リクの少年昆虫記-VS闇組織JF-

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目次

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8篇 エピソード0シリーズ 序章 第1章1~9話

第1話 プロローグ

エピソード0シリーズ 序章
 

―8月15日夜 中野木総合病院にて―



闇組織JFが所有するセントラルツインタワーの

一つである“バベル”の屋上にて,

菊水華のレオンさんと少年昆虫団は

組織のボスである“御前”と戦いました。



結果は一方的な惨敗となり,

屋上より飛び降りて,

すぐ真下を飛んでいた

警察の飛行船に乗り移り,

なんとか逃げ切ることができました。





その結果,メンバーの多くが負傷しました。



特にリク君はかなり状態が心配されました。



そのすぐ後に,少年昆虫団は

警察病院にて診察を受けたのですが,

リク君は念の為に緊急治療ができる

中野木総合病院に運ばれて行きました。



幸い,ケガは大したことなく,

明日には退院できるとのことでした。



リク君は,自分の状況を

お見舞いに来たワク君や

カイリちゃん,両親に説明しました。



レオンさんの計らいで個室を

タダで使わせてもらえることになりました。



その病室にて,リク君のお父さんが,



父「今までの君の活動は色々と聞いていた。

しかし,ここまで事態が大きくなるとはな。」



リク君のお父さんは長身のやせ形で,

偉い人が好むような立派な口ヒゲがありました。



髪の毛はふさふさで白髪もほとんどなく,

とても若く見えますが,45歳だそうです。



母「これ以上は無茶をしないでね。」



隣で呼びかけてきたのはリク君の母親でした。



リク君のお母さんは,

カイリちゃんと目元が

そっくりの美人でした。



彼女もまた,同じ年齢の女性と

比べるとかなり若く見えました。



「うん・・・。

わかっているよ・・・。」


「リク兄・・・あのな・・・。」



ワク君が何かを伝えようとしたのですが,



父「あまり話しかけても

疲れるだけだろうから,

今日はここまでにしよう。」



と言われて,

話ができませんでした。



家族が寝泊まりする場所はなかったので,

リク君一人を病院に残し,

一度帰宅することにしました。



本当は母親が“付き添う”と言ったのですが,

リク君が頑として断りました。



「オレは・・・。

無力だった・・・。」




月明かりが部屋のカーテンから差し込み,

リク君が寝ているベッドを照らしていました。



彼の眼にはうっすらと涙が

浮かんでいるように見えました。



彼はこの涙を母親に

見られたくなかったのでしょうか。



彼は失意のうちに意識をなくし,

深い眠りについていきました。



また今回の事態に対し,

愛知県県警は

緊急の会議を開いていました。



この時間にはすでに会議は終わっており,

当面の方針として“菊”のメンバーは

少年昆虫団の警護を行うことが決定しました。



リク君の病室のすぐ外には,

レオンさんが護衛として待機していました。



家族が出てきたとき,

レオンさんは深く頭を下げました。



父と母は,彼に顔を上げるように促し,

“息子をよろしくお願いします”と声をかけていました。



そして翌朝・・・。



物語はここから大きく

動き出すことになる・・・。



第1話 失意のリク

エピソード0シリーズ 第1章
リク君は翌日の8月16日午前に退院をしました。



両親が退院の手続きを取る間,

1階のロビーでレオンさん,

昆虫団のメンバーとワク君,

カイリちゃんが一緒に待っていました。



ワク君が少し心配そうな表情をして,

リク君の顔を覗き込みました。



「なぁリク兄・・・。」



そう言いかけた時,

両親が戻ってきました。



父「さて,手続きも終わったので帰るとしよう。」



リク君の表情は曇ったまま,

静かに頷きました。



両親はその様子を見かねて,



父「せっかくお友達が来てくれたんだから,

昆虫採集にでも行ってくるといい。」



と,言いました。



母「でも・・・。」

父「病院の先生もけがは

大したことないと言ってくれていた。」



その会話を聞いただぬちゃんは,



「(え?まじで?御前にあれだけ

ボコボコにされて,

バズーカで吹き飛ばされていたのに??)」




と,誰もが思うだろう感想を持ちました。



母親は少し心配みたいでしたが,

リク君が元気になってくれるならと,納得しました。



レオンさんと少年昆虫団は

その足で昆虫採集へ向かうことにしました。



車の中に昆虫採集の用意が一式,

積み込まれていたようです。



家族は先に車で帰宅していきました。



帰り際にも二人は

レオンさんに頭を下げて,

“息子のことを色々と支えてほしい”と

お願いしているようでした。



みんなは病院を出て,

15分ほど歩き,

いつもの西緑地公園の前まで来ました。



「リク君・・・。

本当に大丈夫なの・・・?」




まさらちゃんは道中も全く話をしない

彼の事をとても心配していました。



公園の中に入っていきましたが,

とても昆虫採集ができるような

気分でも雰囲気でありませんでした。



「(こんなに元気がないリク君は初めてみました。

昆虫採集などしないで,

家でゆっくりと休むべきでは?)」




だぬちゃんはそんなことを

頭に抱きながら,

様子を見守っていました。



「オイラがもっと強ければ・・・。」



となりでトシ君が相変わらず,

わけのわからないことを

つぶやいていました。



そしていつもの噴水広場へやってきました。





みんなは噴水の端に

並んで腰をおろしました。



しかし,イツキ君だけは座らずに,

リク君の目の前に立っていました。



リク君はそれを見上げることもせず,

下を向いたまま,

一言も話しませんでした。



「なぁ,リクよ!」



イツキ君が話しかけます。



リク君は黙ったまま

何も反応をしません。



「お前はこれからどうするつもりだ?」

「イツキ君・・・?」



リク君は顔を上げて,

イツキ君の目を見ました。



「お前が俺と“あの時した約束”の事を

忘れたとは言わせねぇぞ。」


「・・・。あの時・・・。」



リク君がようやく口を開きました。



「そうだ。この少年昆虫団を結成して

俺を仲間に勧誘してきた時だ。」




リク君の表情が

急に険しく変化しました。



「お前はあの時・・・。」



そこまで言いかけた時,

噴水から少し離れた場所から

こちらに向かって呼びかける

声が聞こえてきました。



「なんだ!?」



向こうの様子をうかがっていると,

どんどんと人が集まってきました。



その集団とは・・・。



第2話 昆虫団結成のいきさつ

エピソード0シリーズ 第1章
リク君たちが座っていた噴水の周りを

取り囲むように,

たくさんの不良少年が集まってきました。



ほぼ全員が十代で,

見た目はほぼ全員が不良と

呼ばれてもおかしくない

格好をしていました。



「三大悪童の連中か・・・。

こんな時に何の用だ・・・。」




だぬちゃんとまさらちゃんは

震えが上がっていました。



そして,レオンさんの後ろに隠れました。



レオンさんは一体何事なのか,

事態が呑み込めていませんでした。



いざとなれば,

警察手帳を見せ,

場合によっては応援を

呼ぶことも考えました。



「レオンさん,大丈夫だ。

こいつらに害はない。

多分・・・。」




マザー「害はないだと・・・?

ずいぶんな物言いだね・・・。」



集団の中でひときわ目立つ

人物がそう言いました。



三大悪童のマザーでした。



豪名は“聖母”と呼ばれる

超大柄な女子でした。



よく見ると,100人規模の集団の

半分はマザーの配下ではありませんでした。



ファザー「探したぜ。」



どうやら三大悪童の

ファザーも一緒にいたようです。





集団の半分はファザーの配下だったようです。



まるでサラダボールのような群衆には

境界線のようなものが見え,

そこを境に配下通しで

威嚇しあっているのが見えました。



ファザー「おらぁぁ!!

問題を起こすんじゃ・・・ねぇ!!!」



彼がものすごい音量で叫ぶと,

一瞬,空が割れたような

錯覚にとらわれました。



いがみ合っていて配下の連中は,

狼に狙われる子ウサギのように

小さくなって震えていました。



マザー「そうさ。今日は戦争をしに来たんじゃねぇ!

この前,やったばかりだろうがっ!!」



マザーも自分の配下たちを厳しく叱責します。



二人が持っているこのカリスマ性が,

多くの不良たちを惹きつける要因でもあるのでしょう。



「・・・。」



マザー「おやまぁ。何があったか知らないが,

ずいぶん弱ってるじゃないか?」



マザーの大きな顔面が

リク君のすぐ目の前まで来ました。



「ヤバイ,また胃酸を

かけられますよ!」




だぬちゃんは,先日の出来事が

少しトラウマになっていたようです。



マザー「そんなことしねぇさ。」



「俺たちは忙しいだ。

こんなに大勢引き連れて,何の用だ?」



マザー「最初にアタシに

会いに来た時と逆だねぇ。」



イツキ君が二人の前に堂々と立ち,

要件を聞き出しました。



ファザー「お前たち二人を探していたんだ。

人を探すなら大勢の方がいいからな。」



「俺たちを探していた?」



彼が聞き返すと,



マザー「そうさ。例の件だよ。

正式に決まった。」



と,答えました。



「ねっねぇ・・・。

さっきから何のこと・・・。

話が見えてこないよ・・・。」




まさらちゃんがレオンさんの後ろから尋ねると,



「そうだな。いい機会だ。

少しみんなに聞いてもらいたい話がある。」




イツキ君はリク君をちらっと見てから,



「今からする話は少年昆虫団結成と

こいつら三大悪童との

いざこざについてだ。」




と,言いました。



「え?昆虫団結成って

そんなに複雑でしたっけ?」




どうやらだぬちゃんやまさらちゃんが

知らないところで,

様々な出来事がおきていたようです。



「リクには“あの時の約束”を

思い出してもらうからな。」




そして,イツキ君の口から

夏休み前に起きた出来事に

ついて語られることになりました。



第3話 勧誘

エピソード0シリーズ 第1章
―7月8日 中野木小学校2B教室にて―



その日の放課中に,

リク君がまさらちゃんと

だぬちゃんを呼びました。



この二人とは2年生になってから

同じクラスになった友達です。



お互いに気が合うのか,

クラスではだいたい一緒に行動し,

放課中もよく遊んでいました。



「もうすぐ夏休みだ!」



リク君が元気な声でそう言いました。



「ですね。

それがどうかしたんですか?」




だぬちゃんが"何を当たり前のことを"と

言わんばかりの返事をすると,



「みんなで毎日昆虫採集に行こう!」

「えーっ!」



まさらちゃんは少し嫌な顔をしました。



昆虫自体は嫌いではないのですが,

そこまで好きでもなかったからです。



「夏休み限定でいいからさ!

少年昆虫団を結成したいんだ!」




ニコニコと自分のやりたいことを

語る少年を目の前にし,

"はっきりと断るのも悪いな"と,

まさらちゃんは思いました。



「夏休みだけですね。

でも三人じゃちょっと

少ないんじゃないですか?」


「安心しな!隣のクラスの

トシって奴に声をかけてきた。」




リク君はこの時点でトシ君には

声をかけていたようです。



「昆虫が好きなの?」

「逆だよ。苦手だから少年昆虫団に入って,

克服してもらおうと思ってね!」




リク君が腕を組みながらそう言いました。



「絶対に無理やり

入れさせられたんじゃ・・・。」




だぬちゃんの予想は当たっていました。



トシ君は結局のところ,

入団をぎりぎりまでしぶり,

リク君たちが闇組織JFと最初に

遭遇した日の後に合流する

ことになったのでした。



「確かにもう一人くらい

いたら楽しいかも!」



リク君はふと,窓際に座って外を

眺めている少年に目をやりました。



そしてその人物の前までやってきて,



「ねぇ,イツキ君だったよね?

昆虫採集のためのチームを

作ることにしたんだけど,

その少年昆虫団に入らない?」



イツキ君はリク君を少し睨むようにして,



「くだらなねぇ。

勝手にやってろ。」




と言い捨てて,

教室から出て行ってしまいました。





「あちゃー・・・。」

「彼は無理ですよ。

あの人はクラスでも浮いていて,

ほとんどしゃべらないじゃないですか。」




二人がリク君の所へ

駆け寄ってきて,

そう助言しました。



「そうかなー。

なんとなく声をかけて

ほしそうな感じがしたんだけどなぁ。」


「そんなわけないですよ。

噂によると彼は,

深夜に中野木商店街や

極小田井商店街に

たむろしている不良らしいですよ。」




イツキ君のそういう噂はすでに

学校中に広がっていたようです。



それはともかくとして,

リク君がイツキ君を

少年昆虫団に勧誘することは

失敗に終わってしまいました。



しかし,リク君は諦めませんでした。



第4話 尾行

エピソード0シリーズ 第1章
授業が終わり,下校時刻になりました。



リク君とまさらちゃんとだぬちゃんの三人は,

イツキ君の後ろをこっそりとつけていくことにしました。



「どうでもいいですけど,

彼を尾行してどうするんですか?」


「さぁ?」



リク君が気のない返事をすると,



「え?無計画ですか?」



だぬちゃんは呆れていました。



「彼がいつも何をやっているか知れば,

入団のきっかけをつかめるかもしれない。」


「そうかなぁ・・・。」



まさらちゃんも呆れていましたが,

とりあえずついていくことにしました。



イツキ君が町中を

歩きながら帰っていると,

数人の少年に囲まれました。



「あれ?なんか捕まったみたいですよ?」



彼らは人気のない裏通りに

向かって行きました。



後をつけていき,

追いつくとそこには

衝撃の光景が広がっていました。



「なんだお前ら・・・?

つけてきたのか?」




イツキ君の拳には

大量の血液が付着し,

したたり落ちていました。



しかしその血液は彼が出血したわけではなく,

地面に転がっている4人の少年たちからのものでした。



一人は壁に頭部を強くたたきつけられたのか,

壁が血で染まり,頭部が裂傷していました。



残りの三人も全員が地面で

もがき苦しんでいました。



例にもれず全員が瀕死の状態でした。



「僕たちが追いつくまでの

一瞬でこれをやったのか・・・。」






さすがのリク君も驚きを隠せませんでした。



「だからどうした?」



彼の眼はまるで血に飢えた狼のようでした。



「言っておくが,

俺は売られた喧嘩を買っただけだ。」




イツキ君はリク君たちを避ける

ようにその場から去っていきました。



「とりあえず救急車・・・!」



リク君はこの場を二人に任せ,

イツキ君を追いかけていきました。



六町公園まで行くと,

彼に追いつくことができました。



「まだ何か用か?」

「あのさ,やっぱり

少年昆虫団に入ってくれよ!」




リク君は勧誘を諦めていないようでした。



「だから断っただろう。

そもそもなんで俺なんだ?」




イツキ君が面倒くさそうに聞くと,



「だって,

入りたそうな顔をしてたから!」




と,答えました。



「バカか・・・。」



彼の態度はそっけなく,

味気のないものでした。



「俺は忙しいんだ。」



「忙しい?」



リク君が聞き返すと,



「そうだ。

俺にはどうしてもやらなくちゃ

いけないことがある。」




彼は拳を握りしめ,

力強くそう言いました。?



第5話 借りを返す

エピソード0シリーズ 第1章
イツキ君はどうしても

やるべきことがあると言いました。



「じゃあ,その"やる事"って

いうのを終わらせたら入団してよ!」




リク君は笑顔で勧誘を続けます。



公園は7月上旬とはいえ,

この時間はまだ日差しが強く,

初夏の太陽が二人を照らします。



イツキ君の頬には

うっすらと汗が垂れていました。



「なんなら,

僕も手伝うからさ!」


「寝ぼけたことを言うな。

お前には無理だ。」






イツキ君は,どうしても一人で

やり遂げようとしているつもりでした。



「なんで?聞いてみないと

わからないじゃない。」


「そもそも,俺のやるべき事が終わっても,

なんとか団に入る義理はない。」




イツキ君はこういう正論がすぐ口に

出すことができる少年でした。



状況を整理し,

理路整然と反論ができる,

とても頭が良い少年だったのです。



「まぁまぁ。とりあえず

そのやるべき事っていうのを聞かせてよ。」




リク君は,相手の考えや悩みを

引き出すことが得意な少年でした。



「最初に言っておくが,

聞いたところでお前には何もできないし,

俺は手伝ってもらおうとも思っていない。」


「うん,それでいいから。」



リク君はイツキ君の口から

何が語られるのか興味がありました。



すでにアブラゼミが鳴き始め,

少しずつその数が増えてくる時期でした。



セミの鳴き声に,

かき消されそうになりながら,

イツキ君は静かに言葉を発しました。



「借りを返す。」



そう,一言だけ。



「借りを返す?誰に?」



疑問をぶつけると,



「もうこの世にいない奴だ。」



彼はとても重く,

暗い声で,

そう言いました。



「死んだ?」

「ああ,殺された。」



とても衝撃的な会話が

繰り広げられていました。



イツキ君は近くのベンチに座り,

回想日よりもさらに一昨日前に

起きたことを思い出しました。



7月6日 夜20時過ぎ 庄外川堤防にて



イツキ君はゲームセンターに飽き,

なんとなく堤防を一人で歩いていました。



軽く散歩をしてから自宅へ帰るつもりでした。



街中を通ってここまでやってきたのですが,

道中はマザーやファーザーの配下たちが

何やら騒々しくしていました。



そんなこともあり,

静かに過ごせる場所を探し,

庄外川へ来ていたのでした。





しかし静かな散歩も後ろからくる

連中によって終わりを告げます。



彼らは四組の少年で,

会話の内容から三大悪童"マザー"の

配下であることがわかりました。



「おい,このあたりか!?」

「ああ,全面戦争になるからな。」

「なるべく有利な位置に陣取れるようにしよう。」

「よし,マザーに報告だ。」



そんな会話が後ろから

走ってくる連中から

聞こえてきました。



「おい,あそこに誰かいるぞ?」



連中の一人が立ち止まり,

ライトで堤防の下を照らしました。



そこはすぐ川に面している場所でした。

そこにいた人物とは・・・。



第6話 必要な逸材

エピソード0シリーズ 第1章
庄外川の川原に倒れていたのは・・・。



イツキ君はそれが誰だか気づき,

下へ降りていきました。



「なんだあいつは?」

「ほっておけ。俺たちは忙しいんだ。」

「そうだ。」



四人組の少年たちは

その場を去っていきました。



イツキ君は倒れている人物を

抱きかかえて,声をかけます。



「おい,大丈夫か!?

何があった!」



その人物は,つい先日の6月末の夜に

偶然出会ったマサルという少年でした。



マサル「イツキか・・・。

久し・・・ぶりだな・・・。」



全身殴られた跡があり,

あちこち骨折していました。



イツキ君はイヤコムから

緊急連絡で救急車を手配しました。



「救急車を呼んだ。

もうしゃべるな。」

マサル「ヘマやっちまった・・・。」



彼はイツキ君の手を握り,

何かを伝えようとします。



マサル「そう・・・いえば,

まだ借りを・・・

返してもらって・・・

なかったなぁ・・・。」

「バカ言うな・・・。

俺は借りなんて作った覚えはない。」



彼は消えそうな声で,



マサル「ああ・・・

そうだったな・・・。」



イツキ君の耳元で何かをささやいた後,

彼は目を閉じてそのまま動かなくなりました。



直後に救急車が到着し,

警察にも知っていることを伝えました。



警察からの話によると,

犯人の特定に全力を尽くすが,

現状では証拠もなく,

捜査は難航するだろうということでした。



明け方にマサルは病院で

静かに息を引き取りました。



イツキ君は病院の待合室で

彼の回復を待っていましたが,

その思いは届きませんでした。



彼はどうやら児童施設の少年で身よりはなく,

施設の責任者が遺体を引き取っていきました。



「俺は・・・借りは作らない・・・。」



病院の椅子で下を向き,

静かにつぶやきました。



「この前の一件で借りを

作ったつもりはないが・・・。」



しばらくして,前を見つめ,



「ただ・・・このままじゃ・・・

俺の気が晴れない・・・。」



彼は立ち上がりました。



「お前を殺した奴は必ず俺が見つけて,

白日の下にさらけ出してやるよ。」







そう決意して,病院を出ました。



すでに日の出を迎え,

まぶしい明かりが差し込んできました。



場面は再び7月8日の六町公園にて―



イツキ君の横にはリク君が

座ってその話を真剣に聞いていました。



「やっぱり僕の思った通りだ。」

「?」



イツキ君が首をかしげて,

リク君を見ました。



「君はとても義理堅く,

まじめな人間だ。

そういう逸材を少年昆虫団は

求めていたんだ。」

「何を勝手な・・・。」



そこまで言いかけた時,



「僕の目は間違っていなかった!」



と言いました。



「よーし!

絶対に君を少年昆虫団に加入させるぞ!」



彼の決意は固いようでした。



第7話 加入の条件

エピソード0シリーズ 第1章
リク君は初夏の太陽が照り付ける日差しの中,

イツキ君をもう一度少年昆虫団へ加入するように誘いました。



イツキ君はしばらく沈黙した後,



「一つ条件がある。」



と言うと,



「何でも言ってよ。」



さもありなんという返事をしました。



「俺は中途半端ことが大嫌いだ。」



さらにリク君に向かって話を続けます。



「だからそんなチームを作るなら,

夏休みだけじゃなく,

ずっと活動できるチームにしろ。」



リク君は黙って聞いています。



「それから言い出しっぺはお前だ。

何があっても途中で辞めるなんてことはするな。」



イツキ君はリク君を

指さしてそう言いました。



「昆虫採集に励むなら,

絶対に最後までやり切れるように団員を導け。」



イツキ君の言葉はどれも小学生に

とってはかなり厳しい物言いでした。



「うん,わかった。

約束するよ。何があってもがんばる!」



リク君は二つ返事でOKをしました。



「約束だ。それに加入できるかどうかは

俺のやるべき事がちゃんと片付いてからだ。」

「わかってるよ。

だから二人で片付けちゃおう!」



リク君はイツキ君が加入してくれることが

うれしくて仕方ないようです。



とてもにこやかな笑みを浮かべていました。

対照的にイツキ君の表情は暗いままでした。



二人は自販機の前に行き,

それぞれ飲み物を買って,

再びベンチに座りました。



先ほどの場所とは違い,

木陰になっており,

暑さはそれほど感じられませんでした。



「リクは三大悪童って

存在を知っているか?」

「もちろん知っているよ。

同級生だろ?」



リク君の返しに,



「全然知らねぇじゃねぇかよ!

あいつらは五~六年生の上級生だぞ。」



と知ったかぶりをするような

リク君に突っ込みを入れました。



「ああ,そうだったね。

勘違いしていたよ。」



リク君は笑ってごまかしました。



「まったく・・・。

俺の目的はそいつらの首だ。」



彼が突然物騒なことを言い始めました。



「なかなか穏やかじゃないね,それは。」

「マサルは死の直前,

俺の耳元でこうささやいたんだ。」



少し間をあけた後で話を続けました。



「"三大悪童"にやられたとな・・・。」

「え?三人の誰にやられたの??」



この質問に,



「そこまでは聞き出せなかった。」



と,答えました。



「ところでお前は強いのか?」



イツキ君がふと気になった疑問をぶつけると,



「うん,めちゃくちゃ強いよ!

技は我流だけど,色々とお世話になった人がいるんだ。」







リク君の口から,

昔お世話になった人の話がでました。



それは一体誰なのでしょうか。



「その人に,コレをもらったんだ。」



リク君は背負っていた

二本の捕虫網を取り出しました。



「ふぅん・・・。

そんなアミで何ができるかわからんが,

足手まといにならないならそれでいい。」



彼はその時は,特に気にも留めませんでしたが,

すぐにリク君の実力を目にして

驚愕(きょうがく)することになるのでした。



第8話 たった二人で悪の巣へ

エピソード0シリーズ 第1章
リク君とイツキ君の二人は

すぐに行動を起こしました。



少し休憩した後,

手掛かりになりそうな場所に

足を運びましたが

成果はありませんでした。



時間はすでに18時となっていましたが,

夏至から何日もたっていないので,

まだまだ明るい空となっていました。



二人の出した結論は,

三大悪童を直接呼び出して

聞き出すことでした。



「まずは三大悪童のマザーって

いう奴に会いに行こう。」


「それなら,

普段縄張りにしている

場所に行くのが早い。」



二人は公園を離れ,

近くの中野木商店街に向かいました。



表通りは一般人の買い物客や

学生でにぎわっていましたが,

少し外れの道に足を踏み入れると・・・。



人相の悪い不良少年や少女が

たむろしている暗黒街となっていました。



マザーの配下には少女がかなり

多く在籍しており,

幹部も同様となっているようです。



イツキ君の顔は彼らにも

知れ渡っていたので,

すぐに周りを取り囲まれて

しまいました。



そこには“阿須撃隊(トゥモロー・リペル)”の

リーダーである四橋猛(17),佐藤慎太(17)や

“シュワル・ツェ・ネッガ”のリーダーである

田宮根津(たみやねづ)(17)もいました。



<阿須撃隊 Wリーダー:四橋猛 佐藤慎太>





<シュワル… リーダー:田宮根津>



田宮「お前はイツキだろ。

何しにここへ来た。」

四橋「ここへ来る意味がわかっているのか?」



二人がメンチを利かせています。



田宮「マザーの首はやらねぇぞ!」



次々に恫喝をしてきましたが,

イツキ君は全く

動じることはありませんでした。



マザーの配下たちはすぐ横に

見知らぬ少年がいることに気付きました。



光「なんだお前は??

ここはお前みたいなガキが

来るところじゃねぇんだよ!」



「オレはリク!

マザーに用があるんだ。」



彼もまた何事にも動じない性格のようです。



光「ふざけんてんのかてめぇはよぉ!」



大声を出して威嚇してきたのは,

光源治(ひかるげんじ)(16)という少年で,

幹部である“紫式部連合”の

下位にあたる“光源治隊”のリーダーでした。



<光源治隊 リーダー:光源治隊>



あまりに喧嘩腰だったので,

リク君は話を進めるために

やむなくその少年を地面にひれ伏せました。



周囲は一瞬何が起きたか

理解していないようでした。



それはあまりに速く

振りぬかれた

捕網虫"天照"によって,

後頭部を直撃し,

そのまま地面にめり込む

ようにして倒れこんだのでした。



「一応これでも手加減して

いるんだからな。」



リク君は帽子の上から頭を

ぼりぼりと?きながら,

そう言いました。



もちろん相手は気を失って

何も聞こえていませんでしたが・・・。



「お前・・・。」



イツキ君の目には

リク君の動きが見えていました。



見えていたからこそ,

驚きを隠せませんでした。



やられたままでは格好がつかないので,

“光源治隊”約50人,

“阿須撃隊”約80人,

“シュワル・ツェ・ネッガ”約40人の

メンバーがもみ合うようにして

二人に突っかかろうとしました。



リク君はその場で,

捕網虫"天照"を10mほど伸ばし,

敵の攻撃を避けると,

長さを通常サイズに戻した瞬間に

落下の速度を利用して,

不良少年たちの塊に突っ込んでいきました。



大きな爆風と共に,

着地点に近い不良たちは

吹き飛ばされて

行動不能になっていました。



おそらく彼らは,

何が起きたのかわからないままに

気絶させられたことでしょう。



周囲に残った連中は恐ろしくなり,

先ほどの勢いをなくし,

茫然自失としていました。



この様子を見ていた,

“爆走・ポニーガールズ”のリーダーであり,

組織の幹部でもある影山という

少女がイヤコムを使って,

マザーに急いで連絡を取り始めました。



影山「ええ,お願いします。

イツキと一緒に来ている奴が

とにかくヤバイんです!」

生井「くそっ!こっちはお前たちの相手を

している暇なんていないのに!」



30人のメンバーから構成される

“秋田御米隊”のリーダーである

生井という少女が何か

意味ありげなことをつぶやきました。



そして5分も立たないうちに,

巨大な図体が遠くから見え始めました。



三大悪童で唯一の女子である

"聖母"マザーです。



身長は180cmを超え,

体重は100kgを超える巨体です。



気に入らない相手には胃酸を吐きかけて

衣服や皮膚を溶かすという

恐ろしい特技を持っています。



マザー「アタシは今とても

忙しいんだよ!

なぁイツキ!?」



<三大悪童 水俣静華 通称“聖母”マザー>



彼女はイツキ君の顔の目の前まで

自分の顔を近づけて,

恐ろしい形相で睨みつけました。



果たして二人はこの後

どうなってしまうのでしょうか。



そしてこれは二人にとって

想定済みなのでしょうか。



第一章 完





8篇 エピソード0シリーズ 第2章1~8話

第1話 怒れる聖母

エピソード0シリーズ 第2章
リク君とイツキ君は三大悪童の一人である

“聖母”マザーの縄張りに足を踏み込んでいました。



そこで暴れまわっていると,

本人が数多くの配下を

引き連れてやってきました。



彼女は身長180cm体重100kgの巨漢でした。



しかも年齢は11歳と三大悪童の中で

唯一年下の小学5年生なのです。



そんな彼女は圧倒的な力と

カリスマ性でこの地区に君臨していました。



彼女ははイツキ君をにらみつけます。



どうやら二人は以前から

お互いに面識があるようです。



マザー「先日,アタシの勧誘を断って

おきながらいったい何の用だ?」



“聖母”マザーはイツキ君を

幹部に迎えるために,

声をかけたのですが

断られていたようです。



その恐ろしいほどの形相で

睨みつけられた人間は,

夢にも出てくるほどの

恐怖を感じるといいます。



日和「しかしまぁ,

うちらのシマで暴れてくれたな。」

涼香「となりのガキはなんだ?

ふざけてるのか?」



マザーと共にやってきた

ナンバー2の日和と

ナンバー3の涼香がいました。



日和は17歳の少女で

中学を卒業と同時に

紫式部連合の3代目

レディース総長に就任し,

マザーを支えていました。



<マザー幹部No.2&紫式部連合 総長:紫日和 >



涼香も同じ年齢の17歳で

こちらも清涼納言連合を立ち上げ,

初代レディース総長として

名を挙げていました。



<マザー幹部No.3&清涼納言連合 総長:清水涼香 >



先ほどからこの場にいた,

“阿須撃隊”や

“シュワル・ツェ・ネッガ”は

彼女の下位組織にあたります。



涼香がリク君に視線を送りました。



「オレはリク。

マザーに用があって

イツキ君と一緒にここへ来た。」



マザー「用だと!?

アタシは貴様たちに

用なんかないね。」



彼女は取り付く島も

ありませんでした。



「単刀直入に聞く。

マサルという少年を

知っているか?」



イツキ君が有無を

言わずに問い詰めると,



マザー「人の話を聞かない奴だな!

マサル?誰だ?知らないな。」

日和「アタシ達には数百人のメンバーがいる。

中にはそんな名前の奴が

いるかもしれないが・・・。」



彼女たちは口々にそう言いました。



「いや,あいつは三大悪童の

メンバーではないと言っていた。」



涼香「じゃあ,余計にそんな

奴の事なんか知らねぇよ!」



イツキ君はさらに続けます。



「そいつが三大悪童の誰かに殺された。

俺はそいつを見つけ出し,

けじめをつけさせる。」



マザー「ああん?それが

アタシだっていうのか?」



彼女は大きく息を吸い込み,

一瞬だけ動きを止めると,



マザー「ゴバオァァァァ!!!」



大量の胃酸を口から吐き出しました。



「うおっ!?」



彼は間一髪でそれを避けました。



地面にまき散らされた胃酸は,

異様な音を立てながら広がっていきました。



「これは,胃酸か・・・。

しかも通常の人よりも

かなり量が多いし酸性度も高そうだ。」



マザー「その通りだ。

アタシの胃袋は特異でね。

こんなこともできるのさ。」



日和から1Lの牛乳パックを受け取ると,

一気に全部を飲み干しました。



マザー「ぐふっ。

やっぱりお口直しにはこれに限る。

レディは口臭にも気を配らなくちゃね。」



「(いやいや,次吐いたら牛乳が

出てくるんだろ・・・。

勘弁してくれよ・・・。)」



さすがのイツキ君も少しビビったのか,

マザーと距離を取りました。



日和「あたしたちはそんな誰か

わからない奴にかまっている

暇なんてないんだよ!」

涼香「そうだ!これからファザーの連中に

落とし前をつけさせるんだ!」



二人の言葉からはかなり

切迫した様子が伝わってきました。



「落とし前?なんでまた?」



リク君の問いにマザーは何と答えるのでしょうか・・・。



第2話 全面戦争に向けて 前編

エピソード0シリーズ 第2章
三大悪童のマザーを中心に日和と涼香の

幹部二人が並んで立っていました。



その後ろには幹部二人が持つチームのメンバーや

さらにその下位組織のチームもいました。



さらにマザー直属の部隊も

この後の事態に備えてなのか,

厳重態勢で彼女を護衛していました。



その数はざっと,40人の精鋭たちです。



商店街の裏路地には

入りきらないほどの人数が

すでに集まっていたのです。



その数はふくれあがっていて,

すでに500人をこえているようです。



先ほどリク君にやられた連中は

ようやく目を覚まし,

他のメンバーに介抱されていました。



マザー「アタシはここにいるメンバーを引き連れて

これから大戦(おおいくさ)をするのさ。」

日和「ここに集まっているのは精鋭ばかり。

マザーの名の下に大号令を

かけているからさらに集まる。」



ナンバー2の日和が

前に出て力強く言いました。



涼香「その数はゆうに800人は

超えるだろうね。

末席まで集めれば900人を超える。」



ナンバー3の涼香が

キセル煙草を咥えながら,

ドヤ顔でそう言いました。



ここにいるメンバーだけでなく,

他の場所からも続々と集まってくるようです。



「本気か?

とんでもないことになるぞ。」



リク君は彼女たちの凶行を

止めようと考えました。



「俺はお前たちの

行動に興味はない。

俺の目的がここじゃないなら

すぐにでも去るさ。」



イツキ君はこの場を

立ち去ろうとしました。



どうやら気持ちは次の三大悪童の

居場所に向かっていたようです。



リア「もしかしたら関係があるかもよ?」



マザーの少し後ろの位置で

彼らのやり取りを聞いていたようです。





<黒いカナリア リーダー:黒田リア 及びマザー参謀>



この少年は総勢80人の"黒いカナリア"を

まとめるリーダーで,

マザーの参謀も務めていました。



ちなみにこの少年の名前は黒田リア,

同じチームのサブリーダーで

双子の妹のカナがいました。



妹はこの場にはいないので,

別の場所で待機しているようです。



「どういうことだ?」



リア「マザー,少しだけ彼らと

話をしてもよろしいですか?」

マザー「時間が無いんだ。手短にな。」



彼女の許可を得たので,

黒田リアは話を続けました。



リア「我々がなぜ,

ファザーと戦争をしようと

しているのかを説明する。」



彼が言うにはそれが

イツキ君の知っている

マサルの死と関係があるかも

しれないとのことでした。



「じゃあ聞かせてよ。」



リク君は天照と月読を

背中にしまいました。



リア「事の発端はファザーの幹部である

“時尾”という奴がうちのメンバーの

時雨(しぐれ)さんをそそのかしたことが始まりだ。」



イツキ君は腕組みをしながら,

何も言わず話を聞いていました。



リア「時雨さんはその男を本気で

好きだったみたいだが,

敵対する悪童チームとの

恋愛など当然ご法度だ。」



マザーは日和から

2本目の牛乳パックを受け取り,

飲み始めました。



リア「案の定,その男は彼女から

俺たちがもっている情報を

盗もうとしていたようだ。」



「情報?ああ,

つまり弱みを

探していたってわけね。」



リク君が本質を突くことを言ったので,

周りの空気が一瞬変わりました。



一同はマザーがまた

怒り狂わないか心配していたのです。



マザーは牛乳を飲み干しましたが,

特に吐き出すことはしませんでした。



「なんでその二人が

恋仲だとばれたんだ?」



リア「匿名のタレコミが参謀である

俺の所に来たんだ。

時雨さんはマザー直属の

メンバーだったからな。」



彼は話を続けます。



リア「イヤコムで二人が普段デートをしている

というカフェの場所と時間だけ指定してきたんで,

念の為に部下に確認させに行かせた。」



「そうしたら,

本当に二人がカフェで

楽しくしゃべっていたってことかな。」



リク君が先に結論を

言ってしまいました。



リア「ああ,そうだ。」



さらにこの後マザーが

全面戦争を決意するに

至るまでの話がつづきます。



第3話 全面戦争に向けて 後編

エピソード0シリーズ 第2章
マザー「すぐに時雨を呼んで問い詰めたさ。

しかしあの子は何もしゃべらない。」



「それで?」



イツキ君にせかされるようにして,

リアが続きを語りだしました。



リア「結局その日,時雨さんはずっと黙ったまま。」



彼はその日のことを

思い出しながら続きを語ります。



リア「そして次の日に話は飛ぶ。

彼女は俺たちの目を盗んで組織の縄張りから消えた。

そしてすぐその後にファザーの配下にさらわれた。」



「誘拐ってこと・・・?」



リク君の問いかけにマザーは,



マザー「そんな生ぬるいもんじゃないさ。」



と言って暴れまわり,

怒りを隠そうとしませんでした。



涼香「マザー!落ち着いてください!」

日和「そうです・・・!」



二人の最高幹部が必死で

なだめようとします。



「その二人は,

恋仲だったんだろう?

誘拐じゃなくて

駆け落ちじゃないのか?」



いわゆる恋仲の二人が

ひっそりと姿を隠すことです。



リア「それはない。

時雨さんが手足を縛られて,

不自由になった姿を

撮影した写真が送られてきた。」



「送られてきた?どこに?」



リク君が少し納得していない

様子で質問をしました。



リア「俺のイヤコムの端末にだよ。

俺のIDはすでに

向こうに渡っていたみたいでな。」

マザー「写真にはあの子と

誘拐した奴も一緒に写っていた!」



彼女が再び怒り散らします。



「映っていた人物が

ファザーのメンバーの

一人だったというわけか。」



日和「ああ,"白虎隊"の

虎田虎次郎だ。」



<白虎隊 虎田虎次郎>



どうやら彼女たちの

言っていることは本当で,

かなりあせっている

状態のようです。



時雨という仲間を取り戻すために,

全メンバーに集合をかけ,

ファザーとその配下を相手に

全面戦争を仕掛けるつもりです。



リア「ここでお前が先ほど言っていた

マサルという人物が出てくる。」



「ようやくだな。」



彼の眼の色が変わりました。



リア「最近,三大悪童の周りを

嗅ぎまわっている奴が

いるという噂を聞いた。」



「あんたらの大将の所にもか?」



イツキ君はでかい図体の

彼女を指さしました。



マザー「失礼な奴だなぁ。

アタシんとこには来てないよ。

そういういやそんな話が

ちょっと前に出ていたね。」



彼女の耳にも

一応入っていたようですが,

まったく気にしていなかったようで,

今まで忘れていたようです。



日和「でも"ファザー"か"シーザー"の

どちらかには探りを

いれていたってことか?」

リア「おそらくは・・・。

でも確証はありません。

基本的に他の悪童と

馴れあうことがないので・・・。

情報がほとんど入ってきません。」



彼がそう説明すると,



「それで,

その探っている人物っていうのが

マサルって人だと言いたいんだね。」



と,リク君が言いました。



リア「ああ,そうだ。

もしかしたら探りの最中に

今回の誘拐の件を知ってしまい,

消されたんじゃないのか?」



「まさか,

そんなことがあるわけ・・・。」



そこまで言いかけて口をつぐみました。



「可能性としては・・・

あるね・・・。」



イツキ君とリク君と

同じ考えに至りました。



「ってことは,

あいつを殺したのは

ファザーの連中ってことか!」



イツキ君が激高して声を上げると,

マザーの配下数名は

ビビッて腰が抜けてしまいました。



マザー「お前,ただもんじゃないなぁ。」



彼女はイツキ君をじっくりと

眺めてこう言いました。



マザー「アタシたちの戦争についてきたな。

お前はダチの仇が打てる。

こっちにとっても大きな戦力になる。」



イツキ君の出した答えは・・・。



第4話 いざ庄外川へ

エピソード0シリーズ 第2章
三大悪童のマザーはイツキ君に

ファザーとの戦争への参加を求めました。



イツキ君は,



「いいだろう。

俺は俺の目的のために動く。」



と,答えました。



リク君もこの表明に同意しました。



マザー「好きにしな。

そうと決まればこの後の

軍議にも参加してもらおう。」



リク君はイツキ君の力になるつもりだったので

一緒についていくことにしました。



マザー「一応アタシの配下たちを

簡単に紹介しておいてやるよ。」



二人は面倒くさいので断ったのですが,

彼女はどうやら自分の勢力を自慢したいらしく,

聞き入れませんでした。



マザー「まずはこの二人。

日和と清香だ。

どちらも喧嘩の腕は

最強クラスだよ。」



二人はお互いに一瞬だけ目を

合わせた後,すぐにそらしました。



マザー「その辺の半グレ野郎なんか

には負けはしない。

女だからって甘く見ていると

ひどい目に合うからね。」



彼女は続けて,

黒いカナリアのリーダーであり,

参謀でもあるリアと,

その横に並んで立っていた

カナも紹介しました。



いつの間にか,

妹のカナが合流していました。



いつまで待っても兄がやってこないので

心配してかけつけたようです。



カナ「よろしくです・・・。

兄がいつもお世話になっているのです・・・。」



彼女はマザーに深々と

頭を下げてお礼を言いました。



一見おとなしそうな

少女に見えますが・・・。



マザー「ここまでが今回の大戦で

後詰を務めるだろう面々だ。

次は中陣を任せる傘下チームだよ。」



名前を呼ばれたリーダーたちが素早く

マザーの近くにやってきました。



マザー「"爆走・ポニーガールズ"の影山優香と

"赤い戦線(レッド・ライン)"の瀬良秀太だ。」



影山はチーム名にあるように

後ろ髪をポニーテールにしていました。



マザー「こっちにいるのが"光速の粒子(アグネス・タキオン)"の河内洋平と

"白い稲妻(ホワイト・ライトニング)"の山本完介だね。」



河内「今回の大戦では我がチームが

全力で相手を撃滅して見せます!」



この人物はかなり緊張している様子でした。



他にもいくつか不良どもが

集まったチームがあるようですが,

時間も押しているので

移動することにしました。



一部のメンバーはバイクや原付で移動し,

残りは歩くようです。



あまり目立って一般の人に

通報されることを懸念したようです。



リク君たちは歩きながら,

幹部とその配下グループが

全員集合できる広さのある

庄外(そうげ)公園へ向かいました。



そこはファザーとの縄張りの境界から

わずか500mの距離にありました。



「ねぇ,イツキ君。」



その公園へ向かう道中で

リク君がイツキ君に話しかけます。



「そのマサル君って人は何のために

悪童に探りをいれていたんだろう?」

「確かに気になるな。

だが,俺はあいつと会った時に,

悪童の"ある事"を調べていると言っていた。」



彼はつい先日のことを思い出して,

リク君に説明しました。



「まぁ,ファザーっていうのに

会ったら直接聞けばいいか。」



涼香「そんなに簡単じゃねぇよ!」



前を歩いていたナンバー3の

涼香が会話に入ってきました。



涼香「向こうがあんな手に出るってことはうちらが

全面戦争を仕掛けることは当然わかっているはずだ。」



「なるほど。」



リク君が相槌をうちました。



日和「つまり,向こうも総戦力を動員してくる。

そう簡単に大将の首は取れないってことだよ。」



涼香の隣を歩いていたナンバー2の

日和も会話に入ってきました。



「しかし,なんでファザーはその時雨って子を

誘拐した上にそんな写真まで

送り付けて挑発してくるんだ?」

「確かに・・・。

なんのメリットもないような。」



二人が再び考え込んでいると,



リア「おそらく,時尾と時雨さんの関係を利用して,

我々の戦力を一気に叩くチャンスと思ったんだろう。」



と,答えました。



マザー「あいつらの作戦にはまったふりをして

こっちからあいつらを壊滅させてやるのさ!」



彼女はすでにやる気十分な状態でした。



「一つ気になる。

その時雨って女のためになぜそこまでする?

組織全体を危険にさらしてまでする報復なのか?」



マザー「あたりまえさぁ!」



先頭を歩いていた

マザーが大声で叫びました。



マザー「時雨ねぇはアタシのたった

一人の姉なんだ。家族なんだよ。」



なんと時雨は彼女の姉だったのです。



姉であっても立場としては

マザーの方が上だったので

普段は呼び捨てにしているようです。



「そういうことか・・・。」



リア「俺にもカナという妹がいる・・・。

マザーの気持ちは痛いほどわかります。」



マザー,イツキ君とリク君,

そして幹部たちとその配下総勢900名が

庄外(そうげ)公園に集結しました。



作戦参謀であるリアより主な

役割と作戦が読み上げられました。



その内容を簡単にまとめると・・・。



・人気の少ない午前0に侵攻を開始

・なわばりの境界である庄外(そうげ)川を

橋と川から越えていく



・おそらくこちらの動きは察知されており,

向こうも迎撃態勢で応戦し,

川の土手付近で大規模な戦になるだろう



・勝利条件は悪童ファザーの

全面謝罪と賠償および時雨の解放



・リクとイツキは遊撃部隊として参戦する



・戦陣隊形(一部)は図の通りとする





*チーム名の後ろにある数字はおよその人数 

*陣形図は中陣まで表示



先方に二次傘下のチームが多く配置され,

第二~三の中陣に一次傘下チームや

一部の幹部チームとなっていました。



この図には表示されていないが,

マザーを守る本陣や後詰めには

日和や涼香などの部隊が配置されています。



陣形は魚鱗の陣を採用していました。



これは防御よりも攻撃に特化した陣形であり,

その配置が魚のうろこに似ている

ことからこの名前が付けられました。



時刻は23時55分・・・。



庄外(そうげ)川のマザー縄張り側にて・・・。



すでに三大悪童の一人"聖母"マザー率いる全部隊

約900人が息をのんで合図を待っている状態でした。



そしていよいよその時はやってきたのです。



第5話 庄外川の大戦①

エピソード0シリーズ 第2章
庄外(そうげ)川の土手下から慎重に陣を動かし,

先方隊が土手の頂上まで来たとき向こうの

対岸にはいくつかの光が見えました。



それはファザー率いる1000人近い

メンバーが発していた光でした。



歌仙「連絡します!すでに敵は万全の

迎撃態勢で待ち構えています!」





<秋田御米隊 リーダー:歌仙乙女>


"市城一九尾(いちしろいちくび)"という先鋒隊による

伝令がマザーや幹部らにすぐさま伝えられました。



彼女たちはまだ土手から数十メートル

離れた場所にいました。



そのころリク君とイツキ君は第一陣の

メンバーたちと一緒にいました。



第一陣の中で有力とされていたのは規模150人を誇る

"清涼納言連合"の配下チームである"阿須撃隊"がいました。



他にも同じく配下の"六出梨レディース"の

厩殿水滸(うまやどのすいこ)や

"秋田御米隊"の生井妹子も

士気の高いレディースのチームでした。





<秋田御米隊 リーダー:生井妹子>


光「いっておくがこれは俺たちの戦いだ。

マザーが参戦を認めたらしいが,

俺たちは別にお前たちの戦力など期待していない。」



先鋒を務める"光源氏隊"のリーダーは

自分たちの実力に絶対の自信を

持っているようでした。



「さっきリクにやられたくせに

その自信はどこから来るんだ・・・。

初めからお前たちと馴れ会うつもりも

味方になったつもりもない。」


「そうそう。

それぞれの利害が一致したから

今ここにこうしているんでしょ。」



リク君はまだ天照と月読をしまったままです。



「本当にそのアミで

戦うつもりか?」



イツキ君はすでにリク君の実力を

知っていましたが,改めて聞きました。



「こうみえて,

僕って殴り合っても

けっこう強いんだよ!」



二かっと笑いながらそう答えました。



「そりゃあ楽しみだ。」



マザーの名の下に参謀であるリアは,

先鋒の"シュワル・ツェ・ネッガ"と"阿須撃隊",

"光源氏隊"に川を渡って突撃するように命じました。



さらに相手へのかく乱として"六出梨(ろくでなし)レディース"と

"秋田御米(あきたおこめ)隊"には橋を渡って

敵の陣形を横から攻撃するように指示を出しました。



"市城一九尾(いちしろいちくび)隊"はリーダーの歌仙を中心に,

情報収集と他の陣営への伝令として川の手前に配置されました。



先鋒隊である第一陣はこの6部隊と

数十名のさらに小さい下位組織で構成されていました。



各陣営は配置につき,イヤコムによる

号令の合図で行動に移りました。



三大悪童のマザー陣営約900人,

ファザー陣営約1000人が

うなりをあげて衝突を始めました。



これがのちに不良界で伝説の戦いと語られる

"庄外川の大戦(そうげがわのおおいくさ)"です。



阿須撃隊が川を中ほどまで

渡ったところで,敵の投石が始まりました。



この部隊は魚鱗の陣の先端に

配備されていました。



先鋒隊の中では最も攻撃力が

ある部隊が担うポジションなのです。



この川はこの時期は水深が浅く,

平均してひざ下程度しかなく,

多少速度が遅くなるものの

渡河(とか)には支障がありませんでした。



田宮「投石とは卑怯な連中だ。」





<シュワル… リーダー:田宮根津>



シュワルのリーダーである

田宮が投石に苦戦しながらも

歩みを進めます。



佐藤「しかし,そんなことはお見通しだよ。」



<阿須撃隊 Wリーダー:佐藤慎太>



四橋「その通りだ,相棒!」



<阿須撃隊 Wリーダー:四橋猛>



阿須撃隊のダブルリーダーである

佐藤と四橋もひるむことなく進みます。



マザーの渡河先鋒隊はほぼ全員が

プラスチックや金属でできた

簡易の盾を装備していました。



投石に効果が見られないことがわかると,

ファザーの先鋒隊も川に入り,

突撃を開始しました。



阿須撃隊の斜め右後ろに

配備されていたのが光源氏隊でした。



この部隊のリーダーである光源治(ひかるげんじ)が

先に飛び出して相手に掴みかかりました。



どうやら一番槍は彼の手柄のようです。



川の流れに足を取られながら,

接近戦の喧嘩が始まりました。



他のメンバーも相手を見つけ,

取っ組み合いを開始しました。



あちこちで相手を罵倒しあう声と,

うめき声が聞こえてきます。



それぞれが必要最低限のライトを持っていたので

相手を見失うことはありませんでした。



周囲には電灯も多く,

視界は開けていました。



マザーの様々な部隊に川岸から投石が来るので,

渡河作戦は非常に危険が伴う任務となっていました。



リク君とイツキ君はしばらく

堤防の上から様子をうかがっていました。



「とりあえず,

相手の幹部を一人捕まえて,

ファザーの陣形と居場所を聞き出すのが早いか。」



「そうだね。

そうしようか。」



二人は川の渡河を回避し,

橋から正面突破で敵の陣形の

中に向かって行くことにしました。



いよいよ二人もこの戦いに

参戦していくことになるのです。



第6話 庄外川の大戦②

エピソード0シリーズ 第2章
先鋒隊の攻防は一進一退になると予想されていました。



魚鱗の陣で重要ポジションを務める阿須撃隊が奮闘し,

敵の陣地へ突っ込んでいきました。



一方でその右後側に配備された,

光源治隊は苦戦を強いられていました。



シュワル・ツェ・ネッガは相手との

実力がほぼ互角で拮抗していました。



光源氏隊50人と対峙する相手は

ファザーの先鋒隊の

極限の蜃気楼(リミット・ミラージュ),

極限の好敵手(リミット・ライバル),

ウッド・サターンの3チームでした。



規模はそれぞれ10人,20人,15人と少人数でしたが,

それなりにくせのある連中のようです。



"極限の蜃気楼"のリーダーを百家 卜(はっけ うらない)が,

"極限の好敵手"が沖邑と三ツ矢,

ウッド・サターンは紀 貫之(きの つらゆき)が

率いていました。



光「敵連合チームよりも人数は

こちらの方が上だ!数で押し切るぞぉ!!」



彼が大声でメンバーに発破をかけました。



しかし,光源氏隊のメンバーは何人かが

最初の投石で戦闘不能になり,

のこったメンバーも個別撃破され,

人数のアドバンテージは

すでにありませんでした。



光「ばかなっ!」



一方で川の中央付近まで進出していた

佐藤と四橋が率いる阿須撃隊でしたが,

ここで進撃のペースが止まります。



部下から多数の被害報告が

聞かされる状況に陥っていました。



四橋「そんな・・・!なぜ・・・。」



彼が相手のメンバーを見て

顔面蒼白状態になっていました。



佐藤「なぜ,"三猿"がこんな

前線に出てくるんだ・・・!?」



そこにはファザーの幹部でもある三猿と

呼ばれるチームが目の前にいました。



このチームは3人のリーダーによる

合議制で成り立っていました。



リーダーの名前はそれぞれ,

ミザール・ハグハグ,石清水(いわしみず)是清,

黄金井(きかない)雑夫と名乗りました。



年齢は全員が18歳と

彼らよりも若干年上でした。





石清水「快進撃ごくろうさーん!

ああ,何も言わなくていいよ!

全てわかっているから!」



そういうが早いか,

強力な脚力でジャンプし,

飛びかかってきました。



阿須撃隊のメンバーは次々に

川へ沈められていきました。



三猿は50人からなる組織で

人数では80人の阿須撃隊が上でしたが,

質は完全に三猿が上でした。



阿須撃隊のメンバーは三猿の

メンバーに次々と駆逐され,

ついには崩壊してしまいました。



リーダーである四橋も奮闘することなく,

一方的にやられ,戦闘不能になりました。



佐藤「おい,四橋!」



黄金井「人の心配をしている場合じゃないよぉ。

たいしたことないねぇ。

マザーの部下たち・・・。

あ,何も聞かなかったことにしてね!」

ミザール「俺は・・・何も見ていない。」



彼は白目をむいたまま,

戦っているようで相手が見えてないようです。



佐藤「こんなやつらに負けてたまるかぁ!!」



渾身の拳をミザールに突き出しました。



しかし,白目をむいて目が見えない

はずのミザールは軽くかわすと,

体勢を崩した彼に向かって強力な

かかと落としを脳天に浴びせました。



佐藤「ぐほっ!!」



彼はそのまま倒れこみ,

川底に沈んでいきました。



佐藤「今日から・・・俺は・・・

ここで大活躍する・・・

はずだったのに・・・。」



ものすごい数の不良軍団が

ザブザブと音を立てながら

川の中を進軍していきます。



マザー軍はすでに光源氏隊が潰走(かいそう)し,

阿須撃隊が半壊しており,

左陣に構えるシュワル・ツェ・ネッガ

のみが奮闘を続けていました。



彼らの相手は"巨悪な聖闘士(デビル・セイント)"で

秋桜 太郎(こすもす たろう)(15)が

まとめているチームです。



このチームはファザーのナンバー3である

岡嶋清(18)がリーダーを務める

籠球愚連隊の配下チームでもありました。



秋桜「俺のコスモが湧いてきている!!」



田宮「頭がいかれてんのか,

そっちのリーダーは!」



この言葉がきっかけとなり,

デビル・セイント総勢50人が

団子になって突っ込んできました。



田宮「よし,いまだ!」



阿須撃隊のリーダーである田宮が手を挙げて

メンバーに何か指示を出しました。



何か作戦があるのでしょうか。



第7話 庄外川の大戦③

エピソード0シリーズ 第2章
庄外川の中腹ではマザーの

先陣部隊であるシュワル隊と

ファザーの先陣部隊である

“デビル・セイント”が戦闘中でした。







シュワル隊の挑発によって,

デビル・セイントは“秋桜”を

含めたメンバー全員が

一団となって突っ込んできました。







田宮が合図を出し,

素早く二手に分かれて

広がってスペースを空けました。



するとデビル・セイントのメンバーが

次々とか川の中へ沈んでいきました。



最初に沈んだのは,

リーダーである秋桜でした。



秋桜「おい・・・ゴバッ・・

これ・・・どうなってん・・・

グハッ・・・。」



前の勢いに任せて次々と突っ込んで

いくので急には止まれず・・・。



シュワル隊はさらに彼らの後ろに回り込み,

残っていた部隊をスペースに

押し込んでいきます。



不意を突かれたデビル・セイントの

メンバーはパニックになり,

川に足を取られて,流されるか,

沈むかしていました。



どうやら,ほぼ浅いこの川で,

この部分だけはくぼみになっており,

水深が2mを越えていたようです。



暗闇で急に足を取られたことにより,

パニックとなってしまったのでしょう。



田宮「ちょろい連中だ!」



秋桜「俺の・・・屁賀沙栖龍聖拳を・・・

くらわせ・・・ゴボゴボ・・・。」



川の地形をよく知った上で

利用した戦術的な勝利でした。



この戦いには勝利したものの,

敵は鶴翼の陣を引いており,

さらに外側から畳みかける

ようにして迫ってきます。



田宮は阿須撃隊が“三猿”によって

壊滅させられたことを察知し,

侵攻方向をそちらへ向けました。







外側から向かってくるその他の勢力は

味方の他のチームに任せることにしました。



先鋒隊壊滅の知らせは“市城隊”から

すぐに本陣へ伝えられました。



それぞれのチームの情報統制係が

連絡専用のイヤコムを装着しており,

伝令はスムーズに行われていました。



マザーは知らせを聞き,

すぐに第二陣を送り出す

ことを決定しました。



すでに中陣として

左に“赤い戦線(レッド・ライン)”,

中央に“白い稲妻(ホワイト・ライトニング)”,

右に“光速の粒子(アグネス・タキオン)”が

配備されていました。





この3チームが三猿など

渡河してくる敵に対応するようです。



しかし,敵側も行動が早く,

増援として,四神とよばれる4チームの一角である,

"玄武"をシュワル・ツェ・ネッガへ向かわせ,

消耗した左側の3チームを支援するために,

同じく四神の一角である"朱雀"を送り出しました。







さらに三猿の後ろ盾として,

"ゴルゴダの丘"の姿が見えました。



このチームはファザーの参謀でもある手塚の配下に属していて,

メンバーは100人を超える大勢力となっていました。



歌仙「三猿の背後に大きな勢力が見えます!

おそらく高須率いるゴルゴダだと思われます!」



情報収集部隊でもある

市城のリーダー,

歌仙が叫びました。



マザー「向こうも本気だねぇ!上等だよ!」



本陣はかなり殺気づいていました。



彼女たちも場所を移動し,

堤防の上までやってきました。



戦況を良く見渡すためです。



少し時は坂戻り,庄外(そうげ)川にかかる

庄外(そうげ)橋での様子を確認してみましょう。



奇襲部隊として配備された六出梨レディースと

秋田御米隊は堂々と橋をわたっていました。



人数は合わせて50人ほどいたので

完全に気配を消して奇襲作戦を

実行することは不可能でした。



それはマザーの参謀であるリアもわかっていました。



彼女たちのチームの後ろには

リク君とイツキ君もいました。



「えっとロクデナシ?

の人たちかなり前に進んでいるね。」


「そうだな。今のところ敵の迎撃はないらしい。

このままなら橋を渡れそうか・・・。」



そう言った時,前から大きな悲鳴と

怒声が聞こえてきました。



「どうやら,そううまくは

いかないみたいだな・・・。」


「うん,そうみたいだね。」



二人は少しペースを上げて

前に進んでいきました。



その先には・・・。



第8話 庄外川の大戦④

エピソード0シリーズ 第2章
庄外橋を渡るマザーのチームを待ち構えていたのは,

ファザーの先陣部隊である鬼塚みひろ(17)が

率いるレディースチームである

マッド・ジュピターでした。



<マッド・ジュピター リーダー:鬼塚みひろ(17)>



さらにもう一チームは那須野清子(17)が

率いる同じくレディースチームの

ヤ・サイセーレディースでした。



<ヤ・サイセーレディース リーダー:那須野清子(17)>



マザー側は六出梨レディースの

厩殿水滸(うまやどのすいこ 17)と

秋田御米隊の生井妹子(いくいもこ 18)が

連携を取りながら戦いを進めることにしました。







厩殿「マザーのレディースを

なめるんじゃねぇぞぉ!!」





<六出梨レディース リーダー:厩殿水滸(17)>



とても女子と思えないほどの怒号で

彼女は敵の群れに向かって行きました。



手には愛用の木刀とゴルフの

アイアンを持っていました。



どうやら彼女は2刀流のようです。



仲間も我先にと敵の大群に

突っ込んでいきました。



生井「アタイらも負けてられないよ!」



彼女は飛び道具である

ボーガンを持っていました。



向かってくる相手の心臓めがけて

躊躇なくボーガンの矢を

放っていきました。



距離があるのでなかなか致命的な

ダメージを与えることはできませんでしたが,

戦況を有利に進めていました。



しかし,ヤ・サイをまとめる那須野が

最前線に出てきたことで状況が変わってきました。



那須野「そんなおもちゃ,

あたしには効かないよ。」



生井「ならためしてあげるわよ!」



生井はボーガンを構え,

矢を次々と放っていきました。



しかし,そんな攻撃を軽くかわしながら,

那須野は生井に近づいていきます。



そして,一周の隙をつき,

生井の腹に強烈なパンチを放ちました。



生井「ごほっ!!」



次の瞬間,那須野は彼女を持ち上げ,

橋の上から力強く川に向かって叩き落しました。



彼女は叫び声をあげながら水面に

背中から打ち付けられました。



生井を失ったことでチームの指揮が取れなくなり,

秋田御米は潰走(かいそう)してしまいます。



片側の大きな戦力を失った“六出梨”は

徐々に苦戦を強いられます。



厩殿「くそっ・・・。

なんてこった・・・。」



チームの幹部である斎藤力(15)と

北野鰐御(わにお)(16)が

フォローに向かいました。



<左:斎藤力 右:北野鰐御>



斎藤「ここは俺たちに任せて,

姉さんはマッドの連中を頼みます!」



彼がその場を離れて橋の

右側に向かおうとした時・・・。



北野「おい,敵の後ろからさらに何か来ているぞ!!」



大きな声を上げて指をさす方向には・・・。



ファザーの中陣を務めるはずの

四神の一つである"青龍"が見えました。



その規模は約40人で,リーダーには

十影龍五郎(18)がいました。



彼は隊の先頭に立ち,

チームを鼓舞しながら進軍してきました。



この戦況を読んでいたのか,

"黒いカナリア"が動き出します。



このチームはマザーの参謀である黒田リア(17)と

双子の妹であるカナ(17)が

リーダーを務める主力チームでした。



本来であればマザーの身辺を

防衛するはずですが,

こうして最前線にやってきました。



リア「さて,ここまでは予定通り。」



カナ「うんうん!みんなぱあっと!

やっつけちゃおっ!」



先ほどまでの内気な性格とは違い,

ダガーナイフを持つと性格が変わるようで,

早く人を殺したくて

仕方がない顔をしていました。





<黒いカナリア Wリーダー:カナ(17)>



それでも彼女は17歳にはとても見えないような

幼い容姿でかわいらしい顔をしていました。



しかし,不良界の巷では

"黒い死の鳥"とも呼ばれ,

恐れられていました。



彼らのすぐ前では

爆走・ポニーガールズが

奮闘していました。



ここから戦況を盛り返すことが

できるのでしょうか。



第9話 庄外川の大戦⑤

エピソード0シリーズ 第2章
庄外橋で先鋒隊の壊滅を受け,第二陣として待機していた

爆走・ポニーガールズが前に出ていくことになりました。



メンバーは約60人で影山優香(17)がリーダーでした。



彼女は自らチーム立ち上げ,喧嘩を繰り返しメンバーと縄張りを

広げていったストリートファイターでもありました。



そしてマザーにその実力を認められ,傘下に入ったようです。



影山「ここは私たちが食い止めるしかない!

みんな死ぬ気で戦え!!」



彼女の発声にチームは鼓舞され,

士気が高まっていくのがわかりました。



しかし,相手は鬼塚率いるマッド・ジュピターと

那須野のヤ・サイセーレディースです。



味方が一人また一人と倒れ,

気づけば人数は半分になっていました。



影山も男女関係なく何人か戦闘不能にして,

戦況を挽回しようと奮闘していました。



しかし,数の差は埋められることなく,

だんだんと押されていきます。



影山「まだまだ・・・。」



すでに敵のリーダーたちは後方に下がり,

戦況を見守るほどの余裕ができていました。



この状況をすぐ後ろで見ていた二人がいました。



リク君のイヤコムに連絡が入ります。



リア「そろそろ君たちの活躍が見たいんだが・・・?」



イヤコムを使って,

そうしゃべりかけると・・・。



「あれ?情報共有は市城の

メンバーを通じてじゃなかった?」



彼が含みを持たせた言い方をすると,



リア「これはただの世間話だよ。」



どうやら彼は二人が逃げないか,関する役目もあり,

二人に直接つながるイヤコムも持っていたようです。



「わかってるって!」



二人は爆走・ポニーガールズのメンバーを

かき分け,前に出ていきました。



影山「お前たちは・・・。

下がっていろ・・・。

お前たちに何ができる・・・。」



リク君とイツキ君の前の前には那須野清子率いる

ヤ・サイセーレディースが橋を占拠していました。







「何って・・・?

あいつらに勝てるけど・・・?」



平然と言って見せました。



敵のチームはこの橋の現状維持を任されているようで,

橋より手前には積極的に進軍してくることはありませんでした。



「じゃまなナスだ・・・。」



那須野「おいおい,今なんて言った?ナス顔だと??」



彼女が一番気にしていることを

言ってしまったようです。



「いや,そこまでは言っていないぞ・・・。」



リク君は天照と月読を取り出し,

戦闘準備万端のようです。



「いくっよぉぉぉ!!!」



大きな声を出し,

二本の捕虫網を前に突き出します。



大地二刀流 ―神速の打突・連弾-



ドドドドドドド・・・・・!!



高速で動くその打突によって

かなりの人数が致命傷を食らいました。



中には勢い余って橋から

落ちていく不良もいました。



那須野「なっなんだぁ!?」



彼女には何が起こっているのか理解不能でした。



影山「何が起きている・・・。

私たちがこれだけ苦戦していたのに・・・。

あんなガキが一人で・・・!?」



「こうしよう!

オレが雑魚の相手をするから,

イツキ君が頭を倒してくれ!」



ニカッと笑いながらそう提案しました。



「俺は誰の指図も受けない。」



そう言った後,リク君を見て,



「だが,悪くない案だ。」



と言いなおしました。



「でしょ!」



リク君は再び敵の群れに突っ込んでいきました。



第10話 庄外川の大戦⑥

エピソード0シリーズ 第2章
リク君はヤ・サイセーレディースにまったく

戸惑うことなく向かっていきます。





「さすがにこの人数差じゃ,

あまり手加減できないからね!」



大空二刀流 

-追撃の星(シューティング・スター)-



上空10mから流星がまるで

嵐のように降り注ぐ様は圧巻でした。



リク君が地上に降りる頃には30人からいた

敵のチームが壊滅していました。



どうやら横に陣取っていたマッド・ジュピターにも

被害を与えているようでした。



鬼塚「現状報告!いったい何が起きている!」



敵のリーダーが叫びます。



大量の砂ぼこりで前が

見えなくなっているようです。



「なんだこのガキは!」



完全に地上はパニック状態でした。



「いてぇよぉ・・・。」

「ぐふっ・・・。」



あちらこちらで

悲鳴や叫び声が聞こえます。



「まだまだ行くよ!!」



大地二刀流

―天之常立(あめのとこたち)-





両手を広げ,雨乞いのような

ポーズをとった瞬間・・・。



やはり高速でパニック状態の敵へ突っ込んでいき,

天照と月読を振りかざしていきます。



敵の飛び散る血がまるで雨のように降り注ぎました。



ヤ・サイセーレディース:全滅

マッド・ジュピター:20人近くやられて潰走



「降伏したほうがいいな。

俺も女を殴るのは趣味じゃない。」



那須野「くそっ・・・。

そんなバカな・・・。」



戦力を失った敵のリーダー那須野は

黒いカナリアのメンバーに

よっておとなしく拘束されました。



リア「期待以上だよ。」



参謀であるリアが二人に

近づいてきました。



「持ち場を離れていいのか?

まだ敵チームのリーダーがいただろ?」



リア「ああ,マッド・ジュピターの鬼塚のことかな。」



彼が指さす方向には誰かが倒れていました。



カナ「お兄!こっちは終わったよぉ!」



鬼塚の体の上で無邪気に

飛び跳ねていたのはリアでした。



「そっちも主力のメンバーは

相当な実力者ぞろいってわけか。」



リク君が納得しました。



しかし,ゆっくりと会話を交わす暇もなく,

次から次へと敵がやってきました。



ファザーの先鋒隊が壊滅したことで,

四神の"青龍"や"朱雀"が本腰を

入れて侵攻してきました。





影山「リアさん,すみません・・・。

自分がふがいないばかりに・・・。」



肩を落とす彼女に,



リア「いやよくやってくれた。

まだ戦いはこれからだ。いけるか?」



影山「はい。」



彼女は30人ほど残っていたメンバーを

かき集め,体勢を立て直しました。



カナ「向こうから青龍の辰野が

来てるよー!殺っていい!?」



橋ではリク君とイツキ君,

そして黒いカナリアのカナに

よって状況が改善されていきました。



一方で川の中腹では・・・。



第11話 庄外川の大戦⑦

エピソード0シリーズ 第2章
リク君たちが本格的に橋の上でファザーの

不良グループと戦いに入った時・・・。



川の中腹での戦況はというと・・・。



ファザー側は"ゴルゴダの丘"や"籠球愚連隊",

"庭球暴走隊"の一部が川の向こう岸から

こちらへと向かってきていました。



ファザーの先鋒隊である"極限の蜃気楼",

"極限の好敵手","ウッド・サターン"は

マザーの光速の粒子によって

潰走または半壊させられていました。



ただし激戦が続いていたため,

マザーの戦力は"赤い戦線","白い稲妻",

"光速の粒子"がかなり消耗していました。



そこで主力部隊の日和率いる"紫式部連合"や

涼香率いる"清涼納言連合"が参戦準備をしていました。





"シュワルツェネッガー"の田宮はまだ前線にいましたが,

組織としてはほぼ壊滅状態でした。



日和や涼香の両リーダーは渡河せず,戦況を見守り,

状況によっては一部の部隊を

橋の援軍に回すつもりでしました。



先鋒隊として活躍していた"三猿"の

メンバーはまだ健在でした。



しかし,部下のほとんどは戦闘不能にさせられ,

戦況とはしては厳しい状態でした。



しかし,三猿のリーダーたちの実力は本物でした。



<三猿 リーダーの一人:ミザール・ハグハグ>



ミザール「討ち取った・・・ぞおぉ!!」



ミザールが大声で叫びました。



"赤い戦線"のリーダーである瀬良秀太が

ミザールとのタイマンに負け,川底へと沈んでいきました。



すぐに部下が救出したため,

一命は取り止めましたが,

これ以上の戦闘は無理でした。



リーダーを失ってもなお,

"赤い戦線"は怯むことはありませんでした。



しかし,"ゴルゴダの丘"の幹部や実力者が"三猿"に合流し,

戦力に加わったため,彼らは健闘むなしく壊滅しました。



すぐに"白い稲妻"が援軍に駆けつけたのですが,

これを打ち負かす力はありませんでした。



ほどなくして,リーダーである山本完介の

敗北が全部隊に知れ渡ることとなります。



高須「俺たちが来たからには安心だぜ!三猿のみなさん!」



この上から目線の男が"ゴルゴダの丘"の

リーダーである高須播磨(18)でした。



黄金井「あんたの声は何も聞こえナーイ!」



三猿の一人である黄金井雑夫がそう言いました。



高須「なんだとっ!?」

石清水「ふごふごっ・・・!」



同じく三猿のリーダーである石清水是清が

川の少し先を指さしました。



高須「あれは,マザーの主力の

清涼納言連合じゃねぇか!」



彼は部下の群衆をかき分け,

最前線に出ていきました。



彼の大きな体躯は,見掛け倒しではありませんでした。



ストリートではほぼ負けなしであり,

さらに相手が許しを乞うても暴力をやめることは

ない残虐性は敵味方問わず恐れられていました。



そしてついに"清涼納言連合"と

"ゴルゴダの丘"がぶつかりました。



そのすぐ横では"光速の粒子"が

"籠球愚連隊"と戦闘状態にありました。



それをフォローするために

"紫式部連合"も参戦し始めました。



これで堤防に残っているのは情報伝達の"市城"と

マザー率いる本陣部隊だけとなっていました。



敵の"籠球愚連隊"は組織ナンバー3である

岡嶋清(18)がヘッドとなり,

総勢150人ほどの大規模な愚連隊でした。



傘下のチームには先ほど敗れた

"巨悪な聖闘士(デビル・セイント)"や

"マッド・ジュピター"がいました。



ちなみにマッド・ジュピターは同じく先ほど敗れた

ウッド・サターンを傘下に取り入れていました。



このようにそれぞれのチームが傘下などを

抱えながら巨大な悪の組織となっていきました。



それを束ねるのが圧倒的なカリスマ性と

戦闘能力を持つ人物たちでした。



それが今の三大悪童です。



第12話 庄外川の大戦⑧

エピソード0シリーズ 第2章
ここまでの戦況をもう一度確認してみましょう。



敵の主力である"ゴルゴダ"の参戦で,"赤い戦線"は壊滅。







"三猿"も負けずとマザーの"白い稲妻"をつぶします。







さすがに組織としての勢力は

ほとんどありませんでしたが,

彼らは個々の能力が並外れており,

まだまだ戦力としては健在でした。



そしてゴルゴダと清香率いる

"清涼納言"がぶつかります。



"籠球愚連隊"の岡嶋は怒涛の勢いで

"高速の粒子"に攻撃を仕掛けます。







疲労しきった光速の河内達に

それを押し返す力は残っていませんでした。



ついに河内率いる"光速の粒子"が壊滅しました。



これで川の中ではそれぞれ主力とされる

後詰めチームがぶつかり合う展開となっていました。



ちなみに三猿は一度前線から後方へ戻されました。







すでに戦端が開かれてから1時間以上が経過していたため,

疲労回復のため下げたのでしょうか。



橋での戦況については・・・。



すでに"黒いカナリア"が中心となって"朱雀"や"青龍"の

リーダーである鳥川肝之助(18)と



<四神 朱雀 リーダー:鳥川肝之助>



十影龍五郎(18)を倒していました。



<四神 青龍 リーダー:十影龍五郎>



彼らは逃げ出すことなく最後まで戦い抜きましたが,

参謀でもあるリアと戦闘狂少女の

カナはすさまじく強かったようです。



リク君とイツキ君の二人はここまで

特に幹部やリーダーを倒すことはなく,

無難に橋の向こう側まで来ることができました。



リア「ここからが大事だ。」



彼が慎重に進めようとしました。



影山「いよいよ敵の本陣に

奇襲をかけるんですね。」



美しいポニーテールをなびかせながら,

リーダーの影山がそう言いました。



第二陣を務めた"爆走・ポニーガールズ"はメンバーこそ

10人ほどに減っていましたがまだ健在でした。



カナ「つっこんでいって

全員ぶっ殺せばいいじゃん!」

リア「そうはいかない・・・。」



カナの行動を制止すると,

草陰に隠れて敵の様子を

確認することにしました。



おそらく橋のファザー部隊がすべて壊滅した

ことは本陣に伝わっているはずなので,

すぐに敵の新手がやってくることを警戒していました。



「イツキ君,オレいいこと考えたんだけど。」

「奇遇だな。俺もだ。」



二人は後方で何やらひそひそと

話し合った後,姿を消しました。



ここで場面が切り替わり,

ファザー陣営では・・・。



彼らは堤防の上に直属の部隊を置き,

戦況を見渡せる場所で待機していました。



ファザー「順調!順調!だろ手塚?」



隣で立っていた手塚に話を振ります。



ファザー本人はどこからか調達したキャンプで使う

大型のリラックスチェアーに座ってくつろいでいました。



庭球暴走隊はすでに堤防下で川に入る準備をしていましたが,

リーダーの手塚は参謀も兼ねるため,本陣から指示を出していました。



手塚「しかし,わが傘下もかなりの痛手をこうむりました。」

ファザー「そうなの?」



手塚に対して,気のない返事をしました。



手塚「はい。"ゴルゴダ"こそ健在ですが,

"極限の好敵手"や"辰野",

さらに下位組織である

"極限の蜃気楼"も失いました。」



この手塚という人物には

多くの傘下チームがいたようです。



手塚「残っている傘下は田岡の

"新・田岡組"くらいです。

こちらを橋の迎撃にあてます。」

ファザー「いいんじゃない!それで!」



彼はぐびぐびと手に持っていた

焼酎瓶を飲み干しました。



彼は未成年なので,中身はきっと

サイダーなのでしょう・・・。



多分・・・。



手塚「ありがとうございます。

田岡たちはすでに橋に向かっています。

それから"白虎"の虎次郎と

連絡が取れない状態が続いています。」



ファザー「ふぅん・・・。」



彼はまた気のない返事をした後,



ファザー「それよりもよ・・・。」



と,話題を変えました。



手塚「なんでしょう?」



少しの沈黙が流れた後,

彼が口に出した内容は・・・。



ファザー「マザーの奴はなんでまたこんな

大戦(おおいくさ)を仕掛けてきたんだ?」



それに対して参謀の手塚は一言,



手塚「さあ・・・?」



これは一体どういうこと

なのでしょうか・・・。



第13話 庄外川の大戦⑨

エピソード0シリーズ 第2章
堤防の上にいたファザー率いる

本陣に動揺が走りました。



なんと,先ほどまで橋にいたはずのリク君とイツキ君が

ファザーのすぐ目の前にいたからです。



手塚「なっ!なんだ貴様は!」



<庭球暴走隊 リーダー:手塚紫苑 及びファザー参謀>



「名乗る必要はないだろう。」



イツキ君が近づいてきます。



リク君がよってくるザコたちを

次々になぎ倒していったからです。



ファザー「お前はイツキだな。

こっちの世界じゃあ有名人だわな。」

手塚「イツキ!あの,イツキ!?」



そしてすぐ手が届くところまで

ファザーに近づくことができました。



これが先ほど二人が

考えていたことだったようです。



相手のスキをついて

本陣へ乗り込んだのです。



手塚「おおおおぉ!」



回し蹴りを放って牽制します。

しかし,イツキ君はそれを素早くかわします。



「イツキ君,どいてぇ!」



上を見ると,リク君が飛んでいました。



―大空二刀流 天空の十字線(スカイクルス)-



交差された斬撃が彼とその周囲を襲います。



手塚は一撃目こそかわしたものの,

二撃目をよけきれず額に斬撃がかすります。



手塚「くそっ!!」



額が血だらけになり,

すぐに持っていた

タオルで止血をしました。



ファザー「お前は何だー?

手塚相手にここまでやるとは!」



手塚「俺にやらせてください!

このままじゃ気がすまない!」



起き上がると,再び前に出てきました。



しかしイツキ君の強烈な

フックが顎に入ってしまいました。



「無理をするな。

あいつの攻撃をかすったとはいえ,

食らえばただじゃすまない。」



イツキ君はすでにリク君の尋常ではない

強さを認めているようでした。



「俺が何しにここへ来たかわかるか?」



イツキ君はファザーへ視線を向けます。



ファザー「あの女にそそのかされて

俺の首を取りに来たか。」



「聞きたいことがあってな。」



ファザーは直属の部下に少し

下がるように手で合図を送りました。



これ以上この二人と部下を戦わせても

無駄に消耗するだけであると判断したようです。



ファザー「自分勝手はいけないなぁ!

これだけ好き勝手暴れたんだ。」



彼が雄たけびを上げるとその衝撃で

周囲にいた彼の味方の一部が

耳を抑えながら転げまわりました。



ファザー「ほう。なかなかやるな。」



彼は身長190cm,体重は軽く120kgを

越えていましたが,信じられないほどの

跳躍力で飛びかかってきました。



イツキ君は素早く避け,

体勢を立て直しますが,

今度は彼のラリアットが

首元めがけて飛んできました。



「なっ!?」



間一髪でしゃがみ込んで避けましたが,

そこをすかさず強烈な蹴りに見舞われました。



イツキ君は口から血反吐を吐きながら,

宙に投げ出されました。



「イツキ君!?」

「心配するな・・・。

急所はかわした・・・。」




右手で口から垂れている血をぬぐって立ち上がると,

今度は彼がファザーめがけて突っ込んでいきました。



二人の対決の行方は・・・。



第14話 庄外川の大戦⑩

エピソード0シリーズ 第2章
庄外(そうげ)川の堤防で三大悪童の

ファザーとイツキ君が闘っています。



戦闘の影響で周囲には土煙が立ち込め,

二人の様子がよく見えなくなっていました。



唯一,すぐ後ろにいるリク君と,

敵の幹部である手塚という男だけが

戦いの様子を間近で見ることができました。



二人の熾烈な攻防は続きます。



手塚「まさか信じられない・・・。

あのファザーと渡り合える人間が

他の悪童以外にいるなんて・・・。」



一瞬の隙をついた攻撃で,イツキ君は

再び投げ飛ばされてしまいました。



やはり重量の不利は大きいようです。



「今度はオレがやる!」



リク君がイツキ君の前に出ました。



「おい,まて・・・。

俺はまだ負けちゃいないぞ!」


「わかってるって!」



リク君は捕虫網を2本とも背中にしまいました。



「さっき言ったじゃん,

オレは拳も強いって!それを証明するよ!」


「無茶だ!」



そういうが早いか,リク君が

ファザーの間合い近くで構えます。



ファザー「今度はお前か!

俺を楽しませてくれるんだろうな!?」



「約束する!」



次の瞬間,リク君の出した右の拳と

ファザーの拳がぶつかりました。



ドオォォォンッ!!

大きな衝撃音が耳に響き渡ります。



ファザー「やるなぁ!お前も俺たちの

チームに入れてやりたいぐらいだ。」





「悪いけどオレはもう

チームを立ち上げているんだよ!」



二人は闘いながら会話を交わします。



リク君はファザーの攻撃を

巧みによけ,攻撃の隙を伺います。



何発かはファザーの急所に

当てるのですが,効果は薄いようです。



ファザー「ほう!気になるな!

どんなチーム名なんだぁ?」



リク君が自信満々に答えます。



「少年昆虫団だ!」



ファザーは一瞬呆気にとられました。



ファザー「昆虫・・・?

虫か・・・!?

そりゃ傑作だ!!」



彼は攻撃の手をゆるめません。



そしてとうとうリク君はファザーの

ファーストアタックを食らいます。



「ぐふっ・・・!?」



さすがのリク君にも堪える威力だったようで,

その場でうずくまってしまいました。



イツキ君が傍に駆け寄ります。



「おい,何をやっているんだ!

さっさとそのアミを使えよ!」


「同じ小学生で武器を持っていない。

さらに一対一だ。

だからこれは使えない。

そういう約束なんだ。」



リク君はめげることなく,

立ち上がって構えをとります。



「約束・・・?」



二人の闘いが5分程続いたでしょうか・・・。



イツキ君はいい加減自分も

ファザーと闘いたくなってきました。



彼は城島に鍛えられてから今まで自分よりも

強い相手と闘ったことがありませんでした。



ファザーという強敵と闘えることは

自分の成長にもつながると思ったようです。



「リク代われ!

もう一度俺がやる!」



手塚「さっきから聞いていれば

ふざけたことばかり・・・!」



参謀である手塚が牙をむいて

こちらにけしかけてきました。



しかし,実力は完全にイツキ君が上でした。



手塚「くっ・・・。」



ぐおぉぉぉぉ・・・。



何やら地鳴りのような

音が聞こえました・・・。



「なんだ!?」

「!?」



その音の正体とは・・・。



第15話 庄外川の大戦⑪

エピソード0シリーズ 第2章
庄外川橋を超高速で動く物体と後ろから

ついていく人の群れが確認できます。



先頭を走っているのは三大悪童のマザーです。



必死についていくのは直属部隊の親衛隊と

リク君達から遅れてついてきた,黒いカナリアと

爆走ポニーガールズのメンバーでした。



マザー「ぶ・っこ・ろ・すぅぅぅ!!」







なんとマザーがファザーの

構える本陣に突撃してきました。



先ほどの唸り声は

彼女の怒号だったようです。

新田岡組はあっという間に

壊滅させられたようでした。



「なんでお前がここに来るんだよ!」

「やっぱりマザーって面白いなぁ・・・!」



二人はそれぞれ思ったことを口にしました。



マザー「後ろで構えてちまちま

結果を待つなんて性には合わねぇ!」



どうやら部下たちに窘(たしな)められて,

ずっと出陣を我慢していたようですが,

なかなか戦況が思わしくなく,

しびれを切らして出てきてしまったようです。



川の中ではそれぞれの配下たちが

いまだ戦闘状態にあります。



マザーはリク君をはねのけ,

ファザーの頬に思いっきり殴りかかりました。



バッチコオォッォォィィィ!!!



その衝撃音はあまりに大きく,

鼓膜が破れるほどでした。



彼は不意を突かれたからか,

地面に倒れこみました。



ファザー「いってえなぁ・・・。」



しかし,彼は何事もなかったかの

ようにすぐに立ち上がりました。



リア「リク,イツキ・・・。

悪いがマザーはもう誰にも止められない。」

マザー「時雨はどこにいるんだよぉ!!!

早く返しやがれ~!!!」



ボッコーン!

ズドーンッ!!

グシャァ!!!



ファザーの部下に八つ当たりをするので,

彼の部下たちが次々と血を吐いて倒れていきます。



ファザー「はぁ・・・!?

何のことだぁ!?」



「おいまて!俺が聞きたいことが先だ!」



イツキ君はこのタイミングで口を開きました。



「ファザー!マサルを殺したのはお前か?」



ファザー「おまえらはさっきから何を

わけのわからんことを言っているんだぁ!!」



彼の怒りも頂点に達しているようです。



カナ「ファザーを殺していい?」



リア「カナ,待つんだ!いくら

お前でもあいつは無理だ!」



マザーの参謀でもあるリアはファザーと

マザーのやり取りに違和感を覚えました。



それはリク君も同様だったみたいで,



「ねぇ,リアさん・・・。」



と,声をかけました。



マザー「だから!お前の部下がうちの大事な

時雨をだまして誘拐したんだろうがぁ!!」



怒れるマザーを抑えることは

ファザーの親衛隊にもできませんでした。



ファザーが直接マザーの腕をつかみ力で

制止しようとしますが簡単ではありません。



ファザー「こっちこそ聞きたいなぁ!

なんで総力をかけてうちをつぶしに来る!?

今までお互いにうまく

不可侵でやってきたのによぉ!」



二人の取っ組み合いは続きます。



マザー「だから何度も言ってるんだろうがよぉ!!

貴様が姉の時雨を誘拐したからだ!」



手塚「何のことだ・・・?

我々は一切そんなことはしていないぞ。

そもそも貴方に姉がいることすら初めて知った。」



リク君はこのやりとりを聞いて,



「これが違和感の正体だ・・・。」



とつぶやきました。



マザー「どこにいるんだ!時雨おねぇ!

それとおねぇをそそのかした

時尾っていうのはどこだぁ!?」



ファザー「そういえば,

あいつはどこにいるんだ?」



その時でした。



イヤコムに受信を知らせる

通知音が鳴りました。



マザー「歌仙か!今忙しいんだよ!」

ファザー「ああ?白虎?それがどうした?」



二人のイヤコムに配下から

緊急の連絡が入りました。



一瞬だけその場が静まり返りました。



そして二人そろって

口を開いてこう叫びました。



「悪童のシーザーが全部隊を

引き連れて奇襲を

かけてきた,だとっ!!!」



―第二章 完-



8篇 エピソード0シリーズ 最終章1~16話

第1話 悪童の激突 前編

エピソード0シリーズ 最終章
三大悪童であるマザーとファザーは

庄外川にて激突しました。



お互いが疲弊(ひへい)してきた

このタイミングにて,

ある知らせが届きました。



歌仙「マザー大変です!

シーザーが攻めてきました!

それもおそらく全軍突撃です!!」



川の上流と下流から二つの勢力を

挟み込むようにして陣取っていました。



真っ暗な堤防と川の中で怒号だけが飛び交っていました。





さらに今のこの場にあるファザーの本陣の

背後からもかなりの勢力が近づいてきます。



そこにはどうやら三大悪童のシーザーもいるようです。



彼の轟名は"皇帝"と

呼ばれていました。



ファザー「なかなか面白いことをしてくれるなぁ!」



マザー「あの先輩には一度,

お仕置きしてやろうと

思っていたところさ。」



二人はこの状況をむしろ

楽しんでいるようでした。



手塚「くそっ!いったい何が

起きているんだ!?」



リア「わからないが,

非常事態ということだけはわかる。」



それぞれの参謀はお互いに

この状況を危惧していました。



「違和感の正体はこれだったんだ。」



リク君は何かに気づいたようです。



「つまり,こいつらは

はめられたってことか。」



その発言に全員が静まりました。



しかし,その時間は一瞬で,

すぐにマザーが奇声を上げました。



キィィィィ!!!!



それによって両陣営の一部は

その場に倒れこみました。



手塚「ファザー。白虎の虎田が

寝返ったようです。」



リア「その虎田ってやつがこんなものを

送り付けてきたんだ。」



その場で例の写真を公開すると,

ファザー陣営は目を疑っていました。



ファザー「俺は常々,部下たちに好きなことを

やって生きろと教えている。」



リク君とイツキ君は

黙って聞いています。



ファザー「だが,こんなことを

しているという報告は受けてない。」



一見すると冷静さを保っているようでしたが,

内心はかなり怒りがこみあげているようです。



ファザー「時尾ならこの件について

何か知っているってことか・・・。」



手塚「あいつは今日の招集に顔を出していません。

何度か連絡したのですが全くつながらないんです。」



肝心の人物がここにはいないようでした。



カナ「結局さぁ~,誰をやっちゃえばいいのさ!?」 愛用のアーミーナイフを

ファザーの前に突き出します。



リア「やめておけ。

お前ではこの男にかなわない。」



カナ「え~!そんなことないのにぃ!!」



普段はあれほどおとなしかった彼女ですが,

どうやら血を見るとスイッチが入り,

狂気となるようです。



ここでやり取りをしている間にも

次々と情報が入ってきました。



とりあえず,この場にいる人間が

同時に情報を把握できるように,

イヤコムの設定を変更しました。



マザー「お前んとこの部下がシーザーに寝返ったんだな?

ならば責任の一端はお前にもある!」



彼女は渾身の力を込めて右の拳を振りぬきました。



ファザーはそれを十字受けの構えで防ぎます。



「おいおい,そんなこと

やっている場合じゃないでしょ・・・!」



リク君の声に耳を貸すわけもなく,

三大悪童のトップ二人の激突が始まりました。



第2話 悪童の激突 後編

エピソード0シリーズ 最終章
三大悪童同士の戦いは

周囲に多大な影響を与えます。



マザーが怒りを抑えきれなくなって,

ファザーに殴りかかりました。



彼はそれをかろうじて交わした後,

カウンターに放った後ろ回し蹴りは

マザーの頬を掠めます。



しかし,その風圧はすさまじく,

後ろにいた彼女の手下の何人かは

巻き添えを食らって

バタバタと倒れていきました。



一方でマザーが繰り出す目にも映らぬ拳の連打は,

近くにいたファザーの貧弱な部下たちをその衝撃波だけで

吹き飛ばしていきました。



二人の戦いによって部下の一部はパニックに陥り,

阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄と化していました。



ドッゴンー!!

ボッカァーン!!



ヴァキヴァキヴァキ!!

ボキペギャァ!!



鈍い音が二人の間から

絶え間なく聞こえてきます。



その間にも周囲の親衛隊や直属の部下たちは

巻き添えを食らって倒れていきます。



気づけばその人数は半分ほどになっていました。



マザー「はぁはぁ・・・。」

ファザー「うぐっ・・・。」



お互い口から血を流し,

体は打身によるあざや

切り傷によって損傷していきました。



リア「(こうなっては誰も

マザーを止められない・・・。)」



手塚「(これは完全に想定外だ・・・。」



悪童たちは持てる力を

全てぶつけて戦っていました。



一瞬だけ,お互いが

間合いの外にでました。



相手の出方を見ているようでした。



マザー「落とし前をつけろやぁ!!」

ファザー「勝手なことを抜かすんじゃねぇよ!」







再び間合いを詰め,

二人がそれぞれの顔面を

めがけて拳を放った時・・・。



どっごおおおん!!



まるでビルが倒壊したかのような大きな音と

ともに周囲に土煙が立ち込めました。



「いい加減にしろよ・・・

てめぇら・・・!」



なんとイツキ君が間に入り,

二人の拳を自分の腕で止めていたのです。



「イツキ君・・・!」

「三大悪童っていうのは

そろいもそろってバカなのか?」



彼の挑発のような言葉に,



マザー「なんだとぉ!?」



と言ってにらみを利かせます。



「川を見てみろ。」



真夜中なので視界は明るくなく,

はっきりとは見えません。



しかし,その視線の先には,

マザー陣営とファザー陣営が

シーザー陣営に取り囲まれ,

苦戦している様子がたしかにありました。



「ここでお前たちが無駄に争えば争うほど,

自分のチームの連中は無駄死にするだけだぞ。」



ファザー「ぬぅぅ・・・。」



二人はまだ拳を下げません。



「それに俺はあのシーザーに用事ができた。

お前たちがここで気が済むまで

暴れるなら好きにしろ。」



彼は二人の拳から手を放しました。



「俺は向かってくるシーザーに

聞きたいことを問いただす。」



「イツキ君の言うとおりだ。

すぐに態勢を整えないと

あいつの思うつぼだよ。」



マザー陣営の参謀であるリアが,



リア「今すぐに,ここに残っている

部隊を全て川へ向かわせ,

日和さんや清香さんの

援護に向かうべきです!」







と進言しました。



この状況はもう一人の三大悪童である

シーザーの思惑通りなのでしょうか・・・?



第3話 態勢の立て直し

エピソード0シリーズ 最終章
ファザー陣営の参謀である

手塚が口を開きます。



手塚「俺の顔に傷をつけた,

お前たち二人は絶対に許さない!」







リク君とイツキ君を指さし,

その怒りをぶつけます。



「・・・。」



手塚「だが・・・。

この状況ではお前たちの

言うことが理にかなっている。」



彼はファザーに近づき,



手塚「我々も残るチームを全て川へ向かわせ,

ゴルゴダ達の援護をしましょう。」



と進言しました。



彼は少し考えてから,



ファザー「そうだな。

お前の庭球遊撃隊も

まだ健在だな。

すぐに指示を出せ。」



と,命令を下しました。



手塚「わかりました!

三猿の三人も健在なので再度,

川へ向かわせます。」



「三猿・・・?

色々といるんだな・・・。」



満身創痍状態の爆走ポニーリーダーである影山が,



影山「しかし,ここに迫ってきているシーザーと

その取り巻きはどうするんですか?」



と,心配していました。



マザー「アタシとこいつがここに残って相手をするさ。

それからリアの部隊もここに残れ。」



こいつとはファザーを指していました。



ファザー「勝手だなぁ~!まぁいいさ。

こうなった以上,あの野郎には

直接おしおきをしてやらねば!」



マザー「それから,

イツキとリクの二人もここに残れ。」



彼女の命令口調にも気にすることなく,



「当然だ。

ここに残らなければ

シーザーに聞きたいことも聞けない。」



と,答えました。



ファザーも自分の親衛隊の一部を残しました。



手塚はすでに,

自分のチームを動かすために

この場から消えていました。



そうこうしている間に,

堤防の向こうから大きなうねりとともに,

多数のシーザー部隊が攻め込んできました。



マザー「きやがったなぁ!」



「ああ,黒幕登場だ。」



こちらの陣営とわずか

100mの距離で敵陣営は

動きを止めました。



そして,その人の群れを割るようにして,

中から一人の男が出てきました。



男といっても年齢は

わずか12歳の小学6年生です。



しかし,その風貌は

全く少年には見えませんでした。



身長こそ,他の悪童よりは小さめですが,

それでも180センチはありました。



真っ黒な長髪をなびかせています。



筋肉粒々というタイプではないので,

体重も二人には敵わないでしょう。



しかし,その目から放たれる殺気と,

体にまとわりつく野望に満ちたオーラは

決してファザーとマザーにも引けを取りませんでした。



何やら部下と会話したあとで叫び始めました。

シーザー「ごきげんよう!

お二人さん!

さっそくだが死んでくれ!!」



彼が右手を高く上げ,

その手を振り下ろすと,

後ろに控えていた彼の配下たちが

一斉に飛び出してきました。



いよいよ庄外川の戦いも

大詰めを迎えてきました。



第4話 黒幕登場

エピソード0シリーズ 最終章
堤防の東西に対峙する

勢力がありました。



西側にはマザーとファザーの陣営,

さらにリク君とイツキ君の二人。



東側にはシーザーの直属のチームと

思われるメンバーがそろっていました。



この中には直属のチーム100人と参謀である

“武留歌”が率いる“チーム・ウイリアムズ”

総勢200人がいました。



さらに楠十傑と呼ばれる幹部チームの一部

主力メンバーとその配下が

50人ほど合流していました。



シーザー「いよいよ俺の時代が来た!

ここまでの作戦は

全て俺の思い通りになっている!」



陣営の先頭に立って大声で笑うこの人物こそ,

三大悪童の一人“シーザー”と呼ばれる男でした。



轟名は"皇帝"と呼ばれていました。



彼のすぐ横には,チームの参謀である

武留歌真琉玖(ぶるうた まるく)がいました。



シーザー「三大悪童と呼ばれるようになってから

早1年!長いような短いような1年であった。」



武留歌「はっ!ついに皇帝の苦労が

報われる日が来るとは。

今日はなんと良き日でしょうか。」



この武留歌という人物は忠実で優秀な部下として

シーザーからの評判が高いのですが,

自分よりも格下の相手には容赦ない態度と

言動をとる癖のある人物でもありました。



年齢は17歳でしたが,

見た目はもう少し老けて見えました。





<チーム・ウイリアムズ リーダー:武留歌真琉玖 及びシーザー参謀>

天然パーマのかかった髪の毛を少し触りながら,



武留歌「思えば,全ての始まりは頭目のバカな手下を

手懐けたところから作戦は始まっていました。」



シーザー「そうだ。白虎の奴らをこちらにつけ,

裏切らせるタイミングを見計らっていたところ・・・。」



彼が言おうとした内容を武留歌が補足します。



武留歌「私が"あの現場(487話参照)"を見かけ,

使えると判断し,皇帝のお耳に入れた次第です。」



シーザー「全てはこの策略家である

この俺の思い通りよ!」



彼は自分自身が優秀な頭脳の持ち主で

あるという自信に満ち溢れていました。



シーザー「あいつらの方が全体の勢力としては上だからな。

やつらをぶつけて,疲れ切ったところを狙う。

これぞ戦略の定石よ。」



武留歌「そして,頭目と聖母を屈服させ,

敗北宣言の言質を取る。

さらにあの勢力をそのまま

我が陣営に入れてしまうというわけですね。」



どうやらこれが彼らの作戦の全貌のようです。



あらかじめ,何らかの方法で

ファザー配下の白虎隊を

味方につけていました。



そして勢力拡大のタイミングを

見計らっていたところに運よく,

ファザーの時尾とマザーの姉である

“時雨”が密会している現場を

押さえることができました。



そうすることで二人をぶつける

作戦を立てるに至ったわけです。



シーザー「ちゃんとあいつらは

押さえてあるんだろうな?」



武留歌「時雨と時尾ですね。

ご安心を。わがアジトの地下に

閉じ込めてあります。

見張りもつけていますし,

逃げ出すことは不可能でしょう。」



マザーとファザーが懸念していた

二人はシーザーの手に落ち,

つかまっていたようです。



シーザー「ここを渡れば,あいつらは破滅。

渡らなければ俺の立場が危うくなる。」



彼は少し周囲が落ち着くのを

見計らってから,

右手を大きく振り上げ,



シーザー「さぁ,賽は投げられたぞ!

俺に続け!!」



全軍を鼓舞します。



そして,



シーザー「ごきげんよう!お二人さん!

さっそくだが死んでくれ!!」



と,叫びながら腕を下におろしました。



これが開戦の合図だったようです。



後ろに控えていた総勢350人以上の

メンバーが一斉にマザー・ファザー陣営に

殴り込みにかかりました。



いよいよ両陣営が

激突する時が来たようです。



第5話 それぞれの戦況確認

エピソード0シリーズ 最終章
庄外川の東西をシーザー陣営に囲まれて,

マザー・ファザー陣営は苦戦を強いられていました。



川上である東側には楠十傑の一部と,

“ユーリウス隊”70人,“ミニ爆隊”30人,

“伴天連神教徒”40人がいました。



一方で川下である西側には,

“神の丘”60人,“爆走珍走連合”120人,

“ヒスパニア”80人が陣取っていました。



防戦するメンバーはかなり消耗しており,

“庭球爆走隊”も援護に駆け付けてはいますが,

かなり苦戦していました。



それでもマザー陣営の“紫式部連合”は

200人以上の勢力が残っており,

敵の勢力を抑えようと必死に抵抗していました。



戦線に復帰した三猿は楠十傑の

下位メンバーのヘッドに狙いを定めて,

ゲリラ攻撃を開始していました。



清香率いる清涼納言連合は,

1.5倍以上の人数を相手に奮闘していました。



この中にシュワルの“田宮”も

合流して戦闘を継続していました。



―場面は再び堤防にて―



すでに両陣営が入り乱れて

戦闘が始まっていました。



戦闘狂女子であるカナは自前の

アーミーナイフで次々と

敵の主力を切り刻んでいきました。



カナ「血を見るのだーいちゅき!

あはは!シャワーみたいに吹き出しなうっ!!!」



あたり一面が血だまりになっており,

周囲には切り付けられた敵チームの

メンバーが苦しみもがいていました。



「あいつ,完全に殺人罪じゃねぇか・・・。」



リア「いや,カナはぎりぎりで

敵の致命傷を避けているはずだ。」



兄であるリアが隣でそう言いました。



「そうは見えないぞ・・・。」



リア「あいつはナイフを持つと

殺人衝動が抑えられなくなる。

だが,ギリギリで踏みとどまっている。」



彼の発言が正しかったようで,

派手に血が飛び散ってはいましたが,

頸動脈や大動脈は傷つけていないようです。



「なんて器用な女子なんだ・・・。」



リア「あそこまで抑え込むのは苦労したんだ。

以前はもっと狂暴だった・・・。」



二人は彼らの行動を受け入れることは

決してありませんでしたが,

非難することもしませんでした。



社会からのはみ出し者が集まって戦いを始めれば,

何が起きても不思議ではないからです。



のちに判明することですが,

この大戦(おおいくさ)では

死者も確認されています。



カナが半殺したメンバーの中には楠十傑の第4傑である

“飯田”と第5傑である“金宮”が含まれていました。



彼らも楠十傑という組織の中ではなかなかの手練れでしたが,

カナの持つ殺人術の前には無意味だったようです。



飯田「救急車・・・。

呼んで・・・

くれ・・・。」



金宮「痛ぇえ!痛いよぉ!!」



リアはこちらの救護班に声をかけ,

ほっておくと死にそうな連中だけは

ワゴン車に乗せました。



敵であろうとも瀕死の連中には

情けをかけたのでした。



そして三大悪童御用達の

秘密厳守の闇病院へと運ばせました。



一方,戦闘はまだまだ

あちこちで続いています。



敵はアイアンや金属バット,

ダガーやメリケンなどで

武装した連中もかなりいました。



ファザーの首を取ろうと,

恐れながらも彼らは向かっていきました。



彼らも裏通りやそっちの世界では

それなりに名の通った連中たちでした。



しかし,ファザーには全く無意味でした。



手にどんな武器を持っていようとも,

素手ですべてを薙ぎ払い,

相手を拳と張り手,

蹴りで潰していきました。



ファザー「こんな連中じゃ

俺の首をとれるわけないだろう!!」



怒り狂ってさらに暴れまわります。



それをわずか10mほどしか離れていない場所

で笑みを浮かべて見ている人物がいました。



シーザー「いいぞ。もっと暴れろ!

そして疲れろ!疲弊しきった

ところを俺が自ら倒してやる!」



<三大悪童の一人 シーザー 轟名は"皇帝">



ファザーは部下の一人に2リットルの

炭酸飲料水を持ってこさせました。



手に取るとそれを一気に飲み干し,

さらにお代わりを2本もらい,

合計6リットルの炭酸水を腹の中に入れました。



マザー「あの野郎。また下品なことをやるつもりだな。

ここにはレディもいるっていうのに。」



「なんだ!?

何をする気だ!?」



リク君は周囲の雑魚敵を蹴散らしながら,

ファザーの動きを追っていました。



「嫌な予感しかしない・・・。」



ファザーは大きく息を

吸い込んでから少し溜めました。



体を勢い良く振って口を大きく開けました。



ゲェェェェッッップゥゥゥ!!!!!



それは鼓膜が破れるほどの

強烈な音とにおいがするゲップでした。



第6話 俺のわがまま

エピソード0シリーズ 最終章
ファザーが放った強烈なゲップは

周囲に甚大な影響を与えました。



そのゲップにはどうやら気化した

強烈な胃酸も混ざっていたようで,

吸い込んでしまうと肺が焼けるような

痛みを味わい苦しむことになるのです。



ファザーの傘下メンバーは事前に持っていた

携帯用のガスマスクを装着し,

この事態に備えていました。



しかしシーザー陣営だけでなく,

マザー陣営のメンバーにも巻き添えを

食らった者たちがいました。



マザー「おい!なんてことをするんだ!

風の向きを考えてやれ!」



ファザー「うるせぇな!

俺は俺の好きにやるんだ。」



リク君とイツキ君は少し離れていたので

特に被害を受けることはありませんでした。



マザーはお返しとばかりに胃酸を吐き出して,

残ったシーザー陣営の連中にまき散らしていきました。



当然のごとく,直撃を食らった者は

戦闘不能になっていきました。



マザー「レディたるものそうそう

胃酸を吐くもんじゃないねぇ。」



「いや・・・

最初から吐くなよ・・・。」



相手もかなり人数が減りましたが,

まだまだこちらよりも多勢でした。



マザーとファザーのイヤコムに

再び連絡が入りました。



先ほど情報を共有できるように設定したので,

リク君たちの耳にも声が入ってきました。



情報担当である市城隊の歌仙からでした。



歌仙「マザー!至急応援をお願いします!

我々は圧倒的に苦戦を強いられています!」



ファザー陣営の手塚からも連絡が入ります。



手塚「我々も三猿と一緒に援軍に

向かったのですが,現状はかなり厳しいです。」



ここでどちらかの悪童が動けば,

川の戦況は多少良くなる可能性もありますが,

残った悪童は確実にシーザー陣営に

やられてしまうことでしょう。



なぜならかなり体力を

消耗してしまっているからです。



それほど先ほどまでの悪童同士の

戦いは熾烈を極めるものだったのです。



マザー「くそっ・・・。」



イツキ君は少し考えてから,



「リク,お前に頼みがある。」





と言って,リク君に近づきました。



「なんだい?」



と聞くと,



「川に戻ってやつらの部下たちを

助けてやってほしい。

ここでこいつらが全滅したら全てが水の泡だ。」



と頼みました。



「無茶を言っている

ことはわかっている。

だが・・・。」



そこまで言いかけた時,



「わかった!

オレが川に向かうから

イツキ君はここを頼む。」



と返しました。



「いいのか?俺のわがままだぞ?」



「何を水くさいことを言ってるんだよ。」



リク君がもう一言。



「オレたちもう仲間でしょ?」



その言葉に少し間を置いてから,



「ああ,そうだな。」



とイツキ君。



「絶対にこの状況を打開して,

シーザーから真相を聞き出すんだ!

それが君の役目だろ?」

「そうだ。

それがマサルへ

借りを返すことになる。」



二人はお互いの拳を軽く当て,

それぞれの場所へかけていきました。



リク君が到着するまで両陣営は

持ちこたえることができるのでしょうか。



第7話 リクと三猿

エピソード0シリーズ 最終章
この図は庄外川の戦況図です。



見ての通り,川の両側から

挟み撃ちにされた状態が続いています。



川の中では苦戦中とはいえ,

ファザー陣営の三猿が奮闘していました。



ミザール「何も見えない。

でも貴様の気配は見えている!」



ザバァァン!!



今まさに,楠十傑の第10傑の“林”を

仕留めたところでした。



黄金井「周囲は静寂!何も聞こえない。

でも貴様の悲鳴は聞こえている!」



グギャァァァァ!!



彼がまさに楠十傑の第8傑である“串脇”を

川底に沈めたところでした。



ミザール「おい,俺のセリフをパクるなよ!」



どうやら気に入らなかったようで,

彼が駆け寄ってきました。



黄金井「何も聞こえナーイ!」



<三猿 リーダーの一人:石清水是清(いわしみず これきよ)>



ミザール「聞こえているじゃねぇか。」



もう一人の“三猿”である岩清水が

楠十傑の第9傑と戦っていました。



岩清水「うぐうぐ・・・。」



<三猿 リーダーの一人:黄金井雑夫(きかない ざつお)>



第9傑は“三輪”という人物でした。



先日,“武留歌”と共にあの現場を

目撃したメンバーの一人でした。



岩清水「(あ,何も言わなくていいよ!

貴方の負けは決まっているから!)」



飯田「何を言ってるかわかんねぇよ!

俺をなめるなよぉ!!!」



威勢がいいのは最初だけで,

あとは一方的にぼこぼこに

されるだけでした。



それを見ていた彼の部下は

慌てて逃げ出していきました。



ファザー陣営の先陣として参戦した“三猿”は,

各個人が相当癖のある人物たちですが,

かなりの実力を持っていました。



黄金井「もっと強いやつでてこいやっ!」



そこにリク君がやってきました。



「苦戦と聞いていたけど,

そうでもないみたいだね。」



黄金井「なんじゃぁ!お前は!?」



ミザール「待て!おそらくマザー陣営の人間だろう。

今は相手にする時間はない。」



彼が冷静になって,黄金井を止めました。



黄金井「そんなつまらないことを言うなよ!」



川に下半身が使っている状態にもかかわらず,

一足飛びでリク君に向かっていきました。



岩清水「(相変わらず人の話を

聞かない猿・・・いや人,だ・・・。)」



リク君は彼の飛び膝蹴りを

“天照”と“月読”で受け止めます。



「・・・。」



カッ!!



リク君の放ったすさまじい殺気は,

彼の攻撃を躊躇(ちゅうちょ)させます。



黄金井「(なんだ・・・こいつ・・・。)」



お互いにらみ合いが続きます。



黄金井「やめた,やめた!」



本能的にリク君の持つ

潜在的な力を読み取ったようです。



彼は残りの二人と合流し,

再び,楠十傑狩りを始めました。



“三猿”と“ゴルゴダの丘”の精鋭メンバーによって,

シーザーの楠十傑の5~10傑は壊滅しました。



それでも劣勢は依然として続きます・・・。



第8話 ユーリウスの露馬

エピソード0シリーズ 最終章
シーザーの主力チームである,

“ユーリウス暴走隊”をまとめているのは

“露馬 凱(ろうま がい)”という男でした。



彼は三大悪童シーザーのナンバー3と

される実力を持っていました。



年齢は18歳で2m近い身長と

強面の顔で頭はスキンヘッドでした。



サングラスの奥に潜む目力は

相当なものがありました。





<ユーリウス暴走隊 リーダー:露馬 凱>



街を歩けば誰もが恐れ,

避けていくことは想像に

難くありません。



半径2m以内に近づいたという理由だけで,

半殺しにされた大学生がいたという噂もあります。



また,一晩で何人のリーマンを

狩れるか部下と競い合ったといいます。



さらに闇サイトを運営し,

無差別に女性を誘拐し,

金品を強奪させた経歴もあるとされます。



まさに鬼畜のような所業をにこやかな笑顔で,

実行できる人物として仲間内からも畏怖されています。



彼のチームがまさにマザーの“清涼納言”を

全面攻撃しているところでした。



清香「はぁはぁ・・・。」



彼女はすでに満身創痍でした。



露馬「悪いな。俺は女だろうと

手加減はしないんだ。」



何度か殴り合った後,

先に倒れたのは清香でした。



すぐに立ち上がりましたが,

明らかにダメージが残っていました。



田宮「清香さん!こいつは俺が相手をします。

こいつにはろくな噂がありません。」



露馬「ほう!例えば?」



彼はまるで人ごとのように聞いてきました。



田宮「女子大学生にグルのチンピラを仕掛けて,

助けるふりをして車に乗せてそのまま誘拐したり,

気に入らないやつは片端からドラム缶につめて,

焼き殺した後でコンクリを流し込んで海に

捨てたりしていると聞いているぞ!」



露馬「おいおい!そんな噂を

誰が流しているんだぉ!」



ドムッ!!



露馬「だが全て事実だ。」



彼はそう言ってニッコリと

不気味な笑みを浮かべました。



一方で田宮は強烈なパンチを

みぞおちにくらってしまいました。



ガードしたつもりでしたが

その上から容赦なく,

たたきつけてきたようです。



田宮「がはっ!?」



あまりの痛さに,

その場で転げまわります。



幸いこの辺りは水深が浅く,

多少靴がつかる程度の場所でした。



露馬「ここまで生き残ってきたみたいだが,

俺と出会ったのが運の尽きだなぁ!」



この男は田宮のさらに

上の実力を持っていたようです。



清香「きょぇぇぇ!」



彼女がいつの間にか,

露馬の後ろに回り込み,

後頭部めがけて,

右上段蹴りを放ちました。



しかし,難なく交わされ,

カウンターの蹴りを顎に

もろに食らってしまいました。



露馬「これがナンバー3?

たいしたことないねぇ。」



清香はチームの出撃以降は

最前線で戦い続けていました。



すでにシーザー側の"ミニ爆"と

"伴天連"というチームを

つぶしたばかりでした。



その疲労がかなり蓄積されていたため,

彼を追い返す力がすでに

残っていなかったようです。



強力な攻撃を受けて,

立っていられずしりもちを

ついてしまいました。



露馬「じゃあとどめを刺してやる。

俺の人体皮はぎコレクションに

加えてあげようかな。」



田宮「たしか,敵対する連中で

気に入った奴の顔の皮を

剥いでコレクションにするという噂を

聞いたことあったが・・・。」



彼はかろうじて意識を

取り戻したようです。



露馬「それも事実だ。」



清香もなんとか

立ち上がりました。



彼はそれを見逃さず,

清香の顔に思いっきり

強烈な蹴りを入れました。



バキャャァァ!!!



露馬「!?」



なんと,見たことのないような

金属の棒が,彼の足を制止していました。



清香「・・・。」



彼女は再び倒れこんでしまいました。



そして薄れゆく意識の中,

薄目でその棒を持つ

人物を見つめました。



清香「余計な・・・

真似を・・・。」



露馬「なんだぁ!?」



彼は邪魔が入ってしまい,

かなり不機嫌になっていました。



「オレはリク!

お前たちを全員ぶっ飛ばしに来た!」



彼の快進撃が始まろうとしていました。



第9話 満天の星

エピソード0シリーズ 最終章
露馬は部下が持っていた鉄くぎが無数に

刺さった木製バットを奪い取ると,

有無を言わさずこちらへ

とびかかってきました。



「行儀が悪いな。」



ちなみに清香と田宮は部下たちの手に

よって川の中州に移動させられました。



同時刻の右側の戦闘は,

マザー&ファザー連合の

“籠球愚連隊”と“紫式部連合”が

押し返していました。



さらにここに“ゴルゴダの丘”と

“三猿”が合流するようです。





そうなればシーザー陣営も苦戦必至でした。



つまりこの川の中で残る脅威はリク君が

対峙する露馬率いる“ユーリウス爆走隊”だけになりました。



露馬「なんでこんなところにガキが

いるのか知らねぇが,

俺は手加減できない男だ。」



「気が合うな。

オレもお前みたいなクズに

手加減はできないんだ。」



彼が持っている木製バットに

目いっぱい力を込めて叩き込みました。



浅いとはいえ,水しぶきが飛び散ります。



露馬「ちょこまかと逃げ足は早いな。」



「時間がないみたいなんだ。」



リク君が構えます。



露馬「?」



次の瞬間・・・。



彼の巨大な体躯が無造作な格好で

空中に舞い上がりました。



露馬「ぐはっ!?」



たったの一太刀でした。



彼の部下たちは一瞬何が起きたのか

理解できませんでした。



―大地一刀流奥義―

―愛・地球博(ラヴ&ピース)―



「だから言ったでしょ。

手加減できないって。」



近くの中州で手当てを受けながら

その様子を見ていた清香は,



清香「あいつはいったい何者なんだ・・・。」



当然,彼の部下は黙っていません。



餌に群がる魚の大群のようにして,

リク君のもとへ集まってきます。



しかし,そこに彼の姿はありません。



―大空二刀流―

―追撃の星(シューティングスター) 満天―



ガガガガガガ・・・・



ドドドドドド・・・・



バババババ・・・・



ザザザガガガザザバババ・・・・



いつもの数倍長く,上空に滞在し,

これでもかというくらいの

追撃を浴びせ続けます。



当然その攻撃範囲にいた者は

1秒と立っていられず,

バタバタと倒れていきます。



中には悲鳴を上げて血を吐く者,

臓器の一部を損傷して苦しむ者,

手足などの骨折によって肢体が

不自由になって転げまわる者,

阿鼻叫喚の地獄絵図でした。



時間にすればそれほど

長い時間ではありませんでした。



しかし,すでにユーリウスの

メンバーは壊滅していました。



最初の攻撃で標的を免れた

連中はパニックになり,

その場から逃げ出しました。



同じく中州で仲間から手当てを受けていた

シュワルツェネッガーのリーダーである田宮は,



田宮「俺は夢でも見ているのか・・・。」



と現実を受け入れられない様子でした。



「なんであんな露馬とかいうクソみたいな

連中が野放しになってんだよ。」



リク君は敵の追撃がてら中州へ足を運び,

田宮に疑問に思っていたことを聞きました。



田宮「それは皇帝(シーザー)の父親が

国会議員だからだろうな・・・。

露馬はそのおこぼれを

うまく頂戴していたんだろう。」



「はぁ?悪童の親が国会議員だと?

ふざけてるだろう。」



リク君は思わず声を上げました。



田宮「お前は本当に何も知らないんだな。

皇帝だけじゃない。」



彼は満身創痍の状態で話を続けます。



田宮「うちのマザーだって,

親は検察庁の幹部らしい。

“頭目”の親も確か裁判官のかなり

偉い地位だって聞いたことがある。」



どうやら三大悪童がこれだけ

無茶なことをしても野放しなのは,

親による絶大な権力が

暴走した結果だったようです。



この事実を知ったリク君は呆れて

ものが言えませんでした。



第10話 シーザーの奮起

エピソード0シリーズ 最終章
川下の戦況がわかってきました。



シーザー陣営の“神の丘”リーダーである“神代剛健”が

“紫式部連合”の“日和”によって

打ち取られたことによりチームは敗北。



“爆走珍走”や“ヒスパニア”の連中も

状況が不利と知り降伏しました。







庄外川の中での戦いはマザー&ファザー連合の

逆転勝利に終わりました。



「よし,すぐに堤防へ戻ろう!」



リク君の掛け声で戦えるチームは三大悪童が

そろっている堤防の北側へ向かうことにしました。



―そのころ堤防では―



マザーとファザーはイヤコムの連絡で

我々が勝利したことを聞きました。



マザー「どうやら形勢逆転だねぇ!」



彼女が誇らしげな顔で,

シーザーに向かってそう言い放ちました。



シーザー「ぐっ・・・。」



すぐ隣で指揮を執っていた武留歌が,



武留歌「まだここからです!ご安心を!」



と,進言しました。



シーザー「ああ,そうだな!

奴らが疲れ切って

いるのは間違いない!」



武留歌「ええ!このまま押し込みましょう!」



もともとファザーの本陣があったこの場所は,

すでに敵味方が入り乱れる大乱闘となっていました。



お互いに雑兵の兵を消耗しながら,

敵の大将であるそれぞれの悪童を

打ち取ろうと躍起になっています。



奇襲によって,ファザーとマザー陣営は

苦戦を強いられましたが,

リク君やイツキ君の活躍もあり,

情勢を盛り返していました。



明らかな劣勢に立たされたシーザーは

自らが先頭に立ち,両陣営を潰そうとします。



シーザー「楠十傑はどうした!?」



彼が叫ぶと,



武留歌「すでにマザー配下のカナと

リアコンビに“飯田昭雄”,

“金宮卓”はやられました。」



彼は戦況説明を続けます。



武留歌「1~3傑の“高尾義和”,“平河沙流”,

“内海大介”は多数に無勢で

全員が負傷したため,

後方に下げました。」



一通りの説明を終えました。



シーザー「あの役立たずどもがぁ!!」



そこにイツキ君が現れました。



「やっとお話ができそうだな。」



シーザー「なんだ貴様はっ!」



彼の怒りは頂点に達しているようです。



武留歌「奴は確かイツキです。

あの年齢にしてマザーやファザーと

互角の力を持つという噂もあります。」



シーザー「はぁ!?たいそうな噂だが・・・!

本当かどうか試してみるのが早いな!」



そこへ川の中から急いで駆け付けた

リク君がやってきました。



そして二人の間に入ろうとすると,



「大丈夫だ。俺がやる。」



と言って,シーザーに

立ち向かっていきました。



「わかった。任せる!」



すぐ後ろにいつの間にか

二人の悪童が立っていました。



その周囲を護衛するかのように,

それぞれの幹部たちが一緒でした。



マザー「仕方ないからあいつに

手柄を譲ってやるよ。」



ファザー「手こずるようなら俺が変わる。」



いよいよこの大戦も大詰めを迎えました。



第11話 真の皇帝

エピソード0シリーズ 最終章
イツキ君とシーザーの戦いが始まって

すでに1分が過ぎようとしていました。



イツキ君は足の長さを生かした

得意の蹴りをうまく使い,

相手にダメージを与えていました。



悪童のシーザーはその名が轟くだけあり,

一つ一つの攻撃全てが会心の

一撃クラスとなっていました。



イツキ君は相手に攻撃を仕掛けながら,



「なぜマサルを殺した!?」



と,思っていた疑問を口に出します。







すでに“シーザー”グループが

マサルを殺したことは

状況的に明らかだったからです。



シーザー「マサル?ああ,あいつのことか。」



「やはり知っていたか!」



イツキ君の予想は的中しました。



それと同時にさらなる

怒りがわいてきました。



たった二度しか会話を

していない人物にここまで

肩入れすることになるとは,

自分でも予想外だったようです。



シーザー「俺たちの計画を知られてしまったからな。」



「どういうことだ?」



一瞬,攻撃の手が緩みます。



しかし,ここままでは押されてしまうので,

いったん間合いを取るために後ろに自ら下がりました。



シーザー「何らかの意図をもって,

俺たちのアジトに隠れて侵入してきた。

その時に見られてしまったんだ。」



「お前の手引きの者がマザーの姉と

その恋人を捕まえて,

閉じ込めていたところを,か・・・。」



イツキ君は全てを理解したようです。



シーザー「そういうことだ!

こんなところから計画が漏れれば,

俺が真の意味で“皇帝”になる夢も潰えてしまう!」



彼の目的は二人の悪童を倒し,

支配下に置くことでこの地域一帯の

支配者になることでした。



シーザー「俺が真の皇帝になれば,

この街を俺の住みやすい理想の街にできる!」



「だがお前の理想のために

困る人たちが大勢出てくる。」



リク君が横から口を挟みます。



シーザー「なんだてめぇは!?

俺のやることに口を

出すんじゃねぇよ・・・ぉ!?」



そこまで言った時,

イツキ君の強烈な回し蹴りが

シーザーの首に決まりました。



シーザー「おげぇぇぇ!?」



「おまえを倒して,

警察に突き出し,

奴の墓前に報告に行く。」



彼は思わず膝をつきました。



しかし,すぐに立ち上がり,

息を整えて,



シーザー「それは無理だ・・・。」



と言って,イツキ君をにらみつけます。



「なぜ?」



シーザー「俺は皇帝だからだ。

皇帝とはすなわち絶対的な強者を表す。

俺が負けることはない!」



再びファイティングポーズをとります。



「うぬぼれるな。」



先ほどの攻撃が決まったからか,

明らかにシーザーの動きが

悪くなっていました。



イツキ君がそれを見逃すはずもなく,

上段,中断,下段とうまく

切り替えながら蹴りをお見舞いします。



シーザー「ぐっ・・・!?」



ここにいる全員がイツキ君の勝利が

近いと思った矢先のことです・・・。



第12話 お前もか・・・

エピソード0シリーズ 最終章
突然シーザーの動きが止まりました。

どうやら後ろから鋭利なナイフで刺されたようです。

刺した人物は・・・。

全員が驚きのあまり,一瞬だけ声を失いました。

しかしイツキ君がその静寂を破ります。

「なんだ!?」



シーザー「がはっ・・・!?」



彼はその場に倒れこみました。



そこにはあの絶対的な忠誠を誓ったはずの

“武瑠歌(ぶるうた)”が立っていました。





武瑠歌「・・・。

急所は外したので

死ぬことはだろう。

彼の動きを止めるには

必要なことだ。」



シーザー「武瑠歌・・・

お前も・・・か・・・。」



まだしゃべる力が残っているようです。

どうやら傷はそこまで深くないようでした。



武瑠歌はどこからか,

スタンガンを取り出し,

ナイフの金属部分に押し当てて

スイッチを入れました。



バチッという大きな音とともに,

シーザーはうめき声をあげて気を失いました。



さすがに傷口から直接電流を

流されたので当然といえば当然でした。



武瑠歌「これで大丈夫だ。」



彼が合図を送ると,

敗れたはずの楠十傑の1~3傑の

三人がやってきました。



シーザーにそう言っていただけで,

十傑の主力を温存していたようです。



どうやら彼らも武瑠歌の息が

かかっている連中なのでしょう。



武瑠歌「皇帝を・・・いや,

こいつを縛り上げてから,

例の病院へ連れていけ。」



二傑の平河と三傑の内海が

二人がかりで皇帝を運び出しました。



一傑の高尾だけは彼の後ろで待機しました。



どうやら彼を守る護衛の役目なのでしょう。

あまりのことに誰も追撃をしようとしません。



ファザー「どういうつもりだ?」

マザー「貴様はシーザーの忠実な参謀のはずだろ?」



さすがの二人も目の前で起きた出来事が信じられないようです。

武瑠歌「ご安心ください。

彼は治療後にあなた方に突き出します。

今回の陰謀は全てあの男が仕組んだこと。」



二人は食って掛かろうとしましたが,

いったんその手を止めます。



武瑠歌「参謀として改めて今回の件に

ついてお詫び申し上げます。」



そう言って,深々と頭を下げました。



「イツキ君・・・。

どうする?」


「奴が倒れた以上,

俺がここでやれることはもうない。

あとは・・・。」



イツキ君は冷静に答えます。



まだ心の整理はついていないにせよ,

真相が“ほぼ”わかったことで

少し落ち着きを取り戻したのでしょう。



マザー「お前の口から今回の

一件の真相を全て話せ!

それからうちのお姉は

無事なんだろうな。」



武瑠歌「もちろん無事です。

すでに私の直属の部下に連絡を取り,

解放の命令を出しました。

まもなく,自由の身となるでしょう。」



そしてこの後,彼の口から

今回の一件についての

詳細が語られることになります。



第13話 二度目のクーデター

エピソード0シリーズ 最終章
真夜中の2時を過ぎていました。

こんな時間に庄外(そうげ)川の堤防にて

地域一帯を支配する三大悪童が集結していました。



その一角である"皇帝"シーザーが部下の武瑠歌という人物に

討ち取られて病院へ搬送されていきました。



なぜこのような行動に至ったのか,

明らかになろうとしていました。



武瑠歌「ここからはため口で失礼しますよ。」



そう断りを入れた後,



武瑠歌「理由は単純明快だ。

あいつは悪童の名にふさわしい実力と

カリスマ性を持ち合わせていなかった。」



彼が動機をそう述べました。



マザー「ほう?」



"聖母"マザーが相槌を打ちます。



ファザー「だからお前たちで

クーデターを起こしたと?」



"頭目"ファザーが聞き返します。



武瑠歌「そうだ。

俺と先ほどの“楠十傑”の三人で

計画を立てた。」



彼の話は続きます。



武瑠歌「そもそもクーデターは

今回が初めてではない。

未遂に終わってしまったが,

以前にも実行しようとした奴がいたんだ。」



「なるほど,だからシーザーは気を失う前に

"お前もか・・・"って言っていたのか。」



リク君は妙に納得した顔で話を聞いていました。



武瑠歌「そいつの名前は

“出来 結(でき ゆい)”という男だった。」





彼の話は続きます。



武瑠歌「シーザーのやり方に不満を持ち,

同志を集めて闇討ちを実行しようとしたが,

計画がどこからかもれてしまい,

返り討ちにあった。」



「その"結"って奴はどうなったんだ?」



イツキ君が聞きました。



武瑠歌「殺されたよ。」



「警察は?」



今度はリク君が聞きました。



武瑠歌「シーザーの父親が

与党国会議員の超大物らしくてな。

県警に圧力を加えて事故死にしたらしい。」



リア「ひどい話だ・・・。」



マザーの参謀であるリアが感想を

ぽつりとつぶやきました。



武瑠歌「ただまずかったのが,"出来結"って

奴の親父もまた権力者だったらしいんだ。」



何やら話がややこしくなってきました。



トシ君が現場にいたら絶対に

眠り始める時間です。



武瑠歌「しかも,シーザーの親と政策で

敵対する同じ与党議員の大物らしくてな。」



なんだか親の代理戦争みたいな

話題となっていきました。



武瑠歌「これは俺の推測なんだが,

"出来"は自分の父親の命令で,

シーザーの汚点を見つけて世間に

公表しようとしていたんじゃないか。」



「なるほど。そうすることで

シーザーの父親の責任となり,

敵対する政治家を権力の椅子から

引きずり降ろそうと考えたわけか。」



今回の一件はかなり闇の深い部分が

関わっているようです。



武瑠歌「そして,"出来"と親友だったのが

"勝川マサル"という男だ。

幼いころに児童施設で知り合った仲らしい。」



ファザー「うん?ってことは"出来"っていう奴は

その議員の本当の子供じゃないってことか?」



ファザーの指摘は正しかったようです。



武瑠歌「どうやらそうらしい。奴はその議員の養子だった。

そのあたりの詳しい経緯まではわからない。」



「マサルが・・・。

そういうことか・・・。」



イツキ君は全てを理解したようです。



「マサルは"出来"という親友が事故死したと聞いた。

その真相を知るためにシーザーのアジトへ

潜り込んで真相を確かめようとした。

その時に,たまたまマザーの姉と恋人が

監禁される所を見てしまい,

同じように消されたってことか・・・。」



武瑠歌が静かに頷きました。



そしてさらに話を続けます。



第14話 悪童の自白

エピソード0シリーズ 最終章
武瑠歌「マサルとかいう男を

殴り殺したのはシーザー本人だ。

俺の部下がその時のことを

直接見ているからな。」



「ならばそれを警察で証言できるか?」



イツキ君が聞きます。



武瑠歌「お前が望むのであれば可能だ。」



「念のため,

本人からの自白も欲しい。」



イツキ君の目つきが変わりました。



武瑠歌「どうしろと?」



「奴が意識を取り戻したら,

身柄を引き渡せ。俺が自白させる。」



イツキ君の拳に力が入ります。



武瑠歌「いいだろう。

ただし条件がある。」



彼は二人の悪童に視線を向け,

突拍子もないことを口にします。



武瑠歌「俺を三大悪童の一人として認めてほしい。

お前たちにとってもあいつが

消えることは悪い話じゃないだろう。」



マザーとファザーの顔色が変わります。



マザー「お前が!?」



武瑠歌「どのみちこの一件であいつの

築き上げてきた地位と名誉は地に落ちる。

そんな奴を何時までも祭り上げておくよりも

新しい悪童を選出した方がこの地域のためだ。」



「シーザーは俺が必ずブタ箱へ送り込む。

当分はシャバには絶対に出させない。」



ファザーはイツキ君のその決意を聞き,



ファザー「確かになぁ。しばらくいない奴を何時までも

“悪童”としておくわけにはいかねぇなぁ。」



と,言いました。



マザー「今すぐには結論は出せないね。

そもそもシーザーが殺人を自白するかも怪しい。」

ファザー「じゃあ,俺とお前でやるか?」



二人はにやりと笑いました。



カナ「あー!アタシもゴウモンやりたぁい!

ゴウモンだいちゅきなんだー!!」



アーミーナイフを手にしたまま無邪気に

ぴょんぴょんと飛び上がりました。



リア「確かにカナは拷問のスペシャリストです。

彼女も加えれば間違いなく,

自白の証言は得られるでしょう。」



マザー「イツキ!というわけで

自白の件はこちらで引き受ける。

新悪童選出にもかかわる話だからね。」



彼女がケタケタと不気味に笑います。



「しかし・・・。」



ファザー「わざわざてめぇの手を汚すことはない。

汚れ仕事は俺たちの専売特許なんだ。」



彼も同じように不気味な笑みを浮かべています。



よほど人を痛めつけることに快感を覚えるのでしょう。



マザー「お前はリクって奴とムシ採りでもしているんだね。

必要があれば呼び出すかもしれないが。」



武瑠歌「では,俺が悪童になれるかの正式決定は,

シーザーのことが片付いてからというわけだな。」



ちなみにこのやりとりはイヤコムを

通して全ての幹部が聞いていました。



二人の悪童が前向きに検討していることで,

唱える幹部は誰もいませんでした。



この後すぐに,囚われていた二人が

解放されて無事が確認できたという報告がありました。



大勢の負傷者を出し,

一部のチーム内のメンバーは後に

死亡が確認されたという痛ましい

大戦は全く表ざたにはなりませんでした。



二人の悪童の親が全てもみ消したようです。

川周辺の後始末も完ぺきだったとのことです。



ちなみに川周辺一帯を大規模クラスで立ち入り禁止に

されていたことも彼らには好都合でした。





どちらかの親がそれを親心で

実行させたのでしょう。



やはり悪童はどこまで行っても悪童で

同じ穴のムジナだとリク君はそう思いました。



そして物語の時間軸は

8月16日午前の“今”へと戻るのです。



第15話 大戦の爪痕

エピソード0シリーズ 最終章
―8月16日午前 緑地公園噴水広場にて―



「思い出したな?」

「ああ。」



リク君は頷きました。



「じゃあ俺はこれ以上何も言わない。」

「ああ。」



再び頷きます。



「オレは何があっても

一度決めたことをやり抜く。」





リク君の目に輝きが戻っていました。



「いつものリク君に戻ってきたね。」

「そうですよ!

だぬたちもついていきますよ。」



だぬちゃんも自然と

笑みがこぼれました。



「うん!あたしもがんばる!」



まさらちゃんがリク君の

手を取って,励ましました。



「オイラも・・・。」



トシ君が口を開こうとしたとき,

別の声にかき消されました。



その声の主はファザーでした。



ファザー「こいつもさっき言おうとしていたが,

新しい悪童が決まったぞ。」



そう言って,マザーをにらみました。



マザー「シーザーは傷害致死容疑で

身柄を拘束された。」



どうやらこっちの世界では小学生高学年でも

逮捕・起訴されてしまうようです。



「じゃあ・・・。」



ファザーが話を続けます。



ファザー「俺たちは“武瑠歌”を悪童として

認めることにした。」



マザー「奴が持っていた縄張りと部下を"ほぼ"

そのまま引き継いだってことになりそうだ。」



彼女の言い方には含みがありましたが,

彼女は話を続けます。



マザー「あいつの親父も失脚するみたいだな。

風の噂だと明日のネットニュースで今までの

悪行が全国的に報じられるらしい。」



「逮捕までずいぶん時間がかかったけど,

これで少しはマサルって人の魂が浮かばれるといいね。」



リク君はイツキ君の肩を軽く叩いて,

慰めの言葉を言いました。



「ああ・・・。

そうだな。」



イツキ君は続けて,



「お前のとこの裏切り者は

どうなったんだ?」



と,裏切り者の白虎について聞きました。



ファザー「あいつは破門だ。

二度と我々の縄張り内で

でかい顔をさせない。」



さらに追加で,



ファザー「もちろんたっぷりとお仕置きはしたけどな。」



と言ってニヤリと笑いました。



「あの・・・つかぬことを

お聞きしますが・・・。」



だぬちゃんがおそるおそる

手を挙げて聞きます。



「今回の大戦で死んじゃった人が

いるって本当ですか?」



場が一瞬静まり返ります。



マザー「うちの配下のメンバーで

二人だったな・・・。

幹部は大けがこそしても

死んではいないが・・・。」

ファザー「俺のところは4人も死んだ。」



それはお互いの部下たちの

争いの中で起きた悲劇でした。



死んだ者の中には,生前仲の良かった

メンバーもこの中に含まれているため,

二人の悪童とその配下達がなれ合って,

関係が良くなることはありえませんでした。



これからもそれぞれの縄張りを意識しつつ,

不可侵としていくことだけを決めました。



このように今回の大戦(おおいくさ)に

よる被害の爪痕は大きいようです。



第16話 エピローグ

エピソード0シリーズ 最終章
この後、いくつかやり取りをした後,

二人の悪童とその配下達は去っていきました。



その場に残っていたリク君たちは自販機の

アイスを買ってきて食べ始めました。



「そうだよ!これこれ!」



トシ君があっという間に平らげます。



「リク君、本当にもう大丈夫?」



まさらちゃんがアイスを片手に

リク君の顔をのぞき込みます。



「うん。イツキ君が

少年昆虫団結成の時の決意を

思い出させてくれたんだ。」



リク君はまさらちゃんの瞳を見つめながら,

決意を込めた言葉で返しました。



「何があっても目的をやり遂げるって。

中途半端な覚悟でやらないって!」



「・・・。」



隣でイツキ君が黙って聞いています。



「オレの夏休み中の目標は

絶対的"悪"の組織である,

“御前”を中心とする闇組織JFの壊滅だ!」



「そうは言っても,

夏休みは残り2週間しかないですよ?」



だぬちゃんが少し心配そうに言います。



「オイラもみんなのことは責任をもって守るからね。」



レオンさんの言葉に勇気づけられました。



リク君は庄外川の一件について

思い返してみました。



そして何か腑に落ちないことがある,

という顔をしていました。



「その顔はまた何か考え込んでいるな?」



イツキ君には見抜かれていました。



「いや,ちょっとね・・・。」



「言ってみろよ。」



イツキ君が催促します。



「今回の色々なことなんだけど,

どうも全てあの“武瑠歌”って奴に

うまくいきすぎてると思わない?」



「そうか?うーん・・・

まぁそういわれればそうかもな・・・?」



イツキ君はそこまで

共感できなかったようです。



「まぁ、考えても仕方ないし!

この後は、一日昆虫採集をやろう!」



「いやいや・・・!

あ,それよりも,壊れちゃった

アミがどうするのさ!?」



トシ君は昆虫採集に

行きたくなかったので

話題をそらしました。



しかし,その問題は極めて

重要なことでした。



「そうだった・・・。」



リク君は残っていた天照を

握りしめ,何かを思い出していました。



その時,レオンさんのイヤコムに

誰かから連絡が入りました。



「ごめん!ちょっと用事が入ってしまった。

また午後に連絡を入れるよ!」



彼はそう言って,急ぎ足で公園の出口に

向かっていきました。



少年昆虫団はとりあえず,

レオンさんから連絡が入るまで,

昼食をカフェオーシャンで摂って,

その後は図書館で過ごすことにしました。



ちなみにこの場には,

当事者である新悪童に選出された

武瑠歌とその配下達は

誰も来ていませんでした。



どうやら態勢を立て直すのに忙しいようです。



庄外川の大戦から約1か月たち,

ようやく新悪童が決まったため,

無理もないのかもしれません。



―元シーザーがアジトとして利用していた地下街の飲食店にて―



楠第一傑の“高尾”が店の一番奥に

座っていた武瑠歌に声を掛けます。



高尾「武瑠歌さん,チームの再編などは

滞りなく終わっています。」



武瑠歌「俺のことはこれから"カイザー"と

呼べと言っているだろう!」



威圧的な態度でにらみつけます。



高尾「失礼しました!三大悪童に

なられたカイザー様!」



武瑠歌「ふふふ・・・。

ようやく実感がわいてきた・・・。

ここまで長かった・・・。」





彼は不気味な笑みを浮かべました。



武瑠歌「全ては俺の壮大な

計画の一部に過ぎない!」



高尾「おおっ・・・!」



どうやら今回の騒動にはこの男が大きく

かかわっていたようですが,

全てが明らかになるのは

もう少し先のお話になりそうです。



エピソード0シリーズ ~最終章~ 完







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