リクの少年昆虫記-過去のお話-

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目次


第177話~第180話

2017/4/4

第177話 動き出した者たち

 菊の華シリーズ 序章
栄のとある場所に闇組織ジャファ専用のバーがあります。



名前はリ・セ・ッシュ。



以前,レオンさんが影(シャドー)につけた盗聴器により

場所を特定されることを恐れたため,

名前はそのままで栄の別の場所に

新規オープンさせたお店なのです。



店のカウンターには闇組織ジャファの幹部,

山本が一人でバーボンを飲んでいました。







その足元にはなぜか,二人の大柄の男が生気を

無くした顔で倒れています。



どうやらすでに死んでいるようです。



しばらくすると,二人の男が店に入ってきました。



山本の部下である,南雲と古賀でした。



山本「遅せぇ。」



南雲「すみません。例の件,ちょっと

手こずっていまして・・・。」



南雲と古賀は頭を下げて謝りました。



古賀「それで,先ほど言っていた件というのは,

ここで倒れている二人ですか?」

山本「そうだ。"行方不明"扱いで処理しろ。」



山本は視線を古賀と南雲に向けることなく,淡々と指示しました。



南雲「バカな奴らですね・・・。俺たちの店に

みかじめ料を取りに入るとは・・・。」



倒れている二人は地元のヤクザで新規開店した店に来ては,

ケツもちのみかじめ料を要求している連中でした。



しかし,運悪く,ジャファの経営するバーに入ってしまい,

あっさりと山本に殺されてしまったようです。



そして山本が殺した人間を世間的にばれないように

うまく処理する役目を部下の古賀が担っているのです。



彼は戦闘能力はほぼありませんが,死体の処理には

精通しており,"山犬"にとって必要な人間なのです。



実はこの国では年間で10万件以上の変死体が発見されますが,

そのほとんどは自殺や事故で処理されます。



しかし,実際には彼のような闇組織の人間が

巧妙に細工をし,そう見せかけている場合もあるのです。



古賀「先日の件は,"事故"。今回は"行方不明"。それでよろしいですね。」

山本「そうだ。ぬかるなよ。南雲,今回も手伝ってやれ。」



南雲は首を縦に振って返事をしました。



南雲「でも,行方不明にするなら石井軍医に預けてもいいのでは?

最近,"マルタ"が足りないって嘆いていましたし。」



マルタとはどうやら人体実験で使う被験者を指しているようです。



山本「気に喰わねぇが・・・。アイツに恩を

売っておくのも悪くないな・・・。好きにしろ。」



古賀と南雲は横たわっていた死体を持ってきた

ビニールシートで包み,車の中に入れました。



古賀は車の中でなにやら準備をしています。



南雲「山本さん。こいつらはともかく,先ほどの件は本当に

事故で処理できるんですか?"菊"の連中もそこまで

馬鹿じゃないと思うんですが・・・。」



二人はこの仕事の前に別の仕事をしてきたようです。



山本「いくら"菊"の幹部が疑おうと,証拠がなければ

動けねぇさ。古賀の処理は完璧だ。何も心配することは無い。」



山本はグラスに入っていたバーボンを飲み干しました。



山本「ただ,気がかりなのは,全国に散っていたはずの

“菊”の幹部が名古屋に集結したそうだ。」

南雲「・・・。」




準備を終えた古賀が再びバーに戻ってきました。



古賀「準備ができました。南雲さん,いきましょうか。」

南雲「はい。」




二人がいなくなり,再び山本とマスターだけになりました。



山本「菊・・・。次は・・・。」



山本はグラスを見つめながら,そうつぶやきました。



場面は変わり,二宮神社です。



これは山犬の山本と南雲,古賀がバーでやり取りをしていた前日の出来事です。



この日は大雨と雷がひどい日でした。

夜になってもやむことはなく,むしろ風雨が

強まっているようにさえ感じられました。



そんな天候の中,二宮神社にある公衆電話で

一人の人物が受話器を握っていました。



全身が真っ黒なレインコートに身を

包んでいましたが,効果はあまりありませんでした。







彼の名前は赤神。



この神社の神主でした。



ザーザー・・・。



周囲は雨の音しか聞こえません。



その雨の音に混じってかすかに,

赤神氏の話し声が聞こえてきます。



赤神「ようやく,全員が名古屋に揃った。いよいよだぞ・・・。」



赤神氏は真剣な表情で受話器の相手にそうつぶやきました。



赤神「どうやって上を説得したかって?

それはまた今度,ゆっくりと教えるよ。

なかなか苦労したんだからな。それよりも,そっちはどうだ?

ああ,そうか・・・。ああ・・・。わかった・・・。ああ・・・。」



赤神氏は受話器の相手と話を続けていました。



赤神「我々,“菊水華”が名古屋に集結

できたことは非常に意義がある。

必ず,闇組織"ジャファ"を葬る。」



その後,要件を話し終えた赤神氏は受話器を戻しました。



赤神氏はジャファが“菊”と呼ぶ謎の組織に属していたのです。



神主は仮の姿なのでしょうか。



いよいよ闇組織ジャファと“菊”を交えた攻防が始まろうとしています。



第178話 レオンさんの携帯電話

 菊の華シリーズ 第1章
今日はレオンさんのアパートに遊びに来ていました。

今度,キャンプへ行く予定になっていて,その計画を立てているようです。



「まず,どこへ行くかを決めるんだろ!」



狭い部屋でテーブルを囲んで話し合っていました。





なかなか行き先が決まらず,イツキ君がいら立っていました。



レオンさんが奥の台所からジュースを運んできました。



「オイラはどこでもいいよ。

車なら出せるから多少遠くても大丈夫!」


「でも,大学はいいんですか?夏休みとはいえ,

やらなくてはいけない研究とかもあるんじゃないですか?」




だぬちゃんが珍しくまっとうな意見を出しました。



「ああ,そうだね・・・。提出期限が近い

レポートもいくつかあったな・・・。」




「ねぇねぇ,レオンさんが通っている大学に遊びに行ってもいい!?

どんなことを勉強しているのかちょっと興味あるかも。」




まさらちゃんがレオンさんに尋ねました。



「あ,うん。別にいいと思うよ。といっても一日,

ずっと昆虫の研究をしているだけだけど。

もし大学内でわからないことがあれば学生課に

行けば色々と案内してくれると思うよ。」




まさらちゃんはジュースを飲みながらうなずきました。



「今日は午後から,大学に行く予定だよ。

来るなら案内してあげるよ。」


「行ってみるか?」



イツキ君がリク君に振りました。



「あ,うん。いいんじゃない。特に予定もないし。」

「ただ,ちょっと大学に行く前に寄るところがあるから

一緒にはいけないんだ。お昼過ぎに大学に来てくれると助かるよ。」




レオンさんはどこかに出かける用事があるようでした。



「あ,ちょっと失礼。」



そう言ってトイレに行きました。



その時,レオンさんのポケットから少し型の古い携帯電話が落ちました。



リク君は目の前に落ちてきた携帯電話を手に取りました。



「ずいぶん古い携帯電話だね。

スマホですらないよ。いまだにこんな

機種が存在しているんだね。」




トシ君が感心していました。



リク君がボタンを押すと画面が光りました。



「ちょっと,リク君。勝手に

人の携帯電話を見るなんてよくないよ!」


「うん。あれ,でもこれって・・・。」



みんなが集まってきて画面を覗き込みました。



そこには電話帳に登録されたデータはなく,

通話記録やメールの受信記録もありませんでした。



「中身が空っぽだな。何のために持っているんだ?」



しばらくしてレオンさんが戻ってきました。



「あ,携帯電話,こんなところにあったか。

最近はイヤコムが主流だからあまり必要ないね。」




そう言ってテーブルの上に置いてあった

携帯電話をポケットの中にしまいました。



「じゃあ,キャンプの件はまた後で話し合おうか。」

「そうですね。じゃあだぬたちも一度お昼を食べに帰りますよ。」



みんなは一度解散して,また午後から

レオンさんの通う大学へ行くようです。



レオンさんはそのままどこかへ出かけていきました。



どうやら大学へ行く前に寄るところがあるようですが・・・。



第179話 中野木大学にて

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は昼食を食べて中野木大学までやってきました。







「でも,どこの研究室にいるのかな?」

「学生課っていうところで聞いた方が早いんじゃない?」



まさらちゃんは先ほどレオンさんに言われたことを思い出しました。



みんなは入り口からしばらく歩いた

ところにある学生課の窓口へ向かいました。



「なかなか広いんだね・・・。小学校とは大違い。」



「あたりまえじゃないですか。

地区で一番大きな大学なんですから。」




窓口へ到着するとリク君が学生課の人に

レオンさんのことを尋ねました。



「えっと,知り合いのお兄さんを訪ねてきたんですけど。

昆虫学を専門にしている大学院生で名前は

小早川レオンっていう学生さんなんですけど。」




窓口「しばらくお待ちください。えっと・・・。」



窓口の人はモニターを見ながら検索をしました。



窓口「小早川レオンという学生は在籍しておりませんが・・・。

ボクたち本当にこの大学に知り合いがいるのかな?

どこかの大学と勘違いしているとかじゃないかな?」



窓口のお姉さんはやさしい口調になって,みんなに聞き返しました。



「いや,そんなはずはない。たしかに中野木大学だって言っていた。」



窓口「えっと,レオンっていう名前の

学生なら4人いるわよ。三人は大学生で一人は院生ね。」



みんなは顔を見合わせました。



「その院生のレオンって苗字は?」



窓口「えっと,苗字は"翠川(みどりかわ)"ね。翠川レオン君。

大学院2年生よ。昆虫学の鎌切(カマキリ)ゼミに在籍しているようね。」



「ミドリカワ・・・?」



リク君は考え込みました。



「でも,その人っぽくないかな?

昆虫の勉強をしているって言っていたし。」




みんなはとりあえず“鎌切ゼミ”の元へ向かいました。



「なんか変ですよね?レオンさんって確か,ジャファの研究所に

所属していた小早川教授の息子・・・。だったら苗字も小早川のはずですよ。」




歩きながら苗字の謎について話し合っていました。



「確かに。まぁ親が離婚して母親の姓を名乗っているとか,

養子に入って苗字が変わったとか色々考えられるけどな。」


「もしくは,"偽名"・・・。」



みんなはリク君に注目しました。



「偽名って嘘の名前ってことでしょ?なんで

そんなことをする必要があるんだい?」


「まさか,レオンさんのことを

何か疑っているんじゃないだろうな?」




イツキ君はリク君をにらみました。



「いやいや,そうじゃないよ!レオンさんは

僕たちの仲間だよ!それは間違いない。でも・・・。」


「でも・・・。なんだ?」



イツキ君は問い詰めました。



「まだ,“何か”を隠している気がする。何かを・・・。」



第180話 レオンさんと協力者

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団はレオンさんが在籍する中野木大学へ遊びに来ていました。

昆虫学を研究している棟の2階にその研究所はありました。



扉は鎌切(かまきり)ゼミと書かれていました。



「なんか緊張するね~。ノックとかすればいいのかな?」



まさらちゃんが躊躇している間に,

リク君がノックをして扉をあけました。



「あの~,こんにちは。レオンさんいますか~?」

「いきなりですね!ちゃんとあいさつした

ほうがいいとだぬは思うよ!?」




扉を開けきって,中に入りました。



すると奥から声がします。



どうやらこのゼミの教授のようです。



教授「おや,これはかわいいお客さんたちだね。

何か御用かな?私はこのゼミの教授,鎌切じゃ。」







見た目は60代のいかにも虫好きな

おじいさんといった雰囲気の教授でした。



研究室の中はたくさんの標本で埋め尽くされていました。



「おお,ここすごい!」



リク君は軽く感動していました。



「レオンって人がこの研究室にいると

思うんだけど。俺たち遊びに来たんだ。」




イツキ君が説明しました。



教授「おお,翠川(みどりかわ)君のことか。今日はまだ来ていないな。

どこかへ寄ってからここに来ると言っていたが・・・。」



その時,ゼミの電話がなりました。



教授が電話に出ました。

相手はどうやらレオンさんのようです。



「やはり,苗字は翠川でしたね・・・。」



だぬちゃんが小声でリク君に話しかけました。



教授「そうか,今日は来れなくなったのか。

あい,わかった。ん?子供たち?

ああ,来ておるよ。代わろうか。」



鎌切教授はリク君に受話器を渡しました。



「レオンさん?僕たちもう大学に遊びに来ちゃったよ。」

「ああ,ごめんよぉ。もう少し時間がかかることに

なってしまって・・・。今日は大学は休むことにするよ。」




電話越しにレオンさんが謝っているのがわかりました。



教授「どうぞ,ごゆっくり。」



教授はさらに奥にある別の部屋に入って行きました。



リク君は電話をスピーカフォンにして,

みんなに聞こえるようにしました。



「ねぇ,ひょっとして,用事って・・・。組織に潜入している

協力者に会っていた・・・とか?だったりして。」




リク君は単刀直入に聞いてみました。



「ははは。なかなか鋭いね。まぁそんなようなところかな?」



みんなは電話に集まってレオンさんの声を聞いていました。



「その協力者の人って何て名前なの?

そういえば聞いてなかったよね?」


「えーっと,"小東"だよ。もちろん組織では違う名前を

名乗っているんだろうけど,詳しいことは

聞かないことにしているんだ。

自分の口からどこかでボロが出るとまずいから。」




レオンさんの協力者は"小東(こひがし)"と名乗る人物のようです。



「(小東・・・サンか。)」

「どんな人なんですかね?」



だぬちゃんが聞きました。



「まぁ,何せ組織に潜入中だからね。

今はまだあまり詳しくは話せないんだ。」




レオンさんは話題を変えました。



「それより,キャンプの打ち合わせの続きをしようよ。

中野木大学の近くにおいしいカフェがあるんだ。

そこで待ち合わせしないかい?」


「おいしいカフェ!?行きたい~!」



まさらちゃんのテンションがあがりました。

かなりのカフェ好きのようです。



「だぬはジャズがかかっているカフェがいいですね~。」



だぬちゃんはジャズ好きでした。



「ああ,あの牧歌的な感じの曲はカフェに会うよね~。」

「それは,フォークソングですよ・・・。」



リク君は電話を切ると,教授にお礼を言い,部屋を後にしました。

この後は,指定されたカフェに向かうようです。



第181話~第184話

2017/5/8

第181話 漆黒の車に遭遇

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は大学を出て,地区の大通りに出ました。

国道が走っており,その道沿いにたくさんのお店が並んでいました。



目的のカフェが見えてきました。



「あ,あれですね。だぬはこう見えて

コーヒーには詳しいんですよ。やはりブラックが一番!」




だぬちゃんがコーヒーのうんちくをたれながら,看板を指さしました。



その時,だぬちゃんは国道に駐車してあった一台の車に目をやりました。



「なっ・・・。」



だぬちゃんはその場で立ち止まりました。



「どうしたんだ?」

「あの車は,もしかして・・・。」



だぬちゃんはとても動揺していました。



「これって,最初にJFのメンバーと遭遇した時に見た車ですよ。

多分,山犬の連中が乗っていたはずです。」


「そういえば,だぬはあいつらの車を

直接見ていたんだったな。間違いないのか?」




イツキ君が聞きました。



「間違いないですね。珍しい車で国産車じゃないですし,

すぐにわかりました。確か,"古代自動車"というメーカーの

“ソナタナノ”という車種です。」




車に詳しいだぬちゃんがみんなに説明しました。



「じゃああそこに止めてある車は・・・。」

「あれは,闇組織ジャファの山本の車だ・・・。」



みんなは驚いて声をあげました。



リク君はみんなを足止めし,自分はそっと車に近づきました。



みんなはイヤコムの電源を入れ,

情報を共有することにしました。



「レオンさん,聞こえる?」

「ああ,聞こえるよ?どうしたんだい?」



レオンさんがイヤコムに出ました。

近くまで来ているようです。



「今,ジャファの山本の車を見つけたんだ!

通りに駐車してあって中にはだれも乗っていない。」


「なんだって!場所は!?カフェの近く!?

すぐに行くから絶対に車に近づかないように!」




レオンさんの口調が変わりました。



5分もたたないうちにレオンさんが車でやってきました。



山本の車の50mほど後ろに止めて,降りてきました。



「あれか。オイラも何度かあの車は

見たことがある。間違いなく山本の車だ。」


「(何度も・・・?)」



レオンさんは例の盗聴器を取り出しました。



「何をするつもりなんだ?」

「盗聴器を仕掛けてみる。」



レオンさんは慎重に車に近づきました。



よく見ると,運転席の窓が少しだけ開いていました。

夏の熱気を防ぐために開けていたのでしょうか。



その隙間から盗聴器を放り込みました。

盗聴器はアクセルとブレーキのペダルあたりに落ちました。



「よし,うまくいった。みんな,オイラの車に乗って!」



みんなはレオンさんの車に乗り込みました。



そして,その場所から,山本の車を観察しました。

10分ほどたったころ,二人の人物が車に近づいてきました。



一人はユニット山犬のリーダー,山本でした。







夏でも黒のスーツに身を包み,

帽子を深くかぶって素顔は見せません。



長髪を後ろで束ね,一瞬の隙もない恰好で歩いていました。



「怖い・・・。」



山本のその殺気立ったオーラにまさらちゃんは

後部座席で頭を伏せて怖がっていました。



「あいつは山本・・・。」



トシくんは同じく後部座席から頭を出して覗いていました。



「もう一人は誰だろう?見たことないや・・・。」



みんなはレオンさんが取り付けた

盗聴器の受信機に耳を傾けていました。



車のドアが開く音がしました。



そして二人の話し声もうまく聞こえてきました。

全員が固唾(かたず)をのんで聞き入っていました。



第182話 山本と源田

 菊の華シリーズ 第1章
山本と一緒にいた人物は森熊の源田でした。



<ユニット森熊リーダー 源田>



二人は車に乗り込みました。



運転席には山本,助手席に源田が座りました。

キーを差し込みエンジンはかけましたが,まだ発進はしないようです。



山本「こんなところに呼び出して悪かったな,源田サン。」

源田「いや,かまわんよ。コトのついでだ。」



二人は座席に座った状態で話をしていました。



それをリク君たちは盗聴器を通して聞いていました。



「源田・・・?源田って誰だ・・・。」

「源田・・・。小東から聞いたことがあるな。

確か,組織の治安維持を担っている,

森熊のユニットリーダーだとか・・・。」




小東というのはレオンさんの協力者で

組織に潜入して情報をリークしてくれる人物です。



「そいつと山本が車に乗ったんだね。」



山本は話を続けます。



山本「先日,"菊の準幹部"を一人,殺った。」

源田「ご苦労だったな。しかし,大丈夫なんだろうな?」



源田は少し怪訝な顔をして見せた。



山本「ああ,古賀の細工は完ぺきだ。絶対に事故として処理される。」



このやり取りと聞いていたレオンさんの顔色が急に悪くなりました。



「・・・。」

「レオンさん?レオンさん・・・。大丈夫?」



まさらちゃんが声をかけました。



「あ,ああ・・・。」

「・・・。」



さらに山本は話を続けます。



山本「次は,"菊の幹部"を暗殺する。どうやら奴らは

この名古屋に集結しているみたいだからな。」

源田「そうか。菊の連中はわが組織にとって脅威。

早急につぶすべきだと俺も思っていたところだ。」




レオンさんは思わず声をあげました。



「なんだって!?」

「どうしたんだよ,レオンさん。

さっきから変だぞ。この"菊"ってなんなんだ?」




イツキ君もレオンさんに声をかけました。



「ああ,知っていることは後で話すよ。

今はこいつらの会話をしっかりと

聞いて情報をできるだけ得よう。」




盗聴器からは会話が聞こえ続けていました。



山本「計画はすでに出来上がっている。

後は少々,手数が欲しい。使えそうなのを

何人かすぐに用意できそうか?」



山本は源田に尋ねました。



源田「ああ,可能だ。ちょうど,周辺で任務に当たらせていた所だ。

今は,ここから200m後方に車で待機させている。

海外でのゲリラ活動にも従事していた精鋭の特殊部隊だ。」



山本は満足そうな表情で窓の外に目をやりました。



源田「一服したら出るとしようか。」



そういって源田は内ポケットからタバコを取り出しました。



源田「1本どうだ?」



源田は山本にタバコを差し出しました。



山本「悪いな。」



しかし,渡す際に源田はタバコを

山本の足元に落としてしまいました。



山本が落ちているタバコを拾うとすると

何かが落ちていることに気づきました。



山本「何だこれは。」



レオンさんが仕掛けた盗聴器に気づいたようです。



「まずいな・・・。気づかれた。」

「マジですか!?ヤバイじゃないですか!

すぐに車を出して逃げましょう!」




この後,彼らはどうなってしまうのでしょうか。



第183話 精鋭の追跡

 菊の華シリーズ 第1章
レオンさんが仕掛けた盗聴器が組織の

山本と源田にばれてしまいました。



「しばらく様子を見るべき・・・か?」



レオンさんはハンドルを握ったまま,

イヤコムに耳を傾けています。



源田「盗聴器だと!?まさか菊の連中か!?

だとしたら今の会話がもれて・・・。」

山本「確か,影(シャドー)も盗聴器をつけられて,

会話を盗まれた。おそらく同じ人物が取り付けたんだろう。」



山本は盗聴器をもったまま源田と話しています。



山本「おい,聞こえるか。」



声を荒げて山本は盗聴器に呼びかけました。



山本「どこの馬の骨か知らねぇがなめた

真似してくれたな。この代償は高くつく。」



そう言うと盗聴器を握りつぶしました。



源田「どうする?会話を拾っていたとなると,

この近辺に潜んでいるはずだぞ。探し出すか?」

山本「そうしたいところだが,俺がやると殺してしまう。

さっきアンタが自慢していた,“精鋭”の実力を試させてくれ。」



山本は源田に指示を促しました。



源田「いいだろう。」



源田は携帯電話を取出し,何かを指示しました。



源田「ああ,全員確実に拘束しろ。素性を調べ上げる必要があるから殺すなよ。

そして,銃火器は使うな。ここは人が多い。」



その時,一台の車が山本たちの車を追い抜いて,

交差点でUターンして行きました。



それはレオンさんが運転する車でした。

どうやら,ここから離れることにしたようです。



山本「あの,車を追わせろ。」



源田「わかった。」



すると,すぐに後方から1台のワゴン車が猛スピードで発進していきました。

闇組織JFの訓練された兵隊が乗っているようです。



源田「総勢,5人。一個小隊規模だ。一般市民,いや警察の人間でも

訓練されていなければ,一瞬で捕獲,殺害できる実力を持つ。」



山本「それは頼もしいな。」



山本はタバコを咥えながら,車のハンドルを握り,アクセルを噴かせました。



源田「さあ,急ごう。時間があまりない。」



山本たちは車を発進させ,街中に消えていきました。



一方こちらはレオンさんの車内。



「ヤバイよヤバイよ!」



トシ君も焦っています。



かなりの速度で国道を走らせます。





しかし,確実に後ろのワゴン車との距離が縮まっています。



少年昆虫団は表情を強張らせながら後ろを気にしています。



「これは捲くのは無理だな・・・。」

「じゃあ,人けのない場所まで何とかいけない?」



助手席に乗っていたリク君がそう提案しました。



「そうだな。そうしよう。」

「どうする気なんだ?」



イツキ君は何となく答えがわかって

いましたが,あえて聞いてみました。



「あいつらを倒す!」



そう答えたレオンさんの顔は

とても頼もしい表情をしていました。



「ええ!?でもなんか精鋭とか

言っていたけど大丈夫なの・・・。」




さらに5分ほど走らせ,解体が決まっている

地下駐車場の中に入っていきました。



立ち入り禁止の看板がありましたが,

そのまま突っ切っていきました。



当然,組織の連中も追ってきます。



地下1階まで降りたところでレオンさんが車を止めました。

組織の車はレオンさんの車から少し後ろで止まりました。



第184話 精鋭との対決

 菊の華シリーズ 第1章
地下駐車場に入り,車が停止する直前のことです。



「ここは僕とレオンさんで相手をする。みんなは車から出ないように!」



「待て,俺も行く!」



イツキ君が車から出ようとします。



「待つんだ。イツキ君の強さは認めるが,ここはオイラに任せて。

万が一の時,まさらちゃんたちを守れるようにしてほしい。」


「ちぇ・・・。わかったよ。そのかわり,後で稽古をつけてくれよ。」



イツキ君は扉から手を放しました。



「約束しよう。」



レオンさんが車を止めるとすぐに二人は車外に出ました。





そして車を背にして,かまえました。



向こうの車も停止すると,後部ドアが開き,非常に無駄のない

動きで降りてきて,レオンさんたちの車を取り囲みました。



運転手以外,全員降りてきたようです。

そのJFの精鋭部隊5人でした。



ヘルメットをしていて顔はよく見えません。



ボソボソと会話をしています。小型マイクでリーダー

らしき人物が指示を出しているようです。



精鋭R「対象を取り囲んだ。殺害は不許可。銃火器の使用も不許可。」



そう言っているのが聞こえました。



「生け捕りにして色々聞き出そうってわけね。」



リク君はすでに捕虫網を手にして構えています。



1本だけなので,最初は一刀流で様子を見るようです。



精鋭たちは防護マスクを着用し,

スプレーのようなものを取り出しました。



精鋭R「私は,JFの精鋭部隊。"梟"のリーダー,山根だ。

君たちは全員我々の管理下に置かれることになる。」





―JF精鋭部隊"梟"のリーダー,山根―



次の瞬間,リーダーの山根は手で合図を出しました。

隊員たちは一斉に隠し持っていた催涙スプレーを噴射します。



「ゴホッ。」



レオンさんは袖を口に当てて煙を防ごうとしました。



「リク君,大丈夫か?」



レオンさんはリク君の方を見ました。しかし,

そこにはリク君の姿がありませんでした。



精鋭2「一緒にいたガキはどこへ行った!?」



「ここだよ。」



精鋭たちが上を見ると捕虫網を伸ばして

地上から5mほどのところにリク君が見えました。



この地下駐車場はそれくらいの高さはゆうにありました。



精鋭3「なんだあれは!?」



―大空二刀流 追撃の星(シューティングスター)―



2本の捕虫網がものすごい速度で上空から襲いかかってきます。



いつの間にか二刀流に変えていました。彼は状況に応じて,

一刀流と二刀流を使い分けることができるようです。



精鋭たちはリク君の攻撃レンジから離れ,

直撃を避けようとします。



しかし,一人に命中します。



精鋭4「うぐ・・・。」



後頭部に直撃した精鋭の一人はそのまま気を失ってしまいます。

一瞬の隙を見つけ,レオンさんが反撃に出ます。



相手の顎にフックを決め,よろめいたところで防護マスクを奪います。

そのまま,相手の顔を地面にうずめ,倒しました。



「よし,これで呼吸が楽になった。」



精鋭5「隊長,こいつら,何なんですか!?」



レオンさんは次の相手を決め,攻撃に出ます。



山根「慌てるな。こちらはまだ3人いる。落ち着いて対処しろ。」



「残りはもう二人だけどね。」



気づくとさらに一人,倒れこんでいました。



「さすが。強いね,レオンさん。」



地上に降りたリク君がレオンさんに声をかけます。



精鋭部隊の残りがナイフ術を駆使してレオンさんを殺しにいくも,

すんなりと返され,体の動きを封じられます。



「(あれは,合気道・・・。レオンさん,

合気道もできる・・・のか?)」




レオンさんが首を強く締めると精鋭部隊は倒れこみました。



「まさか,殺してないよね。」



「ウキキ。ちょっと眠ってもらっただけだよ。」



レオンさんは残った精鋭部隊のリーダーと対峙しました。



「(レオンさんのこの手際の良い動きって・・・。まさか・・・。)」



山根「ありえない・・・。」



リーダーの山根は見たことのないような構えをとりました。



リク君は捕網虫を背中に戻しました。

後は,レオンさんとこのリーダーの戦いになるとみたようです。



山根は目つぶしの行動をとります。

レオンさんは間一髪でそれを回避します。



「(こいつら・・・。やはり,徹底的に殺人術を訓練しているな・・・。)」



レオンさんもすきを見て,相手のみぞおちにけりを入れようとします。



確かに当たったようですが,山根は立ち上がりました。



「防護チョッキか・・・。」



二人の戦いは続くようです。



第185話~第188話

2017/6/13

第185話 思い当たる人物

 菊の華シリーズ 第1章
地区郊外の使われていない地下駐車場で,

JFの精鋭部隊"梟"とレオンさん,リク君が戦っています。



山根「我々はどんな手段を用いても,戦果をあげねばならない。」



梟のリーダー,山根は腰に下げていたサバイバルナイフを取り出しました。



レオンさんは一瞬,驚きましたが,ひるむことなく構えています。



山根「このナイフは・・・こう使うんだ!」



山根は向きを変えると,リク君に向かってナイフを投げました。



「!?」



山根「(負傷したガキを庇いに行った所を仕留めてやる。)」



しかし,リク君はそのナイフを軽々とよけ,

一足飛びで山根の懐に入り込みました。



山根「な・・・何・・・!?」



リク君はレオンさんと山根の対決を静観するつもりでしたが,

矛先が自分に向かったので予定を変えました。



このリーダーはレオンさんとリク君という最強の二人を

同時に相手せねばならなくなった時点で詰んでいました。



山根は見るも無残にやられてしまいました。



リク君とレオンさんは勝負を終えて,車に戻ってきました。



「すごいね!みんなやっつけちゃった!」

「毎度思いますが,レオンさんが強すぎるのはいいとして,

リク君も強すぎでしょ。なんで小学生がゲリラの

精鋭部隊やっつけちゃうんですか。」




だぬちゃんは安心したのか急に突っ込みを入れました。



「でも精鋭,精鋭と言っていた割に

たいしたことないね!全然精鋭じゃない!」


「いや,そんなことはないさ。あの連中は相当な強さだったよ。

特にリーダーの山根,とかいう奴はかなりの手練れだった。

警察,自衛官でも特殊な訓練を受けてない人じゃやられていただろうね。」




レオンさんは相手の強さを冷静に分析して伝えました。



「そうだね。さすが闇組織JFの部隊だ・・・。」

「そうなのか・・・。」



イツキ君は自分が戦えなかった悔しさと,もし戦っていたら

足手まといになっていたかもしれないという思いが錯綜していました。



「とりあえず,すぐにここを離れよう。

警察にはオイラが連絡をするよ。銃刀法違反で検挙できる。」




「(え・・・?)」



レオンさんはみんなから少し離れた場所で

携帯電話を取り出して電話をし始めました。



一方,山根は瀕死の状態で携帯電話を取り出しました。



どうやら源田にかけているようです。



国道には車を走らせている山本と源田がありました。

そこで源田は精鋭部隊のリーダーからの連絡を受けました。



山本「どうした?顔色が悪いぞ?」







源田「ありえない・・・。やられただと・・・。」



源田は携帯電話に向かって怒鳴りつけます。



源田「一人は・・・ガキ・・・だと・・・?ふざけるな!!」



山本はタバコを静かに吹かしたままやり取りを聞いていました。



源田「どうなっているんだ・・・。やはり"菊"の手に落ちたか・・・。

ガキにやられたなどと適当なことをいいやがって・・・!」



山本「案外,本当のことかもしれんぞ。思い当たるガキが一人いる。」



源田はありえないといわんばかりに首は横に振りました。



山本「以前,アンタも関わっていた各務原山で起きたことは話しただろう。

おそらく今回の件も“平成のファーヴル”だ。」



山本は先日,出会った少年のことを思い出しました。



源田「もし,本当だとしたら脅威だ・・・。

早急に手を打たねば・・・!?これは

御前にもお伝えする必要がある・・・。」



源田は自慢の精鋭部隊がやられたことにショックを隠せない様子でした。



山本「安心しろ。俺が菊の連中もあのガキ共も

両方とも始末してやるよ。ククク・・・。」



山本は不気味に笑いながら車を走らせ続けました。



場面はリク君たちに戻ります。



「もうすぐ警察が到着するみたいなんだけど,

なんでも君たちにも事情聴取を受けてほしいんだって。」


「事情聴取を!?」



まさらちゃんが聞き返しました。



まさらちゃんの父親は警察官なので

その言葉を知っているようでした。



「それってドラマとかでよくあるやつですよね?

だぬたちが警察署に行くってことですか?」


「まぁ,そういうこと。西警察・中野木署へ行こうか。

オイラの車で行けばいいみたいだからさ。」




レオンさんは運転席に乗り込み,車を発進させました。

その時,すれ違いざまにパトカーが何台かすれ違っていきました。



レオンさんはそのパトカーに敬礼をしながら車を走らせていきました。



「・・・。」



そして,中野木署に到着しました。



第186話 愛知県警 中野木署にて

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は地元の中野木署に到着すると

エレベータで3階へあがり,とても大きな会議室に案内されました。



大学の教授が講義をするような部屋で50人以上は収容できそうです。





レオンさんは入り口で別の警察官に呼ばれ,どこかへ行ってしまいました。



案内してくれた別の警察官が『ここでしばらく待ってね』とやさしく声をかけてくれました。



「なんか,5人しかいないのに無駄にでかいところに連れてこられましたね。」

「だね。もっと狭い取調室に入れられるかと思ったよ。」



二人が感想を述べます。



「わたしたちは別に容疑者でもないから,

そんな部屋には入れられることはないよ。

たぶんここしか空いてなかったんじゃないかな。」




まさらちゃんのお父さんは警察官なので

こういうことには詳しいようです。



そして10分ほどその部屋で時間をつぶしました。



「まだかな・・・。」

「まぁ,色々と忙しいんだろ。というか,

レオンさんはどこに連れていかれたんだよ。」




すると,扉が開いてレオンさんが入ってきました。



「やぁ,お待たせ。」





頭をぼりぼりとかきながら

少年昆虫団の元へやってきました。



「さて,それじゃあ,どこから説明しようかな。」



レオンさんが少し悩んでいる様子を

見てリク君が話しかけました。



「レオンさん,ボクからもレオンさんに

話したいことがあるんだけど,いいかな?」


「ん?オイラに話?なんの話かな?」



レオンさんはリク君に聞きました。



「ずばり,レオンさんの正体さ。」



みんなは驚いてリク君を見ました。



「オイラの正体?興味があるね。一体それは・・・?」

「レオンさんの正体,それは・・・。」



だぬちゃんはつばをごくりと飲み込みました。



「それは,警察官だ。それも公安警察のね。」

「何っ!?そんなことが・・・。」



イツキ君は驚きを隠せない様子でした。



「根拠はあるのかな?」



レオンさんは表情を変えることなく,リク君に聞き返しました。



「あるよ。以前レオンさんが,イツキ君の知り合いだった

城嶋って人をテロ未遂で捕まえたことがあったよね。」
(第120話参照)

「・・・。」



リク君はみんなにもわかるように説明を始めました。



「あの時,レオンさんはこう言ったんだ。

『公安に連絡をしておいたから,大丈夫』って。」


「あっ,確かに言っていたかも。」



まさらちゃんも思い出したようです。



「普通,悪い人を捕まえたら,『警察に連絡した』だよね。

わざわざ,一般の人が公安部署,正確には県警本部警備部の

番号を知っているとは思えない。 だから,あの時,変だなと思ったんだ。」


「なるほど。他にも何か根拠はあるかな?」



レオンさんは動揺することなく,さらに聞き返しました。



「ちょっと前に,影(シャドー)がイツキ君を誘拐したことがあったよね。」

「ありましたね。結局,イツキ君の作戦だったんですよね。」



だぬちゃんもその件はしっかりと記憶に残っているようです。



「あの時,レオンさんはまさらちゃんに誘拐した場所を

どうやって探ったか聞かれて,『警察のサーバをハッキングして

Nシステムの画像を見た。』と言っていた。」
(第137話参照)

「うんうん。そうだった。」



まさらちゃんは相槌を打ちます。



話についてこれなくなったトシ君は会議室に

置いてあったホワイトボードに絵を描いて遊び始めました。



「いくらなんでも,そう簡単に警察のサーバをハッキングできるのかな?

本当はレオンさんが警察関係者だから堂々と,

Nシステムの解析情報を入手できたんじゃないかって

考えたのさ。その方が自然じゃない?」


「そうか,そういわれてみれば・・・。」



イツキ君は手をアゴに当てながらつぶやきました。



果てしてレオンさんの正体は本当に警察官なのでしょうか。



第187話 公安の人たち

 菊の華シリーズ 第1章
リク君は中野木署の大会議室でレオンさんの正体が警察官だと推理しました。



それを聞いたレオンさんはリク君の説明を楽しんで聞いているようにも見えました。



「さすがだね。もっと他にもオイラが警察官だという証拠があるんだろう?」



レオンさんはすでに半分自分正体を認めているようなものでした。



「うん。レオンさんがさっき,JFの暗殺部隊を

倒していた時に使った技の一つに,合気道があった。

あれも警察官なら警察学校で習得しているしね。」




リク君はさきほどの戦闘場面について説明しました。



そしてさらに別のことにも触れます。



「それに,今日の午前にレオンさんが部屋で落とした携帯を

ちょっと見ちゃんたんだけど,何もデータが入っていなかった。」


「ふんふん。そうだった。」



トシ君が話に入ってきました。



「あれも公安の人間がよくやることだよね。万が一紛失してもいいように。

公衆電話でのやりとりが多いって聞いたけど,場合によっては携帯電話も

必要になってくるから持っているんでしょ。」




レオンさんはしばらく黙って聞いていましたが,

ニコッと笑ってリク君を見ました。



「すべて正解だ。リク君の推理通り,オイラは警視庁公安部の人間だ。

今はJF特別対策本部である"菊水華"の幹部として名古屋に来ている。」




やはりレオンさんは公安警察の人間だったようです。



「ええっ・・・。リク君の言ったことは本当なんだ。

レオンさんは刑事さんなんだ。すごい~!」




まさらちゃんは驚きながらも喜んでいるように見えました。



「そうか。そうならそうともっと早く言ってくれればよかったじゃないか。

大学も偽名で通っているのはそのためか。

ということは年齢も本当はもっと上なんだな。」




「ごめん,ごめん。なかなか言い出せなくてね。

あまり公にできない捜査なわけだしね。」




レオンさんは頭をぼりぼりとかきながら謝っていました。



「大学の管理者には事情を伝えて,潜入させてもらっているんだ。

翠川レオンという名前でね。本当の年齢は30歳さ。ウキキ。」




すると,半開きになっていた扉の向こうから声がしました。



???「そろそろ俺も入っていいかな?」



扉の向こうからどこかで聞いた声がしました。



「ん?」



なんと入ってきたのは,あの神社の神主であった赤神氏でした。







赤神「さすがだな。お前の言った通りの優秀な子どもたちのようだ。」



「あれぇ~???なんで,あなたがここにいるんですか!?」



今度はだぬちゃんがびっくりしました。



赤神「俺は公安部JF特別対策チームのリーダー,赤神だ。」



「ええ,そうなんですか!?じゃあ神主は・・・。」



赤神「奴らの目を欺くための手段だ。

この赤神という名前も当然偽名さ。そこにいる翠川もな。」



赤神氏はレオンさんに目をやりました。



「捜査の性質上,“菊水華”は偽名を使って行動しているんだ。」



レオンさんはみんなに説明しました。

みんなは近くの椅子に座ってさらに話を聞くことにしました。



「えっと,いきなり色々なことがでてきて頭がこんがらかっちゃったよ・・・。」



まさらちゃんだけでなく,ほかのメンバーも状況を

しっかりと飲み込めていないようでした。



赤神「質問したいこともあるようだけど,先に他のメンバーを紹介しよう。

菊水華,通称“菊”の幹部メンバーたちだ。」



赤神氏が合図を送ると,半開きになっていた扉の奥から

“菊”とよばれるチームの幹部が入ってきました。



その人物たちとは・・・。



第188話 菊の幹部登場

 菊の華シリーズ 第1章
赤神氏が合図を送ると菊と呼ばれるチームの幹部が入ってきました。



「あ・・・。あなたは・・・!?」



だぬちゃんがまず驚きました。



ジャズバンドのリーダーである青山氏が入ってきたのです。







だぬちゃんは彼のファンで,以前

コンサートにもいったことがありました。(第124話参照)

青山「俺のことを知っているようだな。」



「もちろんですよ!大ファンですから!」



だぬちゃんは興奮していました。



「でも,なぜ青山さんがここに・・・?」



赤神「彼は公安部JF特別対策チーム,“菊水華”の幹部だ。

普段は関西地区で活動しているんだが,今回は名古屋へ

招集をかけ,来てもらったんだ。」



赤神氏がそう説明しました。



「なるほど。それで普段は大阪でしか,コンサートを

行わないのに,今年は名古屋まで来てくれたんですね。」


「つまり,ジャズバンドのリーダーというのは,JFの目を

騙すための仮の姿で,本当は公安部の人間だったてことね。」




リク君がだぬちゃんにそう補足しました。



次に入ってきた人物は女性でした。



「あ・・・!?」



今度はまさらちゃんが驚きました。



そこには以前,栄のお店で買い物をしたときに

対応してくれたお姉さんがいました。(第123話参照)





桃瀬「あら,あなたは確か・・・。」



桃瀬という名前の店員は実は“菊水華”の幹部でした。



「びっくり!」



桃瀬「そっか,あなたは少年昆虫団の一員だったのね。

話は翠川君から色々と聞いているわ。」



桃瀬さんはお店で見かけたときのカジュアルな服装ではなく,

びしっとしたスーツに身を固めていました。



「なんか,ちょっと怖そうな方ですね。

暗殺とかが得意そうです・・・。」




だぬちゃんがボソッと本音を呟きました。



桃瀬「あら,あながち間違いじゃないよ。

ここに所属する前はSATなどの特殊部隊に

いた経験もあるし,銃の腕は“菊水華”の中では一番よ。」



「ひぇええ・・・。」



そして,最後に入ってきた人物に驚いたのはトシ君でした。



「あや?あれは確か,ピエロの・・・。」







そこには,以前トシ君とワク君が観に行った

サーカス団の団長である,黄金原さんがいました。(第162話参照)

黄金原「いや~,なんか疲れるね~。早く道化に戻りたいよ~!」



気さくな感じの明るい男性でした。



「そろったみたいだね。」



メンバーは前に立ち,改めて自己紹介を始めました。



リク君たちは座って,聞いていました。



「つまり,ここにいる人たちは俺たちの

だれかと一度は会ったことがあるわけか・・・。」




赤神「どうやら,そういうことになるみたいだな。

その方が話も早い。それではさっそく本題に入ろう。」



赤神氏は椅子に腰かけました。





第189話~第192話

2017/7/4

第189話 “菊水華”前編

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は中野木警察の3階にある大きな会議室のような部屋にしました。







たくさんの机といすがあり,彼らは前の方に固まって座りました。



普段,警察のお偉い方が指揮を執ると思われる机に赤神氏が座り,

その左右に菊水華と呼ばれるチームの幹部が立っていました。



その中にはあのレオンさんもいました。

そして赤神氏が本題に入ろうとしました。



「あの,その前に,これってどういうことですか?先ほどの件の事情聴取ですよね?

なんか,状況が呑み込めないというか・・・訳がわからないんですけど・・・。」




まさらちゃんは思い切って質問をしてみました。



「ごめん,ごめん。事情聴取って言ったのは君たちをここに連れてくるための口実さ。

オイラは始めから君たちをここにいるメンバーに会わせようと思っていたんだ。」




レオンさんがそう言いました。



「レオンさんは僕たちを試していたんでしょ?

自分の正体を見抜くことができるかどうか。」


「どういうことだ?」



リク君の発言にイツキ君が質問をしました。



「さすがだね。その通りだよ。その様子を部屋の外で,

ここにいるメンバーに聞いていたもらったんだ。」


「やっぱり。午前中にトイレに行くふりをして携帯を落とし,

中をのぞかせたり,大学の学生課へ行かせて,偽名を教えたり,

合気道を使ったりしたのは,わざとだよね。」




どうやらレオンさんはヒントをさりげなく与えてくれていたようです。



赤神「実際に,君たちの推理力と行動力,特にリク君には

驚かされた。最初に神社で会った時には,君たちがいなく

なった後すぐに,翠川と連絡をとったくらいだ。」(第103話参照)

つまり,少年昆虫団が事情聴取を受けるというのはただの口実で,

実際には“菊水華”の幹部と顔合わせをさせることでした。



レオンさんは自分の正体につながるヒントをさりげなく,ちりばめていまいた。



赤神氏は彼らがそのヒントに気づいて正体を見抜くことが

できれば,顔合わせをし,見抜くことができなければ,

顔合わせをせず,事情聴取だけして返すつもりだったようです。



「でも,なんで,だぬたちがこの方たちと知り合う必要があるんですか?

そもそも“菊水華”って言われてもよくわからないんですが・・・。」




だぬちゃんの疑問はもっともでした。



先ほどから何度も出てきた“菊水華”という名前ですが,

詳細についてはまだ語られていませんでした。



赤神「そうだな。最初から丁寧に説明しよう。我々の組織について,

我々の目的,君たちにここに集まってもらった理由,そして闇組織JFについて・・・。」



赤神氏は前に置いてある大きなホワイトボードを活用しながら,説明を始めました。



赤神「まず,警察組織の中に公安警察という部門があることはご存知かな。

正確には警備警察の部門なのだが,東京の警視庁にはこれとは別に

“公安部”というのがある。そこにいるレオンはその公安部に所属している。」



「難しい・・・。」



トシ君は疲れてしまい,ウトウトとしています。



赤神「各都道府県の警備部と公安部が協力して作り上げたものが

“JF特別対策チーム”だ。通称は“菊水華”,または単に“菊”と呼んでいる。」



「それは主にどんな任務をおこなうんですか?」



まさらちゃんが聞きました。



赤神「闇組織JFを壊滅,組織員を検挙するために

捜査,情報収集を行うチームといってよい。」



赤神さんの話は核心に入っていきました。



第190話 "菊水華"後編

 菊の華シリーズ 第1章
レオンさんはJF特別対策チームである,

通称“菊水華”と呼ばれる組織の一員でした。



さらに神社で出会った神主の赤神氏,だぬちゃんが聴きに行った

ジャズグループのリーダーである青山氏,ブティック店員桃瀬氏,

サーカス団団長黄金原氏もいました。



皆,仮の姿でこの名古屋に集まってきたようです。



赤神「次に君たちに集まってもらった理由だが・・・。」



「オイラ達の力を借りたいってわけですか?それなら任せて!」



トシ君は急に張り切りだしました。



赤神「その逆だ。君たちを保護するために,ここに集まってもらった。」



「どういうことだ?」



イツキ君は立ち上がって,そう言い返しました。



赤神「君たちはあの闇組織JFにすでに襲われている

こともあると聞く。一般人の安全を確保するのも我々の仕事だ。」



「でも,それって建前だよね?」



リク君が赤神氏に向かってそのように言いました。



「どうしてそう思うんだい?」



レオンさんがリク君に聞きました。



「だって,保護するつもりなら,レオンさんの正体を見破れるか,

なんて試す必要ないでしょ?だから建前としては僕たちの安全を

確保するということで一緒に行動するけど,実際は相互協力ってことでしょ。」




パチパチパチ・・・。



黄金原さんが拍手をしました。



黄金原「素晴らしい。君は本当に優秀な少年だなぁ・・・。」



赤神「そこまで読まれていたか。さすがだな。」



赤神さんも感心したようでした。



「それで,僕たちは何をすればいいの?」



赤神「何を,というわけではないが,君たちがJFの連中に出会ってから,

今日までに起きたことをなるべく詳しく教えてほしい。」



リク君たちは菊のメンバーに今まで起きたことをすべて説明しました。



すでに夕方になっていたので,この日は

レオンさんの車で帰宅することになりました。







赤神さんからの連絡はレオンさんを

通して行われることになりました。



少年昆虫団を乗せた車は自宅に向けて走っていました。



車の中では,それぞれが一度見たことがある人が警察官で,しかも公安の

“菊水華”という組織に属していることに驚きを隠せない様子でした。



「そういえば,さっき,山本と源田っていう幹部の

盗聴内容を赤神さんに話していたけど・・・。」


「話していたね。“菊の幹部を暗殺する

計画がある”ってこと以外は。」




レオンさんがリク君の言いたいことを先回りして答えました。



「何で言わなかったの?一番大事なことじゃない?」

「実は・・・。これはオイラの予想なんだが,幹部の中に

JFのスパイがいるんじゃないかと思っている。」




レオンさんが衝撃発言をしました。



みんなは盛り上がっていた会話を中断して,

運転しているレオンさんの方を見ました。



「それって,どういうこと?」

「明確な証拠はないんだけどね。それに近いことは

何度かあった。情報が漏れているようなことが・・・。」




レオンさんはそれを危惧して,あの場では

全てを話すことをためらったのです。



「だから,オイラに個人的な協力者がいて,

JFに潜入していることも言ってない。

この件も含めてくれぐれも内密に頼むよ。

リーダーの赤神さん含めて,誰にも言わないようにしてほしい。」




レオンさんは真顔でそう言いました。

この情報が漏れることをかなり危惧しているようです。



「全員が容疑者ですか~。誰がJFのスパイなのか

見当はついていないんですか?」




だぬちゃんが聞きました。



「ああ,まったくわからない。だからこそ,

君たちの力を借りたいのかもしれない。」




レオンさんは本音をこぼしました。



「でも奴らの暗殺計画が本当なら・・・。」

「一刻も早く内通者を暴く必要があるね・・・。」



そして車は自宅付近に到着しました。



第191話 エピローグ

 菊の華シリーズ 第1章
警察署から帰宅した少年昆虫団は

昆虫採集に行くことにしました。







場所は近くの緑地公園です。



レオンさんもそのままついていくことにしました。



一通り昆虫採集が終わり,公園内の噴水広場で休憩をしました。

時間は夜の9時を過ぎていました。

だぬちゃんとトシ君はベンチに腰かけてジュースを飲んでいます。

まさらちゃんは噴水のふちに座っていました。



リク君とレオンさんとイツキ君はベンチに

座ることなく,立ったまま話をしていました。



「よく考えたら,あの場に俺たちが行ったのはまずかったんじゃないのか?

JFに俺たちがこの地区にいるっていっているようなものだろ?」


「その点はご心配なく。それに名古屋って言っても広いからね,

そんな簡単には見つからないさ。むしろ心配なのは影(シャドー)が

他のJF幹部に居場所を言ってしまうことさ。」




レオンさんは手に持っていたジュースを飲みながら,そう言いました。



「そっか。そうだな・・・。まぁ,でもレオンさんがやたらと

何でもできてめちゃくちゃ強い理由がわかった気がするよ。」


「ウキキ。」



レオンさんは照れていました。



「あいつらの会話を聞いた感じだと,すぐにでも

事態が動いていきそうな予感がするよ。」




リク君が夜空を見上げながら言いました。



「そうかもしれないね。あいつらが殺したといっていた,

菊の準幹部は黄金原さんの下で働いていたんだけどね。

結局,交通事故で処理されたらしい。すでに葬儀も行われたそうだ。」


「それって,もっと詳しく調べなかったんですか?」



だぬちゃんが聞きました。



「どうも,赤神さんが知らないところで話が進んでいたみたいで,

赤神さんの耳に入ったときは,時すでに遅しだったってさ・・・。」




レオンさんは警察の内部情報をリク君に話してしまいました。



それだけ彼らのことを信用しているようです。



「ねぇねぇ,これから私たちはどうすればいいの?

何かすぐにでもお手伝いすることってあるの?」




噴水近くにいたまさらちゃんが近くまでやってきました。



「そうだねぇ・・・。何が起きるかわからないから,

常にイヤコムはONにしておいてほしい。

それから何かあったら,すぐにリク君と

オイラを呼んでほしい。今はそれくらいかな?」




まだまだ蒸し暑い夜が続きます。

トシ君はジュースを飲みきってしまいました。



「おかわりがほしいな~。」



そういって,自販機にジュースを買いに行きました。

こうして少年昆虫団はこの日の活動を終えました。



一方,ここはJFの所有する名駅,ツインタワー“バベル”。



その中層にある一室にて一人の男がどこかに電話をかけていました。



源田「・・・ああ。・・・そうだ・・・。早急に手配させろ・・・。」



その人物はJFの幹部,源田でした。

彼は電話を切ると椅子にもたれかかって目を閉じました。



源田「なんとしても,菊を壊滅させる必要がある。

菊に潜入しているヤツの情報では・・・。」



いよいよ,闇組織JFと菊水華との全面対決が始まるようです・・・。



菊の華シリーズ ~第1章 完~



第192話 オオクワガタがいた!?前編
少年昆虫団は近くの緑地公園に来ていました。

どうやら今日はカブトムシ採集では無いようです。



「いやぁ,いつも言ってますが,すっごく久々に

昆虫採集をしている気がしますよ。」


「何を言っているの。昨日もしてたでしょ!」



そんなやりとりをしながら,採集ポイントまでやってきました。



「今日はオオクワを採集しようと思う!」



突然,リク君が言い出しました。



「えっと,ここはいつもの緑地公園ですよ・・・。

こんなところにオオクワはいないとだぬは思うよ!」




確かにここは駅から歩いて1分という都会の中にある公園です。

雑木林も少なく,オオクワは生息していないはずです。



「ネットの情報で,ここでオオクワを採集したって

人がいるんだよ。ホラ,これを見てごらん。」




リク君はトシ君が持っていた超薄型インターネット接続端末

(インタ君)を借りて,その情報を表示しました。



「ホントだ。SNSにオオクワを採集したって投稿があるね。」



みんなはその情報を見ても,まだ半信半疑でした。



「う~ん,オオクワねぇ・・・。こんな場所にいないことくらい,

リクならわかりそうなもんだろう。何か気になることもであるのか?」




イツキ君がリク君に言いました。



「まぁまぁ。」

「何か気になることがあるんだね。」



レオンさんはニコニコしながらみんなを見守っています。



すると,さっそくリク君がオオクワを見つけました。





木のウロに隠れていたようです。大きさは65ミリほどのオスでした。



なぜか,木の幹には木くずのようなものが落ちていました。



「この木くずはなんだろ?」



トシ君は恐る恐る触ってみました。



「ホントにいるんだね!すごい!」



まさらちゃんは大喜びです。



しかし,リク君はそのオオクワを手に持ったまま,

じっと見つめています。その表情はとても真剣でした。



「やっぱり・・・。」



すると,リク君たちが採集している木から

少し離れたところに人影とライトの光が見えました。



「向こうへ行ってみよう。」



リク君はみんなを誘って,人影が見える木へ行ってみました。



するとそこには40代くらいの男性と女性,そして10歳くらいの男の子がいました。



どうやら親子のようです。



父親は飼育ケースを持っていましたが,中には何も入っていません。

そして,木の幹には先ほど見つけた木くずが落ちていました。



リク君たちがやってきて,父親と思われる男性は少し驚いていました。

子供はなぜか,悲しい表情をしていました。



この人たちと先ほど見つけたオオクワは何か関係があるのでしょうか。







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