2016/4/7
第125話 プロローグ
ノアシリーズ最終章
リク君は少年昆虫団のイツキ君,まさらちゃん,
だぬちゃん,トシ君と共に毎日,昆虫採集に励んでいました。
ある日,イツキ君が中野木図書館で謎の書物を見つけました。
彼らはその本をノアの書と名付けました。
実はそのノアの書は闇組織ジャファの研究機関から持ち出されたものでした。
持ち出した人物は小早川教授と言い,カブクワキングの裏にある
アパートに引っ越してきたレオンさんの父親でした。
小早川教授は逃亡の際,組織に殺されてしまいました。
レオンさんは組織の全貌を暴き,父の仇を討とうとしています。
一方,リク君達の担任,栗林先生は
組織の幹部である影(シャドー)が変装ですり替わっていました。
その正体をレオンさんと協力して暴き,各務原山で追い詰めることに成功しました。
しかし,結局,影を取り逃がしてしまいました。
その後,彼に仕掛けた盗聴器と今までの分析から,
闇組織ジャファには6つのユニットがあり,山犬,川蝉,海猫と
呼ばれるユニットが漆黒の金剛石の探索を担当していることがわかりました。
イツキ君の分析によると,漆黒の金剛石とは,神の遺伝子を持った特別なカブトムシのようです。
彼らが何の目的で漆黒の金剛石を探しているかはわかっていません。
そして神の遺伝子とは何かもわかってはいません。
さらに影(シャドー)と顔なじみであるグレイと呼ばれる人物も動き出す可能性があります。
物語は影(シャドー)がある人物と会話をしているところから始まります。
ここは名駅にあるセントラルタワー,
通称“バベル”と呼ばれるビルです。その50階の一室にて。
薄暗い明りの部屋に二人の男が黒いテーブルを挟んで椅子に座っていました。
一人は今村の部下である影でした。
影「・・・というわけで兵隊を少々お貸ししていただきたい。」
影は腕組みをしたまま,テーブルの向こうに対峙する
その人物にそう伝えました。
彼の名前は源田。ユニット森熊のリーダーです。

<森熊 ユニットリーダー源田>
源田「御前の勅命がなければ兵は出せない。
しかもお前はユニットリーダーですらない。
今村氏を通じて正式に要請するのが筋だ。」
立場はこの男の方が上のようです。
影「御前の許可は出ていますよ。」
影は一枚の紙を取り出して机の上に載せました。
それは御前からの許可状のようなものでした。
源田「まさか。」
彼は信じられない,といった様子で答えます。
影「ノアズアーク(ノアの書)を奪還することは
現在の最上級優先事項でしょう。そしてそのための計画は
すでに出来上がっているのです。あとはコマが少し足りないだけです。」
源田「本当に勅命が・・・?」
影「そこまで疑うのなら直接確認してみてはいかがでしょうか?
しかし,御前に恥をかかせるようなことがあれば貴方の首が飛びますよ。
いくらあなた方が組織で強大な権力を持っていようとも・・・。」
影はたたみ掛けるようにその人物に寄りかかります。
源田「む・・・。」
その男は少し悩んだ末,影の要求を承諾しました。
源田「わかった。」
影「助かります。念には念を入れたいので,
なるべく手練れの連中をお願いしますよ。
まぁ二個小隊,10人ほどいれば十分です。」
源田「言っておくが,我々,“森熊”は組織内の
治安維持と外敵からの警護が第一任務だ。」
森熊の任務は組織の中でも重要な役職のようです。
影「わかっていますよ。作戦が終了しましたら速やかにお返しします。」
そして影はその部屋から出ていきました。
果たして影は何を企んでいるのでしょうか。
これから少年昆虫団に何かが起きるのでしょうか。
第126話 家出
ノアシリーズ最終章
夏休みの夜,イツキ君は中野木図書館から家に帰ってきました。
そして自分の部屋で寝る準備を整えていると,
イツキ君の母親が部屋に入ってきました。
「母さん,どうしたの?」
母「どうしたのじゃないでしょ!
あまり言いたくはないんだけど・・・。
最近また,勉強がお留守になっているんじゃないの・・・。」
「わかっているよ。ちゃんと勉強もやっているよ。」
イツキ君は弁解しますが,お母さんは納得しないようです。
母「確かに,少年昆虫団の子たちには色々と
助けられているから,こんなことは言いたくないんだけど・・・。」
「その話はしないって約束でしょ。」
お母さんはイツキ君が勉強をしないことを心配しているようです。
「そんなに色々言うなら,もういいよ!」
母「どうしたの,急に怒り出して。
今日のあなたはちょっと変よ・・・。」
お母さんはイツキ君が急に怒り始めたので少し動揺しています。
「俺には俺のやり方があるんだ!」
イツキ君はベッドの脇に置いてあったリュックを背負い,
お母さんの横を潜り抜けて部屋から出ていきました。
母「どうするつもり!?」
「こんな家にいたくない。家出する!」
イツキ君は階段を下りて1階の玄関から出て行ってしまいました。
母「ちょっと!?」
あわてて追いかけますが,すでにイツキ君の姿は見えません。
イツキ君は深刻な表情のまま暗い夜道を歩き続けました。
「さてと・・・。どうしたもんかな・・・。」
イツキ君は道端の自販機でジュースを買いながら,そうつぶやきました。
―イツキ君の家出から遡ること1時間ほど前のこと―
六町公園のうす暗い街灯の下で影(シャドー)が電話をかけていました。

彼は携帯電話で誰かと話しているようです。
影「君がノアズアークの件であの子たちに近づこうと
しているのは知っている。・・・え,すでに接触済みだって。
ああ,そうかい。」
どうやら組織内のメンバーと会話をしているようです。
影「だが,私はすでに奪還の計画を立てている。
どうしても手柄が欲しければ,私の計画に乗ってみるかい?」
影は意気揚々と電話で話をしています。
影「・・・だろうね。君なら断ると思っていた。
しかし,それならば私の計画が終わるまでは手出し無用で頼むよ。」
そして電話を切るときに一言付け加えました。
影「結果を楽しみにしていてくれ,・・・グレイ。」
ズボンからイヤホンのようなコードを取り出し,携帯電話に取り付けました。
そして真剣な表情で何かを聞いています。
それはイツキ君とお母さんのやりとりでした。
影は,栗林先生に変装中に家庭訪問を行い,
こっそりとイツキ君の部屋に盗聴器を仕掛けていたのでした。
(第85話参照)
影の携帯電話は盗聴の受信機としての機能もあったのです。
そしてイツキ君が家から飛び出していくのを確認しました。
影「ほう。これは何かの偶然か。またとないチャンスが訪れた。」
いよいよ影(シャドー)の作戦が動き出すようです。
第127話 極めて重大な失踪事件
ノアシリーズ最終章
イツキ君は母親とけんかをして,
家を飛び出し,六町公園へやってきました。
時間はすでに夜の11時を過ぎていました。

「まぁ,この辺かな。」
イツキ君はベンチにリュックを置き,
それを枕にして横になりました。
すると,背後から突然,誰かがハンカチのような布で口を塞いできました。
どうやらいつの間にか囲まれていました。相手は一人だけではないようです。
イツキ君が暴れようとすると別の一人が両足を縛ってきました。
「(こっこいつら・・・。)」
イツキ君の意識がだんだんと薄れていきます。
彼は気を失ってしまいました。
また別の人物が袋を用意していました。
その袋に手際よくイツキ君を入れ,公園の脇に止めてあった
ワゴンまで運び,後部座席に押し込んで車を発車させました。
時間にしてわずか2分足らずでした。
???「対象物を捕獲しました。このまま指定地点へ運搬します。」
助手席に乗っていた人物が携帯電話で報告を行いました。
影「ご苦労。このままぬかりなく進めてくれ。」
連絡を受けたのは六町公園に潜んでいた影でした。
影「(なんとも幸運だった。こんな形で彼の身柄を
拘束できるとは。誘い出す手間が省けた。)」
影の計画はイツキ君を誘拐してノアの書を手に入れることだったのです。
影「(さて,私も指定地点へ向かうか。)」
影は闇に消えていきました。
その日の深夜,お母さんはイツキ君が帰ってこないことを心配して,
警察と少年昆虫団に連絡を入れました。
リク君がイツキ君のお母さんを落ち着かせ,
翌朝にイツキ君の自宅へ伺って事情を聴くことを約束しました。
―そして翌朝―
リク君とまさらちゃん,レオンさんの三人は
先にイツキ君の家に到着していました。
そしてイツキ君のお母さんにイツキ君の部屋に
案内され事情を聴いています。
母「どうしましょう・・・。
私があんなことを言ったばっかりに・・・。」
お母さんはかなり動揺しています。
イツキ君はイヤコムを部屋に置いたまま
出て行ってしまったので現在の居場所がわかりません。
リク君,まさらちゃん,レオンさんは
動揺するイツキ君のお母さんをなだめながら話を聞いています。
「それで,警察には連絡したんですか?」
母「一応捜索願は出しました・・・。
でも心配で心配で・・・。」
そこにだぬちゃんとトシ君が遅れてやってきました。
「遅くなりました。」
だぬちゃんとトシ君も合流しました。
その時,リク君がレオンさんに近づきました。
「レオンさん・・・。」
リク君は小声でレオンさんに語りかけました。
「ああ,間違いなく,奴らの仕業だろうね。」
「うん。」
「そういえばポストにこんなものが入っていましたよ?」
だぬちゃんは一枚の封筒を取り出しました。
「何かな??」
「さっきはそんなの入ってなかったはず・・・。」
リク君は封筒を受け取り,中の手紙を取り出してみました。
それは脅迫状でした。差出人は影(シャドー)。
イツキ君の家出は組織の手によって
“極めて重大な失踪事件”へと発展していったのでした。
第128話 影(シャドー)の策略
ノアシリーズ最終章
リク君はだぬちゃんがポストに入っていた
封筒の件を聞くと,窓を開けて様子を伺いました。
「どうしたんですか?」
だぬちゃんが不思議そうに尋ねます。
「イツキ君のお母さん,申し訳ないんですけど,
お茶もらっていいですか?朝から何も飲んでなくて・・・。」
イツキ母「あ,気が利かなくてごめんなさいね。
あの子のことでいっぱいいっぱいだったので。」
イツキ君のお母さんはみんなの飲み物を
用意するために下の階へ降りていきました。
「で,お母さんを席から外したってことは・・・。」
リク君は再び窓から外の様子を伺います。

「この手紙はボクたちがこの家に到着した時は確かになかったはずなんだ。
ボクもポストが気になってのぞいてみたからね。でも何もなかった。」
「ふむ・・・。」
「つまりだぬちゃんたちが到着する直前に入れられたものだ。
僕たちが全員そろったところで読んでほしい連中の仕業だってことだよ。
そのためには近くに張り付いている必要があるでしょ。
だからひょっとしたらまだこの近くにその人物がいるかもしれない。」
「どういうことなの?その手紙の内容と関係あるの?」
「ああ,これは闇組織ジャファからの脅迫状だ。
だからイツキ君のお母さんに知られたらまずい。」
実はこの時,イツキ君の家の近くにある電柱の裏に一人の怪しい人物が張り付いていました。
影が要請した実務部隊の一人でした。
リク君は手紙をみんなに見せました。
手紙にはこう書かれていました。
―親愛なる少年昆虫団諸君―
大事なメンバーの一人であるイツキ氏を預かった。
無事に返して欲しければノアズアークとの交換になる。
本日,20時にノアズアークを持って八町公園の野球場グラウンドに来たれ。
ただし,少年昆虫団以外の人間が公園にいる気配を感じたら取引は中止となる。
また,この手紙の内容を少年昆虫団以外の人間に知られた場合も同様である。
取引が中止となった場合,彼の身の安全は保障できかねる。
―栗林―
「え,そんな・・・。」
「差出人が栗林先生・・・とありますが,これって・・・。」
差出人のことにだぬちゃんが気づいたようです。
「ああ,間違いなく影(シャドー)だ。」
どうやらイツキ君は影(シャドー)の手に落ちてしまったようです。
「あれ?ノアズアークって何?」」
トシ君は物忘れが激しいようです。
「ノアズアークってのいうは君たちが言う
ノアの書のことだよ。組織ではノアズアークと呼ばれている。
むしろそっちが正式名称かな。」
レオンさんが丁寧に説明してくれました。
「でも,ノアの書っていつもイツキ君が
肌身離さずもっているんじゃないのかな?」
「そのつもりで誘拐したんだろうけど,
手元にないことが判明したから,
あんな手紙を送ってきたんだろう。」
どうやらイツキ君はノアの書を持って家出をしなかったようです。
「じゃあ,部屋のどこかにあるんじゃないですか?」
だぬちゃんとトシ君が部屋を見て回ります。
「さっきから机の上や本棚を見ていたんだけど,
どこにもなさそうなんだよね。」
果たしてノアの書はどこにあるのでしょうか。