2024/8/24
第529話 シーザーの奮起
エピソード0シリーズ 最終章
川下の戦況がわかってきました。
シーザー陣営の“神の丘”リーダーである“神代剛健”が
“紫式部連合”の“日和”によって
打ち取られたことによりチームは敗北。
“爆走珍走”や“ヒスパニア”の連中も
状況が不利と知り降伏しました。
庄外川の中での戦いはマザー&ファザー連合の
逆転勝利に終わりました。
「よし,すぐに堤防へ戻ろう!」
リク君の掛け声で戦えるチームは三大悪童が
そろっている堤防の北側へ向かうことにしました。
―そのころ堤防では―
マザーとファザーはイヤコムの連絡で
我々が勝利したことを聞きました。
マザー「どうやら形勢逆転だねぇ!」
彼女が誇らしげな顔で,
シーザーに向かってそう言い放ちました。
シーザー「ぐっ・・・。」
すぐ隣で指揮を執っていた武留歌が,
武留歌「まだここからです!ご安心を!」
と,進言しました。
シーザー「ああ,そうだな!
奴らが疲れ切って
いるのは間違いない!」
武留歌「ええ!このまま押し込みましょう!」
もともとファザーの本陣があったこの場所は,
すでに敵味方が入り乱れる大乱闘となっていました。
お互いに雑兵の兵を消耗しながら,
敵の大将であるそれぞれの悪童を
打ち取ろうと躍起になっています。
奇襲によって,ファザーとマザー陣営は
苦戦を強いられましたが,
リク君やイツキ君の活躍もあり,
情勢を盛り返していました。
明らかな劣勢に立たされたシーザーは
自らが先頭に立ち,両陣営を潰そうとします。
シーザー「楠十傑はどうした!?」
彼が叫ぶと,
武留歌「すでにマザー配下のカナと
リアコンビに“飯田昭雄”,
“金宮卓”はやられました。」
彼は戦況説明を続けます。
武留歌「1~3傑の“高尾義和”,“平河沙流”,
“内海大介”は多数に無勢で
全員が負傷したため,
後方に下げました。」
一通りの説明を終えました。
シーザー「あの役立たずどもがぁ!!」
そこにイツキ君が現れました。
「やっとお話ができそうだな。」
シーザー「なんだ貴様はっ!」
彼の怒りは頂点に達しているようです。
武留歌「奴は確かイツキです。
あの年齢にしてマザーやファザーと
互角の力を持つという噂もあります。」
シーザー「はぁ!?たいそうな噂だが・・・!
本当かどうか試してみるのが早いな!」
そこへ川の中から急いで駆け付けた
リク君がやってきました。
そして二人の間に入ろうとすると,
「大丈夫だ。俺がやる。」
と言って,シーザーに
立ち向かっていきました。
「わかった。任せる!」
すぐ後ろにいつの間にか
二人の悪童が立っていました。
その周囲を護衛するかのように,
それぞれの幹部たちが一緒でした。
マザー「仕方ないからあいつに
手柄を譲ってやるよ。」
ファザー「手こずるようなら俺が変わる。」
いよいよこの大戦も大詰めを迎えました。
第530話 真の皇帝
エピソード0シリーズ 最終章
イツキ君とシーザーの戦いが始まって
すでに1分が過ぎようとしていました。
イツキ君は足の長さを生かした
得意の蹴りをうまく使い,
相手にダメージを与えていました。
悪童のシーザーはその名が轟くだけあり,
一つ一つの攻撃全てが会心の
一撃クラスとなっていました。
イツキ君は相手に攻撃を仕掛けながら,
「なぜマサルを殺した!?」
と,思っていた疑問を口に出します。
すでに“シーザー”グループが
マサルを殺したことは
状況的に明らかだったからです。
シーザー「マサル?ああ,あいつのことか。」
「やはり知っていたか!」
イツキ君の予想は的中しました。
それと同時にさらなる
怒りがわいてきました。
たった二度しか会話を
していない人物にここまで
肩入れすることになるとは,
自分でも予想外だったようです。
シーザー「俺たちの計画を知られてしまったからな。」
「どういうことだ?」
一瞬,攻撃の手が緩みます。
しかし,ここままでは押されてしまうので,
いったん間合いを取るために後ろに自ら下がりました。
シーザー「何らかの意図をもって,
俺たちのアジトに隠れて侵入してきた。
その時に見られてしまったんだ。」
「お前の手引きの者がマザーの姉と
その恋人を捕まえて,
閉じ込めていたところを,か・・・。」
イツキ君は全てを理解したようです。
シーザー「そういうことだ!
こんなところから計画が漏れれば,
俺が真の意味で“皇帝”になる夢も潰えてしまう!」
彼の目的は二人の悪童を倒し,
支配下に置くことでこの地域一帯の
支配者になることでした。
シーザー「俺が真の皇帝になれば,
この街を俺の住みやすい理想の街にできる!」
「だがお前の理想のために
困る人たちが大勢出てくる。」
リク君が横から口を挟みます。
シーザー「なんだてめぇは!?
俺のやることに口を
出すんじゃねぇよ・・・ぉ!?」
そこまで言った時,
イツキ君の強烈な回し蹴りが
シーザーの首に決まりました。
シーザー「おげぇぇぇ!?」
「おまえを倒して,
警察に突き出し,
奴の墓前に報告に行く。」
彼は思わず膝をつきました。
しかし,すぐに立ち上がり,
息を整えて,
シーザー「それは無理だ・・・。」
と言って,イツキ君をにらみつけます。
「なぜ?」
シーザー「俺は皇帝だからだ。
皇帝とはすなわち絶対的な強者を表す。
俺が負けることはない!」
再びファイティングポーズをとります。
「うぬぼれるな。」
先ほどの攻撃が決まったからか,
明らかにシーザーの動きが
悪くなっていました。
イツキ君がそれを見逃すはずもなく,
上段,中断,下段とうまく
切り替えながら蹴りをお見舞いします。
シーザー「ぐっ・・・!?」
ここにいる全員がイツキ君の勝利が
近いと思った矢先のことです・・・。
第531話 お前もか・・・
エピソード0シリーズ 最終章
突然シーザーの動きが止まりました。
どうやら後ろから鋭利なナイフで刺されたようです。
刺した人物は・・・。
全員が驚きのあまり,一瞬だけ声を失いました。
しかしイツキ君がその静寂を破ります。
「なんだ!?」
シーザー「がはっ・・・!?」
彼はその場に倒れこみました。
そこにはあの絶対的な忠誠を誓ったはずの
“武瑠歌(ぶるうた)”が立っていました。
武瑠歌「・・・。
急所は外したので
死ぬことはだろう。
彼の動きを止めるには
必要なことだ。」
シーザー「武瑠歌・・・
お前も・・・か・・・。」
まだしゃべる力が残っているようです。
どうやら傷はそこまで深くないようでした。
武瑠歌はどこからか,
スタンガンを取り出し,
ナイフの金属部分に押し当てて
スイッチを入れました。
バチッという大きな音とともに,
シーザーはうめき声をあげて気を失いました。
さすがに傷口から直接電流を
流されたので当然といえば当然でした。
武瑠歌「これで大丈夫だ。」
彼が合図を送ると,
敗れたはずの楠十傑の1~3傑の
三人がやってきました。
シーザーにそう言っていただけで,
十傑の主力を温存していたようです。
どうやら彼らも武瑠歌の息が
かかっている連中なのでしょう。
武瑠歌「皇帝を・・・いや,
こいつを縛り上げてから,
例の病院へ連れていけ。」
二傑の平河と三傑の内海が
二人がかりで皇帝を運び出しました。
一傑の高尾だけは彼の後ろで待機しました。
どうやら彼を守る護衛の役目なのでしょう。
あまりのことに誰も追撃をしようとしません。
ファザー「どういうつもりだ?」
マザー「貴様はシーザーの忠実な参謀のはずだろ?」
さすがの二人も目の前で起きた出来事が信じられないようです。
武瑠歌「ご安心ください。
彼は治療後にあなた方に突き出します。
今回の陰謀は全てあの男が仕組んだこと。」
二人は食って掛かろうとしましたが,
いったんその手を止めます。
武瑠歌「参謀として改めて今回の件に
ついてお詫び申し上げます。」
そう言って,深々と頭を下げました。
「イツキ君・・・。
どうする?」
「奴が倒れた以上,
俺がここでやれることはもうない。
あとは・・・。」
イツキ君は冷静に答えます。
まだ心の整理はついていないにせよ,
真相が“ほぼ”わかったことで
少し落ち着きを取り戻したのでしょう。
マザー「お前の口から今回の
一件の真相を全て話せ!
それからうちのお姉は
無事なんだろうな。」
武瑠歌「もちろん無事です。
すでに私の直属の部下に連絡を取り,
解放の命令を出しました。
まもなく,自由の身となるでしょう。」
そしてこの後,彼の口から
今回の一件についての
詳細が語られることになります。
第532話 二度目のクーデター
エピソード0シリーズ 最終章
真夜中の2時を過ぎていました。
こんな時間に庄外(そうげ)川の堤防にて
地域一帯を支配する三大悪童が集結していました。
その一角である"皇帝"シーザーが部下の武瑠歌という人物に
討ち取られて病院へ搬送されていきました。
なぜこのような行動に至ったのか,
明らかになろうとしていました。
武瑠歌「ここからはため口で失礼しますよ。」
そう断りを入れた後,
武瑠歌「理由は単純明快だ。
あいつは悪童の名にふさわしい実力と
カリスマ性を持ち合わせていなかった。」
彼が動機をそう述べました。
マザー「ほう?」
"聖母"マザーが相槌を打ちます。
ファザー「だからお前たちで
クーデターを起こしたと?」
"頭目"ファザーが聞き返します。
武瑠歌「そうだ。
俺と先ほどの“楠十傑”の三人で
計画を立てた。」
彼の話は続きます。
武瑠歌「そもそもクーデターは
今回が初めてではない。
未遂に終わってしまったが,
以前にも実行しようとした奴がいたんだ。」
「なるほど,だからシーザーは気を失う前に
"お前もか・・・"って言っていたのか。」
リク君は妙に納得した顔で話を聞いていました。
武瑠歌「そいつの名前は
“出来 結(でき ゆい)”という男だった。」
彼の話は続きます。
武瑠歌「シーザーのやり方に不満を持ち,
同志を集めて闇討ちを実行しようとしたが,
計画がどこからかもれてしまい,
返り討ちにあった。」
「その"結"って奴はどうなったんだ?」
イツキ君が聞きました。
武瑠歌「殺されたよ。」
「警察は?」
今度はリク君が聞きました。
武瑠歌「シーザーの父親が
与党国会議員の超大物らしくてな。
県警に圧力を加えて事故死にしたらしい。」
リア「ひどい話だ・・・。」
マザーの参謀であるリアが感想を
ぽつりとつぶやきました。
武瑠歌「ただまずかったのが,"出来結"って
奴の親父もまた権力者だったらしいんだ。」
何やら話がややこしくなってきました。
トシ君が現場にいたら絶対に
眠り始める時間です。
武瑠歌「しかも,シーザーの親と政策で
敵対する同じ与党議員の大物らしくてな。」
なんだか親の代理戦争みたいな
話題となっていきました。
武瑠歌「これは俺の推測なんだが,
"出来"は自分の父親の命令で,
シーザーの汚点を見つけて世間に
公表しようとしていたんじゃないか。」
「なるほど。そうすることで
シーザーの父親の責任となり,
敵対する政治家を権力の椅子から
引きずり降ろそうと考えたわけか。」
今回の一件はかなり闇の深い部分が
関わっているようです。
武瑠歌「そして,"出来"と親友だったのが
"勝川マサル"という男だ。
幼いころに児童施設で知り合った仲らしい。」
ファザー「うん?ってことは"出来"っていう奴は
その議員の本当の子供じゃないってことか?」
ファザーの指摘は正しかったようです。
武瑠歌「どうやらそうらしい。奴はその議員の養子だった。
そのあたりの詳しい経緯まではわからない。」
「マサルが・・・。
そういうことか・・・。」
イツキ君は全てを理解したようです。
「マサルは"出来"という親友が事故死したと聞いた。
その真相を知るためにシーザーのアジトへ
潜り込んで真相を確かめようとした。
その時に,たまたまマザーの姉と恋人が
監禁される所を見てしまい,
同じように消されたってことか・・・。」
武瑠歌が静かに頷きました。
そしてさらに話を続けます。
第533話 悪童の自白
エピソード0シリーズ 最終章
武瑠歌「マサルとかいう男を
殴り殺したのはシーザー本人だ。
俺の部下がその時のことを
直接見ているからな。」
「ならばそれを警察で証言できるか?」
イツキ君が聞きます。
武瑠歌「お前が望むのであれば可能だ。」
「念のため,
本人からの自白も欲しい。」
イツキ君の目つきが変わりました。
武瑠歌「どうしろと?」
「奴が意識を取り戻したら,
身柄を引き渡せ。俺が自白させる。」
イツキ君の拳に力が入ります。
武瑠歌「いいだろう。
ただし条件がある。」
彼は二人の悪童に視線を向け,
突拍子もないことを口にします。
武瑠歌「俺を三大悪童の一人として認めてほしい。
お前たちにとってもあいつが
消えることは悪い話じゃないだろう。」
マザーとファザーの顔色が変わります。
マザー「お前が!?」
武瑠歌「どのみちこの一件であいつの
築き上げてきた地位と名誉は地に落ちる。
そんな奴を何時までも祭り上げておくよりも
新しい悪童を選出した方がこの地域のためだ。」
「シーザーは俺が必ずブタ箱へ送り込む。
当分はシャバには絶対に出させない。」
ファザーはイツキ君のその決意を聞き,
ファザー「確かになぁ。しばらくいない奴を何時までも
“悪童”としておくわけにはいかねぇなぁ。」
と,言いました。
マザー「今すぐには結論は出せないね。
そもそもシーザーが殺人を自白するかも怪しい。」
ファザー「じゃあ,俺とお前でやるか?」
二人はにやりと笑いました。
カナ「あー!アタシもゴウモンやりたぁい!
ゴウモンだいちゅきなんだー!!」
アーミーナイフを手にしたまま無邪気に
ぴょんぴょんと飛び上がりました。
リア「確かにカナは拷問のスペシャリストです。
彼女も加えれば間違いなく,
自白の証言は得られるでしょう。」
マザー「イツキ!というわけで
自白の件はこちらで引き受ける。
新悪童選出にもかかわる話だからね。」
彼女がケタケタと不気味に笑います。
「しかし・・・。」
ファザー「わざわざてめぇの手を汚すことはない。
汚れ仕事は俺たちの専売特許なんだ。」
彼も同じように不気味な笑みを浮かべています。
よほど人を痛めつけることに快感を覚えるのでしょう。
マザー「お前はリクって奴とムシ採りでもしているんだね。
必要があれば呼び出すかもしれないが。」
武瑠歌「では,俺が悪童になれるかの正式決定は,
シーザーのことが片付いてからというわけだな。」
ちなみにこのやりとりはイヤコムを
通して全ての幹部が聞いていました。
二人の悪童が前向きに検討していることで,
唱える幹部は誰もいませんでした。
この後すぐに,囚われていた二人が
解放されて無事が確認できたという報告がありました。
大勢の負傷者を出し,
一部のチーム内のメンバーは後に
死亡が確認されたという痛ましい
大戦は全く表ざたにはなりませんでした。
二人の悪童の親が全てもみ消したようです。
川周辺の後始末も完ぺきだったとのことです。
ちなみに川周辺一帯を大規模クラスで立ち入り禁止に
されていたことも彼らには好都合でした。
どちらかの親がそれを親心で
実行させたのでしょう。
やはり悪童はどこまで行っても悪童で
同じ穴のムジナだとリク君はそう思いました。
そして物語の時間軸は
8月16日午前の“今”へと戻るのです。
第534話 大戦の爪痕
エピソード0シリーズ 最終章
―8月16日午前 緑地公園噴水広場にて―
「思い出したな?」
「ああ。」
リク君は頷きました。
「じゃあ俺はこれ以上何も言わない。」
「ああ。」
再び頷きます。
「オレは何があっても
一度決めたことをやり抜く。」
リク君の目に輝きが戻っていました。
「いつものリク君に戻ってきたね。」
「そうですよ!
だぬたちもついていきますよ。」
だぬちゃんも自然と
笑みがこぼれました。
「うん!あたしもがんばる!」
まさらちゃんがリク君の
手を取って,励ましました。
「オイラも・・・。」
トシ君が口を開こうとしたとき,
別の声にかき消されました。
その声の主はファザーでした。
ファザー「こいつもさっき言おうとしていたが,
新しい悪童が決まったぞ。」
そう言って,マザーをにらみました。
マザー「シーザーは傷害致死容疑で
身柄を拘束された。」
どうやらこっちの世界では小学生高学年でも
逮捕・起訴されてしまうようです。
「じゃあ・・・。」
ファザーが話を続けます。
ファザー「俺たちは“武瑠歌”を悪童として
認めることにした。」
マザー「奴が持っていた縄張りと部下を"ほぼ"
そのまま引き継いだってことになりそうだ。」
彼女の言い方には含みがありましたが,
彼女は話を続けます。
マザー「あいつの親父も失脚するみたいだな。
風の噂だと明日のネットニュースで今までの
悪行が全国的に報じられるらしい。」
「逮捕までずいぶん時間がかかったけど,
これで少しはマサルって人の魂が浮かばれるといいね。」
リク君はイツキ君の肩を軽く叩いて,
慰めの言葉を言いました。
「ああ・・・。
そうだな。」
イツキ君は続けて,
「お前のとこの裏切り者は
どうなったんだ?」
と,裏切り者の白虎について聞きました。
ファザー「あいつは破門だ。
二度と我々の縄張り内で
でかい顔をさせない。」
さらに追加で,
ファザー「もちろんたっぷりとお仕置きはしたけどな。」
と言ってニヤリと笑いました。
「あの・・・つかぬことを
お聞きしますが・・・。」
だぬちゃんがおそるおそる
手を挙げて聞きます。
「今回の大戦で死んじゃった人が
いるって本当ですか?」
場が一瞬静まり返ります。
マザー「うちの配下のメンバーで
二人だったな・・・。
幹部は大けがこそしても
死んではいないが・・・。」
ファザー「俺のところは4人も死んだ。」
それはお互いの部下たちの
争いの中で起きた悲劇でした。
死んだ者の中には,生前仲の良かった
メンバーもこの中に含まれているため,
二人の悪童とその配下達がなれ合って,
関係が良くなることはありえませんでした。
これからもそれぞれの縄張りを意識しつつ,
不可侵としていくことだけを決めました。
このように今回の大戦(おおいくさ)に
よる被害の爪痕は大きいようです。
第535話 エピローグ
エピソード0シリーズ 最終章
この後、いくつかやり取りをした後,
二人の悪童とその配下達は去っていきました。
その場に残っていたリク君たちは自販機の
アイスを買ってきて食べ始めました。
「そうだよ!これこれ!」
トシ君があっという間に平らげます。
「リク君、本当にもう大丈夫?」
まさらちゃんがアイスを片手に
リク君の顔をのぞき込みます。
「うん。イツキ君が
少年昆虫団結成の時の決意を
思い出させてくれたんだ。」
リク君はまさらちゃんの瞳を見つめながら,
決意を込めた言葉で返しました。
「何があっても目的をやり遂げるって。
中途半端な覚悟でやらないって!」
「・・・。」
隣でイツキ君が黙って聞いています。
「オレの夏休み中の目標は
絶対的"悪"の組織である,
“御前”を中心とする闇組織JFの壊滅だ!」
「そうは言っても,
夏休みは残り2週間しかないですよ?」
だぬちゃんが少し心配そうに言います。
「オイラもみんなのことは責任をもって守るからね。」
レオンさんの言葉に勇気づけられました。
リク君は庄外川の一件について
思い返してみました。
そして何か腑に落ちないことがある,
という顔をしていました。
「その顔はまた何か考え込んでいるな?」
イツキ君には見抜かれていました。
「いや,ちょっとね・・・。」
「言ってみろよ。」
イツキ君が催促します。
「今回の色々なことなんだけど,
どうも全てあの“武瑠歌”って奴に
うまくいきすぎてると思わない?」
「そうか?うーん・・・
まぁそういわれればそうかもな・・・?」
イツキ君はそこまで
共感できなかったようです。
「まぁ、考えても仕方ないし!
この後は、一日昆虫採集をやろう!」
「いやいや・・・!
あ,それよりも,壊れちゃった
アミがどうするのさ!?」
トシ君は昆虫採集に
行きたくなかったので
話題をそらしました。
しかし,その問題は極めて
重要なことでした。
「そうだった・・・。」
リク君は残っていた天照を
握りしめ,何かを思い出していました。
その時,レオンさんのイヤコムに
誰かから連絡が入りました。
「ごめん!ちょっと用事が入ってしまった。
また午後に連絡を入れるよ!」
彼はそう言って,急ぎ足で公園の出口に
向かっていきました。
少年昆虫団はとりあえず,
レオンさんから連絡が入るまで,
昼食をカフェオーシャンで摂って,
その後は図書館で過ごすことにしました。
ちなみにこの場には,
当事者である新悪童に選出された
武瑠歌とその配下達は
誰も来ていませんでした。
どうやら態勢を立て直すのに忙しいようです。
庄外川の大戦から約1か月たち,
ようやく新悪童が決まったため,
無理もないのかもしれません。
―元シーザーがアジトとして利用していた地下街の飲食店にて―
楠第一傑の“高尾”が店の一番奥に
座っていた武瑠歌に声を掛けます。
高尾「武瑠歌さん,チームの再編などは
滞りなく終わっています。」
武瑠歌「俺のことはこれから"カイザー"と
呼べと言っているだろう!」
威圧的な態度でにらみつけます。
高尾「失礼しました!三大悪童に
なられたカイザー様!」
武瑠歌「ふふふ・・・。
ようやく実感がわいてきた・・・。
ここまで長かった・・・。」
彼は不気味な笑みを浮かべました。
武瑠歌「全ては俺の壮大な
計画の一部に過ぎない!」
高尾「おおっ・・・!」
どうやら今回の騒動にはこの男が大きく
かかわっていたようですが,
全てが明らかになるのは
もう少し先のお話になりそうです。
エピソード0シリーズ ~最終章~ 完
第536話 天照と月読の秘密 前編
今回のお話はリク君たちが
御前と戦う前の出来事になります。
時期は8月上旬のうだるような
暑さが続く日のある昆虫採集の一幕。
少年昆虫団は大牧山へいつもの
昆虫採集に来ていました。
レオンさんも一緒でした。
ここは山道もそこそこ幅があるので
多少横に広がって進んでも問題ありませんでした。
みんなはライトを手に,
固まりながら歩みを進めていきます。
「さぁ,もうすぐお目当ての木があるぞ!」
どうやら事前に樹液の出る木を
見つけていたようです。
昆虫採集でカブクワを見つけるコツは
罠を張ることも有効ですが,
事前に樹液の出る木を見つけておき,
夜にそこを訪れることです。
「たしかこの辺りでしたよね・・・。」
すでにだぬちゃんは顔が疲れていました。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ!これくらい!
たいしたことありません!」
隣でトシ君がゼーゼーと
息を切らしていました。
「もう帰りたい・・・。」
「あ,あの木だ!」
事前に布を枝にくくりつけて,
目印をつけておいたのですぐに
見つけることができました。
布を回収すると,
樹液の出ている所に
ライトを当てます。
しかし,見つかるのはガやゴキ,
そしてカナブンばかりでした。
「どうやらいないみたいだな。」
レオンさんが少し残念そうに言うと,
「いた!」
リク君が声を上げました。
彼が指さす場所は,ずっと高い所でした。
どうやら樹液が出ていた所は
一か所ではなかったようです。
「よく見えますね,あんなの・・・。」
だぬちゃんが感心しています。
「でもさすがに無理じゃないかな?
10m以上あると思う・・・。」
まさらちゃんは見上げながら言いました。
「大丈夫!」
リク君は背中に差してあった
二本の捕虫網を取り出しました。
"天照"と"月読"です。
まだこの時点では二本とも健在でした。
「たまにはあれをやってみるか!」
リク君は"天照"と"月読"を垂直に立て,
地面から少し浮かせて持ちました。
手元にあるいくつかのボタンの
2つをそれぞれ同時に押すと・・・。
なんと,棒の先から少しずつ
炎が見え始めました。
「おいおい・・・。」
その炎は勢いを増し,
煙をまき散らします。
そしてリク君の体はまるで
ロケットのように静かに浮き始めます。
ゴゴゴゴゴ・・・。
彼はあっという間に10mほど
上空へ打ち上げられ,
器用にも太い木の枝に飛び移りました。
「よしっ!」
彼の破天荒な昆虫採集は続きます。