2022/12/24
第445話 真夏のサンタクロース8
子どもたちの間でまことしやかにささやかれる,
真夏のサンタクロース伝説をご存知でしょうか。
この人物は,全身を真っ黒な衣装で身にまとい,
手にはナタを持ち,
子どもを見つけては袋に詰めて殺し,
その亡骸を家族のもとへ送りつける,
と言うサイコパスな殺人鬼です。
この人物の素性を探るために,
リク君たち少年昆虫団は捜査に乗り出します。
そして西緑地公園でそれらしき人物が,
女性を襲おうとしている現場を目撃し,
これを食い止めます。
駆け付けた警官にも取り囲まれ,
逃げられないと悟ったのか,
持っていた凶器で胸を刺して死んでしまいました。
公園ではまだ現場検証が続いています。
時刻は夜の11時を過ぎました。
「ねぇ,今日はもう,
お家に帰らない!?怖いよっ!!!」
まさらちゃんがリク君の袖を引っ張りました。
「そうだね。警察に必要なことは話したし,
後は赤神さんたちがうまくやってくれるだろう。」
「それにしても不気味な奴だった・・・。
さっき遺体をちらっと見たが,
突き刺さった凶器から出た血で,
服の色か血の色か分からないくらい赤かったぜ。」
イツキ君がそう言うと,
「ちょっと,怖いこと言わないでよ!」
トシ君が後ろでビビっていました。
「あの男は間違いなく,
30年前に大量殺人を犯した,
三田(さんた)クリスですよ。」
だぬちゃんが確信した顔で言うと,
「さっき,レオンさんが言ってたじゃない。
あいつは,大陸の革命家だって。三田じゃない。」
リク君がだぬちゃんの意見を否定しました。
「そうですかねぇ・・・。」
彼はリク君にそう言われても,
まだ納得していないようでした。
「とにかく,帰ろ!
ねっ,帰りましょ!」
まさらちゃんがもう一度念を押してきたので,
この日はこれで解散することになりました。
翌日,リク君はレオンさんに,
昨日の事件の調査経過を聞くために,
イヤコムで連絡を取りました。
「昨日は大変だったね。」
と,ねぎらいの言葉をかけました。
「それより,分かったことを教えてよ。」
リク君は真夏のサンタの素性がかなり気になるようです。
「まず,あの場で自決した男についてだけど,
名前はナーグゥー・モーリィ。大陸国の人間だ。
過激テロ組織"日堕つる国"の幹部で,
国際指名手配されていた。」
「たしか三兄弟の一人って・・・。」
レオンさんは話を続けます。
「うん,そうなんだ。
三人とも同じ組織に所属していた経歴がある。
ただ,残り二人の素性に関してはほぼ不明。」
どうやら組織を脱退した人物から過去に聞き出した情報で,
モーリィに兄弟がいたことまでは分かっているのですが,
それがどんな人物なのかまでは,
当局が聞き出せなかったようです。
リク君はレオンさんとの話を終え,
頭の中を整理するために,ベッドで横になりました。
「(なんでテロ組織のメンバーがわざわざ日本に来て,
サンタの恰好なんてして,無差別殺人をする必要がある?
しかも,ちょっと追いつめられたからといって,
自らの命を絶つなんてありえるか・・・?)」
考えれば考えるほど謎が深まるばかりです・・・。
しかし,そう遠くない未来,
この事件のとんでもない真相が,
明らかになっていくのです。
その真相とは・・・。
第446話 カイリのかいかい怪奇譚 前編 シーズン2
カイリちゃんはまさらちゃん,
イツキ君と共に怪傑怪奇団を結成し,
様々な怪奇現象を検証することにしました。
もちろんイツキ君は乗り気ではなかったのですが,
灰庭さんから話を聞いたレオンさんに勧められ,
しぶしぶメンバーに入ることにしたのです。
団員の活動場所はカブクワキングの控室でした。
キングの伊藤店長が快く貸してくれたようです。
どうやら灰庭さんに貸しを作り,
まりんちゃんに良いところを見せたかったのでしょう。
怪奇現象といえば,
稲姫先生の怪談噺を取り上げるのが,
手っ取り早いという意見に全員が賛成しました。
今回も稲姫先生のHPを開いて検討することにしました。
*今回からカイリちゃんのセリフはこの色になります。
「どのお噺を調べてみる?」
「うーん,どうせやるなら終業式の前日の百物語は?」(第45話参照)
怖い話を1つするたびにろうそくを消し,
全部消えると例海への道が開くと言う有名なアレです。
しかし,HPには一つ一つの詳しい話は乗っておらず,
タイトルも「百物語」とだけありました。
「これじゃあ調べようがないな。
別の日に話した内容にするか?」
「でもこの日ってなんかリク君が変なことを言ってなかった?」
後ろで聞いていた灰庭さんが,
灰庭「へぇ,気になるね。
どんなことを言っていたの?」
と,聞いてきました。
「たしか,"正しい情報を見極める能力"とか・・・。」
「リク兄に真意をきいてみよっか。」
カイリちゃんがイヤコムを手に取ると,
「いや,それじゃ面白くないだろう。
俺達の力でこの噺に隠された真実を導こう。」
と言い,
イツキ君が少しやる気を出してきたようです。
灰庭「リク君は他に何か言っていた?」
「たしか,"稲姫はみんなが誤った情報に惑わされることなく,
適切な行動ができるようになって欲しいからあの話をした"って。」
怪傑団のみんなは考え込みました。
小部屋の真ん中に置かれた,
木製机の上にノートPCがあり,
その机を囲むようにして,
4人が座っていました。
灰庭さんもバイトを終えて,
話し合いに参加するようです。
「何度思い出しても,
あの百物語のどれかに,
重要な話があったとは思えない。
というかほぼ寝てたからわからん。」
「うーん,じゃあこの百物語に,
隠された真実はないのかなぁ。」
カイリちゃんが頭をひねりました。
果たしてリク君がした発言の真意とは―・・・。
第447話 カイリのかいかい怪奇譚 後編 シーズン2
カブクワキングの一室で,
カイリちゃん,イツキ君,
まさらちゃん,灰庭さんの四人が,
頭を悩ませていました。
「やっぱりリク君の言葉が気になるよねぇ・・・。」
みんなはとりあえず,
百物語の詳細について,
ネットで調べてみることにしました。
灰庭「百物語の起源は古く室町時代からあるみたい。
江戸時代にブームが起き,
1話かたり終えたらろうそくの灯を消す。」
他にも色々な形式があるらしいが,
おおむね共通するのは,
百話を語り終えると本物の物の怪が,
現れると言われていることでしょう。
よって百物語を行う時は,
99話でやめて夜明けを待つのが,
良いとされているのです。
「へぇ・・・。
百物語って結構,
奥が深いんだ・・・。」
灰庭さんがイツキ君を見ました。
灰庭「何か気付くことはあるかい?」
「うーん・・・。」
イツキ君も返答に困っていました。
「たしかあの時リクは,
百物語が全部終わった後に,
含みのある言葉を発したんだよな・・・。」
そこまでイツキ君が言った時に,
「もしかしたら・・・。」
カイリちゃんはもう一度,
稲姫先生のHPと百物語について,
まとめてあったサイトを見直しました。
「わかった!」
カイリちゃんが何かひらめいたようです。
「この謎の真実,いただきました!」
「え!?カイリちゃんすごい!」
灰庭さんも珍しく驚いた顔をしていました。
「お前が見つけた真実を聞かせてくれ。」
イツキ君が冷静に言いました。
「うん,いいよ。」
カイリちゃんが一呼吸おいて続けます。
「そもそも百物語っていうのは,
99話で止めなくちゃいけないの。
さらに,本来は大人数で分担して噺を進める仕組み。」
さらに彼女が説明を続けます。
「なのに,稲姫先生は自分一人で進め,
さらに百話まで到達した。」
<HPに載っている稲姫先生のプロフィール画像>
「ああ,俺もおかしいと思っていた。」
イツキ君も同意見でした。
「つまり,稲姫先生はみんなをためしていたの。
そのことに気づくかどうか。
唯一リク兄だけが気づいて指摘したってことじゃないかな。」
「そっか,だからあんなことを言ったんだ!」
またしてもカイリちゃんが,
稲姫先生の怪談噺に隠された謎を,
解き明かしたようです。
しかし,なぜか灰庭さんだけは,
納得がいっていないような顔をしていました。
こうしてこの時の集まりはお開きとなりました。
しかしこの後も,
カイリちゃんの謎解きは,
まだまだ続く夏休みになりそうです。
第448話 禁断の森
岐阜県のとある地方には,
禁断の森と呼ばれる場所がありました。
今回はその森で訪れる出来事のお話です・・・。
森の入口には「この先,進む人は自己責任で!」
という看板が立てられていました。
「禁断の森というが,
特に立ち入り禁止の場所ってわけでもないのか。」
「でも,絶対ヤバい場所だよ!
なんでこんなところに行くのさ!?」
トシ君の悲痛な叫び声は,
「そこにカブクワがいるからさ!」
という,
たった一言によってかき消されました。
「君たちはいろいろと面白い場所を,
よく見つけてくるもんだ。」
レオンさんが感心していました。
「一応,何か良い物が撮れるかもしれないので,
デジカメを持ってきましたよ。」
だぬちゃんの首には,
一世代前のデジカメが下げられていました。
少年昆虫団は会話もそこそこにして,
森の中へとはいって行きました。
「なんかいつも行く昆虫採集の場所よりも,
不気味な感じがするよぉ!」
まさらちゃんはレオンさんにくっついて離れませんでした。
「そう?いつもと同じだけど。」
リク君にはカブクワが採れれば,
そこがどんな場所だとうと気にしないようです。
「そももそもなんで,
禁断の森なんていう名前が付いているんですか?」
だぬちゃんが質問すると,
「なんでも恐ろしい生物がいて,
危険なんだってさ。」
と,イツキ君が答えました。
「恐ろしい虫っていうと,
やっぱりハッチー先輩だよ!」
「いやいや,ムカデだって危ないですよ。」
だぬちゃんが隣から話しかけました。
その間にリク君は,
先頭をどんどんと進んで行きました。
懐中電灯は全員が持っていましたが,
月明かりも届かないような深い森だったので,
いつもより暗く感じられました。
「でも,禁断の森ってことはその分,
人気も少ないわけだからカブクワも沢山いるかもね。」
「たしかに。それはそうなのかも・・・。」
でもまさらちゃんは怖くて,
それどころじゃありませんでした。
その時,前を歩いていたトシ君が何かにつまづき,
転んでしまいました。
「いってぇ・・・。
なんか枝のようなものに引っ掛かった・・・。」
トシ君が足元を見てみると,
それは枝ではありませんでした。
「うっぎゃぁぁぁぁ!!」
ソレを見た時,
彼は思わず大声を上げてしまいました。
「なんだ!?」
イツキ君とリク君は前を歩いていましたが,
振り返ってトシ君のもとへ駆けつけました。
「こっこれは!?」
「マムシだね!」
そこには体長50センチほどの蛇がいました。
種類は猛毒を持つマムシという名前です。
そして,あたりを見渡すと,
草陰を何かが這っていくような音が聞こえます。
「きゃぁぁ!」
まさらちゃんもトシ君と同様に悲鳴を上げます。
「もしかして,
他にもたくさんいるんじゃないですかね!?」
だぬちゃんの予想は当たっていました。
彼らを取り囲むように,
多数のマムシが地面を這っていました。
「リク君・・・。」
「ああ・・・みんな,
撤退(てったい)だ!!」
全員が全速力で森を駆け抜け,
入口まで戻ってきました。
「みんな,無事みたいだな。
特にかまれたりしていないな。」
全員どこも異常はありませんでした。
「良かった,良かった。」
「よくないですよ!
デジカメ落としちゃいました!」
なんと,だぬちゃんの首にかけてあった,
ベルト付きのデジカメが見当たりません。
「もう一回森の中に入る・・・?」
「・・・。」
こうして禁断の森の昆虫採集は,
だぬちゃんのカメラが被害に会う,
という結果に終わりました。
危険な場所へ昆虫採集へ行く時はくれぐれもご注意を。