ワクのわくわく冒険記シリーズ

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目次




ワクのわくわく冒険記 前編・後編

ワクのわくわく冒険記 前編
「え?ワクとカイリがいなくなった?」



リク君は知らせを受けて家に帰りました。

昆虫採集の帰りだったので夜もかなり遅い時間です。



ワクとカイリはリク君の弟と妹です。

ワク君はリク君の1つ下で小学1年生,

カイリちゃんはリク君の3つ下で幼稚園の年中さんです。



その二人が急に自宅から姿を消したようです。



少年昆虫団のみんなはリク君の家に来ました。レオンさんも一緒です。





「ありがとう。みんな・・・。」

「ううん,いいの。それより二人がいなくなったってどういうこと?」

「すぐに警察呼んだほうがいいですね。」



みんなも焦っているようです。



「でもいなくなってまだ1時間しかたって

いないらしいからね。どうせ警察は動いてくれない。」


「だろうな。」

「なんとかボクたちで見つけたい!」

「何でも言ってね。できる限りの協力はするよ。」



みんなはカイリちゃんの部屋に入りました。



何か手がかりがあるのでしょうか・・・。



「おい,こんなところにメモが貼ってあるぞ。」

「なんて書いてあるの?」



そのメモにはこのように書かれていました。



-助けて!緑地公園-



「助けを求めているメモですね!

ひょっとして誘拐とかですかね!?」


「・・・。」

「とにかくは緑地公園に行こう!」

「そうだな。」

「ワクは冒険好きでさ,緑地公園にはよく行っている。

だからそこにいけば何かわかるはずだ。」


「ふむ。」

「オイラも探すよ~!」



すぐにみんなで緑地公園へ向かいました。



するとそこには二人の自転車が置いてありました。



「間違いない,この公園に二人がいる。」



リク君が自転車のかごの中を見ると,またメモが置いてありました。



「なんて書いてあるの?」

「なんですかね?これは・・・?」



メモにはこのように書かれていました。



-ガフド・コヂゾー・0P <ミラー>-



「暗号?みたいだな。」

「なんかまったく意味不明ですね・・・。」

「一体どういうつもりなんだ・・・。」



昆虫団の後ろでレオンさんが笑みを浮かべています。



彼はすでにこの暗号を解いたようです。



ワクのわくわく冒険記 後編
自宅から消えたワクとカイリ。

緑地公園の入り口には二人の自転車がありました。



その自転車のかごの中にはメモが残されていました。

-ガフド・コヂゾー・0P <ミラー>-



メモに残された暗号。この暗号が意味する事とは・・・。



「よし・・・。奥に行こう。」

「え?暗号は解けたんですか?」



リク君はすでに駆け出していました。



「ま,考えるのは後ってことか・・・?」



緑地公園はなかなか広い公園です。



小学生が迷ってしまったらなかなか出ることは難しいでしょう。



リク君は樹液のにおいがするクヌギの木まで来ました。



「あれ?ここって・・・。」

「カイリー!ワクー!

ここにいるのはわかっているんだ。出てこい~!」




すると木の裏から二人が出てきました。





ワク「あちゃ~。見つかっちゃった。」

カイリ「ほら~。やっぱりリク兄には暗号が簡単すぎたんだよ。」



二人がリク君の兄弟です。



「えっと・・・。これはどういうことですか?

誘拐されたんじゃ・・・。」


「そうだ。あんなメモまで残して一体なんのつもりなんだ!

父さんや母さんも心配してるぞ!」




カイリ「だって,今日は特別な日でしょ。

だからワク兄がリク兄を驚かせてあげようって言うから。」



ワク「まぁ,そういうこと。」



「特別な日?」



カイリ「今日はリク兄が一人で初めてカブト虫を

採集できた日なんでしょ。お母さんがそう言ってたよ。」



「あ・・・。」



ワク「なはははは。」



「なるほど,それでリク君が急いで緑地公園に来るような

メモを部屋に残し,公園の前にさらにメモを置き,ここまで誘導したんだね。」




カイリ「はい,二人からのプレゼント!」



そこには飼育ケースに入れられた,カブト虫のペアがいました。



ワク「この0ポイントクヌギで採集したんだよ。」



「ワク,カイリ・・・。」



どうやらリク君は二人の気持ちがとてもうれしいようです。



「ありがとう・・・。」



「えっと,オイラはあの暗号・・・。いや・・・。なんでもない!」

「はは~ん。トシ君,暗号が解けてないんですね。

大丈夫ですよ,だぬも解けていないですから。」




どうやらあの暗号は 二人には難しすぎたようです。



「あれはね,最後に<ミラー>

つまり“鏡”と書いてあるでしょ。

つまり逆!だから濁点がついている字は

濁点を外して濁点がない字に濁点をつけるんだ。」




ガフド・コヂゾー・0P <ミラー>が

カブト・ゴチソー・0Pとなるようです。



「こじつけっぽいですが・・・。

カブトゴチソー・・・。

なるほどカブトムシのごちそうは

樹液の出るクヌギの木ってことですね。」




「その後の0Pっていうのは?」



「実はボクが生まれて最初に採集したクヌギの木を

“0ポイントクヌギ”って名づけていたんだ。

Pはポイントの略でこのことを知っているのは兄弟の二人だけ。

だからここってわかったんだ。」


「なるほど~。」



その後,二人を連れて無事,自宅に帰り,

今回のワクとカイリの失踪さわぎは解決しました。



ゼッタイゼツメイトシ

第1話 ゼッタイゼツメイトシ① ワクのわくわく冒険記
これはいつ誰の身にも起こり得る現実の物語



愛知県知多半島の先端付近にある某市市某町の浜辺にて



この町の海水浴場は海で泳ぐ人以外にも,

海岸でバーベキューや魚釣りもできるとあって,

たくさんの人たちが訪れていました。





その海水浴場にリク君の弟であるワク君とトシ君がいました。



どうやらみんなでバーベキューをする予定でしたが,

残りの少年昆虫団のメンバーはバスに

乗り遅れてしまい,後から合流するようです。



時間はお昼前,非常に日差しの暑い日でした。

二人は,バーベキューの準備をしていました。



バーベキュー用のコンロや着火剤などの

基本的な道具はありましたが,食料などは

残りのメンバーが持っていました。



なので,二人は自分たちが飲む最低限の飲料水と,

飯ごう用のお米くらいしかもっていませんでした。



トシ君が荷物を持つ係で,色々と

バーベキューセットを出して準備をしています。



「しかし,なんでみんな乗り遅れるかな~。」

*ワク君は今回からこの色での表示となります



ワク君は少し不満そうです。





「まぁいいや。先にできることをやっておこう。

トシ,飯ごうの準備をしよう!」




ワク君は年上のトシ君を呼び捨てにして声をかけました。



「はいはい。」



トシ君は何も文句を言わず,飯ごうをワク君に渡しました。



その時でした。突然,大きな揺れがおきました。



「わわ・・・!?」



地震です。



トシ君は持っていた飯ごうを思わず砂浜に落としてしまいました。



揺れはすぐに止みました。



「最近,地震多いよね・・・。」



今の地震はそれほど大きな揺れでなかったので,

トシ君はそれほど心配していませんでした。



落ちた飯ごうを広い,海水で洗いに行きました。



トシ君たちがバーベキューしようとしている場所は

波打ち際から50mほど離れていました。



トシ君が飯ごうを洗い,ふと水平線を見ました。



その時,水平線の向こうが眩く光りました。



「うわっ,なにこれ!?」



その直後のことです。



ゴゴゴゴゴゴ・・・・



ドスン!



下から突き上げるような強烈な力を受けて,二人は倒れこみました。



先ほどとは比べ物にならないほどの大きな揺れが襲いかかります。

二人も海岸で遊んでいる多くの人たちも

誰一人立ち上がったり,動いたりできないような激しい揺れです。



ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!!!



「やばい,これは・・・。」

「死ぬっ,死ぬっ~!」



海岸はパニックになり,たくさんの悲鳴が聞こえてきます。

時間にすればわずかですが,そのとてつもない揺れは

何分も続いたように感じられました。



二人は何が起きたのか理解できませんでした。



揺れが収まったかと思うとさらにもう一度揺れ始めました。



海岸沿いに植えてあった樹木が倒れ,

海に流れ込む川の水が激しく波を立てています。



周囲から何かが崩れる音や悲鳴など混乱した様子が伝わってきます。



そしてようやく揺れは収まりました。



二人は震えて動けません。かつて経験したことが

ないほどの激しい揺れは二人を混乱させるには十分でした。



しかし,二人に訪れる本当の恐怖はこれから始まるのでした・・・。



第2話 ゼッタイゼツメイトシ② ワクのわくわく冒険記
被災 1日目 10:56 



突如起きた大地震



海水浴場のある浜辺に来ていたワク君とトシ君は

初めて訪れた大地震の恐怖で体が動けません・・・。



しかし,二人はなんとかして体を

起こし,周りを見渡しました。



「なんてことだ・・・。」

「あっあれ!」



トシ君は波打ち際で声を出してワク君を呼びました。



ワク君はトシ君の近くまで行きました。



トシ君が海辺に対して直角方向を指差しました。



その場所には崩れ落ちた沢山のテトラポットがありました。



先ほどまでたくさんの人たちがこの上から魚釣りを楽しんでいた場所です。

二人が近くまで駆け寄るとその悲惨な光景に目を覆いたくなりました。



「ぐっ・・・。」



多くの人がテトラポットに押しつぶされて死んでいました。



釣りをしている最中に地震の被害にあってしまったようです。



押しつぶされた人たちの体はもはや,ぐちゃぐちゃです。



「なんでこんなことに・・・。」



二人が崩れたテトラポットの前でうろたえていると

その奥からかすかな声が聞こえました。



「まだ,奥に誰かいる!?助けなくちゃ!」



トシ君はテトラポットの隙間を覗き込みました。



「よせ!危ない!」



ワク君はトシ君を制止しようとします。



「ほら,奥に人がいるよ!」



ワク君も慎重に覗き込んでみました。



「だめだ・・・。下半身が完全に

つぶされている。助からないよ・・・。」


「でも,助けなきゃ!オイラたちにできることやろう!」



トシ君はどうやら目に見える困った人たちを

全て助けなくてはという使命感があるようです。



「やめるんだ!ほら,はやくこっちへ!」



ワク君は力づくでトシ君をテトラポットから引き離します。



その時でした。



またしても大きな揺れが襲ってきました。



「うあぁぁぁ。」



上部に残っていたテトラポットがさらに崩れてきました。



二人は間一髪のところで難を逃れることができました。



しかし先ほど助けを求めていた人の声はもう聞こえません・・・。



「いいか,トシ!俺たちにできることは,

まず自分が生き残ることだ!

それをその足りない脳みそに

しっかりと叩き込んでおけ!いいな!」




ワク君は兄のリク君よりもかなり口が悪いようです。



「でも・・・。」



トシ君は納得がいかないようでしたが,

それ以上は口にしませんでした。



地震が発生したら絶対に崩れやすい場所へ

近づいてはいけません。

気をつけましょう。



二人は荷物が置いてある場所まで

戻ってくると,ある異変に気づきました。



「なんだこれ・・・。」

「どうしてこんなことが起こるんだい・・・?」



二人が目にしたものは,先ほどまで確かに

そこに存在した,“海”が消えていたのです。





「これは・・・まずいぞ・・・。」



この先二人に何が起きるのでしょうか。



第3話 ゼッタイゼツメイトシ③ ワクのわくわく冒険記
被災 1日目 11:00 



二人が目にしたものは,先ほどまで

確かにそこに存在した,“海”が消えていたのです。



「これは・・・まずいぞ・・・。」

「なんでこんなことに・・・?」



トシ君には何が起こっているのか理解できませんでした。



「あ,あれ!あれを見てよ!」



トシ君は水平線を指しました。



「なんか,たくさんの人たちがいるよ!あんなに遠くに!」



よく見るとかなり離れた場所まで人が流されていました。



「海が引いて,泳いでいた人たちがあそこまで流されたんだ。

残念だけど,どうしようもない・・・。」


「助けに行こう!一人でも救わなくちゃ!」



トシ君は先ほどワク君に言われたことをもう忘れているのでしょうか。



「このクソ野郎!いいか,よく聞け。今から何が起こるか教えてやる。」



そういいながら,持っていた荷物を片付けました。



「津波だよ!それも超でかいやつが来る・・・!」

「えええ!?津波ってあの・・・。」



浜辺にいて流されずにすんだ人たちも避難を始めていました。

こんな状況でもバーベキューなどを続けている人たちも少数ですがいました。



「じゃあ,せめて残っている人たちに声をかけながら逃げようよ。」

「そんな時間はない!津波は時速70km以上で襲ってくるんだ!

それにああいう連中には何を言っても無駄だ!

台風の時に用水路を見に行って死ぬ連中と同じだ!ほっとけ!」




ワク君は徹底した現実主義(リアリスト)でした。

自分の行動に責任が持てないことをする人たちには

厳しい意見の立場だったのです。



「とても小学1年生とは思えないね・・・。」



ワク君はトシ君を説得しながら海岸の端にある堤防まで走って来ました。

その時です。水平線の向こうから何やら黒い影が押し寄せてきます。



「来たっ!津波だ!」



急いで防波堤にある隙間から国道へ出ました。



幸いこの防波堤はヒビが入る程度で壊れてはいませんでした。

その防波堤の先は国道があり,さらに向こうには民宿などが広がっていました。





それほど高い場所には作られていなかったので,避難するには

さらにその奥にある小高い展望台がある丘までいく必要がありました。



「この防波堤の裏にいれば大丈夫なんじゃないの?これ,3mはあるよ!」

「だめだ,俺の予想が正しければ,これは東海地震か,南海地震,

東南海地震のどれか,または複合して起きた可能性が高い!」




ワク君は地震に対する知識がかなりあるようです。



「なんじゃそりゃ~。」



トシ君は少しパニックになっていました。



「もし,そうだとしたら,この地域でも津波は5mを

超える可能性がある!とにかくあの小高い丘まで登って行こう!」




ワク君は民宿が並ぶわきの小道を指差しました。



ここから展望台までいけるようです。



「わかった!」



二人が小道に差し掛かった時,津波はもう間近まで迫っていました。



第4話 ゼッタイゼツメイトシ④ ワクのわくわく冒険記
ワク君とトシ君は小高い丘にある

展望台に続く小道を走っていました。



まるで黒い怪物のような動きをする津波は先ほど,

バーベキューの準備をしていた場所まで来ていました。



トシ君は後ろを振り返りました。



「なんか,まだ,道路に車が走っていたりするんだけど大丈夫かな。」



そうつぶやくのが早いか,津波は一瞬で

防波堤を超え,国道に流れ込みました。



そして,多くの車をも飲み込んでいきました。





その勢いはとどまることをしらず,民家も飲み込んでいきます。

その勢いは留まることを知らず、丘を駆け上がってきます。



「やばい,急げ!もうすぐだ!」



ギリギリのところで津波が届かない場所まで避難することができました。

先ほど浜辺にいた多くの人たちも避難をしていました。



他にも近くに津波が届かない場所があるようで,

そちらにも多くの人が避難しているようでした。



下を見下ろすと先ほどまで楽しく遊んでいた海岸は一変していました。

黒く渦巻く巨大な海竜のような津波は全てを破壊し,飲み込みました。



「お~い,助けてくれ~。」



ふと先ほど通ってきた小道を見ると,一人の老人が倒れこんでいました。

どうやらたどり着く直前で足をくじいてしまったようです。



「助けに行くよ!」



そういって,トシ君はその老人を背負い,

展望台まで連れてきました。



津波はすぐそこまで来ている状況でしたが,

なんとか救出することができました。



「ほっとけなくてさ。」



トシ君は不機嫌そうにしているワク君にそう言いました。



「いや,別に俺だって助けられる命なら助けた方がいいと思っている。

今のトシの行動を責めるつもりはないさ。」




トシ君は年下のワク君にそう言われてちょっと嬉しくなりました。



体を休めている間,地元の人が持っていた携帯ラジオに耳を傾けました。



ザザザ・・・本日起きた・・ザザ・・地震はッザザ・・・

東海地震・・と・・が連動・・・で被害は戦後最悪・・・ッザザ

名古屋をはじめ・・・ッザザ・・

多くの地域で甚大なる被害が出ている模様・・・

ザザザ・・・死傷者は・・・ザザ・・・



電波が届きにくい場所なのか聞き取りづらいですが,

かなりの広範囲で大きな被害出ているようです。



「やはり,東海地震が起きてしまったか・・・。ついに・・・。」



トシ君はその地震がどれほどの規模で起きたのか想像もつきませんでした。



一方,ワク君は展望台に置いてあったこの地域の地図を手に入れました。



「よし,もう少し高い所へ行こう。」

「ええ,ここまでくれば安全でしょう!?」



ワク君は首を横に振りました。



「いや,そうとも限らない。ここをさらに登って行こう。

そのあとは下りになっていて,その開けた場所にこの地域の中心と

なる町があるみたいだ。そこまで行かなくちゃ。」


「ええ,なんで~!?」



トシ君は疲労もあり,不満そうです。



「理由はあとで説明するから。」



そこにいた他の人たちも同じように移動を始めました。



「いいか,このままではあそこは沈むかもしれない。

さっき,慰霊碑を見つけてね。過去の地震であの場所まで津波が来たことが書かれていたんだ。」




「ええ,そうなんだ。」



過去の教訓が残されている慰霊碑や書物,

歌などは現代にも残されています。



先人の教訓を生かした避難を心がけたいものです。

二人が山道を登っていくとさらなる危機に直面します。



第5話 ゼッタイゼツメイトシ⑤ ワクのわくわく冒険記
被災 1日目 16:15



 

先ほどまでいた展望台は津波で沈んだことが発覚します。

二人の行動は正しかったのです。



二人は安全な場所などないことは分かって

いましたが,どこかで休む必要がありました。



現在いる場所は,周りは木ばかりの山の中のようなものです。



しかも地震で多くの木が倒れていたり,

倒れそうになったりしていてゆっくりとは

休んでいられませんでした。



「この後,問題になってくるのは食糧だ!

特に,水!これがないと生きていけない。」


「ええ!?そうなの!?でも町に下りれば,

避難所があってなんとかなるんじゃない!?

それに自衛隊だって来てくれているでしょ!」




トシ君の考えは多くの一般的な国民の考えと同じでした。



しかし,ワク君は違いました。



「いや,そんな甘いもんじゃないと思うぞ。

まず自衛隊が出動するためには,市区町村の要請が

知事にいき,その後,大臣に災害派遣要請が出されてからだ。

これほどの大規模の地震ではその手順が簡潔化されるらしいが,

どこまで早く部隊が派遣されるかはわからない。」




トシ君はそれを聞いてがっかりしました。



「まずは,名古屋などの大都市が優先されるだろうから,

このあたりの地域にまで手が伸びるのはまだ先だろう。

少なくもて今日中には無理な話だ。」」




「それじゃあ,学校などの避難所に

食糧があるのでは!?それを頼ろうよ!」






トシ君は避難所への避難を提案しました。



「名古屋市ほどの大きな都市でも備蓄食料は

被災した人たちの1回分の食料しかない・・・。」

これが現実なんだよ。」




ワク君は絶望的な数字をトシ君に出しました。

しかし,これは事実なのです。



「じゃあ,どうすれば!国がなんとかしてくれんでしょ!?」



ワク君は動揺するトシ君にさらに追い打ちをかけます。



「なんでも国に頼るな!そんなことじゃ生き残れないぞ!」

「ええ、そうなの・・・!?」



ワク君はトシ君にこの国の現状を語り始めました。



「この国の国民は何かあればすぐに

国に頼る習慣がついてしまっている。

確かに政治家や官僚がそういうシステムを

作ってしまったことも問題だが・・・。」




ワク君はまずは自分ができることをするべきだと主張しました。



「確かに,情報や移動手段として頼らないと

仕方ない部分もあるが,食糧くらいは自分たちで何とかしよう。」


「でも、どうやって・・・?」



ワク君はリュックに入っていた荷物を全部出しました。



「とりあえず、持ち物の確認をしよう。トシのも出して。」



トシ君も荷物を取り出しました。



二人の荷物の中身は全部でこのようになっていました。



懐中電灯×1 飯ごう×2 米×3合 水2?ペットボトル×3本



新聞紙×1日分 手ふきタオル×2枚 使い捨て用の紙皿×10枚 ラップ×1本



割りばし×10本 ライター×1本



着火剤×3つ レジャーシート大×1枚 小刀×1本 ラップ×1ロール



食糧はあるようですが,果たして何日持つのでしょうか。



第6話 ゼッタイゼツメイトシ⑥ ワクのわくわく冒険記
ワク君とトシ君は持っていた荷物を確認しました。

浜辺にバーベキューに来ていたので,

少しの食糧とナイフなどの道具はあるようです。



「なんで,懐中電灯なんてもってきてるの・・・?」

「兄貴が夜,昆虫採集に行くっていうから一応持ってきたんだよ。」



いつ地震が起きるかわからない山の中で二人は荷物確認を続けます。



するとトシ君のおなかが「ぐ~っ」となり始めました。



「おなかがすいてきたよ・・・。結局お昼にお肉とか

食べる予定だったのに,何も食べていないし・・・。」


「そうだね,このあたりでご飯でも作って少し休憩しよう。」



ワク君はそう言うと飯ごうを取り出しました。



そして,トシ君に少し大きめの石を集めてくるように指示しました。

どうやら即席のかまどを作ってご飯を炊くようです。



「でも,お米をとぐのにお水を使ったら,飲み水がなくなるのでは?」

「これは無洗米だからとがなくて大丈夫だよ。」



無洗米とはあらかじめ工場で洗米してあるので

水でとぎなおす必要がないお米です。災害時には水の節水が

求められますので,無洗米は役に立つことが多いようです。



被災1日目 18:20



かまどを作る石探しに時間がかかったようで,

ご飯が炊けたのは午後6時過ぎでした。



出来立ての白米を飯ごうから皿に移します。



「うまい!ただのご飯なのに!うまい!」



トシ君はバクバクと食べていきます。



「おかわり!」

「ないよ!残りは明日以降の食事だ!

貴重なお米だから少しずつ使わないと!」




トシ君にはかなり物足りないようです。

ワク君もゆっくりかみしめながら白米を味わっていました。



この国の日常では,食べ物に困ることなく毎日生きています。



飽食の時代は突如崩壊する―



その時,一体何人の人間が国の力に頼ることなく生きることができるのでしょうか。



二人は片づけを行い,少し休息しました。

そしてこの後は,この場所で寝ることにしました。



山の中なので周囲は木に囲まれています。

しかし,他に休める場所もないのです。



被災1日目 20:30



「寝るときは下にシートや新聞紙を引いて寝るんだぞ。

直接地面に体をつけると体温が奪われやすくなって

体調が悪化するからね。冬の場合は最悪,凍死。」


「まじかー。夏なのに体が冷えることがあるのかー。」



二人は今日起こった出来事を頭の中で何度も

振り返りながら眠っていきました。極度の緊張と

疲れのため,一瞬で眠りに落ちました。



被災2日目 8:10



二人は疲れた体を起こし,水分補給を行いました。

そして,昨日作った残りのご飯を食べました。



「午前中に,山を下りて町に出よう。」



「その後はどうするの?」



トシ君が聞きました。



「町に出れば,避難所がどこかにあるはずだ。

そこまでいけば,後は家まで帰宅できるはずだ。」


「おお~!」



帰宅という言葉を聞いて元気が出てきたようです。

はたして二人は無事,帰ることができるのでしょうか。



第7話 ゼッタイゼツメイトシ⑦ ワクのわくわく冒険記
高い場所から町を見下ろすと煙が

あちこちに立ち昇り,燃えているようでした。



町の奥には川があるようですが,

この場所からではよく見えませんでした。



二人は慎重に山をおり,町のふもとまで来ました。

すると二人は強い風にあおられてしまいました。



「なんだ~!?」

「まずいぞ,これは・・・まさか。」



周囲は火災だらけで多くの民家が燃えています。

まだ,消火活動もできない状況なのです。



二人がふと,空を見上げるとそこには旋風を纏った炎がありました。





「これは,火災旋風だ・・・。巻き込まれたら即死だぞ・・・!逃げよう!」



そう言って全速力で駆け出しました。

うまく火災旋風を避けながら町の中心街へ向かいます。



町といっても田舎なので畑や田んぼだらけで,ポツンと民家がある程度でした。



「逃げるのはいいんだけど,どこへ行くのさ~!?」



トシ君が走りながら聞きました。



「町役場行こう。地図によると学校よりもこっちの方が近い!

町役場なども避難所として活用されるからね。」




ワク君は昨日入手した周辺地図見ながら説明しました。



しばらく走ると,町役場が見えてきました。

正確には町役場であっただろう場所です。



そこは崩壊した建物があるだけで,避難所にはなっていませんでした。



「なんてこった。建物が崩壊している・・・。」



ガレキの隙間には何名かの遺体もありました。



「これじゃ,避難場所にはならないね。大きな地震だから倒れちゃったんだね。」

「それもあるが,建物がかなり古い。おそらく耐震補強工事を

していなかったんだろう。予算も少ないだろうから,

学校などが優先的に耐震工事をして,

こちらは二の次だったんじゃないかな。」




ワク君はガレキを触りながら説明しました。



「確かに子供を守るために学校の耐震工事を優先させたい気持ちはわかるが,

その結果,町の中枢で指令を出さなければならない役場が

この状況になってしまうのは本末転倒だろう。

ここにもこの国の欠陥システムが見え隠れする。」


「なんか,言っていることが難しすぎて意味不明だよ。」



トシ君にはワク君の言いたいことがわからないようでした。



「こうなったら,この先の小学校へ行くしかないな・・・。」



二人は川の近くにある小学校へ行くことにしました。



途中,簡単な食事をとり,休憩を挟みながら,目的地付近まできました。

その間,何度も余震に襲われ,崩れかけた建物などの破片が落ちてきました。



被災2日目 15:40



なんと小学校へつながる道が冠水していたのです。



「なんで,道路が沈んでいるの!?まさか,津波がここまで!?」



トシ君は道路を恐る恐る覗き込みました。



「たぶん,川の堤防が地震で決壊したんだ。

何日か前まで雨が降っていたはずだから,増水もしたんだと思う。」




ワク君は肩を落としました。

これでは小学校はすでに水没しています。



「どこに行けばいいんだ・・・。」



さらに増水する勢いだったので,

二人は一旦,水のない場所まで下がりました。



第8話 ゼッタイゼツメイトシ⑧ ワクのわくわく冒険記
被災3日目 7:00





二人は近くの公園で夜を明かしました。

持っていたコメもなくなってしまいました。



二人は疲れ切ってしまい,シートをひいて横に

なっていました。すると何やら音がします。



上空を見上げるとヘリコプターが飛んでいました。

ようやく救助部隊がこの地域までやってきたのです。



「ヘリだ!後を追いかけよう!」

「わかったよ!」



二人は荷物を持ってヘリを追いかけました。

かなり低い高さで飛んでいたのでどこかに着地をするようです。



町の中を走っていると,たくさんの人間が

倒れていました。そのほとんどがすでに亡くなっていました。



「かわいそうに・・・。」



トシ君は自分の手で救えなかったことが悔しいようです。



すると,わき道から20人ほどのグループが現れました。



「あ,人だよ!もうすぐ避難所なんじゃないかな!?」



しかし,その連中は様子が変でした。まるで生気がありません。

どうやらこの3日間,ほぼ飲まず食わずだったのでしょう。



「ああ・・・ああああ・・・ああ。」



「飯を・・・くれえええええ・・・。」



二人に群がってきました。



「こいつら,やばいぞ!」





どうやら正気の沙汰ではないようです。



「これは集団パニックだ!極限の状況で

頭がおかしくなってしまったんだ。」






ワク君はつかまれた手を振り払い,輪の中から

逃げ出しました。トシ君もなんとか逃げることができました。



「こいつらは,何をしでかすかわからない。それこそ

食料のために人だって殺すかもしれない。本当ならここで

ボコボコにやっつけておくのがいいんだが,その時間もない。」




ワク君は上空を見上げて,ヘリの位置を確認しました。



「トシ,行くぞ!時間がない!」

「でも,この人たちがかわいそうじゃない・・・?」



トシ君は誰に対してもやさしく,そして救おうとしました。



「なら,そいつらに殺されちまえ!それでも救いたいならな!」

「いや,それはちょっと・・・。」



トシ君は躊躇しました。その集団は再び襲ってきました。



ワク君はトシ君の手を引っ張り,その場から逃げ出しました。



「自己犠牲の無い,救いはただの偽善だ。

『人の為に善いこと』で偽善だよ。

お前のやることは全て偽善で終わる。」




ワク君はとにかく偽善行為が大嫌いだったのです。



二人はやっとのことでヘリに追いつきました。

そこは山のふもとの中学校でした。

グラウンドに着陸したヘリを見て二人は安どのため息をつきました。



「これでやっと帰れるな・・・。」

「もう疲れたよ・・・。」



二人はクタクタでしたが,最後の力を

振り絞り,救助隊の元へ向かいました。



実際に東海・南海・東南海地震が同時に起きた場合―



死者数:最大32万人

経済的被害:約220兆円

建物全壊件数:約55万棟



このように前代未聞の被害が出ると想定される



しかし,一人一人が防災意識を持ち,

適切な行動をとるだけで,被害を減らすことは可能と言われている



いつか必ず来る大地震に備えることが大切だ―



ゼッタイゼツメイトシ 完 







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