リクの少年昆虫記-過去のお話-

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目次


第209話~第212話

2017/12/25

第209話 バトルヤバイヤロ1限目5

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




第3問の問題は株価の予想をするというものでした。

ワク君の出した答えは○でした。果たして正解は・・・。



放送「正解は・・・○だよ!」



「ふぅ・・・。」



ワク君がホッとしたのもつかの間,後ろの方で爆音が聞こえました。



今回は4人が不正解だったようです。残りは14人です。



アヤネ「ワク君はなんで○だと思ったの?」



アヤネちゃんがワク君に聞きました。



「確かあのチャートはダブルボトムっていって,

株価が底値を表した時に出るチャートの形なんだよ。

もちろんその形通り上がるとは限らないから一か八かの

賭けだったけど,なんとか正解だったね。」




どうやらワク君は投資に関する知識も持っているようです。



ここまで残っている人物は,突如この世界に

迷い込んでしまった小学生のワク君とトシ君。



女子高生のアヤネ,女子中学生のあいる,大学生の真木,新聞記者のマスミ。

IT社長の白馬,暴走族リーダーの郷田,そして,その郷田の子分と思われる

目つきの悪い小柄の男と気が弱そうな男。



後は中年の女性が一人と,同じく中年の男性が二人,気が強そうなOLが一人残っていました。



放送「今回はなかなか優秀だよ。」



トシ君は心配そうにあいるちゃんの方を見ました。



あいるちゃんがにこっと愛想笑いをするとトシ君は安心したように笑い返しました。



真木「今度はどんな問題が来るんだ・・・。もうやめてくれよぉぉ・・・。」



全員が次の問題が出される瞬間を待ちました。



放送「それでは第4問だよ。アルバートとバーナードは,シェリルと友達になったばかりです。

シェリルの誕生日を2人は聞きましたが,彼女は10の日にちを候補としてあげました。



・5月15日,5月16日、5月19日

・6月17日,6月18日

・7月14日,7月16日

・8月14日,8月15日,8月17日



それからシェリルは,アルバートに『月』だけを,バーナードに

『日付』だけをそれぞれ教えました。



アルバート『僕はシェリルの誕生日を知らないけれど,バーナードも知らないよ』

バーナード『僕はシェリルの誕生日を知らなかったけれど,今は知っているよ』

アルバート『それなら僕もいつだか知っているよ』



という内容からシェリルの誕生日は7月16日である。(数学オリンピック問題を参考に一部変更)」



第4問目にして超難問が出てきました。





「えっと・・・。誤訳かな・・・?日本語でよろしく!」



ワク君は目をつぶって答えを出そうとしています。



「よし,わかった。答えは○だ。」



アヤネ「本当かい?高校生のあたしでもまったくわからないのに・・・。」



アヤネがワク君の答えを少し疑ってかかりました。



真木「いや,○で正解だと僕も思う。僕は大学では数学に関することを勉強しているんだ。」



真木君も○だと主張しました。



それを聞いていた他の人もどうやら全員が○を選択したようです。



そして答えが発表されました。



第210話 バトルヤバイヤロ1限目6

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




第四問目は数学的パズルを使った難問でした。



数学を専攻している大学生の真木が答えは○だと言いました。

ワク君も答えがわかったようで同じく○を選択しました。



放送「答えは・・・○だよ!」



廊下側の中年の男性が爆発しました。

彼は×を選んだようです。



今回の犠牲者は彼のみでした。

周りの人は悲鳴を上げました。



しかし,いちいち他人の死を気にしている場合ではありませんでした。



マスミ「真木君って言ったっけ?あの問題がわかる

なんてすごいね。あれを解けたのは真木君だけだよ。

今,生き残っているのは君のおかげだよ。」



真木「いやいや,たまたまだよ。それに今回はあの少年のおかげだよ。」



マスミはワク君を見ました。



「さすがだね。」

「・・・ったく・・・俺がいなきゃ,お前は今頃死んでるぞ・・・。」



ワク君はキツイ言葉をトシ君に浴びせましたが,

トシ君はそれくらいどうってことないって感じでした。



白馬「まぁ,僕も実は答えはわかっていたんだよ。」



IT社長の白馬さんが会話に入ってきました。



アヤネ「じゃあ,なんで○なのか教えてよ?」



白馬「ははは・・・。それは・・・。ワク君,君に任せよう。」



白馬さんはうまく逃げました。



「まず,アルバートの『僕はシェリルの誕生日を知らないけれど,バーナードも知らないよ』

バーナードの『僕はシェリルの誕生日を知らなかったけれど,今は知っているよ』から5月と6月が除外される。

なぜなら誕生日が18日か19日であれば,バーナードは誕生日を知っていることになるからね。

そしてもしバーナードが14日と教えられていたら,7,8月とあるので答えはわからないはず。

そして,アルバートは『それなら僕もいつだか知っているよ』というので8月15,17日と2つの

選択肢が残っている8月は除外される。残ったのは7月16日というわけだよ。」




「うん。ゴメン。マジで何言っているかわからないから後輩だけど,1発殴っていいかな。」



トシ君には全くわからないようですが,とにかく正解しました。



そして,放送が入りました。



放送「それでは,最後の問題だよ。これをクリアすればこの教室から出ることができるよ!」



郷田「ここまで来たら,何が何でもこんなところから出てやる。

そして,こんなくだらんことを考えたやつをぶっ殺してやるからな。」



<郷田>



大きな郷田の声が聞こえました。



「あの,あんまり刺激しないほうがいいよ。」



ワク君は振り返って郷田に忠告をしました。



郷田「なんだ,このガキは。俺に指図するのか?

ちょっと頭がいいからっていきがっているんじゃねぇぞ。」



郷田は体を乗り出してワク君に近づこうとしました。



放送「時間がないから,問題を出すよ。生徒は全員席に着くように!」



郷田は文句を言いながら横柄な態度で席に着きました。



放送「それでは第5問。『私は○か×どちらを正解にするでしょうか。』」



一瞬教室が静まり返りました。



アヤネ「あの,ちょっと意味がわかんないんだけど・・・。」



アヤネが恐る恐る聞きました。



この問題は一体どういう意味なのでしょうか。







第211話 バトルヤバイヤロ1限目7

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




第五問目は『私は○か×どちらを正解にするでしょうか。』という問題でした。



放送「つまり,この後,私が『正解は○』というか,

『正解は×』というか予想するんだよ。それがこの問題だよ。」



真木「なんだそれは!?つまり,○か×か予想するって

ことか?つまり勘で答えるってことか?」



真木氏は少し取り乱した様子で言いました。



「どういうこと?」



トシ君にはまだ意味がわかっていなかったのでワク君が説明しました。



「まずいな・・・。これは完全にヒフティヒフティの問題だ・・・。

正解する確率は50%・・・。どちらに命を賭けるか・・・だ・・・。」




ワク君は考え込みました。



放送「この問題は難問だから,特別に3分間時間をあげるよ。

級友と相談してじっくり考えてね。」



そういわれても誰も何も言えませんでした。



白馬「そうだ。今までの問題を振り返ってみよう。確か今までの答えは・・・。」



あいる「確か,全部○だった気がします・・・。」



女子中学生のあいるちゃんが小さな声で呟きました。



真木「じゃあ,確率的には×になる可能性が高いよ。」



数学が得意な真木氏がそう言いました。



アヤネ「でも,裏をかいて○ってこともあるよね?」



白馬「確かに・・・。」



全員が考え込んでしまいました。まだ誰もボタンを押した人はいません。



「なるほど・・・。今までの問題はこの第5問目のための伏線にすぎなかったんだ。」



教室の全員がワク君に注目しました。



???「どういうことだい?」



少し小太りの髪の毛を後ろに縛った50代くらいの中年女性が質問をしました。



???「自己紹介が遅れたね。あたしは山岡っていう平凡な主婦だよ。

それが何の因果かこんな所へ連れてこられたんだ。買い物の途中にね・・・。」





<山岡>



山岡と名乗る主婦はワク君に再度質問をしました。



山岡「伏線っていうのはどういうことなんだい?」



「この第5問で答えが○なのか×なのかを最大限悩ませることだよ。

第1~4問の答えが全て○なら,次も○だと考える人も出てくるし,

逆に×だと考える人だって出てくる。全く,嫌な問題だよ。」




あいるちゃんは震えていました。



「あいるちゃん,大丈夫だよ。オイラが必ずここから出してあげるから!」



あいるちゃんはうなずくこともなく下を向いて震えたままでした。



放送「さぁ,あと30秒だよ!ぎりぎりだと押し間違えが

あるといけないから早めに決めることをお勧めするよ!」



気の強そうなOL風の女性がボタンを押しました。



???「私は○にしたよ!」敢えて全員にそう宣言しました。



その隣に座っていた中年男性は×を選択しました。



???「お,俺は×にするぞ・・・。」



さぁ,ワク君とトシ君はどちらを選択するのでしょうか。







第212話 バトルヤバイヤロ1限目8

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。





○か×のどちらかを選らなくてはいけない。

間違えば・・・死・・・が待っている。



「おい,トシ。」



ワク君がトシ君に話しかけました。



「何?早く決めないと・・・。」

「答えはお前が決めろ。俺はお前の答えに従う。」



ワク君は答えをトシ君に任せました。



「え,何言っているんだよ?そんなのわからないよ・・・。」

「いいから決めろ,このクソ野郎!今すぐだ!早くしろ!全員死ぬぞ!」



ワク君はものすごい形相でトシ君をにらみました。



「え・・・。じゃあ『○』で・・・。」

「よし。お前に賭けた・・・。」



ワク君とトシ君は○を選択しました。



ふと,トシ君はあいるちゃんがまだボタンを押していないことに気付きました。



「あいるちゃん。○だよ。○を選んで!オイラを信じて!」



あいるちゃんは顔上げてトシ君を見つめました。

そしてにこっと笑って時間ぎりぎりでボタンを押しました。



放送「ここまでー!さぁ,答えを言うよ!」



みんなはこの瞬間が一番緊張するようです。



放送「正解は○だよ!×を押した人は残念でしたー!」



「ふー。正解だったか。トシの勘の良さに賭けて正解だった。

お前の勘の良さだけは認めているからな。」


「やったー!正解だ。あいるちゃんやったね!正解だよ!」



トシ君ははしゃいで言いました。



しかしあいるちゃんは震えたまま下を向いています。



あいるちゃんは涙ぐんだまま,



あいる「ごめんね・・・。トシ君・・・。わたし・・・

君のことを信じるきることが・・・できなかった・・・!」



と言いました。



「え・・・?」



あいるちゃんのボタンは×を押していました。



あいる「だって・・・。小学生の・・・根拠もないことを・・・信じることなんてできなったよ・・・。

君のことを見てて信用できるってどうしても思えなかった・・・。」



「くっ・・・。」



次の瞬間,あいるちゃんの首が吹き飛び,床に倒れました。

その血しぶきをトシ君はよけることもせず,ただ茫然と浴び続けていました。



「なっなんでだよぉぉ・・・!!!どうしてー・・・!!!」



トシ君は床に膝まづき,動かなくなったあいるちゃんの体を抱きしめ,大泣きしました。





「オイラのことを信じることができなかった・・・。

オイラが信頼されるような人間じゃなかったのかな・・・。

これなら,代わりにオイラが死ねばよかったんじゃ・・・。」




たまらずワク君は,トシ君の胸ぐらをつかみ,思いっきりほほを殴りました。



「ぐふっ・・・。」



ワク君に殴られ,トシ君は倒れこみました。

白馬さんや正解した人たちが心配そうに二人のやり取りを見ています。



「バカヤロウ!そんなに悔しくて悲しいなら,

お前がすべきことはなんだ!?死ぬことか!?」




とワク君が激こうしました。



「違うだろうが!!今すべきことは,この悲しみを乗り越えて,

お前自身が誰からも信頼される人間になることだろう!!

現実を見ろ!!このクソ野郎!!」




ワク君は必死に悲しみをこらえて,トシ君を奮い立たせようとしていました。



「ああ・・・。そうだね・・・。」



トシ君はゆっくりと起き上がりました。



その時,チャイムが鳴りました。



放送「チャイムが鳴りました。それでは,1限目の"社会"の授業はこれで終わりです。

2限目は移動教室になります。放課中に移動するようにしてくださいね。」



真木「なんだと・・・。これで終わりで解放してくれるんじゃないのか!?」



真木氏がそう叫びました。



放送「学校が1限目で終わって下校することなんてないでしょー?次は3Fの

多目的室で"特活"だよ。寄り道せずに向かうこと。先生からは以上だ。」



放送が終わると,みんなは教室の扉の前まで行きました。

扉に手をとると,先ほどまで開かなかった扉が簡単に開きました。

次はどんな授業が彼らに待っているのでしょうか。



果たしてワク君とトシ君は無事元の世界に戻ることができるのでしょうか。





第213話~第216話

2018/1/29

第213話 踊る!昆虫大捜査線
真夏の炎天下の中,少年昆虫団は六町公園で警察ごっこをしているようです。

どうやら警視総監の娘が誘拐され,犯人が立てこもっている設定みたいです。



リク君は警察官のリク島,イツキ君は管理官のムロイツキ,

まさらちゃんは警視総監の娘,トシ君は犯人役,

ワクはリク島の直属上司和久さん,だぬちゃんはキャリア官僚局長の役でした。







「俺は和久さん役をやるためだけに呼ばれたのか・・・?・・・で忙しいのに・・・。」



何やらわく君が呟いていました。



「警視総監の娘さんが監禁されている場所を見つけました。今から突入します。」



リク君がおもちゃの無線を使って熱演しています。



「待て,リク島。本部の指示を待て。」



ドーム型の遊具が本部になっています。



「事件はドームで起きているんじゃない!ジャングルジムで起きているんだ!」



犯人のトシ君はビルに見立てたジャングルジムで

警視総監の娘のまさらちゃんを人質に立てこもっています。



リク島はジャングルジムに単騎突入しようとしました。



「・・・。」



ムロイツキ氏は眉間にしわを寄せて考え込んでいます。

そこに局長のだぬちゃんが声をかけました。



「わかっていると思うが,部下のミスは出世に響くよ。」

「わかっている。」



ムロイツキ氏は立ち上がりました。



「どこへ行く?」



少し間をおいてから答えました。



「現場・・・だ。」



一方,リク島は直属の上司である,

和久さんに止められていました。



「早く誘拐犯を捕まえないと!本部の指示なんて聞いていられないっすよぉ!」

「リク島よ・・・。正しいことがしたかったら,偉くなれ。なぁんてな・・・。」



しかし,リク島は和久さんの制止を振り切って突入しました。



「確保~!」



リク島は犯人トシを羽交い絞めにして捕まえ,

まさら娘さんを無事に保護しました。



その時,犯人トシはおもちゃのナイフでリク島を後ろから刺しました。



「うぉぉぉ!」

「ぐぁぁぁ・・・。」



そこにムロイツキさんが到着しました。



「リク島~!!!」

「捜査員が一人,刺された・・・。どうして現場に血が流れるんだ・・・。」



和久さんがムロイツキ氏につかみかかりました。



「あんた達が大理石の階段を駆けあがっている時に,

俺たちは地べたはいずりまわっているんだ。よく覚えておけ。」


「青島~!じゃない・・・リク島~!」



ムロイツキ氏は本部にいる局長に連絡を取りました。



「連絡します。警視総監の娘は無事に保護しました。」



本部では多くのキャリアが会議をしているという設定だったので,

だぬちゃんが一人で何役もこなし,歓声をあげ,

拍手をして喜びを演じていました。

それはまるでこっけいな姿でした。



「いや~,よかった,よかった。」

「しかし,捜査員の一人が負傷しました。」



ムロイツキ氏は少し取り乱しながら,報告を続けました。



「いや~,本当によかった,よかった。さぁ,

今日は事件解決の宴だ。良い店を用意したよ。」




そう言って,会議室から全員が出て行った様子をだぬちゃんは一人で演じきりました。



「局長,聞いていますか。捜査員が一人刺されました!」



しかし,すでにそこには誰もいません。



「局長!局長!!」



ムロイツキ氏の声が電話を通して,

むなしく会議室に響いています。



「兵隊は・・・犠牲になってもいいのか・・・。」



「ああ・・・,俺は大丈夫っすよ・・・。眠たいだけなんで・・・。」



こうして事件は幕を閉じました。



<おまけ>

「これ,ただ,某刑事もののパロディしたかっただけじゃないですか・・・。苦情きますよ!」

「むちゃくちゃだな・・・。昆虫大捜査線って昆虫なんて1回もでてないじゃねぇか・・・。」

「え~ん,今回台詞がないよぉぉ・・・。(口をふさがれている設定でした)」



第214話 いつもの緑地公園にて
今日は,いつもの緑地公園で昆虫採集をしています。





レオンさんも一緒にいました。



「住んでいる家のすぐ近くにカブクワが採集できる

場所があるなんて,恵まれているよね。」




レオンさんはイツキ君と並んで緑地公園の

散歩道を歩きながらそう言いました。



「まぁね。」



リク君は2本の捕虫網と飼育ケース,

懐中電灯を持って,先頭を歩いています。



「相変わらず,やる気ですね・・・。」



だぬちゃんとトシ君は最後尾を歩いていました。



5分も歩くと採集場所に到着しました。



「今回は,普通のカブクワ採集なんだよね?」

「う~ん。そうなんだけど,たまには珍しいクワガタでもいないかな・・・。」



リク君はクヌギの木を懐中電灯で照らしてみました。



その木には,ゴキブリやスズメバチ,ガ,

カナブンなどがいましたが,カブクワはいませんでした。



「いねぇな・・・。まぁ,帰るか。」



イツキ君は早く帰りたそうです。



「いやいや,まだ来たばかりじゃない。あれ?トシは?」



さきほどまで,だぬちゃんと一緒に歩いて

いたトシ君の姿がありませんでした。



「あれ?さっきまでそこにいたのに?おしっこですかね?」



だぬちゃんがあたりを見渡しました。



みんなはその場でしばらく待っていました。

するとトシ君が茂みの中から出てきました。



「勝手に離れるなよ・・・。」

「ごめん,ごめん。おしっこがしたく

なっちゃって・・・。でも,その木にクワガタがいたよ。」




トシ君がそう言うのでみんなはそこまで行ってみました。



「この木の根元がぬれているのは・・・。」

「ああ,それはオイラのおしっこだから踏まないようにね。」



と,トシ君。



「ひぃいい,汚い・・・。」



レオンさんがすぐにクワガタに気付きました。



「トシ君が見つけたクワタガはこれだね。

これはノコギリクワガタだ。」




ノコギリクワガタを止まっていたクヌギの木から

そっと取り外し,持っていたかごの中にいれました。



「持って帰るの?」



リク君が不思議そうに聞きました。



「ああ,ちょっと飼育してみたくなってね。」



その後も,採集を続け,コクワオスやカブトムシを何匹か見つけました。



緑地公園の入口まで戻り,今日の採集は終わりました。

だぬちゃんとまさらちゃんとトシ君は先に帰って行きました。



レオンさんは入口付近にある,石膏で来た球体のオブジェに腰かけました。



「何か聞きたいことがあるんだろ?

だからみんなと一緒に帰らなかった。」


「聞きたいことっていうか,気になることだよ。

例のJFのスパイが誰かわかったのか?」




レオンさんは首を横に振って



「いや,まだわからない。」



と答えました。



「そっか・・・。じゃあメンバーのことで

何か気になる動きとかがあったら,教えてね。」


「ああ,約束するよ。」



こうしてその日はお開きとなりました。



第215話 オオスズメバチの一生
少年昆虫団は大幡緑地に来ていました。



時間は夜の8時過ぎです。

すでに採集をする木の前にいました。



「ここは結構カブクワが採集できるみたいだね。

でも,そこそこ広いから大変だ。」




彼はあまりここに来たことはないようでした。



「おっと,オオスズメバチがいるね・・・。」

「やべぇ,ハッチーさんだ。

いや,ハッチー先輩だ!すぐに逃げよう。」








さっそくトシ君が過剰反応をし始めました。



「大丈夫だよ。たしかにこのオオスズメバチは日本最大の蜂で

強力な牙と針を持つハンターだけど,こちらが危害を加えなければ

襲ってくることは少ないんだよ。」


「ええ,でも毎年何人も死んでいるんじゃ・・・。」



今度はまさらちゃんが不安そうな声で言いました。



「確かに,蜂のテリトリーに侵入した者に対しては

容赦なく攻撃をする習性があるからね。」


「レオンさんはハチに詳しいんだね。」



リク君が聞きました。



「まぁ,一応大学で昆虫学を研究して

いることになっているからね。」




「警察の仕事が本職じゃないのかよ。

なんか楽しんで大学に潜入していないか。」




レオンさんは特に否定せず笑っていました。



「これってオスなんですかね?」

「いや,働き蜂は基本的に全てメスなんだよ。オスは肉団子を集めることもなければ,

巣を守ることもないので,針をもっていないんだよ。」




この事実にみんなは驚いていました。



「へぇ,そうなんですか。じゃあ,こいつらが来年卵を産むんですか?」

「確か,働き蜂は一生卵を産むことがないんだよね?

巣に1匹だけいるっていう女王蜂のために働くんでしょ。」




リク君が蜂を指さしてそう言いました。



「さすがに良く知っているね。基本的にはそういうことだね。

ただ,時々,巣の中で女王殺しというのが行われるらしい。

そうすると,働き蜂の中から新しい女王蜂を選ぶことになるんだって。

そうするとその働き蜂は産卵できるようになる。」




オオスズメバチの話をしているうちに,ハチはどこかへ飛んで行きました。



「ああ,怖かった・・・。」

「しかし,ハチも一生働き続けないといけないなんて大変だな・・・。」



とイツキ君。



「それは人間も変わらないよ。中にはハチよりも大変な待遇で

働いている人たちだっている。それこそ奴隷のようにね・・・。」




この国の深刻な労働環境について危惧しているようでした。



「どうして,そんなことになっちゃうんだろうね?

そんなにお仕事をがんばらないと暮らしていけないの?」


「僕の親なんて1日中家でゴロゴロしているか

パソコンに向かっているけどなぁ・・・。」




レオンさんは少し考えてから,



「色々と理由はあるけれど,仕事の効率化ができていない企業が多いんだろうね。

例えば仕事が早く終わっても上司がいるから帰れない,

どうせ,帰れないなら仕事をダラダラやろうって思ったり,

無駄な研修や幹部の視察なんかをやったりして,

そのための残業をする。全てが悪循環だね。」




と,持論を述べました。



「ああ,なんか気分が憂鬱になってきました。

将来そんな仕事に就いたらどうしようとだぬは思うよ・・・。」


「ドイツなんかは朝7時過ぎから仕事して3時過ぎにはさっさと

仕事を終えて帰宅する人が多いらしいよ。

彼らはプライベートをとても大事にするから

職場での飲み会なんてのもない。

自分の仕事が終われば上司がいようが帰宅するのが基本なんだって。」




日本と外国の労働環境は全然違います。



日本ももっと見習うところがあるのかもしれません。



「あれ,スズメバチの生態の話じゃなかったっけ??途中から眠くなってたよ!」



こうしてこの後も採集を続けました。



第216話 真夏のサンタクロース3
*このお話は2017年のクリスマス前後に掲載する予定でしたが,

諸事情に掲載時期がずれたため,今週公開となりました。




今回は真夏に現れる殺人鬼,真夏のサンタクロースのお話です。

都市伝説だと思われていた真夏のサンタは実在しました。



ついに,犠牲者が出たのです。

それは公園でランニングをしていた男性でした。



首をナタかオノのような刃物ではねられたようです。

周囲は警戒態勢がとられました。



公園では警察官が現場検証をしているので

一般人は中に入ることができませんでした。



少年昆虫団はキープアウトと張られた

テープの外側で様子をうかがっていました。



「なんか殺人事件があったみたいだよ・・・。

お父さんが言っていたんだ・・・。」


「噂では真夏のサンタクロースの犯行だそうですよ。」



とだぬちゃん。



「それは都市伝説だろ。」

「そうそう。そんな奴は実在しないよ。」



二人は真夏のサンタクロースの存在に否定的でした。



「じゃあ,オイラ達で犯人を探してみればいいんじゃない?

ホラ,オイラ達って結構そういう事件に巻き込まれたりしてるじゃん?」




トシ君が提案しました。どうやら少年昆虫団は過去にも

殺人事件に巻き込まれたことが何度かあるようですが,

それはまた別の機会にお話しすることになりそうです。



「事件を解決するのはリク君やイツキ君が中心で

トシ君はいつも何もしていないじゃないですか。」




いつもの突っ込みが入りました。



「まぁ,トシの言うとおり,殺人犯を野放しに

するわけにもいかない。僕たちで犯人を見つけよう。」


「でも,大丈夫かな・・・?相手は凶悪な殺人犯なんだよ・・・。」



まさらちゃんが不安そうに言いました。



「大丈夫だろ。そんな奴は俺がぼこぼこにしてやる。」



と言って指をポキポキと鳴らしました。



「なんか,二人ともしれっと言ってますけど,

発言がどう考えても小学生離れしていますからね!」




少年昆虫団は現場には入れないので,

周辺の公園や人通りの少ない場所で聞き込みを開始しました。



2時間後,有力な情報を得ました。



「この公園でサンタの格好をした怪しい人を見たって目撃情報があった。」



そう言って,普段はあまり遊ばない赤髭公園に向かいました。



「いいか,いきなり襲ってくるかもしれないから気をつけろよ・・・。」



ジェイジェイジェイジェイジェイ…ハッハッハッハッ・・・(例の音)



すでに周辺は暗くなっていてライトなしでは前も見えない状態になっていました。



「なんかいやな予感がするよぉ・・・。」



ジェイジェイジェイジェイジェイ…ハッハッハッハッ・・・(例の音)



突然,草むらから人影が現れました。



「なんかいるっ・・・!」



と叫びました。



髭を生やしてサンタクロースの格好をした

人物がナタで襲いかかってきました。







「やっぱり,真夏のサンタクロースはいたんですよぉぉ!!

早く逃げないと殺されますよ!死にますよ!」


「死なねぇよ!」



ドヤ顔をして捕虫網を背中から抜きました。



真夏のサンタが振り下ろしたナタをイツキ君が

蹴りをサンタの腕に当てて止めました。



ナタが真夏のサンタの手から離れました。

真夏のサンタはヴゥヴゥヴゥ・・・と唸っています。



その隙にリク君が真夏のサンタに攻撃を仕掛けました。



―大地一刀流 神速の打突―



ズシュッ!!!



伸びた捕虫網"アマテラス"が

真夏のサンタの喉元に突き刺さりました。



真夏のサンタはうめき声をあげながら倒れました・・・。



「ふぅ・・・。思ったよりたいしたことないな・・・。」



しかし,倒れたと思っていた場所に真夏のサンタはいませんでした。



「あれ,どこに行ったんだろ・・・。」

「逃げられたか・・・。」



イツキ君は少し悔しそうでした。



「あの,ここは警察に連絡してもう帰りませんか?」

「まぁ,そうだね。そうしよう・・・。」



この後,警察に連絡をして周辺を捜索してもらいましたが,

真夏のサンタを見つけることはできませんでした。



彼はどこへ行ってしまったのでしょうか・・・。



それはまたいずれわかることになるようです・・・。



第217話~第220話

2018/3/13

第217話 プロローグ

菊の華シリーズ第2章
日本には,日本国を解体させ,自分たちの理想国家を創り,

日本を思いのままにしようとする闇の組織が存在しています。



その組織の名前は"ジャパノフォビア"。通称JFと呼ばれる組織です。

"御前"と呼ばれる人物が組織のトップとされますが詳細は不明。



このJFを壊滅させるために日本警察が作り上げた組織が

警視庁公安部のJF対策特別チーム,"菊水華",通称"菊"でした。



"菊"は,神主に変装していたリーダーの赤神氏,ジャズバンドブルーマウントのリーダー

である青山氏,ブティックの店員として名古屋にやってきた桃瀬氏,

サーカス団団長の黄金原氏,そして警視庁公安部の翠川レオン氏の5人を中心とする組織でした。







リク君たちの良き理解者であるレオンさんは実は警視庁公安部の人間であり,

公安の中から対JF壊滅部隊として設置されたのが菊の華と呼ばれる部署でした。



リク君たち少年昆虫団は彼らと協力して闇組織JFの壊滅を目指すことになりました。

少年昆虫団が中野木署を訪れていたその日の夜・・・。



名古屋中心部にある超高層ツインタワービル。

闇組織JF所有のビルでもありました。

ここの上層階にて組織の幹部が会議を行っていたのです。



会議に出ているメンバーは山犬の山本,藪蛇のアヤ,

森熊の源田,海猫の今村,そして川蝉の東條でした。



源田「すでに,菊の準幹部を一人殺害した。当面の目標はさらにもう一人の殺害だ。

あまり短期間でことを起こすと,目立つからだ。」



と源田が現状を説明しました。



円卓のテーブルを囲むように各ユニットリーダーが座っていました。



山本「今回の作戦は山犬がやる。」



山本が切り出しました。



今村「おやおや,抜け駆けはいけませんねぇ・・・。

今回の作戦は御前の勅命。失敗は許されません。

各ユニットの共同作戦であるとのことですよ。」



源田「今村さんの言うとおりだ。今回の菊幹部暗殺作戦は全てのユニットで実行する。

すでに俺の直属の部下である,"キラー"が動き出している。

それにアヤが仕込んだスパイからも色々と報告があがっている。」




源田はアヤの方を見ました。

それに気付いたアヤは少し面倒くさそうに説明を始めました。



アヤ「アタシの仕込んだ愛しい愛しい闇の騎士(ダークナイト)は

菊の幹部に溶け込みしっかりと情報を流してくれているわ。」



山本「ほう。どんな?」



にらみつける山本。



アヤ「すでに名古屋に集結しているみたい。当面は愛知県警本部を拠点にするって。」



山本「それだけか?」



アヤは少し間をおいてから,



アヤ「なんでも妙なことを伝えてきたわ。5人組の少年たちと知り合いになったって。

その中でも捕虫網を持った少年はなかなかクセがあるから気を

つけた方がいいそうよ。どういう意味かしらね・・・?」



山本は急に笑い出しました。



山本「ハハハハッ・・・。」



今村も何かを知っているかの表情で山本を見ていました。

隣に座っていた東條もなにやら笑っています。



源田「おい,山本。その少年っていうのは今日の午後の・・・。」

山本「ああ,そうだ。やっと尻尾を出してきたか。

平成のファーヴル!これは面白くなりそうだ。」



今村はゆっくりと手を挙げて,



今村「今回の作戦は辞退しますよ。」



と言いました。



源田「どういうことですか?」



源田は立ち上がって聞き返しました。



今村「いくら共同戦線といってもさすがに大人数で

動けば向こうに気付かれる可能性があります。

ここは暗殺能力を有している森熊と諜報活動の藪蛇と

それをまとめる山本クンがいれば十分でしょう。」



そこで,源田は東條にも話を振り,川蝉も辞退

するように説得すると,彼はしぶしぶ承諾しました。



いよいよ,菊の幹部を暗殺する計画がまとまってきたようです。



山本「それで,始末する菊の幹部は・・・。」



アヤ「ええ,それは・・・。」



こうして名古屋の夜は更けていきました。



第218話  誰がスパイか・・・?

菊の華シリーズ第2章
リク君はイツキ君と二人で緑地公園にいました。

昆虫採集が終わり,他のメンバーは帰っていきました。



二人は夜の街灯に照らされながらベンチに座っていました。



「話っていうのはなんだ?」



イツキ君が聞きました。



「ああ,実はさ・・・。」



と少しためらうリク君。



イツキ君は持っていたジュースを一気に

飲み干し少し離れたゴミ箱に投げ入れました。



「もったいぶらずに話せよ。どうせ,今日のことだろ。」

「うん。レオンさんが菊の幹部の中に闇組織JFのスパイが

いるって言っていたよね。一体だれだと思う?」




リク君は本題に入りました。



「まぁ,レオンさんを除外して考えると残りは4人・・・。

誰も怪しいような怪しくないような・・・。決め手にかけるなぁ・・・。」


「そうなんだよね・・・。」



二人は言葉に詰まりました。



「もうひとつ気になることがある・・・。」



とリク君。



「奴らは菊の幹部の誰を暗殺しようとしているのか・・・だろ。」

「ああ,もしくは全員を一度に殺そうとしているのかも・・・。」



とても小学2年生の会話とは思えない内容でした。



「いきなり全員は無理だろう。奴らは死因を殺人ではなく

事故死にしようと企んでいるはずだ。一気に何人も死ねば

さすがに捜査本部も怪しむ。」


「だろうね・・・。」



二人は考え込みました。







「明日,レオンさんに相談して,他の幹部と

ゆっくり話ができないか聞いてみないか。」


「そうだね。考えても仕方がないし,それが一番いい。」



と,言ってリク君は立ちあがりました。



「ただ,最悪のことも想定しておいてよ。」

「どういうことだ?」



と,聞き返しました。



「そのスパイがレオンさんかもしれないってことだよ。」



イツキ君は激高して,



「そんなわけないだろう!」

「だから,言ったでしょ。最悪の想定だよ。あえて,僕たちに

スパイがいることをほのめかして捜査をかく乱する可能性だって

あるんだ。どんな状況になっても常に冷静に行動できるようにしておかないと。」




イツキ君は黙ったままでした。



「でも,僕もイツキ君と同じで,レオンさんのことを信じている。

もし,スパイがいるとしたら残りの4人の誰かだと信じている。」


「ああ,そうだ・・・。俺はもう裏切られるのはごめんだ・・・。」



ベンチに座り,うつむいたままそう言いました。

彼の心には未だに城嶋さんの裏切りがトゲとなって刺さっているようです。



そして,次の日,少年昆虫団はレオンさんのアパートを訪れました。



菊の幹部達から話を聞き,JFのスパイである

闇の騎士(ダークナイト)の正体を暴こうとするようです。



第219話 菊の幹部達①

菊の華シリーズ第2章
リク君とイツキ君の二人は,昨日の夜に打ち合わせた

内容をレオンさんの自宅に行き,伝えました。



レオンさんはちゃぶ台の前に座ったまま,

麦茶を飲みながら聞いていました。



「それがいいかもしれない。オイラも彼らとは

あまり話したことがなかったからね。」




「なんか,楽しみだね。私は桃瀬さんとお話ができるのが楽しみ!」



まさらちゃんはちょっと嬉しそうでした。



「遊びにくんじゃないよ!」

「そんなことトシ君に言われなくてもわかっていますよ!」



レオンさんは部屋着から外出用の服に着替えました。



「話を聞くのはいいんだが,普段はそれぞれの持ち場で

仕事をしているんだ。だから,署に行っても会えないよ。」


「じゃあ,一人一人話を聞きに行かないとだめか。」



レオンさんは,机の上に置いてあった車のキーを手に取りました。



「じゃあ,さっそく行こうか。」



レオンさんの車に乗り込んで出発しました。



「1日で回れるかな?まだ午前中だから大丈夫かな。」

「ここから一番遠い桃瀬さんの所から行こう。

次に黄金原君,青山さん。最後に赤神さんのところでいいかな。」




レオンさんがナビをセットしました。



車を1時間ほど走らせると,桃瀬さんが

働いているブティック店に到着しました。



「ついたぞ。でも,一体何を聞くんだい?

何かスパイを見つけ出す作戦でもあるの?」


「いや,それはないけど,ひょっとしたら

何か手掛かりがあるかもしれないでしょ。」




と言って,車を一番に降りました。



ブティック店に入っていくと,桃瀬さんは

2階で接客のお仕事をしていました。



桃瀬さんはこちらに気付いたようでレオンさんと目が合いました。

レオンさんが目で合図を送ると,仕事のきりがついたところでこちらに向かってきました。



桃瀬「どうしたの?直接ここに来るなんて。」







少し怪訝な顔をしていました。



「あの,お仕事中にすみません。」



桃瀬「気にしないで。まさらちゃんだったよね。

後で,一緒にお洋服を選んであげる。」



桃瀬さんはまさらちゃんの頭をなでながらにこりと笑いかけました。



「あ,ありがとう!」

「実はね,ちょっと聞きたいことがあるんだけど,いいかな?」



リク君が無邪気に言いました。



桃瀬「じゃあ,休憩室に行きましょうか。」



桃瀬さんはみんなを休憩室に案内しました。



桃瀬「それで,私に話って?」



「桃瀬さんのことを色々と教えてほしいんです。

経歴とか,独自で調査したJFの情報とか・・・。」




桃瀬さんは快く承諾してくれました。



桃瀬「いいけど,それくらいならそこにいる翠川君に聞けば十分じゃないかな?

私が入手した情報は菊の中でちゃんと共有してあるから,新しいことは何もないよ?」



「この子は直接,桃瀬さんから聞きたい

みたいなんだ。協力してもらえると助かります。」




レオンさんは,低姿勢でお願いをしました。

桃瀬さんはどんなことを話してくれるのでしょうか。



第220話 菊の幹部達②

菊の華シリーズ第2章
少年昆虫団は菊の幹部の人たちから話を

聞くために,まずは桃瀬さんのお店を訪れました。



みんなは休憩室にある机を囲んで座っていました。

そこで話を聞くことができました。



桃瀬「私は東北・北海道地区担当なの。

所属は道警の警部の公安第一課。」



「やはり・・・。」



リク君のつぶやきにみんなが注目しました。



「どうしたの?」



と,まさらちゃん。



「公安一課というのは過激革命派関連事案を担当するんだ。

つまり,JFというのは・・・。」




リク君は真剣な表情です。



「まぁ,とりあえずその件はおいておこうよ。それに菊は

公安第一課所属の人間だけじゃないよ。青山さんは第3課だしね。」


「そうなんだ・・・。」



桃瀬さんは話を戻して続けました。



桃瀬「私の特技は射撃よ。特に遠距離の狙撃を得意としているの。

公安に入る前は北海道県警の特殊部隊にいた。」







「やはり,怖そうな予感は当たりました・・・。」



だぬちゃんがぼそっと言いました。



「桃瀬サンは北海道にいる時に何か組織の情報をつかんだりしたのか?」



桃瀬「ええ,でもそれについてはさっきも言ったけど菊の中で情報を

共有しているから翠川君が知っていることと同じことしか言えないわよ。」



桃瀬さんはレオンさんを見ました。



「うん,でも君の口から改めてこの子たちにはなして

あげてくれないか。捜査機密だということは重々に承知している。」




桃瀬「わかった。私が入手した情報はJFに超一流の狙撃手がいるってこと。」



そう言う桃瀬さんの表情は真剣そのものでした。



「怖ぇぇぇ・・・。それってお姉さんよりも実力は上ってこと?」



桃瀬「わからない・・・。でも互角か,それ以上だと思う。」



硬い表情のままそう言いました。



「でも,どうしてそんなことがわかったの?」



リク君は疑問に思ったことをそのままぶつけてみました。



桃瀬「3ヶ月くらい前に,JFと関わりがあると思われる人物を逮捕したの。

容疑は傷害。末端の人物だろうけど,何か情報を持っていると思って

取り調べをしたけど,何も吐かなかった。」



桃瀬さんは話を続けました。



桃瀬「容疑者は48時間以内に検察へ引き渡さないといけないの。

結局,その末端の人物はただの傷害事件の容疑者として送検されることになった。」



みんなは桃瀬さんの話を固唾をのんで聞いていました。

ただ,トシ君だけがついていけなくなり,眠くなっています。



「つまり,その時点では核心的な話は

聞けないまま,送検されることになったんだね。」




桃瀬「そう。そして,送検される時に警察署から検察所へ

移送することになるんだけど・・・。」



イツキ君が



「なるほど。その時に,その末端の

組織員が狙撃されて殺害されたわけか。」




と口にしました。



桃瀬「さすが,鋭いね。君とそこの帽子の少年と

話していると子供相手に話していることを忘れるね。」



それはキレ者二人に対する最高のほめ言葉でした。



桃瀬「その後の我々の捜査で,通常ではありえない距離に

あるビルの屋上から狙撃されことがわかったの。」



「つまり,邪魔ものの人間を闇組織JFの

狙撃手が消したってこと・・・。」




まさらちゃんはその事実に震えていました。



桃瀬「私たちはそう考えている。だから組織には

腕利きの狙撃手がいると見ている。」



皆は桃瀬さんから直接話を聞き,お礼を言って別れました。

そして車に乗り込んで次の場所へ移動を開始しました。





第221話~第224話

2018/4/10

第221話 菊の幹部達③

菊の華シリーズ第2章
車の中で運転席のレオンさんが話を切り出しました。



「桃瀬さんは確か,警察内の射撃大会で優勝したこともあるらしいよ。」



真後ろに座っていただぬちゃんが驚いて



「マジですかー。暗殺者顔負けですね!」

「特殊部隊に所属中は何度か凶悪犯を射殺したこともあるって言ってたなぁ。

別荘に人質を取って立てこもった被疑者をロープウェイのゴンドラから狙撃して

解決した事件は警察関係者の中では知らないものはいないほどの伝説だよ。」




みんなは感心してレオンさんの話を聞いていました。



リク君は助手席で黙って考え事をしていました。



「次はどこにいくの?」

「オアシス22にある劇場だよ。黄金原さんは

そこでもサーカス公演を開催しているんだって。」




車はあっというまにオアシス22という建物の前に到着しました。



建物の中に入り,受付でレオンさんが話を

つけるとその奥に入れてもらえました。



劇団はけいこの途中でした。

中心で指示を出していた人物が黄金原さんです。







彼はこちらに気付き,



黄金原「おう,レオンじゃないか。それに昨日の

子供たちも・・・。何か用事かい?」



と声をかけてくれました。



「ああ,ちょっと聞きたいことがあってね。

少しでいいので時間をくれないかい?」




黄金原さんは舞台の袖に行き,理科の実験室に置いて

あるような小さな丸イスを人数分出してくれました。



黄金原「それで話って?」



リク君は先ほどの桃瀬さんの時と同じ説明をしました。



黄金原「事情はわかったよ。俺は九州・四国地区を

担当していて福岡県警に所属している。」



「その地域にもJFは関わっているのか?」



とイツキ君が聞きました。



黄金原「ああ,彼らは全国に組織を展開している。

詳しくは青山に聞いた方がいいな。

組織のある程度の全貌は奴が調べていたからな。」



さらに黄金原さんは自分が捜査した情報を話してくれました。



黄金原「たいしたことじゃないんだけどね・・・。

俺は一度,ある捜査中に組織の幹部と遭遇したことがあるんだ。」



「まじですか!?」



だぬちゃんは聞き返しました。



黄金原「別件でたまたま古い工場の中に張り込んでいたら

組織の人間が何人か集まってきて何かの取引をし始めたんだ。

幸い向こうはこちらに気付かなかったから,しばらく監視していた。」



「それで?」



トシ君も興味があるようです。



黄金原「幹部の一人がもう一人に向かって"闇の騎士(ダークナイト)"と呼んでいた。」



リク君は真剣な表情で



「ダークナイト・・・。」



と呟き,その名前を頭に叩き込みました。



黄金原「会話の内容からわかったことは,藪蛇(やぶへび)

という諜報部隊があること,そしてそのダークナイトって

いうのがその部隊に所属しているってことだけだ。」



少し間をおいて,



黄金原「でも,こんなことを聞いてどうするんだい?

今の話は菊の幹部なら全員知っていることだぞ。」



「ああ,そうだったね。じゃあ,行くとしようか。」



レオンさんはお礼を言って,皆と一緒に車まで戻りました。



「どうだい?何か収穫はあった?

オイラはさっき黄金原さんが言っていた,闇の騎士(ダークナイト)が

スパイとして潜り込んでいるんじゃないかと思っているんだ。」




レオンさんの予想は当たっていました。



「まだ,なんとも。とりあえず,全員から話を聞いてから考えてみない?」



リク君の提案にレオンさんは賛成しました。

そして,青山氏の元へ向かいました。



第222話 菊の幹部達④

菊の華シリーズ第2章
リク君達が青山氏の元に訪れた時,彼は

ジャズバーのカウンターで休憩をしていました。



青山「音楽が聴きたいなら夜に来ないとダメだろ。」



青山氏は振り向くことなく,そう言いました。

どうやらリク君達が訪ねてきたことに気付いたようです。



「いや~,今日は音楽じゃなくて話を聞きたくてね。」



青山「ほう・・・。」



持っていた,グラスをカウンターに置き,振り向きました。







「こっこんにちは!あの,だぬは青山さんの

大ファンなんです!ぜひ,これにサインをしていただけますか!?」




青山「そうか,嬉しいね。いいよ。」



色紙を受け取ると,サッとサインを

書いて,だぬちゃんに渡しました。



「ありがとうございます!」

「おい,サインなんかこの前会ったときにもらえばよかっただろ。」



イツキ君が軽くだぬちゃんを睨みつけました。



「昨日は色紙がなかったんですよ!」



と,負けずに言い返しました。



みんなはカウンターから少し離れたテーブルに座りました。

青山氏は机の前までやってきて,



青山「それで,話とは?」



「実は・・・。」



先ほどと同じ説明をしました。



青山「俺は近畿・中国地区担当で所属は大阪府警本部だ。公安第3課にいた。」



軽く自己紹介をしてもらった後,



「青山さんはどんな捜査をしていたんですか?」



青山「俺は組織の全体像を追いかけていた。そして,全国で数多く起きている変死事件や不可解な

企業脅迫事件,謎のサイバーハッカー事件の裏に巨大な闇の組織が存在していることを突き止めた。」



青山氏は続けました。



青山「そして,その闇の組織が表向きはジャファコンツェルンとう巨大優良企業で,

裏ではジャパノフォビア(JF)という闇組織として活動していると俺は確信している。」



「俺は・・・?」



と気になった部分を反芻しました。



青山「あいつらは決定的な証拠を一切出さない。だが,俺は

やつらの仕業だと俺の警察官としての勘がそう確信している。」



「でも,すごいですね!レオンさんがJFのことを以前詳しく話してくれたのは,

元々は青山さんの情報だったんですね。」




だぬちゃんは少し興奮していました。



「うん,まぁ,そういうこと。」



イツキ君がさらに気になることを聞きました。



「なぁ,奴らのボス,御前について何か知っていることは無いのか?」



青山氏は店の隅にある本棚から雑誌を取り出してあるページを開きました。



青山「ここに写っているのがジャファのCEO(最高責任者)の顔と名前だ。」



みんなは驚愕しました。



「え!?御前の正体ってわかっていたの!?」

「っていうか,雑誌に載っているの!?」



トシ君も驚いています。



その雑誌には優良企業の特集記事がありました。



そこにジャファCEOのインタビューが掲載されていたのです。



その人物とは・・・。



第223話 菊の幹部達⑤

菊の華シリーズ第2章
雑誌には優良企業の特集記事がありました。

そこにジャファCEOのインタビューが掲載されていたのです。



青山「CEOの名前は“安重 昏(やすしげ ひぐれ)”。

年齢は書かれていない。一代で日本一,

世界有数の巨大コンツェルンを作り上げた人物だ。」







「じゃあ,警察はこいつが諸悪の根源だってわかって

いるのに逮捕できずに世の中に野放しにしているのかよ!」




たまらず,イツキ君が声をあげました。



青山「問題はそう簡単じゃない。そもそもこの企業が裏で

JFという組織を立ち上げ,暗躍している物的な証拠は無い。」



青山氏の言うことは最もでした。

彼らの手口は巧妙で決して証拠を残さなかったのです。



そして,生き証人は全て口を塞ぐのが彼らのやり方です。



「組織のボスが誰だかわかっているのに,捕まえられないなんて・・・。」



と,悲しそうな顔です。



青山「極端な話,自動車メーカートップの"オヨタ"や

"オッサン"の社長が悪事を働いたとしても

証拠もなしに逮捕できないのと一緒だ。

彼らは社会的な地位もある。ヘタをすれば警察の社会的信用を失う。」



「しがらみのある社会は色々と大変だね。」



リク君は少し同情していました。



「でもね,オイラはこの雑誌に載っている人物が御前だとは思っていないんだ。」



レオンさんの口から思いもよらない言葉が出ました。



「え,それってどういうことですか?」



皆はレオンさんに注目しました。



「こいつはおそらく影武者さ。御前は別にいる。オイラの勘だけどね・・・。」



青山「お前はこの前の会議でもそう言っていたな。

確かに,こいつがジャファコンツェルンの表の顔で

裏の顔が御前という可能性はあるな。」



青山氏もその可能性を否定しませんでした。



「じゃあ,御前がどういう人物なのかはわからないままってこと?」



と,聞きました。



青山「翠川の推理が正しければ,そういうことになるな。」



少しがっかりした様子で,



「そんな簡単に御前までたどり着ければ苦労はしないか・・・。」



青山「あと,わかっていることは,ジャファの本社が名古屋の

セントラルツインタワーだということだ。あのビルはジャファの所有だからな。

奴らはバベルと呼んでいるらしいぞ。」



「バベルって呼ばれていることはオイラの情報提供ね。」



レオンさんは協力者の情報を可能な範囲で菊のメンバーに提供しているようでした。



ただし,レオンさんが闇組織ジャファに

潜り込んでいるスパイと協力関係にあることは伏せていました。



青山氏の話を聞き終えて,車に戻りました。



「最後は,赤神さんの神社だよね?」

「げげ,あそこはここからだと結構遠いじゃん。」



心配する二人に対し,



「彼は今,県警本部にいるはずだよ。

ここからそんなに遠くないから大丈夫。」




車を15分ほど走らせると,愛知県警本部の前に到着しました。



第224話 菊の幹部達⑥

菊の華シリーズ第2章
レオンさんが県警本部の受付で話をつけると,

通行許可証をもらい,少年昆虫団の首にかけてあげました。



「さぁ,行こうか。」



エレベータで5階まで上がると,

一番奥の部屋に向かいました。



中に入ると赤神さんが忙しそうに書類の整理をしていました。

赤神氏はこちらに気づき,



赤神「翠川から連絡は受けている。場所を変えようか。」



と,言って,仕事にきりをつけました。



「お願いします。」



リク君は丁寧にお辞儀をしました。



小さな応接室に案内され,そこそこ高そうな黒いソファに座りました。

レオンさんは座る場所がなかったので,窓際で立ったままになりました。



向かい合って座る赤神氏は神社で見せるテンションの高い男ではなく,

スーツ姿で,仕事ができる男性のように見えました。







赤神「私のことについて聞きたいんだな。

私は愛知県警本部公安課課長の赤神だ。」



赤神氏は何から話そうか少し迷っている風に見えました。



「菊という組織は赤神さんがつくったものなのか?」



それを見かねたイツキ君が質問をしました。



赤神「ああ,そうだ。闇組織ジャファをせん滅するためには

全国から優秀な人材が必要だった。だが,大勢で動けば

敵の目に触れ,計画が失敗する恐れがあった。」



「だから,少人数で特別チームを作ったんですね。」



赤神氏はうなずきました。



赤神「組織全体については機密事項なんだが,幹部は私を含めて5人。

その下に数十名の準幹部が捜査に携わっている,とだけ言っておこう。」



どうやら組織構造については詳しく話せない内容のようです。



「先日,事故死に見せかけて殺害された人は準幹部だったんですね。」

「そういうこと。殺害されたのは黄金原さんの部下だった捜査官だ。

非番でドライブ中に事故で亡くなったそうだが,

昨日の山本達の会話から察すると,おそらく組織が車に細工をしたんだろう。」




その言葉に部屋が静まり返りました。



「奴らはなんて酷いことをするんでしょうね。」



さすがのだぬちゃんも怒りを隠せない様子でした,



「どうしてもっと早く対策チームを

結成してJFと対決しなかったんですか?」




赤神「俺が結成する前から過去20年の間に何度か別の人たちに

よってJF対策チームは結成されたよ。

しかし,確たる証拠もあげられず,

結成してもすぐに解散を余儀なくされた。」



リク君は納得しました。



過去にJFを壊滅させようとした

警察組織は全て失敗に終わっていたのでした。



赤神「今回も結成自体はかなり前なんだが,

なかなか上の許可がでず,幹部全員が名古屋に

集結することができなかった。

本当に結集させるのに苦労したんだ。」



「そうだったのか。」



と,イツキ君。



赤神「ああ,ただ君たちのことは翠川から聞いていたからね。

初めて会った日にちょうど翠川から連絡が来たな。それから雨の日だったが,

菊の幹部が全員名古屋に結集できることが決まった時も翠川に連絡したな。」



「ええ,そうでしたね。」



レオンさんがうなずきました。



「レオンさんのことを信頼しているんですね。」



赤神「幹部たちのことは全員信頼しているよ。

ただ,翠川には幹部結集の時に助けてもらったからな。

とくに感謝している。」



そう言うとレオンさんは照れながら,



「よしてくださいよ。」



と謙遜しました。



赤神「さて,本題に入ろうか。」



赤神さんはどんなことを話してくれるのでしょうか。







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