目次
カイリのかいかい怪奇譚
カイリのかいかい怪奇譚 前編
リク君の妹であるカイリちゃんはショッピングが大好きなのですが,
怖いお話も好きというちょっとかわった趣味を持っていました。
今日はまさらちゃんと一緒に中野木図書館に来ていました。
「夏休みも後半だけど,何か楽しいことないかなぁ。」
まさらちゃんが話しかけると,
カイリ「それなら怪談話でも聞くのはどうかな?
きっと楽しいよ!」
「そういえば,怖い系の話が好きだったね・・・。」
まさらちゃんは怖い話が苦手だったので,
カイリちゃんのことをすごいと思っていました。
「図書館では静かにな。」
本棚の近くで二人が会話をしていると,
イツキ君が声をかけてきました。
「あ,来ていたんだ。」
「昆虫採集がない時はだいたいここにいるか,
レオンさんと修行しているんだよ。」
イツキ君の後ろから,
灰庭さんが顔を出しました。
灰庭「今日はボクも一緒なんだ。」
灰庭さんは地元の図書館に興味があったようで,
イツキ君についてきたようです。
「カイリちゃん,おすすめはあまりしないけど・・・。
怖い話が好きなら稲姫先生の怪談噺を聞いてみたら?」
カイリ「面白そう!」
カイリちゃんはすぐに興味を示しました。
「それなら稲姫先生のHPに,
今までの怪談話が全部アップされているぞ。」
灰庭「へぇ,面白い先生もいるんだね。」
彼も一緒に聞くことにしました。
灰庭さんが持っていたタブレットを使って,
稲姫先生のHPを開きました。
そのHPはトップページに真っ黒な画面で,
中央に稲姫先生がろうそくを1本持ち,
意味深な顔をしてこちらを見つめているようなものでした。
その様子からとてつもなくおどろおどろしい,
雰囲気が伝わってきました。
「あいかわらず趣味が悪いぜ・・・。」
イツキ君はあきれ返っていました。
みんなはワイヤレスヘッドホンを借りてきて装着しました。
「とりあえず,一学期の最初の学年集会で,
聞いた話を再生してみよっか。」
そのお話は"稲川淳姫の怪談3"の内容でした。
詳細はこちらから読むことができますが,
概要は心霊スポットである山神トンネルで,
訪れた車に真っ赤な手形がつくが,
あわてて逃げて後から確認すると,
その手形はどこにもなかったというお話です。
このお話を聞いた後,
カイリちゃんはある事を提案します。
そのある事とは・・・。
カイリのかいかい怪奇譚 中編
カイリちゃんは怪談が起きた現場に,
実際に行ってみたいと言い出しました。
まさらちゃんは反対しましたが,
どうしても行きたいと言うので,
しぶしぶついていくことにしました。
車は灰庭さんが出してくれることになりました。
怪談噺に出てきたトンネルは愛知県内の,
某所にある旧国道沿いのトンネルでした。
そのトンネルは心霊スポットとして有名なだけあり,
なんとも言えぬ気味の悪さを放っていました。
古いトンネルなので証明も少なく,
薄暗いオレンジの光でかろうじて奥が見えるようでした。
灰庭さんはトンネルの外のわき道に車を停止させました。
「もう帰ろうよぉ!怖いよぉ!」
時刻はまだ夕方でしたが,
まさらちゃんは怖がって車から出ようとしません。
近くで流れる川の音がざぁざぁと聞こえました。
「さて,来たはいいけどこれからどうするもりだ?」
イツキ君はカイリちゃんに聞きました。
カイリ「とりあえず降りてトンネルの中を見てみたい!」
カイリちゃんはドキドキしながらも楽しそうにしていました。
まさらちゃんとは対照的な様子です。
灰庭「こんなところがあったんだねぇ・・・。」
彼はトンネルを外から眺めていました。
まさらちゃんが車のボンネットに手をついて,
落ち込んでいました。
どうやらついてきたことを,
深く後悔しているようでした。
灰庭「じゃあ,あのお話と同じように,
車でトンネルの途中までいってみようか。」
全員が再び車に乗り込み,
トンネルの中央付近まで向かいました。
その時,何か不気味な音が聞こえてきました。
そこで中央付近まで来たところで車を停止させました。
本来であればトンネル内は駐停車禁止ですが,
万が一音の原因が車から出ていては危険なので,
灰庭さんは必要な手順を踏んで止む得ず,
緊急停車させた,という事にしました。
ただ,不気味な音は車内からではないようでした。
そして,車のボンネットを見てみると,
そこには二つの手あとがついていました。
トンネルが暗くてよく見えませんが,
血でつけたような色にも見えました。
「きゃあぁぁ!」
まさらちゃんが大声をあげて車に乗り込みました。
カイリ「灰庭さん,すぐに車を出してください!」
カイリちゃんに言われ,
全員が車に乗り込み,
その場を離れました。
そして,近くのコンビニに車を止め,
もう一度ボンネットを確認してみると・・・。
「うそ!手あとがない!
確かにトンネルの中では見えたのに!」
「おいおい,まさか本当に心霊現象に,
遭遇したってか!?そんなバカなことあるか。」
イツキ君は半信半疑でした。
本当にこれは心霊現象なのでしょうか。
カイリのかいかい怪奇譚 後編
カイリちゃんは,
車のボンネットをじっと見つめ,
何かを考えていました。
灰庭さんはその様子を少し遠くで見守っていました。
「ねぇ!もう帰ろうよ!
あのトンネルはホントの心霊スポットだよ!
真っ暗な中にトンネルの黄色い光がぶきみだよぉ・・・!」
カイリ「え!?」
さらに集中して何かを考えているようでした。
カイリ「そっか!」
急に大声を出しました。
「どうした?」
カイリ「この謎の真実,いただきました!」
元気に決め台詞を叫びました。
灰庭「何かひらめいたみたいだね。
じゃあもう一度,現場に行ってみようか。」
まさらちゃんだけは,嫌がりましたが,
このコンビニに置いていかれるのも嫌だったので,
しぶしぶついて行きました。
トンネルに入ると不気味な唸り声のようなものが響き渡っています。
先ほどと同じ場所に車を止めて,
全員が外に出ました。
「いやぁぁ!この声は死者の叫び声よぉ!!」
カイリ「違うよ。これは川の流れる音!」
カイリちゃんがトンネルの出口を指さしました。
「なるほど。たしかにすぐ近くを川が通っていた。」
灰庭「その音がトンネル内で反響して,
この不気味な音をだしているんだね。」
灰庭さんは少しもこわがる様子もなく,
そう言いました。
「じゃ,じゃああれは何・・・!?」
まさらちゃんが指さす方向には先ほどと同じように,
ボンネットに手形が張り付いているように見えました。
カイリちゃんはまさらちゃんの手を取ると,
手のひらをその手形に重ねようとしました。
「ちょっ!何をしようとしてるのよぉ!」
嫌がるまさらちゃんを半ば強引に引っ張り,
手形に重ねました。
カイリ「これが真実よ。」
その手形はまさらちゃんの手の形と完全に一致していました。
「どっどういうこと!?」
カイリ「これは,少し前にまさらちゃんがつけた手の跡なの。
それがこの低圧ナトリウムランプに照らされて,浮き出て見えただけ。」
低圧ナトリウムランプとはトンネル内で使われる,
黄色い光を放つランプのことです。
トンネル内では走行中の安全のため,
色よりも距離感を大事にします。
そのため,排ガスが多くても,
距離感がつかみやすい,
黄色のランプが多く使われていました。
新しく作られた現在のトンネルでは,
排ガス規制や照明技術の発達とともに,
白色のランプが使われるようになっています。
「たしかに,よく見れば,
これは血の色でもなんでもないな。
ランプのせいで周囲が暗い黄色に見えるから,
まるで手跡がういてみえたのか。」
イツキ君はボンネットに浮き出て見える手形をまじまじと見ました。
「そう言えば,稲姫先生の怪談噺でも,
親戚の子が車のボンネットを,
触っていたっていう描写があった・・・!」
灰庭「おそらくその子の手跡だろう。」
こうして稲姫先生の怪談噺の裏に隠された真相が,
解き明かされたのでした。
しかし,カイリちゃんたちは,
他の怪談噺にも同じような謎を見つけることになるのです。
そして,この謎を追っていくうちに,
彼女たちは衝撃の真実を知ることになるのでした。
カイリのかいかい怪奇譚 前編 シーズン2
カイリちゃんはまさらちゃん,
イツキ君と共に怪傑怪奇団を結成し,
様々な怪奇現象を検証することにしました。
もちろんイツキ君は乗り気ではなかったのですが,
灰庭さんから話を聞いたレオンさんに勧められ,
しぶしぶメンバーに入ることにしたのです。
団員の活動場所はカブクワキングの控室でした。
キングの伊藤店長が快く貸してくれたようです。
どうやら灰庭さんに貸しを作り,
まりんちゃんに良いところを見せたかったのでしょう。
怪奇現象といえば,
稲姫先生の怪談噺を取り上げるのが,
手っ取り早いという意見に全員が賛成しました。
今回も稲姫先生のHPを開いて検討することにしました。
*今回からカイリちゃんのセリフはこの色になります。
「どのお噺を調べてみる?」
「うーん,どうせやるなら終業式の前日の百物語は?」(第45話参照)
怖い話を1つするたびにろうそくを消し,
全部消えると例海への道が開くと言う有名なアレです。
しかし,HPには一つ一つの詳しい話は乗っておらず,
タイトルも「百物語」とだけありました。
「これじゃあ調べようがないな。
別の日に話した内容にするか?」
「でもこの日ってなんかリク君が変なことを言ってなかった?」
後ろで聞いていた灰庭さんが,
灰庭「へぇ,気になるね。
どんなことを言っていたの?」
と,聞いてきました。
「たしか,"正しい情報を見極める能力"とか・・・。」
「リク兄に真意をきいてみよっか。」
カイリちゃんがイヤコムを手に取ると,
「いや,それじゃ面白くないだろう。
俺達の力でこの噺に隠された真実を導こう。」
と言い,
イツキ君が少しやる気を出してきたようです。
灰庭「リク君は他に何か言っていた?」
「たしか,"稲姫はみんなが誤った情報に惑わされることなく,
適切な行動ができるようになって欲しいからあの話をした"って。」
怪傑団のみんなは考え込みました。
小部屋の真ん中に置かれた,
木製机の上にノートPCがあり,
その机を囲むようにして,
4人が座っていました。
灰庭さんもバイトを終えて,
話し合いに参加するようです。
「何度思い出しても,
あの百物語のどれかに,
重要な話があったとは思えない。
というかほぼ寝てたからわからん。」
「うーん,じゃあこの百物語に,
隠された真実はないのかなぁ。」
カイリちゃんが頭をひねりました。
果たしてリク君がした発言の真意とは―・・・。
カイリのかいかい怪奇譚 後編 シーズン2
カブクワキングの一室で,
カイリちゃん,イツキ君,
まさらちゃん,灰庭さんの四人が,
頭を悩ませていました。
「やっぱりリク君の言葉が気になるよねぇ・・・。」
みんなはとりあえず,
百物語の詳細について,
ネットで調べてみることにしました。
灰庭「百物語の起源は古く室町時代からあるみたい。
江戸時代にブームが起き,
1話かたり終えたらろうそくの灯を消す。」
他にも色々な形式があるらしいが,
おおむね共通するのは,
百話を語り終えると本物の物の怪が,
現れると言われていることでしょう。
よって百物語を行う時は,
99話でやめて夜明けを待つのが,
良いとされているのです。
「へぇ・・・。
百物語って結構,
奥が深いんだ・・・。」
灰庭さんがイツキ君を見ました。
灰庭「何か気付くことはあるかい?」
「うーん・・・。」
イツキ君も返答に困っていました。
「たしかあの時リクは,
百物語が全部終わった後に,
含みのある言葉を発したんだよな・・・。」
そこまでイツキ君が言った時に,
「もしかしたら・・・。」
カイリちゃんはもう一度,
稲姫先生のHPと百物語について,
まとめてあったサイトを見直しました。
「わかった!」
カイリちゃんが何かひらめいたようです。
「この謎の真実,いただきました!」
「え!?カイリちゃんすごい!」
灰庭さんも珍しく驚いた顔をしていました。
「お前が見つけた真実を聞かせてくれ。」
イツキ君が冷静に言いました。
「うん,いいよ。」
カイリちゃんが一呼吸おいて続けます。
「そもそも百物語っていうのは,
99話で止めなくちゃいけないの。
さらに,本来は大人数で分担して噺を進める仕組み。」
さらに彼女が説明を続けます。
「なのに,稲姫先生は自分一人で進め,
さらに百話まで到達した。」
<HPに載っている稲姫先生のプロフィール画像>
「ああ,俺もおかしいと思っていた。」
イツキ君も同意見でした。
「つまり,稲姫先生はみんなをためしていたの。
そのことに気づくかどうか。
唯一リク兄だけが気づいて指摘したってことじゃないかな。」
「そっか,だからあんなことを言ったんだ!」
またしてもカイリちゃんが,
稲姫先生の怪談噺に隠された謎を,
解き明かしたようです。
しかし,なぜか灰庭さんだけは,
納得がいっていないような顔をしていました。
こうしてこの時の集まりはお開きとなりました。
しかしこの後も,
カイリちゃんの謎解きは,
まだまだ続く夏休みになりそうです。