2022/4/30
第417話 闇組織JF 川蝉パート中編
各務原山の交錯シリーズ 第2章
東條は目の前にある川を前にして,
今後の作戦を練り直すことにしました。
木戸は自分たちが走ってきた獣道から,
足音が聞こえることに気付きました。
20:20 各務原山 奥の川原
木戸「誰かこっちに来ます!」
現れたのは“菊水華”所属のレオンさんでした。
「こんなところで何をしている・・・。」
レオンさんはすぐにこの二人が,
一般人ではないことに気づきました。
東條「もしかして“菊”の幹部の人かな?
僕は闇組織JFの東條。ユニット“川蝉”の東條さ!」
「東條・・・。」
レオンさんは東條が腰に下げている,
日本刀に目を向けました。
「とりあえず,銃刀法違反で逮捕できそうだ。」
東條「おやおや。僕に勝つつもり?」
東條は日本刀を鞘から抜きました。
レオンさんは右の拳を前に突き出し,構えました。
東條「貴方がどれだけ強かったとしても,
素手で僕に勝つのは無理だよ!」
「どうかな。」
東條が視界から消えました。
藪の中に入ったようです。
ザザッっと藪をかき分ける音だけが聞こえます。
この森の中では視界はせまく,
どこから攻めてくるか予想がつきません。
東條はレオンさんの背後を取り,斬りかかろうとします。
レオンさんは素早く振り返り,
素手で刀を挟み込んで受け止めます。
いわゆる真剣白刃取りです。
刀を抑え込み,右足で東條の腹部に蹴りを入れます。
彼はその衝撃で吹き飛ばされます。
しかし,右手に持った日本刀は手放しませんでした。
東條「さすが“菊”の幹部!なかなかやるね!」
藪の中にいるので,
彼はうまくスピードを出せません。
レオンさんは相手の動きを見切りながら,
攻める機会をうかがっています。
次の瞬間,東條の袈裟懸け斬りを放ちました。
肩口から切りかかってくる剣閃を間一髪でかわすのですが,
すかさず今度は逆胴が迫ってきます。
レオンさんはこれも紙一重でかわしますが,
体勢を崩してしまいます。
東條はチャンスとばかりに,
頭上めがけて強烈な一太刀を浴びせます。
ザクッ!!
これもなんとかかわしますが,完全には避けきれず,
レオンさんは右肩を斬られました。
「ぐっ・・・。」
東條が振り下ろした刀は木の枝に引っ掛かり,
レオンさんの急所を外しました。
東條「もしかしてこれも狙い通り?足場の悪い場所,
見通しの悪い場所に誘い込んで戦う。」
「どうかな。」
レオンさんは平然と答えます。
数十分の間,二人の激闘が続きました。
お互い一歩も譲らない展開でしたが,
レオンさんが川原のぬかるみに足を取られた,その時・・・。
東條の斬撃がレオンさんの体を斬りつけました。
「ぐわぁぁぁっ・・・!!」
レオンさんの声はイヤコムを通して赤神氏達にも聞こえていました。
しかしこの時,赤神氏もまた菊の精鋭部隊と戦闘中でした。
レオンさんは背中を斬られていましたが,
幸い急所はずれていたようです。
しかし,背中からは血がしたたり落ちてきていました。
「ぜぇぜぇ・・・。はぁはぁ・・・。
くそ,油断した・・・。」
東條「油断?それは違いますよ!
これが僕と貴方の実力差なんですよ!」
東條はすでにこの戦いで勝利を確信している様子でした。
「どうかな・・・?オイラにはこの拳と脚で,
日本刀に勝てるだけの理由がある・・・。」
レオンさんは背中を抑えながら声を絞り出しました。
東條「へぇ・・・。もしかして貴方って僕と同じで・・・。」
そこまで言いかけた時,
東條のイヤコムに連絡が入ったようです。
相手は冥界の悪魔(キラー)でした。

<ユニット森熊・準幹部 冥界の悪魔(キラー)>
東條「え?キラーさん達でも迎撃できませんでした?
え?精鋭部隊もやられちゃったんですか?」
何やら向こうの事態も急変していることが伺えました。
東條「漆黒の金剛石を探し出したかったんですけどねぇ・・・。
わかりました。そちらへ合流します!」
東條は刀を鞘に納めました。
東條「この続きはまた今度ということで!」
「なっ・・・待て・・・!」
東條は木戸という部下を呼び寄せ,
さっき通った獣道を戻っていきました。
「ふぅ・・・。やはり“アレ”を,
履いてくるべきだったか・・・。」
レオンさんはそれ以上の深追いを諦めました。
第418話 闇組織JF 川蝉パート後編
各務原山の交錯シリーズ 第2章
21:00 各務原山 分岐点
東條と木戸は先に到着していたキラーと,
精鋭部隊の“梟”と合流しました。
そこでそれぞれの状況をいったん整理して確認しました。
冥界の悪魔「なるほど・・・。菊の連中もいたか。」
闇組織JFの被害状況がわかってきました。
“精鋭部隊 鳶:マコト・セルジュによる狙撃で全員死亡”
“精鋭部隊 鶴:菊幹部"赤神"による攻撃を受けて壊滅
現在,逃亡中で山中を彷徨っていると思われる”
“精鋭部隊 梟:マコト・セルジュの狙撃を受け,
部下が負傷するも全員生還”
“川蝉 準幹部 佐藤:マコト・セルジュによる狙撃で死亡”
“川蝉 準幹部 木戸:マコト・セルジュによる狙撃で肩を負傷”
東條「なかなかやってくれますね!」
空模様がさらに怪しくなってきました。
間もなく豪雨がやってきます。
山根「先ほど,キラー様より“雉”に指令が出されました。
“鳶”部隊の遺体回収です。」
梟の隊長である山根が報告をしました。
東條「そう,手回しがいいね。ついでに佐藤君の遺体もお願いね!」
東條がそう言ったのでキラーは“雉”の隊長にイヤコムで指示を出しました。
大きな雷鳴と共に雨が降ってきました。
とうとう嵐がやってきました。
21:20 各務原山 分岐点
東條「すごい雨だ!漆黒の金剛石の探索は出直しかな。」
彼はイヤコムの端末を使ってチャンネル回線を変えました。
どうやら別の相手と連絡をとるつもりでした。
東條「山犬の南雲君のイヤネルであってる?
僕,山本さんきっと忙しいだろうから,君に連絡したんだ!」
イヤネルとはイヤコムにそれぞれ振り分けられている個別識別番号のことで,
この番号がわかれば相手とつながることができるのです。
また一つの番号を皆で共有することでその番号のイヤコムを親機として使い,
複数の人間が同時にバーチャル空間で会話できるのです。
南雲のチャンネル番号は木戸から聞いたようです。
東條のイヤコムは山犬の南雲とのみ繋がっている状況です。
この場合,南雲側のイヤコムは山本や古賀との通信を,
スリープにして東條とのみ会話できる状態になります。
もちろん自分の意思で切り替える操作や連絡拒否にすることも可能です。
南雲「はい,南雲ですが・・・東條さんっ・・・!?」
南雲は驚いているようでした。
東條は要点だけを簡単に伝えました。
東條「実は,この山には暗殺者がいて僕たちを狙っているんだ!
だから早めに撤退することをお勧めするよ。」
イヤコムを切ると,
冥界の悪魔「なるほど。自分たちだけが撤退するんじゃ,
割が合わないから他の幹部にも撤退させようと促しているんだね。」
と,東條に問いかけると,
東條「正解!今村さんは別に連絡の必要はないかな。
どうせ彼は漁夫の利を狙っているだけだろうし。」
と,答えました。
“梟”の山根が再度報告してきました。
山根「報告します!たった今,本部との連絡が復旧しました。」
東條が本部へ事情を説明すると,
源田は全員撤退を告げました。
どうやらあの“御前”の勅命のようです。
いよいよ,それぞれの思惑を抱えたまま,撤退することになるのですが,
果たして全員がうまくふもとまで下りられるのでしょうか・・・。
各務原山の交錯シリーズ ~第2章~ 完
第419話 それぞれの撤退戦 前編
各務原山の交錯シリーズ 最終章
21:15 各務原山 展望台
とうとう大きな嵐がやってきました。
木々は暴風によって大きく揺れ,
まるで滝が打ちつけるような雨が降り注いでいます。
視界0の豪雨は容赦なく降り注ぎ,
空気が急激に冷やされたため辺りには霧が発生しています。
展望台に備え付けられていた傘型の屋根の下で,
海猫が身を潜めていました。
牟田「すごい雨ですよ,早く戻りましょう。今村さん。」
今村はもうしばらく待機を命じます。
ここで待っていれば先ほど逃がしてしまった漆黒の金剛石を,
山犬か川蝉が捕まえて,この道を通ると予想していたのです。
しかし,残念ながらその予想はあてが外れます。
万が一ここをどちらの幹部が通れば力づくで,
漆黒の金剛石を奪うと発言しますが・・・。
山下「これが,かつて鬼の今村と言われた男の本性か。」
今村「あ,今の発言は冗談ですよ?ふぉっふぉっ。」
今村は急に笑い出しました。
牟田「ええ?」
今村「さすがに私が山本君や東條君と戦えば,
お互いにただではすまないでしょう。」
二人はその姿を想像すると背筋が凍るような感じがしました。
今村「それは御前の望むことではありませんからね。」
彼は彼なりに御前という人物に畏敬の念を払っているようでした。
山下「じゃあ,こんなところで待ち伏せをしてどうするつもりなんです?」
今村「交渉ですよ。彼らは合同作戦をないがしろにしました。そして我々は,
一度は“その存在”をここで確認した。これは大きな収穫です。」
二人は雨の中,今村の考えを聞いていました。
今村「手柄を分け合うことを提案すれば,
向こうも無下にはできないでしょう。」
二人はあまりに意表を突いた発言に次の言葉が出ませんでした。
その時,目の前の山道を下山していく少年たちを目にしました。
山下「子供ですね。ほっておきましょう。」
今村は二人に目の前を通り過ぎた少年たちを捕まえるように指示しました。
理由はこんな時間に山頂から降りてきたということは,
どこかで組織のメンバーと接触している可能性があったからです。
何か組織の秘密を知られているのだとしたら,
ここで抑えておこうと考えたのです。
二人が大雨の中,ずぶ濡れになりながら山道を下って追いかけます。
リク君たちも追っ手に気づきました。
「なんか,また追っかけてきましたよ!」
「とにかく走れ!捕まったら殺されるぞ!?
まぁ俺は返り討ちにしてやる自信はあるけどな。」
イツキ君は振り返りながら自信たっぷりに言いました。
リク君は愛用の捕虫網ではなかったので,
先ほどの奥義でアミが壊れてしまい,
武器がもうありませんでした。
西山道を下っていくうちに追手が来ないことに気付きました。
「あれ?誰も追いかけてこなくなったよ。」
少年昆虫団は衣服に大量の水分を含み,
歩けなくなるくらいへとへとになりながらも,
ふもとまで下りてきました。
「もうだめ・・・。家に帰って休みたい・・・。」
「同感です。たまには気が合いますね。」
こうして少年昆虫団は無事に下山し,ずぶぬれの状態で,
伊藤店長の車に乗って帰路にくことにしました。
伊藤「遅くなって悪かったね。ずぶぬれだけど大丈夫?
それにかなり疲れているみたいだけど何かあったのかい?」

<お迎えに来た伊藤店長>
「いや,何もなかったよ!」
リクは伊藤店長に心配をかけないようにしました。
第420話 それぞれの撤退戦 中編
各務原山の交錯シリーズ 最終章
少年昆虫団を追いかけていた海猫の二人は,
マコト・セルジュによって狙撃されます。
しかし,この暴風雨のため,
プロの暗殺者でも一撃で仕留めることはできませんでした。
何発かはなった銃撃の一発がそれぞれの足に命中します。
山下「ぎゃあぁぁぁ!!」
二人が悲鳴を上げました。
マコト・セルジュは彼らの目の前に姿を現し,
銃口を二人に向けました。
牟田「命だけはっ!!助けてくださいっ!!
なんでもしますからっ!!」
二人は傷口から噴き出る大量の血を,
手で押さえながら命乞いをしました。
山下「え!?」
マコト・セルジュは持っていた翻訳機を目の前に差し出し,
何かを二人に伝えました。
内容を聞いた二人は痛みをこらえながら,
何かをしゃべり始めました。
どうやら組織の情報に関することのようです。
実はこのやりとりがイヤコムの録音機能にデータとして残されていました。
後に“藪蛇”のマヤがデータを分析し,アヤに報告しました。
結果的にこの件がJFにとってはまずい行動であったため,
その後,二人は消されることになったのです。
マコト・セルジュは茂みからの気配に気づき,姿を消しました。
異変に気付いた今村がすぐに駆けつけたのです。
そこには足から大量の血を流し,
うずくまっている二人を発見しました。
今村は暗視ゴーグルを外していたので,
とっさに服の左ポケットにしまってあった,
簡易型のスコープを使って周辺を見渡しました。
するとクヌギの木の上に一つの影が見えました。
今村「これは,ダーストニスが雇った暗殺者の仕業ですね。」
今村はすぐに近くの木に身を隠し,次の狙撃を警戒しました。
彼が神経をとがらせて,相手の出方を待っていると,
源田「全員,撤退だ。作戦は中止。ただちに撤退せよ。
これは御前の命(めい)である。」
無線機から源田の声が聞こえてきました。
今村「ようやく本部と連絡がつながりましたね。
しかし,撤退とは・・・。」
今村は少し悔しそうにしながら,下山を決意しました。
今村「ただ,我々にとって“漆黒の金剛石”に手が届く瞬間でした。
あの時,確かに検査に反応したカブトムシはこの山にいたんです。
それは間違いない。フォッフォッ。」
今村は内心とても悔しかったようです。
あと一歩のところで取り逃がし,後に東條によって,
その手柄を持っていかれることになるのです。
今村「(あの時,あの影の人物が背中に背負っていた銃は,
おそらく英国製ライフル,レジェンドマスター・・・。」
彼は銃の種類にも詳しいようです。
今村「(年代物だが高性能,しかし扱いが非常に難しく,
保守も大変だと聞くが使える人物がいたとは・・・。)」
今村はさきほど消えていった影の姿をさらに思い出します。
今村「(そして一瞬見えたあの獅子のような髪型・・・。
マコト・セルジュと呼ばれる暗殺者で間違いなさそうですねぇ・・・。)」
今村はイヤコムでキラーを呼びだし,
二人の部下を病院へ運ぶように依頼しました。
連絡を受けたキラーは精鋭部隊の梟にその任務を命じました。
雉は遺体の収容,梟は負傷者の救助と,
役割分担をして任務にあたることになりました。
今村はしばらく現場に身を潜めていましたが,
相手が狙撃をしてくることはありませんでした。
この雨で今村を見失ったのか,
武器が使用不能になったのかは定かではありません。
今村は西山道を降りていきました。
負傷した部下を見捨てているように見えますが,
この状況で二人を担いで下山すれば自らの命も危険にさらします。
闇組織の幹部たちはそうまでして部下を甘やかすことはありません。
支援部隊に救助を依頼した今村は組織の中ではまだ穏健派と言えるのでしょう。
彼は無事に西ふもとまで下山することができました。
すでに少年昆虫団は帰路についてそこにはいませんでした。
先ほどまで海猫を襲撃していたマコト・セルジュは・・・。
中央ふもと付近の獣道で東條と対峙していました。
東條は中央ふもとから部隊が撤退した後のしんがりを務めていました。
梟は展望台へ向かっていましたが,負傷した牟田と山下を救助し,
帰路は西山道から西ふもとのルートを通ることになっていました。
中央ふもとから続く獣道さえ押さえておけば,
しんがりの役割は十分に果たすことができます。
東條「貴方が,暗殺者さんですか!
組織のメンバーを結構,殺ってくれましたね!」
マコト「・・・。」
マコト・セルジュは無言を貫きます。
日本語がわからないのでしょうか。
この二人の対決がいよいよ始まろうとしていました。