2025/4/5
第553話 新しいアミを求めて 覚醒の刻 シリーズ 第1章
少年昆虫団はかおるさんがバイトを務める
カフェ・オーシャンで昼食中でした。
しかし,なぜかかおるさんの姿が見当たりません。
混雑しすぎて,見つからないようでした。

「すごい人だねー。」
「早めに並んでおいてよかったですね。」
5人は一つのテーブル座席に座って,
この混雑状況を眺めていました。
「そろそろ来ないかな,
僕の頼んだカツ丼・・・。」
リク君の料理だけまだ
届いていませんでした。
「カフェでカツ丼を頼むのもどうなんだ・・・。」
イツキ君はリク君の隣で静かにパスタを食べていました。
???「大変長らくお待たせしましたー!」
威勢の良い声でやってきたのは
バイトの若い女性でした。
ネームプレートには「織部 あずき」と書かれていました。
「やっと,カツ丼を食べられるー!」
織部「ごゆっくりどうぞっ!」
ブロンド色のショートヘアの髪が特徴的な
瞳の大きな可愛らしい女性でした。
年齢はかおるさんよりと同じくらいに見えました。
彼女は注文票を確認すると
急ぎ早に厨房へ戻っていきました。
次のオーダーが入っているのでしょう。
「さっきまでしょぼんとしていた
人とは思えないテンションだね。」
トシ君が余計なチャチャを入れますが,
リク君は気にすることなく,
割り箸を割ってカツをほおばりました。
「あ,かおるさんがいた!」
どうやら遠くの方で働いている
かおるさんをみつけることができました。
しかし,人が多すぎて声を
かけることができません。
「さすがに忙しすぎて
声をかけるのは悪いですね。」
「そうだねー・・・。」
少年昆虫団は手短に食事を済ませ,
お店の外に出ました。
すると,向こうから見覚えのある車が
こちらへ向かってきました。
「あれはレオンさんの愛車ですね。」
だぬちゃんの予想通り,運転席から
レオンんが降りてきました。
「みんな,昼食はもうすんだかな?」
「うん!カフェオーシャンで食べてきたよ!」
レオンさんはみんなに車に乗るように促しました。
「急に席を外して悪かったね。」
車のハンドルを握りながら,謝りました。
助手席に座っていたリク君がたずねます。
「呼び出した相手は赤神さん?」
「いや,小東だ。」
小東とはレオンさんの友人で,何か事情があり,
闇組織JFに潜入しているスパイでした。
そして闇組織JFの中ではグレイという名で
準幹部まで任されるようになっていました。
時々,組織の情報をレオンさんに
流しているようです。
「ねぇねぇ,結局リク君の
アミって新しくしなくていいの?」
二人の会話に空気を読まずに入ってきました。
しかし,新しいアミが必要な
こともまた事実でした。
果たしてリク君はどうやって新しいアミを
入手するつもりなのでしょうか。
第554話 リク君の過去① 覚醒の刻 シリーズ 第1章
少年昆虫団を乗せた車は国道41号線を
まっすぐ北に走らせていました。

トシ君が新しいアミをどうするのか,と聞いてきます。
「実はそれについては
当てがあるんだよね。」
みんなは少し驚きました。
御前によって破壊されてしまった月読(ツクヨミ)の
代わりが存在するとは思わなかったようです。
そもそもあの特殊なアミが何なのか,
みんなが気になっていました。
「あのアミの代わりがあるっていうのか?」
「うん,たぶん・・・。」
少し自信のない返事でした。
「オイラも気になるな。
あのアミはいったいどうやって手に入れたんだい?」
レオンさんも興味があるようでした。
「かなり高度な技術によって作られた
モノだということはわかるが・・・。」
「あれは貰いものなんだ。」
リク君は普段から持ち歩いている
天照の柄の部分をぎゅっと握りしめました。
「少しだけ,昔話をするね。」
そう言って,リク君は天照と月読を
手に入れた経緯を語り始めました。
「僕が小学校1年生の時の夏休みに
父親と二人でキャンプに行ったんだ。」
「かいりちゃんたちは一緒じゃなかったの?」
まさらちゃんが聞くと,
「まだ二人とも小さかったからかな。
とにかく二人ででかけたんだ。」
と,答えました。
彼は話を続けます。
「でも,僕はそこで父親と
はぐれて遭難してしまったんだ・・・。」
みんなは初めて聞く事実に驚きを隠せませんでした。
「そんなことがあったなんて
初めて知りましたよ!」
「誰にも言っていなかったからね。」
レオンさんはハンドルを握りながら
黙って話を聞いていました。
「山で道に迷い,あちこちさまよっていた時に,
ある人に出会ったんだ。」
「山で迷ったら動き回るのは
よくないんじゃないの?」
トシ君は,そう言って後部座席で
お菓子をぼりぼりと食べていました。
「そのある人っていうのはどんな人だったんだ?」
真後ろに座っているイツキ君が声をかけてきました。
「年齢は50代半ばくらいのおじさんで,
無精ひげを生やしていて髪は
ぼさぼさな感じだったと思う。」
「その人の事をもっと詳しく教えてよ!」
リク君は頷きました。
「僕は山を歩き続けたら,ある施設にたどり着いたんだ。
そこにいたのがその人で,なんでもここで
秘密の研究を続けているって言ったんだ。」
みんなは話に聞き入っていました。
「でも他に所員もいなくて,
住んでいるのはその人だけ。
しかもその2階建ての研究室も
けっこうぼろぼろだったんだ。」
「すでに使われなくなった研究施設に
住み着いていたって可能性が高そうだな。」
リク君の話はまだまだ続くようです。
その間にもレオンさんが運転する車は
国道41号線を北へ北へと進んでいました。
第555話 リク君の過去② 覚醒の刻 シリーズ 第1章
リク君は小学校1年生の時に山で
遭難した時に出会った人の話をしていました。
「名前は教えてくれなかったから,
僕は"博士"って呼んでいたんだ。
常に白衣を着ていたし,いつも何かを
作っていたみたいだからね。」
博士と呼ばれる人物との出会いが,
どのように"天照"と"月読"の捕虫網に
つながっていくのでしょうか。
「最初はその人がすぐに救助を
要請してくれるかと思ったんだけど,
そこには外部との通信手段が一切ないらしく,
さらに山を下りて助けを求めに行くことも断られちゃったね。」
「なんだか,それって怪しくありません?」
と,だぬちゃん。
「でも,食事は出してくれたし,
助けが来るまで住んでもいいと言われたから,
悪い人じゃなかったよ。」
いよいよ話は核心部分にせまるようです。
「博士はある武器を発明していた
みたいなんだけど,その試作品を僕にくれたんだ。」
「なるほど。
それがあのアミってわけだね。」
レオンさんが口を開きました。
「元々はただの棒状の武器だったんだけど,
僕がお願いしてアミの部分を
取り付けられるようにしてもらったんだ。」

「山奥にこもって怪しい武器の研究?
その話は本当なのか・・・?」
トシ君が疑ってかかります。
「君にだけは疑われたくないな・・・。」
リク君が冷めた視線でトシ君を見つめます。
「さらにその武器を使った技をまとめた古い本があってね。
それを読ませてもらって,
独学であの技を学んだんだ。」
「その本も例の博士って人がもっていたの?」
と,まさらちゃん。
「詳しいことはわからないんだけど,そうみたいだよ。
本人は別に武術が得意ってわけ
じゃあないみたいだった。」
「つまり,遭難した後にそいつに出会って,
試作の武器をもらい,救助が来るまで
ひたすら一人で修行をしていたってわけか。」
冷静に話をまとめるイツキ君。
「まぁ,そんなところだよ!
正確には天照は試作品じゃないんだ。
でも完成品でもない・・・らしい。」
どうも歯切れが悪い言い方でした。
「天照はさらにバージョンアップ
できるって言っていた気がするんだ。」
「わかった!」
まさらちゃんが声を出しました。
隣で座っていたトシ君は耳を押さえます。
「試作品ってことは完成品が
他にもあるってことだよね!?」
「うん,そのはずなんだ。
だからそれを譲ってもらえれば・・・。」
少し間を置いてから,
「あの技もできるようになるはずなんだ・・・!」
と,言いました。
「あの技って・・・?他にも何かあるんですか?」
「実はそうなんだよ!ほら,僕がいつも使う技を覚えている?」
トシ君が,
「えっと,確か陸地なんたらとか青空なんとかでしょ?」
と,見当違いなことを言いますが,
「大地と大空だろ。」
さすがにイツキ君は間違えませんでした。
みんなは他の技に興味を示しました。
その内容とは・・・。
第556話 リク君の過去③ 覚醒の刻 シリーズ 第1章
リク君には,いつも使っている,
大地の技と大空の技以外にも
習得すべき技があるようです。
その技とは・・・。
「まぁ,それは実際に新しいアミを手に入れて,
試してみてからのお楽しみということで!」
「もったいつけておいて!
もしかしてホントはできないんじゃないの?」
と,少し半信半疑なトシ君。
「そうだね。実際に使ったことがないわけじゃないけど,
完成形は未使用なわけだし・・・。」
「トシ君!いじわるなことを言わないの!」
まさらちゃんがぷりぷりと怒っています。
「ふふんっ!」
まさらちゃんの言葉を気にすることもなく,
お菓子を食べ続けていました。
「・・・。」
「何か気になることでもあるのか?」
レオンさんの様子が気になるようでした。
「いや,子供が遭難してきたのに,
連絡もせずに,そんな場所に
籠っている人物って何者なんだろう。」
「ですよねー。
だぬもそれが気になっていました。」
レオンさんの疑問はもっともでした。
「あの時は,僕も小さかったし,
何も気にならなかったんだけど・・・。」
リク君の話をトシ君以外は真剣に聞いていました。
「今思えば,不可解なことだらけなんだ。」
と,リク君。
さらに続けます。
「何かにおびえ,逃げるように
人里離れた場所で研究をしていたのか・・・?」
イツキ君が,
「そもそもその施設は
本当に研究所だったのか・・・?」
と,疑問に思っていることを口に出します。
「武器?を作っていたの?
そんなことを個人でできるものなのかな?」
そんな会話を続けている間に,
レオンさんが運転する車は
県境を超えて,岐阜県に入りました。

さらに車を進め,国道から県道へ,
そして獣道のような狭い山道を登っていきます。
「本当にこんなところに
研究施設があるの?」
「むしろ,こんなところまで車で行けるなら,
助けを求めにいけたのでは?」
車に揺られながらそれぞれが感想を漏らします。
「いや,当時はこんなところまで
車が通れる道はなかったんだ。」
どうやら当時と今では環境が違うようです。
「たしか,車道に出るまで徒歩で
5時間以上かかったはず・・・。」
そして,とうとう車が入れる道の
限界地点までやってきました。
全員が荷物をもって車を降ります。
「ここからはハイキングだね。
日が暮れる前までには到着したいところだ。」
時刻は午後3時を回っていました。
「道案内は任せて。
あの場所の事はばっちり覚えているから!」
リク君が少し自慢げに言いました。
「さすがの記憶力ですね。
トシ君なら3秒で忘れますよ。」
「オイラはニワトリか!?」
そんなツッコミを入れつつ,
少年昆虫団の登山が始まりました。
第557話 謎の研究施設 覚醒の刻 シリーズ 第1章
新しいアミがあるかもしれない,
謎の研究施設に向けて
少年昆虫団は山道を登っていきます。
その道中の会話にて・・・。
「そういえば,君たちと合流する
前に久遠と紫織にばったり会ってね・・・。」
「すでにテンションが低いですね・・・。」
あの子のテンションの高さについていけなかったのでしょうか。
「久遠がレポートの提出も終わって暇だから,
遊んでくれ,遊んでくれとしつこくてね・・・。」
「モテる男って辛いよねー!
うちの男子軍団も見習ってほしいくらい!」
グサッ!!
まさらちゃんの言葉にはとげがありました。
「いやいや!たまったもんじゃないよ!
なんとか,この後はみんなとキャンプが
あるからって断ったんだから。」
「公安最強のレオンさんでも
あの娘には勝てないんだな。」
彼はレオンさんの隣を歩きながら,そう言いました。
「いや,別にオイラは最強なんかではないし,
そもそもこれに関しては勝ち負けじゃないでしょ!」
どうやら相当参っているようでした。
「“じゃあついてくる”って言って聞かないから,
なんとか今度おいしいスイーツを
おごることで手を引いてもらったよ・・・。」
すると,トシ君がどうでもいいことを聞きます。
「それって経費で落ちるの?」
「落ちるわけない・・・。」
もはやテンションが地の果てまでも落ちていました。
道もないような中をひたすら進み,
ようやく目の前に大きな研究施設が見えてきました。
「あれですかー!
かなり大きいですねぇ!」
そこには3階建てのコンクリート製の
無機質な建物がありました。

「思っていたより,
数倍デカイな!」
トシ君が上を見上げながら,つぶやきました。
「リク・・・。」
「うん?」
リク君がイツキ君を見ます。
「お前が昔ここで出会った
人物ってもしかして・・・。」
「うん。」
リク君は頷いた後,
「もちろん,当時はそんなことを
知る由もなかったけど。」
と,言いました。
「どういうことですか?」
だぬちゃんが聞きます。
「おそらく,博士は闇組織“JF”の人間だ。
もしくはだった。」
まさらちゃんたちは当然のように驚きました。
しかし,イツキ君やレオンさんには
なんとなく見当がついていたようでした。
「それしかないだろうな。」
「逆に,そうであるなら
その時の状況も納得がいくね。」
全員が研究施設の閉じられた
入り口前に集まっていました。
リク君は自分が考えていたことを話し始めました。
第558話 研究施設内へ 覚醒の刻 シリーズ 第1章
みんなは入り口前の3段ほどある階段に座って,
リク君の話を聞き始めました。
「彼が組織から逃げ出した人間なら,
僕がここに迷い込んだのに外部との接触を拒み,
救援を要請してくれなかった説明もつく。」
リク君はさらに続けます。
「おそらく,何らかの理由で組織から追われ,
元々使われていなかったこの組織の
研究施設に身をかくしたんじゃないかな?」
まさらちゃんが,
「でも,それって危なくない?
真っ先に探されそうだけど・・・。」
と,言うと,レオンさんが,
「まぁ,灯台下暗しとも言うしね。
奴らもまさかこんなところに
隠れているとは思わなかったんだろう。」
と,リク君が言おうとしたことを
代わりに言ってくれました。
「でも,見たところ,すでに
人が住んでいる気配はないですよ?」
ところどころ,壁は剥がれ落ち,
元々割れていたガラスはさらに広がって,
室内へ温かい風を送り込みます。
おそらく室温は40度を
超えているのではないかと思われます。
「つまり,リクと別れたのち,
JFの追手がここまでやってきて,
捕まったか,殺されたか・・・。」
リク君の表情が険しくなりました。
「実は,救助されてから,
しばらくして,もう一度ここを訪ねたんだ。
父親と一緒にね。その時にはもう,
誰もいなかった・・・。」
どうやら,リク君はもう一度ここへ来ていたようです。
「当時はなぜいなくなってしまったのか,
全くわからなかったけど・・・。」
「奴らが関わっていると
知った今なら・・・,ってことだな。」
みんなは誰もいないであろう,
使われなくなった何かの
研究施設の前で佇んでいました。
「ああ,おなかすいたぁ!
おかし食べよっと!」
彼はリュックからスナック菓子と
オレンジジュースを取り出しました。
「中に入らないんですか?」
「これを食べたら行くよ。」

みんなはトシ君を入り口に残して,
施設の中に入ることにしました。
中に入ると,猛烈な暑さと
不快な湿度が襲ってきます。
「うへぇ・・・。
暑すぎる・・・。」
「日がだいぶ落ちてきたとはいえ,まだまだ暑いな。
これは相当な年数,換気をしていなかったんだろう。」
レオンさんは一番後ろをついていきます。
「たしか,アレが置いてあるのは
地下の部屋だったはずなんだ。」
リク君は昔の記憶を頼りに,廊下をすすんでいきます。
「俺は,別行動をする。」
イツキ君が突然,そんなことを口にしました。
「かなり,広い施設だからな。
手分けして色々と探って
おくのも悪くないと思うんだ。」
「確かにそうだね。
じゃあ,何か変わったものを
見つけたら,イヤコムで連絡を。」
イツキ君は指2本で了解の合図をすると,
反対方向へと消えていきました。
「じゃあ,僕たちは
このまま地下室へ行こうか。」
中は非常に広く入り組んでいました。
まるで侵入者が簡単に重要な施設に
たどり着けないようにするために思えました。
リク君の足が止まりました。
そして・・・。