リクの少年昆虫記-過去のお話-

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目次


第113話~第116話

2015/12/31

第113話 憧れの再会①
昆虫採集が終わる帰り道のことです。

すっかり暗くなっていました。



「いや~,今日も楽しかったね。

明日は早朝から採集して,そのあと公園でサッカーをしよう!

そして昼からプールでもいって,

夕方は魚釣り,そしてまた夜は昆虫採集だね。」


「なんか夏休み満喫プランですね。」

「いいなー小学生は。」



今日はレオンさんも一緒に昆虫採集に参加したようです。



「勉強の文字が一つも入ってないね!」

「ったく・・・。明日は夕方から図書館に行って勉強する約束だったろ。」

「そうだっけ・・・。」

「そういえばイツキ君,午前中,

本屋で何の本を買っていたんですか?明日の勉強用ですか?」


「・・・ん,ああ。まぁだぬには説明してもわからんよ。」



そのようなたわいもない話をしながら,

みんなはそれぞれの自宅に帰るため別れました。



「(ちょっと早く終わったな・・・。)」



ふと横を見ると以前通っていたゲーセンの前でした。





「(たまには寄ってみるか。)」



イツキ君は中に入っていきました。

するとその直後・・・。



不良1「おいおい,ここは,ガキが来るようなところじゃねぇぜぇ!?」



イツキ君が振り向くと後ろには数人の中学生から

構成される不良グループがいました。



「・・・。たまにゲーセンに寄ると絡まれるな。」



イツキ君と不良グループはゲーセンの外に出ました・・・。



そして・・・。



不良1「ぐふ・・・。なんだ・・・こいつ・・・。」



不良グループは全員がボコボコにされてしまいました。



イツキ君の相手になるような連中ではなかったようです。



「疲れる連中だ・・・。」



イツキ君は少しこぶしが赤くなっていますが余裕のようです。



不良3「ありえねぇ・・・。なんだ・・・

こいつの・・・この強さは・・・。」



不良2「こいつ・・・確か・・・ここらでやたらに

強い小学生がいるって・・・たぶんこいつですよ!?」



不良1「まじか・・・。中野木小,

最強の“音無(おとなし)”とやりあったっていう・・・。」



不良2「“中野木小の三大悪童”に

もっとも近いヤツだって噂ですよ・・・!?」



どうやら裏の世界ではイツキ君の

いろいろな噂があるようです。



「これ以上ボコボコにされたくなかったら

さっさと俺の視界から消えろ!」




不良グループは一目散にどこかへ行ってしまいました。

その時,後ろから別の気配を感じました。



「まだ,絡んでくるか!?」



???「さすがだな。」



月明かりに照らされて現れたのは・・・。



「あ・・・。」



独特のタバコの香りがする男・・・。





「城嶋さん!?」



なんと現れたのはイツキ君のストリート格闘技の師匠でした。

憧れの再開がついに実現した瞬間でした。



第114話 憧れの再会②
月明かりに照らされ,現れたのは城嶋隆一でした。



城嶋「元気してたか?」



「いつこっちに帰ってきたんですか!?」



城嶋「つい,さっきだ。それより,お前,強くなったな。」



「まぁね。あれから欠かさず稽古を続けているからね。」



城嶋「そうか。」



イツキ君は恩人が帰ってきたことをとても喜んでいるようです。



「ちなみに今までどこに行っていたんですか?」



城嶋「まぁ,ちょっと外国へ行ってその後は東京にな・・・。」



「そうなんだ。」



一服を終えても城嶋さんの顔は冴えません。



何やら思いつめているようです。



「どうかしたの?」



城嶋「実はな・・・。いや・・・なんでもない。」



「何か困っていることがあるの?遠慮せずに何でもいってよ。」



城嶋「聞いてくれるかい?」



近くにいた酔っぱらいの声がうるさかったので

二人は場所を変えることにしました。



少し歩いて六町公園に到着しました。



二人は公園内のベンチに座りました。





城嶋「実は,ちょっと仕事上のトラブルで

ヤバイことになっていてな。」



「そうなんだ・・・。城嶋さん,大丈夫なの?」



城嶋「大丈夫じゃなくてな・・・。

先方に謝罪に行かないといけないんだ。」



「俺で力になれることがあれば何でもするよ。」



しばらく沈黙が続いた後,

城嶋さんはためらうようにして口を開きました。



城嶋「そうか。ありがとう。」



すると遠くから聞きなれた声がしました。



「おーい,イツキ君ー。」



少年昆虫団がイツキ君と城嶋さんのところまでやってきました。



「こんなところにいたー。」

「よかった,よかった。」



レオンさんも一緒のようです。



城嶋「・・・。」



「みんな,どうしたんだ?」



イツキ君はみんなことを不思議そうな顔で見ています。



「何言っているんですか。昆虫採集が終わっても

家に戻らないから,お家の人が心配して

だぬたちに連絡をくれたんですよ。」




みんなは心配してやってきてくれたようです。



「あ,いけね,家に連絡するのを忘れていた。」

「イヤコムの会話機能はオフになっていても,

位置情報は常に発信しているから,

それを頼りに居場所をたどったんだ。」




イヤコムにはそれぞれの居場所を

知らせるGPS機能もあるようです。



「ところでこちらの人はだれ?」



トシ君は城嶋さんを見てイツキ君に尋ねました。



「彼は城嶋さん。俺の最も尊敬する人だ。」

「この前イツキ君が話していた人だね。」



レオンさんが手を差し出しました。



「初めまして。」



城嶋「どうも。」



レオンさんは城嶋さんをジッと見つめました。



城嶋「イツキ,明日,いつも稽古をしていた

場所へ一人で来てくれ。そこで話す。」



そう言うと彼は闇の中に消えていきました。



「何?なんか話していたの?」

「ああ,城嶋さん,なんか困っているらしい。

俺の力が必要だって。」




イツキ君はみんなに概要だけを話しました。



「そうなんだー。」



レオンさんは何かを思い出そうとしている様子でした。



「・・・。」



そして次の日,イツキ君は以前

よく通っていた古い倉庫に行きました。



はたして城嶋さんはイツキ君に何を伝えるのでしょうか。



第115話 憧れの再会③
イツキ君は城嶋さんと久しぶりの再会を果たしました。



彼は以前よく通っていた地域の端にある古い倉庫に行きました。



大きな扉を力いっぱい横に動かすと,

さび付いた音とともに倉庫の扉は開きました。



倉庫の中にはほとんど何もはいっていませんでした。

倉庫は中央のところで壁に仕切られていました。



ドアがついているので奥にも空間があるようです。

城嶋さんはその壁の手前にいました。



彼は埃のかぶった廃材の上に

無造作に座って煙草を吸っていました。





城嶋「来てくれたのか。イツキ・・・。」



「もちろんだよ。」



イツキ君は城嶋さんの前まで近づきました。



すると城嶋さんは何やら小包を取り出しました。



「これは?」



城嶋「先方には迷惑をかけちまったからな。

詫びのしるしに用意したんだ。」



どうやら仕事先に謝罪をしなければいけないようです。



「俺は何をすればいいの?」



城嶋「こいつを俺が指定する場所に先に行って届けてほしい。

俺は仕事仲間と合流してあとから追いかける。」



城嶋さんは小包をイツキ君に届けてほしいようです。



「つまり俺も一緒に謝りに行けばいいってこと?

子供の俺が持って行っても意味がないんじゃ・・・?」






イツキ君の言うことはもっともでした。



城嶋「大丈夫。今から行く所にいる連中は子供には優しいんだ。

だからイツキ,お前が頼りだ。」



「そっか。いいよ。任せて!」



イツキ君は城嶋さんの力になれることがとても嬉しかったので,

あまり深くは考えないことにしました。



城嶋「相手にも都合があるみたいだから,

“ソイツ”は今から15分以内に届けてほしい。」



「わかった。そんなに遠くない場所だから間に合うと思う。」



イツキ君は紙に書かれた届け先の住所を確認しました。



城嶋「頼んだぞ。」



イツキ君は倉庫を出て目的地に向けて出発をしました。



倉庫に残った城嶋さんは再び煙草に火をつけ,吸い始めました。



その表情は何やら複雑でした。



目を閉じ,何か感慨に耽っているようでした。



そして少し古いタイプの携帯電話を取り出しました。



彼は表情一つ変えず画面を見つめていました。



一方イツキ君は自転車に乗って

庄外川の堤防沿いの道路を進んでいました。



「(あの城嶋さんが落ち込むなんて

どんな仕事のミスをしたんだろう・・・。)」




その時,道路の段差に気づかず,転んでしまいました。



急いでいたので少し運転を誤ってしまったようです。



「いてて・・・。でもこれくらいたいしたことないな。」



転んだ拍子に小包が自転車のかごから出て,

道路の片隅に落ちてしまいました。



「やべ・・・。大切な荷物・・・!大丈夫かな・・・。」

イツキ君は小包を拾い上げました。



「(中身,大丈夫だよな。何が入っているんだろう。

割れ物だったらどうしよ・・・。)」




無意識に耳を当てて中身を確認しようとしました。



「ん?」



自転車を起こし,小包をかごに入れた後,

イツキ君は自転車のハンドルを握ったまま立ちすくんでいました。



第116話 憧れの再会④
イツキ君が城嶋さんと倉庫で会っている間の出来事です。



「みんなでイツキ君のところへ行こう!」



少年昆虫団は六町公園に集まっていました。



「それがいいね。」

「場所はイヤコムでわかっていますしね。」

「ねぇ,レオンさん・・・。」



まさらちゃんは何やらとても不安そうな表情で

レオンさんに声をかけました。



「なんだい,まさらちゃん。」

「本当にあの城嶋さんって人を知っているの?」

「ああ,最初に握手をした時にどこかで見た顔だなと思ったんだ。」



どうやらレオンさんは城嶋さんの顔を知っていたようです。



「行ってみればわかるよ~!行こう~!」



みんなはイヤコムを頼りにイツキ君のもとへ向かいました。



到着するとイツキ君はちょうど倉庫から出るところでした。



「あ,イツキ君いましたよ。」

「待って。」



リク君はイツキ君に見つからないように倉庫の手前の壁に隠れました。



「イツキ君を追いかけなくていいの?」

「おそらくイツキ君は何か手伝いごとを頼まれたんだ。

きっとまたここに戻ってくるはずだ。」


「一人みたいだし,そうだろうね。

だからまだ倉庫の中には城嶋って人がいる・・・。」




少年昆虫団は城嶋さんに何か用事があるのでしょうか。



イツキ君が倉庫を出てから40分後・・・。



倉庫の中の中央で仕切られた壁の扉が開きました。



中から城嶋さんが出てきました。



そして携帯電話の画面に映った時刻を確認しました。



城嶋「フーッ・・・。」



煙草を吸いながら廃材の上に座りました。



城嶋「イツキのやつ,うまくやってくれたか・・・。」



その時,倉庫の入り口の大きな扉が開きました。



城嶋「ん?誰だ?」



ゴゴゴゴゴ・・・。





大きな音を立てて扉は開きます。



外から光が差し込んできたため,

扉を開けた人物の姿は逆光となり,

顔まではよく見えません。



城嶋「誰だ・・・?」



城嶋さんは入り口付近まで近づいてその人物の顔を覗き込みました。



城嶋「まさか・・・。」



現れたのはイツキ君でした。



小包を届けて戻ってきたのでしょうか。



城嶋「イツキ・・・。」



「・・・。」



なぜかイツキ君の顔は悲しみに満ちていました。





第117話~第120話

2016/2/6

第117話 憧れの再会⑤ 
倉庫の扉が開くとそこにはイツキ君がいました。



小包を先方に届けて戻ってきたのでしょうか。



しかし,城嶋さんはイツキ君が戻ってきたことに驚いています。



城嶋「イツキ・・・。お前,届けに行ってくれなかったのか・・・?」



「なぜ・・・そう思うの?」



イツキ君は下を向いたままでした。



城嶋「・・・。」



「普通だったら小包を届けて戻って

きたのかって思うんじゃないの?」




城嶋「・・・。」



城嶋さんは煙草を口にくわえたままイツキ君を見つめています。



城嶋「お前・・・。中身を見たのか・・・。」



「・・・うん。見たよ・・・。」



イツキ君は小包に何が入っているか偶然知ってしまったようです。



「中身は・・・。」



イツキ君はじっと城嶋さんを見つめたままでした。



「“爆弾”・・・だったよ。」





彼は悲しみを堪え切れないようでした。



「だから俺が戻ってくるはずがないと思ってるんでしょ。」



城嶋「・・・。何かの手違いだ。」



城嶋さんは冷静に答えます。



-イツキ君が小包を届ける途中-



「やべ・・・。大切な荷物・・・!大丈夫かな・・・。」



イツキ君は小包を拾い上げました。



「(中身,大丈夫だよな。何が入っているんだろう。

割れ物だったらどうしよ・・・。)」




無意識に耳を当てて中身を確認しようとしました。



「ん?」



中からはカチッカチッカチッと音がします・・・。



自転車を起し,小包をかごに入れた後,

イツキ君は自転車のハンドルを握ったまま立ちすくんでいました。



「まさか・・・ね・・・。」



いてもたってもいられなくなり,小包の包装を破り,中身を確認してみました。



するとそこには時限式の爆弾が入っていました。



「これは・・・。」



さらに発信機も取り付けられていました。



「なんでこんなものが入っているんだ・・・。

城嶋さんはいったい何を・・・。」




爆弾のタイマーは残り10分を切っていました。



「このタイプの爆弾はタイマー式だが

万が一に備えて遠隔操作もできるようになっているはず・・・。」




発信機で爆弾の位置を確認し,

目的地に到着したら起爆させることも可能でした。



「くそっ・・・。」



イツキ君はすぐに爆弾を庄外川に沈め,

発信機だけをもって目的地に向かいました。



そして目的地で発信機をつぶし,

この一連の意図を確かめるために倉庫へ戻ってきたのでした。



-倉庫で対峙する二人-



城嶋「・・・。」



「小包を届ける場所も確認してきたよ・・・。

場所は,県警の官舎(警察官が住む寮)だったよ・・・。」




城嶋「そうだ。」



「いったい,どういうつもりなんだよ,城嶋さん!!!」



イツキ君は声を荒げて問い詰めました。



突然,城嶋はイツキの腹を思いっきり蹴り上げました。



「ごほっ!?」



彼はよける間もなく苦しみの表情のまま倒れました。

そして大粒の涙を流しました。





城嶋「イツキ・・・。お前はもう少し使える男だと思っていたが・・・。

買い被りだったようだな。」





城嶋はニヤっと笑いながら冷たい目でイツキ君を見下しています。



どうやらこれが彼の本性のようです。



第118話 憧れの再会⑥
城嶋はイツキに爆弾のことを問い詰められると,

イツキ君の腹を思いっきり蹴り上げました。



「ごほっ!?」



城嶋の蹴りをよける間もありませんでした。



城嶋はニヤっと笑いながら冷たい目でイツキ君を見下しています。



どうやらこれが彼の本性のようです。



「なんで・・・。何かの間違い・・・だよね・・・。」



イツキ君は倒れこみ,泣きながら城嶋さんにすがっています。



城嶋「仕方ねぇな。」



城嶋はさらにイツキに蹴りを加えます。



ドカッ!ドカッ!



鈍い音が倉庫に響きます。



「ぐふっ・・・。」



城嶋「殺すには惜しい男だ。だが・・・仕方ない。」



「ううう・・・。なぜ・・・城嶋さん・・・。」



イツキ君にはいまだに何が起きているのか

理解できないようでした。



いや,理解したくないのです。



城嶋「殺す前に全て教えてやるよ。」





城嶋はイツキ君を足蹴にしながら語り始めました。



城嶋「俺は“ある革命組織”のリーダーだ。国家権力に対抗するために

お前を利用して腐った国家権力の犬共を粛清しようと計画していた。

なぜなら我々こそが真の革命戦士だからだ。」



「な・・・。」



城嶋「今の日本にそんな連中はいないと思っていたなら考えが甘い。

俺たちも含め色々な“平和を愛する組織”が

この国には存在する。かつての“連合赤軍”しかり,・・・しかりな。」



この現代の平和な日本では忘れがちですが,

自分たちの理想のために人を殺す連中は確かに存在するのです。



城嶋「子供ならやつらも油断するからな。発信機が官舎に到着したのを

確認したら,お前ごとこの携帯電話式のリモコンで爆破する予定だったんだよ。

ふはははっ・・・。」



自分の計画を高笑いしながら語っています。



「なんで・・・。じゃあ仕事のミスっていうのも嘘だった・・・!?」



城嶋「そうだ。」



「どうして・・・。前はそんな人じゃなかった!

強くて優しくて・・・俺の憧れだった・・・。」




イツキ君は悔しくて,悔しくて大粒の涙を流していました。



「うう・・・うう・・・。」



城嶋「俺はもともと変わっちゃいないさ。

お前に格闘技を教えたのも,しばらくの間,

姿を消したのもすべて計画のうちだ。

お前に最初出会ったとき,ピンと来たんだ。」



「・・・。」



城嶋「このガキは使えるってなぁ!他にも何人か声はかけてみたが,

あとは使えねぇガキがほとんどだった。」



城嶋という男は非情な男だったのです。

イツキ君の気持ちを利用して身勝手な計画を実行したのでした。



城嶋「イツキ・・・。全てを知った以上,

お前を生かしておくわけにはいかない。悪いな。」



城嶋はイツキを持ち上げ,首を絞めました。



「ぐっ・・・。(まずい・・・意識が・・・。)」





城嶋「死ねぇ!」



どがっ!!



城嶋「ぐおおおお・・・。」



城嶋は何者かに吹き飛ばされました。



そこに現れたのは・・・。



第119話 憧れの再会⑦
城嶋に殺されかけたイツキ君を助けたのはレオンさんでした。



みんなは廃材の陰に隠れて様子をうかがっていたようです。



少年昆虫団もイツキ君に駆け寄りました。



「大丈夫!?」



イツキ君はうつむいたままでした。

同時に,城嶋は立ち上がり,レオンさんたちを睨みつけました。





城嶋「てめぇら・・・昨日の・・・。」



「あんたは・・・最低な人間だな・・・。だがここまでだ。」



その言葉に反応するようにして,

城嶋はレオンさんに殴りかかりました。



バキッ!ゴキッ!



「ぐっ・・・。」



城嶋「うっ・・・。」



お互いの拳がそれぞれのほほに入りました。

少し下がってから間合いを取りながら近づきます。



そして一歩も譲らず殴り合いは続きます。



城嶋「なんなんだてめぇは・・・。」



城嶋の蹴りがレオンさんの顔面に飛びます。

レオンさんは両手でそれを受け,はじきます。



「・・・。」



イツキ君は二人の戦う様子を倒れこんだまま見つめていました。



「レオンさんってあんなに強いんですね・・・。」



城嶋「(こいつ・・・強い。外国の傭兵で実践経験がある俺が押されている・・・。)」



「確かに・・・イツキ君が憧れるだけの強さはあるね・・・。でも・・・。」





城嶋の猛攻が続きます。レオンさんはガードを

しながら攻撃の機会をうかがいます。



城嶋「死ねやぁ~!」



「でもそんなのは本当の強さじゃない。」



レオンさんは城嶋を諭します。

しかし,彼は聞き入れることはしません。



「・・・。」



城嶋「うるせぇ!」



ボッコ~ン!!



レオンさんは城嶋の攻撃を左によけました。

次の瞬間,拳を城嶋の腹に命中させ,彼を吹き飛ばしました。



城嶋「ぐふ・・・。」



「貴様の拳には“想い”がない。俺にはある。

この子たちを守りたいという“想い”が。」






城嶋「・・・。何をっ・・・。」



「だから,そんな貴様に負けるわけがない!」





レオンさんのさらなる拳の一発が城嶋の頬に入りました。



彼は空中で吐血しながら地面にたたきつけられました。



「つ・・・強えぇ・・・。」



イツキ君はレオンさんの強さに驚いていました。



「なんかいつものレオンさんじゃないみたい・・・。」



まさらちゃんは少し震えていました。



「オイラ並みに強・・・。」

「今,シリアスなシーンだから

トシ君はしゃべらないでください。」




城嶋は倒れたまま動きません。



「城嶋って人が弱いんじゃない・・・。

レオンさんが強すぎるんだ・・・。」




「大人がこの国を間違った方向へ導いてどうする・・・。

“平和のため”と謳いながら自分たちを正当化する,

お前たちのような集団を俺は決して理解しない!」




勝敗は決したようです。



第120話 憧れの再会⑧
「大人がこの国を間違った方向へ導いてどうする・・・。

“平和のため”と謳いながら殺人を正当化する,

お前たちのような集団を俺は決して理解しない!」




城嶋「詭弁だ・・・。この国は間違っている・・・。

国民の意見を・・・無視し・・・“数の暴力”で

全てを決めようとする・・・。俺たちは政府の連中に・・・

“民主主義”とは何かを・・・教えてやっているんだ・・・。」



トシ君とだぬちゃんはいらぬ突っ込みをいれます。



「それならドローンを使えば・・・。」

「ドローンユーザーに怒られますよ!」



城嶋はまだ何かを語ります。



城嶋「“民主主義”って・・・なんだ・・・?俺たちのことだ・・・。」



彼の思想は常軌を逸しているようでした。



「暴力に訴えることが民主主義だと?笑わせる。それこそ詭弁じゃないか。」



リク君もたたみかけます。



「レオンさんの言うとおりだよ。あんた達の大好きな憲法にもこう書いてある。

“日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動する”とね。

つまりあんた達のやっていることは民主主義でもなんでもない。」




城嶋「ガキが何を・・・!?俺たちは革命者であり,民主主義を愛する者だ!

言ってわからない連中にはどんな手も使う!真の平和のために・・・だ!」



レオンさんはその言葉を遮りこう言いました。



「人はそれを“テロリスト”と呼ぶ。」



ドゴッ!?



レオンさんは城嶋にとどめの一撃を加えました。



勝敗は決したようです。



レオンさんはイツキ君のもとに駆け寄りました。



「もう大丈夫だよ。何も心配はいらない。」

「・・・。」



イツキ君は今までレオンさんに冷たく

当たっていたことが恥ずかしくなりました。



「こいつどうするの?」

「大丈夫。ここに来た時に公安へ連絡しておいたから。

もうすぐここにきて身柄を取り押さえると思う。」




レオンさんはこの後のことを冷静に説明しました。



「(公安・・・!?。)」



「公安ってなんでしたっけ?」



だぬちゃんが質問しました。



「テロリストとか日本の治安を脅かす

連中を取り締まる警察の組織のことだよ。」




レオンさんが事前に公安へ通報していたようです。



リク君は何かを考えながらレオンさんを見つめました。



「どうかしたのかい?顔のことなら言わないでよ。

結構ボコボコにされちゃったからさ。」


「そんなことないよ!かっこよかったよ,レオンさん。」

「そうかなー。ウキキ。」



レオンさんはにやにやしています。



倒れこんでいる城嶋を背に,倉庫から立ち去りました。



後に判明したことですが,倉庫の後ろの空いたスペースには

革命組織が使用する予定だった爆弾が用意されていたそうです。



もし,ここで彼らの犯罪が明るみに出なければさらなる被害が

出ていた可能性があったようです。



-中野木図書館にて-



図書館のいつもの机で先ほどのことを振り返っているようです。



「でも,レオンさんが城嶋って人のことを

見たことある顔っていうのは本当だったんだね。」




まさらちゃんは納得したようにしていました。



「ああ,たまたまネットで指名手配一覧の写真を

見ていたら,彼の顔があったことを思い出したんだ。」




「そっか・・・。」



さらにレオンさんは話を続けます。



「彼は以前,東京でテロ行為を行って人を殺している。

その首謀者ということで全国に指名手配されていた。」




イツキ君はその話を聞いて下を向いたままでした。



「イツキ君・・・。世の中の大人はあんな奴ばかりじゃないよ。」

「あんたに・・・何がわかるんだ・・・!?」



イツキ君はレオンさんに突っかかりました。



「・・・。」

「でも・・・。」



・・・



・・・



「助けてくれて・・・ありがとう・・・。」





イツキ君は涙を流しながら懸命に言葉を絞り出しました。



「レ・・・オ・・・ンさん・・・。」

「ははっ。いいってことだよ。」



イツキ君はレオンに感謝の気持ちを伝えました。



「あ,イツキ君,初めてレオンさんのこと名前で呼んだね。」

「・・・。」

「そうですねー。」



イツキ君は尊敬する人物を見誤って深い闇にはまってしまったようです。



しかし,そこから彼を救い出してくれる人に出会うことができました。



きっとこれからは少しずつレオンさんに対して心を開いていくことでしょう。



第121話~第124話

2016/3/9

第121話 憧れのエピローグ
  少年昆虫団は宿題をするために中野木図書館へ集合しました。

机を囲んでおしゃべりをしています。





「いやぁ,僕もイツキ君に認められたので,

これで晴れて少年昆虫団の仲間入りだね~。」


「でもレオンさんは少年じゃないでしょう・・・。」



だぬちゃんが当然のように突っ込みを入れます。



「だぬちゃん,細かいことは気にしないで~!ほら,宿題教えてあげるから。」



レオンさんはイツキ君とのわだかまりがなくなって嬉しいようです。



「・・・たく。」

「よし,じゃあ本でも持って来ようっと。」



リク君は電子書籍より紙でできた本の方が好きみたいです。

まさらちゃん,だぬちゃん,トシ君も本を探しに行きました。



その場にはイツキ君とレオンさんの二人のみが残りました。隣同士の席でした。



「何か困ったことがあれば何でも言っておくれよ。ウキキ。」



レオンさんはイツキ君に語りかけます。



「・・・。」

「まぁ,君も頭はいいみたいだし,特にないか・・・。

宿題は一人でやれそうだね。」




するとイツキ君は神妙な顔をしてしゃべり始めました。



「じゃあ・・・。」

「ん?」



イツキ君は何かをレオンさんに伝えます。



「―――・・・。」



するとリク君とまさらちゃんが戻ってきました。



「あれ?何かレオンさんと話していたの?」

「ああ,ちょっとね。工作のお願いさ。」

「あ,そっかー。図工の宿題もあったもんねー。」



小学生の夏休みは色々とやることがあり,それなりに大変なのでしょうか。



「なるほどねー。」



リク君は一人でニヤついていました。



「そういえば,城嶋の他のアジトも捜索したら,

色々と爆弾やらメンバーやらが潜んでいたらしくて,

すごい騒ぎになっていたみたいだよ。」


「そうなんだー。」



レオンさんは城嶋について,新しい情報を提供しました。



「あと,あの男の格闘術が特殊なのは

軍隊で訓練したものだからだね。極めて実践向きさ。」


「・・・。」



イツキ君は昨日のことを受け入れるのにまだ時間がかかるようです。



城嶋と過ごした楽しかった日々は確かに存在していたのです。



無口で愛想もなく,むせるくらい常に煙草ばかり吸っていた男でしたが,



イツキ君にとっては全て大切な思い出なのです。



「(あの人との思い出は常にケンカとタバコだったな・・・。

いつも吸っていたもんな・・・。)」


「イツキ君?どうしたの?」



リク君はイツキ君に声をかけました。



「・・・。」



レオンさんもイツキ君を見ました。



「ん?」

「いや何でもないよ・・・。」



「さて,もう少ししたら帰るかな。」



突然,二階からだぬちゃんとトシ君が降ってきました。



「ぎゃー。」

「うおおお。」



大きな音を立てて着地しました。



「トシ君が届きそうもないような高い本棚から本を取ろうとするから,

滑らせて一緒に階段から転げ落ちてきたんですよ・・・。」


「いやいや,違うって。」



はた迷惑な二人なのでした・・・。



館長「図書館は静かにね・・・。」



レオンさんは館長にも挨拶をする際,

何か一言二言しゃべってから帰っていきました。



この後,彼らには昆虫採集が待っているようです。



第122話 スナとコクワ
少年昆虫団が大牧山で昆虫採集をしていると茂みから音がしました。

現れたのはスナぴょん団でした。



「あ・・・。」





スナ「なんだ,お前たち!偶然だな。」



どうやらスナぴょん団はヴィートの特訓をしていたようです。



「こいつは確かただでかいだけのでくの坊だ。」



トシ君はジャイに向かってでかい口を叩きました。



ジャイ「生意気な・・・。前回俺様に負けたくせに!」



スナ君は二人を制して言いました。



スナ「どうだ,久しぶりに昆虫採集対決でもするか!」



「いや・・・いい。今それどころじゃないんだよ。」

「そうですよ。しかしイツキ君がいない時に限って現れるとは・・・。」



どうやらイツキ君は一緒ではないようです。

そしてリク君たちは何か急いでいるようです。



スナ「何があったと言うんだね。」



「あのね,私がさっき捕まえたコクワちゃんが

かごから逃げちゃったの。だから早く見つけたいの。」




スナぴょん団は事情を理解したようです。



スナ「ならちょうどいい。そいつをどちらが先に見つけられるか勝負だ!」



「は・・・?」

「なるほどー。」



スナ「よし,お前たち。すぐにコクワを探しに行くぞ!」



「まぁ,見つかれば何でもいいか・・・。」



スナ君は少し山を下りました。



スナ「コクワは大体このあたりにいることが多い・・・。」



サラ「スナ君・・・あの・・・。」



スナぴょん団の物知り博士,サラ君がスナ君に話しかけました。



スナ「なんだ,サラ。」



サラ「これじゃもし我々がコクワを見つけて勝負に

勝っても喜ぶのは向こうじゃないんですか?」



スナ「なに~!そうだったぁ!?」



お嬢「やっぱり,勢いで勝負してるし・・・。」



すなピョン団の紅一点,お嬢は冷ややかな目でスナ君を見ていました。



ジャイ「何でもいいさ。あいつらに勝つことが重要だ。そうだろ,スナ君!」



スナ「そっその通りだ。」



タコ「オイラは楽しければ何でもいいやぁ~。」



お気楽なタコ君は現状を楽しんでいます。



スナ「お,これじゃないか・・・。」



そして1時間後・・・。



スナ「これがお前たちが探していたコクワだろう!?」



「あ~,きっとそうだよ。ありがとうスナ君!」

「よく見つかったな・・・。

(一度逃げたカブクワをまた捕まえるなんて絶対無理だと思った・・・。)」




スナ「というわけで今回は俺たちの勝ちだな!」



「まぁ,そうだね。今回は助かったよ。」



スナ「よ~し,みんな。再びヴィートの特訓だ。

今度はヴィートで少年昆虫団に勝つぞ~!」



「なんか,面白い人たちですね・・・。」



今回はスナ君たちに助けられた少年昆虫団でした。



「(イツキ君・・・。今頃,レオンさんと一緒に図書館かな・・・。)」



第123話 まさらとカイリのショッピング! 
休日の栄は多くの人でにぎわっています。

その賑わいの中に二人の女の子がいました。



「なんか久しぶりに街中を歩いているって感じ。」





まさらちゃんが歩きながらカイリちゃんに話しかけます。



カイリ「そうだよね。まさらお姉ちゃん,いつも昆虫採集ばっかりだもんね。」



血はつながっていませんが,カイリちゃんは

まさらちゃんのことをそう呼んでいました。



少し歩くとお目当てのお店が見えてきました。



「ここ,前から行きたかったんだよね~。」



まさらちゃんは声をはずませて楽しそうにしています。



二人が入っていったのは,“フラワーカジュ”という人気のブティックでした。





カイリ「どんなお洋服買おうかな~,お小遣いも結構あるし!」



どうやらカイリちゃんは臨時収入があったようです。



2階の女性用コーナーに入ると女性店員が声をかけてきました。



店員「いっらしゃいませ。何かお探しですか?」



その店員はとてもカジュアルな格好で,

二人は思わず見とれてしまいました。



カイリ「お姉さん,すごくきれいですね。それにとてもオシャレ。

お姉さんみたいな恰好がしたいな!」



「えっと・・・。」



まさらちゃんは店員の名札を見ました。





桃瀬「私は桃瀬といいます。よろしくね。」



桃瀬という店員に案内され,子供用の服が

置いてあるコーナーに案内されました。



そこには“メドピアノ”や“GOO”と

いった人気ブランドの服が多数ありました。



「これなんかいんじゃないかな?」



まさらちゃんはガーリー&ラブリーな服を手に取りました。



カイリ「お姉ちゃんにはこれも似合うと思うよ。」



カイリちゃんはもう少し大人びた服を持ってきました。



桃瀬「それでしたらこちらなんかいかがでしょうか。」



店員の桃瀬さんは二人にピッタリな服を

持ってきて,好きなだけ試着させてくれました。



そんなやりとりをしている間にすっかり夕方になってしまいました。



二人はお気に入りのお洋服が買えたようです。



「桃瀬さん,ありがとうございました。」



まらちゃんとカイリちゃんはお礼をいいました。



桃瀬「いえいえ,二人にぴったりのお洋服が見つかって何よりです。」



二人はお店を出ました。



「あの店員さん,すごく親切でよかったね。」

カイリ「うん,さすが人気のお店は違うね。」

二人は上機嫌のまま岐路に向かいます。



たまには昆虫採集を忘れて楽しい1日を過ごすことができたようです。



<おまけ>



「いや,昆虫採集の方がおもしろいよ!」

「女性は虫を追いかけるより,身だしなみの方が興味あるんですよ!」



第124話 だぬちゃんジャズコンサートへいく
だぬちゃんは一人で栄に来ていました。

お気に入りのバンドによるジャズコンサートを聴くためです。



「いや~,楽しみですね。このバンド,お気に入りなんですよね~。」

 

だぬちゃんが持っているパンフレットには

『“ブルーマウンテン(ブルーMt)”によるサマージャズコンサート』と

書かれていました。



だぬちゃんはライブハウスに到着し,コンサートが始まるまで

グラスに注がれたオレンジジュースを飲んで静かに待っていました。



このライブハウスはお酒と料理とともに生演奏が聴ける老舗会場なのです。

もちろんだぬちゃんはお酒は飲めませんのでジュースを代わりに注文していました。



「(前から行きたかったんですよね。でも毎日,毎日,昆虫採集ばかりで

なかなか時間がとれなかった・・・。今日は強引に昆虫採集を断って正解でした。)」




ステージに現れたのはブルーMtの方々でした。



リーダーの青山(トランペット),そしてテナーサックス,

ドラム,ピアノで構成されるカルテット(四重奏)のグループです。



そしてメンバーの挨拶があり,少しばかりのトークがあり,それから生演奏が始まりました。



軽快な音とともに繰り広げられるジャズは聴く者の心を癒します。



彼らの音楽は本物でした。



「(ああ,最高ですね~。)」



そして演奏が終わりました。あっという間の至福の時は過ぎ去ってしまったのです。



リーダーの青山がステージで深々と礼をします。





<青山和夫:バンドのリーダー>



青山「今日はわざわざ会場にお越しいただきありがとうございました。」



「ブルーMt,最高です!」



会場は静かな雰囲気を醸し出しつつも

盛大な拍手が巻き起こってフィナーレを迎えました。



だぬちゃんは静かに目を閉じ,余韻に浸っていました。



・・・。



・・・。



だんだんと耳から聞こえる音がやかましくなってきました。



シャーシャーシャーシャー・・・。



「なぬ!?」



だぬちゃんは声を荒げました。



目を開けるとそこはいつもの昆虫採集の現場でした。



「あれ・・・。」



体を起こすとリク君とトシ君がそこにいました。



「大丈夫?疲れたって言って休んでいたみたいだったけど・・・。」



だぬちゃんは昆虫採集の最中に疲れてしまい,

木の木陰で休んでいたようです。



「昨日,聴きに行ったジャズコンサートのことを思い出していたみたいです。」

「ああ,それで疲れが出ちゃったんだね。なんてグループだっけ?」



だぬちゃんはそのバンドの素晴らしさを説明しました。



「バンド名は“ブルーMt”です。最高ですよ。一度聴きに行きますか?」



だぬちゃんは誘ってみました。



「いや,僕はセミの鳴き声で十分!」



しかし,リク君の返事はつれません。



「元々,関西地区だけで活動していたんですが,

今年の夏は名古屋で活動するみたいなんですよ。

だからこの機を逃さずに行ってきたわけです。」


「ふ~ん。」



リク君はジャズに興味がないようですがトシ君はあるみたいです。



「オイラは行ってみようかな~。」

「トシ君にはあの良さはわかりませんよ!」



ちなみにまさらちゃんはリク君の妹のカイリちゃんとお買いもの,

イツキ君はレオンさんと図書館に行っているようで昆虫採集には来ていませんでした。



第125話~第128話

2016/4/7

第125話 プロローグ

ノアシリーズ最終章
リク君は少年昆虫団のイツキ君,まさらちゃん,

だぬちゃん,トシ君と共に毎日,昆虫採集に励んでいました。



ある日,イツキ君が中野木図書館で謎の書物を見つけました。



彼らはその本をノアの書と名付けました。



実はそのノアの書は闇組織ジャファの研究機関から持ち出されたものでした。



持ち出した人物は小早川教授と言い,カブクワキングの裏にある

アパートに引っ越してきたレオンさんの父親でした。



小早川教授は逃亡の際,組織に殺されてしまいました。

レオンさんは組織の全貌を暴き,父の仇を討とうとしています。



一方,リク君達の担任,栗林先生は

組織の幹部である影(シャドー)が変装ですり替わっていました。



その正体をレオンさんと協力して暴き,各務原山で追い詰めることに成功しました。



しかし,結局,影を取り逃がしてしまいました。



その後,彼に仕掛けた盗聴器と今までの分析から,

闇組織ジャファには6つのユニットがあり,山犬,川蝉,海猫と

呼ばれるユニットが漆黒の金剛石の探索を担当していることがわかりました。



イツキ君の分析によると,漆黒の金剛石とは,神の遺伝子を持った特別なカブトムシのようです。



彼らが何の目的で漆黒の金剛石を探しているかはわかっていません。



そして神の遺伝子とは何かもわかってはいません。



さらに影(シャドー)と顔なじみであるグレイと呼ばれる人物も動き出す可能性があります。

物語は影(シャドー)がある人物と会話をしているところから始まります。



ここは名駅にあるセントラルタワー,

通称“バベル”と呼ばれるビルです。その50階の一室にて。



薄暗い明りの部屋に二人の男が黒いテーブルを挟んで椅子に座っていました。



一人は今村の部下である影でした。



影「・・・というわけで兵隊を少々お貸ししていただきたい。」



影は腕組みをしたまま,テーブルの向こうに対峙する

その人物にそう伝えました。



彼の名前は源田。ユニット森熊のリーダーです。





<森熊 ユニットリーダー源田>



源田「御前の勅命がなければ兵は出せない。

しかもお前はユニットリーダーですらない。

今村氏を通じて正式に要請するのが筋だ。」



立場はこの男の方が上のようです。



影「御前の許可は出ていますよ。」



影は一枚の紙を取り出して机の上に載せました。

それは御前からの許可状のようなものでした。



源田「まさか。」



彼は信じられない,といった様子で答えます。



影「ノアズアーク(ノアの書)を奪還することは

現在の最上級優先事項でしょう。そしてそのための計画は

すでに出来上がっているのです。あとはコマが少し足りないだけです。」



源田「本当に勅命が・・・?」



影「そこまで疑うのなら直接確認してみてはいかがでしょうか?

しかし,御前に恥をかかせるようなことがあれば貴方の首が飛びますよ。

いくらあなた方が組織で強大な権力を持っていようとも・・・。」



影はたたみ掛けるようにその人物に寄りかかります。



源田「む・・・。」



その男は少し悩んだ末,影の要求を承諾しました。



源田「わかった。」



影「助かります。念には念を入れたいので,

なるべく手練れの連中をお願いしますよ。

まぁ二個小隊,10人ほどいれば十分です。」



源田「言っておくが,我々,“森熊”は組織内の

治安維持と外敵からの警護が第一任務だ。」




森熊の任務は組織の中でも重要な役職のようです。



影「わかっていますよ。作戦が終了しましたら速やかにお返しします。」



そして影はその部屋から出ていきました。



果たして影は何を企んでいるのでしょうか。

これから少年昆虫団に何かが起きるのでしょうか。



第126話 家出

ノアシリーズ最終章
夏休みの夜,イツキ君は中野木図書館から家に帰ってきました。



そして自分の部屋で寝る準備を整えていると,

イツキ君の母親が部屋に入ってきました。



「母さん,どうしたの?」



母「どうしたのじゃないでしょ!

あまり言いたくはないんだけど・・・。

最近また,勉強がお留守になっているんじゃないの・・・。」



「わかっているよ。ちゃんと勉強もやっているよ。」



イツキ君は弁解しますが,お母さんは納得しないようです。



母「確かに,少年昆虫団の子たちには色々と

助けられているから,こんなことは言いたくないんだけど・・・。」



「その話はしないって約束でしょ。」



お母さんはイツキ君が勉強をしないことを心配しているようです。



「そんなに色々言うなら,もういいよ!」



母「どうしたの,急に怒り出して。

今日のあなたはちょっと変よ・・・。」



お母さんはイツキ君が急に怒り始めたので少し動揺しています。



「俺には俺のやり方があるんだ!」



イツキ君はベッドの脇に置いてあったリュックを背負い,

お母さんの横を潜り抜けて部屋から出ていきました。



母「どうするつもり!?」



「こんな家にいたくない。家出する!」



イツキ君は階段を下りて1階の玄関から出て行ってしまいました。



母「ちょっと!?」



あわてて追いかけますが,すでにイツキ君の姿は見えません。



イツキ君は深刻な表情のまま暗い夜道を歩き続けました。



「さてと・・・。どうしたもんかな・・・。」



イツキ君は道端の自販機でジュースを買いながら,そうつぶやきました。





―イツキ君の家出から遡ること1時間ほど前のこと―



六町公園のうす暗い街灯の下で影(シャドー)が電話をかけていました。



彼は携帯電話で誰かと話しているようです。



影「君がノアズアークの件であの子たちに近づこうと

しているのは知っている。・・・え,すでに接触済みだって。

ああ,そうかい。」




どうやら組織内のメンバーと会話をしているようです。



影「だが,私はすでに奪還の計画を立てている。

どうしても手柄が欲しければ,私の計画に乗ってみるかい?」



影は意気揚々と電話で話をしています。



影「・・・だろうね。君なら断ると思っていた。

しかし,それならば私の計画が終わるまでは手出し無用で頼むよ。」



そして電話を切るときに一言付け加えました。



影「結果を楽しみにしていてくれ,・・・グレイ。」



ズボンからイヤホンのようなコードを取り出し,携帯電話に取り付けました。



そして真剣な表情で何かを聞いています。

それはイツキ君とお母さんのやりとりでした。



影は,栗林先生に変装中に家庭訪問を行い,

こっそりとイツキ君の部屋に盗聴器を仕掛けていたのでした。

(第85話参照)



影の携帯電話は盗聴の受信機としての機能もあったのです。

そしてイツキ君が家から飛び出していくのを確認しました。



影「ほう。これは何かの偶然か。またとないチャンスが訪れた。」



いよいよ影(シャドー)の作戦が動き出すようです。



第127話 極めて重大な失踪事件

ノアシリーズ最終章
イツキ君は母親とけんかをして,

家を飛び出し,六町公園へやってきました。



時間はすでに夜の11時を過ぎていました。





「まぁ,この辺かな。」



イツキ君はベンチにリュックを置き,

それを枕にして横になりました。



すると,背後から突然,誰かがハンカチのような布で口を塞いできました。



どうやらいつの間にか囲まれていました。相手は一人だけではないようです。



イツキ君が暴れようとすると別の一人が両足を縛ってきました。



「(こっこいつら・・・。)」



イツキ君の意識がだんだんと薄れていきます。

彼は気を失ってしまいました。



また別の人物が袋を用意していました。



その袋に手際よくイツキ君を入れ,公園の脇に止めてあった

ワゴンまで運び,後部座席に押し込んで車を発車させました。



時間にしてわずか2分足らずでした。



???「対象物を捕獲しました。このまま指定地点へ運搬します。」



助手席に乗っていた人物が携帯電話で報告を行いました。



影「ご苦労。このままぬかりなく進めてくれ。」



連絡を受けたのは六町公園に潜んでいた影でした。



影「(なんとも幸運だった。こんな形で彼の身柄を

拘束できるとは。誘い出す手間が省けた。)」



影の計画はイツキ君を誘拐してノアの書を手に入れることだったのです。



影「(さて,私も指定地点へ向かうか。)」



影は闇に消えていきました。



その日の深夜,お母さんはイツキ君が帰ってこないことを心配して,

警察と少年昆虫団に連絡を入れました。



リク君がイツキ君のお母さんを落ち着かせ,

翌朝にイツキ君の自宅へ伺って事情を聴くことを約束しました。



―そして翌朝―



リク君とまさらちゃん,レオンさんの三人は

先にイツキ君の家に到着していました。



そしてイツキ君のお母さんにイツキ君の部屋に

案内され事情を聴いています。



母「どうしましょう・・・。

私があんなことを言ったばっかりに・・・。」



お母さんはかなり動揺しています。



イツキ君はイヤコムを部屋に置いたまま

出て行ってしまったので現在の居場所がわかりません。



リク君,まさらちゃん,レオンさんは

動揺するイツキ君のお母さんをなだめながら話を聞いています。



「それで,警察には連絡したんですか?」



母「一応捜索願は出しました・・・。

でも心配で心配で・・・。」



そこにだぬちゃんとトシ君が遅れてやってきました。



「遅くなりました。」



だぬちゃんとトシ君も合流しました。

その時,リク君がレオンさんに近づきました。



「レオンさん・・・。」



リク君は小声でレオンさんに語りかけました。



「ああ,間違いなく,奴らの仕業だろうね。」

「うん。」

「そういえばポストにこんなものが入っていましたよ?」



だぬちゃんは一枚の封筒を取り出しました。



「何かな??」

「さっきはそんなの入ってなかったはず・・・。」



リク君は封筒を受け取り,中の手紙を取り出してみました。



それは脅迫状でした。差出人は影(シャドー)。



イツキ君の家出は組織の手によって

“極めて重大な失踪事件”へと発展していったのでした。



第128話 影(シャドー)の策略

ノアシリーズ最終章
リク君はだぬちゃんがポストに入っていた

封筒の件を聞くと,窓を開けて様子を伺いました。



「どうしたんですか?」



だぬちゃんが不思議そうに尋ねます。



「イツキ君のお母さん,申し訳ないんですけど,

お茶もらっていいですか?朝から何も飲んでなくて・・・。」




イツキ母「あ,気が利かなくてごめんなさいね。

あの子のことでいっぱいいっぱいだったので。」



イツキ君のお母さんはみんなの飲み物を

用意するために下の階へ降りていきました。



「で,お母さんを席から外したってことは・・・。」



リク君は再び窓から外の様子を伺います。





「この手紙はボクたちがこの家に到着した時は確かになかったはずなんだ。

ボクもポストが気になってのぞいてみたからね。でも何もなかった。」




「ふむ・・・。」



「つまりだぬちゃんたちが到着する直前に入れられたものだ。

僕たちが全員そろったところで読んでほしい連中の仕業だってことだよ。

そのためには近くに張り付いている必要があるでしょ。

だからひょっとしたらまだこの近くにその人物がいるかもしれない。」




「どういうことなの?その手紙の内容と関係あるの?」



「ああ,これは闇組織ジャファからの脅迫状だ。

だからイツキ君のお母さんに知られたらまずい。」




実はこの時,イツキ君の家の近くにある電柱の裏に一人の怪しい人物が張り付いていました。



影が要請した実務部隊の一人でした。

リク君は手紙をみんなに見せました。



手紙にはこう書かれていました。



―親愛なる少年昆虫団諸君―



大事なメンバーの一人であるイツキ氏を預かった。



無事に返して欲しければノアズアークとの交換になる。



本日,20時にノアズアークを持って八町公園の野球場グラウンドに来たれ。



ただし,少年昆虫団以外の人間が公園にいる気配を感じたら取引は中止となる。



また,この手紙の内容を少年昆虫団以外の人間に知られた場合も同様である。



取引が中止となった場合,彼の身の安全は保障できかねる。



―栗林―



「え,そんな・・・。」

「差出人が栗林先生・・・とありますが,これって・・・。」



差出人のことにだぬちゃんが気づいたようです。



「ああ,間違いなく影(シャドー)だ。」



どうやらイツキ君は影(シャドー)の手に落ちてしまったようです。



「あれ?ノアズアークって何?」」



トシ君は物忘れが激しいようです。



「ノアズアークってのいうは君たちが言う

ノアの書のことだよ。組織ではノアズアークと呼ばれている。

むしろそっちが正式名称かな。」




レオンさんが丁寧に説明してくれました。



「でも,ノアの書っていつもイツキ君が

肌身離さずもっているんじゃないのかな?」




「そのつもりで誘拐したんだろうけど,

手元にないことが判明したから,

あんな手紙を送ってきたんだろう。」




どうやらイツキ君はノアの書を持って家出をしなかったようです。



「じゃあ,部屋のどこかにあるんじゃないですか?」



だぬちゃんとトシ君が部屋を見て回ります。



「さっきから机の上や本棚を見ていたんだけど,

どこにもなさそうなんだよね。」




果たしてノアの書はどこにあるのでしょうか。







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