リクの少年昆虫記-過去のお話-

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目次


第257話~第260話

2018/12/24

第257話 真夏のサンタクロース4
愛知県東部の山奥にあるとあるキャンプ場。



ここは冬になるとサンタクロースの休憩地ということで

多くの客が集まるリゾート地でもありました。



さらにスキーを楽しむ客やクリスマスをロマンチックに

過ごせるコテージもあり,とても人気でした。



さらに,夏の間はキャンプ場として開放され,賑わっていました。

そこに男女11人の若者が遊びに来ていました。



ほとんどがカップルでしたが一人の

青年だけはそうではありませんでした。



彼の名前は三田クリス。見た目は地味で頬にはソバカスがあり,

髪の毛もクセ毛で,イケメンとは程遠い存在でした。



性格は気弱でパシリ体質,嫌なことが

あっても堂々と主張できないような青年です。



ただ,敬虔なクリスチャンで人を恨んだり,

悪さをしたりするようなことはしません。



そんな彼は今回のキャンプでも他の友人から

いいようにこき使われています。



青年1「おい,クリス。そこの荷物をテントの中に運んで置け!」

クリス「うん,わかったよ・・・。」



他のメンバーはキャンプファイヤーの準備をしたり,

自然に触れ合ったりと楽しんでいる中で,

クリス青年だけは,荷物を運んだりとした

雑用を押し付けられていました。



女1「なんか,クリスってどんくさい

やつだよねー・・・。なんでつれてきちゃったの?」

青年2「しょうがないだろう。同じサークル

なんだし,荷物持ちとしては役に立つだろう。」



ベンチに座って,二人の男女がクリスを馬鹿にしていました。

クリスは聞こえないふりをして,黙々と荷物を運び続けました。



すると,誰が言い出したのか,クリスにいたずらを

して怖い目にあわせてやろう,となりました。



ちょっと驚かしてやるつもりだったようです。

10人の若者はクリスを湖に連れて行きました。





そして,その湖に置いてあった二人が乗れる

くらいの小さなボートにクリスを乗せました。



クリス「いったい,何をするつもりなんだよ。」



一緒にボートに乗った青年は,

青年3「なんか,明美が湖の真ん中に珍しいものが

見えたっていうからさ,一緒に確認してもらおうと思ってよ。」



と,適当なことを言ってクリスを

なんとかボートに乗せ,漕がせました。



湖の真ん中に来たところで,クリスに湖の中を確認させました。

しかし,ボートの上からでは水が濁っており,良く見えません。



体を乗り出して確認しようとしたところ・・・。

急にボートが揺れ始めました。



残りの4人の若者が下からボートを揺らしていたのです。

彼らは後ろからこっそりと泳いでついてきていたようです。



クリス「わわ・・・。」



クリスのあわてた様子に湖の湖岸から見ていた

女子もケタケタと笑って馬鹿にしています。



その時,クリスはバランスを崩してボートから落ちてしまいました。



クリス「わぁぁ・・・。助けて・・・。僕は泳げないんだよぉ・・・。」



しかし,ボートにいた青年もいたずらを

した青年たちも助けようとはしません。



クリスは湖の底に沈んでいきました。



青年4「おい,そろそろ助けないとやべぇんじゃない?」

青年3「そうだな。お前たち,潜って拾い上げてこいよ。」



湖中にいた青年たちは潜って,クリスを

探しますが,なかなか見つかりません。



青年5「いないぞ!?これってまずいんじゃないの・・・?」



彼らもあせり始めています。



ボートの上にいた青年も一緒に探し始め,1時間ほど捜索を

続けましたが,クリスはとうとう見つかりませんでした。



全員は諦めて湖岸に戻りました。



青年2「これってやばいやつだよな・・・。

警察に言わないといけないんじゃないかな・・・。」



一人の青年がこの状況を危惧していました。



青年1「まぁ,まて・・・。ひょっとしたら自力で逃げ出して

どこかで休んでいるのかもしれない。連絡するのは明日にしよう。」

女2「そだねー・・・。ヘタに通報してアタシらが

やったと思われたら面倒だしー・・・。」



こうして,その日は警察に連絡をすることなく,夜を迎えました。



湖からは全身がびしょぬれの状態の男がゆっくりと這い上がってきました。

その顔はすでに生気がなく,この世のものとは思えませんでした。



彼は昼間に溺れてしまったクリスなのでしょうか・・・。



第258話 お寺で昆虫採集
今日は愛知県一宮北部の岐阜県との

県境にある虎古寺に来ていました。



カブクワキングの灰庭さんの車で

連れてきてもらったようです。



灰庭さんがインターネットでカブクワスポットだと

調べてくれて,少年昆虫団を誘っていたのです。



「灰庭さんありがとう!わざわざ

カブクワスポットを調べてくれて!」






灰庭「いやいや,君たちもいろいろと

新しい場所で昆虫採集をしたいんじゃないかと思ってね。」



いつもは神社や雑木林が多いのですが,

珍しくお寺が昆虫採集場所になっていました。



このお寺は本堂を中心に周囲が500mほど

あり,かなり広いお寺となっていました。



囲いの中には杉やクスノキに混ざり,

クヌギやブナの木が植えられていました。



「へぇ~,こんなところで

カブクワが採集できるんだね!」




まさらちゃんも初めての場所での

昆虫採集に少しわくわくしていました。



一方のトシ君は,



「いやぁ,もう帰ろうぜ・・・。なんか

向こうのほうに墓とか見えるんですけど・・・!」




かなりビビっている様子でした。



「寺なんだから墓だってあるだろう。

何をびびっているんだよ。」


「いやいや,びびってなんかいないって!」



そういいながらも足はガタガタ震えていました。



「情けないですね。だぬは全然怖くないですよ。」



リク君は一人で勝手に奥のほうへ

進んでいき,採集を始めていました。



その後を灰庭さんが追いかけていきました。

イツキ君はジッと灰庭さんの後ろ姿を見つめていました。



「イツキ君どうしたの?早く

いかないと置いてかれちゃうよ?」


「ああ,でもあいつってもしかしたら

闇組織JFのスパイ“グレイ”かもしれないんだろ。」




イツキ君たちは先に行った二人に

追いつくために歩き始めました。



「確かに・・・。その可能性が高いって言って

いましたよね。レオンさんも否定していなかったですよ。」


「そういえば,レオンさんはどうして来ていないの?

昆虫採集に行くって言えばだいたい一緒に来ていたのに。」




トシ君がイツキ君に聞きました。



「なんでも,大学の研究で遅くなるらしい。

潜入捜査とはいえ,奴らの目をごまかすためには

そっちの仕事もしっかりやる必要があるんだとさ。」


「なるほどー。さすがレオンさん。」



だぬちゃんは感心しながら納得していました。



「でも,残念だなー・・・。レオンさんも一緒に

来ればイケメンさんが二人になるのに!」




まさらちゃんの中ではレオンさんも

イケメン扱いになっているようです。



「あれ,でもレオンさんと灰庭さんって

一緒に昆虫採集したことないですよね?

どちらかが来るとどちらかはいないですよね?」


「!?」



だぬちゃんの発言にイツキ君は

何か嫌な予感がしました。



「たまたまだよ,たまたま!大人っていうのは

忙しくてそうそう都合がつくものじゃないんだよ!」


「まぁ,そうかもね。」



イツキ君だけは黙ったまま何かを考えこんでいます。



そんな会話をしている間にリク君と灰庭さんが

昆虫採集をしている木までおいてきました。



「みんな,遅いよー!ホラ,

カブトとノコギリのオスを見つけたよ!」




リク君は嬉しそうにしています。



その時です。



お寺の鐘がゴーン,ゴーンとなり始めました。



「あれ?なんで鐘の音が聞こえるのかな?」



灰庭「ここのお寺は,毎日夜21時から

鐘を鳴らすことになっているんだ。」



みんなはその鐘の音に耳をやりました。



「なんか,除夜の鐘のようですねー。今年も

これで終わりかーっていう気分になってきましたよ。」


「何を言っているんだよ!?

まだ夏休みは始まったばかりでしょー!

年末まではだいぶ先だよ!」




リク君がにっこりとしながらそう言いました。



「わかっていますよ・・・。本当に年末なんて

くるのかな・・・。だぬは疑問に思うよ・・・。」




お寺の鐘の音を聞きながらこの日の昆虫採集は終了しました。



第259話 トシの家でゲーム再び!
本日はあいにくの雨でした。

少年昆虫団はトシ君の家に集まっていました。





トシ君の家はマンションの2階にあり,部屋の広さは3LDKで

一番奥の日当たりのよい部屋がトシ君の子供部屋になっていました。



「それじゃあ,今日はゲームをやって遊ぼう!」



どうやら今日はみんなでゲームをやるようです。



「あ~あ,昆虫採集がしたかったなぁ・・・。」

「雨だから仕方ないですよ!

たまにはゲームもいいじゃないですか。」




だぬちゃんは嬉しそうに言いました。



突然,リク君はトシ君がふだん,使っているベッドに飛び込みました。



「ちょっと,何をやってるの!?」



リク君はたまに突拍子もないことをしてみんなに呆れられることがありました。



「いや~,ふかふかなベッドが

あったもんだから,つい・・・。」




リク君はそのままゴロゴロと寝転んでいました。

そしてそのまま本当に眠ってしまいました。



「人んちのベッドで勝手に寝るなよ・・・。」



イツキ君もあきれ気味でした。



リク君は寝てしまったので,4人で“ワンテンドー”という

メーカーの“ホイッチ”というハードで遊ぶことにしました。



「これなら,4人で遊べるから

ちょうどいいね。リク君が起きたら,交代でやろう!」




トシ君はかなりのゲーマーであったので,生き生きとしていました。



「まぁ,普段は昆虫採集で連れ回されて

いるからな。たまにはトシも息抜きが必要だろう。」




4人は“スラッシュシスターズ”という場外に相手のキャラクターを

吹き飛ばせば勝ちというシンプルなゲームを夢中で楽しみました。



「いや~,おかしいな。このコントローラ,

壊れているんじゃないんですかね!?」




負け気味のだぬちゃんが文句を言いだしました。



「いやいや,純正のコントローラだし,

この前買ったばかりだから壊れているわけないよ!」




さすがに,トシ君はやり慣れていたので上手でした。

ゲームはお昼すぎから始め,気づけば夕方になっていました。



「なんか,ちょっと疲れちゃったー・・・。」



まさらちゃんは肩がこってしまったようです。



「ちょっと休憩にするか。」



すると,まさらちゃんが床に落ちていたゲームソフトを拾い上げ,



「これは何てゲームなの?」



パッケージが派手で少し気になっていました。



「ああ,それは“レジェンドオブ中世”

シリーズですよ。最新作が昨日発売されたんですよ。」




だぬちゃんが代わりに解説しました。



「ふーん。面白いのか?」

「トシ君,このシリーズはクソゲーとか

言いながら,結局買ったんですか!?だぬも買いましたけどね。」




以前,トシ君はこのシリーズのことを馬鹿にしていました。 (第111話参照)

「まぁ,一応買うだけ買ってみた。攻略本も同時発売だから,

一緒に買ったぜ。でも,まだプレイしていないな!他にもやるゲームが多すぎてさ。」




どうやらこのシリーズはソフトと同時に攻略本も発売されるそうです。



トシ君は発売日にゲームソフトを買っていながらまだプレイしていないようでした。



「じゃあ,別に発売日に買わなくても

いいじゃねぇか・・・。ていうか,お前ゲーマーだろ。」




と呆れていました。



「いやいや,ちげぇよ。ゲーマーじゃねぇよ!」



イツキ君は別のソフトに目がいきました。



「お,“ヨゾミヤ”じゃないか。俺はこのゲームは結構やりこんだぞ。」

「ああ,これは面白かったですね。登場人物たちの複雑な

人間関係とその重厚なストーリー。そして,理不尽なほど難しい難易度が一部のマニアには

大受けでしたね。ただ,リク君はただの面倒臭いゲーム扱いをしていましたけどね。」




だぬちゃんもそのヨゾミヤというゲームを高く評価しているようでした。



「ついていけないや・・・。」



まさらちゃんは半分呆れていました。



「ふぁ~・・・。よく寝た・・・。」



リク君がようやくおきました。



「ひとんちのベッドでよく寝れるな・・・。なんというずうずうしさ・・・。」



リク君はそんな苦言も気にせず,



「さて,そろそろ雨やんでいないかな。」



窓から外をのぞくといつの間にか雨はやんでいました。



「よし,夜は昆虫採集ができそうだね。じゃあ準備してから行こう!」



こうして,ゲームは終わり,この日の夜も

昆虫採集に行くことになりました。



第260話 まさらちゃんのイケメンショッピング1
今日はまさらちゃんのお買い物のお付き合いで

中野木の商店街に来ていました。



だぬちゃんとトシ君は急用でこれなくなってしまったので,

リク君,イツキ君そしてまさらちゃんの3人です。



「う~ん,どのお店にしようかなぁ・・・。」



どうやら新しいお洋服を探しているようです。



「そんなの,どこでもいいじゃん・・・。」

「だめだよー!まずはお店選びから!

いいお店でいいお洋服を買うの!」




まさらちゃんの張り切る姿を

リク君とイツキ君が遠い目で見ていました。



「まぁ,今日は時間もあるし,いいんじゃないか。」



数十分は歩き回り,ようやく目当てのお店を見つけたみたいです。



「あ,しまった。買い物袋持ってくるの忘れちゃった・・・。」

「じゃあ,これを使いなよ。」



リク君は持っていた少し大きめの布でできたカブトムシの

イラストが描かれた袋をまさらちゃんに渡しました。



「ありがとう。借りていくね!」



まさらちゃんは2階にある女性向けの衣服が

置いてあるコーナーに入っていきました。



「なんで,あんな袋を持ってきたんだよ。」

「いやぁ,この後カブクワキングで

色々と買いたいものがあってさぁ!」




イツキ君は呆れていました。



二人は歩き回って疲れたみたいで,1階の

休憩エリアで待っていることにしました。



「あ,アイスがあるじゃん!」



彼はアイスの自販機を見つけ,

アイスを買って食べ始めました。



「うめぇ,うめぇ。やっぱチョコチップが最強だよねー。」

「じゃあ,俺はミントにしようかな。」



アイスを食べながらまさらちゃんの

買い物が終わるまで待ち続けています。



一方,2階に上がっていったまさらちゃんは,

自分好みのお洋服を探していました。



そして,どうやら気に入った服を

購入することができたようです。



買い物を終えて,1階に戻ろうとした時,

見覚えのある人物を階段付近で見かけました。



「あ,もしかして間宮先輩じゃないですか?」



まさらちゃんに声を掛けられ振り

向いた少年は間宮という人物でした。



間宮「あれ?ひょっとしてまさらちゃん?

偶然だねー,こんな所で出会うなんて!」



「はい!先輩が小学校を卒業して以来ですよね!」



間宮の後ろにいた少年が,



少年1「お前の知り合い?」



と聞きました。



間宮「ああ,去年まで俺が通っていた小学校の後輩で,

全学年ダンス交流会で一緒に踊ったんだよ。」



間宮少年はまさらちゃんが好きそうなさわやかなイケメンでした。



彼女は間宮少年がサラサラな髪を少し茶色に染め,

体もずいぶんがっちりして,すっかり中学生らしく

なっていたその姿に目を輝かせていました。





<間宮少年>



間宮「あ,そうだ。せっかく再開したんだし,ちょっと

付き合わない?近くのカフェでおやつでも食べに行こうよ。」



「あ,はい。行きたいです!」



まさらちゃんはリク君とイツキ君の存在を

すっかりと忘れ,間宮少年についていくことにしました。



ちょうど間宮少年とまさらちゃんが店を出る時,リク君と

イツキ君の二人はトイレに行って,気づくことができませんでした。



トイレを終えて再び簡素なベンチが置いて

あるだけの休憩所エリアに戻ってきました。



二人はそこでもうしばらくまさらちゃんを待ち続けます。



しかし,いくら待っても戻ってこないので,



「なぁ,いくらなんでも遅すぎじゃないか?」

「う~ん,確かに長すぎるね・・・。2階に行ってみようか。」



しかし,2階にもまさらちゃんの姿は見えません。



仕方なく,店員に聞いてみました。



すると,小学生低学年の女の子がすでに買い物を終えて,

中学生くらいの少年たちと下に降りて行ったといわれました。



「どういうことだ?」

「う~ん・・・。わからん・・・。」



二人は店を出て,イツキ君の持っていたイヤコムで

まさらちゃんに呼び掛けてみましたが,返答はありませんでした。



「イヤコムを家に置いてきたか・・・?」

「かもね・・・。」



二人はまさらちゃんを探すことにしました。





第261話~第264話

2019/2/3

第261話 まさらちゃんのイケメンショッピング2
まさらちゃんは小学校の時の先輩である間宮と

いう少年に誘われカフェに来ていました。



間宮少年と先ほどまで一緒だった少年はいつの間にか

姿を消していたので二人きりになっていました。



間宮「いや~,まさに運命の再開だよね。

実は俺もまさらちゃんにずっと会いたいと思っていたんだよ。」



「え,え,本当ですか。それって嬉しすぎます!」



まさらちゃんは頬を赤らめ,とろけるような

瞳で彼のことを見つめていました。



間宮「そうだ,この後,俺の自転車の後ろに乗ってちょっと遠いところに行かない?

いい景色が見られる所があるんだ。ぜひ君に見てもらいたい。」



「わぁ,すごく楽しみ!行きます!」



自転車の二人乗りは法令違反ですが,今のまさらちゃんの

頭の中にはそんなことどうでもよい感じでした。



二人はカフェを出ると,自転車に乗り,商店街を後にしました。



直後に,リク君とイツキ君が先ほどまで

まさらちゃんたちがいたカフェの前までやってきました。



「まさらちゃんが行きそうなところといえば,カフェ。

もし誰かとカフェに行っているなら,あとは商店街で

探していないカフェはここだけだが・・・。」




イツキ君が中に入って店員さんに聞き込みに行っています。



「だめだ,確かに来ていたみたいだが,すでに店を出たそうだ。」



イツキ君は戻ってきて,そう報告しました。



「う~ん,またすれ違いか・・・。」



そのころ,まさらちゃんは間宮少年の運転する自転車の

後ろに乗り,地区のはずれにあるマンションにやってきました。



「こんなところに見せたい景色があるんですか?」



間宮「ここの最上階からみる景色が最高なんだ。辺りを一望できるよ。」



間宮少年は自転車をマンションの駐輪場に止めました。



「素敵,早くみてみたいです~!」



すでにまさらちゃんはきれいな景色をイケメンの間宮少年と

一緒に眺める姿を想像して胸がいっぱいでした。



すると,間宮少年の持っていた携帯電話に着信が入りました。



間宮「先にエレベーターの前でまっていて。」



まさらちゃんがマンションのエレベーターの前で

待っていると,彼が電話を終えて戻ってきました。



間宮「さぁ,一緒に行こうか。」



間宮少年は36階のボタンを押しました。

エレベーターが36階に到着しました。



「ここから見られるのかな?」



しかし,柵が高く,まさらちゃんの

身長では景色がよく見えませんでした。



間宮「それなら,この部屋のベランダから見ようよ。実はここ,

俺の家なんだ!家族は普段一緒に住んでいないから安心していいよ。」



まさらちゃんは部屋に案内されました。



「(わぁ・・・。憧れの先輩のお家に入れてもらっちゃった!

明日友達に自慢しても信じてもらえないだろうなぁ・・・。)」




玄関にはなぜか,靴が何足かおいてありました。



まさらちゃんは特に気することなく,部屋の奥に入っていきました。



すると,一番奥の部屋には,男が3人いました。



「あれ?先輩のお友達・・・?」



まさらちゃんは首をかしげました。



時間は少し遡って・・・。



場面はリク君たちのいるカフェの前です。



「そもそも,誰と一緒にいるんだろう?」

「わからん・・・。まぁ,別にたいしたこと

じゃないかもしれないし,明日聞いてみるか?」




リク君は黙ったままです。





「何か気になることがあるのか?」

「ここの商店街ってさ,三大悪童の

“マザー”のナワバリだったよね?」




イツキ君はハッとして,



「おいおい,まさかやっかいなことに

巻き込まれているってことか?」




二人は万が一に備え,まさらちゃんを

急いで探し出すことにしました。



第262話 まさらちゃんのイケメンショッピング3
まさらちゃんは間宮先輩の自宅に案内され,

中に入ると3人の男がいました。



一人はソファーに座っていました。

後の二人はその前に立っていました。



そのうちの一人は先ほど間宮少年と一緒にいた人物でした。



急にソファーに座っていた男が間宮少年の

髪を引っ張り,ぼこぼこに殴り始めました。



「きゃあぁぁ!やめてください!?」



まさらちゃんは泣き出しそうになりました。



間宮少年を殴っている男は,彼よりももっと体が大きく,

年は17か18といった感じに見えました。



髪は金髪の短髪で眉毛が太く,目つきの悪い人物でした。



彼は他の少年から堀尾さんと呼ばれていました。



堀尾「間宮,てめぇ!馬鹿野郎!いっぺん死んどくか!?

なぁ,今すぐここから突き落としてやろうか!?

さっき電話で確認しただろうが!?」



間宮「すみません,すみません・・・。

勘弁してください・・・。」



彼は,堀尾に顔を何発も殴られ,倒れこんで,

うずくまったところをひたすら

蹴られまくりながら懸命に謝罪していました。



「お願いします。やめてください!先輩が死んじゃいます!」



まさらちゃんは叫びましたが,当然

聞き入れてもらえるはずなどありません。



まさらちゃんは恐怖で体が震え,止めに入ることもできません。



「なんで,こんなことをするんですか・・・。」



泣きながら訴えました。



堀尾「ああ!?こいつが簡単なお使いもできねぇからだよ!」

彼は間宮少年の顔を足で踏みつけました。



間宮「がはっ!!」



堀尾「俺は何て言ったかわかるか!?

若い女をここに連れて来いって言ったんだ!?」



彼は,一瞬まさらちゃんをにらんだ後,再び

踏みつけられている間宮少年に視線をやり,



堀尾「それが,なんで小学生のガキを連れてきてるんだよ!?

若すぎだろ!!!!ふつうはJK(女子高生)とかだろうが!」



間宮「ずびばぜん・・・。ほ・・・かに

手ごろな女が・・・見つからなくて・・・。」



彼がもう一発,間宮少年の顔面を思い切り蹴ると,

鼻と口から大量の血を噴き出して意識を失いました。



少年1「堀尾さん。このガキどうしますか?」



堀尾「そうだなぁ・・・。せっかくだし,ちょっとだけ

いたずらしちゃおうかなぁ・・・。来年に

なったら名前が出ちゃうからなぁ!犯罪するなら未成年のうちってかぁ!」



堀尾は急にまさらちゃんに接近しました。



少年1「(結局,ロ〇コンなんじゃねぇかよ・・・。)」



そう思っても,怖くて口には出せませんでした。



「みんな,助けてぇ!!!」



まさらちゃんは精一杯の声を出して助けを求めました。



堀尾「ここは,最上階!普段ほかの部屋は

誰もいないらしいから,誰にも聞こえねぇよ!」



堀尾がまさらちゃんの肩に手をかけた瞬間,



堀尾「ぐっは!?」



玄関に置いてあった靴がすごい勢いで

堀尾の顔面に命中しました。



その勢いで堀尾はソファーに倒れこみました。



堀尾「なっなんだぁ・・・?」



顔に手を当て,何が起こったのか状況を理解しようとしました。

目の前にはリク君とイツキ君が立っていました。



堀尾「なんだ,このガキどもは!?」



「それは,こっちのセリフだ・・・。

何やってんだ,お前,俺の仲間によ!」






リク君とイツキ君が彼を睨みつけています。



「リク君,イツキ君!怖かったよぉ・・・。」



まさらちゃんは二人に抱きつきました。



「まったく,探すのに苦労したんだぞ。」

「どうやってこの場所がわかったの?」



まさらちゃんが聞きました。



「まぁ,それは後でな。」

「まずは,この変態ロ〇コン野郎をお仕置きしないと。」



リク君が指をパキパキと鳴らしました。



第263話 まさらちゃんのイケメンショッピング4
20畳くらいのリビングのソファーに座っていた堀尾という男は

この部屋に住む間宮少年を使い,女性をさらってくるように指示していました。



しかし,自分の思い通りにいかなかったため,

間宮少年を徹底的に痛めつきました。



さらに騙されて連れてこられたまさらちゃんにも手を出そうとしました。



その時,部屋の入り口から猛烈な勢いで飛んできた片方の靴が

堀尾という男の顔面に直撃し,ソファーに倒れこみました。



投げたのはまさらちゃんを助けに来た最強の二人でした。

すでにリク君は怒りのボルテージがマックスになっています。



彼は普段は温厚で昆虫をこよなく愛するやさしい

少年ですが仲間が危険にさらされた時は激情家となります。



「全員,ぶっ飛ばす!」



堀尾「なんだ,このガキは・・・!?」



堀尾は起き上がり,二人を睨みつけました。



「おい,下がってな。ここは俺がやる。」

「何を言っている。俺がすぐに片付ける。」



リク君はファイティングポーズをとりました。



「そうは言っても,ないじゃないか。捕虫網が・・・。」



リク君はショッピングの付き添いに来ていたので,

捕虫網は持っていなかったのです。



「こんな奴ら,素手で十分だよ。」

「本当かよ。素手ならレオンさんに鍛えられている

俺のほうが実力は上だ。リクはあんま無理するな。」




お互いに一歩も譲りません。



「知ってるだろ。あの時の“庄外川の合戦”で見せた俺の実力を・・・!」

「ああ,そうだった・・・。」



どうやらイツキ君は以前,リク君が

素手で戦う姿をその目で見ているようです。



“庄外川の合戦”がどんな戦いだった

のかはいずれ明らかになるようです。



堀尾「何をごちゃごちゃ言ってんだ,このくそガキどもが!」



彼はそう叫んだあと,両側にいた二人の手下のような

少年たちに,痛い目を見せてやれと指示しました。



手下の少年たちはリク君とイツキ君に襲い掛かりますが,

痛い目を見たのは襲い掛かってきた手下の少年たちでした。



一瞬で気絶させられ,床に転がりました。



「だろ?素手でも戦える。それに俺は今,

こいつをぶちのめしたくてイライラしてんだ。」




リク君は鋭い目つきで堀尾をにらみました。



堀尾「なんか,知らねぇが俺を甘く見るなよ。クソガキが!」



堀尾が右足でリク君の頭部を横から蹴ろうとしました。

リク君は素早くしゃがみ込み,相手の間合いに入り込みました。



そして,軸足だった左足のすねを思い切り蹴りました。



堀尾「ぐおっ・・・。」



あまりの痛さに左足のすねを抑え,しゃがみ込んでしまいました。



そのすきを逃さず,かかと落としを食らわせると,彼は倒れこんでしまいました。



堀尾「くそっ・・・。」



「リク君・・・。」



まさらちゃんはだいぶ落ち着きを取り戻したようです。



「よし,帰ろうか。」



リク君がまさらちゃんの方を振り返った瞬間,堀尾が再び立ち上がり,



堀尾「この俺をなめるなと言っただろうが!

こんなガキに俺が負ける訳がない!」



堀尾はリク君めがけてこぶしを振りかざしました。



今度は,イツキ君が素早く,間合いを詰め,リク君を吹き飛ばし,

その勢いで堀尾のみぞおちに右の拳を叩き込み,よろめいたところを,

下からのアッパーカットで顎に1発食らわせ,倒れかかったところを,正面から顔面に蹴りを入れました。



その勢いで彼は,ベランダの窓ガラスに頭から突っ込み,血だらけになって意識を失いました。



堀尾「ぐふ・・・。」





「悪い・・・。助かった・・・。」



リク君は起き上がりました。



「詰めが甘いな。これくらいやっておかないと,だめだ。」



イツキ君の攻撃はレオンさんと以前,師事していた

城嶋から人体急所を徹底的に狙う格闘術を教えられていました。



第264話 まさらちゃんのイケメンショッピング5
マンションの最上階にある1室の一番奥の部屋では,

まさらちゃんを襲った堀尾という男と手下の二人,

そしてこの部屋に連れてきた間宮少年が倒れていました。



「この人たちどうしよう・・・。」



まさらちゃんが困惑していると,



「おい,起きろ。意識は戻っているはずだろ。」



リク君は横たわっていた間宮少年に声を掛けました。



間宮「あ,ああ・・・。」



ゆっくりと彼は起き上がりました。



リク君は起き上がったところで彼の頬に右のパンチを入れました。



間宮「ぐはっ・・・。」

再び,彼は倒れこみました。



「おいおい,自分で起こしておいて,何をしてんだよ。」

「こいつはまさらちゃんを騙してこんなところまで連れてきた。

もし,俺たちがここへ来なかったらどうなっていたことか・・・。

もし他の女性が連れ込まれていたとしたら・・・。

こいつのやったことは決して許されることじゃない!」




リク君は間宮少年の胸ぐらをつかみ,たたき起こしました。



間宮「すっすまない・・・。僕は・・・中学校に入って,

調子に乗っていたみたいだった・・・。

悪い奴らとつるむことに憧れていたんだ・・・。

でも,もうやめるよ・・・。だから許して・・・ほしい・・・。」



「だってよ。どうする,まさら。」



イツキ君がまさらちゃんに視線を送りました。



「うん・・・。もう,大丈夫だよ。

でも,二度と私の前には姿を現さないで。」




間宮「ああ,わかった。約束するよ・・・。」



間宮少年は救急車を呼びました。



その間にリク君たちはマンションの

入り口まで降りてきました。



「ねぇ,どうしてここがわかったの?」



先ほどから気になっていたことを質問しました。



「まさらがリクから借りた袋に,

リクのイヤコムが入っていたんだよ。」


「あ,そうだったんだ?」



まさらちゃんが中身を確認すると確かに

リク君のイヤコムが入っていました。



「最初,ボクも気づかなくてさ・・・。でも入っていることを

思い出したから,イツキ君の持っていたイヤコム端末で

僕のイヤコムの位置情報を検索してもらって探し出したんだ。」


「二人とも,心配かけて本当にごめんね。」



まさらちゃんは二人に迷惑をかけたことを謝罪しました。



「まぁ,これに懲りたらイケメンだからって

ほいほいとついていかないことだな。」


「もう!わかっているよ!意地悪だなぁ!」





ようやくまさらちゃんにも笑顔が戻ってきたようです。



「そういえば,結局あいつらって“三大悪童”とは何も関係がなかったのかな?」

「う~ん,どうだろう。そうだとしても末端の連中だろう。

さすがに幹部で“あの弱さ”はない。もし,三大悪童の下位組織に

手を出していたとしたら“また”面倒くさいことになるかもな・・・。」




二人は少し考えこみました。



「何?なにかあったの?」



二人の間に割って聞きました。



「いや,なんでもないよ。」



この後は,カブクワキングに行かず,

それぞれの自宅に帰宅しました。



今日はさすがにみんな疲れたみたいです。



しかし,二人の懸念していたことはこの後,

現実のものとなるのですが,それはまだ先のお話になりそうです。



第265話~第268話

2019/3/10

第265話 陣取りヴィート対決 前編
少年昆虫団が緑地公園のグラウンドでサッカーを

していると,どこかで見た連中がやってきました。



「あ,スナ君たちがやってきたよ!」



まさらちゃんがスナぴょん団に手を振りました。



スナ「このクソ暑いのにサッカーとは立派だねぇ~!」



「なんだよ,嫌みを言いに来たのかよ・・・。」

「なんか,久しぶりに彼らを見た気がしますよ・・・。」



みんなは一旦サッカーを中断しました。



すると,スナぴょん団のすぐ後ろに

見慣れない連中がいることに気づきました。



???「おい,そこをどけ!ここは俺たちが使う!」



年はリク君たちよりも一回り上の小学生が5人いました。



スナ「なんだ,お前たちは!?今,

オレたちが少年昆虫団と話してんだよ!」



サラ「スナ君。この人たちは3年生の人たちですよ!」



サラ君がそう言っても,



スナ「だからなんだ!?何か用かよ!?」



と,スナ君は聞く耳を持ちません。



上級生の5人の一人,有明という少年が切り出しました。





<中野木小学校3年生 有明君>



有明「じゃあ,このグラウンドをどちらが

使うかヴィート対決で決めようじゃないか!?」



スナ「いいだろう!」



「いやいや,展開が急すぎでしょう!

いきなり来て何を言い出すんですか!?」




ここで,リク君が,



「いや,ボクたちは別に移動してもいいんだけど・・・。」



と,言いましたがすでに対決モードになっていました。



「まぁ~た,面倒くさいことになってきた・・・。」



イツキ君はやっぱりあきれ気味でした。



スナ「よし,今回はスナぴょん団と

少年昆虫団で仕方がないから手を組もう。」



「いいね!協力するって素敵!」



まさらちゃんは深く考えていませんでした。



有明「それなら3対3の"先2勝決着"でどうだ?

もちろんそっちは合同チームでかまわんよ。」



なにやら余裕の表情でした。



スナ「それでいいぞ!」



「いやいや,そもそも横から出てきて

何を勝手に決めちゃってるの!?」




リク君の抗議もむなしく,ヴィート対決が

行われることになりました。



「じゃあ,あたしやりたい~!」



どうやら少年昆虫団からまさらちゃんが参戦するようです。



スナ「じゃあ,こちらからは俺とジャイが出るとしよう。」



ジャイ「任せろ,ジャジャイ!」



ジャイ君はトシ君並の巨体で威嚇しました。



「ジャイが出るのか・・・。オイラと

キャラが被ると嫌だな・・・。」




トシ君が訳のわからない心配をしていました。



いよいよ緑地公園のグラウンドの争いを

めぐったヴィート対決が始まります。



第266話 陣取りヴィート対決 後編
少年昆虫団とスナぴょん団は上級生の有明君達と緑地公園の

使用権をめぐってヴィート対決をすることにしました。



そして協議の結果,このような対戦に決まりました。



先鋒ジャイVS 吉野



中堅まさらVS藤前



大将スナVS有明



先に2勝したチームが勝利となり,緑地公園の

グラウンドを使う権利を得ることができます。



さっそく先鋒戦が始まりました。



ジャイ「ジャジャジャジャジャジャ~イ!!!!」



ジャイ君の「進撃のジャイ」が発動しました。



吉野「ほんならこっちは,これでいかしてもらうで!!」



吉野君のヴィートが発動します。



吉野「スキヤ,スキヤ,スキヤネン!!」





-牛歩戦術(スキヤマツヤヨシノヤ)-



このヴィートは自分の周辺の空間に流れる

時間を一時的に遅くするようです。



この特殊ヴィートによりジャイ君の

攻撃をしのぎ切ったようです。



吉野「この反撃でとどめや!」



-特盛!敦盛!清盛!(ヘイケモノガタリ)-





大量の矢と熱々の牛肉がジャイ君に

襲い掛かり,ダウンしてしまいました。



ジャイ「ジャジャ~イ・・・。

まいったジャイ・・・。」



まずは上級生チームの1勝です。

合同チームは後がありません。



中堅 まさらVS 藤前



「まずは,守りをかためる!」



-世界樹(ユグドラシル)-



まさらちゃんのヴィートが発動しました。



藤前「それなら攻めさせてもらうよ!」



-愉快な動物王国(ムツゴロウサン)-





それは,ねばねばした魚がまとわりつくヴィートでした。



「いや~,気持ちが悪い~!?」



-神々の黄昏(ラグナロク)-



思わず発動した強力なヴィートが

藤前君を不意打ちしました。



さらに,特殊効果のヴィート,



-慈愛の戦乙女(ハートオブヴァルキリー)-



を発動しました。



この連撃に藤前君はたまらず,ダウンしました。



藤前「ぐふ・・・。」



勝者 まさら



大将戦 スナVS有明



スナ「よ~し,わくわくしてきたぜ!」



・・・・5分後・・・・



勝者 スナ



「お~,がんばっていたな。すごい,すごい。」



リク君は棒読みで適当に拍手をしながら褒めました。



スナ「あれ?なんか,おかしくない?」



有明「くそ・・・。負けてしまった・・・。」



有明君は悔しがっていました。



スナ「あれ?何か話が飛んでない?」



「いや,そんなことないですよ。

ちゃんと戦っていましたよ。」


「うんうん。オイラだって今回も

出番少ないんだから文句言うなよ!」




どうやら少年昆虫団とスナぴょん団の

合同チームの勝利となったようです。



有明「しかたない。ここは自由に使え。」



そう言って,彼らは悔しそうにその場を立ち去りました。

すると,後ろから初老の男性が声をかけてきました。



老人「ボウヤ達や,今からここはワシたちがゲートボールで

使うから向こうの遊具で遊んできてくれるかな。」



スナ「はぁぁぁぁ!?聞いてないよ~!?」



「こんな,クソ暑い中で

ゲートボールをやるなんて元気すぎでしょ!?」


「アホらしい・・・。」



こうしてヴィート対決には勝ちましたが,グラウンドは

使えないまま,その場を立ち去っていくことになりました。



第267話 だぬちゃん再びジャズコンサートへ
今日はだぬちゃんとトシ君の二人で

ジャズが聞けるバーに来ていました。



ここは,菊の幹部である青山氏が開催しているジャズバーでした。



「どうしても,トシ君が聞きたいというから連れてきましたが,

大人なお店ですから礼儀をわきまえてくださいよ!」




二人はバーのカウンターではなく,奥のテーブル席に座っていました。

斜め前に設置された舞台でこの後,ジャズが演奏されることになっています。



「ああ,わかっているよ。一度,本格的なジャズを聴いて

みたかったんだよね。オイラって反戦主義だから牧歌的な歌が好きなんだよね~。」


「だから,それはジャズじゃなくて,フォークソングですよ・・・!」



しばらく食事を楽しんでいると,会場から拍手が起きました。

舞台に目をやると青山氏が率いる“ブルーマウンテン”のメンバーが立っていました。



最初の演奏が始まりました。



「ああ,この曲好きなんですよねー。有名なアニメ,

『アラ~キ~4世のメインテーマ』をジャズにアレンジした曲ですよ。」
(元ネタはこちら



2番目の曲はジャズ界では有名な

「トングトングトング」(元ネタはこちら)でした。







さらに3曲目は「ロンド」(元ネタはこちら)でした。



4曲目は「マイフェイバリットダブルス」(元ネタはこちら)でした。



「どれも最高ですね,トシ君にこの良さがわかりますかね~!?」

「あたりまえだろ!?とても反戦的な曲でいいに決まっている!」



どうやらあまりわかっていないようです。



最後の曲は「ステレオダブリ」をアレンジした

「ダブリメドレー」(元ネタはこちら)でした。



二人は食事と音楽を楽しんだ後,

舞台裏の楽屋にいる青山さんに挨拶へ行きました。



青山「ああ,君は確かだぬちゃん,後ろの大きい子はトシ君だったかな。

本来なら子供が来るような時間と店じゃないんだが,君たちには関係無いか。

とくにだぬはまた来てくれたのか。大野木署ではゆっくりしゃべれなかったからな。

こうして俺のファンと話ができるのはうれしいよ。」



彼は口に咥えていたタバコを灰皿にギュッと押し付け,火を消してから,

淡々とクールに話す姿をだぬちゃんは尊敬のまなざしで見ていました。



「やっぱり,大人の男っていう感じがしてかっこいいですよね~。」



後ろにいたトシ君が,



「でも,彼が闇組織JFのスパイかもしれないんだよね?

あんまり馴れ馴れしくしちゃって大丈夫なの?」


「何を言っているんですか。

彼がスパイのわけないじゃないですか!?

怪しいところなんて何一つないでしょ!」




だぬちゃんは,振り返って小さい声でトシ君に言いました。



その時,青山氏の携帯電話に着信が入りました。



彼は,ちょっと失礼と言って楽屋の奥へ入っていきました。

その会話の内容が扉の向こうから少しだけ漏れてきました。



青山「ああ・・・大丈夫だ・・・それで頼む・・・,

・・・グレイで・・・よろしくな・・・。」



「今,グレイって言わなかった!?

グレイって確か,JFの人間だったよな・・・。」




トシ君もその名前は聞き逃さなかったようです。



「そんな・・・。まさか・・・。」



電話を終えて青山氏が戻ってきました。



青山「やぁ,悪いね。そろそろ本部に戻って別の仕事をする必要がでてきた。

まだ,黄金原達が狙われた件も解決していないからな。」



青山氏はだぬちゃんたちの自宅近くまで送ってくれました。



その間,だぬちゃんの脳裏には先ほどの会話が

気になってずっともやもやしたままでした。



果たして彼は本当に闇組織JFのスパイ,

"闇の騎士(ダークナイト)"なのでしょうか・・・。



第268話 レオンさんの休日
庄外川の河原で修業に励む少年の姿がありました。



その少年の名前はイツキ。



レオンさんの仕事の合間に格闘技の

稽古をつけてもらっていたのです。







「はぁはぁ・・・。」

「よし,少し休憩にしよう。

体に負担をかけすぎるのは良くない。」




レオンさんはペットボトルを取り出し飲み干しました。



「せっかくの休日なのに俺のために

稽古をつけてくれてありがとう。」


「ウキキキ・・・。気にすることはないよ。」



二人は河原に生えている大きな

木の木陰で休憩をとることにしました。



「俺さ,レオンさんに修業してもらって

かなり強くなっている実感があるんだ。」


「うん。もともとイツキ君には格闘技の才能がある。

それにさらに磨きがかかっている感じがするよ。

オイラもやりがいがあってとても楽しいよ。」




イツキ君はレオンさんにそう言ってもらい,とてもうれしくなりました。



30分ほど休憩して,修業を再開することにしました。

時間はもうすぐお昼近くになっていました。



「気温が高くなってきたから,

今日の修業はこれで終わりにしよう。」


「はい。」



実戦形式で組み手を30分ほど行い,午前中の修業は終了しました。



その後,お昼ごはんを食べに行くことにしました。

訪れたお店は「和食の里美」でした。



「ここの和食はなかなか種類も豊富でおいしいんだよね。

食べ放題コースもあるしね。どうする?」


「いや,いつもお金出してもらっているから,

今日は自分で払うよ。この和食ランチでいい。」




イツキ君は遠慮していました。



「ウキキキ。トシ君だったら迷わず,食べ放題コースの

しかもプレミアムを注文していただろうね。遠慮しなくていいよ。」




結局,食べ放題コースは注文せず,レオンさんは

エビ天丼セット,イツキ君はロースかつ丼定食にしました。



お腹いっぱい食べて二人は大満足のようです。



「今日の夜の昆虫採集までは時間があるからどこかへ遊びに行こうか。」

「え?でもレオンさんは久々の休日なんだろ?

家に帰ってゆっくりしたほうがいいよ。

どうせ夜になったらリクの奴にこき使われるんだからさ・・・。」




当然のように毎晩昆虫採集は行われるので,

今のうちにゆっくり休んでおいたほうが得策なのです。



その時,店内からどなり声が聞こえました。

二人はそちらに視線をやりました。



すると,ガラの悪そうな二人組が店で働くバイトの女の子にからんでいました。



チンピラ1「オイオイオイオイオイオイ!ここの店はどうなっているんだよ!?

天丼を頼んだのになんだこのエビのサイズは!?

おれはもっとビッグなエビを期待していたんだぞ!?」



バイト「すみません。当店ではそのサイズでのみ提供しておりまして・・・。」



女の子は平謝りしていました。



チンピラ2「言い訳はいいんだよ!おい,責任者を

出しな!こんなもんに金なんて払えねぇからな!」



店長と名乗る男が奥から出て行きましたが事態は収まる気配はありません。



チンピラ1「俺はまだ納得いかねぇな!なんか

誠意を見せてもらわないと。わかる?誠意!」



チンピラが店長の胸ぐらをつかもうとした時,

レオンさんの手がそれを制止しました。



チンピラ1「なんだ,てめぇ!?」



「見苦しいことこの上ない。こんだけ散々食っておいて文句を言うとは何事だよ。

おとなしくお金を置いて店を去れ。そうすれば,オイラの顔に免じて許してやる。」




チンピラ二人組はさらに頭に血が上ってきたようで,怒り狂っています。



「おい,おっさんたち。レオンさんがこう言って

くれている間に店から出たほうがいいよ。

それに,これ以上騒ぐなら俺も黙っていない。」




チンピラ2「なんだ,このガキは!?ガキがでしゃばってんじゃねぇよ!?」



チンピラは怒りにまかせてイツキ君の頭を貼り倒そうとしました。



しかし,イツキ君はその手を素早くかわして,相手の脛(すね)に蹴りを1発入れ,

前かがみになったところを拘束パンチを連続で鳩尾(みぞおち)にいれました。



イツキ君に絡んできたチンピラはその場に倒れこんでしまいました。



「(よし,俺は確かに強くなっている!)」



チンピラ1「おいおい,ナニ,ガキにやられてんだよ!」



「これ以上,騒ぐなら本当に容赦しない。」



レオンさんの睨みにビビったのか,チンピラは倒れた

もう一人を抱えて店からすごすごと逃げて行きました。



当然お金は支払っていきました。



イツキ君とレオンさんは店員にお礼を言われ,お店を後にしました。



「じゃあ,夕方までどこかに遊びに行ってから夜の昆虫採集に備えよう!」

「ああ,そうだな。夏休みはまだまだ長いしな。」



二人は車でどこかへ遊びに行きました。

これがレオンさんの休日のある1日の出来事でした。





第269話~第272話

2019/4/28

第269話 バトルヤバイヤロ3限目 1

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




ワク君とトシ君はヴォイニッチワールドで

元の世界へ帰るつもりが別の世界に来てしまいました。



そこでは,学校の中で命がけのデスゲームが行われていました。



1時間目の社会,2時間目の特別活動を終え,

3時間目は体育の授業になっていました。



2時間目を生き残った人たちは体操服に着替え,

運動場に集合させられていました。



放送「それでは,3時間目は体育の授業だ。全員,整理体操!」



音楽が流れてきました。



「従わなければ・・・。」



???「きっとドカンだねぇ・・・。」



隣を見るとワク君よりも少し背の

高い少女がいました。



ワク君と目が合うと,



リサ「アタシはリサ。よろしくね。

君って小さいね。小学生だよねー?」



リサ 14歳



リサちゃんは満面の笑みで話しかけてきました。



「うん。そうだけど・・・。君もあの

デスゲーム"大富豪"の生き残りなんだよね?」




彼女の笑顔からはとても死線を潜り

抜けてきたようには見えませんでした。



リサ「うん,そうだよー。アタシはね,こう見えて頭いいんだー。」



話し方は賢そうには見えませんでしたが,

あのデスゲームを勝ち抜いたということは

そこそこ頭の切れる少女なんだなとワク君は思いました。



リサちゃんは,中学2年生で髪の毛はブロード色でした。

父親が外国人のハーフのようです。



日本人離れしたその瞳と顔立ちは

とても可愛らしく,大人びて見えました。



体操をしながら二人は会話を続けました。



リサ「君はどうしてここに連れてこられたの?」



「君じゃない,ワクだ。こっちはトシ。」



ワク君は自己紹介とヴォイニッチワールドの

ことやこれまでのいきさつを説明しました。



リサ「ええー。なんかウソっぽーい。」



「ワク君,ちゃんと体操しないと殺されちゃうよ!」



ワク君の後ろにいたトシ君が忠告しました。



「わかってるよ!」



全員は準備体操を終えました。



山岡「一体,何を始めるつもりなんだろうねぇ・・・。

ワタシャもう年だし,運動なんて何年もやってないからできやしないよぉ・・・。」



ワク君の斜め前にいた主婦の山岡さんは

腰をひねりながらそう言いました。



「きっと,大丈夫ですよ。」



ワク君の言葉に,山岡さんは後ろを振り返り,



山岡「そうだね!ここまで来たんだから

今度だってクリアしてやるよ!」



と自信満々にそう言いました。



放送「3時間目は鬼ごっこをやるよ!」



「え,それってさっきの学活と一緒じゃん!?」



思わずトシ君が突っ込んでしまいました。



放送「これはれっきとした,体育の授業だよ!

体力も知力も度胸も育てることができる立派な競技さ!」



大音量に流れる放送に皆は何も言えませんでした。



「そうかなぁ・・・。鬼ごっこなんてただの遊びじゃん・・・。」



トシ君はブツブツとつぶやいていました。



放送「それでは競技の説明をするからよく聞くように!」



一体,どんなルールなのでしょうか。



第270話 バトルヤバイヤロ3限目 2

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




放送「今から60分間の間,鬼から逃げ回ってもらうよ!

逃げ切った人は次の授業に出ることができます!」



風花「ってことは逃げ切れなかった奴は・・・死ぬのか・・・!?」



風花さんがこぶしを握り締めて怒りをあらわにしていました。



放送の内容から分かったルールは次のようでした。



・最初の10分間は逃げる時間。10分後にゲーム開始でその後の60分間を逃げ切れば勝ち
・鬼は最初は2人。10分ごとに3人ずつ増える
・鬼に背中をおとなしく3回たたかれると捕まる。少しでも抵抗すると反撃モードになり命の保証はない
・鬼は返り討ちにしてもよい
・捕まった人は牢屋に自動的に移されることになる。鬼も一緒についていくので鬼は再び牢屋からスタートする
・牢屋では10分ごとに処刑タイムがある(つまり開始9分に捕まった人は1分後に処刑される)
・牢屋に捕まった人を助けることもできる
・鬼を倒すと牢屋のカギを落とすことがある。ただし,一つのカギで牢屋を開けられるのは1回のみ
・移動できる範囲にはいくつか宝箱が設置されている。中には役立つものが入っている
・60分過ぎた時点で牢屋に入っていない人は生き残りとなる
・隠れるエリアは指定された範囲。先ほどまでいた校舎の中に入ることはできない
・エリアはビオトープエリア,巨大アトラクション遊具エリア,実験棟エリアの3つ
・牢屋は校舎前に設置される
・逃げる生徒の数は1年生の生き残りA組8人,B組5人,C組3人,

さらに別の教室で生き残ったD組6人,E組5人,F組5人の合計32人


「よし,ルールはわかった。」

「まったくわからん!」



トシ君が自信満々に言いました。



リサ「なんか,トシ君って面白い子だねー。

それに比べて,ワク君はなかなか頭が良さそうね。」



リサちゃんはワク君の実力を見抜いているようでした。



放送「それでは始めるよー!今から10分以内に好きな場所に移動してね!

10分後に最初の鬼が登場してから60分間逃げ続けるんだよー!

みんな,がんばれー!先生は心の底から応援しているよ!」



真木「・・・。本当にふざけている・・・。」



近くにいた大学生の真木氏もこのゲームの

理不尽さに嫌気がさしていたようです。



「真木さん,一緒に逃げましょうか。」



ワク君が誘いました。



真木「そうだね。僕も君たちがいると心強いよ。」



近くにいた女子高生のアヤネ,IT社長の白馬,

主婦の山岡さんもワク君たちに同行することにしました。

OLの風花さんはすでに見当たりませんでした。



さらに山岡さんと仲良くなったという,

1-Bと1-Cから生き残った人たちも合流しました。



1-Bからは田村,青山,宮川,1-Cからは優香とそれぞれ名乗りました。

田村氏は肥満体型で額にずっと汗をかいていました。



田村



青山氏は30代前半の男性で若いころは

ボクシングをやっていたらしく,腕には自信があるようでした。





青山



宮川氏は大学院生で本来なら司法試験を受ける予定だったそうです。





宮川



優香さんはまだ若干二十歳ほどで,容姿端麗,長い髪をストレートにおろし,

所作はお嬢様のように美しく,とても育ちの良い女性に見えました。



新しいメンバーを4人と今までの6人,リサちゃんを合わせ,11人となりました。



「それじゃあ,行きましょう。時間もそんなにありません。」



田村「おいおいおいおい,なんでこんな

小学生が仕切っちゃっているの!?」



脂性の田村氏が額に汗をかきながら文句を垂れました。



山岡「まぁまぁ。田村さん落ち着いて。」

真木「彼はこう見えて,非常に優秀な少年なんですよ。

とりあえず彼のいうとおりにしてみませんか。」



真木氏もフォローしました。



優香「いいんじゃないですか。

今はケンカしている場合ではありませんよ。」



彼女がそう言うと特に男性たちは

これ以上何も言えませんでした。



果たして彼らはどこに隠れるつもりでしょうか。



第271話 バトルヤバイヤロ3限目 3

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




ワク君一行は実験棟の前に来ていました。

ここは運動場から一番遠い場所にある建物でした。



高さは5階建てで入り口は正面と裏口の二つがありました。



扉を開けて中に入っていきました。

中にはエレベーターもついていました。



田村「おいおいおいおい,エレベータが

あるじゃん!これで5階まで行こうよ!」



宮川「しかし,かなり小さなエレベータなので,

全員が一度には乗れないんじゃないでしょうか。」



宮川という男は頭は良いみたいですが,

それをひけらかすようなことはせず,常に低姿勢でした。



田村「わかっているよ,宮川さん。順番に上っていこう。」



その時,放送が入りました。



放送「10分経ちましたので,ただいまより鬼ごっこを開始します!

鬼が2匹登場します!くれぐれも捕まらないようにご注意を!」



青山「おっ。いよいよか。俺の力が試せる。

どっからでもかかってこいや!」



青山氏は握りこぶしを作り,それを振り上げて威嚇しました。



アヤネ「とうとう始まった・・・。」



不安そうにしているアヤネの肩を白馬がそっと抱き,

白馬「大丈夫だよ,君は僕が守るから。」



その言葉にアヤネはホッとした

気持ちになり,心が落ち着きました。



「あれ,アヤネちゃんってさっきまで

彼氏が一筋って言っていたような・・・。」




空気を読まないトシ君がボソッと

つぶやいたので,後ろからワク君が蹴り飛ばしました。



「いってぇぇ・・・。」

「空気を読め。このクソ野郎・・・。

アヤネちゃんは1時間目に彼氏を亡くしたばかりなんだぞ!」




ワク君の提案により,田村,優香,山岡,アヤネの4人が

エレベータを使い,残りは階段で最上階まで行くことにしました。



田村氏はどうしても歩きたくないというので

女性たちに混じってエレベーターを使うことになりました。



リサちゃんは階段で上に行くことにしたようです。



階段で上に上る途中,リサちゃんはワク君に向かって,

リサ「あんたって本当に冷静で頭の切れるタイプねー・・・。」



宮川「どうしてそう思うんでしょうか?

失礼ながら私にはただの小学生にしか見えませんが・・・。」



ワク君は何も答えませんでした。



リサ「少しでも生き残る確率をあげるために,二手にわかれたんだよねー?

エレベーターなんて鬼に見つかれば逃げ場がないよねぇ。

他を囮にして自分はちゃっかり階段で上って生存率をあげようとした。違う?」



「さぁね。どのみち,女性にはこの階段はキツイ。

だから君にもエレベーターを勧めたんだけどね。

それに,いざとなったときに,少しでも体力を

温存してもらうために,エレベーターを使ってもらったんだよ。」




ワク君の返しにリサはさらに感心したようで,

リサ「いいねぇー。アタシ,頭のいい子って

大好きなんだー。バカは嫌い!」



そう言い放ってトシ君を睨みつけました。



「バカな奴かー。そうだよねー。

バカっていうのは嫌だよねー。話が通じないしさー!」




その場にいた全員が,「お前のことだよ!」と

思いましたがなんとかこらえました。



上る途中,窓から下を眺めると全身真っ黒な

恰好をして頭に2本の黄色い角を生やした鬼が

この建物に向かってきていました。







真木「なぁ,ひょっとしてあれが・・・鬼・・・!?」



鬼は1匹だけでした。



ただ,この実験棟に入ってきたようです。



「早いな・・・。」



5階につくと,エレベーター組はすでに到着していました。



アヤネ「ハハハ,お先!」



白馬「どうやら,笑っている場合ではないみたいだ・・・。

鬼が1匹,この建物の中に入ってきたのを確認した。」



その場に緊張感が走りました。



第272話 バトルヤバイヤロ3限目 4

ワクのわくわく冒険記シリーズ

*本作は登場人物が多岐にわたるためイラストは基本的に白黒ラフにします。

また本作はグロテスクなシーンを含みます。ご注意ください。




実験棟の最上階は,東側にエレベーターホールがあり,そこに便所もありました。



廊下が2本あり,いくつかの実験部屋が連なっていました。



一番奥は非常用の階段だけで,裏口につながっているようです。



ワク君はトシ君と一緒に便所でおしっこを済ませました。



田村「ガキのションベンを待っている間に,

鬼が来たらどうすんだよー!?」



田村氏はいら立ちを隠せません。



「お待たせー!」



すっきりとしたようです。



真木「最上階に来たのはいいけど,これから

どうするんだい?鬼がもうすぐここへやってくるかも。」



「う~ん,それはどうかな。」



ワク君の意見に皆が注目していました。



「鬼は階段で上ってくる。1匹しか来ていない状態でエレベーターが

動いていないからね。なら,何階に俺たちがいるかわからないから,

各部屋をしらみつぶしに探しているところだと思う。」




真木「なるほど。」



ワク君がさらに話を続けます。



「今回のテーマはいかに長く生き残るか。つまり,

なるべく鬼に無駄な時間を使わせることが大事でしょ。

だから序盤は部屋がたくさんあって,隠れるところが多いこの場所を選んだんだ。」




優香「そうだったんですか。本当にワクさんってすごい方なんですね。素敵です。」



優香さんにそう言われてワク君はちょっぴり照れていました。



田村氏はどうも優香さんがワク君を

ほめることが気に食わないようです。



田村「ふん・・・。それくらい俺だって

思いついたさ。鬼が出たって返り討ちにしてやるよ!」



田村氏が大声でそう叫びました。



山岡「田村さん,そんな大声を

出したら鬼に聞こえちゃうよ・・・!?」



青山「大丈夫だって!俺のプロ並みのパンチで

鬼なんてすぐにダウンさせてやるよ!」



青山氏はシャドーボクシングをやってみませました。



アヤネ「期待しているよ!」



その時,階段の下から足音が聞こえました。



「まずい,今の声を聞かれた!?

鬼が来るぞ。みんな逃げよう!」




廊下を渡って非常階段から

下に逃げることにしました。



階段からは鬼がものすごい速さで追いかけてきました。



田村「ひぃぃぃ,鬼が来てるぅぅぅ~!?」



一番足が遅いのはトシ君ではなく,

脂性で太った田村氏でした。



「みんな,後ろを見るな。とにかく逃げろ!」



田村氏は懸命に逃げましたが,

非常階段の入り口で鬼に捕まってしまいました。



田村「何もしない!?抵抗しないから殺さないでぇぇ!?」



大人しく背中を見せ,鬼に3回たたかれました。

すると,田村氏と鬼はスッとその場から消えてしまいました。



4階まで降りかけていたトシ君とワク君はしっかりとその様子を確認しました。



「はぁはぁ・・・。本当に人が消えた・・・。

なんなんだ,この世界は・・・!?」


「みんなぁ・・・。田村さんが捕まって消えちゃったよ!?」



トシ君は前を走る大人たちに大声で伝えました。







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