リクの少年昆虫記-過去のお話-

過去の掲載順へ

TOPページへ

目次


第353話~第356話

2021/1/24

第353話 勝敗の行方

冥界の悪魔シリーズ 第2章
リク君は勝負を決するために,突進してきた南雲と対峙しました。



「これで終わりだぁぁぁぁ!!!」



リクくんが広げた両手を刹那の早さで交差させました。



-大地二刀流 奥義 最期の生誕祭(ラスト・オブ・クリスマス)-







ズドンッッッッッッッッ!!!!!!!



南雲「ウグオェガワァァァ・・・・!!!!!」



リク君の奥義が見事に決まりました。



南雲はその巨躯に大きな傷を負い,

血反吐を吐いて倒れました。



・・・。



・・・。



・・・。



南雲はぴくりとも動きませんでした。



「はぁ・・・はぁ・・・。決まった・・・か・・・!?」



彼はおそらく内臓損傷と肋骨が何本か折れているようです。



「(手ごわい相手だった。幹部の山本はもっと強いのか。

今のままのオレの力で勝てるのか・・・!?)」




勝敗を決したことで山本は作戦を変更するしかありませんでした。



山本「キラー,聞こえるか。南雲がやられた。撤収しろ。」

冥界の悪魔「いいんですか。ターゲットを暗殺しなくても?」




無線の先から冥界の悪魔の声が聞こえてきました。



山本「お前でもあの二人を相手にするのは

時間がかかりすぎる。万が一,先に逃げた

ガキどもに菊の応援を呼ばれると面倒だ。

ここら一帯の証拠を全て消してズラかる。」



リク君は南雲の身柄を拘束するか悩みましたが,

その前にマグネルの回収へ向かうことにしました。



マグネルを持ち運ぶためには電源を切る必要があるようです。



「レオンさんと冥界の悪魔は

範囲外に出て行ってしまったみたいだ。」




電源を切り,南雲が倒れている場所に戻ろうとしました。



するとそこには冥界の悪魔が木の上から身構えていました。



リク君はあわてて姿を隠しました。

まだ気取られてはいなかったようです。



冥界の悪魔「南雲サンはどうしますか?消しちゃいますか?」



そう言うと銃口を南雲に向けました。



山本「それじゃあ,今回の作戦の指揮を任せた意味がなくなるだろう。

回収しろ。近くで寝ている梟の連中は気付け薬でも飲ませて起こせ。たいした

傷ではないだろう。起きたら動ける人間をかき集めて,奴らを追わせろ。」



キラー「源田さんから聞いていたより優しいんですね。」



冥界の悪魔(キラー)が山本の温情的な態度に感心していると,



山本「フンッ・・・。そんなんじゃねぇ。俺は利用価値の

あるものはなんでも利用するんだ。たとえお前でもな。」

キラー「おあいにく様。今回は源田さんに命令された

から協力しただけ。勘違いしないようにしてくださいよ。」



冥界の悪魔は精鋭部隊の何人かを起こし,

リク君たちを追跡するように命じました。



しかし,彼らのほとんどはふらふらでとても

リク君たちに追いつけるような気力は残っていませんでした。



リク君はこのやりとりを遠くから聞いていました。



そのため,冥界の悪魔の声質まではわかりませんでした。



彼は南雲の拘束を残念ながら諦めました。



この状況で出ていけば間違いなく

銃口の餌食になっていたからです。



茂みに身を隠し遠回りして,その場を離れました。



しばらくして,レオンさんに合流しました。



「リク君!無事だったか。すまない,

こちらは冥界の悪魔(キラー)を見失った・・・。」




リク君は先ほど見てきたことを伝えました。



「なるほど,リク君が南雲を倒したから奴はそちらへ向かったんだ。」

「ごめんね,南雲を捕まえられなかった。」



リク君が謝ると,



「十分だよ。それに南雲を倒してくれなかったら,正直やばかった。

自分は冥界の悪魔(キラー)に殺されていたかもしれない。」




二人は先に逃げたみんなを追いかけて森を抜けていきました。

追手が来ていないか念のため確認しながら進みました。



するとフェンスで囲まれた場所までみんなが待っていました。



「リク君!レオンさん!!」



まさらちゃんが手を振りました。



なんとそこには灰庭さんもいました。



「無事だったんだ!!」



灰庭「うん。途中ではぐれちゃって山をさまよっていたら

まさらちゃんたちを見つけてね。一緒に行動していたんだ。」



とりあえず全員が無事だったようです。



第354話 エピローグ

冥界の悪魔シリーズ 第2章
フェンスの下には人が一人通れるくらいの穴が開いていました。



「これってもしかして・・・?」

「ああ,下見をしたときに,ちょっと気になったんで,

持っていた道具で開けておいたんだ。さぁここから逃げよう。」




フェンスの穴をくぐり,山を抜け国道に出ました。



するとそこに一台の車が止まっていました。



「緊急事態だ。この車を借りよう。」

「そんなことしていいの!?」



トシ君が聞きました。



灰庭「仕方ないよ。こんなことが起こるんだから・・・。」



その車はどうやらレンタカーのようで,キーが

刺さったままになっていました。



みんなは車に乗り込みました。



全員が乗れる大きな

ワゴンタイプの車でした。



国道を下りながら走っていると

一台の車とすれ違いました。



それは山本達が乗った車でした。



幸いお互いに気付かず,すれ違っていきました。



「灰庭さん。すみません,こんなことに

巻き込んでしまって。後で詳しく事情を説明します。」


「これって大事件ですよね!?当然,警察も動くんですよね!?」



レオンさんが公安警察だと灰庭さんは知らないことになっていました。



「だぬ!」

「でもっ・・・!?」



だぬちゃんは口をつぐみました。



「いいんだ。こうなってしまっては

灰庭さんにも事情を説明しておく必要があるよ。」




レオンさんは運転しながら

闇組織JFについて説明を始めました。



もちろん闇組織JFの準幹部グレイにとっては

言われるまでもなくわかっていたことでした。



灰庭「なるほど・・・。そんな闇組織が存在していて

翠川さんが公安警察の人間で彼らを追っていたわけですね。」



灰庭氏は助手席に座ったままうなずきました。



その様子をすぐ後ろに座っていたリク君と

隣に座っていたイツキ君がじっと見つめていました。



「(なぜだ・・・なぜ・・・?)」

「・・・。」



車は国道を進んでいきます。



「ねぇ,結局キャンプはどうするの??」

「そうだねー・・・。荷物はあそこに置いてきちゃった

し,車も返さないといけないからまた今度かな。」




レオンさんは出発するときに,菊幹部へ連絡を取っていました。



「赤神さん達はすでにこちらに向かってくれているの?」



リク君が聞きました。



「ああ,岐阜県警と協力してあの付近を

捜索するってさ。銃弾やその他の証拠が出れば

ジャファに少しでも近づけるかもしれない。」




しかし,その目論見は崩れることになりました。



山本の指示ですぐに辺り一帯に火をつけ,

山火事を起こして証拠を隠滅したのでした。







消防にはリク君たちが残していったキャンプファイヤーの

火が燃え移ったということにしていました。



山本達が運転する車と古賀と精鋭部隊が

乗る車に分かれ,名古屋へ撤収していました。



南雲「す・・・すみません・・・。」



南雲は意識を取り戻し,車の

中で何度も山本に謝罪していました。



すぐにでも病院で手当てしなければならない状態でした。



山本「ガキにやられて悔しいか?」

南雲「はい・・・。」



南雲は怒りと憎しみで狂いそうになっていました。



山本「次はぬかるなよ。」

南雲「はい・・・。」



南雲は拳をかたく握って悔しさをあらわにしました。



南雲「あのガキだけは絶対に許さん!次あったら俺が

必ず殺す!どんな方法を使っても必ず殺す!!」

源田「山本,まさかお前・・・。」



源田は助手席から山本に声をかけました。



山本の口元は少し笑っていました。



山本「今村,グレイはどうなったんだ。

あの時,作戦に加担させろと言ったはずだぞ。」

今村「フォッフォッフォッフォッフォ。彼はファーヴル君

たちを見失ってしまったみたいで合流できなかったようです。

先ほど連絡があって,彼は自分で名古屋へ戻るようです。」



隣に座っていたアヤが怪訝な顔で見ていました。



山本「まぁいい。名古屋に戻ったら再び接触させ,奴らが

どこに潜伏しているのかをはっきりと教えてもらうぞ。」

今村「どこに住んでいるかはわからないみたいですが,住ん

でいる地域は判明していると言っていました。接触をもう少し続け,

正確な居場所を聞き出すように指示しておきます。」



今村は少しぼかして説明しました。



アヤ「今回の作戦は御前からの勅命だったのよ。

山本君,どう責任取るつもりなの?」



それを聞いた南雲が震えだしました。



自分の失敗のせいで山本が責任を取らされ

るのではと思うと急に怖くなりました。



山本「作戦は継続中だ。それにそんな事を

言ったら闇の騎士(ダークナイト)を奴らに

暴かれたお前にも責任の一端はある・・・。」



アヤ「ふんっ。」



アヤはそっぽを向き,急に不機嫌になる

少し子供っぽい性格のようです。



源田「次はお前にも,もっと

活躍してもらうからな。」



後部座席の一番後ろに座っていた

冥界の悪魔(キラー)が深くうなずきました。



彼らの小早川レオン暗殺計画はまだまだ継続していくようです。

リク君たちと彼らの戦いはまだ始まったばかりだったのです。



第355話 まさらちゃんの観察日記 
今日はまさらちゃんのお家に来ていました。



1階にまさらちゃんのお部屋があり,その部屋の隅に

ある棚にコクワガタを飼育しているケースが置いてありました。



「まさらちゃんのお部屋に来たのって久々ですね。」

「そうかな?今日はママもパパも

いないから遠慮しなくていいからね!」




まさらちゃんがそう言うので,リク君は

勢いよくまさらちゃんのベッドに飛び込みました。



「いや~,ふかふかで気持ちい~!!」



まさらちゃんは悲鳴を上げ,

リク君を庭に放り出しました。



「なんで・・・。」

「ハハハハハ,相変わらずデリカシーのない人だ!」



トシ君が大笑いしました。



「トシ君も人のこといえないでしょ・・・。」



ちなみに,まさらちゃんのお家に来た

理由は夏休みの宿題をやるためでした。



まだ,夏休みは始まったばかりです。



2回目の出校日には早くもいくつかの

宿題を提出することになっていたのです。



「ああ,だりぃ・・・。ゲーセンいきてぇ・・・。」



イツキ君はすでに投げやりでした。



「イツキ君,がんばろうよ!これさえ

やっちゃえば,とりあえず大丈夫だから。」




まさらちゃんが優しく励まします。



「そういえば,まさらちゃんは自由研究どうするの?」

「ふふん。ずばりコクワガタの繁殖について,だよ!」



まさらちゃんは隅に置いてあった

コクワのケースを持ってきました。



「そう言えば,コクワ飼育していたんでしたね。

もうすっかりそんなこと忘れていましたよ。」


「実はね,そろそろ卵を産んでいるん

じゃないかなって思っているんだ。」




リク君は出してもらったオレンジジュースを

飲みながら話を聞いていました。



「交尾の時期がわからないから何とも言えない

けど,まだちょっとはやいんじゃないかな。」




ケースの中を見ると,そこには

産卵木が2本埋められていました。



「やっぱり,まだ早いかなー。リク君なら

わかるかなと思って相談したかったんだ。」


「もし,孵化していたとしてもまだ小さいと思う。

あと1カ月は待った方がいいんじゃないかな。」




コクワガタやオオクワガタは産卵木をマットの

中に埋めることによってそこに産卵します。



ノコギリクワガタは木がなくてもマットの中に

産卵するようにクワガタの種類によって産卵の仕方が違うのです。



この産卵木から幼虫を取り出すことを割り出しといいます。



割り出すタイミングを間違えてしまうと

うまく育たないこともあるので注意が必要です。



それから一ヶ月後・・・。



再びまさらちゃんのお家に

みんながやってきました。



「この前の産卵木を割り出してみたんだって?」

「うん,そうなの!見てみて!!」



まさらちゃんが割り出した木を持ってきました。

そこには体長15㎜ほどの小さな幼虫がいました。







「おお,これがコクワの幼虫ですか。小さいですねー。」



だぬちゃんが感心していました。



「いやぁぁ,いもむしかぁぁぁ・・・。」



トシ君はこんな小さな幼虫にもビビっていました。



「良かったな。」



イツキ君が声をかけるとまさら

ちゃんは嬉しそうに頷きました。



これからも大事に育て,がんばって成虫にするようです。



第356話 真夏のサンタクロース6 
リク君の家の近くにある緑地公園の入り口付近に

生い茂っている茂みの中に不審な人物がいました。



手にはナタのようなものを持ち,じっと

何かを探るように周囲を見ていました。



その格好は上から下まで

真っ赤なサンタの格好をしていました。



昨日,公園でランニング中の青年を

殺害した真夏のサンタだったのです。



そしてリク君たちは彼と対峙し,戦ったのですが

奇しくも取り逃がしてしまったのです。



ジェッジェッジェッ・・・ハッハッハッ・・・(例の音)



すでに夜の10時を回っていました。

彼はようやく茂みの中から動きだしました。



どうやら次の生贄がきまったようです。



緑地公園を横切り,土手下にある自宅へ帰ろうと

している若い女性の後をこっそりとついていきます。



そして・・・。



キャアァァァァ!!!



左手に持ったナタらしきものを振り落として

女性の脳天をぶちまけようとしました・・・。



ガギギギギィィッ!!!!



なんとそこには天照を手にした

リク君が立ちはだかっていました。



「お姉さんは早く逃げて!早く!!」



若い女性はリク君にそう言われ,

一目散にその場から離れていきました。



真夏のサンタの後ろにはイツキ君がいました。



「今度はにがさないぞ。この殺人鬼ヤロー。」

「オイラの鉄拳を食らわしてやるよ!」



トシ君はだぬちゃんによって引っ込められました。



どうやら彼らはこの周辺に真夏のサンタが

出ると睨み,パトロールを続けていたようです。



まさらちゃんたちは少し離れた

噴水辺りから様子をうかがっていました。



「暗くてよく見えないけど,

あれが昨日のサンタなんだよね・・・。」


「ええ,間違いないですよ。あんな恰好を

している奴を見間違えるわけないですからね。」




真夏のサンタ「グオオオオオオ!!!!」



真夏のサンタはブンブンと手に持っていた

ナタのようなものを振り回しました。



「こいつ,なんでナタなんて持っているんだ・・・。」



ガギィッ!!ガギィッ!!



適当に振り回していても何度か

天照に辺り,周囲に金属音が響きます。



「いや,良く似ているけどこれはナタじゃないぞ・・・。」



リク君は何かに気付いたようです。



「たっくよ・・・。」



リク君が頭を低く下げ,天照を逆手に持ってかまえました。



- 大地一刀流 地を這う虎(アース・タイガーズ)-



超高速で地面すれすれに相手の間合いに

入り込み,一気に切り上げました。



真夏のサンタはリク君の攻撃を

直撃し,その場に倒れ込みました。



ナタらしき凶器は手から離れ,近くに落ちました。







「よし,そのマスクを剥いで正体を見てやる!」



イツイ君が駆け寄りました。



すると,真夏のサンタは立ち上がり,

イツキ君に襲いかかってきました。



イツキ君は右のローキックを入れて,相手の姿勢を崩し,

そのまま三段けりで右頬を蹴り抜きました。



「しぶといな・・・。なんだ,こいつの頑丈さは・・・。」



彼は再度立ち上がり,凶器を拾い,

猛スピードでその場から離れようとしました。



「逃がすかよ!!」



リク君は彼を追いかけました。



向こうから二人の警察官が駆け寄ってきました。



どうやら警ら中だったようで

騒ぎをかけつけてきてくれたようです,



「そいつが真夏のサンタです!例の殺人鬼です!」

まさらちゃんが叫びました。



警官「そこを動くな!」



警察官が拳銃を取り出し,牽制をしました。



真夏のサンタ「ヴオオオオオオ!!!」



突然,真夏のサンタクロースは

自分の胸に持っていた凶器をつきたてました。



そして,血しぶきを上げその場に倒れ込みました。



「ウワァァァ・・・!

自分で自分を刺しましたよ!!」




囲まれて逃げ場ないと思ったのでしょうか。



真夏のサンタの自殺により

事件はあっけない幕切れとなりました。



間もなく,応援を読んだ警察官たちに

よって現場検証が行われました。



「どうした?」



リク君が何かを考え込んでいる

様子を見て,イツキ君が声をかけました。



「いや,本当にこれで終わりなのか。

なんだこの違和感は・・・。何か嫌な予感がする。」




この後,リク君の嫌な予感は的中することになるのでした・・・。





第357話~第360話

2021/3/6

第357話 プロローグ

冥界の悪魔シリーズ 最終章
板取山のキャンプ場にて闇組織JFのレオン暗殺作戦が実行され,

リク君たちは山犬の南雲率いる暗殺部隊に猛攻撃を受けながらも

これを撃破し,辛うじて包囲網からの脱出に成功しました。



少年昆虫団には大きな傷はなく,全員が無事でした。



一方の闇組織JF側は精鋭部隊の"梟"と"雁"は撤退することができたようですが,

"雉"は山本が放った火に巻き込まれ,全員が死亡したようです。



消防隊が駆け付けた時には,身元不明の死体が発見されましたが,

その死体から闇組織JFへつながる手掛かりとはならなかったようです。



どうやら武器の類は"冥界の悪魔(キラー)"と

精鋭部隊の中で軽傷だった者が回収したのでしょう。



今回の作戦についての総括が山本の運転する車の中で行われていました。







精鋭部隊は後始末をした後,別の車で先に本部へと撤退するようです。



南雲「・・・・。」



アヤ「南雲ちゃん,残念だったわね。さっきも言ったけど,

これって山本君の責任じゃないのかしら?任命責任ってやつ?」




アヤが空気を読まずに明るい口調で

山本に向かって話しかけました。



南雲「いえ,アヤの姉御・・・。全ての責任は俺にあります。

俺があんなガキに敗けることがなければ・・・。」



満身創痍の状態でやっと言葉を発している様子が見て取れました。



源田「・・・。」



助手席に座っていた源田は腕を組んだまま何も言いませんでした。



山本「作戦はまだ継続中だ。」

源田「一度態勢を立て直すべきだろう。」



彼はようやく口を開きました。



山本「もちろんそのつもりだ。・・・南雲,お前にはまだまだ

やってもらうことがある。今回の事は何にも勝る実戦経験となったはずだ。」

南雲「はっはい・・・!」



南雲の表情が少し明るくなりました。



山本「平成のファーヴル・・・。この先,組織最大の

敵はあいつだ。なんとしても息の根を止める。」



南雲も身にしみてこの言葉の意味を実感していました。



山本「東條には余計な事をしゃべるなよ。」

南雲「・・・といいますと?」



その理由を聞きました。



山本「奴がこのことを聞いたら,真っ先に

戦いたがる。俺と同じくらい奴は"武闘派"だ。」

アヤ「確かに。東條君ならニコニコ

しながら殺しに行くでしょうね~。」



一番後ろの席に座っていた冥界の悪魔(キラー)は

ライフルの手入れをしながら話を聞いていました。



冥界の悪魔「(細かい手入れは戻ってからかな・・・。)」



源田が後ろ振り向き,冥界の悪魔(キラー)に声をかけました。



源田「キラー。戻ったら再び任務に戻れ。奴らが住んでいる

地域は分かっているんだろう。正確な居場所を必ず見つけ

出すんだ。グレイだけには任せておけない。」



今村「ふぉっふぉっ。それは心外です。」



冥界の悪魔はニコリと笑い,頷きました。



源田「来る15日は御前会議の日だ。平成のファーヴルについても

対応を協議する必要がある。嫌でも奴の耳に入るだろうな。」



山本「ちっ・・・。」



彼らが作戦の総括をしている間,

リク君たちは名古屋へ戻ってきました。



そして夜が明けました。



第358話 大学のゼミ仲間 前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
レオンさんはキャンプが中止になったので,

その日の午後から大学に足を向けました。



理由は一 久遠(にのまえ くおん)にメールで

レポートのことについて呼び出されたのでした。



レオンさんは少年昆虫団を誘って大学の

使っていない講堂へ連れてきました。



「いいんですか?だぬたちが一緒についてきても。」



だぬちゃんが聞きました。



「大丈夫。この大学って結構オープン

だから子供がいても誰も気にしないよ。」




どうやらレオンさんは時計を気にしているようでした。

待ち合わせの時間になっても久遠さんが来ないようです。



すると,講堂の扉が開き,女性が入ってきました。



「やっと,来たか。」



しかし,やってきたの久遠さんではありませんでした。



「あれ,なんで君たちがこんなところにいるのさ。」



どうやらレオンさんの知り合いみたいです。



「レオンさんの友達?」



レオンさんの目の前にいたのは

大学のゼミ仲間の女性とその友達でした。



二人は少年昆虫団に気付くと,



???「あら,かわいい子たちね。お名前はなんていうの?」



リク君たちは自己紹介をしました。



姫色「あたしの名前は飛鳥井 姫色(あすかい ひいろ)。

こっちは同じテニスサークルの友達で七夕 紫織(たなばた しおり)。」





<飛鳥井 姫色(あすかい ひいろ)>



<七夕 紫織(たなばた しおり)>



「わぁ,大学生のお姉さんたちだ。

すっごくそれっぽい!憧れる~!」




まさらちゃんが憧れのまなざしで二人を見ていました。



「ひいろ,久遠を知らない?ここで

待ち合わせをしている約束をしていたんだ。」




姫色「あー!もしかしてデート!?・・・。

なわけないか,子供連れてデートするバカはいないわね。」



姫色さんがちょっと冷やかしっぽくと言うと,



紫織「こらこら,翠川君,困っているじゃない。」



おとなしく,真面目そうで少し引っ込み

思案なしおりさんがたしなめました。



「ホントにレオンさんのゼミ仲間・・・?」



イツキ君が意外そうな顔をしていると,



姫色「そうよー。女だから昆虫学なんて似合わない?」



姫色さんがイツキ君に顔を近づけ,ニマリと笑いました。



「いや,別に。」



イツキ君は少し気まずそうに視線を横に外しました。



久遠「おまったー!!」



勢いよく久遠さんが飛び込んできました。



あまりにも勢いよくきたので

目の前で壮大にずっこけました。



「はいはい,お約束,お約束・・・。」



レオンさんは呆れていました。



久遠「あれれれ???確かリク君たちじゃない!!

それにひいちゃんたちもどうしてここに?」



姫色「あたし達は,ご飯を食べに行こうとしたら

たまたまここにレオン君を見つけたから声をかけただけ。」



姫色さんのすぐ横にいたしおりさんも頷きました。



姫色「くぅこそどうして?」



姫色さんは久遠さんのことを親しみを

こめて“くぅ”と呼んでいました。



久遠さんは例のレポートの件について説明しました。



第359話 大学のゼミ仲間 後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
「どうせ寝坊だろ。」



レオンさんは久遠さんが遅れてきた理由を予想しました。



久遠「あったりぃ!!スーパーフトシ君を差し上げようっ!!!」







「相変わらずテンション高いなぁ・・・。」



レオンさんは仕上がったレポートのデータを久遠さんに渡しました。



姫色「どう?一緒にお昼でも食べる?」



姫色さんの誘いに,



「いや,オイラはこれからちょっと・・・。」

「食べます!食べますー!」



レオンさんが断ろうとしましたが,

まさらちゃんが横から割りこんできました。



紫織「ぜひぜひ。」



紫織さんも歓迎してくれたようです。



みんなは大学に二つある食堂のうち,500人は

収容可能な大食堂「キッチンクマー」へ行くことにしました。



食堂につくとみんなはそれぞれ好きなメニューを注文しました。

ちなみにリク君はカツカレー,イツキ君はざるそば定食にしました。



お昼の時間だったため多くの学生が

出入りしており,混んでいました。



そんな時,後ろから見覚えのある声で呼びかけられました。

そこにはカフェ・オーシャンのかおるさんがいました。



カフェで働いているエプロンも着用していました。



かおる「やっぱり,この前来ていただいたお客さん

ですよね。もしやと思い,声をかけてしまいました。」



「あれ?どうして大学の学食なんかにいるんですか?」



レオンさんが尋ねると,



かおる「今,新規オープンのキャンペーンで試飲会をここで

させていただいているんです。私もそのお手伝いできました。」



その様子を見ていた姫色さんが,



姫色「レオンー!なんだ,もてもてだなー!」



「いや,誤解を生むような

ことを言うのはよしてくれ・・・。」




レオンさんが少し焦っていると,



久遠「いいなぁ!あたしもメイド服着てみたい!!」



久遠さんが会話に割り込んできました。



かおる「えと・・・。」



「あ,オイラはこの大学の院生で翠川レオンです。

こちらは少年昆虫団のみんなと,ゼミ仲間です。」




レオンさんと少年昆虫団は改めて

かおるさんに自己紹介とあいさつをしました。



「しかし,レオンさんの周りってうらやましいですよねー。

まるでギャルゲーの主人公みたいじゃないですか。」




だぬちゃんが冷やかし気味に言うと,



「どういうことよ。」



トシ君が聞きました。



「だって,大学の仲間にロリ,清楚,巨乳お姉さんと

そろっておまけに行きつけのカフェにはメイドまで。」


「いやいや,だぬちゃん,その見解は間違っているって!!

しかも,小学生が巨乳なんて言葉使っちゃだめでしょ!!」




珍しくレオンさんが必死でした。



姫色さんはそう言われてまんざらでもなく,



姫色「ははん。確かになー!レオン,

この幸せ者め!ちゃんと本命を決めなさいよ!」



姫色さんがレオンさんにヘッドロックを

決めながらそうおちゃらけました。



紫織さんが必死にたしなめようとしていました。



「なんかレオンさんのイメージが・・・。」



まさらちゃんは少し幻滅していました。



「こんなおいしい状況で満足しないなんて罰が当たりますよ!

いつかきっとしっぺ返しをくらいますからね!!」




だぬちゃんが畳みかけるようにして

レオンさんを追い詰めました。



「リク君,イツキ君,黙っていないで助けてよ!」



レオンさんは二人に助けを求めましたが,

彼らは黙々と出てきた料理を食べているだけでした。



第360話 謎解きはキッチンクマーの中で前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
みんながレオンさんをいじりながら楽しく昼食を

食べていると,突然,隣の席の団体から悲鳴が上がりました。



「!!!」



レオンさんたちが駆け付けると男性が倒れていました。



どうやらこの大学の2年生だそうです。

顔は真っ蒼になって血の気がありません。



リク君たちは悲鳴が上がったテーブルに近づくと,一人の男が

???「今,救急車を呼びます。」



と言いました。



倒れた男性と一緒にいた団体は

同じ読書愛好会のメンバー5人でした。



そのうちの一人,青山修平さん(20)が出された料理を

食べていると突然苦しがって倒れたのでした。



他のメンバーは部長の峰岸 徹(22),副部長の里山 博(22),

森田 彩芽(20),北 峰子(19)でした。



青山さんは救急隊員が駆け付けるまで

レオンさんの救命措置を受けていました。



「あの人,助かるかな・・・。」



まさらちゃんがだぬちゃんとイツキ君の

後ろで心配そうに様子をうかがっていました。



「わからんな・・・。」

「これって・・・事故ですかね・・・?」



二人も事の様子を慎重にうかがって今いた。



ゼミ仲間のひいろさんは怖がるしおりさんをそっと支えていました。



久遠さんもさすがに大人しくしていました。



かおるさんは携帯電話を使って,

お店の責任者に事態を説明していました。



「これは・・・。」



リク君が青山さんの指に注目して何かに気づいたようです。



???「これは,事件だね。殺人事件だ。」



先ほど,救急車を呼んだ青年が,そう言い放ちました。



「まだ息はある!」



レオンさんが訂正を求めると,



???「失礼,殺人未遂事件だね。そして,その犯人は

彼と一緒に食事をとっていた彼ら4人の誰かだ。」



この人物のセリフによって周りに緊張感が走りました。



「あんた,何者だ?警察関係者か?」



イツキ君が近寄って問い詰めるように聞くと,



摩耶野「私か,私は摩耶野 重蔵(まやの じゅうぞう)。

ジャーナリストだよ。フリーの記者だ。」





<フリーの記者 摩耶野 重蔵>



「記者・・・!?」



記者と名乗る人物は見た目はアラフォーでベージュの

ハンチング帽をかぶり,黒縁の眼鏡をかけていました。



机の上にはチコンという有名メーカーの

一眼レフカメラが置いてありました。



摩耶野「職業柄,色々な所に取材へ行くんだが,結構こう見えて

事件に出くわすんだよね。今回もその一つじゃないかな。」



レオンさんは倒れている男性に救急措置を施しています。



「残念だが,これは事件じゃないよ。事故だ。」



彩芽「事故・・・!?先輩は,先輩は助かるんですか!!」



傍にいた森田彩芽さんが泣きながらそう言いました。



「レオンさん・・・。」

「これはおそらく気道異物だ。

つまり食べ物が喉頭などに詰まって呼吸ができていない。」




彼は持っていた人工呼吸用のマウスピースを

はめ,人工呼吸を続けながら説明しました。



摩耶野「ほう,君は一体・・・?」



「この人は,小・・・翠川レオンさんだ。

俺たちの知り合いでこの大学の昆中学専攻の院生だ。」




イツキ君が代わって自己紹介をしました。



姫色「あたしと紫織,くぅは,大学の仲間ってわけ。」



摩耶野「まぁそうだろうね・・・。」



彼はまじまじと彼女たちを

観察するように見ていました。



第361話~第364話

2021/3/28

第361話 謎解きはキッチンクマーの中で後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
キッチンクマーという学食で青山と

いう読書会所属の男性が苦しみ出して倒れました。



救急車を呼んだのは一緒に席にいた

摩耶野というフリーの記者でした。



彼は事件だと騒ぎたてましたが,レオンさんの

見立てにより事故だと判明しました。



摩耶野「根拠を聞きたいね。」



「この人は苦しそうに自分の首を抑えているだろう。

これはチョークサインといって気道異物が起きた時にとっさに取る行動なんだ。」




確かに青山氏にはチョークサインが見られました。



そして,まもなく救急隊員が到着し,

彼は病院へと運ばれていったのです。



読書会のメンバーは全員,

病院へつきそって行ったようです。



「あなたはどうして大学に?何かの取材ですか?」



だぬちゃんが彼に聞くと,



摩耶野「ああ,さっきまで彼らと一緒に食事をしながら

取材をさせてもらっていたんだ。大学生に人気の本についてね。」



彼は,持っていた取材手帳を手に取って見せてくれました。



「それで,ご飯を食べていたら

急にあの人が苦しんで倒れたんですね。」




と,まさらちゃん。



摩耶野「いつもの癖でてっきり事件だと勘違い。

恥ずかしい場面をお見せしてしまった。」



姫色「気にしなくていいんじゃない。ミスは誰にだって

あるし。くぅなんて1日何回ミスっていることやら」



姫色さんが茶かすと,



久遠「なにを~!」



プンスカと怒り始めました。



かおる「でも,殺人未遂事件とかじゃなくて良かったですよね。

ホントに人が目の前で死んじゃったらどうしようかと思いました。」



かおるさんは持っていたお盆を胸に当て,少しおびえていました。



「大丈夫ですよ。人の死なんて滅多に

見られるもんじゃありません。暗殺者でもない限り・・・ね。」




その言葉を聞いて,彼女は少し落ち着きを

取り戻したように見えました。







レオンさんの発言に,



摩耶野「君,なかなか面白いこと言うね!」



彼が食いつきました。



「(おいおい一般人相手に何を言っているんだ・・・。

昨日まで"冥界の悪魔"達の暗殺から逃れていたから

そう言いたくなる気持ちもわからんではないが・・・。)」




ちなみにさっきから一言もしゃべっていないトシ君は

すでに自分の席に戻りずっと昼食に夢中でした。



記者はレオンさんに名刺を渡しました。



摩耶野「君たちに興味がわいたよ。また別の機会に

ぜひ,取材させていただきたい。」



「いや,それはちょっと・・・。」



レオンさんが断ろうとしましたが,すでに

彼はその場から去って行ってしまいました。



「なんだったんだろ,あの人・・・。」



摩耶野氏はリク君から離れたところ

まで来ると,イヤコムの電源を入れました。



摩耶野「こちら,摩耶野。首尾よく目標に

接触しました。引き続き監視にあたります。」



どうやらフリーの記者というのは,仮の姿で

摩耶野氏にはもう一つの顔があるようです。



イヤコムの相手とは・・・。

彼のターゲットは誰なのか・・・。



そしてこの摩耶野という人物の正体はいかに・・・。



第362話 灰色の疑念

冥界の悪魔シリーズ 最終章
レオンさんは久遠さんに徹夜で仕上げたレポートのデータを渡し,

姫色さんと紫織さんに次の授業を欠席することを伝えて別れました。



「授業サボったらダメなんだよ。」



「はは,そうだね・・・。まぁ一応単位は

足りているからさ。じゃなくて,自分は仕事で来ているの!」




レオンさんが弁解しました。



歩いて話をしていたらいつの間にか

校内にある図書館の前まで来ました。



図書館から一人の青年が出てきました。



「あっ!」



だぬちゃんが驚きました。

出てきた青年とは灰庭氏だったのです。



「グレイ!?」



イツキ君が警戒しました。



「まだ決まったわけじゃないでしょ!」」



まさらちゃんは灰庭氏をかばいましたが,



彼は闇組織JFの一員,グレイだったのです。

しかし,リク君たちには確証がありませんでした。



「それにしても今日は色々な人と会いますね。さすが大学ってことですか。」



灰庭「あれ?みんな!それに翠川さん。昨日は大変でしたね。」





彼は昨日,リク君たちと共に行動して,

あの暗殺計画に一枚かんでいたのです。



「いえいえ。大学内で会うのって珍しいですね。」



灰庭「そうですね。昨日のことも気にはなって

いるんですが,またゆっくりとお話できたらと思います。」



灰庭さんは少し焦っていました。



灰庭「講義に遅れそうなんで失礼します。午後はずっと講義なので・・・。」



小走りに少し奥にある本館へと向かっていきました。

彼は教授の手伝いで学生に講義をしているようです。



「ねぇ?彼って本当に悪い人なのかな?」



イツキ君がトシ君に対して少しキレ気味に,



「当たり前だろ!!レオンさんの

お父さんを殺した連中の仲間だぞ!!」


「まぁまぁ,落ち着いてよ。トシ君も悪気が

あって言ったわけじゃないだろうし。」




みんなは図書館の前にある

ベンチに並んで座りました。



「なんか考えないといけない

ことが沢山増えてきたよねぇ・・・。」




「そうかな?」



トシ君が首をひねると,



「まぁ,君は最初から何も考えていないですから。」



と,一言。



「何をー!!」



イツキ君とリク君が近くの自販機で

人数分のジュースやお茶を買ってきました。



ベンチは木陰になっているとはいえ,時刻は午後13時30分を

過ぎたところで,気温は35度を超えています。



みんなは汗をかきながらジュースを

飲みほし,のどの渇きを満たしました。



一息ついたところで,レオンさんが,



「まさらちゃんの言うとおり。ここで

情報を整理しておいた方がいいかもね。」


「そのために,俺たちをこんな所へ呼んだのか?」



イツキ君の読みに,



「まぁね。ここなら人が多いし,冥界の悪魔の目からも

逃れた状態で皆と話ができると思ってね。」


「一つ目の懸念事項はまさにそれだよね。

冥界の悪魔(キラー)がレオンさんを狙っている。」




と言うリク君の話を聞いて,



「今もレオンさんをつけ狙っている気配を感じるの?」



まさらちゃんが心配しました。



「いや,今は何も感じない。周囲にオイラを

探っている人物はいないと思う・・・。」




それを聞いて少年昆虫団は少しホッとしました。



「レオンさんは昨日,キラーと

戦ったんだろ?何か気付くことはなかったの?」




イツキ君の質問にレオンさんの答えは・・・。



第363話 冥界の悪魔はすぐそこに

冥界の悪魔シリーズ 最終章
昨日の冥界の悪魔との対決を振り返り,



「とにかく,隙がなかった。まさに暗殺のプロだと思う。

かなり距離を取って対峙していたからほとんど姿は見ていないんだ。」


「ボクも声は少し聞こえてきたんだけど,

遠かったし,低くこもった声で,よくわからなかった。」




二人を記憶をたどりながら昨日の

死闘について振り返りました。



「戦ったら勝てそうだったのか?」



リク君は,



「わからない。山犬の南雲ですら強敵だった。」



と,思い出すようにそう答えました。



みんなはもう一度最近起きたことを振り返り,

情報をまとめることにしました。



暑い日差しの照りつける中,話を続けます。



「二つ目の懸念事項は,灰庭さんが

JFのグレイじゃないかってことだよな。」




みんなは頷きました。



ただ,レオンさんだけは

訳ありな顔をしているようでした。



「うーん・・・。さっきも言った

けど悪い人には見えないんだよね。」


「賛成―!」



まさらちゃんとトシ君の意見が合いました。



「はは・・・。」

「それは灰庭さんがまさら

ちゃんの好きなイケメンだからでしょ。」




この発言がまさらちゃんの逆鱗にふれたようです。



「なにそれー!ちがうもん!」



まさらちゃんはポカポカと

だぬちゃんの背中を叩いて否定しました。



一つのベンチにまさらちゃんを真ん中に

左側にトシ君,右側にだぬちゃんが座っていました。



もう一つのベンチにイツキ君,

リク君,レオンさんの順に座っていました。



「実際,暗殺されかかった時,途中で

いなくなったのは怪しすぎる。絶対に何かあるぞ。」




イツキ君が鋭い指摘をしました。



リク君は隣に座っていたレオンさんと目が合いました。



「何か思いついたことがあるのかい?」

「いや,特には・・・。レオンさんこそあの人と同じ

大学に通っているわけだし,何か気付いたことがないのかなって?」




レオンさんはジュースを飲み干すとすぐ隣に

設置されていたごみ箱に投げ入れました。



「むしろ,あの人がグレイかもしれないのに,

あまり突っ込んで調べようとしていないんじゃない?」


「そっそうかな・・・?」



レオンさんのその反応には

何か含みがあるような気がしました。



「でも,今は灰庭さんよりやっぱり

“冥界の悪魔”から身を護る方が先じゃないですかね。」




だぬちゃんがまっとうなことを言う

ものだからトシ君が少しやっかんでいました。



レオンさんはもう1本冷たいお茶を買ってきました。



彼が戻ると,先ほどの話題に戻っていました。



「冥界の悪魔はすぐ近くにいる。これは確実だろう。

その対策は菊の重要案件としてこの後,対策するつもりだから心配ないよ。」




レオンさんはできるだけ皆を安心させようとしました。



「あと心配なことは・・・。」

「次の暗殺計画がいつ実行されるかってことだな。」



昨日の計画は山犬の南雲が指揮官として

作戦を実行しましたが,失敗に終わりました。



おそらく次の暗殺計画がすでに

立案されていると警戒をする必要がありました。



「今日かもしれないし明日かも,1ヶ月後

かもしれない。確実なことはわからないね。」


「じゃあさ,レオンさんの協力者って

人に聞いたらどうなのかな?」




まさらちゃんはレオンさんには闇組織JFに

潜入している協力者がいることを思い出したのです。



レオンさんはまさらちゃんの提案を聞き・・・。



第364話 小東との接触

冥界の悪魔シリーズ 最終章
レオンさんには闇組織JFに潜入

している協力者がいるようです。



その人物は小東という名前でした。



小東は警察関係者ではなく,あくまでレオンさんの個人的な

協力者のため,菊のメンバーもその存在を知りませんでした。



そのため,菊に潜入していた黄金原氏から

組織にそのことが漏れることもありませんでした。



少年昆虫団は謎に包まれたその人物に

ついて詳しく聞こうとしました。



「小東か・・・。よし,連絡を取ってみよう。」



レオンさんはまさらちゃんの

提案を受け入れました。



「レオンさんの個人的な知り合いみたいだけど,

どんな人なの?詳しく教えてもらってなかったよね。」




リク君が聞きました。



少し間をおいて,



「かなり暑くなってきたね。空いている教室に移動しよう。」



レオンさんは図書館ではなく,東館にある

空き教室を探し,そこに皆を招き入れました。



廊下にはたくさんの学生がいました。



どうやら午後一つ目の講義が終わったようです。



次の講義に向けて多くの

学生が教室の移動をしています。



「なんか,見ているとみんな大変そう

だけど,やっぱり大学生っていいよね!憧れる!」




まさらちゃんは楽しそうに会話を

している学生を見てそう呟きました。



レオンさんはいつも使っている

携帯とは別の携帯を取り出しました。



それは一昔前の二つ折りになった

とても古臭いタイプのものでした。



「以前,レオンさんの家で見た機種と違うね。」

「あれは,菊のメンバーとやりとりすものだからね。」



レオンさんが番号を打ち込み,

メッセージを書き込み,送信しました。



「これでその小東って人と連絡が取れるのか?」

「うーん,すぐに返事が

来るかどうかはわからないね・・・。」



レオンさんは携帯電話の画面を見つめていました。



リク君がふと廊下を見てみるとすでに

次の講義が始まったのか,人の出入りがなくなっていました。



「どうやら取り込み中みたいだね。

連絡が来るまで待つしかない。」



するとレオンさんのポケットから振動がしました。



どうやらもう一つの

携帯電話に着信が入ったようです。



「こっちは,菊の赤神さんからだ。何だろう・・・。」



レオンさんはみんなにここで待っていて

ほしいと伝え,その場を離れていきました。



「なんか忙しそうだな。」

「あ,あれ?灰庭さんだ。」



まさらちゃんが指差す方に

灰庭さんが歩いていました。





「あれ?午後はずっと講義をするって

言っていませんでしたっけ?」


「さぼったんじゃないのー。」



トシ君が鼻をほじりながらそう言うと,



「トシ君じゃあるまいし・・・。でも教授のお手伝いなら

抜け出しても問題にはならないのかもしれませんね。」



とだぬちゃんがトシ君を馬鹿に

しながら自分の見解を述べました。



「よし,後をつけてみよう。」

「いいの?レオンさんを待っていなくて。」



リク君もイツキ君の意見に賛成のようです。



「大丈夫だろ。あとでイヤコムで連絡入れておけばさ。」



みんなは灰庭さんの後をつけることにしたようです。



第365話~第368話

2021/5/15

第365話 グレイ 前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
少年昆虫団は灰庭さんに気付かれないように

距離を取りながら後をつけることにしました。



まず,リク君とイツキ君が彼を見失わないようにし,

さらにその後ろから3人が追いかけるようにしました。



「大学から出るつもりはないみたいだね。」

「ああ,ただ単にやっぱり

授業をさぼって一休みするだけか?」



灰庭さんは大学の入り口から

一番遠い棟へ入って行きました。



誰も使っていない教室を見つけ,中に入って行きました。



リク君たちは外からそっと様子を伺います。



灰庭さんはポケットからレオンさんが持っているような

古いタイプの折りたたみ式携帯電話を取り出しました。



そしてどこかへ連絡をするようです。



「え,何々?どうなっているの?」



まさらちゃんは体を起こして教室の中を覗こう

としましたが,イツキ君に止められました。



「じっとしてろ。気づかれる!」



灰庭「もしもし。こちらグレイ。定期連絡を入れます。」



灰庭氏はどうやら闇組織JFへ

連絡をしているようです。



「やはりっ・・・!」



少年昆虫団は驚きと戸惑いを隠せませんでした。



「そんなっ・・・。」



ついに少年昆虫団は灰庭氏が

グレイだと気づいてしまったのです。



「リク君の推理通りでしたね・・・。」

「リク君,どうするの・・・?」



トシ君が後ろから話しかけました。



「もう少し様子を見よう。」



灰庭「ええ・・・。そうなんです・・・。

僕がグレイだと気づかれました。」



その会話を聞き,さらに驚きました。



「まずいっ。尾行が完全にばれてた!」



思わず大声を出してしました。



灰庭「入っておいでよ。少年昆虫団のみんな。」



灰庭さんの視線は完全に

こちらを向いていました。



勢いよくドアを開けたのはリク君でした。



「尾行には自信があるほうだったんだけどな。」



リク君はすでに背中の捕網虫

“天照”を右手に持っていました。



今日は“月読”を持ってきていなかったのです。



灰庭「尾行に自信のある小学生なんて

日本中探しても君だけだろうね。」



「そんな・・・。そんな・・・。あの灰庭さんが

悪いやつらの仲間だったなんて・・・。」



まさらちゃんは廊下に

座り込んで泣いてしまいました。



それをトシ君が慰めていました。



「尾行に気づいていながらこんな人気のないところへ

連れてきたってことはここでボクたちを始末するつもりだったんだね。」



灰庭「ふふふ。」



不敵な笑みを浮かべています。



「だけど,それは失敗だよ。なぜなら灰庭さん・・・。

いや,グレイはここでオレが倒す!イツキ君,レオンさんに連絡を!」


「さっきからやっているんだが,応答がないんだよ。」



どうやらレオンさんと連絡がつながらないようです。



しかし,誰もいないとはいえ,教室には

たくさんの机といすが並んでいます。



戦うには邪魔が多い場所です。



灰庭「こんなところで戦うつもりかい?どうやって?」



あくまで余裕の態度を変えません。



「こうやるんだよ!」



リク君は一足飛びに灰庭さんとの間合いを詰めました。



-大空一刀流 闇の夜月(ムーンナイトウォーク)-





まるで三日月のような斬撃が

灰庭さんの体を切り裂きます。



ザクッ!!!



しかし,斬れたのは机だけでした。



灰庭「なるほど。制空権は君のものか。」



闘いの火蓋が切られました。



第366話 グレイ 後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
リク君は空き机の上に着地するとすぐに机と机を

ジャンプしながら移動をし,再び攻撃態勢を取ります。



灰庭「こらこら。机の上には乗ったら

だめでしょ。先生に怒られるぞ。」



そう言いながら,灰庭さんも机の上に乗り,リク君と

一定の距離を取りながら机から机へと飛び移ります。



「あの,加勢しなくていいんでしょうか・・・。」



だぬちゃんがリク君の心配すると,



「あいつの邪魔をしたらだめだ。」

「でも,あいつ組織の幹部みたいなもんでしょ?

昨日の南雲って奴と同じくらい強いんじゃ・・・。」



トシ君もさすがに心配なようです。



「いざとなったら俺も加勢する。少しは力になれるはずだ。

だが,もし二人ともやられるようなことがあったら,

すぐにこの場を離れてレオンさんを探せ。いいな!」



二人は頷きました。



まさらちゃんはお山座りをして

グスグスと泣きながらうつむいていました。



二人が激突するたびに教室内の窓ガラスが

振動し,机が崩れていきます。



灰庭氏は武器を持っていませんでした。



しかし,絶妙な間合いでリク君の攻撃をかわします。











それでもかわしきれないと判断した時は,

手の甲や肘で攻撃を受けて耐えます。



「(なんだ・・・。この戦い・・・。これはまるで・・・。)」



リク君はいつの間にか教室の

端まで追い込まれていました。



しかしひるむことなく壁を蹴って反転し,

そのまま灰庭氏に突っ込みました。



大地一刀流 ―獅子奮迅(シーザー・ショット)―



この攻撃も難なくかわされます。



勢いよく教室の端の壁に

激突してしまいました。



「くそっ・・・。」



灰庭氏が机の上を走って

こちらに向かってきます。



そして大きくジャンプしてリク君の頭上へ・・・。

彼のかかと落としを天照で防ぎます。



「ぐっ・・・。うぉおおおおおお!!!」



リク君はやられてばかりでいらないと,

思いっきり彼の攻撃をはじき返しました。



灰庭「さすがだよ!組織が危険視するわけだ!」



彼はバク中しながら

受け身を取りました。



「(グレイ・・・。なんだこの

余裕・・・。全然本気じゃない・・・?)」


「なんだ・・・。この違和感・・・。

俺たちは何かを見落としていないか・・・。」



イツキ君もこの戦いを見て何か違和感があるようです。



「どういうことですか?」

「わからない。ただ,グレイはまるで

本気を出していないように見える。」



まさらちゃんが顔をあげました。



目は真っ赤にはれ,頬には

涙の痕がくっきり残っています。



「でも本気を出していないのはリク君も同じじゃ

ないですか?そもそもアミだって1本しかないわけだし。」


「奥義だって出してないしね。」



みんなは二人の戦いを見守っています。



灰庭「どうしたんだい?もっと本気でぶつかってきていいんだよ。

それとも丸腰の人間相手に本気にはなれないのかな?」



彼はリク君を軽く挑発しているようでした。



「あんたを倒してから色々聞こうと

思ったけど止めた。今聞いておく。」



リク君は3mほど離れた場所で腕を組んで

立っている灰庭さんに“天照”を突き出しました。



灰庭「ふふん。何かな?」



灰庭さんはカラカラと笑っていました。



リク君が聞いておきたかったこととは・・・。



第367話 灰色の正体 前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
「それは・・・。」



リク君が話を続けます。



「なんで・・・なんで・・・組織の仲間なんだ・・・。

僕たちとキングや昆虫採集で一緒だった時は,本当に

楽しかった。まさらちゃんもあんたのことを・・・。」



そこまで言いかけて止めました。



灰庭「・・・。」



「・・・。」



リク君は“天照”をぐっと握りしめました。



「本当に・・・灰庭さんって

悪い人なんですよね・・・!?」


「ちがうっ!灰庭さんは悪い人なんかじゃない!

それはあたしが一番よくわかっているの!この前だって昆虫採集の

時に転んでけがをした時,心配して声をかけてくれたんだもん!!」



まさらちゃんが貯め込んだ何かを吐き出すように叫びました。



「(待てよ・・・。待てよ・・・。オレ達は何か

大きなことを見落としていないか・・・。)」



この間も灰庭さんから攻撃を仕掛けてくる

ようなそぶりは見せませんでした。



「(組織から俺たちのことを探るために送り込まれた

スパイ・・・それがグレイ・・・。)」



リク君は必死にこの違和感の正体を

探ろうと頭を働かせていました。



「(グレイ・・・。灰色・・・だから灰庭。

組織では確か大西と呼ばれている・・・。)」




リク君の頭脳がフル回転していました。







「(大西・・・大西・・・。)」



灰庭さんはリク君の様子をじっと見つめていました。



「まさかっ!!!!!」

「何かわかったのか!?」



イツキ君が教室の外から

リク君に問いかけました。



「そんなことがありえるのか・・・!?」



自問自答しているようでした。



灰庭「何かわかったのかな?確かめてみようか?」



灰庭さんは背中に隠し持って

いた警棒を取り出しました。

(第364話のイラスト参照)

伸ばすと1m程の長さになりました。



灰庭「僕も気になるな。君が何に気付いた

のか。確かめるにはこれしかないね!」



今まで守りに徹した彼が攻勢に出ました。



灰庭「言っておくが,生半可な攻撃じゃ防げないよ。」



まるで居合のように警棒を左の腰に

当て半身になってリク君に向かってきます。



リク君は奥義の構えをとりました。



「望むところだぁ!!ケガしても

知らないからなっ!!!」



左足を半歩前に出し・・・。



「大地一刀流奥義・・・。」



灰庭氏はまるでワープしたような早さでリク君と

の間合いを詰め,警棒で斬りあげようとします。



警棒がリク君の首筋を掠めようとしその瞬間・・・。



リク君は攻撃態勢を刹那の

瞬間,解除しました。



「何やっているんですか!?死んじゃいますよ!!」

「リク君―!!!いやぁぁぁ!!!」



まさらちゃんは手で

顔を覆い隠しました。



しかし,教室には爆音も斬撃も

響き渡りませんでした。



あるのはただの静寂のみ・・・。



灰庭さんはリク君の首筋ぎりぎり

で警棒を寸止めしていました。



「どういうことだ・・・?」

「これが灰庭さんの正体だ・・・。」



第368話 灰色の正体 後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
リク君は灰庭さんの本当の

正体に気付いたようです。



「どういうことだ・・・?なんで攻撃を止めた・・・。」



灰庭さんは警棒を下ろしました。



「これが灰庭さんの正体だ・・・。」



まさらちゃんがリク君の近くまで駆け寄りました。



「どういうことなの・・・?」



リク君は机の上に乗ったまま,

彼の正体について語り始めました。



「グレイ・・・。組織では大西って呼ばれて

いるんだよね・・・。仏の今村とかいう幹部の部下だ。」



灰庭「組織の情報って筒抜けだね。その通りだよ。」



灰庭さんは感心していました。



「大西・・・大西・・・。この名前がずっと

気になっていた。大西という漢字の反対語は・・・。」



「どういうこと?」



トシ君が首をひねりました。



「まさか・・・。“大”の反対は“小”・・・。

“西”の反対は“東”・・・。つまり”大西”の反対は・・・。」



「小東!!!」



まさらちゃんが叫びました。



「あれ?どっかで聞いた

名前じゃないですか・・・?」



「ああ・・・。以前レオンさんが言っていただろ・・・。」



リク君が話を続けます。



「レオンさんの協力者の名前が小東

だって・・・。灰庭さんはレオンさんの協力者だ。」



まさらちゃんはまだ半信半疑でした。



「レオンさん,そうでしょ!!」



するとイヤコムからレオンさん

の声が聞こえてきました。



「詳細はそこについてから話すよ。

君たちには申し訳ないことをした。」



数分後レオンさんが皆の元へ駆けつけました。



「リク君大丈夫だったか・・・!」

「レオンさん,さっきのリクの推理は本当なのか!?」



イツキ君がレオンさんに聞きました。



「ああ・・・。その通りだ。

彼はオイラの協力者なんだ。」



灰庭「ふふ。ついにばれちゃったね。」



灰庭さんは悪びれる様子もありませんでした。



「なんでこんなことをしたんだ!?

いずれお前のことはみんなに話すつもりだったんだ。」



レオンさんは灰庭さんに駆け寄り

声を荒げてそう言いました。



灰庭「いやぁ・・・。本当に組織に定期連絡を入れるつもりだったんだよ。

だけど彼らの尾行に気づいちゃったからさ。確かめたくなっちゃってね。

本当にあの悪魔の闇組織“JF”と戦える少年なのかね。」



灰庭さんが弁解をしました。



「じゃあ,さっき組織にかけていた電話は・・・。」



灰庭「大丈夫だよ。あれはフェイクさ。

君たちの事は一切組織には伝えていない。」







皆はそれを聞いて一安心しました。



「ちょっと待てよ・・・。つまり灰庭さんは

二重スパイってことか!?」


「そういうことなんだ。表向きは組織の準幹部グレイで

オイラ達に探りを入れている。だけど裏ではオイラと

つながっていて組織の情報を流してもらっているんだ。」



ついに灰庭さんの本当の正体が

判明した瞬間でした。



彼は二重スパイだったのです。







過去の掲載順へ

TOPページへ