リクの少年昆虫記-過去のお話-

過去の掲載順へ

TOPページへ

目次


第417話~第420話

2022/4/30

第417話 闇組織JF 川蝉パート中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
東條は目の前にある川を前にして,

今後の作戦を練り直すことにしました。



木戸は自分たちが走ってきた獣道から,

足音が聞こえることに気付きました。



20:20 各務原山 奥の川原



木戸「誰かこっちに来ます!」



現れたのは“菊水華”所属のレオンさんでした。



「こんなところで何をしている・・・。」



レオンさんはすぐにこの二人が,

一般人ではないことに気づきました。



東條「もしかして“菊”の幹部の人かな?

僕は闇組織JFの東條。ユニット“川蝉”の東條さ!」



「東條・・・。」



レオンさんは東條が腰に下げている,

日本刀に目を向けました。



「とりあえず,銃刀法違反で逮捕できそうだ。」



東條「おやおや。僕に勝つつもり?」



東條は日本刀を鞘から抜きました。



レオンさんは右の拳を前に突き出し,構えました。



東條「貴方がどれだけ強かったとしても,

素手で僕に勝つのは無理だよ!」



「どうかな。」



東條が視界から消えました。

藪の中に入ったようです。



ザザッっと藪をかき分ける音だけが聞こえます。



この森の中では視界はせまく,

どこから攻めてくるか予想がつきません。



東條はレオンさんの背後を取り,斬りかかろうとします。



レオンさんは素早く振り返り,

素手で刀を挟み込んで受け止めます。



いわゆる真剣白刃取りです。



刀を抑え込み,右足で東條の腹部に蹴りを入れます。

彼はその衝撃で吹き飛ばされます。



しかし,右手に持った日本刀は手放しませんでした。



東條「さすが“菊”の幹部!なかなかやるね!」



藪の中にいるので,

彼はうまくスピードを出せません。

レオンさんは相手の動きを見切りながら,

攻める機会をうかがっています。



次の瞬間,東條の袈裟懸け斬りを放ちました。

肩口から切りかかってくる剣閃を間一髪でかわすのですが,

すかさず今度は逆胴が迫ってきます。



レオンさんはこれも紙一重でかわしますが,

体勢を崩してしまいます。



東條はチャンスとばかりに,

頭上めがけて強烈な一太刀を浴びせます。



ザクッ!!



これもなんとかかわしますが,完全には避けきれず,

レオンさんは右肩を斬られました。



「ぐっ・・・。」



東條が振り下ろした刀は木の枝に引っ掛かり,

レオンさんの急所を外しました。



東條「もしかしてこれも狙い通り?足場の悪い場所,

見通しの悪い場所に誘い込んで戦う。」

「どうかな。」



レオンさんは平然と答えます。



数十分の間,二人の激闘が続きました。



お互い一歩も譲らない展開でしたが,

レオンさんが川原のぬかるみに足を取られた,その時・・・。



東條の斬撃がレオンさんの体を斬りつけました。



「ぐわぁぁぁっ・・・!!」



レオンさんの声はイヤコムを通して赤神氏達にも聞こえていました。



しかしこの時,赤神氏もまた菊の精鋭部隊と戦闘中でした。



レオンさんは背中を斬られていましたが,

幸い急所はずれていたようです。



しかし,背中からは血がしたたり落ちてきていました。



「ぜぇぜぇ・・・。はぁはぁ・・・。

くそ,油断した・・・。」




東條「油断?それは違いますよ!

これが僕と貴方の実力差なんですよ!」



東條はすでにこの戦いで勝利を確信している様子でした。



「どうかな・・・?オイラにはこの拳と脚で,

日本刀に勝てるだけの理由がある・・・。」




レオンさんは背中を抑えながら声を絞り出しました。



東條「へぇ・・・。もしかして貴方って僕と同じで・・・。」



そこまで言いかけた時,

東條のイヤコムに連絡が入ったようです。



相手は冥界の悪魔(キラー)でした。



<ユニット森熊・準幹部 冥界の悪魔(キラー)>



東條「え?キラーさん達でも迎撃できませんでした?

え?精鋭部隊もやられちゃったんですか?」



何やら向こうの事態も急変していることが伺えました。



東條「漆黒の金剛石を探し出したかったんですけどねぇ・・・。

わかりました。そちらへ合流します!」



東條は刀を鞘に納めました。



東條「この続きはまた今度ということで!」



「なっ・・・待て・・・!」



東條は木戸という部下を呼び寄せ,

さっき通った獣道を戻っていきました。



「ふぅ・・・。やはり“アレ”を,

履いてくるべきだったか・・・。」




レオンさんはそれ以上の深追いを諦めました。



第418話 闇組織JF 川蝉パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
21:00 各務原山 分岐点



東條と木戸は先に到着していたキラーと,

精鋭部隊の“梟”と合流しました。



そこでそれぞれの状況をいったん整理して確認しました。



冥界の悪魔「なるほど・・・。菊の連中もいたか。」



闇組織JFの被害状況がわかってきました。



“精鋭部隊 鳶:マコト・セルジュによる狙撃で全員死亡”



“精鋭部隊 鶴:菊幹部"赤神"による攻撃を受けて壊滅

現在,逃亡中で山中を彷徨っていると思われる”



“精鋭部隊 梟:マコト・セルジュの狙撃を受け,

部下が負傷するも全員生還”



“川蝉 準幹部 佐藤:マコト・セルジュによる狙撃で死亡”



“川蝉 準幹部 木戸:マコト・セルジュによる狙撃で肩を負傷”



東條「なかなかやってくれますね!」



空模様がさらに怪しくなってきました。

間もなく豪雨がやってきます。



山根「先ほど,キラー様より“雉”に指令が出されました。

“鳶”部隊の遺体回収です。」



梟の隊長である山根が報告をしました。



東條「そう,手回しがいいね。ついでに佐藤君の遺体もお願いね!」



東條がそう言ったのでキラーは“雉”の隊長にイヤコムで指示を出しました。



大きな雷鳴と共に雨が降ってきました。

とうとう嵐がやってきました。



21:20 各務原山 分岐点



東條「すごい雨だ!漆黒の金剛石の探索は出直しかな。」



彼はイヤコムの端末を使ってチャンネル回線を変えました。



どうやら別の相手と連絡をとるつもりでした。



東條「山犬の南雲君のイヤネルであってる?

僕,山本さんきっと忙しいだろうから,君に連絡したんだ!」



イヤネルとはイヤコムにそれぞれ振り分けられている個別識別番号のことで,

この番号がわかれば相手とつながることができるのです。



また一つの番号を皆で共有することでその番号のイヤコムを親機として使い,

複数の人間が同時にバーチャル空間で会話できるのです。



南雲のチャンネル番号は木戸から聞いたようです。

東條のイヤコムは山犬の南雲とのみ繋がっている状況です。



この場合,南雲側のイヤコムは山本や古賀との通信を,

スリープにして東條とのみ会話できる状態になります。



もちろん自分の意思で切り替える操作や連絡拒否にすることも可能です。



南雲「はい,南雲ですが・・・東條さんっ・・・!?」



南雲は驚いているようでした。



東條は要点だけを簡単に伝えました。



東條「実は,この山には暗殺者がいて僕たちを狙っているんだ!

だから早めに撤退することをお勧めするよ。」



イヤコムを切ると,



冥界の悪魔「なるほど。自分たちだけが撤退するんじゃ,

割が合わないから他の幹部にも撤退させようと促しているんだね。」



と,東條に問いかけると,



東條「正解!今村さんは別に連絡の必要はないかな。

どうせ彼は漁夫の利を狙っているだけだろうし。」



と,答えました。



“梟”の山根が再度報告してきました。



山根「報告します!たった今,本部との連絡が復旧しました。」



東條が本部へ事情を説明すると,

源田は全員撤退を告げました。



どうやらあの“御前”の勅命のようです。



いよいよ,それぞれの思惑を抱えたまま,撤退することになるのですが,

果たして全員がうまくふもとまで下りられるのでしょうか・・・。



各務原山の交錯シリーズ ~第2章~ 完



第419話 それぞれの撤退戦 前編

各務原山の交錯シリーズ 最終章
21:15 各務原山 展望台



とうとう大きな嵐がやってきました。



木々は暴風によって大きく揺れ,

まるで滝が打ちつけるような雨が降り注いでいます。



視界0の豪雨は容赦なく降り注ぎ,

空気が急激に冷やされたため辺りには霧が発生しています。



展望台に備え付けられていた傘型の屋根の下で,

海猫が身を潜めていました。



牟田「すごい雨ですよ,早く戻りましょう。今村さん。」



今村はもうしばらく待機を命じます。



ここで待っていれば先ほど逃がしてしまった漆黒の金剛石を,

山犬か川蝉が捕まえて,この道を通ると予想していたのです。



しかし,残念ながらその予想はあてが外れます。



万が一ここをどちらの幹部が通れば力づくで,

漆黒の金剛石を奪うと発言しますが・・・。



山下「これが,かつて鬼の今村と言われた男の本性か。」

今村「あ,今の発言は冗談ですよ?ふぉっふぉっ。」



今村は急に笑い出しました。



牟田「ええ?」

今村「さすがに私が山本君や東條君と戦えば,

お互いにただではすまないでしょう。」



二人はその姿を想像すると背筋が凍るような感じがしました。



今村「それは御前の望むことではありませんからね。」



彼は彼なりに御前という人物に畏敬の念を払っているようでした。



山下「じゃあ,こんなところで待ち伏せをしてどうするつもりなんです?」

今村「交渉ですよ。彼らは合同作戦をないがしろにしました。そして我々は,

一度は“その存在”をここで確認した。これは大きな収穫です。」



二人は雨の中,今村の考えを聞いていました。



今村「手柄を分け合うことを提案すれば,

向こうも無下にはできないでしょう。」



二人はあまりに意表を突いた発言に次の言葉が出ませんでした。



その時,目の前の山道を下山していく少年たちを目にしました。



山下「子供ですね。ほっておきましょう。」



今村は二人に目の前を通り過ぎた少年たちを捕まえるように指示しました。



理由はこんな時間に山頂から降りてきたということは,

どこかで組織のメンバーと接触している可能性があったからです。



何か組織の秘密を知られているのだとしたら,

ここで抑えておこうと考えたのです。



二人が大雨の中,ずぶ濡れになりながら山道を下って追いかけます。



リク君たちも追っ手に気づきました。



「なんか,また追っかけてきましたよ!」

「とにかく走れ!捕まったら殺されるぞ!?

まぁ俺は返り討ちにしてやる自信はあるけどな。」




イツキ君は振り返りながら自信たっぷりに言いました。



リク君は愛用の捕虫網ではなかったので,

先ほどの奥義でアミが壊れてしまい,

武器がもうありませんでした。



西山道を下っていくうちに追手が来ないことに気付きました。



「あれ?誰も追いかけてこなくなったよ。」



少年昆虫団は衣服に大量の水分を含み,

歩けなくなるくらいへとへとになりながらも,

ふもとまで下りてきました。



「もうだめ・・・。家に帰って休みたい・・・。」

「同感です。たまには気が合いますね。」



こうして少年昆虫団は無事に下山し,ずぶぬれの状態で,

伊藤店長の車に乗って帰路にくことにしました。



伊藤「遅くなって悪かったね。ずぶぬれだけど大丈夫?

それにかなり疲れているみたいだけど何かあったのかい?」



<お迎えに来た伊藤店長>



「いや,何もなかったよ!」



リクは伊藤店長に心配をかけないようにしました。



第420話 それぞれの撤退戦 中編

各務原山の交錯シリーズ 最終章
少年昆虫団を追いかけていた海猫の二人は,

マコト・セルジュによって狙撃されます。



しかし,この暴風雨のため,

プロの暗殺者でも一撃で仕留めることはできませんでした。



何発かはなった銃撃の一発がそれぞれの足に命中します。



山下「ぎゃあぁぁぁ!!」



二人が悲鳴を上げました。



マコト・セルジュは彼らの目の前に姿を現し,

銃口を二人に向けました。



牟田「命だけはっ!!助けてくださいっ!!

なんでもしますからっ!!」



二人は傷口から噴き出る大量の血を,

手で押さえながら命乞いをしました。



山下「え!?」



マコト・セルジュは持っていた翻訳機を目の前に差し出し,

何かを二人に伝えました。



内容を聞いた二人は痛みをこらえながら,

何かをしゃべり始めました。



どうやら組織の情報に関することのようです。



実はこのやりとりがイヤコムの録音機能にデータとして残されていました。



後に“藪蛇”のマヤがデータを分析し,アヤに報告しました。



結果的にこの件がJFにとってはまずい行動であったため,

その後,二人は消されることになったのです。



マコト・セルジュは茂みからの気配に気づき,姿を消しました。



異変に気付いた今村がすぐに駆けつけたのです。



そこには足から大量の血を流し,

うずくまっている二人を発見しました。



今村は暗視ゴーグルを外していたので,

とっさに服の左ポケットにしまってあった,

簡易型のスコープを使って周辺を見渡しました。



するとクヌギの木の上に一つの影が見えました。



今村「これは,ダーストニスが雇った暗殺者の仕業ですね。」



今村はすぐに近くの木に身を隠し,次の狙撃を警戒しました。



彼が神経をとがらせて,相手の出方を待っていると,



源田「全員,撤退だ。作戦は中止。ただちに撤退せよ。

これは御前の命(めい)である。」



無線機から源田の声が聞こえてきました。



今村「ようやく本部と連絡がつながりましたね。

しかし,撤退とは・・・。」



今村は少し悔しそうにしながら,下山を決意しました。



今村「ただ,我々にとって“漆黒の金剛石”に手が届く瞬間でした。

あの時,確かに検査に反応したカブトムシはこの山にいたんです。

それは間違いない。フォッフォッ。」



今村は内心とても悔しかったようです。



あと一歩のところで取り逃がし,後に東條によって,

その手柄を持っていかれることになるのです。



今村「(あの時,あの影の人物が背中に背負っていた銃は,

おそらく英国製ライフル,レジェンドマスター・・・。」



彼は銃の種類にも詳しいようです。



今村「(年代物だが高性能,しかし扱いが非常に難しく,

保守も大変だと聞くが使える人物がいたとは・・・。)」



今村はさきほど消えていった影の姿をさらに思い出します。



今村「(そして一瞬見えたあの獅子のような髪型・・・。

マコト・セルジュと呼ばれる暗殺者で間違いなさそうですねぇ・・・。)」



今村はイヤコムでキラーを呼びだし,

二人の部下を病院へ運ぶように依頼しました。



連絡を受けたキラーは精鋭部隊の梟にその任務を命じました。



雉は遺体の収容,梟は負傷者の救助と,

役割分担をして任務にあたることになりました。



今村はしばらく現場に身を潜めていましたが,

相手が狙撃をしてくることはありませんでした。



この雨で今村を見失ったのか,

武器が使用不能になったのかは定かではありません。



今村は西山道を降りていきました。



負傷した部下を見捨てているように見えますが,

この状況で二人を担いで下山すれば自らの命も危険にさらします。



闇組織の幹部たちはそうまでして部下を甘やかすことはありません。

支援部隊に救助を依頼した今村は組織の中ではまだ穏健派と言えるのでしょう。



彼は無事に西ふもとまで下山することができました。

すでに少年昆虫団は帰路についてそこにはいませんでした。



先ほどまで海猫を襲撃していたマコト・セルジュは・・・。



中央ふもと付近の獣道で東條と対峙していました。



東條は中央ふもとから部隊が撤退した後のしんがりを務めていました。



梟は展望台へ向かっていましたが,負傷した牟田と山下を救助し,

帰路は西山道から西ふもとのルートを通ることになっていました。



中央ふもとから続く獣道さえ押さえておけば,

しんがりの役割は十分に果たすことができます。



東條「貴方が,暗殺者さんですか!

組織のメンバーを結構,殺ってくれましたね!」



マコト「・・・。」



マコト・セルジュは無言を貫きます。

日本語がわからないのでしょうか。



この二人の対決がいよいよ始まろうとしていました。





第421話~第424話

2022/6/11

第421話 それぞれの撤退戦 後編

各務原山の交錯シリーズ 最終章
マコト・セルジュと対峙する闇組織JFの東條・・・。

お互いの距離は10mほどです。



セルジュは中長距離用の狙撃銃ではなく,

懐に忍ばせておいた,

S&M.44ハミントン・マグナムを取り出しました。



すかさず東條は木の裏に隠れます。

そして,相手の背後に回り込もうとしました。



その時,マコト・セルジュが放った銃弾が東條の頭部に命中しました。

その勢いで彼は雨でぐちゃぐちゃになったドロ道に倒れこみました。



しかし,すぐに起き上がると,速度を緩めることなく,

木々の間を走り抜けていきます。



彼がかぶっていた帽子とコートは防弾仕様で,

敵の狙撃にも対応できるものだったのです。



山本も普段からあの服装でいる理由も同じでした。



東條「危なかったー。」



東條は帽子を拾い上げてかぶりなおしていました。



こういう時のために,帽子とコートは必須だったのです。



そして,彼はうまくマコト・セルジュの背後に回り込むことができました。



先ほどのお返しと言わんばかりに,

素早く一太刀を浴びせました。



東條「僕は他の連中とは一味も二味も違いますよ!

これで組織としては一矢報いたことになるかな!」



ザッシュ!



彼は確かな手ごたえを感じました。

茂みには血痕が飛び散っています。



どうやらセルジュに一太刀を浴びせることに成功したようです。



しかし,マコト・セルジュの姿はありませんでした。

雨がさらに強くなり,霧もかなり出てきてほとんど視界がありません。



東條は刀を下ろしました。



東條「逃げられたか。いや,組織としては,

恵みの暴風雨(ストーム)だったのかな!」





マコト・セルジュは負傷が原因なのか,

突如としてこの場から姿を消しました。



彼は刀を鞘に納めると,

ずぶ濡れになりながら獣道を戻って下山し始めました。



二人の戦闘は時間にして30分ほど続いていたようです。

彼が下山を開始した時刻は22時を過ぎていました。



下山の途中,梟の山根に連絡を入れました。



そして状況を確認すると,海猫率いる今村たちも,

暗殺者によって被害を受けていることを知ります。



東條「山根君。ついでといってはなんですがあの人が撃った銃弾が,

どこかにめり込んでいるはずなんで回収しておいてください。」



この暴風雨の中,さらっとめちゃくちゃな命令を出しました。



しかし,彼ら精鋭部隊は幹部達に絶対服従のため拒否権はありません。



“梟”は手分けして銃弾を探します。



そして運よく木にめり込んでいた銃弾の回収に成功します。



こうして精鋭部隊"梟"はマコト・セルジュが残した銃弾と海猫の準幹部,

牟田と山下を抱きかかえながら下山していきました。



途中,妨害が入ることはなく,22:30には下山が完了しました。

すぐ後に,精鋭部隊"雉"が下山してきました。



一人一人が特殊な袋を担いでいました。



中にはマコト・セルジュに殺害された鳶(とび)のメンバーと,

川蝉の準幹部,佐藤の遺体がそれぞれ入っていました。



闇組織JFは全部隊の下山が完了したため,

それぞれの車を使って名古屋へ撤退することになりました。



東條が乗る車には運転手の木戸の他に,

キラーと藪蛇のマヤが同乗していました。



東條は助手席に,残りの二人は後部座席に座っていました。



精鋭部隊は隊長の指示のもと別の車で撤退していました。



木戸「東條さんって優しいんですね。」

東條「僕は紳士(ジェントルマン)なんだよ!」



木戸は東條の“何かの行動”に対して,

そう言いました。



東條「ご苦労だったね。」



東條は助手席の後ろに座っていた,

マヤに声をかけて労いました。



しかし,彼女は返事をしませんでした。



冥界の悪魔「本部からの見解では山全体に妨害電波を出す,

大きな機械が設置されていたんだろうって。

雨でその機械が機能しなくなったから,

本部との連絡がつながるようになったらしい。」



キラーの解説を東條は隣で黙って聞いていました。



木戸「東條さんどうかしましたか?

佐藤のことならホントに残念でしたよね・・・。」



木戸が悲しげな表情でそう言いましたが,

東條は特に気にしている様子はありませんでした。



東條「(菊水華の小早川レオン・・・。

そしてダーストニスの暗殺者・・・。)」



彼は窓から外を眺めています。



暴風雨で窓のガラスには大量の雨がたたきつけるようにあたります。



その先に辛うじて見える景色は田んぼや畑ばかりで,

たまに民家の光が見える程度です。



東條「(これは楽しくなってきそうだ。

でもその前に“漆黒の金剛石”。次は必ず僕が見つける・・・。)」



それぞれの思惑が交差した各務原山での一件は,

これにて幕を閉じることになりました。



第422話 戦況-再び公園にて-

各務原山の交錯シリーズ 最終章
少年昆虫団は全ての話を聞き終え,

改めて今ここに立っている東條という人物が,

危険なのだと思い知りました。



東條「さて,冥途の土産も聞き終わったことだし,

全員に死んでもらいましょう。」

紺野「まさかこの人数相手に勝てるとでも?」



紺野氏が昆虫団の前に立って,

彼らの身を守りながら東條に話しかけます。



東條「当然!一人も逃がさないよ!」



レオンさんは当時と同じく素手で相手をしようとしていました。



東條「遠慮なく,拳銃使ってもらってもいいんですよ!」

「あいにく,急なことなんで持ち合わせていないんだよ。」



レオンさんは少しずつ東條に近づいていきます。

一撃必殺の急所狙いを決めようとしています。



東條はレオンさんの不意打ちに気付いていました。

彼はレオンさんめがけて超速で刀を振り下ろしました。



ガギィィッ!!



レオンさんは右足の足の裏で刀を受け止めました。



東條「やりますね!仕込み靴ですか!」



「銃は持ち歩いていないが,この前と違って,

今日は履いているんだよ!」




ぐっと足に力を入れ,刀を押し返すと,

すかさず左足で蹴りを入れました。

東條はうまく避けきれず,後ろによろめきます。



「なんかよくわからないけどレオンさんが押している!」



イツキ君は夢中になって彼の動きを追っていました。



「俺もいつかあんな風に強くなりてぇ。」



リク君は紺野氏の前に出てきました。



紺野「危ないぜ・・・。」



「もう大丈夫・・・。レオンさんを援護しなきゃ。」



リク君は攻撃の機会を伺います。



紺野「今,この場で大事なことってなんだい?」



紺野氏がリク君に語り掛けます。



紺野「全員が無事に生きて帰ることじゃないのかい?」



その言葉で少年昆虫団は納得しました。



「確かにそうだよ。絶対に死にたくない!」



まさらちゃんが勇気を出して声を上げます。



「そうだね。おいらも無我夢中だったけど,

やっぱり死にたくない!」




「・・・。確かにその通りだよ。

でもだからって俺はあいつらを逃がさない!」




リク君はぎゅっと右手に持っている捕虫網の柄を握りしめました。



紺野「それは,この僕ちんも同じ気持ちだよ。

でも,今は退くべき時だ。戦況を見誤ってはいけない。」





紺野「今,君が飛び出せば,

隙を見て他のメンバー全員を殺しに来るぞ。

レオンと戦っていても,

奴にはそれだけの“力”がある。」



彼はひょうひょうとした恰好で何を考えているか,

いまいち読み取りにくい人物でしたが,

冷静に状況を分析する力に長けているようです。



第423話 冥土

各務原山の交錯シリーズ 最終章
東條「時間があれば,僕の出生から今日までの生い立ちを,

話してあげたいくらいなんですけどね!」



彼は再び突きの構えを取りました。

その切っ先はレオンさんにまっすぐ向いていました。



東條「ただ,鎮魂歌(レイクエム)には長すぎる。」



「貴様のことなど興味はない。

オイラが知りたいのは組織の全貌とその目的だけだ。」




東條は先ほどよりも加速度的な迅さで襲ってきます。

レオンさんは左によけ,相手の横腹に右の中段蹴りを入れます。



東條はうまくかわし,体をひねって,

再び切っ先をレオンさんに向けます。



東條「彼らには十分冥途の土産をあげたんですよ!

いい加減死んでくれないと上げ損ですよ!」



彼は意味不明な持論を展開し始めました。



「そういえば,確かにさっき何か言っていましたね・・・。」



だぬちゃんが何かを思い出したように言いました。



紺野「後で,じっくりと聞かせてもらおう。」



前を見ると,二人が激突していました。

そして,離れてはぶつかり合う,そんな戦闘が続きます。



「レオンさん・・・,だいぶ体力を消耗している・・・。」



リク君は先ほど紺野氏から言われたことを思い出し,

みんなを守るためにその場から動きませんでした。



東條「まだ冥土の土産が足りないの!?なんて欲張りな人達だ!」



「あと一つ聞かせろ・・・。父が盗んだ研究書・・・。

それを取り戻したかったってことは,

すでに漆黒の金剛石はお前たちの手に入っているんだな。」


「(そういえばレオンさんのお父さん,

小早川教授ってどんな人なんだろう。今度,写真でも見せてもらおう。)」




東條は少し考えるそぶりを見せて,



東條「ええ,そうですよ。僕があの各務原山で後日,再発見しました。」





実は,その情報は灰庭さんを通して知っている事実でした。



しかし,その疑惑が彼にいかないように,

ここで組織の人間からその情報を引き出させたのです。



東條が,再びレオンさんに攻撃を仕掛けようとした時・・・。



彼のイヤコムに連絡が入りました。

相手は森熊の源田でした。



源田「影(シャドー)から聞いたぞ。

独断での行動は厳禁だ。すぐに戻れ。」

東條「ええ・・・!?あの人,口が軽いなぁ・・・!

それって源田さんの命令です?」



東條が聞くと,



源田「いや。“石原氏”の助言だ。」



ここで謎の人物の名前が出てきました。



東條「源田さんより“上の方”の命令じゃ,

聞かないわけにいきませんね。」



東條は刀を鞘に納めました。



東條「平成のファーヴル君,小早川さん,

今回はなかなか楽しめました。

次に会う時はもっと強くなっていてくださいね!」



彼はくるっと向きを変え,公園から出ていこうとしました。



現場にいた二名の警察官は彼の追走を諦めました。



街中で騒ぎを起こせば,さらに被害が出る可能性があったこと,

リク君のケガの治療を優先させたことがその理由でした。



レオンさんはすぐに上司である赤神氏に報告をしましたが,

その行動についてとがめられることはなく,

むしろ死者を出さなかったことをたたえられました。



第424話 エピローグ

各務原山の交錯シリーズ 最終章
リク君は近くの警察病院へ運ばれましたが,幸い,

命に別状はなくすぐに帰宅することができました。



その後,レオンさんの車で県警本部に向かい,

詳しい事情を説明することになりました。



赤神「よく無事に戻ってこられた。それが何よりだ。」



小さな会議室の中で,彼は一番の奥の席に座り,

全員が無事だったことに安堵の表情を見せました。



赤神「紺野を呼んでおいてよかった。

翠川だけでは対処しきれなかったかもしれない。」



紺野氏は一番入り口に近い壁際に立って話を聞いていました。



「あいつは,組織で3番目に強いって言っていた。」



もちろん東條の言うことを全部信じることはできませんでしたが,

あの強さならありえるだけの説得力がありました。



「逆に言えば,あいつよりも強いやつが二人も組織内にいるってことだろ。」

「一人は当然,“御前”じゃないんですか?

組織のボスでしょ?」




だぬちゃんがそれらしい推理を披露すると,

トシ君が横やりをいれました。



「でも,“御前”ってずっと昔に,

組織を作ったって言ってなかった?

とういことはかなり高齢なんじゃない?ホントに強いのかな・・・?」




トシ君の考えにも一理ありました。



「たまにはいいこと言うな。確かにその通りだ。

前に見せてもらったパンフの写真に載っていた,

“日暮”って人物も高齢だったし,影武者ならそいつと近い年齢だろう。」




イツキ君もなかなか冴えていました。



「“御前”の正体については今の段階では何もわからないね。」



どうやら組織に潜入している灰庭氏も,

“御前”と直接接触する機会はなかったのか,

“御前”の情報はレオンさんに伝えていないようです。



「もう一人はやっぱり山犬の“山本”ってやつなんじゃないの!?」

「うーん,アイツは自分の方が格上だって,

認識しているみたいでしたけど,あり得ますね。」




紺野「あの男,結構おしゃべりだったんだろ?

冥土の土産とか言って色々聞いたんだろ。」



リク君が振り返って,



「うん,組織の目的について・・・。」



赤神「なんと・・・。」



それは警察の菊水華でもつかんでいない情報でした。



「なんて言っていたんだい?」



隣に座っていたレオンさんが聞きます。



「よく聞き取れなかったんですけど,

分裂とか統一とか言っていましたよね。」




リク君は天照と月読をかまえ,



「ああ,そう言っていた。

“古き力の分裂”と“新しき力の統一”って・・・。」






間近で聞いていたので,

彼がそのような内容を口にしたことは間違いなさそうです。



赤神「それが組織の目的・・・?

どういう意味だ・・・?古い力,新しい力ってなんだ・・・?」



本当にそれが組織の目的なのでしょうか。

真実はいかに・・・。



「分裂と統一・・・。言葉だけ聞いても嫌な予感しかしないな。」



イツキ君の意見に皆も同じ考えでした。



「よーし!絶対に夏休み中に闇組織JFを壊滅させるぞ!絶対だ!」



リク君は急に立ち上がって叫びました。



「でも,あと2週間くらいしかないよ!?」



トシ君の言う通り,もし本当に夏休み中に組織を壊滅させるならば,

残された時間はあまりありませんでした。



それでも彼らの意思は固いようです。



「レオンさん,稽古をつけるペースをあげてくれ!

俺はもっと強くならなくちゃだめなんだ!」




レオンさんは静かに頷きました。



「あ,じゃあついでにオイラもお願いしようかな。」

「いやいや,君は無理でしょ!」



だぬちゃんが突っ込みました。



紺野「まぁ,君たちには期待しているぞ。

何せ小早川のお気に入りの“勇者”もいるんだろ!」



「勇者?ところでこいつは誰だ?」



イツキ君が紺野氏を指さし,赤神氏に聞きました。



紺野「あれ?俺のこと紹介してもらってなかったっけ・・・?」



リク君はそんなやり取りを聞き流しながら,

“天照”と“月読”を握りしめました。



「(実戦で少し試せたけど・・・。

早く“アレ”を完成させなくちゃ・・・。)」




リク君の心中は次は負けられないという思いであふれてきました。



いよいよ組織の中枢と戦う日が近づいているのかもしれません・・・。



各務原山の交錯シリーズ ~最終章 完~

第425話~第428話

2022/7/9

第425話 七夕のしおり
 中野木大学では毎年7月7日は七夕祭りを行い,

盛り上がっていました。



運営主体は学生有志で,校内には様々なサークルや部活が,

出店やイベントを企画して開いていました。



昆虫学部に所属する久遠さんたちは,

世界の珍しい昆虫食を出店していましたが,

客足はイマイチのようです。



久遠「こんなにおいしいのに何で誰もたべてくれないのよっ!!」



一人で店の看板に向かって逆切れしていました。



一緒に店番をしていたのは,見た目はすごくふけていて,

髪の毛もすでに薄いような男でしたが,くおんよりも年下の後輩でした。



名前は加味無 禿輝(かみなし はげてる)と言いました。



禿輝「先輩~,怒ってばかりいないで客の呼び込みを続けましょうよ。

それにもうすぐしたら姫色先輩も戻ってきてくれますから。」



後輩がそう言うと,



久遠「うん,そうだね!がんばろうっ!!」



同じく昆虫学部に所属していた大学3年生の女性,

御影 芽衣(みかげ めい)さんも同じ気持ちでした。



どうやら飛鳥井 姫色さんはテニスサークルに所属していたので,

学部の出店と掛け持ちしているようです。



そのテニスサークルの出し物は・・・。



校内で「ゆっくりとくつろげるまったりカフェ」を運営していました。



企画の中心には七夕紫織さんがいました。



彼女はおとなしい性格ですが,様々な企画案を出したり,

運営をしたりすることが好きな学生でした。



紫織「けっこうお客さんが来てくれているみたいでよかった。」



紫織さんは裏方で姫色さんにそう語りかけました。



姫色「さすが紫織!ばっちりな企画だよね,御見それしたわ~!」



彼女がべたほめすると,



紫織「そんなことないよ。みんなの協力のおかげだよ。」





と謙遜しました。



姫色「特に来てもらったお客さんに願い事を書いてもらって帰るときに,

入口に飾ってある笹の木に飾ってもらうっていうのがアイデアがすごくいいよ!」



今日は七夕なので紫織さんはそんな企画も出していたのでした。



姫色「七夕紫織!名前負けしてないね!」



姫色さんが紫織さんの肩をポンっと叩きました。



紫織「あはは。」



そんなやり取りをしていると後輩が声をかけてきました。

どうやらお客さんが増えてきたのでヘルプに入ってほしいとのことでした。



姫色「困ったなぁ。あたしこの後,くぅの所に行かないといけないんだけど。」



紫織「こっちは大丈夫だから,昆虫学部のほうに行っておいでよ。

私は文学部だけどこっちに専念できるから。」



姫色さんは申し訳なさそうにしてその場を去って行きました。



その時,校舎の中で一人の男性とはち逢いました。

その人物は昆虫学部の研究室へ向かっていくようでした。



しかし,姫色さんはその人物に見覚えはありませんでした。



姫色「あの?今日は七夕祭なので,

研究室は開いていないと思いますけど?」



姫色さんが声をかけると,



「ああ,そうなんですね。

来週くらいからこちらに編入することになった緑川と申します。

教授に挨拶だけして帰るつもりです。」



姫色「そっか。じゃあ,用事が終わったらウチの出店を見ていってよ!

きっといろんな意味でびっくりするよ。」



レオンさんは少し考えた後,



「そうですね。後で寄ってみます。」



姫色「あと,テニスサークルでやっているカフェにも案内するよ。

とびきり可愛い女の子がたくさんいるよ。」



この言葉に少し戸惑いましたが,

断りにくい雰囲気だったので了承しました。



これがレオンさんと飛鳥井 姫色(あすかい ひいろ),

一 久遠(にのまえ くおん),七夕 紫織(たなばた しおり)たちと,

最初の出会いだったのです。



その後,レオンさんと彼女たちは距離を縮め仲良くなっていくのですが,

あくまでそれは闇組織JFの目から逃れるためのカモフラージュ・・・のはずです。



第426話 レッドな個体とブラックな個体
夏はカブトムシの季節です。



夏休みになればあちこちの森や神社で,

カブトムシの採集が行われていることでしょう。



愛知県北部にある三宮神社でも,

昆虫採集が行われていました。



メンバーの中心は当然,

少年昆虫団のリーダであるリク君です。



他のメンバーは昆虫採集よりも読書が好きなイツキ君,

昆虫採集は暑くて疲れるのでいつも早く帰りたがるだぬちゃん,

最近はおしゃれに夢中なまさらちゃん,

虫が苦手なトシ君の4人と一緒です。



あれ?少年昆虫団とは言っても,

張り切っているのはリク君だけのようです・・・。



今回は大人の付き添いも一緒です。



それも二人もいます。



一人は小早川レオンさんで,中野木大学の院生ですが,

その正体は公安警察の"菊水華"という部署に所属する人物です。



頭も良く,格闘技の腕も超一流で,

昆虫団からの信頼もとても厚いのです。



もう一人は灰庭健人(はいば けんと)さんです。



少年昆虫団がよく通っている,

「カブクワショップ・キング」でバイトをしている青年です。



彼はレオンさんの古い友人で,

闇組織JFに潜入捜査をしています。



組織では"グレイ"と呼ばれていますが,

レオンさんは"小東"と呼んでいます。



彼もレオンさんと同じ大学に所属しています。



このように彼は三つの名前を持つ,

ちょっと特殊な経歴の持ち主なのです。



神社の奥へ進んでいくとクヌギやコナラの木が,

たくさんある場所がありました。



「おっ!さっそく見つけたよ!」



リク君が樹液を吸っている,

カブトムシのオスを手で捕まえました。



「あれ?このカブトムシって体がちょっと赤いね。」



まさらちゃんが懐中電灯をカブトムシの体に当てて,

赤いカブトムシを確認しました。



「これはレッド個体だね。カブトムシやクワガタ虫は,

黒い個体と赤い個体が存在するんだ。」




「へぇ,そうなのか。こいつは珍しいの?」



イツキ君が質問しました。



灰庭「いや,どちらも自然界にも普通に存在する個体なんだよ。

だから特に珍しいってことはないかな。」



灰庭さんがレオンさんの代わりに答えてあげした。



彼もカブクワショップでバイトをしているので,

昆虫にはなかなか詳しいのです。



「あ,こっちの木にもいますよ。

こっちのカブトムシは黒いですね。」



だぬちゃんもカブトムシを発見しました。



ちなみにだぬちゃんは,

発見したからと言っても持ち帰ったりはしません。



もっぱら,持って帰るのはリク君の役目ですが,

採りすぎないように注意しながら採集を心がけています。



「赤でも黒でも白でもいいから早く帰ろうよ。

その木にハッチー先輩いるよぉ~!」



トシ君はハチが苦手なので先ほどから,

離れた位置から様子をうかがっていました。



「なんで赤や黒の個体がいるのかって言うと,

種の多様性のためなんだよね。」



灰庭「さすがリク君,詳しいね。

本当に君は小学二年生なのかい?」



彼が感心した声を上げると,



「ははは・・・。」



「絶滅しないための手段なんだよね。

赤い個体は朝や夕方に見つけにくい。

逆に黒い個体は夜に見つかりにくい。」



もしどちらかが見つけられて全滅しても,

もう片方が生き残れるように進化していったのです。



カブトムシも種の生き残りのために色々な工夫をしているようです。



今夜はとてもためになった昆虫採集になったようです。



第427話 二つの危険生物
今回のお話はだぬちゃんとトシ君に訪れる悲劇的な内容です。



少年昆虫団は夏休みに入ったので,

さっそく大牧山へ昆虫採集に行きました。



山の頂上まで登り,休憩をして,

後は下って入口まで戻るだけでした。



途中の木や電灯の下でカブトムシのオス5匹とメス3匹,

ノコギリクワガタオス2匹,コクワガタ♀2匹と上々の収穫でした。



ただし,全部持ち帰ってしまうと数が減ってしまうので,

それぞれの種類を1匹ずつ持って帰ることにしました。



「夏休み始まってから毎日だな・・・。

いい加減飽きないのか?」



イツキ君は昆虫採集が特に好きでもないので,

ちょっと飽きてきたようです。



しかし,彼の思惑とは裏腹に今後,

毎日ずっと昆虫採集をする日々を送ることになるとは,

まだ夢にも思っていませんでした。



「また来た道を戻ると思うと疲れるますねぇ・・・。」



だぬちゃんはちょっと腰をおろして休もうとしました。



その時です・・・。



彼のお尻に何かが噛みついていました。



「きゃあぁぁぁぁ!」



まさらちゃんが思わず叫び声をあげました。



みんながだぬちゃんに注目すると,蛇がかみつき,

まるでお尻から尻尾が生えているように見えました。





「だぬちゃん!じっとして!それはマムシだ!!」



だぬちゃんのお尻には,マムシが噛みついていたのです。



「うははは!そんなことあるんだっ!」



ここぞとばかりにトシ君がだぬちゃんのことを,

バカにして大笑いしています。



「笑っていないでとってくださいよ!」



どうやらだぬちゃんのズボンがたまたま少し大きめで,

余裕があったので,ズボンに噛みついただけで,

お尻は無事だったようです。



リク君は冷静にマムシの頭をつかみ,

牙をみんなに見せました。



すると,牙から透明な毒液が滴り落ちてきました。



「蛇の毒には出血毒と神経毒があって,

マムシは出血毒なんだ。」


「そっそうなんだ・・・。」



そんな解説よりも手に持っている蛇を早く逃がしてよ,

と心の中でつぶやきました。



「出血毒っていうのは体内に入ると体の細胞を破壊し出血を起こす。

場合によっては死にいたる危険な毒なんだ。」

「まぁ普段の行いが悪いと,

そういうことが起きるんだな。

いい教訓だ!」



トシ君はだぬちゃんが困っている姿を見て,

そう言いました。



リク君はマムシを少し離れた場所に,

そっとはなしてやりました。



「いや~,ホント死ぬかと思いました。」



だぬちゃんはまだ顔色がよくありません。



少し下山していくと,

大きなブナの木がありました。



トシ君がそのブナの木にもたれかかるようにして,

休憩を取ろうとすると・・・。



ブーン・・・。



何やら嫌な羽音が聞こえてきます。

思わず上を見上げてみると・・・。



そこにはブナの木に大きな空洞があり,

その中に蜂の巣がありました。



「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」



トシ君がこの世で最も苦手としているハッチー先輩の群れがそこにはいました。

そして彼らが大きな羽音と共に襲ってきたのです。



「やばいぞ!」



イツキ君のその声を合図にみんなは急いでその場を離れました。



「リク君の"大地の技"とかでなんとかならいの~!?」

「興奮したハチを刺激なんかしたら,

さらに被害が大きくなっちゃうよ!」



みんなは必死になって逃げ,

なんとか無事に下山できたようです。



「はぁはぁ・・・。

トシ君の普段の行いが悪いから,

こんなことになるんですよぉ・・・!」



だぬちゃんは先ほどのお返しと言わんばかりに,

そう言い放ちました。



「さっきのハチはキイロスズメバチだね。

野生動物の中で人間に対して最も大きな被害を出す生物だ。」


「そうなんだ・・・。」



トシ君はブルブルと震えて泡を吹いていました。



「日本では熊やサメで死ぬ人よりも,

あのハチに刺されて死ぬ人のほうが多いんだ。」


「オオスズメバチよりも刺される被害が多いのは意外だな。」



夏の昆虫採集は楽しいこともたくさんありますが,

危険な生物には十分気をつけましょう。



第428話 中野木公園夏祭りにて <前編>
今日は7月末日。



この日は中野木公園では,

地元の人たちによるお祭りが開かれていました。



公園の広場には祭り台が設置され,

その上で元気そうな若い衆たちが,

リズムよく太鼓をたたいていました。



木と木の間には提灯が吊るされ,

その下で金魚すくいや焼きトウモロコシなどの出店に,

人が集まってにぎわっていました。



少年昆虫団も全員揃って参加しているようで,

先ほどからみたらし団子を,

たらふく食べている人物はトシ君でした。



公園の一番はしっこに設置されていた,

トイレの裏にて何やら数名の人影が見えます。



どうやら一人の小学生が他の小学生たちにからまれているようです。



絡まれている少年は中野木小学校の3年生でした。

相手はなんと同じ学校のヤンキー5,6年生でした。



上級生1「ほら,さっさと出しなよ。

俺たちそこのクジ屋で全部あり金をつかっちまったんだよ。」

上級生2「しかも,景品は全部しょぼいものばかりでイライラしてんだ!」



彼らに因縁をつけられ,少年はすくみ上っていました。



手にはぎゅっと一生懸命貯めた,

お小遣いの入った財布を握りしめていました。



上級生3「持ってんじゃねぇか!出せよっ!」



絡んでいた3人のうちの一人が,

彼の手をつかんで財布を奪いました。



その時,上級生の肩に誰かの手が置かれ,

振り向いた瞬間・・・。



バゴッ!!



その人物は思いっきり上級生の右頬を殴りつけました。



上級生3「何するんだ!!誰だてめぇ・・・。」



そこまで言って,

そこに立っている人物の正体に気付きました。



上級生2「あんた・・・。

なんでこんなところに・・・。」



他の二人もそこに立っている人物のことを理解したようです。

すると後ろからさらに二人の人物が駆けつけてきました。



その人物たちとは・・・。



まどか「勝手な行動はしないように,

と言っているだろ!」



ポニーテールを揺らしながらさっそうと,

駆けつけたのは中野木小学校の生徒会長でした。





<6年1組 生徒会・会長 春野 まどか>



彼女と一緒に駆けつけたのは生徒会庶務のサイト君でした。



<5年3組 生徒会・庶務 秋田 才人(サイト)>



先ほど少年に絡んでいた上級生を殴ったのは,

生徒会副会長のハヤト君だったのです。



<6年1組 生徒会・副会長 冬山 隼人(ハヤト)>



ハヤト「こういうクズ野郎は見つけ次第,

駆除しなくちゃ駄目なんだよ!」



彼はいきり立っていました。



そしてなぜか頭に包帯を巻いた状態でした。



上級生2「なんで生徒会の方々がこんなところに・・・。」



先ほどまでの威勢のよさは全く見られず,

生徒会のメンバーに恐怖すら感じているようです。



まどか会長は庶務のサイト君に,

少年の安全を確保するように指示しました。



彼は指示を受けて,絡まれていた少年を,

人気の多いところまで連れ出すことにしました。



トイレの裏でおびえる三人のヤンキーたち・・・。



第429話~

2022/8/6

第428話 中野木公園夏祭りにて <中編>
ハヤト副会長は先ほど少年に絡んでいた,

ヤンキーの言葉をそのまま返しました。



ハヤト「なんでこんなところに?だって!?」



彼はドスのきいた声でそう言いました。



ハヤト「こういうお祭りで,

お前たちのような奴が悪さをしないか,

PTAの方々と一緒にパトロールをしているんだ!」



ヤンキーの一人が何か反論しようとしますが,

まどか会長に睨まれ,口を閉ざしました。



まどか「そこの貴方,いい判断です。

今,無駄に言い訳などしようものなら,

その首は私の蹴りで確実に吹き飛んでいましたよ。」



彼女は学校内では"氷の女王"と呼ばれていました。



彼女が放つセリフの一つ一つに威厳が漂っています。



上級生3「ひぃぃぃ・・・。」



「あ~~~~,トイレ,トイレ!!」



そこにトシ君がトイレにやってきました。



「調子に乗ってみたらし団子を,

100個も食べるからですよ!」



少年昆虫団も心配してついてきました。



「あれ?生徒会の連中じゃないか。

こんなところで何をやっているんだ?」



ハヤト「お前達には関係のないことだ!」



三日前,二人と生徒会のやり取りはありましたが,

彼らはそれ以前からの知り合いのようです。(第200話参照)



「出海(いずみ)ちゃんもいるのかな?」



まさらちゃんがあたりを見渡すと,



任務を終えて戻ってきたサイト君と,

出海ちゃんが一緒にやってきました。



出海「あれ?なんであんたらがこんなところにいるのよ。」



出海ちゃんはハヤト副会長の妹で小学三年生でした。





<3年1組 冬山 出海(いずみ)>



「あれ?三日前と容姿が違うような・・・。

だぬの目が疲れているんですかね。」





<だぬがみたはずの三日前の出海ちゃん>



「たまたま,ここで会っただけだよ。」



出海ちゃんは四日前,リク君とイツキ君をはめて,

カツアゲしようとしますが失敗に終わりました。



兄を利用して二人を懲らしめたつもりだったようですが・・・。



トシ君はまだトイレから出てきません。

ドアの前でだぬちゃんが半分呆れながら見守っていました。



ハヤト「おいまさか,

また出海に手を出そうと

しているんじゃないだろうなっ!」



彼は妹のことが好きすぎて,

すぐに勘違いをしてしまう性格のようです。



まどか「ハヤト!いい加減にしないか!」



「まったく何を勘違いしているんだか・・・。」



このやり取りを先ほどのヤンキー上級生三人が,

息をひそめて見ていました。



まどか「貴方たちはこの場から立ち去りなさい。

万が一同じようなことをしていたら・・・。」



彼女がギロッと睨みつけると・・・,



上級生「二度としませんっ!」



そう言うが早いか,

一目散にこの場から去っていきました。



第430話 中野木公園夏祭りにて <後編>
「なるほど・・・。

トイレの裏でからまれていた幼い少年を助け,

絡んでいた連中をお仕置きしてたってわけね。」



リク君は状況を全て理解していたようです。



まどか「(自分だって幼いじゃないか・・・。)」



サイト「ええ,そういうことです。

その子を無事に保護者のもとに送り届けた帰りに,

いずもちゃんに声をかけられたんです。」



出海「お兄ちゃん,こいつら気に入らないからぶっ飛ばして!」



出海ちゃんがとんでもないことを言い始めました。



ハヤト「よし!」



「(え?何がよしなの・・・?)」



だぬちゃんはトイレの中から,

そのやり取りを聞いて心の中で突っ込みました。



最上級生のハヤト副会長はいきなり,

イツキ君に容赦ないパンチを浴びせました。



しかし,イツキ君は軽くかわします。



「おいおい,本気でやる気か?」



次にお互いが右の拳を突きつけ,

正面からぶつかりました。



ドンッ!!!



二人の拳がぶつかる音が大きく響きました。



「まだ続けるのか?

“あいつ”にやられて病み上がりだろ?

せっかく一日で退院できたのに,

また病院に逆戻りだぜ。」



ハヤト「ちっ・・・!?」



ハヤト君は拳を下ろしました。



どうやら彼は昨日,

誰かにやられて,

1日だけ入院していたようです。



残りの生徒会執行部もその話題が出た時,

暗い表情をしていました。



まどか「三大悪童か・・・。」



その言葉に反応したのはだぬちゃんでした。



「もしかして,

三大悪童と知り合いなんですか!?」



だぬちゃんが生徒会執行部に聞いてみました。



サイト「知り合い?彼らと面識はありますが,

彼らは我々の敵です。」



いつもニコニコしているサイト君でしたが,

この話題になった時は真剣な表情をしていました。



まどか「三大悪童とは,

中野木小学校6年生である三人のことだ。」



「マザー,ファーザー,

そして“シーザー”・・・だね。」



リク君が話題に入ってきました。



ファーザーはファザーとも呼ばれているようですが,

リク君はファーザーと呼んでいました。





“シーザー”と名乗る人物も三大悪童に,

名を連ねているようです。



サイト「そう・・・,“君たち”もよくご存じのあの連中です。」



君たちとはリク君とイツキ君をさしていました。



この地区を牛耳っている人物たちこそ,

同じ小学生の三大悪童なのです。



まどか「おっと,もうこんな時間だ。

他の場所もパトロールしなくちゃ。

またな,少年昆虫団。」



まどかさんは時計を見て,そう言いました。



そして生徒会執行部は,

その場から去っていきました。



出海ちゃんは二人にベーっと舌を出して,

兄の後ろをついていきました。



イツキ君は先ほどぶつけ合った拳に,

少しだけ痛みを感じました。



「(あの野郎,それなりに努力しているな。

ただ,その程度で三大悪童対策はバッチリなのか?)」



それからしばらくしてトシ君がトイレから出てきました。



みんなはもうしばらくお祭りを楽しんだ後,

いつもの昆虫採集に向かいましたとさ。



第431話 稲川淳姫の怪談 9
今回も稲川先生の怪談噺はデジタル配信。

さてさてどんなお話なのでしょうか・・・。



皆さんは,地球上で人間を一番多く,

殺している生き物は何かご存知ですか?



そうです,人間です。



人間こそが戦争などによって人間を,

たくさんたくさん殺しているのです。



では,人間以外の生き物の中で,

人間を最も殺している生き物は何でしょうか。



正解は,蚊です。





蚊はマラリアなど様々な病気を媒介し,

多くの人を苦しめる昆虫なのです。



そんな蚊にまつわる都市伝説をお話しましょう。



とある国ではバイオ研究が盛んで,

様々な生物兵器や遺伝子工学の研究などを行っていました。



その国のある研究施設で作られた蚊は,

ただの蚊ではありませんでした。



恐ろしいことに未知の病原菌を保有したまま培養し,

生物兵器として利用するつもりでした。



しかし,研究と管理に失敗し,

その蚊が国中に広がってしまいました。



そして,多くの死者を出すことになりました。



一説によると,

ある時期に世界中でパンデミックを起こした,

“とある病気”もその“蚊”が原因だとか。



信じるか信じないかは君たちしだいだよ。



こうして稲川先生の怪談噺は終わりましたが,

すでにアクセススは激減して見ている児童はほとんどいませんでした。



しかし,イツキ君は暇つぶしにこの動画配信を見ていました。



「相変わらず,どこで仕入れてきたのか,

わかんないような情報を垂れ流すのが好きだなぁ。」



画面の前であきれ返っていました。



しかし,彼はこの後,今まで聞いた,

稲川淳姫先生の怪談噺に隠された,

“謎”を解くことになるのですが,

それはまた“別のお話”・・・。



第432話 カイリちゃんのお買い物デー

リク君の妹であるカイリちゃんは,

幼稚園の年中さんですが,

とてもしっかりした女の子でした。



ちなみに怪談噺やホラー番組が大好きな,

ちょっと変わった子でもあります。



それでも年頃の女の子と同じで,

お買い物も大好きです。



まさらちゃんとよく一緒に,

中野木商店街に行って楽しんでいます。



今日も二人で待ち合わせをしてショッピングのようです。



カイリちゃんがアーケード前で待っていると・・・。



「お待たせー!」



まさらちゃんがやってきました。



カイリ「あれ?その人たちは?」



まさらちゃんの後ろには,

レオンさんと灰庭さんが一緒でした。



「紹介するね!レオンさんと灰庭さん。

二人ともイケメンなの!」



イケメン好きのまさらちゃんは,

二人と一緒に買い物ができてうれしそうでした。



「何事かと思えば,

ショッピングにつき合わされるとは・・・。」



灰庭「まぁまぁ,いいじゃないですか。」



二人は深いつながりがあるのですが,

公の場では他人行儀に接することを徹底していました。



灰庭「こんにちは,カイリちゃん。

リク君の妹なんだってね。良く似ている。」

カイリ「リク兄のこと知っているの?ワク兄のことは?」



カイリちゃんが聞くと,



「ワク君は会ったことはないけど,

話題にはよく出てくるね。

サッカー好きの強気な少年だって聞いているよ。」



立ち話はほどほどにして,

商店街の中に入っていきました。



まず向かったのは花屋さんでした。



「かわいいね。お花が好きなんだね。」



カイリ「最近,枯れちゃって・・・。」



そう言いながら,

手に取ったのはナスの苗でした。



灰庭「え?そっち?園芸??」



カイリちゃんの趣味は家庭菜園でした。



カイリ「トマト,スイカ,メロン,

キュウリを育てていたんだけど,

メロンとスイカが枯れちゃって・・・。」



まさらちゃんはおうちに飾る,

花をいくつか見繕ってもらい購入しました。



そんな感じで,洋服屋やパン屋,

おもちゃ屋などを見てまわり,

気づけば夕方になっていました。



カイリ「レオンさんと灰庭さんが荷物を持ってくれたので,

たくさんお買い物ができました。」



カイリちゃんは喜んでいましたが,

二人は大量の荷物を持たされ動きづらそうでした。



灰庭「これも任務のうちか・・・?」



「ああ,そういうことにしておこう・・・。」



二人は周囲に聞こえないように,

ヒソヒソとしゃべりました。



「じゃあ,この後は,

夕ご飯食べたら昆虫採集があるみたいだから!」


「え?そうだっけ・・・?」



レオンさんはリク君の誘いを,

すっかり忘れていたようです。



カイリ「あたしはおうちに帰るね!

今日はありがとう!」



こうしてまさらちゃんとカイリちゃんの,

楽しいお買い物は終わりました。







過去の掲載順へ

TOPページへ