしまって・・・。今日は大学は休むことにするよ。」




電話越しにレオンさんが謝っているのがわかりました。



教授「どうぞ,ごゆっくり。」



教授はさらに奥にある別の部屋に入って行きました。



リク君は電話をスピーカフォンにして,

みんなに聞こえるようにしました。



「ねぇ,ひょっとして,用事って・・・。組織に潜入している

協力者に会っていた・・・とか?だったりして。」




リク君は単刀直入に聞いてみました。



「ははは。なかなか鋭いね。まぁそんなようなところかな?」



みんなは電話に集まってレオンさんの声を聞いていました。



「その協力者の人って何て名前なの?

そういえば聞いてなかったよね?」


「えーっと,"小東"だよ。もちろん組織では違う名前を

名乗っているんだろうけど,詳しいことは

聞かないことにしているんだ。

自分の口からどこかでボロが出るとまずいから。」




レオンさんの協力者は"小東(こひがし)"と名乗る人物のようです。



「(小東・・・サンか。)」

「どんな人なんですかね?」



だぬちゃんが聞きました。



「まぁ,何せ組織に潜入中だからね。

今はまだあまり詳しくは話せないんだ。」




レオンさんは話題を変えました。



「それより,キャンプの打ち合わせの続きをしようよ。

中野木大学の近くにおいしいカフェがあるんだ。

そこで待ち合わせしないかい?」


「おいしいカフェ!?行きたい〜!」



まさらちゃんのテンションがあがりました。

かなりのカフェ好きのようです。



「だぬはジャズがかかっているカフェがいいですね〜。」



だぬちゃんはジャズ好きでした。



「ああ,あの牧歌的な感じの曲はカフェに会うよね〜。」

「それは,フォークソングですよ・・・。」



リク君は電話を切ると,教授にお礼を言い,部屋を後にしました。

この後は,指定されたカフェに向かうようです。








第4話 漆黒の車に遭遇

 菊の華シリーズ 第1章




少年昆虫団は大学を出て,地元の大通りに出ました。

国道が走っており,その道沿いにたくさんのお店が並んでいました。



目的のカフェが見えてきました。



「あ,あれですね。だぬはこう見えて

コーヒーには詳しいんですよ。やはりブラックが一番!」




だぬちゃんがコーヒーのうんちくをたれながら,看板を指さしました。



その時,だぬちゃんは国道に駐車してあった一台の車に目をやりました。



「なっ・・・。」



だぬちゃんはその場で立ち止まりました。



「どうしたんだ?」

「あの車は,もしかして・・・。」



だぬちゃんはとても動揺していました。



「これって,最初にJFのメンバーと遭遇した時に見た車ですよ。

多分,山犬の連中が乗っていたはずです。」


「そういえば,だぬはあいつらの車を

直接見ていたんだったな。間違いないのか?」




イツキ君が聞きました。



「間違いないですね。珍しい車で国産車じゃないですし,

すぐにわかりました。確か,"古代自動車"というメーカーの

“ソナタナノ”という車種です。」




車に詳しいだぬちゃんがみんなに説明しました。



「じゃああそこに止めてある車は・・・。」

「あれは,闇組織ジャファの山本の車だ・・・。」



みんなは驚いて声をあげました。



リク君はみんなを足止めし,自分はそっと車に近づきました。



みんなはイヤコムの電源を入れ,

情報を共有することにしました。



「レオンさん,聞こえる?」

「ああ,聞こえるよ?どうしたんだい?」



レオンさんがイヤコムに出ました。

近くまで来ているようです。



「今,ジャファの山本の車を見つけたんだ!

通りに駐車してあって中にはだれも乗っていない。」


「なんだって!場所は!?カフェの近く!?

すぐに行くから絶対に車に近づかないように!」




レオンさんの口調が変わりました。



5分もたたないうちにレオンさんが車でやってきました。



山本の車の50mほど後ろに止めて,降りてきました。



「あれか。オイラも何度かあの車は

見たことがある。間違いなく山本の車だ。」


「(何度も・・・?)」



レオンさんは例の盗聴器を取り出しました。



「何をするつもりなんだ?」

「盗聴器を仕掛けてみる。」



レオンさんは慎重に車に近づきました。



よく見ると,運転席の窓が少しだけ開いていました。

夏の熱気を防ぐために開けていたのでしょうか。



その隙間から盗聴器を放り込みました。

盗聴器はアクセルとブレーキのペダルあたりに落ちました。



「よし,うまくいった。みんな,オイラの車に乗って!」



みんなはレオンさんの車に乗り込みました。



そして,その場所から,山本の車を観察しました。

10分ほどたったころ,二人の人物が車に近づいてきました。



一人はユニット山犬のリーダー,山本でした。







夏でも黒のスーツに身を包み,

帽子を深くかぶって素顔は見せません。



長髪を後ろで束ね,一瞬の隙もない恰好で歩いていました。



「怖い・・・。」



山本のその殺気立ったオーラにまさらちゃんは

後部座席で頭を伏せて怖がっていました。



「あいつは山本・・・。」



トシくんは同じく後部座席から頭を出して覗いていました。



「もう一人は誰だろう?見たことないや・・・。」



みんなはレオンさんが取り付けた

盗聴器の受信機に耳を傾けていました。



車のドアが開く音がしました。



そして二人の話し声もうまく聞こえてきました。

全員が固唾(かたず)をのんで聞き入っていました。



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