リクの少年昆虫記-過去のお話-

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目次


第1話~第4話

2013/7/28

第1話 黒と黒のクラッシュ ~予兆編~
―旭(あさひ)森林公園にて―

少年昆虫団は昆虫採集の下見に来ていました。





だぬ「あついよ…。こんな所にカブト虫なんていませんよ。」

リク「きっといるよ。この木をみてごらん。」



まさら「あっ!?樹液が出てる。」

「この木には,夜,カブ・クワが集まる可能性が高いってわけだ。」

「あれ…。あんな所に展望台がある!だぬは登ってみたいと思うよ。」



「遊んでないで樹液の木を探そうよ!」

「なんか木の陰に怪しい人がいますよ!」

いつき「聞いてないな…。」

「あんな所に,すべり台を発見しました。」



「おいおい。」



少年昆虫団が何かを見つけたようです。





「これは。」

「なっなにこれ。」

「これはノコギリクワガタのあごだね。」

「かわいそう…。」

「おそらくカラスにでも食べられたんだろう。」

「でも,クワガタさんの死体があるってことは, ここにはカブトムシさんやクワガタさんがいるってことだよね。」

「おそらくね。これは夜に行ってみる必要がありそうだね。」

「あ,だぬちゃんが池にはまってる。」

「ほっとけ。」

「おいおい。」

「わ,わざと落ちたんですよ!」

「無駄にプライドだけは高いな。」

「とにかく,今夜,20時に家に集合ね!」



― 時を同じくして和平公園 ―



木の陰で怪しそうな二人が会話をしています。



???「この辺りも数が減ってきましたね…。」

???「ちょうどいいじゃねぇか。」




第2話 黒と黒のクラッシュ ~交錯編~
太陽が照りつけるような暑さの中。

―和平公園―



???「山本さん,これじゃあ夜に来ても同じですね。」

山本「だろうな。」

???「…。」

山本「行くぞ,南雲。」

南雲「どこへですか?」

山本「…。尾張旭にある旭森林公園だ。」

南雲「下見もせずですか?」

山本「いや,古賀に探りを入れさせた。」

南雲「いつの間に。じゃ,急ぎましょうか。」

山本「ああ…。」





そして夜になりました。



「念のため,持ち物の確認をしておこうよ。」

「うん,そうだね。」

「じゃあ,まずはだぬちゃんから。」

「だぬはこれ!トラップに使えると思います。」



「おいおい,オオクワのフィギュア…。

う~ん…。まさらちゃんは?」


「私は,これだよ~。」



「夜は怖いからお気に入りのフクロウさん!」

「何時もの事だけど,皆やる気無いなぁ…。

これくらいはみんな持ってきてよな。」


   

   



「ライト(必ず必要)に,ピンセット(クワガタ用),虫よけに虫さされ薬,そしてカブ・クワを入れる容器。」



道に迷ってしまいましたが,なんとか夜の旭森林公園に到着します。



「やっとついたか…。今度は間違いないな。」

「なんか,不気味…。きゃっ。蚊!!」

「森の中なんだ。蚊くらいいるよ。」

「樹液が出ていた木は確か…。こっちだったかな。」



「待って。誰かいるぞ…!」

「あれ,だぬ君がまたいないよ!」

「おいおい,またかよ。」

「しっ!なんかあの大人達怪しいぞ。」



リク君たちは謎の大人たちの会話をこっそりと聞いてしまいました。



山本「遅いぞ,古賀。」

古賀「すっすいません…。」

南雲「しかし,ここにもいませんね。“漆黒の金剛石”。」

山本「そう簡単に見つかったら苦労はしねぇさ。

“ホイールP”の方があるだろ。案内しろ。」

古賀「やはり,あちらにも行きますか。」

山本「そのためにお前をこの公園に探らせた。」



一同「…。」



「行ったみたいだ。何だろう,あの人達。」

「なんか怖い,どうみても危ない大人達だよ。」

「そうだな。だぬをおとりにつかってここから逃げよう。」

「だぬをおとりに使うなんてヒドイじゃないですか!」

「あれ,だぬ!いつの間に。」

「車を見ていたんですよ。なんか傷がありましたけど…。

こすったんですね。昼間,誰かが言ってた…。」


「どうでもいいから,こっちにきて。」

「なっ!?これは…。」



「カブトムシさんが死んでる。かわいそう…。

あの大人たちがやったのかな…?」


「その可能性は高いな…。」

「なんてヒドイんだ。全滅してる!」

「ただ,寿命で死んだんじゃないですか~。寿命だとだぬは思うよ。」

「さっきの大人たちを追いかけよう!」



一同「えっ!?」



「あれ?だぬの考えは無視ですか~。」

「追いかけるチャンスならまだあるよ。」

「どういうこと?」

「つまり…。」



こうして少年昆虫団は採集を一時中断し,

謎の大人たちを追いかけることになりました。



第3話 黒と黒のクラッシュ ~追跡編~
不気味なカラスの鳴き声とセミの鳴き声が入り混じる旭森林公園。





少年昆虫団は,謎の大人たちを追いかけることになりました。

しかし,彼らの姿はすでにありません。

果たして追いつくことができるのでしょうか。



「つまり…。」

「つまり?」

「こんな時間にクヌギの木に来ていたってことは,あの大人たちの目的もカブ・クワの可能性が高い。」

「しかし,それならなぜ,カブトムシを殺したんだ?」

「おそらく目的のカブトムシじゃなかったから…かな。」

「目的のカブトムシって?」

「あの大人たちが言ってたじゃないか。

“漆黒の金剛石”って。」


「なるほど,ダイヤモンドのような高価なカブトムシを探しているってことか。」

「でも,そんなカブトムシって日本にいるのかな?」

「それは,わからないけど…。」

「でも,どこに行っちゃったんだろ?手掛かりが何もないよ。」

「う~ん。」

「そういえば,あの大人たち,

次に向かう場所は“ホイールP”って言ってたな。」


「Pってのは…。」

「パーキング(駐車場)の略…かもな。」

「なるほど!いつき君,頭いい。だぬ君とは大違いだね。」

「おいおい。」

「でも,確かこの公園って駐車場が2つあったと思うけど…。

どっちなんだろ?」


「両方とも見に行っていたら時間が足りないだろうし…。

“ホイールP”…。“ホイール”がどちらかの駐車場を示しているのか…?」




「駐車場と言ったら車!

車なら,だぬが得意ですよ!」


「静かにしてくれ。考えに集中できない。」

「ヒドイじゃないですか~。

ちゃんと聞いて下さいよ。さっき道に変な車があったんですよ。

ホイールがこすれていました。」


「なに!?」

「多分,第一駐車場でこすったんだと思います。

あそこには,縁側が結構ありますから。

それに昼間,誰かがあそこでこすっているのを

見たって言ってましたから。」


「それだ!」

「えっ!?」

「おそらく,昼間に下見に来た時にこすったんだ。

それを知ったさっきの大人たちのリーダーみたいな奴が

皮肉ってつけた場所が“ホイールP”ってことだ。」


「それが第一駐車場ってわけか。

なんでそんな大事なことをもっと早く言わないんだ。」


「いや,さっき言おうとしましたよ…!」

「とにかく行ってみよう!」





謎の大人達は,第一駐車場にいるのでしょうか。

また,“漆黒の金剛石”とは本当にカブトムシのこと何でしょうか。

全ての謎を少年昆虫団が

解き明かそうとしています。



第4話 黒と黒のクラッシュ ~究明編~
全てが吸い込まれそうな深い闇。



―旭森林公園 第一駐車場―





「ここだな。」

「うん,でもなんかこわいよぉ…。」

「いない…な。」

「もう帰ったんじゃないですか?早く僕たちも帰りましょうよ~。」

「嫌だ!あいつらは何か悪いことをしているんだ!それを暴いて見せるんだ」

「確証もなしにか…?きっとシラを切るぜ。

子供の言った事に対してなんて。」


「でも,でもっ…!」



その頃…。



第一駐車場から少し奥に行ったところでは,

謎の大人たちがクヌギの木の前にいました。





南雲「やはり,ここにもいませんね…。」

古賀「ですね。樹液の出ている木は,

昼間の調査で何本か見つけたんですが…。」

山本「これで最後か…?」

古賀「そのはずです。」

南雲「山本さん,どうしますか?」

山本「切り上げだ。」





古賀「ん,誰かきます。」

南雲「どうやら,ガキのようですね,1・・2・・4人ってとこですか。」

「見つけたぞ。」

南雲「なんだ,このガキ共は…。」

「おい,これを見てみろ。」



「樹液の出ている木だ~。」

「やっぱり,あんた達もカブトムシを捕まえに来ていたんだね。」

南雲「どうします,山本さん。」

山本「構うな。行くぞ。」

「あんた達,さっきカブトムシを殺したでしょ!?死体が落ちていたんだ!」

南雲「うるせぇぞ,だからどうした!」

山本「ガキの言うことを相手にするな。」

「リク君,ほら,相手にされませんよ~。」

「…。」

「リク君~。」





「じゃあ,“漆黒の金剛石”って何なんだ…!

それを探しているんだろ!?」


南雲「俺達の会話を聞いてやがったな!」

山本「ガキのくせに…。」

「お前たちは“漆黒の金剛石”を捕まえようとしているんだろ!

きっとそれは,とても高価なカブトムシのことだろ!?

それでお金儲けをしようとしているんだ!」


南雲「フハハハ…。ガキは単純でいいっすね。」

「おい,どうなんだ!」

山本「ほっておけ。いちいち相手にするな。」



リク君達の,追究に答えることもなく,

謎の大人たちは闇に消えていきました。



結局,少年昆虫団は旭森林公園で

カブ・クワを採集することはできませんでした。



場所が広いと集まってくる木を探すのも

大変だということが分かったみたいです。



そして―



「あいつらは一体何だったんだろ…。」

「怖い人たちだったよねぇ。」

「親にいっても信じてもらえない話だな。」

「それよりも,早くおすしを食べたいですよ。」







リク君達は彼らをこう名付けました…。



漆黒の追跡者(チェイサー)



<黒と黒のクラッシュシリーズ 終わり>





第5話~第8話

2013/8/20

第5話 成果あり


「今日は,西緑地公園でカブクワ採集だ。」

「やっぱり,夜はこわいよぉ~。帰ろうよ~。」

「どうせ,取れませんよ。」

「下見もして,クヌギの木も見つけた。

きっと,見つかるさ。今度こそ!」






ここで,少年昆虫団はカブクワ以外の昆虫を発見します。



「あ,何これ!?」





「お,これはセミの幼虫だね。アブラゼミだ。」



しばらく見ていると羽化が始まりました。







セミは不完全変態の昆虫です。

不完全変態とは,さなぎにならず,幼虫から

成虫へと変化する昆虫のことです。

夜,採集に行くと見られることがあります。

触ると死んでしまうのでそっとしておきましょう。



「すごく,きれい。なんか感動しちゃうね。」

「セミは土の中で5年も過ごしてやっと出てくるんだ。」

「そうなんだ。」

「でも,成虫になったらわずか2週間ほどで死んじゃうらしい。

短い大人の時間だよね。」






「感動的な場面にも出会えたし,そろそろ帰ろっか!」

「おいおい。まだ,何も取ってないぞ。」

「そうですね,帰りましょう。」

「お~い…。」



その後,カブトムシの♀を1匹採集しましたが,

リク君以外は特に盛り上がらなかったので割愛します。





「いつか,ボクの能力をためす時が来るはず!!」



第6話 新メンバー登場




再び西緑地公園にてカブクワ採集を行っている少年昆虫団。

今日は,たくさん採集できるのでしょうか?



どっすーん…。どっすーん…。



「あれ,なんか聞こえるよ。」



どっすーん…。どっすーん…。



「なっ,なんだ…!?」







「きゃぁ!?」

「なっなんですか,こいつは!?でかい,でかすぎる!?」

「ああ,彼は2年A組のトシだ。

今日から少年昆虫団に加わるメンバーさ。」


「そっそうなんだ~。びっくりした~。」

「それにしても,でかすぎですよ!身長,5mはあるとだぬは思うよ!」

「まさか…。」

「そうさ,トシは人の恐怖心につけこみ,

みせかけの大きさを作り出すことができる。

“愚王の威厳(ジョージ・キングリー)”の使い手さ。」


「それ,何の役に立つんですか。」

「さぁ…。」

「でも,トシ君,少年昆虫団に入ったってことは虫好きってことなんだね!」

「いや,トシはセミも触れない,虫嫌いさ。

だから少年昆虫団に入って,たくさんの虫と触れ合ってもらい,

虫嫌いを克服してもらおうと思って誘ったんだ。」






トシ「セミはちょっと触るのむりだなぁぁぁ。」

「セミも触れないなんて,情けない!!」

「ま,仲良くしよう。」

「もう,帰りたいぃぃ。こんな山の中,絶対やばいって!」

注)この西緑地公園は地下鉄から徒歩30秒の公園です。

「情けない!!」



新メンバーも加わり,にぎやかになった少年昆虫団でしたが,

結局この日は,カブクワを見つけることができませんでした。



「残念だったね,リク君。」

「ま,仕方ないよ。行く時間や天気によっては

まったく採集できない日もあるからね。」


「そっかぁ…。」

「また,夏休みになったら,行ってみよう。」

「そうだね!」

「ん!?」





「(この前来た時,こんな焼け跡あったかな…。)」

「どうかしたの?」

「あ,いやなんでもないよ。帰ろうか。」



次回はどんな所へ採集に行くのか楽しみです。



第7話 だぬの災難
月明かりがきれいな夜…。

最近はめっきり採集数が減ってきた少年昆虫団。

いつもいく二宮神社での採集に期待がかかります。







「どうせ,取れませんよ~。」

トシ「ちょっとここはむりだなぁぁぁ。」

「トシ君…。」

「う~ん,いないなぁ…。」

「この前行った時は取れたのにねぇ…。」

   



結局この日もカブクワは採集できませんでした…。

そして,その帰り道。



「あれ,なんか足が痛いな…。」

トシ「それ,やばいよぉぉ。」

「大丈夫?」

「ズボンの中になんか入ってる!?」

「まじか…。」

「いたたたた…。」

「だぬ君,大丈夫?」

「これくらい平気!だぬは平気!」

「出た!だぬちゃんの“誇り低き虚栄心(ドッグ・プライド)”!

痛いのをやせ我慢している。」




「無駄にプライドを高くもって,自信をもつ効果ね。

さらに,顔もリアル調になって迫力アップ!」


トシ「それ,何の役に立つのぉぉ?」

「さぁ…。」

「こいつがズボンの中に入ってました!」





「これは,オサムシ…かな?」



カブクワも取れず,虫にかまれただぬ君は災難でした。



第8話 ☆になったコクワちゃん
リク君の家にまさらちゃんが遊びに来ていました。



「リク君,この前採ったコクワちゃんが死んじゃったよぉ~。」

「え,それって先月,神社で採集したコクワガタのこと?」

「うん…。」





―先月―





「どうせ,取れませんよ~。」

「あ,ここに何かいるよ~!」

「お,これはコクワガタだね。」

「ちっさくて可愛い~!」



「そうですか,なんかしょぼいですよ。」

「まあ,平均サイズよりもさらに小さいな。」

「ボクはカブトムシ狙いだから,コイツはいらないかな。」

「じゃあ,あたし欲しい~!」

「ああ,いいんじゃない。大事に飼えるならね。」

「やったぁ!」





―回想終わり―



「うぇ~ん,大事に飼っていたのに…。」

「本当だ,☆になっているね。寿命かな~。

コクワガタは比較的長生きだけど…。」






ちなみにリク君が言った「☆になった」とは

文字通り星になって天から見守るという意味である。

(もっと簡単に言うと「死んだ」)

カブクワ界では常識用語であります。

それは,それとして…。



その時,死んだはずのコクワガタが

まさらに語りかけてきた気がしました。

―「大事に飼ってくれてありがとう」―



「え…?」

「どうした?」

「今,コクワちゃんがありがとうって…。」

「そっか。」

「そんなわけあるはずないとだぬは思うよ。」

「いや,それは慈愛に満ちた心をもつことで,

生き物と会話ができる能力,

“慈愛の戦乙女(ハートオブヴァルキリー)”だ。

もちろん本人による思い込みだけどね。」


「それ,何の役に立つんですか?」

「さぁ…。まぁ,だぬの“誇り低き虚栄心”より

ましじゃない?」


「お墓作ってあげようかな…。」

「それより,そのコクワガタ標本にしてみない?」

「え…?」



結局,まさらはコクワちゃんを標本にすることにしました。

完成が今から待ち遠しいですね。



第9話~第12話

2013/9/1

第9話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間 序章~
夜,旭森林公園へ採集に向かう途中…



「ねぇ,ここってどこ??」

「おかしいな?道,迷ったかな…。」

「看板に大幡緑地って書いてあるぞ…。」

「そんなぁ…。」

「戻って大きい道に出よう。」

「待って。せっかくなんだから少し見ていこう。

何か採れるかも。」


「いつも言いますが,どうせ取れませんよ。」

「だぬの言うことも一理ある。それに,下見もせず入るのは危険だ。」

「そっかなぁ~。せっかくなのにな~…。」

「あ,あそこに車があるよ!?他にも誰かいるのかな!」



「やっぱり,そうだよ!大幡緑地もカブクワが採れるんだよ!」

「ちょっちょっと,これ見てください!」

「きゃぁ,何これ!?」



「気味が悪いですよ。帰るのが一番だとだぬは思うよ!」

「うん,それがいいと思う!怖いよぉ!」

「しょうがない…。旭森林公園に向かうか。」



―リク君達が去った後…―



山下「今村さん,残しておいた印はありました?」

今村「ええ。山下君,この傘ですね。」

山下「そうです。その木です。」

今村「しかし,漆黒の金剛石はいないようですねぇ。ふぉっふぉっ。」

山下「そうですか…。なかなか見つからないものなんですね…。」

牟田「当たり前だ。そんな簡単にいくか。

山本率いる“山犬”や東條率いる“川蝉”だって見つけてないんだ。」

山下「そうだな…。」

今村「そういえば,その山犬・川蝉と合流して,

総力探索を行うことが決定しましたよ。」

牟田「え,いつですか!?」

今村「2週間後です。場所は,各務原山です。」

山下「結構先ですね。それまでどうします?」

今村「そうですね。もう少し西方面を探索してみましょうか。」

牟田「了解です。」





どうやら彼らも“漆黒の追跡者”のメンバーのようです。

一方,リク君達は無事に旭森林公園に着いたようです。

そして,山本達と出会うことになるのです。



第10話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間①~
―岐阜県各務原山のふもとにて―

漆黒の追跡者達が何やら山のふもとで話し込んでいます。



山下「遅いですね。奴ら…。」

今村「もう少し待ってみましょうか。」



1時間後…



牟田「いくらなんでも遅すぎる!“山犬”や“川蝉”はまだか!?」

山下「まさか,今村さん!?俺達は出し抜かれたんじゃ!?」

今村「ふむ。どうやらそのようですね。」

牟田「くそっ!舐めやがって…!」

山下「俺達もすぐ,山に入りましょう。このままじゃ奴らに先を越されます。」

今村「そうですね,では,いきますか。」



―その頃―



「今日こそ大物をとるぞ!」

「くどいようですけど,どうせ取れませんよ。

それに今日の天気予報だと,このあと雨が降るようでしたよ。」


「ねぇねぇ,“漆黒の金剛石”について何かわかった?」

「色々調べたり,お父さんにも聞いたりしたんだけどね。」

「じゃあ,わかったんだね!」

「ううん。お父さんは自分で調べなさいって。だから調べたんだ。」

「ふんふん。」

「おそらく“漆黒の金剛石”っていうのは…。

“オオクワガタ”のことだと思う。」


「オオクワガタですか~。」

「うん,一昔はオオクワガタはとても高い値段で取引されていたんだって。

だから,黒いダイヤモンドって言われることもあったらしい。」


「なるほど。」

「そっかぁ。じゃあ私達も採れるといいね。オオクワガタ!」

「そんな,簡単には採れないよ。

だからあの漆黒の追跡者達だって必死に探しているんだろうから。

きっとあいつらはオオクワガタをたくさん捕まえてお金儲けするつもりなんだよ。」


「怖い人たちはむりだなぁぁぁ。」

「しっ!誰かいるぞ!?」



第11話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間②~
「誰もいないじゃない?」

「いたんだよ。あの恰好は以前見たことが…。 」

「虫も怪しい人も怖いよぉぉぉぉ…!」



「でっ出たぁ,トシの愚王の威厳!!」

「大きすぎでしょ!?デイダラボッチ!?」

「そうですよ、これで相手を威嚇すれば!!」

「ダメだよ。愚王の威厳は相手の恐怖心を利用したもの。

子供を恐れない大人には無意味なんだ。」


「何だぁ…。本当に役に立たないですね~!」

「いつきが見た怪しい人ってのが気になるな…。」



ゴロゴロゴロゴロ…。

雲行きが怪しくなってきました。嵐の予感です。



南雲「他を出し抜いて本当に良かったんですかね。」

山本「かまわねぇさ。」

南雲「そうですか。」

山本「東條も同じ考えだろうしな。」

古賀「じゃ,今村さん達はふもとでずっと待っているんですか。」

山本「さぁな。牟田はともかく,今村は馬鹿じゃねぇ。

とっくに俺達の行動なんて見抜いているだろうな。」

古賀「怒られないですかね。今村さんに…。」

山本「今の奴は腑抜けだ。心配ない。」

南雲「腐っても“仏の今村”ってことですかい。」



南雲「降り出す前になんとか見つけましょう。」



第12話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間③~


山道を歩き続ける人影が見えます。

どうやら“漆黒の追跡者”達のようです。

何やら声が聞こえます。



南雲「そういえば“例の会社”なんですが,潰れてしまったらしいですよ。」

山本「オランダの“あの会社”が買収を仕掛けったって話は本当だったか。」

古賀「怖い話ですね…。」

山本「…。」

古賀「そのオランダの会社が,腕利きの“暗殺者”を雇ったとか。」

山本「俺達の邪魔をしに来たか。」

南雲「それより,ちょっと一服を…。」

山本「捨てるんじゃねぇぞ,山火事になる。」

南雲「わかってますよ。それに大丈夫ですって。

もうすぐ,降り出しそうですし。雨が消してくれますよ。」





こちらは,少年昆虫団です。

しばらく歩いているとわかれ道を見つけたようです。







「あれ?どっちに行くんだっけ?」

「山頂か展望台かぁぁぁ。」

「下見に行った時は,確か山頂に行ったと思いましたよ。」

「そうだっけ?」

「そんなことより,もう帰りませんか?暑すぎですよ~…。」

 「確かに暑い…。」

「頑張って採集しようよ!」

「心頭を滅却すれば火もまた涼し!」

ごぉぉぉぉぉぉ…・。



「でっ出たぁ!いつき君の氷結人間(アイス・マン)!!」

「寒い,寒いよ~!何これ!?」

「これは,いつき君がクールな事を言って,

周囲の空気を冷やし,瞬間冷凍地獄にするんだ」


「これじゃ寒すぎだよぉぉぉ。」

「これはこれでいいとだぬは思うよ。」

「よし,山頂へ行こう!」



少年昆虫団は,山頂に向かって再び歩き出したようです。



南雲「わかれ道ですね。どっちに行きます?」

山本「そうだな…。」

古賀「山頂も展望台も下見済みですのでどちらでも大丈夫ですよ。」

山本「…。」

南雲「展望台から行ってみますか?」

山本「…。」

南雲「山本さん?」

古賀「どうかしました?」



彼は不気味に笑った後,こう言いました。



山本「山頂だ。」



一歩,一歩,少年昆虫団に“漆黒の追跡者”達の手が迫っているようです。



第13話~第16話

2013/10/16

第13話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間④~
南雲「わかれ道…。どっちに行きます?」

山本「山頂だ。」

南雲「山頂…ですか?」

山本「見ろ,足跡だ。」



古賀「子供の足跡…。山頂に向かってますね。」

山本「この足跡の群れは覚えがある。」

古賀「そうですか?」

山本「以前,旭(あさひ)森林公園で出くわしたガキ共の足跡だ。」

南雲「俺達に絡んできたガキ共ですね。」

古賀「こいつらを追いかけるんですか?」

山本「あの時はどうでもいいと思ったが…。」

南雲「ん?」

山本「ガキ共には少し聞きたいことがある。」

古賀「ほっておいてもいいのでは?」

山本「忘れたのか,俺たちにとって“情報”は“命”だ。」

南雲「確かに…。」

山本「どんな些細なことでも危険分子はつぶしておく必要がある。」







山頂に向かっている少年昆虫団ですが…。

みんな,かなり疲労がたまっているようです。



「もう疲れちゃったよ…」

「この山高すぎだよぉぉぉ。」

「だぬはこれくらいの山,へっちゃらですよ!」

「さすが,だぬちゃん!」

 「“誇り低き虚栄心”か…。」

「よし,そろそろ山頂だ!」

「ちょっと休憩したいよ~。」



―遡ること30分前―

少し遅れて探索を始めた“海猫”が展望台に向かっています。



山下「今村さん,知ってますか?」

今村「何のことでしょうか?」

山下「オランダの“あの会社”が今度は俺達の

仕事も邪魔しようとしているって話です。」

今村「そういえば,そんな噂話は耳に入ってきましたねぇ。」

山下「奴ら,手段を選ばないらしくて,暗殺者まで雇ったとか…。」

今村「物騒な世の中ですねぇ…。」



彼らは,さらに歩き続けていました。



山下「くそっ,東條,山本…。」

今村「落ち着きましょう。」

山下「しかし…!」

今村「ほら,展望台が見えてきました。」

牟田「ここで“漆黒の金剛石”が採れるんですか?」

今村「いえ…。」

山下「じゃあなんで…?」

今村「今回は“海猫”,“山犬”,“川蝉”の

三つ巴の決戦になるでしょう。

一番最初に“漆黒の金剛石”を見つけた者が勝者。

この世の望むもの全てが手に入るんですから。」

山下「今村さん,一体何をお考えです…?」



生温かい風が肌に感じられます。嵐が近付いているようです…。

山頂に向かった少年昆虫団と“山犬”。

展望台に到着し,何か策がある“海猫”。

そして…。



第14話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間⑤~
「もう帰りましょうよ~。」

「みんな,諦めるの早すぎだよ!?」



その時,背後から人の気配がしました。







山本「久しぶりだな,小僧ども。」

「お前達は!?」

「漆黒の追跡者!!」

南雲「なんだそりゃ?」

 「俺達が付けたあんた達のコードネームさ。」

山本「フハハ。それは言い得て妙だな。」

「この人たち怖すぎだよぉぉぉ。」

山本「少し気になったことがあってな。」

「!?」

山本「知っていることがあれば話してもらうことになる。」

「何のことだ!?」

山本「以前,森林公園にて,

お前はカブトムシの死がいを見て俺達が殺したと言った。」

南雲「ありましたね,そんなこと。」



「そっそうよ。リク君が言うんだから間違いないんだよ…!」

山本「それが後から気になってな。普通なら寿命で死んだと思うはずだ。」

「確かに寿命で死んだと思っていました。」

 「リクには確信があったわけだな?」

「まぁね。」

山本「聞かせてもらおうか。」

古賀「正直にしゃべった方がいいぞ。山本さんは怒らせると怖いんだ。」

山本「余計なことを言うな。」

古賀「すみません…。」

「嫌だね…。そう簡単に教えられないよ!」

南雲「おいおい。」

「こっちだって聞きたいことがあるんだ。

お前達が何をやろうとしているのか!

“漆黒の金剛石”について…!」


南雲「俺達の会話を色々聞いていた訳か。

山本さんの言う通り,このガキ共,色々ヤバイですね。」

 「俺達の予想では,“漆黒の金剛石”っていうのはズバリ,

“オオクワガタ”だろう。」




「大きいものだと1匹何万円もするんだもんね。」

「それを売ってお金儲けしようとしているんだろぉぉぉ。」

「儲けたお金で何か悪いことをするつもりだとだぬは思うよ。」

南雲「オオクワ…!?」

古賀「グハハハハハ。」

山本「やはり,所詮,ガキはガキか。」

南雲「ククク…オオクワか~,そりゃあ高価な昆虫だな~。」

山本「ふん…。」

南雲「俺達は“億”を超える金を動かし,手に入れようとしているんだ。

1匹数千円程度の昆虫を必死に採って何の得になるっていうんだ。」

「(“漆黒の金剛石”はオオクワのことじゃないのか!?

じゃあ,こいつらの探しているモノって一体何なんだ…!?)」


山本「では,今度はこちらが質問する番だ。」



―彼はそう言って,リク君に近づきました―



第15話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間⑥~
山本「今度は,こちらが聞く番だ。」

「…。」

「そんなに知りたいなら教えてあげるよ!」

「リク君…。」

「どうしてあの人たちがカブトムシを殺したってわかったんですか?」

「あの時,死がいに触ってみたんだ。」







「死んだ虫に触るなんて怖いよぉぉぉぉ…!」

「普通,自然に死んだ場合,外気にさらされて乾燥するもんなんだ。」

「確かに。」

「なのに,あそこにあった死がいは全て,軟らかく,湿っていた。」

南雲「それがなんだって言うんだ?」

「寿命で死んだのなら,他の昆虫に食べられるのが普通だよね?

あそこに落ちていた死がいにはその痕跡すらなかったんだよ。」


「う~ん,つまりどういうことなの???」





「なんだかよく分からないよ…。」

「ごめんよ,少し難しくなっちゃったね。」

「つまり…。」

山本「…。」

「寿命でもなく,食べられた訳でも無いなら,

犯人は人間しかいないよね?」


「そうなのかな???」

「だからボクは考えたんだ,誰かが,殺したんじゃないかって。

殺した方法は,死がいが湿っていたことから

薬物を注射したんだと思う。

おそらく,何かの検査のためにね。」


古賀「むむ…。」

「ボクの考え,どこか間違ってる?」

「漆黒の追跡者さん達…!」



少し間が空いて彼は口を開きました。



山本「なるほど。」

山本「昆虫の生態をよく観察していなければわからないことだな。」

古賀「ですね…。」

「そうよリク君は昆虫博士なんだから!」

山本「“平成のファーヴル”と言うわけか。」

「ファーヴル…。」



再び少し間が空きました。

そして,彼はこう言いました。



山本「平成のファーヴルよ,お前の推理通りだ。

あの昆虫達はある“調査のため”

俺達が殺したんだ。」

南雲「しかし,そこまで色々知られてしまっては,困りましたね。」

山本「ああ,このまま帰すわけにはいかない。」



トシ君は恐怖で頭がいっぱいのようです。



「ひぃぃぃ。この人たち怖すぎぃぃぃ…!」

「どうしよう,リク君!?」

「くっ…。」



その時です。

空からポツリ,ポツリ。



「あっ雨ですね…!?」





ザーッ,ザーッ。

嵐のように猛烈な雨が降ってきました。



「よし,今のうちに逃げよう!」



リク君の提案に昆虫団は同意しました。



山本「逃がすな,追え。」

古賀「はっはい!」

古賀「おとなしく捕まるんだな,少年昆虫団!」

「みんな,先に行って!ここは食い止める!」

古賀「おおおおおおお!!!!」



古賀がリク君に飛びかかりました。



「これが,とっておきの力だ!」



「いやいやいやいやいや…!!」

「何あれぇぇぇぇぇ…!」

「大人,倒しちゃダメでしょ!?

いやいやいや…!!!!!!」


古賀「グフ…。バカな…。」

「いくらなんでも強すぎでしょ!?」

「はぁはぁ…。このアミじゃこれまでだ…。」

「だぬなんて“誇り低き虚栄心”なのに,

なんでリク君だけそんなオトナ倒しちゃう必殺技もっているんですか。」


「“愛・地球博”…!?」」

「オイラなんて“愚王の威厳”なのにぃぃぃ…!」

山本「ガキだと思って油断しすぎだ,古賀!?」

南雲「おい,待ちやがれ!?」

「雨のせいで,霧が出てきた。」

「今だ,逃げよう!」

「いやいや…アレはだめだとだぬは思うよ!」

「だぬちゃん,早く行くよ!」



第16話 ブラック・インパクト

~漆黒の金剛石に手が届く瞬間⑦~
すでに各務原山は大雨と霧で視界が見えなくなっていました。



「どっちに逃げればいいの!?」

「視界が悪くてどこから来たかわからないとだぬは思うよ。」

「こっちから行こう!道が広い!」

「そっちは展望台へいく道じゃないですか!?」

「この道からでも展望台を通ってふもとまで降りられるはずだ!」

「なるほど!」







「すごい雨だよぉぉぉ…!」

「急げ!」



山本達の視界から少年昆虫団が消えました。



南雲「くそ,どこへ行きやがった。」

山本「ちっ…。」



ブブブブブブ…・。



南雲「はい,南雲ですが…。」

山本「東條か?」

南雲「山本さん,たった今,“川蝉”から連絡が入りまして…。」

山本「プラチナバンド…か。」



そのころ“海猫”のメンバーは展望台で待機していました。



牟田「すごい雨ですよ。早く戻りましょう,今村さん!」

今村「もうしばらく待機ですよ,牟田君。

ここで待っていれば,必ず,東條さんか山本さんが現れるでしょう。」

山下「どういうことですか?」

今村「今夜,雨が降ることは予想できていました。雨が降れば霧がでます。」

今村「霧が出れば,視界が悪くなり,道幅の狭い方は通らないでしょう。」

今村「つまり,この展望台で待っていれば,

“漆黒の金剛石”を採集したどちらかのチームが

必ずここを通るはずなんですよ。」

牟田「なるほど。」

山下「でも,先に見つけられたら意味がないのではないですか?」

牟田「あいつらがそう易々と譲ってくれるとは思えないな。」

今村「だから,力づくで奪うんですよ。」



ゾクッ…。



山下「(これがかつて“鬼の今村”と言われた男の本性か…。)」



牟田「あ,誰か来ましたよ!」



少年昆虫団と“海猫”がすれ違った瞬間です。



「(誰だ,この人たち。まさか漆黒の追跡者の仲間!?)」

山下「子供ですね,ほっておきましょう。」

今村「…。」

牟田「今村さん?」

今村「牟田君,あの子達を捕まえて下さい。」

牟田「え?」

今村「こんな時間に山頂から降りてきたということは,

“山犬”と接触して何らかの情報を手に入れ,

逃げてきた可能性が高い。

厄介事は少しでも減らしておくのが得策です。」

牟田「わかりました!」




牟田と山下は逃げる少年昆虫団を追います。



「なんか,また追っかけてきましたよ!」

「はぁはぁ…。マジでやばいってぇぇぇ…!」

「とにかく走れ!捕まったら殺されるぞ!?」

「そんなのやだ~。リク君なんとかして!?」

「さっきので捕虫網が折れちゃったからもう無理~…。」

「いつも捕まえられているカブクワの気持ちですよ!!」



―その時―



パッシュ!

パッシュ!



山下「ぎゃあぁぁぁ!!!」

牟田「なんだ,いっ痛ぇぇぇ!!!」



2人の足が止まりました。



「はぁはぁ…。あれ,なんか追いかけてこないよ!?」

「知らん,急げ!」



少年昆虫団は,隙を見て山を下って行きました。



今村「2人とも,どうしました!?」

山下「う,撃たれました~!!!」

牟田「足,足が~!?」



今村は二人を探しましたが,雨でよく前が見えません。

しばらく周辺を探し,ようやく倒れている二人を見つけました。



彼は地面にめり込んでいた弾丸を見つけたので,掘り起こしてみました。







今村「こ,これは!?」



そして,手に持っていた双眼鏡を使い,先にある木上を見つめました。



今村「どうやら,我々の仕事を邪魔するために

“暗殺者”を雇ったという話は本当だったようですね。」

山下「病院,病院へ~…。」




雨が強くなってきます。



今村「仕方ありませんね,出直しです。」

牟田「すっすみません…。」

今村「ただ,我々にとって“漆黒の金剛石”に手が届く瞬間でした。

それは間違いない。」

今村「(愛用の英国製ライフル,“レジェンドマスター”…。

そして,一瞬見えたあの獅子髪…。)」



―次の土曜日―







「マグロとって欲しいなぁぁぁ。」

「はい,どうぞ。」

「この前は,おしかったなぁ~。

もう少しで“漆黒の金剛石”についてわかる所だったのに。」


「そうですか~?」

「いつか,必ず見つけるさ!

ボク達の虫とりはまだ始まったばかりなんだ!」


「少年誌によくある打ち切り,

最終回の台詞みたいな終わり方は,

だぬは嫌だと思うよ!」






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