2014/12/8
第61話 漆黒への盗聴 前編
ノアシリーズ ~第2章~
少年昆虫団は名駅のセントラルタワーに来ていました。
ここから電車で長山スパーランドへ行くのです。
時間は夕方の5時過ぎです。
リク君はセントラルタワー地下1階のトイレにいました。
するとリク君の耳元から声が聞こえてきました。
「いつまでトイレにいるんですか~!?」
「ごめん,ごめん。もうすぐ行くよ。」
リク君は小声でつぶやきました。
よくみるとリク君の耳にはワイヤレスのイヤホンのようなものがついています。
これは,”イヤコム”といって,トランシーバーを超小型化したようなものなのです。
しゃべった声は“骨伝導”と言って
骨を伝ってイヤコムに届き,そこから相手に声が届くのです。
しかも,同時に複数の人間が話したり,
聞いたりできるのであたかもその場に居合わせるような感覚に陥ります。
少年昆虫団は山ではぐれないようにするために
イヤコムをいつもつけているのですが,今日もつけていました。
「よし,快便!」
「いや~汚い!」
リク君が発した声はみんなの耳元に届いているのです。
リク君がトイレから出てみんなの待つ駅のホームに向かおうとした時のことです。
「あれは!?」
どこかで見たような二人の男が角を曲がっていくのを見ました。
「(今のは…!)」
「リク,どうしたんだ?」
イツキ君が呼びかけます。
リク君は走りながら答えました。
「今,漆黒の追跡者の二人を見かけた!間違いないと思う!」
「なんだって!!」
みんなは同時に驚いていました。
「リク君,どうするつもりなの!?」
「追いかける!大丈夫,電車が到着するまでには戻るから!」
二人は何か話をしながら歩いています。
リク君は二人の後をこっそりとつけました。
「(間違いない,奴らだ。確か,南雲って名前と古賀って名前の二人だ。)」
二人はセントラルタワー地下の飲食店街の一角にあるバーに入っていきました。
「奴らお店に入っていった。どうやらバーみたい。名前は…。」
そこにはこう書かれていました。
“ヴァ・ス・マ・ジック・リン”と…。
第62話 漆黒への盗聴 中編
ノアシリーズ ~第2章~
名駅のセントラルタワー地下にある
“ヴァ・ス・マ・ジック・リン”というバーは
漆黒の追跡者たちがよく利用するバーでした。
偶然そこに居合わせたリク君は相手の会話を
盗み聞きして情報を手に入れようとしました。
彼らがバーに入った後,リク君はドアを少しだけ開けて中の様子を伺ってみました。
古賀「山本さんはまだなんですね。」
南雲「みたいですね。バベルで“御前”と何か話すことがあるみたいで,
それが長引いているんじゃないですかね。」
「(バベル?組織のアジトのことか?御前…?組織のボスの呼び名か?)」
南雲「しかし,小早川の奴を簡単に消しちまうなんてさすが山本さんですよね。」
古賀「そうですね。怖いくらいに冷静でしたよ…。
簡単に人を殺せるってすごいですよね。」
「(小早川…?どこかで聞いたことが…。)」
リク君の額から汗がでてきました。
「(こいつら本物の殺人集団なんだ…!?
めちゃくちゃやばい連中だったんだ。)」
何やら色々な話をしているようですが,
バックに流れる洋楽が邪魔をして全ては聞き取れないようです。
古賀「…・。そういえば,今村さんは何を企んでいるんでしょうね。」
南雲「というと?」
古賀「“影(シャドー)”なんて部下を使って
以前,何度か出会った子供達を探しているらしいじゃないですか。」
南雲「そういえばそうでしたね。」
古賀「おそらく“影(シャドー)”はすでに子供達に接近しているんだと思いますよ。」
「(子供たちって僕たちのことだな…。
影(シャドー)…!?そいつが僕たちの周辺にいる!?)」
お酒が入っているようで二人は饒舌です。
南雲「そうですかー?古賀さん,深く考えすぎなんじゃないですか?」
古賀「いやいやそんなことないですって。
南雲さんはもう少しあの人を疑ったほうがいいですよ。」
南雲「俺はただ山本さんと同じくらい今村さんのことも尊敬しているだけです。」
古賀「そんなに尊敬しているなら“海猫”の部下になればよかったじゃないですか。」
南雲「俺たちが選べるわけじゃないでしょう。
ヘタなことを言えば,俺が山本さんに消されちゃいます。」
古賀「まぁ,確かに。」
「(“山犬”…“海猫”。それがそれぞれのユニット名か…。
各務原山で聞いたことは間違いじゃなかった。)」
古賀「JFの一員である以上,全ての決断は御前次第ですからね。」
「(JF!?それが組織の略称か!)」
その時,イヤコムから声が聞こえてきました。
「リク君!早く来ないと電車が来ちゃうよ!?」
リク君は小声で応答しました。
「わかってるよ。もう少し…。」
その時,遠くから一人の人物がこちらに向かって歩いてくるのが見えました。
「あ…。」
それは,山犬のリーダー,“山本”でした。
第63話 漆黒への盗聴 後編
ノアシリーズ ~第2章~
リク君がバーの会話を盗み聞きしていると
遠くから一人の人物がこちらに向かって歩いてきました。
その人物とは山犬のリーダー。
<山犬 ユニットリーダー 山本>
リク君はバーの入り口の前にある観賞用の
大きな植木の影に隠れていたのでまだ気づかれてはいないようです。
だんだんとリク君と漆黒の追跡者である山本との距離は狭まってきます。
コツ…コツ…コツ。
「(まずい,どうする!?このままじゃ見つかる!?)」
イヤコムからみんなの声が聞こえますが,リク君は反応することができません。
―額から冷や汗が湧き出ている―
―心臓の拍動音が否応なしに聞こえてくる―
「(どうする…!?戦うか!?)」
背中に手をやりますが,何もありません。
「(いや,無理だ。そもそも捕虫網は持ってきてない。何を焦ってる…。)」
リク君はかなり動揺しているようです。
「(たとえ捕虫網があったとして本物の殺人者に勝てるのか…!?
しかもあいつは拳銃を持っている可能性が高い…。)」
コツ…コツ…コツ。
山本はさらに近づいてきました。
「(このままじゃ捕まる!?捕まったら殺される…。
いや…考えろ!?何か手はあるはずだ!?)」
『山本が簡単に人を殺す人間である』という,先ほど聞いた会話が脳裏に焼き付いているようです。
ドクン!ドクン!ドクン!
―ピリピリピリピリピリピリ―
何やら音がなりました。
その一瞬,リク君はバーの出入り口から横へつながる細い脇道に一目散に走り出しました。
―ピリピリピリピリピリピリ―
山本の持っている携帯電話が鳴っているようです。
彼は電話を取り出す時,視線をポケットに向けた隙にリク君はうまく逃げ出したようです。
山本「なんだ?何か用か?貴様から直接連絡をしてくるなんて珍しいな。
だが…あいにく俺はアンタと話すことなど何もない。」
山本は向きを変えて何やら会話をしています。
「はぁはぁ…!?」
リク君の息が乱れています。
「(危なかった…。)」
「(どうする!?時間をあけてもう一度バーへ行くか。)」
「(いや,それはまずい。逃げるところを見られたかも知れない。)」
「(とにかく皆の所へ戻るしかない。)」
リク君は電車の時間ぎりぎりでみんなの待つ場所へ合流しました。
そして,長山ランドに向かう電車の中で,漆黒の追跡者が話していた内容を伝えたのでした。
第64話 イツキの解読①
ノアシリーズ ~第2章~
少年昆虫団は長山スパーランドという三重県にあるテーマパークにやってきました。
今日はここでパレードやプロジェクトマッピングなどのナイトイベントがあるのです。
イベントまでに少し時間がありました。
そこで,長山スパーランド内のレストランで食事をしながらお話をしていました。
「ほんとにほんとなんだ…。」
リク君は先ほどバーで聞いたことを伝えました。
「ああ,間違いない。話したことは全てこの耳で聞いたことだ。」
「影(シャドー)か…。やはり俺たちの周辺にいるってことか。」
「確かこの前もその話をしていましたよね。
怪しいのはカブクワキングの店長さんに図書館の館長さん。
それに引っ越ししてきたカメレオンみたいな大学院生でしたね。」
「いや…図書館の館長は…。」
イツキ君が何かを言おうとしましたが,だぬちゃんが話し続けました。
「でも,相手が本当の犯罪者なら警察に言った方がいいんじゃないですかね。」
「あたしのお父さん警察官だけど,言ったら信じてくれるかなー?」
「まぁ,無理だろうね。こんな話を信じろっていう方が無理だ。
それに警察は証拠がなければ動かない。」
「確かに。」
「それにこのことは警察に言わないようにしてボク達だけで
真実を暴いていった方がいい気がするんだ。なんとなくだけどね…。」
「バクバクバクバク。」
トシ君は名物の長山バーガーをうまそうに食べていました。
どうやら会話のレベルについていけなくなったようです。
「それより,本題に入ろうよ。」
「そうだったな。」
「ノアの書について書かれていることがわかったんだよね!」
「全てではないけどね。」
そう言うとイツキ君はノアの書をカバンから取り出しました。
「これってコピーとかとってあるの?無くしたら大変だよね。」
「残念ながらコピーガードの細工がしてあって複製ができないんだ。」
「そっかー。」
「心配しなくてもいいよ。内容はだいたいここに入っているからね。」
イツキ君は自分の頭を指しました。
「はぁ~。なんか頭の良さを自慢してますね。」
だぬちゃんは何か不満のようです。
イツキ君はノアの書のとあるページを開いてみんなが見えるように置きました。
「ずばり,単刀直入に“漆黒の金剛石”の正体から話そう。」
「うん。」
みんなはゴクリと唾をのみこました。
今まで謎だった“漆黒の金剛石”の正体がいよいよ
イツキ君の口から語られようとしています。