リクの少年昆虫記-過去のお話-

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目次


第401話~第404話

2022/1/15

第401話 それぞれの前哨戦 前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
7月26日 岐阜県 各務原山



岐阜県各務原市と愛知県の境に各務原山

(かかみがはらやま)という山がありました。





<各務原山全体図>



リク君たちが黄金原や影と対峙した広場は,

東ふもとを小一時間ほど登ったところにありますが,

この地図では省略してあります。(75話参照) (291話参照)



二つのふもとから登頂が可能で西ふもとには

西山道,東ふもとには東山道があります。



それぞれのふもとと中央にも駐車場があります。

ただし中央付近から登る山道はありませんでした。



西山道は道幅も広く,勾配も緩やかで登りやすく,

展望台から山頂までつながっています。



一方で東山道は分岐点で展望台と山頂の道に分かれ,

中山道を進むと展望台へ到着します。



勾配もきつく登りにくいのですが,

クヌギやコナラの木が多く生えていて,

昆虫採集には適しています。



また,山道以外に多くの獣道が存在し,

それらが複雑に入り組んで山道につながっています。



今回ここで起きた様々な出来事はこの獣道が,

ポイントになっていたのでした・・・。



菊の赤神氏とレオンさん,そして急遽東京からやってきた同期の紺野氏は,

まだ日が高い時間からこの山に来ていました。



この場所で今日,闇組織JFが何かの作戦を実行するかもしれない,

ならばそれを機に多くの幹部達をここで逮捕するつもりでした。



しかし,極秘任務のためあくまで三人という少人数で,

臨むことになっていました。



18:30 各務原山 山頂





晴れていれば山頂から見下ろす景色は木曽川を一望でき,

その向こうには猫山という地名の街並みが広がっていました。



しかし天候は悪く,空は薄暗くなり,

町の明かりがポツポツとひかり始めていました。



三人は山頂で警戒しながら身を隠していました。



すでに一般客や登山者は下山し始め,

人気(ひとけ)も少なくなっていました。



赤神氏が少し不安になっていると,

その様子を見かねたレオンさんが声をかけました。



「奴らはきっときます。作戦は成功します。」



赤神「そうだな。一網打尽にしてやる。

残念なのは青山たちが間に合わないことだな。」



当時はまだ,全員が集結することは叶っていませんでした。



赤神「まったく,上の連中は何をもたついているんだかなぁ・・・。

“室江さん”も人が悪い・・・。」

「あ,でも青山さんは少し前まで各務原にいたみたいですよ。

なんでも古い友人に会う用事があるとかで・・・。」




レオンさんが赤神氏にそう言いました。



赤神「何?そうだったのか・・・。」



赤神氏はタイミングがずれてしまったことを少し悔やみました。



紺野「じゃあ,そろそろそれぞれの持ち場につきましょうか。」



紺野氏は一足早く西山道を降りていきました。



赤神「常にイヤコムはONに。何かあったら逐一報告を頼む。」



赤神氏は山頂にて待機し,紺野氏は展望台へ,

レオンさんは東山道の来た道を戻り,

獣道へ入り,山の中腹で待機することになっていました。





彼らがJFの作戦を知りえたのは灰庭さんから,

レオンさんへ情報のリークがあったからでした。



しかし,この時はまだ情報源は赤神氏には知らせず,

可能性があるという言い方で濁していました。



また,リク君たちが廃公園でこの話を聞いている際も,

その場に東條がいたので,彼らが各務原山に来て,

待ち伏せることができた理由については語りませんでした。



この時点で時刻は18:40を過ぎていました。



リク君たちはキングの店長の車で各務原山に向かっていました。



レオンさんと知り合う前はよく伊藤店長に,

あちこち連れて行ってもらっていたようです。



ただし,店長は山には入らず,

ふもとの漫画喫茶で時間をつぶしていました。



仕事が終わった後,山を登って昆虫採集をする気力はなかったようです。



ちなみに少年昆虫団の到着は,時系列的にはもう少し後です。

リク君たちがこの山に到着するのは19:30でした。



一方,バベルで事前に打ち合わせを行い,山犬,海猫,川蝉の3ユニットによる,

"漆黒の金剛石合同捕獲作戦"は実施させることになりました。



作戦コードは“BD”と名付けられていました。



藪蛇と森熊は支援に回ることになっていました。



アヤは部下であるマヤという女性を現場に送り込み,

現場の様子を本部へ報告する役割を担っていました。



源田は支援部隊として精鋭部隊の梟(フクロウ)と鶴(ツル),

雉(キジ),鳶(サギ)の4小隊を現場へ派遣しました。



さらに直属の部下である暗殺のプロ,

冥界の悪魔(キラー)も現場に向かわせました。



バベルから支援に専念する,源田とアヤ。



指令本部が置かれた一室にて・・・。



源田「今回の作戦で“必ず漆黒の金剛石を見つけよ”との“勅命”だ。」

アヤ「あら,御前もせっかちねぇ・・・。」




アヤは源田の隣へやってきてそう言いました。

しかし,彼は視線をアヤに合わせようとはしません。



アヤ「作戦は現場に任せておいて,

アタシ達はもっと楽しいことしましょうよ。」



アヤの手にはワイングラスを持っていました。

どうやらすでに飲んでいるようです。



源田「貴様はもう下がっていろ。ここは俺が仕切る。」



源田はアヤの不真面目さに,

愛想を尽かせている様子でした。



アヤ「アタシとダンスホールで踊る気・・・ないのかしら?」

源田「ない。作戦の邪魔だ,消えろ。」



源田ははらわたが煮えくり返るほど,激高していました。



アヤ「だからモテないのよ!!」



彼女はもはや毎度おなじみの捨て台詞をはきます。



アヤ「つまらない男!それにアタシたちが何かしなくても成功するわ。

3ユニットの幹部がそろっているのよ。それにマヤもいるんだし。」



源田はようやく冷静になり,



源田「油断は禁物だ。我々の邪魔をするために,

“あの連中”が刺客を放った可能性がある。」



と,言いました。



源田の表情は終始険しいままでした。

仕方なく,アヤは部屋を出て,

どこか行ってしまいました。



第402話 それぞれの前哨戦 中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
闇組織JFの作戦開始は20:00となっていました。



集合場所は西ふもとです。



しかし,この時間よりも早く到着したユニットがありました。



今村率いる海猫と東條率いる川蝉でした。



部下の運転する車の,

後部座席の中心に座っている男こそ,

川蝉の東條でした。



そこが彼の特等席だったのです。



車は19:00に到着し,すぐに登山の準備しました。

準備を手早く済ませ,西山道へ入りました。



少し遅れて,19:30に海猫が到着しました。



なぜこのようになったかと言えば,

彼らは直前までそれぞれの任務を遂行しており,

現地集合となっていたのです。



しかし,東條は彼らよりも先に漆黒の金剛石を見つけるために,

早く到着して山道へ入っていったのです。



一方の今村氏は作戦開始時間よりも早く到着しましたが,

ふもとにて定刻まで待つことにしました。



ちなみに東條は早く到着したことを悟られないように少し離れた場所に車を止め,

歩いて西ふもとまでやってくるという徹底ぶりでした。



19:00 各務原山 西ふもと





東條「さて,登るよ。まずは展望台を目指す!」



東條は二人の部下に指示を出しました。

荷物持ちは彼らの仕事です。



東條はお気に入りの某大陸半島の民族衣装は身に着けず,

黒いテンガロハットと黒のコートを身にまとっていましたが,

その下は動きやすい格好をしていました。



ただし,腰には日本刀を下げていました。



この時間帯なら一般登山者の立ち入りは禁止されているので,

見られる心配はないと考えていたようです。



東條の部下は二人とも30半ばの男で,

名前をそれぞれ木戸と佐藤と言いました。



佐藤と呼ばれる男はやせ細っていて,

いかにも気弱そうで雰囲気は山犬の古賀に似ていました。





<ユニット川蝉・準幹部 佐藤>



もう一人の木戸という人物は太った体型で,

黒い丸ぶちの眼鏡をかけ,いかにも能天気なパワータイプに見えました。





<ユニット川蝉・準幹部 木戸>



木戸「東條さん,ホントにこの山登るんですかぁ・・・。しんどいっす!」



木戸はたくさんの荷物を持たされたので,

登る前から不満を言っています。



顔には大量の汗もかいています。

どうやら極度の暑がりと汗かきな体質のようです。



東條「文句言うならここで殺して置いてくよ!」



東條は笑顔でそう言いました。



佐藤「木戸さん,行きましょう。ホントに殺す気ですよ・・・。」



隣にいた佐藤が小さい声で言いました。



木戸「行きますよ!行きます!」



同時刻,バベルの本部では・・・。



海猫よりあと30分ほどで到着するという連絡は入りましたが,

東條から到着したという報告はありませんでした。



源田「今回の作戦で漆黒の金剛石を再発見し,軍医に渡す。」



本部は学校の教室二クラス分ほどの広さになっており,

壁際には多くのモニターが並んでいました。



手前には連絡用の通信機なども置いてあり,

中央部には各務原山の地形図がありました。



数十名の部下がモニターや機器を操作し,

作戦開始に備えていました。



彼は指令用の座席につき,

作戦開始の時間を待ちました。



アヤは先ほどまでここにいましたが,

どこかへ行ってしまいました。



代わりに入ってきたのが石井軍医でした。



石井「頼むよ。私の研究が完成するかどうかは,

君たち次第なんだからね。」



源田「わかっています。ご安心を。調査の結果,

高確率であの山に存在しています。」



源田は自信ありげに答えました。



石井「何せ,御前の“大望”を叶えるためには,

ワシの研究が絶対に必要なんだからねぇ。」



彼はキヒヒヒ・・・と不気味に笑いました。



石井「この特等席で作戦の成り行きを見せてもらうことにするよ。

山本がヘマでもしたら蔑(さげす)んでやるとしよう。」



彼はアヤが座るはずの指令用のひじ掛けのついた,

豪華な飾りのついた木製の席にどかっと腰を下ろしました。



第403話 それぞれの前哨戦 後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 中央ふもと 19:00



東條が到着したのと同時刻,冥界の悪魔(キラー)と,

源田の指揮下にある精鋭部隊,

藪蛇のマヤという女性が数台のバンに乗って到着しました。



この場所には獣道はあっても山道がありませんでしたが,駐車場があり,

その両側からそれぞれのふもとにある駐車場に歩いて行くことができました。



このメンバーはそれぞれのユニットに何かあった場合,

東西どちらにもすぐに駆けつけられるように,

この場所で待機するように命じられていました。



山根「キラー様。全ての準備が整いました。いつでも出動できます。」





<“梟”のリーダー 山根>



梟のリーダーである山根はキラーに報告をしました。



冥界の悪魔「ご苦労様。でも我々の仕事は彼らに何かあったら動く。

何もなければ作戦終了まで暇をつぶすだけ。」



三井「はっ!承知しました。しかし何かあれば,

我々の力を思う存分お見せする次第であります!」





<“鳶”のリーダー 三井>



山根の隣でタバコを吸っていた,

三井という鳶(とび)のリーダーが,

大きな声で威勢よく返事をしました。



雉(キジ)のリーダーである“刈谷”と鶴(ツル)のリーダー“牛尾”は,

作戦に向けての最終確認をしていました。





<“鶴”のリーダー 牛尾>



ちなみに精鋭部隊“鶴”は後に,イツキ君誘拐事件の時に,

イツキ君が逃げ出さないように監視していた部隊です。(第129話参照)



結局,イツキ君とレオンさんに倒されてしまうわけですが・・・。



“雉”は後のキャンプ場暗殺計画で挟み撃ちを命じられ,

レオンさんに全滅させられた部隊でした。





<“雉”のリーダー 刈谷>



さらに組織が放った火による山火事に巻き込まれ,

全員が死亡するという運命が待っています・・・。(第357話参照)



冥界の悪魔「そんなに頑張らなくても,何も起きないよ。きっと・・・ね。」



このやりとりを藪蛇のマヤという人物が見ていました。



彼女はショートカットの黒髪で目つきが鋭く,

身長は170センチを超えていました。





<ユニット藪蛇・準幹部 マヤ>



何らかの格闘技を習っているようで引き締まった躰をしていました。

彼女は一言も発することなく,本部からの指令を待っていました。



各務原山 西ふもと 19:30



海猫の三人が集合場所に到着しました。





牟田は車から降りるなり,



牟田「少し,早く到着しましたね。」



と言うと,



今村「ふぉっふぉっ。他のユニットはまだ来ていないようですね。」



と,言いながら辺りを確認していました。



実はすでに川蝉は入山していたのですが気づいていませんでした。



一番最後に助手席から山下が降りてきて,



山下「用意はできています。いつでもいけますよ。」

今村「しばし,待ちましょう。果報は寝て待て,ですよ・・・。」



各務原山 東ふもと 20:00



駐車場に一台の車が到着しました。



しばらくすると,山犬のメンバーが,

電灯の明かりに照らされながら降りてきました。



南雲「時間ギリギリになってしまいましたね。」

古賀「山本さん,ここは作戦の集合場所とは違いますけど本当にいいんですか?」



古賀が山本に聞くと,



山本「かまわねぇ。同じ道をみんなで仲良くなんて無能のやることだ。」

南雲「そういえば,先ほどから本部への連絡がつながらないんですが・・・。」



南雲は到着した時に,本部へ連絡を入れたのですが,

つながらず,今一度試してみたところでした。



山本「故障だろう。イヤコムが通じるなら問題ない。」



未来通信機器"イヤコム"と通常の無線は別の構造でできているので,

遠距離の無線はだめでもイヤコムだけはつながる,

という現象はあり得るのです。



彼らは特に問題にすることもなく東山道へと入っていきました。



―遡ること半日前―



オレンジ色の髪をした人物がこの山のふもとに立っていました。

まるで獅子のような髪を後ろに束ねたその人物は山へと入っていきました。





背中には大きなギターケースを背負っていましたが,

中身はライフル銃とショットガンなどの銃火器でした。



彼は闇組織JFの人間を殺害するために派遣された暗殺者だったのです。



彼を派遣した団体は,オランダの製薬会社が

闇世界で牛耳る"ダーストニス"でした。



この企業は表向きは巨大な財閥企業でしたが,

裏では欧州のマフィアを牛耳る巨大な悪の組織でした。



彼らは闇組織JFの存在と彼らが行っている闇家業に薄っすらと気づいており,

日本での勢力を伸ばすため,JFを壊滅または屈服させようと企んでいました。



そのために日本に派遣されてきたのが,

伝説の暗殺者,マコト・セルジュという人物でした。



年齢,国籍,本名,すべて不明だとされています。



愛用の“レジェンド・マスター”という英国製の狙撃銃を使い,

多くの要人や指導者を暗殺してきた経験を持っていました。



今回は,闇組織JFの幹部がこの山に入ると

いう情報をつかみ,潜入を開始していました。



セルジュ「・・・。」



いよいよ,この各務原山で少年昆虫団,菊水華,山犬,海猫,川蝉,

冥界の悪魔&精鋭部隊,暗殺者の思惑が交錯する時がやってくるのです。



第404話 少年昆虫団パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
東ふもとから少し進んだ山道にて 19:40





少年昆虫団は曇天模様の空の下,昆虫採集に励んでいました。



やる気があるのはリク君のみで他のメンバーはやる気がなく,

特にだぬちゃんは天気を心配していました。



「この後,雨が降るようでしたよ。」



だぬちゃんの言葉が茂みの中にむなしく消えていきました。



彼らは,各務原山の東ふもとから入り,

10分ほど進んだ場所を歩いていました。



めぼしい木を探してみますがなかなかカブクワには出会えません。



まさらちゃんは立ち止まって水筒に入っていたお茶を飲みます。

リク君はその様子を見て,その場で少し休憩することにしました。





まさらちゃんが休憩中にふと,



「漆黒の金剛石について何かわかった?」



と,リク君に聞きました。



当時はまだノアの書も手に入れておらず,

彼らにとってはわからないことだらけでした。



リク君は自分の考えを説明ました。



しかし,その考察は今では間違っていたことがわかっています。



「しっ!誰かいるぞ!?」



イツキ君はその場にかがんで身を隠し,

みんなにも同じ姿勢をとるように手で合図しました。



茂みの向こうを走っている影は東條率いる川蝉でした。



彼も黒い服に帽子をかぶっていたので,イツキ君は以前,

遭遇した山本だと勘違いしたようです。



何か急いでいるようですぐに消えていきました。

結局,彼らの姿は一番後ろを歩いていたイツキ君しか見ていません。



「虫も怪しい人も怖いよぉ・・・。」



遠くで雷の音が聞こえます。



「まだ大丈夫だな。雷の音はかなり遠い。」



リク君は安全を確認すると先へと進み始めました。



各務原山 分岐点到着 20:10





「あれ?これってどっちに行くんだっけ?」



まさらちゃんが分岐点に立っている

案内板を見て首をかしげました。



「あれ?案内板が変な風に見えますよ・・・。」



実はだぬちゃんは疲労で目の前の案内板が,

しっかりと見えてなかったようです。



本物の掲示板はこのようになっていたのです。





<本物の案内板>





<だぬちゃんが見ていた幻覚の案内板>



「どっちでもいいだろう。

さっさと採集して終わらせよう。」




イツキ君もだぬちゃん同様に早く帰りたがっています。



理由は雨が降りそうで蒸し暑く,

少しでも早く近くの温泉に入りたかったからです。



「あれ?この立札の裏にも細い道がありますよ?獣道っていうんですか。

良く見ると案内板にも書いてありますね。」




実はこの分岐点にはもう一つ細い獣道があったのです。



「そんな細くて狭い道なんか通りたくない!」



結局,東山道を通り,山頂を目指すことに決まりました。

採集をしながらどんどんと山道を進んでいきました。



各務原山 山頂手前 20:45



さすがに勾配がきつく,疲労が出てきたので,

もう一度だけ休憩することにしました。



「山頂まで行けばゆっくり休めるのに~!」



リク君は不満そうでしたが,

まさらちゃんとトシ君の抗議は受け入れられました。



「もう帰りましょうよ~!」



だぬちゃんはここまできても撤退を要求していました。



だぬちゃんが泣き言を言っていると,

山道から誰かが歩いてくる気配がしました。



これが彼らと二回目の遭遇となるのでした・・・。





第405話~第408話

2022/2/12

第405話 少年昆虫団パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 東山道 山頂手前 21:00





少年昆虫団は山頂手前の少し広くなった山道でそれぞれが

腰を下ろして15分ほど休憩することにしました。



そして休憩を終えようとした時・・・。

ユニット山犬のメンバーが目の前に現れました。



山本「久しぶりだな,小僧ども。」





リク君はすぐに身の危険を感じ,

手に持っていた捕虫網を構えました。



しかし,このアミは天照(アマテラス)と月読(ツクヨミ)ではなく,

カブクワキングで購入した少し丈夫なただのアミでした。



彼の技に耐えることはできないのですが,

リク君はそれを覚悟で構えたのです。



「お前達は・・・!カブクワを大量に殺した連中!」



少年昆虫団は彼らのことを“漆黒の追跡者”と名付け,

警戒していました。



今となっては漆黒の金剛石が組織の手に入ったため,

この名称は不釣り合いなのですが,

彼らはまだその事実を知りません。



山本は最初に遭遇した時に気がかかりだったことを思い出し,

こちらの道を選んで少年昆虫団を追ってきたのです。



山本「まさか,また出会えるとはな。神に感謝だ。」



「神なんて信じていないくせに・・・。」



イツキ君が軽蔑したような目で彼をにらみました。



山本「神はいるさ。人が神になればいい・・・!」



山本が何を言っているのかよく理解できず,

呆気にとられていると,

リク君はアミを山本に向け,

彼を間合いから遠ざけました。



山犬は,なぜリク君がカブトムシを殺害したのが,

自分たちだと確信を持てたのか気になっていたのです。



リク君はその疑問に対して,カブトムシが湿ったまま死んでいたから,

何か薬品を注入されて殺された可能性があったと答えました。



彼の説明はわかりやすく,闇組織の連中も納得したようです。



山本はきめ細かく昆虫を観察する少年に対して,

“平成のファーヴル”と名付けました。



そして,組織の秘密を知ってしまった以上は,

子供でもこの場から逃がさずに殺害することを決めます。



都合よく,組織の精鋭部隊が待機しているので,

死体の処理は彼らに任せればよいのです。



その時,雨が降り出しました。

とうとう嵐がやってきたのです。



少年昆虫団は隙を見て逃げ出そうとします。



山本「逃がすな!追えっ!」



古賀がすかさず追いかけると,



リク君の放った大地一刀流奥義,

“愛・地球博”によって古賀を戦闘不能にします。



だぬちゃんは当時,ものすごく驚いていましたが,

リク君の戦闘をまともに見るのが,

ほぼ初めてだったので仕方ありません。



しかし,実はイツキ君はリク君の強さを十分に知っていたので,

特に驚くことはありませんでした。



雨に続いて霧も出てきました。



持っていた懐中電灯で照らしても前がよく見えません。

リク君はみんなを逃がした後,自分もただちに後を追いました。



一度,山頂まで登り,そこから西山道を通り,

展望台経由で西ふもとまで逃げるつもりでした。



そこで彼らは展望台にいた海猫の三人とすれ違うのです。

仏の今村は少年昆虫団を追いかけようとしますが・・・。



リク君たちはこの後,どのようにして

ふもとまで撤退したのでしょうか・・・。



第406話 闇組織JF 山犬パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 東ふもと 19:55





山本が運転する車が駐車場に止まりました。



彼らは作戦開始の集合場所であった,

西ふもとではなく東ふもとへ来ていました。



車から降りると,手際よく準備を終え,山の中に入って行きました。



各務原山 東ふもとから少し進んだ場所にて 20:10



少年昆虫団が分岐点まで到着した時間です。





山本は山歩きにはそぐわない黒いスーツを身にまとい,

一番後ろを歩いていました。



実はこのスーツは防弾仕様で,

全ての幹部に支給されていたのです。



南雲「到着した時に本部と連絡を取ったんですが,音信不通になっていました。

車の中で連絡を取った時はまだつながっていたんですが。」

山本「何かの機械トラブルか・・・。イヤコムが生きていれば問題ない。」



山本はこの件について特に気にすることはしませんでした。



組織が使うライトは天候が悪く,月明かりが無くても,

周囲を十分に照らせるだけの性能を持っていました。



ただし,全員が同時に使うと目当ての昆虫が逃げしまう可能性があるので,

先頭を歩く古賀が代表して持っていました。



あとの二人は小型のペンライトで足元を照らしていました。



南雲は筋肉質な体形で力仕事が主な役割だったため,

大きなバッグを背負っていました。



中には漆黒の金剛石を見つけるための薬品と注射器,

万が一の事態に備えて銃火器などの武器や暗視ゴーグルが入っていました。



山本はそれとは別に愛用のグロッグと呼ばれる拳銃を,

常に内ポケットに忍ばせていました。



南雲「今回の捜索は3ユニットの合同なんですよね。

作戦の立案は源田さんですか?」

山本「そうだ。」



山本と南雲は先頭の古賀が照らす明かりを頼りに歩き続けます。



南雲「なるほど。だから源田さんやアヤさんも協力してくれているんですね。」



実は捜索隊は山犬,海猫,川蝉の合同作戦でしたが,

支援隊として藪蛇と森熊も参加していたのです。



後に山本が源田に「お前も関わっていた」と,

言ったのはこういうことだったようです。(第185話参照)



山本「ああ,源田とアヤは本部にいるが,こちらとは常につながっているはずだった。

無線さえ無事ならな。あとは冥界の悪魔(キラー)が中央付近で待機しているそうだ。」



キラーと精鋭部隊はすでに準備を整え,万が一に備え待機していました。



古賀「藪蛇からは闇の騎士(ダークナイト)の黄金原さんが派遣されているんですか?」



黄金原とは菊水華に潜入していたスパイのことでした。(第185話参照)



三人は少し急な勾配の道もなんなく進んでいきます。



山本「いや,あいつは菊で何か動きがあるかもしれないとかで,動けないらしい。」

古賀「じゃあ,マヤさんですか?」



マヤというのは藪蛇のリーダーであるアヤの,

唯一の部下である人物でした。



山本「おそらくな。」



短時間でかなりの山道を登り,

大きなクヌギの木までやってきました。



南雲と古賀は周辺を探し,

5匹ほどのカブトムシを見つけました。



二人はそれらのカブトムシに注射器を使って,

手際よく薬品を注入していきました。



南雲「どれもダメですね。全部死んでしまいました。」

古賀「こちらも同じです。“神の遺伝子”を持った,

“漆黒の金剛石”なら,死ぬことはありませんからね。」



辺りには無色透明な液体を打ち込まれ,

無残な死骸となったカブトムシが散らばっていました。



南雲「でも,石井軍医の開発したこの薬品はあてになるんですかね。

今のところ一度も反応が無いんですが・・・。」

山本「奴のことは気に入らねぇが,仕事はできる男だ。間違いはないだろう。」



山本と石井軍医は犬猿の仲でしたが認めているところもあるようです。



古賀「それだけ存在する確率が低いってことですよね。」

山本「だから,価値がある。御前の“大望”を叶えるためには絶対に必要なんだ。」



彼らのボスである“御前”とはいったい何を企んでいるのか・・・。



まだまだ多くの謎が残ります。



第407話 闇組織JF 山犬パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
山犬は他にもいくつか気になるポイントを探索し,

カブトムシを見つけては薬品を注入するという作業を繰り返していました。



作業を続けながら,南雲が山本に,



南雲「そういえば先ほど本部とまだ連絡がついていた時に,源田さんから聞いたんですが,

我々を狙っている人物がいるかもしれないという情報をつかんだみたいです。」



と,急に思い出したように話しかけました。



山本「確かか・・・!?」



山本は作業をしていた南雲の方を見ました。



南雲「それと,そういえば例の会社なんですが潰れてしまったらしいですよ。

わが傘下の"ジャファ・メディカルアソート"のことです。

その二点の報告を源田さんから受けていました。」

山本「オランダのあの会社が敵対的買収を仕掛けたって話は本当だったのか。」



オランダの会社とは異国の闇組織"ダーストニス"を支配に置く企業を指しているようです。



古賀「それが本当なら,我々の縄張りに入ってきた,というわけで怖い話ですね・・・。」



彼の耳にもダーストニスの存在と危険性については,

以前から入ってきていました。



古賀「そのオランダの会社が腕利きの暗殺者を雇ったとか。

ちょっと前にアヤさんが言っていました。」

山本「オランダの製薬会社,ダーストニスの連中・・・。

暗殺者が現れたら返り討ちにしてやるさ。」



古賀が話を続けようとしましたが,南雲が話の腰を折ります。



南雲「ちょっと一服を。」



南雲は持っていたシュガーライトという煙草に火をつけました。

この煙草は甘い香りがするので,人を選ぶ銘柄のようです。



山本に火の扱いに注意しろと注意されると,



南雲「雨が消してくれますよ。」



と,気にする様子はありませんでした。



古賀は南雲がたばこを吸っている間に水分を補給していました。





各務原山 分岐点到着 20:30



リク君たちがここを通り過ぎてから約20分後・・・。

闇組織JFの山犬は分岐点にて立ち止まっていました。



どちらに行くか迷っている様子でした。



当初の作戦であれば,西ふもとから登って展望台を経由して,

山頂へ向かうことになっていました。



山本「このまま山頂だ。寄り道せず山頂へ向かう。」



彼は足元に残されていたまだ新しい複数の子供の足跡に注目しました。

その足跡は以前,出会った少年が履いていた靴の足跡と同じだと覚えていました。



どうやらその時に会った少年たちに聞いておきたいことがあるらしく,

展望台を経由せず,山頂を目指すことになりました。



"漆黒の金剛石"の探索は一時中断し,

登山ペースを上げて山頂を目指しました。



そして,山頂手前で少年たちを見つけ,問い詰めることに成功しました。



しかし,急な雨と霧により,逃げられてしまい,追いかけますが,

部下の一人である古賀が返り討ちにあい,動けなくなってしまいました。



二人は古賀を置いて山頂から西山道を下っていこうとしました。



南雲「ちっ!!どこへ行きやがった!!

雨と霧でライトを使っても前がほとんど見えません・・・!」

山本「獣道に入ったか・・・!?」



この山は山道以外にも複数の獣道が存在し,

山道や別の獣道につながっていました。



その時,南雲が身に着けていたイヤコムに川蝉から連絡が入りました。



向こうは向こうで色々とあったようです。



南雲「山本さん,たった今,川蝉の東條さんから連絡が入りまして・・・。」

山本「さすがプラチナバンドか。こんな状況で本部との無線も,

全くつながらないのにイヤコムだけは正常に機能するとは。」



この世界でいうプラチナバンドとは,

イヤコムに使われる特殊な電波のようなものであり,

無線妨害電波などの妨害も受けず,

極めてクリアな音を伝えることのできる近未来の産物なのです。



川蝉からの連絡の内容とはいったい・・・。



第408話 菊水華パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 18:35



赤神氏は山頂にて全体の指揮を執ることになっていました。



紺野氏は途中にある獣道に入らず,

西山道を進み続けて展望台へ向かいます。



レオンさんは東山道を戻り,途中にある獣道へ入り,

闇組織JFを待ち伏せることになっていました。





紺野氏は順調に西山道を進み,19:00ごろに,

「展望台へ到着した。」と,連絡を入れました。



一方のレオンさんは山の中央付近の獣道で待機する予定だったのですが,

間違えて逆の獣道へ入り込んでしまっていました。



それに気づかず,獣道の分岐点付近でじっと身を潜めています。





各務原山 山頂 19:30



山頂からは東ふもとの駐車場が辛うじて見えました。



駐車場にライトの光が見えたので高性能双眼鏡で覗いてみると,

複数の少年たちが入山しようとしていることがわかりました。



それが少年昆虫団だと知るのは後日です。



赤神「こんな時間になんで子供たちが・・・。

万が一組織と戦闘になった場合,巻き込まれたらヤバイ。」



赤神氏はイヤコムを使って,二人に連絡を取りました。



赤神「少年たちが山に入ってきた。展望台まで登ってきたら紺野が保護してくれ。

山頂ルートでここまで来たら俺が保護する。翠川は引き続き,組織の探索にあたってくれ。」



二人は赤神の指令を受け,引き続き任務に励みました。



各務原山 東山道から下に延びる獣道 20:10



「あれ?おかしいなぁ・・・。もしかして道を間違えてる?」



レオンさんは自分が本来いなければいけない場所に,

たどり着いていないことに気付いたようです。



下見をした時と今いる場所が違うことは確かなようです。



ライトは消したまま,



「(仕方ない,一度山道まで戻るか。)」



と,思った時でした。



すぐ近くを二人の男が横切っていきました。



「(誰だっ!?)」



レオンさんは男たちが気になったため,

すぐに後を追いかけていきました。





各務原山 山頂 20:15



赤神氏に連絡が入ります。



レオンさんが闇組織JFの幹部である東條と,

その部下の一人と接触した,とのことでした。



彼は少年たちのことが少し気がかりでしたが,

レオンさんの救援に向かうことにしました。



紺野氏には引き続きその場で待機するように命じました。



紺野「待機命令了解っと。でも,なんか周りが騒がしい気がするんだよなぁ・・・。」



イヤコムを通じて赤神氏にそう言いました。



紺野「間違いなく,闇組織の他の幹部たちも,

この山に入っていますよ。赤神さんも気を付けてください。」



赤神氏は西山道にある獣道から合流するつもりでした。

なぜならその先にレオンさんがいるはずだったからです。



しかし,レオンさんは慌てていたため,

道を間違えていることを伝え忘れました。



また赤神氏もイヤコムに備えられていたGPS機能で

場所を確認せずに動き出していました。



赤神氏が獣道を進んでいくと,突然,多数のサーチライトが,

あたりを照らしていることに気付きました。



赤神「なんだ,あいつらは!?」



赤神氏が思わず身を乗り出すと,

相手に見つかっていまいました。



どうやら彼らは闇組織JFの精鋭部隊のようです。



人数は5人で1小隊でした。



赤神「この忙しい時に,邪魔が入ったか。翠川,

そっちに行くのは少し時間がかかりそうだ。」



しかし,返事はありませんでした。



第409話~第412話

2022/3/5

第409話 菊水華パート中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 山の中腹にある獣道 20:35



赤神氏の前にいた精鋭部隊は“鶴(つる)”でした。





隊長の名前は牛尾と呼ばれていました。



牛尾「はぁはぁ・・・。キラー様は見失ってしまうし,

変なのが目の前にいるし,どうなっているんだ。」



どうやらこの部隊は何か大きなトラブルに巻き込まれたのか,

疲労困憊(こんぱい)し,さらに動揺している様子が見られました。



赤神「何をブツブツ言っている。本来ならお前たちの後をつけて,

幹部がいる場所まで突き止めたかったが・・・こうなっては仕方ない。」



彼ら全員をこの場で倒し,逮捕することにしました。



牛尾「貴様。まさか菊水華か!!我々は無敵の精鋭部隊,

こんなところで負けるわけにはいかん!我々は無敵なのだ!」



牛尾は部下に合図を送り,射撃体勢に入りました。



しかし,足場は悪く,道も狭いため,横に広がることすらできません。

さらに藪や木が邪魔になり,まともに射撃体勢に入れませんでした。



牛尾「こんな場所で射殺できるってどんな腕だよ・・・!」



何やら独り言をつぶやいています。



赤神氏はまず一番手前のサーチライトを持った敵を仕留めました。



赤神「どうだっ・・・。」



鶴の部下の一人は羽交い絞めにされて気を失いました。



そして敵が持っていたサーチライトの光を消しました。



こうして次々と光がある場所へ忍び寄り,

不意打ちで鶴の部下を片付けていきました。



彼らは暗視ゴーグルをつけていましたが,

油断していて全員がライトを消し忘れていたのです。



牛尾「まずい!!このままじゃ"鳶(とび)"みたいに全滅する!!」





赤神「知っていることを全部はいてもらうぞ。

うまくいけば組織を一網打尽にできる。」



彼は銃撃を諦めて格闘戦に持ち込みますが,

赤神氏の方が圧倒的に実力は上でした。



あっという間に決着がつき,牛尾はその場に倒れこみました。

手錠をかけようとした時,イヤコムから連絡が入りました。



相手はレオンさんでした。



「はぁはぁ・・・。すみません,詳しい場所を・・・,

お伝えしていなかったですね・・・。実は・・・。」




レオンさんはかなり苦しそうでした。

とにかくすぐに来てほしいとのことでした。



赤神氏は牛尾が倒れているはずの場所を,

照らしてみるとすでに姿はありませんでした。



どうやら一瞬の隙をついて逃げ出したようです。



赤神「くそっ,逃げられたか。それよりも今は翠川だ。」





赤神氏は再びライトを点灯させ,獣道を抜けていきました。

東山道へ出て,さらにそのまま進んで獣道にまた入っていきました。



各務原山 東山道から下に延びる獣道  21:00





赤神がライトを慎重に照らしながら進むと,

木の根元に人影を発見しました。



そこには体中を負傷していたレオンさんが,

木にもたれかかっていました。



赤神「大丈夫か!?いったい何があった!?」



「赤神さんの方こそ,少し息が荒いですよ。

誰かと戦いました・・・?」




レオンさんは自分のことよりも赤神氏の心配をしました。



赤神「俺のことは大丈夫だ。年は取ったが,

まだまだ若い連中に負ける気はしない。」



赤神氏もまたかなりの戦闘能力の持ち主のようです。



軍隊の特殊部隊を凌ぐ実力とも言われている闇組織の精鋭部隊を,

あっという間に片づけてしまうわけですから。



「オイラは・・・はぁはぁ・・・。組織の幹部,

川蝉の東條と遭遇しました・・・。」




赤神「そういうことか・・・。お前がここまでやられるとは・・・。」



赤神氏は持っていたライトを強く握りしめました。



第410話 菊水華パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
「しかし,向こうにも何か事情があるようで,

イヤコムの連絡を受けていなくなりました。」


赤神「どうやら我々以外にもいるのかもしれない,

JFを壊滅させようとしている連中が。」



赤神氏は先ほど戦った精鋭部隊の動揺ぶりからそのように予想しました。



「はぁはぁ・・・。もしかして,

山に入ってきた子供たちだったりして。」




赤神「まさか,それはないだろう。」



彼はレオンさんに,そんな洒落が言えるのなら,

命に別状はないだろうと,茶化しました。



すると,紺野氏から連絡が入りました。



紺野「先ほどからイヤコムで内容を聞いていましたが,

こっちもちょっとやばいかも。」



赤神「どういうことだ!?」



イヤコムはバーチャル空間での会話ができるシステムなので,

お互いの話は全て聞こえていました。



もちろんスリープモードやプライベートモードなどにして,

特定の会話を聴かれないようにしたり,

個別の相手だけと話をしたりすることも可能な機器です。



赤神「JFの幹部がいるのか!?逮捕できそうか!?」



赤神氏が少し声を上げて呼びかけます。



しばらく何も返事がありませんが・・・。



やがて・・・。



紺野「こいつ,強いよ・・・。仏の今村だとさ・・・。

どこが仏だよ・・・。鬼じゃねぇか・・・。」



どうやら紺野氏は展望台にて闇組織JFのユニット海猫と,

戦闘状態に入っていたようです。





赤神氏はひどく後悔しました。



奴らの実力は生半可ではありませんでした。



それぞれが分散して,見張り,見つけ次第,

逮捕をするつもりでしたがそれも徒労に終わりそうです。



赤神「やはり,全員集めてから動き出すべきだったか・・・。」



「赤神さん。ゼェゼェ・・・今回の作戦は,

無駄でありません・・・。紺野を助けに行きましょう。」




二人のやり取りを聞いていた紺野氏は,



紺野「まぁ,俺だって負けるつもりはないけどねぇ!

昔から俺の方がレオンより強いだろ!」



「勝手に言ってろ・・・。すぐ向かう。死ぬなよ。」



レオンさんは赤神氏に支えられ,ゆっくりと歩き始めました。



赤神「紺野,すぐにそこから離れるんだ。

もしかしたら奴らはそこに用があるのかもしれない。

展望台から離れれば追いかけてこないかもしれん。」



紺野「いやいや,せっかく幹部を逮捕するチャンスなのに引けないでしょう!」



紺野氏は今村との戦闘を継続するつもりです。



「紺野,赤神さんの言うことを聞いてくれ。ここでお前を失ったら,

組織を倒すチャンスはもうないかもしれん・・・。」




紺野「・・・。」



紺野氏が黙りました。



「もしかしたら,あいつらを倒せる勇者みたいな人物が現れるかも知れない。

いつか現れるかもしれない勇者と一緒にJFを倒す機会を待とう・・・。」




紺野「ゲームじゃないんだ。そんなモンいるわけないでしょ。妄想しすぎだ・・・。」



紺野氏の反論はもっともでした。



いるかどうかもわからない勇者の存在を頼るよりも,

今ある戦力でどれだけ敵の勢力を削れるかが大事だと言いました。



赤神「いつもはぼーっとしているのに,こういう時は冷静だな・・・。」



赤神氏がそう言うと,



紺野「俺様はTPOをわきまえているんで・・・っと・・・。」



どうやらまだ戦闘が続いているようです。



「頼む,紺野!分岐点まで戻ってきてくれ!」



レオンが必死にイヤコムから訴えかけると,ついに根負けをしたようで,



紺野「はぁはぁ・・・。わかったよ。」



紺野氏は隙を見てその場を離れることにしました。



どうやら赤神氏の予想通り,海猫は紺野氏を追いかけてきませんでした。



各務原山 分岐点 21:15





しばらくすると紺野氏が山を下りてきました。

そして,三人が合流するタイミングで雨が降り出しました。



彼らは直ちに下山する決意をします。



第411話 闇組織JF 海猫パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 西ふもと 20:30



牟田「遅い!いくらなんでも遅すぎる!我々が到着してから,

もう1時間は立つぞ!山犬や川蝉はまだか!?」



牟田が先ほどから苛立ちはじめ,

近くの木々を蹴って八つ当たりしています。



山下「まさか今村さん!?俺たちは出し抜かれたんじゃ!?」



海猫は山犬と川蝉に先を越されたことに気付き,

急いで山へ入っていきました。



山下「今村さん,知っていますか?」



今村に話かけますが,彼の言葉には主語なく,

今村には検討がつきませんでした。



山下「オランダのあの会社が邪魔しようとしているって・・・。」



あの会社とはあるオランダの製薬会社を指していました。



この会社は裏で“ダーストニス”という闇組織とつながっているようです。



今村は以前,源田やアヤからそんな話を聞いたことがある,

と答えましたが,特に気にする様子もありませんでした。



山下「奴ら,手段を択ばないらしく,暗殺者まで雇ったとか・・・。」

今村「物騒な世の中ですねぇ・・・。でも,それはこちらも同じこと。

向こうがその気ならば,こちらも受けて立ちますよ。フォッフォッ。」



彼らは西山道を登りながら,漆黒の金剛石の探索を続けます。





<ユニット海猫・準幹部 牟田(左)と山下(右)>



しかし,すでに川蝉が調べてまわった跡があり,

あちこちにカブトムシの死骸が落ちていました。



山下「くそっ。東條,山本・・・。あいつらめぇ!」



どうやら今村の部下二人はユニット幹部に対して,

良い印象を持っていないらしく,

所々で敵対視する発言が聞かれます。



今村「落ち着きましょう。策は我にありです。」



彼は牟田から水筒を受け取ると,

そのままグビグビと飲み始めました。



もう少しで展望台へ到着するようです。



今村が照明を使って辺りを照らしてみると,

藪や草花が踏み荒らされていました。



まるでこの周辺で少し前まで何かがあったような気配が感じられました。



今村の指示で,一気に展望台までかけ登りました。



各務原山 展望台 21:00



展望台に到着すると,先ほどと同様に,

照明を使ってあたりの木々を照らしました。



牟田「ここで漆黒の金剛石が取れるんですか?」



今村は首を横に振りました。



今村「それはわかりません。だから今からそれを調べるんです。」

山下「なるほど・・・。」



山下は準備を始めました。



今村「今回は,海猫,山犬,川汗の三つ巴の決戦になるでしょう。

最初に漆黒の金剛石を見つけたものが勝者です。」



今村は二人に向かって自説をしゃべりだしました。



今村「あれさえ見つければ御前の“大望”が叶う。

我々も,この世の望むもの全てが手に入るんですから。」



牟田「それってどういう・・・?」



どうやら今村は部下の二人に,

組織の目的などは一切,話していないようです。



山下「今村さんいったい何をお考えです・・・?この世の望むものって・・・。」



今村「君たちには話していませんでしたねぇ。

つまり・・・―――ですよ。ふぉっふぉっ。」



二人は驚きを隠せませんでした。



しかし,彼らがこの場で組織の目的を知ってしまったことは,

不運だったとしか言いようがありません。



なぜなら・・・。



第412話 闇組織JF 海猫パート中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
山には生暖かい風が吹いていました。

嵐の予感がします・・・。



今村は展望台にあった屋根付きのベンチの後ろに人の気配を感じました。



彼らが近づくと,気配の主は観念したのか姿を現しました。



紺野「なんだよ,もう少しお話を聞かせてちょうだいよ。」



彼は髪の毛をわしゃわしゃと,

かきむしりながらそう言いました。



紺野「もっと詳しく知りたいなぁ,

御前の“大望”ってやつをさ・・・。

実は肝心な所がよく聞き取れなかったんだ。」



紺野は半身になり,左手にライトを持ったまま,

ファイティングポーズを取りました。



ボクシングの経験があるのか,そのポーズはいつでも相手の懐に入り,

強烈な一撃をお見舞いできるような構えでした。



牟田「なんだ,てめぇは!いつからそこにいやがった!!」



牟田が挑発に乗って紺野につかみかかろうとします。



紺野はバックステップを踏んだ後,横から右ジャブを繰り出しました。



牟田はもろにくらって,その場でよろけて倒れこみました。



牟田「うぐ・・・。」



山下は戦闘要員ではなかったので,今村の後ろで,

その様子をただ見ているしかありませんでした。



今村「君は,菊の人間ですか・・・?それとも・・・?」



今村は持っていたライトを紺野の顔に照らしました。



紺野「俺は菊の人間じゃない。」



紺野は自身の持っていたライトをポケットにしまいました。



ここは展望台で休憩するための屋根つきベンチもあり,

照明もついていたので,夜でも相手の顔がはっきりと見えたからです。



自販機の明かりに誘われてドクガやフクロスズメなどが周辺にくっついていました。



紺野「俺はあんたらに同期を殺された警察の人間だよ。」

今村「ほう,それはいったい誰のことやら・・・。」



今村はとぼけます。



紺野「もともと俺はのんびりと,

仕事ができればそれでよかったんだ。」



今村は不気味な顔で黙って彼の話を聞いていました。



紺野「それが・・・同期にあんなことが起きちまったら,

さすがにそうも言ってられねぇ・・・。

彼のフィアンセにも申し訳ない。」



今村「貴方たちの過去に興味はないですねぇ。ちょうどこちらも警察の人間に,

話を聞いておきたかったんです。おとなしく捕まってもらいますよ。」



紺野は右手を前に差し出し,親指を下に下げ,拒否のポーズを取りました。



今村「しかたないですねぇ。山下君は牟田君を起こして,介抱してあげてください。」



山下は彼の命令に従い,牟田の介抱に向かいました。



紺野「やるしかねぇようだな。てめぇ,何者だ?」

今村「ふぉっふぉっ。通り名は今村。

組織では“仏の今村さん”,と呼ばれていますよぉ。」



今村は200cm,120kgを超える巨体でした。

しかし,その体格に似合わないほど機敏に動きます。



彼はあっという間に紺野の右側に入り込みました。

そして左の張り手を放ちます。





紺野は辛うじて避けますが思わずバランスを崩します。

すかさず右の張り手が飛んできます。



紺野は左の拳で相殺しようとしますが,

その威力に圧倒され吹き飛ばされます。



紺野が耳につけているイヤコムから,

仲間の赤神氏とレオンさんの会話が続いていました。



第413話~

2022/4/2

第413話 闇組織JF 海猫パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
紺野はとりあえず,JFの幹部と接触したことを二人に伝えました。



そしてこちらも少しやばいことになっていることも・・・。



紺野「こいつ,強いよ・・・。仏の今村だとさ・・・。

どこが仏だよ・・・。鬼じゃねぇか・・・。」



今村は手を緩めることなく間合いを詰め,張り手の嵐を繰り出します。



紺野「お前,もしかして元関取か!?」



今村は不気味に笑っていました。



今村「相撲取りになった過去はありませんが・・・。

きっとやったら強かったと思いますよぉ。」



今度は前傾姿勢を取り,突っ込んできました。



どんっ!!!!



紺野はぶつけられた勢いで,

展望台のふちにある柵まで吹き飛ばされました。



紺野「(俺はレオンより強いはず・・・なんだけどな・・・。)」



紺野はあきらめずに立ち上がります。



イヤコムからは二人がこちらを心配しています。



紺野「まぁ,俺だって負けるつもりはないけどねぇ!

俺の方がレオンより強いしよ!」



「勝手に言ってろ・・・。すぐ向かう。死ぬなよ。」



レオンさんがこちらに向かうと言ってきました。



紺野はすでに体がふらついており,

目の前の小石に躓いて倒れこんでしまいました。



その隙を今村は見逃しませんでした。

彼の強烈なエルボーが紺野の背中にさく裂しました。





紺野「ぐわぁぁぁ・・・。ごはっ・・・。げほっ・・・。」



紺野氏はしばらくその場から起き上がれませんでした。



しかし,それでも残る力を振り絞って,

立ち上がりました。



紺野氏はまだまだ戦う気でしたが,赤神氏に止められ,

やむなく命令に従うことにしました。



紺野「たしかに・・・。ここは一度引くしかない・・・。」



しかし,今村は手を止めません。



猛烈な攻撃を波状攻撃のように続け,紺野は防戦一方でした。



今村「フォッフォッフォー!!!君はその程度の実力ですか!?」



張り手で吹き飛んだ掲示板や柵が飛び散り,

あたりはひどいことになっていました。



赤神氏はそこを離れれば,

追ってこないのでないかと予想しました。



紺野「俺はまだあの人の部下じゃねぇんだが・・・。

彼の顔を立ててここは退かしてもらう。」



紺野はポケットに忍ばせておいた煙幕弾を地面に向けて投げつけ,

展望台から下る山道が続いていたので,そちらへ向かいました。



山下「なんだこの煙は・・・。今村さん追いかけましょう!」



しかし,今村は後を追う気配を見せませんでした。



今村「うーん,残念。何となく彼は逃げるようなタイプじゃない,

と思ったんですが優秀な上司がいるようですねぇ。」



山下が山道を降りようとすると,



今村「深追いは禁物です。我々の一番の目的は漆黒の金剛石です。」

山下「しかしっ・・・。」



山下は納得していない素振りでしたが,

ユニットリーダーの命令は絶対です。



今村「また今度,どこかで菊の人間に遭遇したら,聞くことにしましょう。

私の思い過ごしならいいんですが・・・。ふぉっふぉっ。」



牟田「・・・?」



牟田が目を覚ましました。



特に大きな外傷はなく,しばらくすると立ち上がりました。



今村「牟田君,この辺りにいるカブトムシを,

片っ端から調べてください。もう時間がありません。」

牟田「は・・・はい・・・!」



まだ視線も定まらない状態でしたが,検査薬と注射器を取り出し,

山下と一緒に検査をし始めました。



何十匹か検査をしていると,牟田が大きな声を出しました!



牟田「今村さん来てください!!この反応はっ!!!」



そこには薬品を打たれても腹部が虹色の光を帯びて,

輝くカブトムシの姿がありました。





今村「おお!!間違いありません!これこそ漆黒の金剛石!

色々と策を練るつもりでしたが,

ここで見つかってしまえばもうこちらのもの!!」



今村は甲高い声を上げて笑いました。



しかし,突風が吹き,牟田はその勢いに負けて,

漆黒の金剛石を手放してしまいました。



牟田「しまった!」



そう言ってもすでに時すでに遅しでした。



この暴風の中、漆黒の金剛石は風に飛ばされて,

どこかへ行ってしまいました。



今村「ああ,今まさに手に入るはずだったエモノ・・・。

まだあきらめません!」

山下「急いで探しに行きましょう!」



しかし,暴風に続き,雨も降ってきました。

辺りは一瞬で暴風雨に包まれ,視界が遮られました。



山の気温が一気に下がり,霧が出てきました。



海猫の三人は最初,紺野が隠れていた木材でできている,

大きな傘型の休憩所の中に入り,身を潜めました。





今村「仕方がありません・・・。」



この暴風雨がそれぞれの撤退戦の始まりの合図だったのです・・・。



第414話 闇組織JF 精鋭部隊パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
闇組織JFのユニット“森熊”直轄部隊である精鋭部隊の動きはというと・・・。



19:00 中央ふもと到着 準備を終えて待機

19:33 川蝉の東條より連絡 



「現在,展望台付近で敵の襲撃を受けている。至急支援せよ。」

とのことでした。



彼らは中央ふもとの獣道へ入ることにしました。



冥界の悪魔(キラー)を先頭に,梟(ふくろう),

鳶(とび),鶴(つる)と続きます。





<梟のリーダー 山根>



<鳶のリーダー 三井>



<鶴のリーダー 牛尾>



雉(きじ)はつながらなくなった本部への対応と万が一,

別の緊急事態が起きた場合の遊撃部隊として残るように指示されました。





<雉のリーダー 刈谷>

マヤも同様に中央ふもとで待機し,

“雉”と共に本部との連絡がつながるのを待ちます。



マヤ「・・・。」



19:40 現在の状況で判明している勢力図です。



暗視ゴーグルに切り替えて,獣道を進むことにします。

念の為,ライトも準備してあります。



中央付近からの獣道は東山道にしかつながっていないため,

一度,東山道へ出てから分岐点を中山道へと進軍して,

展望台へ向かうことにしました。



重装備の彼らには獣道を通るよりも多少距離があっても,

整備された山道の方が,早く目的地に到着できると考えたからです。



20:00より少し前の時刻 展望台手前の獣道にて



中山道を進軍中に,東條からキラーに連絡が入ります。



どうやら腕利きのヒットマンがいて,佐藤が射殺されたこと,

後で佐藤の遺体を片付けて欲しい,とのことでした。



キラーは展望台手前で部隊を一時停止させました。

東條からは敵は展望台付近にいると伝えられていました。



暗視ゴーグルとサーチライトを使って索敵を始めます。

地面だけではなく,頭上もサーチライトを使って探すも相手は見つかりません。



それぞれの部隊が中山道とその周辺をくまなく探します。

東條たちが襲撃された場所は,展望台付近でも西山道側でした。



そこでキラーは展望台を通り,敵を後ろから襲撃しようとしていたのです。

キラーは「ここまで足場が悪いと通常の狙撃は難しい。」と考えていました。



そこで,長距離を狙撃するための武器ではなく,

アサルトライフルを使うようです。



東條の話によると展望台付近が危険だと言っていたのでライトを消し,

暗視ゴーグルのみで捜索を続けることにしました。



少し進んだところで,キラーは敵の存在に気づきました。

展望台まであと百メートルの距離でした。



木の上ではなく,茂みの向こうからこちらを射程圏にいれているようでした。



やみくもに撃っては当たりません。

周りを凍らせてしまうような緊張感漂う空気が流れます。



キラーは,後方にいた“鳶”の三井に,

自分の所まで進軍するようにイヤコムで指令を出しました。



三井「了解。」



“鳶”はほふく前進しながらキラーのところまで進みます。



“梟”とキラーはこのまま中山道を直進,“鳶”は茂みに入り右側から,

“鶴”は同じく左側から進軍させることにしました。



慎重に部隊を進める中,鳶の部下が誤って,

ライトを地面に落としてしまい,電気がついてしまいました。



三井「おい,何をやっている!」



思わず三井が叫ぶと,部下の目の前で彼は眉間から,

血を吹き出しながら倒れて絶命しました。







まさにそれは一瞬の出来事でした。



部下たちがパニックになり,騒ぐと,次々と射殺音が響きます。



パッシュ!パッシュ!パッシュ!



あっという間に部下のうちの三人が撃たれました。

少し離れた場所を進軍していたキラーも異変に気付きました。



冥界の悪魔「まずいね・・・。」



キラーは応答を求めますが,返事はありません。



残った部下の一人も逃げ出そうとした時に,頭を撃ち抜かれました。



山根「キラー様!襲撃です!敵は一体何人いるんでしょうか!?」



実は相手はたったの一人だったのです。



暗闇の中で冷静にターゲットを射殺する実力をもった暗殺者がいたのです。



右側を進軍していた“鶴”はイヤコムで状況を確認していましたが,

動くに動けない状況になっていました。



動けば“鳶”と同じように暗闇の中で,

全滅させられてしまう危険性が高かったのです。



キラーは“鶴”にその場で待機を命じ,梟に後方支援を任せました。

敵の部隊が後ろからも来る可能性があったからです。



実際には暗殺者はマコト・セルジュ,ただ一人だったので,

その心配は杞憂に終わることになったわけですが・・・。



暗殺者同士の対決,果たして勝者は・・・。



第415話 闇組織JF 精鋭部隊パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
キラーは足場の悪い場所でも暗殺しやすい“AKT20”という,

アサルトライフルを調達していました。



この武器は大陸製の5.6ミリ弾で有効射程が450m,

暗視ゴーグルで相手を確認できれば十分狙える距離にいました。



しかし,相手もプロなのでなかなか居場所を明かしません。

“梟”は同じ大陸製の自動小銃“M1K1(略してM1)”でした。



こちらはキラーの持つ武器に比べれば,

有効射程は落ちますが,扱いやすい特徴があります。



この武器が闇組織JFの精鋭部隊の標準装備なのです。



後にレオンさんたちを襲撃した時に装備していた,

k-2ライフルはワンランク上の装備だったのです。



よって,この銃では相手の有効射程には届かず,不利な状況でした。



彼らはあくまで居もしない後方からの敵の襲撃に備えることに徹しました。



20時を少し過ぎ,勝敗が見えない状況が続きます。



下手に撃てば相手に自分の居場所を知らせることになります。

このような状況では映画のようにドンパチ撃ちあうことはありません。



天候も悪化の一途をたどり,風も強くなってきています。

ターゲットを狙いづらい環境となっていました。



キラーは鼻をピクリと動かしました。



冥界の悪魔「火薬のにおい・・・風上か・・・。」



風上に視界を向け,暗視ゴーグルで,草陰を確認すると,

わずかに動く影が見えました。



ためらうことなく,引き金を引きました。



この位置からならば,相手に場所がばれても撃たれない自信があったからです。



バンッ!!



銃弾は草陰に隠れていた何かに命中しました。



キラーはいまいち,手ごたえを確認できていませんでした。



パッシュ!!



キラーの腕を銃弾がかすめます。

キラーはすぐに後ろの木に身を隠して,銃を構えなおします。



冥界の悪魔「さっきの影はサルかイノシシか・・・。」



相手はこちらの位置を把握したようです。



“梟”の山根たちがキラーの身を案じ,接近してきた時,



パッシュ!



部下の一人が撃たれ,「ぐあっ!」と,大声で叫びました。



銃弾は肩を貫通したようです。

真っ赤な鮮血があふれ出てきます。



山根「おい,すぐに止血だ。」



隊長の山根は別の部下に応急手当てをさせます。



冥界の悪魔「仕方ない,いったん退こう。

東條さんが任務を遂行するための時間は稼げたはず。」



キラーは全隊に撤退指示を出しました。



この時点で中山道ではなく,

すぐそばの獣道まで追い込まれていました。



やむを得ず,“梟”を先頭に,キラー,

後方に“鶴”の隊列で獣道を下ります。



向こうからの追撃はありませんでした。



キラーは敵の目的がもしかしたら,

別のところにあるのではないかと思いました。



そうでなければ我々を執拗に追いかけてくるはずだからです。



牛尾「はぁはぁ・・・。いかん・・・。

キラー様たちの距離が離れている。全員,急ぎ撤退せよ!」



牛尾が部下に発破をかけます。



しかし,極度の緊張と疲労で部隊の動きは鈍くなっていました。



わずか15分程度の戦闘時間にも関わらず,

彼らにとっては非常に長く感じられました。



各務原山 山の中腹にある獣道 20:35



“鶴”は獣道を遅れて撤退する際に道を間違えてしまい,

菊のリーダーである赤神氏と遭遇,戦闘の末,敗北してしまいます。



鶴の部隊はなんとか隙を見つけ,

道を戻って撤退をします。



各務原山 合流点 20:45



キラーと“梟”は獣道を抜け,分岐点に到着しました。

どうやらここで東條と合流することになったようです。



“鶴”がいないことに気付きますが,

キラーは梟に待機を命じます。



21時過ぎに東條と合流し,

今後の動きを確認することになりました。



また,ふもとにいるマヤとも連絡を取り,

情報の共有を図っていました。



第416話 闇組織JF 川蝉パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 西ふもと 19:00



東條は“川蝉”の部下,

佐藤と木戸の二人を引き連れて,

展望台を目指して登山を開始しました。



各務原山 西ふもと 19:30



探索を続けながら30分ほど歩くと,展望台が見えてきました。



高性能ライトを持った佐藤を先頭に,

荷物持ちの木戸,最後尾に東條の隊列でした。



佐藤「もう少しで,展望台です。」



佐藤が振り向いて後ろに声をかけた次の瞬間・・・。



バッシュ!!



佐藤の額に穴が開き,大量の血が吹き出ました。



どうやら振り返った瞬間に前方から頭部を狙撃され,

額を貫かれてしまったようです。



まったく意表を突かれた出来事に木戸は慌てふためいています。



東條の表情は変わらずニコニコと笑って,

部下が殺されても気にも留めていないようでした。



木戸「うっうわぁぁ!!なに!?東條さんっ!!

おい,佐藤!!大丈夫かっ!!」



木戸はその場に倒れた佐藤の体を起こして,

呼びかけますがすでにこと切れていました。



佐藤はライトを持っていたため,最初に狙われたようです。



東條「おやおや,一体どこの誰かな。

こんなバカなことをしでかすのは。菊の連中かしら?」



彼は部下の死に動揺することもなく平然としていました。



木戸「先ほどお伝えしましたが・・・源田さんからの連絡によると,

我々を狙っている刺客がいるかもしれないって!!」



二人はそれぞれが木の裏に身を潜め,会話を続けました。



ライトを消し,暗視ゴーグルに切り替えます。



東條「ははぁん。さてはダーストニスの連中だね!

僕たちに日本をどうこうされるのが気に入らないからって,

暗殺者を送り込んでくるとはね。」



東條は木戸にイヤコムをスリープモードから,

常時オンモードにするように合図を送りました。



木戸「オンにしました!」



彼の体は極度の緊張で多量の汗をかき,

服がびしょびしょになっていました。



東條「あ,あまり大きい声出すと・・・。」



バッシュ!!



木戸「ぎやぁぁぁ!!」



弾丸が左腕をかすめ,皮膚が破け,

血がほとばしってきました。



東條「だから,手で合図を送ったのに・・・。いったんこの場を離れよう。

中央ふもとに待機しているキラーさん達に連絡を取って,暗殺者の相手をしてもらおう。」





木戸「はぁはぁ・・・。わかりました。暗殺者には暗殺者・・・ですね。」



どうやら木戸のイヤコムと冥界の悪魔のイヤコムはすでにつながっていたようで,



冥界の悪魔「聞こえていたよ。すぐに向かう。」



東條「さすがにこの状況で狙撃に日本刀じゃちょっと分が悪いので,

よろしく頼みます!それに僕たちの目的は漆黒の金剛石を見つけることなんで!」



各務原山 19:40 それぞれの動き一覧



二人は来た道を少し戻り,近くにあった獣道へと入っていきました。



東條「のろのろ歩いていると置いていくよ!」



東條は獣道でも速度を落とすことなく走っていきます。



木戸「はぁはぁ・・・。待ってくださいよぉ・・・。」



木戸は太っていたので細い獣道を走ると,

枝が体中にあたり,うまく速度を出せませんでした。

肩の傷口からも出血が続いています。



この獣道を進むと東山道の分岐点より少し手前に出ます。

山道に一度出るとすぐ目の前には再び獣道が続いています。



二人はそこを通り,状況を整理してから,

漆黒の金剛石を再び探そうと考えていました。



ちょうど,東山道に出た時に,

一番後ろを歩いていたイツキ君に姿を見られたのです。



東條はそでを通していないコートを,

ヒラヒラさせながら獣道を進んでいきます。



木戸「はぁはぁ・・・。東條さん!

佐藤の敵討ちをしなくていいんですか!?」



東條は立ち止まりました。



東條「別に逃げているわけじゃないからね。

こんなに楽しいことってないよ!

お互いが命を懸けて戦って殺しあう!最高だよね!」



木戸は東條の恐ろしさを垣間見ました。



東條「でも,今じゃない。今優先すべきことは漆黒の金剛石を見つけること!」



東條は再び速度を少し落として走り出しました。



東條「必ずこの山にいるはずなんだ!僕にはそれがわかっている。

だからほかの連中を出し抜いてでも一番にこの山に入る必要があったんだ。」



木戸は満身創痍ながらなんとか東條の後ろをついていきます。



獣道を奥へと進んでいくと途中でほかの獣道からの合流点がありました。

そこをさらに超えて奥へと進むと少し広い川に出ました。



入って向こう岸へ行けない距離ではないですが,

深さもわからないので危険を伴います。



東條「川か・・・。」







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