リクの少年昆虫記-VS闇組織JF-

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目次

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4篇 菊の華シリーズ 序章 第1章1~8話

第1話 動き出した者たち

 菊の華シリーズ 序章
栄のとある場所に闇組織ジャファ専用のバーがあります。



名前はリ・セ・ッシュ。



以前,レオンさんが影(シャドー)につけた盗聴器により

場所を特定されることを恐れたため,

名前はそのままで栄の別の場所に

新規オープンさせたお店なのです。



店のカウンターには闇組織ジャファの幹部,

山本が一人でバーボンを飲んでいました。







その足元にはなぜか,二人の大柄の男が生気を

無くした顔で倒れています。



どうやらすでに死んでいるようです。



しばらくすると,二人の男が店に入ってきました。



山本の部下である,南雲と古賀でした。



山本「遅せぇ。」



南雲「すみません。例の件,ちょっと

手こずっていまして・・・。」



南雲と古賀は頭を下げて謝りました。



古賀「それで,先ほど言っていた件というのは,

ここで倒れている二人ですか?」

山本「そうだ。"行方不明"扱いで処理しろ。」



山本は視線を古賀と南雲に向けることなく,淡々と指示しました。



南雲「バカな奴らですね・・・。俺たちの店に

みかじめ料を取りに入るとは・・・。」



倒れている二人は地元のヤクザで新規開店した店に来ては,

ケツもちのみかじめ料を要求している連中でした。



しかし,運悪く,ジャファの経営するバーに入ってしまい,

あっさりと山本に殺されてしまったようです。



そして山本が殺した人間を世間的にばれないように

うまく処理する役目を部下の古賀が担っているのです。



彼は戦闘能力はほぼありませんが,死体の処理には

精通しており,"山犬"にとって必要な人間なのです。



実はこの国では年間で10万件以上の変死体が発見されますが,

そのほとんどは自殺や事故で処理されます。



しかし,実際には彼のような闇組織の人間が

巧妙に細工をし,そう見せかけている場合もあるのです。



古賀「先日の件は,"事故"。今回は"行方不明"。それでよろしいですね。」

山本「そうだ。ぬかるなよ。南雲,今回も手伝ってやれ。」



南雲は首を縦に振って返事をしました。



南雲「でも,行方不明にするなら石井軍医に預けてもいいのでは?

最近,"マルタ"が足りないって嘆いていましたし。」



マルタとはどうやら人体実験で使う被験者を指しているようです。



山本「気に喰わねぇが・・・。アイツに恩を

売っておくのも悪くないな・・・。好きにしろ。」



古賀と南雲は横たわっていた死体を持ってきた

ビニールシートで包み,車の中に入れました。



古賀は車の中でなにやら準備をしています。



南雲「山本さん。こいつらはともかく,先ほどの件は本当に

事故で処理できるんですか?"菊"の連中もそこまで

馬鹿じゃないと思うんですが・・・。」



二人はこの仕事の前に別の仕事をしてきたようです。



山本「いくら"菊"の幹部が疑おうと,証拠がなければ

動けねぇさ。古賀の処理は完璧だ。何も心配することは無い。」



山本はグラスに入っていたバーボンを飲み干しました。



山本「ただ,気がかりなのは,全国に散っていたはずの

“菊”の幹部が名古屋に集結したそうだ。」

南雲「・・・。」




準備を終えた古賀が再びバーに戻ってきました。



古賀「準備ができました。南雲さん,いきましょうか。」

南雲「はい。」




二人がいなくなり,再び山本とマスターだけになりました。



山本「菊・・・。次は・・・。」



山本はグラスを見つめながら,そうつぶやきました。



場面は変わり,二宮神社です。



これは山犬の山本と南雲,古賀がバーでやり取りをしていた前日の出来事です。



この日は大雨と雷がひどい日でした。

夜になってもやむことはなく,むしろ風雨が

強まっているようにさえ感じられました。



そんな天候の中,二宮神社にある公衆電話で

一人の人物が受話器を握っていました。



全身が真っ黒なレインコートに身を

包んでいましたが,効果はあまりありませんでした。







彼の名前は赤神。



この神社の神主でした。



ザーザー・・・。



周囲は雨の音しか聞こえません。



その雨の音に混じってかすかに,

赤神氏の話し声が聞こえてきます。



赤神「ようやく,全員が名古屋に揃った。いよいよだぞ・・・。」



赤神氏は真剣な表情で受話器の相手にそうつぶやきました。



赤神「どうやって上を説得したかって?

それはまた今度,ゆっくりと教えるよ。

なかなか苦労したんだからな。それよりも,そっちはどうだ?

ああ,そうか・・・。ああ・・・。わかった・・・。ああ・・・。」



赤神氏は受話器の相手と話を続けていました。



赤神「我々,“菊水華”が名古屋に集結

できたことは非常に意義がある。

必ず,闇組織"ジャファ"を葬る。」



その後,要件を話し終えた赤神氏は受話器を戻しました。



赤神氏はジャファが“菊”と呼ぶ謎の組織に属していたのです。



神主は仮の姿なのでしょうか。



いよいよ闇組織ジャファと“菊”を交えた攻防が始まろうとしています。



第1話 レオンさんの携帯電話

 菊の華シリーズ 第1章
今日はレオンさんのアパートに遊びに来ていました。

今度,キャンプへ行く予定になっていて,その計画を立てているようです。



「まず,どこへ行くかを決めるんだろ!」



狭い部屋でテーブルを囲んで話し合っていました。





なかなか行き先が決まらず,イツキ君がいら立っていました。



レオンさんが奥の台所からジュースを運んできました。



「オイラはどこでもいいよ。

車なら出せるから多少遠くても大丈夫!」


「でも,大学はいいんですか?夏休みとはいえ,

やらなくてはいけない研究とかもあるんじゃないですか?」




だぬちゃんが珍しくまっとうな意見を出しました。



「ああ,そうだね・・・。提出期限が近い

レポートもいくつかあったな・・・。」




「ねぇねぇ,レオンさんが通っている大学に遊びに行ってもいい!?

どんなことを勉強しているのかちょっと興味あるかも。」




まさらちゃんがレオンさんに尋ねました。



「あ,うん。別にいいと思うよ。といっても一日,

ずっと昆虫の研究をしているだけだけど。

もし大学内でわからないことがあれば学生課に

行けば色々と案内してくれると思うよ。」




まさらちゃんはジュースを飲みながらうなずきました。



「今日は午後から,大学に行く予定だよ。

来るなら案内してあげるよ。」


「行ってみるか?」



イツキ君がリク君に振りました。



「あ,うん。いいんじゃない。特に予定もないし。」

「ただ,ちょっと大学に行く前に寄るところがあるから

一緒にはいけないんだ。お昼過ぎに大学に来てくれると助かるよ。」




レオンさんはどこかに出かける用事があるようでした。



「あ,ちょっと失礼。」



そう言ってトイレに行きました。



その時,レオンさんのポケットから少し型の古い携帯電話が落ちました。



リク君は目の前に落ちてきた携帯電話を手に取りました。



「ずいぶん古い携帯電話だね。

スマホですらないよ。いまだにこんな

機種が存在しているんだね。」




トシ君が感心していました。



リク君がボタンを押すと画面が光りました。



「ちょっと,リク君。勝手に

人の携帯電話を見るなんてよくないよ!」


「うん。あれ,でもこれって・・・。」



みんなが集まってきて画面を覗き込みました。



そこには電話帳に登録されたデータはなく,

通話記録やメールの受信記録もありませんでした。



「中身が空っぽだな。何のために持っているんだ?」



しばらくしてレオンさんが戻ってきました。



「あ,携帯電話,こんなところにあったか。

最近はイヤコムが主流だからあまり必要ないね。」




そう言ってテーブルの上に置いてあった

携帯電話をポケットの中にしまいました。



「じゃあ,キャンプの件はまた後で話し合おうか。」

「そうですね。じゃあだぬたちも一度お昼を食べに帰りますよ。」



みんなは一度解散して,また午後から

レオンさんの通う大学へ行くようです。



レオンさんはそのままどこかへ出かけていきました。



どうやら大学へ行く前に寄るところがあるようですが・・・。



第2話 中野木大学にて

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は昼食を食べて中野木大学までやってきました。







「でも,どこの研究室にいるのかな?」

「学生課っていうところで聞いた方が早いんじゃない?」



まさらちゃんは先ほどレオンさんに言われたことを思い出しました。



みんなは入り口からしばらく歩いた

ところにある学生課の窓口へ向かいました。



「なかなか広いんだね・・・。小学校とは大違い。」



「あたりまえじゃないですか。

地区で一番大きな大学なんですから。」




窓口へ到着するとリク君が学生課の人に

レオンさんのことを尋ねました。



「えっと,知り合いのお兄さんを訪ねてきたんですけど。

昆虫学を専門にしている大学院生で名前は

小早川レオンっていう学生さんなんですけど。」




窓口「しばらくお待ちください。えっと・・・。」



窓口の人はモニターを見ながら検索をしました。



窓口「小早川レオンという学生は在籍しておりませんが・・・。

ボクたち本当にこの大学に知り合いがいるのかな?

どこかの大学と勘違いしているとかじゃないかな?」



窓口のお姉さんはやさしい口調になって,みんなに聞き返しました。



「いや,そんなはずはない。たしかに中野木大学だって言っていた。」



窓口「えっと,レオンっていう名前の

学生なら4人いるわよ。三人は大学生で一人は院生ね。」



みんなは顔を見合わせました。



「その院生のレオンって苗字は?」



窓口「えっと,苗字は"翠川(みどりかわ)"ね。翠川レオン君。

大学院2年生よ。昆虫学の鎌切(カマキリ)ゼミに在籍しているようね。」



「ミドリカワ・・・?」



リク君は考え込みました。



「でも,その人っぽくないかな?

昆虫の勉強をしているって言っていたし。」




みんなはとりあえず“鎌切ゼミ”の元へ向かいました。



「なんか変ですよね?レオンさんって確か,ジャファの研究所に

所属していた小早川教授の息子・・・。だったら苗字も小早川のはずですよ。」




歩きながら苗字の謎について話し合っていました。



「確かに。まぁ親が離婚して母親の姓を名乗っているとか,

養子に入って苗字が変わったとか色々考えられるけどな。」


「もしくは,"偽名"・・・。」



みんなはリク君に注目しました。



「偽名って嘘の名前ってことでしょ?なんで

そんなことをする必要があるんだい?」


「まさか,レオンさんのことを

何か疑っているんじゃないだろうな?」




イツキ君はリク君をにらみました。



「いやいや,そうじゃないよ!レオンさんは

僕たちの仲間だよ!それは間違いない。でも・・・。」


「でも・・・。なんだ?」



イツキ君は問い詰めました。



「まだ,“何か”を隠している気がする。何かを・・・。」



第3話 レオンさんと協力者

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団はレオンさんが在籍する中野木大学へ遊びに来ていました。

昆虫学を研究している棟の2階にその研究所はありました。



扉は鎌切(かまきり)ゼミと書かれていました。



「なんか緊張するね~。ノックとかすればいいのかな?」



まさらちゃんが躊躇している間に,

リク君がノックをして扉をあけました。



「あの~,こんにちは。レオンさんいますか~?」

「いきなりですね!ちゃんとあいさつした

ほうがいいとだぬは思うよ!?」




扉を開けきって,中に入りました。



すると奥から声がします。



どうやらこのゼミの教授のようです。



教授「おや,これはかわいいお客さんたちだね。

何か御用かな?私はこのゼミの教授,鎌切じゃ。」







見た目は60代のいかにも虫好きな

おじいさんといった雰囲気の教授でした。



研究室の中はたくさんの標本で埋め尽くされていました。



「おお,ここすごい!」



リク君は軽く感動していました。



「レオンって人がこの研究室にいると

思うんだけど。俺たち遊びに来たんだ。」




イツキ君が説明しました。



教授「おお,翠川(みどりかわ)君のことか。今日はまだ来ていないな。

どこかへ寄ってからここに来ると言っていたが・・・。」



その時,ゼミの電話がなりました。



教授が電話に出ました。

相手はどうやらレオンさんのようです。



「やはり,苗字は翠川でしたね・・・。」



だぬちゃんが小声でリク君に話しかけました。



教授「そうか,今日は来れなくなったのか。

あい,わかった。ん?子供たち?

ああ,来ておるよ。代わろうか。」



鎌切教授はリク君に受話器を渡しました。



「レオンさん?僕たちもう大学に遊びに来ちゃったよ。」

「ああ,ごめんよぉ。もう少し時間がかかることに

なってしまって・・・。今日は大学は休むことにするよ。」




電話越しにレオンさんが謝っているのがわかりました。



教授「どうぞ,ごゆっくり。」



教授はさらに奥にある別の部屋に入って行きました。



リク君は電話をスピーカフォンにして,

みんなに聞こえるようにしました。



「ねぇ,ひょっとして,用事って・・・。組織に潜入している

協力者に会っていた・・・とか?だったりして。」




リク君は単刀直入に聞いてみました。



「ははは。なかなか鋭いね。まぁそんなようなところかな?」



みんなは電話に集まってレオンさんの声を聞いていました。



「その協力者の人って何て名前なの?

そういえば聞いてなかったよね?」


「えーっと,"小東"だよ。もちろん組織では違う名前を

名乗っているんだろうけど,詳しいことは

聞かないことにしているんだ。

自分の口からどこかでボロが出るとまずいから。」




レオンさんの協力者は"小東(こひがし)"と名乗る人物のようです。



「(小東・・・サンか。)」

「どんな人なんですかね?」



だぬちゃんが聞きました。



「まぁ,何せ組織に潜入中だからね。

今はまだあまり詳しくは話せないんだ。」




レオンさんは話題を変えました。



「それより,キャンプの打ち合わせの続きをしようよ。

中野木大学の近くにおいしいカフェがあるんだ。

そこで待ち合わせしないかい?」


「おいしいカフェ!?行きたい~!」



まさらちゃんのテンションがあがりました。

かなりのカフェ好きのようです。



「だぬはジャズがかかっているカフェがいいですね~。」



だぬちゃんはジャズ好きでした。



「ああ,あの牧歌的な感じの曲はカフェに会うよね~。」

「それは,フォークソングですよ・・・。」



リク君は電話を切ると,教授にお礼を言い,部屋を後にしました。

この後は,指定されたカフェに向かうようです。



第4話 漆黒の車に遭遇

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は大学を出て,地区の大通りに出ました。

国道が走っており,その道沿いにたくさんのお店が並んでいました。



目的のカフェが見えてきました。



「あ,あれですね。だぬはこう見えて

コーヒーには詳しいんですよ。やはりブラックが一番!」




だぬちゃんがコーヒーのうんちくをたれながら,看板を指さしました。



その時,だぬちゃんは国道に駐車してあった一台の車に目をやりました。



「なっ・・・。」



だぬちゃんはその場で立ち止まりました。



「どうしたんだ?」

「あの車は,もしかして・・・。」



だぬちゃんはとても動揺していました。



「これって,最初にJFのメンバーと遭遇した時に見た車ですよ。

多分,山犬の連中が乗っていたはずです。」


「そういえば,だぬはあいつらの車を

直接見ていたんだったな。間違いないのか?」




イツキ君が聞きました。



「間違いないですね。珍しい車で国産車じゃないですし,

すぐにわかりました。確か,"古代自動車"というメーカーの

“ソナタナノ”という車種です。」




車に詳しいだぬちゃんがみんなに説明しました。



「じゃああそこに止めてある車は・・・。」

「あれは,闇組織ジャファの山本の車だ・・・。」



みんなは驚いて声をあげました。



リク君はみんなを足止めし,自分はそっと車に近づきました。



みんなはイヤコムの電源を入れ,

情報を共有することにしました。



「レオンさん,聞こえる?」

「ああ,聞こえるよ?どうしたんだい?」



レオンさんがイヤコムに出ました。

近くまで来ているようです。



「今,ジャファの山本の車を見つけたんだ!

通りに駐車してあって中にはだれも乗っていない。」


「なんだって!場所は!?カフェの近く!?

すぐに行くから絶対に車に近づかないように!」




レオンさんの口調が変わりました。



5分もたたないうちにレオンさんが車でやってきました。



山本の車の50mほど後ろに止めて,降りてきました。



「あれか。オイラも何度かあの車は

見たことがある。間違いなく山本の車だ。」


「(何度も・・・?)」



レオンさんは例の盗聴器を取り出しました。



「何をするつもりなんだ?」

「盗聴器を仕掛けてみる。」



レオンさんは慎重に車に近づきました。



よく見ると,運転席の窓が少しだけ開いていました。

夏の熱気を防ぐために開けていたのでしょうか。



その隙間から盗聴器を放り込みました。

盗聴器はアクセルとブレーキのペダルあたりに落ちました。



「よし,うまくいった。みんな,オイラの車に乗って!」



みんなはレオンさんの車に乗り込みました。



そして,その場所から,山本の車を観察しました。

10分ほどたったころ,二人の人物が車に近づいてきました。



一人はユニット山犬のリーダー,山本でした。







夏でも黒のスーツに身を包み,

帽子を深くかぶって素顔は見せません。



長髪を後ろで束ね,一瞬の隙もない恰好で歩いていました。



「怖い・・・。」



山本のその殺気立ったオーラにまさらちゃんは

後部座席で頭を伏せて怖がっていました。



「あいつは山本・・・。」



トシくんは同じく後部座席から頭を出して覗いていました。



「もう一人は誰だろう?見たことないや・・・。」



みんなはレオンさんが取り付けた

盗聴器の受信機に耳を傾けていました。



車のドアが開く音がしました。



そして二人の話し声もうまく聞こえてきました。

全員が固唾(かたず)をのんで聞き入っていました。



第5話 山本と源田

 菊の華シリーズ 第1章
山本と一緒にいた人物は森熊の源田でした。



<ユニット森熊リーダー 源田>



二人は車に乗り込みました。



運転席には山本,助手席に源田が座りました。

キーを差し込みエンジンはかけましたが,まだ発進はしないようです。



山本「こんなところに呼び出して悪かったな,源田サン。」

源田「いや,かまわんよ。コトのついでだ。」



二人は座席に座った状態で話をしていました。



それをリク君たちは盗聴器を通して聞いていました。



「源田・・・?源田って誰だ・・・。」

「源田・・・。小東から聞いたことがあるな。

確か,組織の治安維持を担っている,

森熊のユニットリーダーだとか・・・。」




小東というのはレオンさんの協力者で

組織に潜入して情報をリークしてくれる人物です。



「そいつと山本が車に乗ったんだね。」



山本は話を続けます。



山本「先日,"菊の準幹部"を一人,殺った。」

源田「ご苦労だったな。しかし,大丈夫なんだろうな?」



源田は少し怪訝な顔をして見せた。



山本「ああ,古賀の細工は完ぺきだ。絶対に事故として処理される。」



このやり取りと聞いていたレオンさんの顔色が急に悪くなりました。



「・・・。」

「レオンさん?レオンさん・・・。大丈夫?」



まさらちゃんが声をかけました。



「あ,ああ・・・。」

「・・・。」



さらに山本は話を続けます。



山本「次は,"菊の幹部"を暗殺する。どうやら奴らは

この名古屋に集結しているみたいだからな。」

源田「そうか。菊の連中はわが組織にとって脅威。

早急につぶすべきだと俺も思っていたところだ。」




レオンさんは思わず声をあげました。



「なんだって!?」

「どうしたんだよ,レオンさん。

さっきから変だぞ。この"菊"ってなんなんだ?」




イツキ君もレオンさんに声をかけました。



「ああ,知っていることは後で話すよ。

今はこいつらの会話をしっかりと

聞いて情報をできるだけ得よう。」




盗聴器からは会話が聞こえ続けていました。



山本「計画はすでに出来上がっている。

後は少々,手数が欲しい。使えそうなのを

何人かすぐに用意できそうか?」



山本は源田に尋ねました。



源田「ああ,可能だ。ちょうど,周辺で任務に当たらせていた所だ。

今は,ここから200m後方に車で待機させている。

海外でのゲリラ活動にも従事していた精鋭の特殊部隊だ。」



山本は満足そうな表情で窓の外に目をやりました。



源田「一服したら出るとしようか。」



そういって源田は内ポケットからタバコを取り出しました。



源田「1本どうだ?」



源田は山本にタバコを差し出しました。



山本「悪いな。」



しかし,渡す際に源田はタバコを

山本の足元に落としてしまいました。



山本が落ちているタバコを拾うとすると

何かが落ちていることに気づきました。



山本「何だこれは。」



レオンさんが仕掛けた盗聴器に気づいたようです。



「まずいな・・・。気づかれた。」

「マジですか!?ヤバイじゃないですか!

すぐに車を出して逃げましょう!」




この後,彼らはどうなってしまうのでしょうか。



第6話 精鋭の追跡

 菊の華シリーズ 第1章
レオンさんが仕掛けた盗聴器が組織の

山本と源田にばれてしまいました。



「しばらく様子を見るべき・・・か?」



レオンさんはハンドルを握ったまま,

イヤコムに耳を傾けています。



源田「盗聴器だと!?まさか菊の連中か!?

だとしたら今の会話がもれて・・・。」

山本「確か,影(シャドー)も盗聴器をつけられて,

会話を盗まれた。おそらく同じ人物が取り付けたんだろう。」



山本は盗聴器をもったまま源田と話しています。



山本「おい,聞こえるか。」



声を荒げて山本は盗聴器に呼びかけました。



山本「どこの馬の骨か知らねぇがなめた

真似してくれたな。この代償は高くつく。」



そう言うと盗聴器を握りつぶしました。



源田「どうする?会話を拾っていたとなると,

この近辺に潜んでいるはずだぞ。探し出すか?」

山本「そうしたいところだが,俺がやると殺してしまう。

さっきアンタが自慢していた,“精鋭”の実力を試させてくれ。」



山本は源田に指示を促しました。



源田「いいだろう。」



源田は携帯電話を取出し,何かを指示しました。



源田「ああ,全員確実に拘束しろ。素性を調べ上げる必要があるから殺すなよ。

そして,銃火器は使うな。ここは人が多い。」



その時,一台の車が山本たちの車を追い抜いて,

交差点でUターンして行きました。



それはレオンさんが運転する車でした。

どうやら,ここから離れることにしたようです。



山本「あの,車を追わせろ。」



源田「わかった。」



すると,すぐに後方から1台のワゴン車が猛スピードで発進していきました。

闇組織JFの訓練された兵隊が乗っているようです。



源田「総勢,5人。一個小隊規模だ。一般市民,いや警察の人間でも

訓練されていなければ,一瞬で捕獲,殺害できる実力を持つ。」



山本「それは頼もしいな。」



山本はタバコを咥えながら,車のハンドルを握り,アクセルを噴かせました。



源田「さあ,急ごう。時間があまりない。」



山本たちは車を発進させ,街中に消えていきました。



一方こちらはレオンさんの車内。



「ヤバイよヤバイよ!」



トシ君も焦っています。



かなりの速度で国道を走らせます。





しかし,確実に後ろのワゴン車との距離が縮まっています。



少年昆虫団は表情を強張らせながら後ろを気にしています。



「これは捲くのは無理だな・・・。」

「じゃあ,人けのない場所まで何とかいけない?」



助手席に乗っていたリク君がそう提案しました。



「そうだな。そうしよう。」

「どうする気なんだ?」



イツキ君は何となく答えがわかって

いましたが,あえて聞いてみました。



「あいつらを倒す!」



そう答えたレオンさんの顔は

とても頼もしい表情をしていました。



「ええ!?でもなんか精鋭とか

言っていたけど大丈夫なの・・・。」




さらに5分ほど走らせ,解体が決まっている

地下駐車場の中に入っていきました。



立ち入り禁止の看板がありましたが,

そのまま突っ切っていきました。



当然,組織の連中も追ってきます。



地下1階まで降りたところでレオンさんが車を止めました。

組織の車はレオンさんの車から少し後ろで止まりました。



第7話 精鋭との対決

 菊の華シリーズ 第1章
地下駐車場に入り,車が停止する直前のことです。



「ここは僕とレオンさんで相手をする。みんなは車から出ないように!」



「待て,俺も行く!」



イツキ君が車から出ようとします。



「待つんだ。イツキ君の強さは認めるが,ここはオイラに任せて。

万が一の時,まさらちゃんたちを守れるようにしてほしい。」


「ちぇ・・・。わかったよ。そのかわり,後で稽古をつけてくれよ。」



イツキ君は扉から手を放しました。



「約束しよう。」



レオンさんが車を止めるとすぐに二人は車外に出ました。





そして車を背にして,かまえました。



向こうの車も停止すると,後部ドアが開き,非常に無駄のない

動きで降りてきて,レオンさんたちの車を取り囲みました。



運転手以外,全員降りてきたようです。

そのJFの精鋭部隊5人でした。



ヘルメットをしていて顔はよく見えません。



ボソボソと会話をしています。小型マイクでリーダー

らしき人物が指示を出しているようです。



精鋭R「対象を取り囲んだ。殺害は不許可。銃火器の使用も不許可。」



そう言っているのが聞こえました。



「生け捕りにして色々聞き出そうってわけね。」



リク君はすでに捕虫網を手にして構えています。



1本だけなので,最初は一刀流で様子を見るようです。



精鋭たちは防護マスクを着用し,

スプレーのようなものを取り出しました。



精鋭R「私は,JFの精鋭部隊。"梟"のリーダー,山根だ。

君たちは全員我々の管理下に置かれることになる。」





―JF精鋭部隊"梟"のリーダー,山根―



次の瞬間,リーダーの山根は手で合図を出しました。

隊員たちは一斉に隠し持っていた催涙スプレーを噴射します。



「ゴホッ。」



レオンさんは袖を口に当てて煙を防ごうとしました。



「リク君,大丈夫か?」



レオンさんはリク君の方を見ました。しかし,

そこにはリク君の姿がありませんでした。



精鋭2「一緒にいたガキはどこへ行った!?」



「ここだよ。」



精鋭たちが上を見ると捕虫網を伸ばして

地上から5mほどのところにリク君が見えました。



この地下駐車場はそれくらいの高さはゆうにありました。



精鋭3「なんだあれは!?」



―大空二刀流 追撃の星(シューティングスター)―



2本の捕虫網がものすごい速度で上空から襲いかかってきます。



いつの間にか二刀流に変えていました。彼は状況に応じて,

一刀流と二刀流を使い分けることができるようです。



精鋭たちはリク君の攻撃レンジから離れ,

直撃を避けようとします。



しかし,一人に命中します。



精鋭4「うぐ・・・。」



後頭部に直撃した精鋭の一人はそのまま気を失ってしまいます。

一瞬の隙を見つけ,レオンさんが反撃に出ます。



相手の顎にフックを決め,よろめいたところで防護マスクを奪います。

そのまま,相手の顔を地面にうずめ,倒しました。



「よし,これで呼吸が楽になった。」



精鋭5「隊長,こいつら,何なんですか!?」



レオンさんは次の相手を決め,攻撃に出ます。



山根「慌てるな。こちらはまだ3人いる。落ち着いて対処しろ。」



「残りはもう二人だけどね。」



気づくとさらに一人,倒れこんでいました。



「さすが。強いね,レオンさん。」



地上に降りたリク君がレオンさんに声をかけます。



精鋭部隊の残りがナイフ術を駆使してレオンさんを殺しにいくも,

すんなりと返され,体の動きを封じられます。



「(あれは,合気道・・・。レオンさん,

合気道もできる・・・のか?)」




レオンさんが首を強く締めると精鋭部隊は倒れこみました。



「まさか,殺してないよね。」



「ウキキ。ちょっと眠ってもらっただけだよ。」



レオンさんは残った精鋭部隊のリーダーと対峙しました。



「(レオンさんのこの手際の良い動きって・・・。まさか・・・。)」



山根「ありえない・・・。」



リーダーの山根は見たことのないような構えをとりました。



リク君は捕網虫を背中に戻しました。

後は,レオンさんとこのリーダーの戦いになるとみたようです。



山根は目つぶしの行動をとります。

レオンさんは間一髪でそれを回避します。



「(こいつら・・・。やはり,徹底的に殺人術を訓練しているな・・・。)」



レオンさんもすきを見て,相手のみぞおちにけりを入れようとします。



確かに当たったようですが,山根は立ち上がりました。



「防護チョッキか・・・。」



二人の戦いは続くようです。



第8話 思い当たる人物

 菊の華シリーズ 第1章
地区郊外の使われていない地下駐車場で,

JFの精鋭部隊"梟"とレオンさん,リク君が戦っています。



山根「我々はどんな手段を用いても,戦果をあげねばならない。」



梟のリーダー,山根は腰に下げていたサバイバルナイフを取り出しました。



レオンさんは一瞬,驚きましたが,ひるむことなく構えています。



山根「このナイフは・・・こう使うんだ!」



山根は向きを変えると,リク君に向かってナイフを投げました。



「!?」



山根「(負傷したガキを庇いに行った所を仕留めてやる。)」



しかし,リク君はそのナイフを軽々とよけ,

一足飛びで山根の懐に入り込みました。



山根「な・・・何・・・!?」



リク君はレオンさんと山根の対決を静観するつもりでしたが,

矛先が自分に向かったので予定を変えました。



このリーダーはレオンさんとリク君という最強の二人を

同時に相手せねばならなくなった時点で詰んでいました。



山根は見るも無残にやられてしまいました。



リク君とレオンさんは勝負を終えて,車に戻ってきました。



「すごいね!みんなやっつけちゃった!」

「毎度思いますが,レオンさんが強すぎるのはいいとして,

リク君も強すぎでしょ。なんで小学生がゲリラの

精鋭部隊やっつけちゃうんですか。」




だぬちゃんは安心したのか急に突っ込みを入れました。



「でも精鋭,精鋭と言っていた割に

たいしたことないね!全然精鋭じゃない!」


「いや,そんなことはないさ。あの連中は相当な強さだったよ。

特にリーダーの山根,とかいう奴はかなりの手練れだった。

警察,自衛官でも特殊な訓練を受けてない人じゃやられていただろうね。」




レオンさんは相手の強さを冷静に分析して伝えました。



「そうだね。さすが闇組織JFの部隊だ・・・。」

「そうなのか・・・。」



イツキ君は自分が戦えなかった悔しさと,もし戦っていたら

足手まといになっていたかもしれないという思いが錯綜していました。



「とりあえず,すぐにここを離れよう。

警察にはオイラが連絡をするよ。銃刀法違反で検挙できる。」




「(え・・・?)」



レオンさんはみんなから少し離れた場所で

携帯電話を取り出して電話をし始めました。



一方,山根は瀕死の状態で携帯電話を取り出しました。



どうやら源田にかけているようです。



国道には車を走らせている山本と源田がありました。

そこで源田は精鋭部隊のリーダーからの連絡を受けました。



山本「どうした?顔色が悪いぞ?」







源田「ありえない・・・。やられただと・・・。」



源田は携帯電話に向かって怒鳴りつけます。



源田「一人は・・・ガキ・・・だと・・・?ふざけるな!!」



山本はタバコを静かに吹かしたままやり取りを聞いていました。



源田「どうなっているんだ・・・。やはり"菊"の手に落ちたか・・・。

ガキにやられたなどと適当なことをいいやがって・・・!」



山本「案外,本当のことかもしれんぞ。思い当たるガキが一人いる。」



源田はありえないといわんばかりに首は横に振りました。



山本「以前,アンタも関わっていた各務原山で起きたことは話しただろう。

おそらく今回の件も“平成のファーヴル”だ。」



山本は先日,出会った少年のことを思い出しました。



源田「もし,本当だとしたら脅威だ・・・。

早急に手を打たねば・・・!?これは

御前にもお伝えする必要がある・・・。」



源田は自慢の精鋭部隊がやられたことにショックを隠せない様子でした。



山本「安心しろ。俺が菊の連中もあのガキ共も

両方とも始末してやるよ。ククク・・・。」



山本は不気味に笑いながら車を走らせ続けました。



場面はリク君たちに戻ります。



「もうすぐ警察が到着するみたいなんだけど,

なんでも君たちにも事情聴取を受けてほしいんだって。」


「事情聴取を!?」



まさらちゃんが聞き返しました。



まさらちゃんの父親は警察官なので

その言葉を知っているようでした。



「それってドラマとかでよくあるやつですよね?

だぬたちが警察署に行くってことですか?」


「まぁ,そういうこと。西警察・中野木署へ行こうか。

オイラの車で行けばいいみたいだからさ。」




レオンさんは運転席に乗り込み,車を発進させました。

その時,すれ違いざまにパトカーが何台かすれ違っていきました。



レオンさんはそのパトカーに敬礼をしながら車を走らせていきました。



「・・・。」



そして,中野木署に到着しました。





第1章 9~14話

第9話 愛知県警 中野木署にて

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は地元の中野木署に到着すると

エレベータで3階へあがり,とても大きな会議室に案内されました。



大学の教授が講義をするような部屋で50人以上は収容できそうです。





レオンさんは入り口で別の警察官に呼ばれ,どこかへ行ってしまいました。



案内してくれた別の警察官が『ここでしばらく待ってね』とやさしく声をかけてくれました。



「なんか,5人しかいないのに無駄にでかいところに連れてこられましたね。」

「だね。もっと狭い取調室に入れられるかと思ったよ。」



二人が感想を述べます。



「わたしたちは別に容疑者でもないから,

そんな部屋には入れられることはないよ。

たぶんここしか空いてなかったんじゃないかな。」




まさらちゃんのお父さんは警察官なので

こういうことには詳しいようです。



そして10分ほどその部屋で時間をつぶしました。



「まだかな・・・。」

「まぁ,色々と忙しいんだろ。というか,

レオンさんはどこに連れていかれたんだよ。」




すると,扉が開いてレオンさんが入ってきました。



「やぁ,お待たせ。」





頭をぼりぼりとかきながら

少年昆虫団の元へやってきました。



「さて,それじゃあ,どこから説明しようかな。」



レオンさんが少し悩んでいる様子を

見てリク君が話しかけました。



「レオンさん,ボクからもレオンさんに

話したいことがあるんだけど,いいかな?」


「ん?オイラに話?なんの話かな?」



レオンさんはリク君に聞きました。



「ずばり,レオンさんの正体さ。」



みんなは驚いてリク君を見ました。



「オイラの正体?興味があるね。一体それは・・・?」

「レオンさんの正体,それは・・・。」



だぬちゃんはつばをごくりと飲み込みました。



「それは,警察官だ。それも公安警察のね。」

「何っ!?そんなことが・・・。」



イツキ君は驚きを隠せない様子でした。



「根拠はあるのかな?」



レオンさんは表情を変えることなく,リク君に聞き返しました。



「あるよ。以前レオンさんが,イツキ君の知り合いだった

城嶋って人をテロ未遂で捕まえたことがあったよね。」
(第120話参照)

「・・・。」



リク君はみんなにもわかるように説明を始めました。



「あの時,レオンさんはこう言ったんだ。

『公安に連絡をしておいたから,大丈夫』って。」


「あっ,確かに言っていたかも。」



まさらちゃんも思い出したようです。



「普通,悪い人を捕まえたら,『警察に連絡した』だよね。

わざわざ,一般の人が公安部署,正確には県警本部警備部の

番号を知っているとは思えない。 だから,あの時,変だなと思ったんだ。」


「なるほど。他にも何か根拠はあるかな?」



レオンさんは動揺することなく,さらに聞き返しました。



「ちょっと前に,影(シャドー)がイツキ君を誘拐したことがあったよね。」

「ありましたね。結局,イツキ君の作戦だったんですよね。」



だぬちゃんもその件はしっかりと記憶に残っているようです。



「あの時,レオンさんはまさらちゃんに誘拐した場所を

どうやって探ったか聞かれて,『警察のサーバをハッキングして

Nシステムの画像を見た。』と言っていた。」
(第137話参照)

「うんうん。そうだった。」



まさらちゃんは相槌を打ちます。



話についてこれなくなったトシ君は会議室に

置いてあったホワイトボードに絵を描いて遊び始めました。



「いくらなんでも,そう簡単に警察のサーバをハッキングできるのかな?

本当はレオンさんが警察関係者だから堂々と,

Nシステムの解析情報を入手できたんじゃないかって

考えたのさ。その方が自然じゃない?」


「そうか,そういわれてみれば・・・。」



イツキ君は手をアゴに当てながらつぶやきました。



果てしてレオンさんの正体は本当に警察官なのでしょうか。



第10話 公安の人たち

 菊の華シリーズ 第1章
リク君は中野木署の大会議室でレオンさんの正体が警察官だと推理しました。



それを聞いたレオンさんはリク君の説明を楽しんで聞いているようにも見えました。



「さすがだね。もっと他にもオイラが警察官だという証拠があるんだろう?」



レオンさんはすでに半分自分正体を認めているようなものでした。



「うん。レオンさんがさっき,JFの暗殺部隊を

倒していた時に使った技の一つに,合気道があった。

あれも警察官なら警察学校で習得しているしね。」




リク君はさきほどの戦闘場面について説明しました。



そしてさらに別のことにも触れます。



「それに,今日の午前にレオンさんが部屋で落とした携帯を

ちょっと見ちゃんたんだけど,何もデータが入っていなかった。」


「ふんふん。そうだった。」



トシ君が話に入ってきました。



「あれも公安の人間がよくやることだよね。万が一紛失してもいいように。

公衆電話でのやりとりが多いって聞いたけど,場合によっては携帯電話も

必要になってくるから持っているんでしょ。」




レオンさんはしばらく黙って聞いていましたが,

ニコッと笑ってリク君を見ました。



「すべて正解だ。リク君の推理通り,オイラは警視庁公安部の人間だ。

今はJF特別対策本部である"菊水華"の幹部として名古屋に来ている。」




やはりレオンさんは公安警察の人間だったようです。



「ええっ・・・。リク君の言ったことは本当なんだ。

レオンさんは刑事さんなんだ。すごい~!」




まさらちゃんは驚きながらも喜んでいるように見えました。



「そうか。そうならそうともっと早く言ってくれればよかったじゃないか。

大学も偽名で通っているのはそのためか。

ということは年齢も本当はもっと上なんだな。」




「ごめん,ごめん。なかなか言い出せなくてね。

あまり公にできない捜査なわけだしね。」




レオンさんは頭をぼりぼりとかきながら謝っていました。



「大学の管理者には事情を伝えて,潜入させてもらっているんだ。

翠川レオンという名前でね。本当の年齢は30歳さ。ウキキ。」




すると,半開きになっていた扉の向こうから声がしました。



???「そろそろ俺も入っていいかな?」



扉の向こうからどこかで聞いた声がしました。



「ん?」



なんと入ってきたのは,あの神社の神主であった赤神氏でした。







赤神「さすがだな。お前の言った通りの優秀な子どもたちのようだ。」



「あれぇ~???なんで,あなたがここにいるんですか!?」



今度はだぬちゃんがびっくりしました。



赤神「俺は公安部JF特別対策チームのリーダー,赤神だ。」



「ええ,そうなんですか!?じゃあ神主は・・・。」



赤神「奴らの目を欺くための手段だ。

この赤神という名前も当然偽名さ。そこにいる翠川もな。」



赤神氏はレオンさんに目をやりました。



「捜査の性質上,“菊水華”は偽名を使って行動しているんだ。」



レオンさんはみんなに説明しました。

みんなは近くの椅子に座ってさらに話を聞くことにしました。



「えっと,いきなり色々なことがでてきて頭がこんがらかっちゃったよ・・・。」



まさらちゃんだけでなく,ほかのメンバーも状況を

しっかりと飲み込めていないようでした。



赤神「質問したいこともあるようだけど,先に他のメンバーを紹介しよう。

菊水華,通称“菊”の幹部メンバーたちだ。」



赤神氏が合図を送ると,半開きになっていた扉の奥から

“菊”とよばれるチームの幹部が入ってきました。



その人物たちとは・・・。



第11話 菊の幹部登場

 菊の華シリーズ 第1章
赤神氏が合図を送ると菊と呼ばれるチームの幹部が入ってきました。



「あ・・・。あなたは・・・!?」



だぬちゃんがまず驚きました。



ジャズバンドのリーダーである青山氏が入ってきたのです。







だぬちゃんは彼のファンで,以前

コンサートにもいったことがありました。(第124話参照)

青山「俺のことを知っているようだな。」



「もちろんですよ!大ファンですから!」



だぬちゃんは興奮していました。



「でも,なぜ青山さんがここに・・・?」



赤神「彼は公安部JF特別対策チーム,“菊水華”の幹部だ。

普段は関西地区で活動しているんだが,今回は名古屋へ

招集をかけ,来てもらったんだ。」



赤神氏がそう説明しました。



「なるほど。それで普段は大阪でしか,コンサートを

行わないのに,今年は名古屋まで来てくれたんですね。」


「つまり,ジャズバンドのリーダーというのは,JFの目を

騙すための仮の姿で,本当は公安部の人間だったてことね。」




リク君がだぬちゃんにそう補足しました。



次に入ってきた人物は女性でした。



「あ・・・!?」



今度はまさらちゃんが驚きました。



そこには以前,栄のお店で買い物をしたときに

対応してくれたお姉さんがいました。(第123話参照)





桃瀬「あら,あなたは確か・・・。」



桃瀬という名前の店員は実は“菊水華”の幹部でした。



「びっくり!」



桃瀬「そっか,あなたは少年昆虫団の一員だったのね。

話は翠川君から色々と聞いているわ。」



桃瀬さんはお店で見かけたときのカジュアルな服装ではなく,

びしっとしたスーツに身を固めていました。



「なんか,ちょっと怖そうな方ですね。

暗殺とかが得意そうです・・・。」




だぬちゃんがボソッと本音を呟きました。



桃瀬「あら,あながち間違いじゃないよ。

ここに所属する前はSATなどの特殊部隊に

いた経験もあるし,銃の腕は“菊水華”の中では一番よ。」



「ひぇええ・・・。」



そして,最後に入ってきた人物に驚いたのはトシ君でした。



「あや?あれは確か,ピエロの・・・。」







そこには,以前トシ君とワク君が観に行った

サーカス団の団長である,黄金原さんがいました。(第162話参照)

黄金原「いや~,なんか疲れるね~。早く道化に戻りたいよ~!」



気さくな感じの明るい男性でした。



「そろったみたいだね。」



メンバーは前に立ち,改めて自己紹介を始めました。



リク君たちは座って,聞いていました。



「つまり,ここにいる人たちは俺たちの

だれかと一度は会ったことがあるわけか・・・。」




赤神「どうやら,そういうことになるみたいだな。

その方が話も早い。それではさっそく本題に入ろう。」



赤神氏は椅子に腰かけました。



第12話 “菊水華”前編

 菊の華シリーズ 第1章
少年昆虫団は中野木警察の3階にある大きな会議室のような部屋にしました。







たくさんの机といすがあり,彼らは前の方に固まって座りました。



普段,警察のお偉い方が指揮を執ると思われる机に赤神氏が座り,

その左右に菊水華と呼ばれるチームの幹部が立っていました。



その中にはあのレオンさんもいました。

そして赤神氏が本題に入ろうとしました。



「あの,その前に,これってどういうことですか?先ほどの件の事情聴取ですよね?

なんか,状況が呑み込めないというか・・・訳がわからないんですけど・・・。」




まさらちゃんは思い切って質問をしてみました。



「ごめん,ごめん。事情聴取って言ったのは君たちをここに連れてくるための口実さ。

オイラは始めから君たちをここにいるメンバーに会わせようと思っていたんだ。」




レオンさんがそう言いました。



「レオンさんは僕たちを試していたんでしょ?

自分の正体を見抜くことができるかどうか。」


「どういうことだ?」



リク君の発言にイツキ君が質問をしました。



「さすがだね。その通りだよ。その様子を部屋の外で,

ここにいるメンバーに聞いていたもらったんだ。」


「やっぱり。午前中にトイレに行くふりをして携帯を落とし,

中をのぞかせたり,大学の学生課へ行かせて,偽名を教えたり,

合気道を使ったりしたのは,わざとだよね。」




どうやらレオンさんはヒントをさりげなく与えてくれていたようです。



赤神「実際に,君たちの推理力と行動力,特にリク君には

驚かされた。最初に神社で会った時には,君たちがいなく

なった後すぐに,翠川と連絡をとったくらいだ。」(第103話参照)

つまり,少年昆虫団が事情聴取を受けるというのはただの口実で,

実際には“菊水華”の幹部と顔合わせをさせることでした。



レオンさんは自分の正体につながるヒントをさりげなく,ちりばめていまいた。



赤神氏は彼らがそのヒントに気づいて正体を見抜くことが

できれば,顔合わせをし,見抜くことができなければ,

顔合わせをせず,事情聴取だけして返すつもりだったようです。



「でも,なんで,だぬたちがこの方たちと知り合う必要があるんですか?

そもそも“菊水華”って言われてもよくわからないんですが・・・。」




だぬちゃんの疑問はもっともでした。



先ほどから何度も出てきた“菊水華”という名前ですが,

詳細についてはまだ語られていませんでした。



赤神「そうだな。最初から丁寧に説明しよう。我々の組織について,

我々の目的,君たちにここに集まってもらった理由,そして闇組織JFについて・・・。」



赤神氏は前に置いてある大きなホワイトボードを活用しながら,説明を始めました。



赤神「まず,警察組織の中に公安警察という部門があることはご存知かな。

正確には警備警察の部門なのだが,東京の警視庁にはこれとは別に

“公安部”というのがある。そこにいるレオンはその公安部に所属している。」



「難しい・・・。」



トシ君は疲れてしまい,ウトウトとしています。



赤神「各都道府県の警備部と公安部が協力して作り上げたものが

“JF特別対策チーム”だ。通称は“菊水華”,または単に“菊”と呼んでいる。」



「それは主にどんな任務をおこなうんですか?」



まさらちゃんが聞きました。



赤神「闇組織JFを壊滅,組織員を検挙するために

捜査,情報収集を行うチームといってよい。」



赤神さんの話は核心に入っていきました。



第13話 "菊水華"後編

 菊の華シリーズ 第1章
レオンさんはJF特別対策チームである,

通称“菊水華”と呼ばれる組織の一員でした。



さらに神社で出会った神主の赤神氏,だぬちゃんが聴きに行った

ジャズグループのリーダーである青山氏,ブティック店員桃瀬氏,

サーカス団団長黄金原氏もいました。



皆,仮の姿でこの名古屋に集まってきたようです。



赤神「次に君たちに集まってもらった理由だが・・・。」



「オイラ達の力を借りたいってわけですか?それなら任せて!」



トシ君は急に張り切りだしました。



赤神「その逆だ。君たちを保護するために,ここに集まってもらった。」



「どういうことだ?」



イツキ君は立ち上がって,そう言い返しました。



赤神「君たちはあの闇組織JFにすでに襲われている

こともあると聞く。一般人の安全を確保するのも我々の仕事だ。」



「でも,それって建前だよね?」



リク君が赤神氏に向かってそのように言いました。



「どうしてそう思うんだい?」



レオンさんがリク君に聞きました。



「だって,保護するつもりなら,レオンさんの正体を見破れるか,

なんて試す必要ないでしょ?だから建前としては僕たちの安全を

確保するということで一緒に行動するけど,実際は相互協力ってことでしょ。」




パチパチパチ・・・。



黄金原さんが拍手をしました。



黄金原「素晴らしい。君は本当に優秀な少年だなぁ・・・。」



赤神「そこまで読まれていたか。さすがだな。」



赤神さんも感心したようでした。



「それで,僕たちは何をすればいいの?」



赤神「何を,というわけではないが,君たちがJFの連中に出会ってから,

今日までに起きたことをなるべく詳しく教えてほしい。」



リク君たちは菊のメンバーに今まで起きたことをすべて説明しました。



すでに夕方になっていたので,この日は

レオンさんの車で帰宅することになりました。







赤神さんからの連絡はレオンさんを

通して行われることになりました。



少年昆虫団を乗せた車は自宅に向けて走っていました。



車の中では,それぞれが一度見たことがある人が警察官で,しかも公安の

“菊水華”という組織に属していることに驚きを隠せない様子でした。



「そういえば,さっき,山本と源田っていう幹部の

盗聴内容を赤神さんに話していたけど・・・。」


「話していたね。“菊の幹部を暗殺する

計画がある”ってこと以外は。」




レオンさんがリク君の言いたいことを先回りして答えました。



「何で言わなかったの?一番大事なことじゃない?」

「実は・・・。これはオイラの予想なんだが,幹部の中に

JFのスパイがいるんじゃないかと思っている。」




レオンさんが衝撃発言をしました。



みんなは盛り上がっていた会話を中断して,

運転しているレオンさんの方を見ました。



「それって,どういうこと?」

「明確な証拠はないんだけどね。それに近いことは

何度かあった。情報が漏れているようなことが・・・。」




レオンさんはそれを危惧して,あの場では

全てを話すことをためらったのです。



「だから,オイラに個人的な協力者がいて,

JFに潜入していることも言ってない。

この件も含めてくれぐれも内密に頼むよ。

リーダーの赤神さん含めて,誰にも言わないようにしてほしい。」




レオンさんは真顔でそう言いました。

この情報が漏れることをかなり危惧しているようです。



「全員が容疑者ですか~。誰がJFのスパイなのか

見当はついていないんですか?」




だぬちゃんが聞きました。



「ああ,まったくわからない。だからこそ,

君たちの力を借りたいのかもしれない。」




レオンさんは本音をこぼしました。



「でも奴らの暗殺計画が本当なら・・・。」

「一刻も早く内通者を暴く必要があるね・・・。」



そして車は自宅付近に到着しました。



第14話 エピローグ

 菊の華シリーズ 第1章
警察署から帰宅した少年昆虫団は

昆虫採集に行くことにしました。







場所は近くの緑地公園です。



レオンさんもそのままついていくことにしました。



一通り昆虫採集が終わり,公園内の噴水広場で休憩をしました。

時間は夜の9時を過ぎていました。

だぬちゃんとトシ君はベンチに腰かけてジュースを飲んでいます。

まさらちゃんは噴水のふちに座っていました。



リク君とレオンさんとイツキ君はベンチに

座ることなく,立ったまま話をしていました。



「よく考えたら,あの場に俺たちが行ったのはまずかったんじゃないのか?

JFに俺たちがこの地区にいるっていっているようなものだろ?」


「その点はご心配なく。それに名古屋って言っても広いからね,

そんな簡単には見つからないさ。むしろ心配なのは影(シャドー)が

他のJF幹部に居場所を言ってしまうことさ。」




レオンさんは手に持っていたジュースを飲みながら,そう言いました。



「そっか。そうだな・・・。まぁ,でもレオンさんがやたらと

何でもできてめちゃくちゃ強い理由がわかった気がするよ。」


「ウキキ。」



レオンさんは照れていました。



「あいつらの会話を聞いた感じだと,すぐにでも

事態が動いていきそうな予感がするよ。」




リク君が夜空を見上げながら言いました。



「そうかもしれないね。あいつらが殺したといっていた,

菊の準幹部は黄金原さんの下で働いていたんだけどね。

結局,交通事故で処理されたらしい。すでに葬儀も行われたそうだ。」


「それって,もっと詳しく調べなかったんですか?」



だぬちゃんが聞きました。



「どうも,赤神さんが知らないところで話が進んでいたみたいで,

赤神さんの耳に入ったときは,時すでに遅しだったってさ・・・。」




レオンさんは警察の内部情報をリク君に話してしまいました。



それだけ彼らのことを信用しているようです。



「ねぇねぇ,これから私たちはどうすればいいの?

何かすぐにでもお手伝いすることってあるの?」




噴水近くにいたまさらちゃんが近くまでやってきました。



「そうだねぇ・・・。何が起きるかわからないから,

常にイヤコムはONにしておいてほしい。

それから何かあったら,すぐにリク君と

オイラを呼んでほしい。今はそれくらいかな?」




まだまだ蒸し暑い夜が続きます。

トシ君はジュースを飲みきってしまいました。



「おかわりがほしいな~。」



そういって,自販機にジュースを買いに行きました。

こうして少年昆虫団はこの日の活動を終えました。



一方,ここはJFの所有する名駅,ツインタワー“バベル”。



その中層にある一室にて一人の男がどこかに電話をかけていました。



源田「・・・ああ。・・・そうだ・・・。早急に手配させろ・・・。」



その人物はJFの幹部,源田でした。

彼は電話を切ると椅子にもたれかかって目を閉じました。



源田「なんとしても,菊を壊滅させる必要がある。

菊に潜入しているヤツの情報では・・・。」



いよいよ,闇組織JFと菊水華との全面対決が始まるようです・・・。



菊の華シリーズ ~第1章 完~



第2章 1~8話

第1話 プロローグ

菊の華シリーズ第2章
日本には,日本国を解体させ,自分たちの理想国家を創り,

日本を思いのままにしようとする闇の組織が存在しています。



その組織の名前は"ジャパノフォビア"。通称JFと呼ばれる組織です。

"御前"と呼ばれる人物が組織のトップとされますが詳細は不明。



このJFを壊滅させるために日本警察が作り上げた組織が

警視庁公安部のJF対策特別チーム,"菊水華",通称"菊"でした。



"菊"は,神主に変装していたリーダーの赤神氏,ジャズバンドブルーマウントのリーダー

である青山氏,ブティックの店員として名古屋にやってきた桃瀬氏,

サーカス団団長の黄金原氏,そして警視庁公安部の翠川レオン氏の5人を中心とする組織でした。







リク君たちの良き理解者であるレオンさんは実は警視庁公安部の人間であり,

公安の中から対JF壊滅部隊として設置されたのが菊の華と呼ばれる部署でした。



リク君たち少年昆虫団は彼らと協力して闇組織JFの壊滅を目指すことになりました。

少年昆虫団が中野木署を訪れていたその日の夜・・・。



名古屋中心部にある超高層ツインタワービル。

闇組織JF所有のビルでもありました。

ここの上層階にて組織の幹部が会議を行っていたのです。



会議に出ているメンバーは山犬の山本,藪蛇のアヤ,

森熊の源田,海猫の今村,そして川蝉の東條でした。



源田「すでに,菊の準幹部を一人殺害した。当面の目標はさらにもう一人の殺害だ。

あまり短期間でことを起こすと,目立つからだ。」



と源田が現状を説明しました。



円卓のテーブルを囲むように各ユニットリーダーが座っていました。



山本「今回の作戦は山犬がやる。」



山本が切り出しました。



今村「おやおや,抜け駆けはいけませんねぇ・・・。

今回の作戦は御前の勅命。失敗は許されません。

各ユニットの共同作戦であるとのことですよ。」



源田「今村さんの言うとおりだ。今回の菊幹部暗殺作戦は全てのユニットで実行する。

すでに俺の直属の部下である,"キラー"が動き出している。

それにアヤが仕込んだスパイからも色々と報告があがっている。」




源田はアヤの方を見ました。

それに気付いたアヤは少し面倒くさそうに説明を始めました。



アヤ「アタシの仕込んだ愛しい愛しい闇の騎士(ダークナイト)は

菊の幹部に溶け込みしっかりと情報を流してくれているわ。」



山本「ほう。どんな?」



にらみつける山本。



アヤ「すでに名古屋に集結しているみたい。当面は愛知県警本部を拠点にするって。」



山本「それだけか?」



アヤは少し間をおいてから,



アヤ「なんでも妙なことを伝えてきたわ。5人組の少年たちと知り合いになったって。

その中でも捕虫網を持った少年はなかなかクセがあるから気を

つけた方がいいそうよ。どういう意味かしらね・・・?」



山本は急に笑い出しました。



山本「ハハハハッ・・・。」



今村も何かを知っているかの表情で山本を見ていました。

隣に座っていた東條もなにやら笑っています。



源田「おい,山本。その少年っていうのは今日の午後の・・・。」

山本「ああ,そうだ。やっと尻尾を出してきたか。

平成のファーヴル!これは面白くなりそうだ。」



今村はゆっくりと手を挙げて,



今村「今回の作戦は辞退しますよ。」



と言いました。



源田「どういうことですか?」



源田は立ち上がって聞き返しました。



今村「いくら共同戦線といってもさすがに大人数で

動けば向こうに気付かれる可能性があります。

ここは暗殺能力を有している森熊と諜報活動の藪蛇と

それをまとめる山本クンがいれば十分でしょう。」



そこで,源田は東條にも話を振り,川蝉も辞退

するように説得すると,彼はしぶしぶ承諾しました。



いよいよ,菊の幹部を暗殺する計画がまとまってきたようです。



山本「それで,始末する菊の幹部は・・・。」



アヤ「ええ,それは・・・。」



こうして名古屋の夜は更けていきました。



第2話  誰がスパイか・・・?

菊の華シリーズ第2章
リク君はイツキ君と二人で緑地公園にいました。

昆虫採集が終わり,他のメンバーは帰っていきました。



二人は夜の街灯に照らされながらベンチに座っていました。



「話っていうのはなんだ?」



イツキ君が聞きました。



「ああ,実はさ・・・。」



と少しためらうリク君。



イツキ君は持っていたジュースを一気に

飲み干し少し離れたゴミ箱に投げ入れました。



「もったいぶらずに話せよ。どうせ,今日のことだろ。」

「うん。レオンさんが菊の幹部の中に闇組織JFのスパイが

いるって言っていたよね。一体だれだと思う?」




リク君は本題に入りました。



「まぁ,レオンさんを除外して考えると残りは4人・・・。

誰も怪しいような怪しくないような・・・。決め手にかけるなぁ・・・。」


「そうなんだよね・・・。」



二人は言葉に詰まりました。



「もうひとつ気になることがある・・・。」



とリク君。



「奴らは菊の幹部の誰を暗殺しようとしているのか・・・だろ。」

「ああ,もしくは全員を一度に殺そうとしているのかも・・・。」



とても小学2年生の会話とは思えない内容でした。



「いきなり全員は無理だろう。奴らは死因を殺人ではなく

事故死にしようと企んでいるはずだ。一気に何人も死ねば

さすがに捜査本部も怪しむ。」


「だろうね・・・。」



二人は考え込みました。







「明日,レオンさんに相談して,他の幹部と

ゆっくり話ができないか聞いてみないか。」


「そうだね。考えても仕方がないし,それが一番いい。」



と,言ってリク君は立ちあがりました。



「ただ,最悪のことも想定しておいてよ。」

「どういうことだ?」



と,聞き返しました。



「そのスパイがレオンさんかもしれないってことだよ。」



イツキ君は激高して,



「そんなわけないだろう!」

「だから,言ったでしょ。最悪の想定だよ。あえて,僕たちに

スパイがいることをほのめかして捜査をかく乱する可能性だって

あるんだ。どんな状況になっても常に冷静に行動できるようにしておかないと。」




イツキ君は黙ったままでした。



「でも,僕もイツキ君と同じで,レオンさんのことを信じている。

もし,スパイがいるとしたら残りの4人の誰かだと信じている。」


「ああ,そうだ・・・。俺はもう裏切られるのはごめんだ・・・。」



ベンチに座り,うつむいたままそう言いました。

彼の心には未だに城嶋さんの裏切りがトゲとなって刺さっているようです。



そして,次の日,少年昆虫団はレオンさんのアパートを訪れました。



菊の幹部達から話を聞き,JFのスパイである

闇の騎士(ダークナイト)の正体を暴こうとするようです。



第3話 菊の幹部達①

菊の華シリーズ第2章
リク君とイツキ君の二人は,昨日の夜に打ち合わせた

内容をレオンさんの自宅に行き,伝えました。



レオンさんはちゃぶ台の前に座ったまま,

麦茶を飲みながら聞いていました。



「それがいいかもしれない。オイラも彼らとは

あまり話したことがなかったからね。」




「なんか,楽しみだね。私は桃瀬さんとお話ができるのが楽しみ!」



まさらちゃんはちょっと嬉しそうでした。



「遊びにくんじゃないよ!」

「そんなことトシ君に言われなくてもわかっていますよ!」



レオンさんは部屋着から外出用の服に着替えました。



「話を聞くのはいいんだが,普段はそれぞれの持ち場で

仕事をしているんだ。だから,署に行っても会えないよ。」


「じゃあ,一人一人話を聞きに行かないとだめか。」



レオンさんは,机の上に置いてあった車のキーを手に取りました。



「じゃあ,さっそく行こうか。」



レオンさんの車に乗り込んで出発しました。



「1日で回れるかな?まだ午前中だから大丈夫かな。」

「ここから一番遠い桃瀬さんの所から行こう。

次に黄金原君,青山さん。最後に赤神さんのところでいいかな。」




レオンさんがナビをセットしました。



車を1時間ほど走らせると,桃瀬さんが

働いているブティック店に到着しました。



「ついたぞ。でも,一体何を聞くんだい?

何かスパイを見つけ出す作戦でもあるの?」


「いや,それはないけど,ひょっとしたら

何か手掛かりがあるかもしれないでしょ。」




と言って,車を一番に降りました。



ブティック店に入っていくと,桃瀬さんは

2階で接客のお仕事をしていました。



桃瀬さんはこちらに気付いたようでレオンさんと目が合いました。

レオンさんが目で合図を送ると,仕事のきりがついたところでこちらに向かってきました。



桃瀬「どうしたの?直接ここに来るなんて。」







少し怪訝な顔をしていました。



「あの,お仕事中にすみません。」



桃瀬「気にしないで。まさらちゃんだったよね。

後で,一緒にお洋服を選んであげる。」



桃瀬さんはまさらちゃんの頭をなでながらにこりと笑いかけました。



「あ,ありがとう!」

「実はね,ちょっと聞きたいことがあるんだけど,いいかな?」



リク君が無邪気に言いました。



桃瀬「じゃあ,休憩室に行きましょうか。」



桃瀬さんはみんなを休憩室に案内しました。



桃瀬「それで,私に話って?」



「桃瀬さんのことを色々と教えてほしいんです。

経歴とか,独自で調査したJFの情報とか・・・。」




桃瀬さんは快く承諾してくれました。



桃瀬「いいけど,それくらいならそこにいる翠川君に聞けば十分じゃないかな?

私が入手した情報は菊の中でちゃんと共有してあるから,新しいことは何もないよ?」



「この子は直接,桃瀬さんから聞きたい

みたいなんだ。協力してもらえると助かります。」




レオンさんは,低姿勢でお願いをしました。

桃瀬さんはどんなことを話してくれるのでしょうか。



第4話 菊の幹部達②

菊の華シリーズ第2章
少年昆虫団は菊の幹部の人たちから話を

聞くために,まずは桃瀬さんのお店を訪れました。



みんなは休憩室にある机を囲んで座っていました。

そこで話を聞くことができました。



桃瀬「私は東北・北海道地区担当なの。

所属は道警の警部の公安第一課。」



「やはり・・・。」



リク君のつぶやきにみんなが注目しました。



「どうしたの?」



と,まさらちゃん。



「公安一課というのは過激革命派関連事案を担当するんだ。

つまり,JFというのは・・・。」




リク君は真剣な表情です。



「まぁ,とりあえずその件はおいておこうよ。それに菊は

公安第一課所属の人間だけじゃないよ。青山さんは第3課だしね。」


「そうなんだ・・・。」



桃瀬さんは話を戻して続けました。



桃瀬「私の特技は射撃よ。特に遠距離の狙撃を得意としているの。

公安に入る前は北海道県警の特殊部隊にいた。」







「やはり,怖そうな予感は当たりました・・・。」



だぬちゃんがぼそっと言いました。



「桃瀬サンは北海道にいる時に何か組織の情報をつかんだりしたのか?」



桃瀬「ええ,でもそれについてはさっきも言ったけど菊の中で情報を

共有しているから翠川君が知っていることと同じことしか言えないわよ。」



桃瀬さんはレオンさんを見ました。



「うん,でも君の口から改めてこの子たちにはなして

あげてくれないか。捜査機密だということは重々に承知している。」




桃瀬「わかった。私が入手した情報はJFに超一流の狙撃手がいるってこと。」



そう言う桃瀬さんの表情は真剣そのものでした。



「怖ぇぇぇ・・・。それってお姉さんよりも実力は上ってこと?」



桃瀬「わからない・・・。でも互角か,それ以上だと思う。」



硬い表情のままそう言いました。



「でも,どうしてそんなことがわかったの?」



リク君は疑問に思ったことをそのままぶつけてみました。



桃瀬「3ヶ月くらい前に,JFと関わりがあると思われる人物を逮捕したの。

容疑は傷害。末端の人物だろうけど,何か情報を持っていると思って

取り調べをしたけど,何も吐かなかった。」



桃瀬さんは話を続けました。



桃瀬「容疑者は48時間以内に検察へ引き渡さないといけないの。

結局,その末端の人物はただの傷害事件の容疑者として送検されることになった。」



みんなは桃瀬さんの話を固唾をのんで聞いていました。

ただ,トシ君だけがついていけなくなり,眠くなっています。



「つまり,その時点では核心的な話は

聞けないまま,送検されることになったんだね。」




桃瀬「そう。そして,送検される時に警察署から検察所へ

移送することになるんだけど・・・。」



イツキ君が



「なるほど。その時に,その末端の

組織員が狙撃されて殺害されたわけか。」




と口にしました。



桃瀬「さすが,鋭いね。君とそこの帽子の少年と

話していると子供相手に話していることを忘れるね。」



それはキレ者二人に対する最高のほめ言葉でした。



桃瀬「その後の我々の捜査で,通常ではありえない距離に

あるビルの屋上から狙撃されことがわかったの。」



「つまり,邪魔ものの人間を闇組織JFの

狙撃手が消したってこと・・・。」




まさらちゃんはその事実に震えていました。



桃瀬「私たちはそう考えている。だから組織には

腕利きの狙撃手がいると見ている。」



皆は桃瀬さんから直接話を聞き,お礼を言って別れました。

そして車に乗り込んで次の場所へ移動を開始しました。



第5話 菊の幹部達③

菊の華シリーズ第2章
車の中で運転席のレオンさんが話を切り出しました。



「桃瀬さんは確か,警察内の射撃大会で優勝したこともあるらしいよ。」



真後ろに座っていただぬちゃんが驚いて



「マジですかー。暗殺者顔負けですね!」

「特殊部隊に所属中は何度か凶悪犯を射殺したこともあるって言ってたなぁ。

別荘に人質を取って立てこもった被疑者をロープウェイのゴンドラから狙撃して

解決した事件は警察関係者の中では知らないものはいないほどの伝説だよ。」




みんなは感心してレオンさんの話を聞いていました。



リク君は助手席で黙って考え事をしていました。



「次はどこにいくの?」

「オアシス22にある劇場だよ。黄金原さんは

そこでもサーカス公演を開催しているんだって。」




車はあっというまにオアシス22という建物の前に到着しました。



建物の中に入り,受付でレオンさんが話を

つけるとその奥に入れてもらえました。



劇団はけいこの途中でした。

中心で指示を出していた人物が黄金原さんです。







彼はこちらに気付き,



黄金原「おう,レオンじゃないか。それに昨日の

子供たちも・・・。何か用事かい?」



と声をかけてくれました。



「ああ,ちょっと聞きたいことがあってね。

少しでいいので時間をくれないかい?」




黄金原さんは舞台の袖に行き,理科の実験室に置いて

あるような小さな丸イスを人数分出してくれました。



黄金原「それで話って?」



リク君は先ほどの桃瀬さんの時と同じ説明をしました。



黄金原「事情はわかったよ。俺は九州・四国地区を

担当していて福岡県警に所属している。」



「その地域にもJFは関わっているのか?」



とイツキ君が聞きました。



黄金原「ああ,彼らは全国に組織を展開している。

詳しくは青山に聞いた方がいいな。

組織のある程度の全貌は奴が調べていたからな。」



さらに黄金原さんは自分が捜査した情報を話してくれました。



黄金原「たいしたことじゃないんだけどね・・・。

俺は一度,ある捜査中に組織の幹部と遭遇したことがあるんだ。」



「まじですか!?」



だぬちゃんは聞き返しました。



黄金原「別件でたまたま古い工場の中に張り込んでいたら

組織の人間が何人か集まってきて何かの取引をし始めたんだ。

幸い向こうはこちらに気付かなかったから,しばらく監視していた。」



「それで?」



トシ君も興味があるようです。



黄金原「幹部の一人がもう一人に向かって"闇の騎士(ダークナイト)"と呼んでいた。」



リク君は真剣な表情で



「ダークナイト・・・。」



と呟き,その名前を頭に叩き込みました。



黄金原「会話の内容からわかったことは,藪蛇(やぶへび)

という諜報部隊があること,そしてそのダークナイトって

いうのがその部隊に所属しているってことだけだ。」



少し間をおいて,



黄金原「でも,こんなことを聞いてどうするんだい?

今の話は菊の幹部なら全員知っていることだぞ。」



「ああ,そうだったね。じゃあ,行くとしようか。」



レオンさんはお礼を言って,皆と一緒に車まで戻りました。



「どうだい?何か収穫はあった?

オイラはさっき黄金原さんが言っていた,闇の騎士(ダークナイト)が

スパイとして潜り込んでいるんじゃないかと思っているんだ。」




レオンさんの予想は当たっていました。



「まだ,なんとも。とりあえず,全員から話を聞いてから考えてみない?」



リク君の提案にレオンさんは賛成しました。

そして,青山氏の元へ向かいました。



第6話 菊の幹部達④

菊の華シリーズ第2章
リク君達が青山氏の元に訪れた時,彼は

ジャズバーのカウンターで休憩をしていました。



青山「音楽が聴きたいなら夜に来ないとダメだろ。」



青山氏は振り向くことなく,そう言いました。

どうやらリク君達が訪ねてきたことに気付いたようです。



「いや~,今日は音楽じゃなくて話を聞きたくてね。」



青山「ほう・・・。」



持っていた,グラスをカウンターに置き,振り向きました。







「こっこんにちは!あの,だぬは青山さんの

大ファンなんです!ぜひ,これにサインをしていただけますか!?」




青山「そうか,嬉しいね。いいよ。」



色紙を受け取ると,サッとサインを

書いて,だぬちゃんに渡しました。



「ありがとうございます!」

「おい,サインなんかこの前会ったときにもらえばよかっただろ。」



イツキ君が軽くだぬちゃんを睨みつけました。



「昨日は色紙がなかったんですよ!」



と,負けずに言い返しました。



みんなはカウンターから少し離れたテーブルに座りました。

青山氏は机の前までやってきて,



青山「それで,話とは?」



「実は・・・。」



先ほどと同じ説明をしました。



青山「俺は近畿・中国地区担当で所属は大阪府警本部だ。公安第3課にいた。」



軽く自己紹介をしてもらった後,



「青山さんはどんな捜査をしていたんですか?」



青山「俺は組織の全体像を追いかけていた。そして,全国で数多く起きている変死事件や不可解な

企業脅迫事件,謎のサイバーハッカー事件の裏に巨大な闇の組織が存在していることを突き止めた。」



青山氏は続けました。



青山「そして,その闇の組織が表向きはジャファコンツェルンとう巨大優良企業で,

裏ではジャパノフォビア(JF)という闇組織として活動していると俺は確信している。」



「俺は・・・?」



と気になった部分を反芻しました。



青山「あいつらは決定的な証拠を一切出さない。だが,俺は

やつらの仕業だと俺の警察官としての勘がそう確信している。」



「でも,すごいですね!レオンさんがJFのことを以前詳しく話してくれたのは,

元々は青山さんの情報だったんですね。」




だぬちゃんは少し興奮していました。



「うん,まぁ,そういうこと。」



イツキ君がさらに気になることを聞きました。



「なぁ,奴らのボス,御前について何か知っていることは無いのか?」



青山氏は店の隅にある本棚から雑誌を取り出してあるページを開きました。



青山「ここに写っているのがジャファのCEO(最高責任者)の顔と名前だ。」



みんなは驚愕しました。



「え!?御前の正体ってわかっていたの!?」

「っていうか,雑誌に載っているの!?」



トシ君も驚いています。



その雑誌には優良企業の特集記事がありました。



そこにジャファCEOのインタビューが掲載されていたのです。



その人物とは・・・。



第7話 菊の幹部達⑤

菊の華シリーズ第2章
雑誌には優良企業の特集記事がありました。

そこにジャファCEOのインタビューが掲載されていたのです。



青山「CEOの名前は“安重 昏(やすしげ ひぐれ)”。

年齢は書かれていない。一代で日本一,

世界有数の巨大コンツェルンを作り上げた人物だ。」







「じゃあ,警察はこいつが諸悪の根源だってわかって

いるのに逮捕できずに世の中に野放しにしているのかよ!」




たまらず,イツキ君が声をあげました。



青山「問題はそう簡単じゃない。そもそもこの企業が裏で

JFという組織を立ち上げ,暗躍している物的な証拠は無い。」



青山氏の言うことは最もでした。

彼らの手口は巧妙で決して証拠を残さなかったのです。



そして,生き証人は全て口を塞ぐのが彼らのやり方です。



「組織のボスが誰だかわかっているのに,捕まえられないなんて・・・。」



と,悲しそうな顔です。



青山「極端な話,自動車メーカートップの"オヨタ"や

"オッサン"の社長が悪事を働いたとしても

証拠もなしに逮捕できないのと一緒だ。

彼らは社会的な地位もある。ヘタをすれば警察の社会的信用を失う。」



「しがらみのある社会は色々と大変だね。」



リク君は少し同情していました。



「でもね,オイラはこの雑誌に載っている人物が御前だとは思っていないんだ。」



レオンさんの口から思いもよらない言葉が出ました。



「え,それってどういうことですか?」



皆はレオンさんに注目しました。



「こいつはおそらく影武者さ。御前は別にいる。オイラの勘だけどね・・・。」



青山「お前はこの前の会議でもそう言っていたな。

確かに,こいつがジャファコンツェルンの表の顔で

裏の顔が御前という可能性はあるな。」



青山氏もその可能性を否定しませんでした。



「じゃあ,御前がどういう人物なのかはわからないままってこと?」



と,聞きました。



青山「翠川の推理が正しければ,そういうことになるな。」



少しがっかりした様子で,



「そんな簡単に御前までたどり着ければ苦労はしないか・・・。」



青山「あと,わかっていることは,ジャファの本社が名古屋の

セントラルツインタワーだということだ。あのビルはジャファの所有だからな。

奴らはバベルと呼んでいるらしいぞ。」



「バベルって呼ばれていることはオイラの情報提供ね。」



レオンさんは協力者の情報を可能な範囲で菊のメンバーに提供しているようでした。



ただし,レオンさんが闇組織ジャファに

潜り込んでいるスパイと協力関係にあることは伏せていました。



青山氏の話を聞き終えて,車に戻りました。



「最後は,赤神さんの神社だよね?」

「げげ,あそこはここからだと結構遠いじゃん。」



心配する二人に対し,



「彼は今,県警本部にいるはずだよ。

ここからそんなに遠くないから大丈夫。」




車を15分ほど走らせると,愛知県警本部の前に到着しました。



第8話 菊の幹部達⑥

菊の華シリーズ第2章
レオンさんが県警本部の受付で話をつけると,

通行許可証をもらい,少年昆虫団の首にかけてあげました。



「さぁ,行こうか。」



エレベータで5階まで上がると,

一番奥の部屋に向かいました。



中に入ると赤神さんが忙しそうに書類の整理をしていました。

赤神氏はこちらに気づき,



赤神「翠川から連絡は受けている。場所を変えようか。」



と,言って,仕事にきりをつけました。



「お願いします。」



リク君は丁寧にお辞儀をしました。



小さな応接室に案内され,そこそこ高そうな黒いソファに座りました。

レオンさんは座る場所がなかったので,窓際で立ったままになりました。



向かい合って座る赤神氏は神社で見せるテンションの高い男ではなく,

スーツ姿で,仕事ができる男性のように見えました。







赤神「私のことについて聞きたいんだな。

私は愛知県警本部公安課課長の赤神だ。」



赤神氏は何から話そうか少し迷っている風に見えました。



「菊という組織は赤神さんがつくったものなのか?」



それを見かねたイツキ君が質問をしました。



赤神「ああ,そうだ。闇組織ジャファをせん滅するためには

全国から優秀な人材が必要だった。だが,大勢で動けば

敵の目に触れ,計画が失敗する恐れがあった。」



「だから,少人数で特別チームを作ったんですね。」



赤神氏はうなずきました。



赤神「組織全体については機密事項なんだが,幹部は私を含めて5人。

その下に数十名の準幹部が捜査に携わっている,とだけ言っておこう。」



どうやら組織構造については詳しく話せない内容のようです。



「先日,事故死に見せかけて殺害された人は準幹部だったんですね。」

「そういうこと。殺害されたのは黄金原さんの部下だった捜査官だ。

非番でドライブ中に事故で亡くなったそうだが,

昨日の山本達の会話から察すると,おそらく組織が車に細工をしたんだろう。」




その言葉に部屋が静まり返りました。



「奴らはなんて酷いことをするんでしょうね。」



さすがのだぬちゃんも怒りを隠せない様子でした,



「どうしてもっと早く対策チームを

結成してJFと対決しなかったんですか?」




赤神「俺が結成する前から過去20年の間に何度か別の人たちに

よってJF対策チームは結成されたよ。

しかし,確たる証拠もあげられず,

結成してもすぐに解散を余儀なくされた。」



リク君は納得しました。



過去にJFを壊滅させようとした

警察組織は全て失敗に終わっていたのでした。



赤神「今回も結成自体はかなり前なんだが,

なかなか上の許可がでず,幹部全員が名古屋に

集結することができなかった。

本当に結集させるのに苦労したんだ。」



「そうだったのか。」



と,イツキ君。



赤神「ああ,ただ君たちのことは翠川から聞いていたからね。

初めて会った日にちょうど翠川から連絡が来たな。それから雨の日だったが,

菊の幹部が全員名古屋に結集できることが決まった時も翠川に連絡したな。」



「ええ,そうでしたね。」



レオンさんがうなずきました。



「レオンさんのことを信頼しているんですね。」



赤神「幹部たちのことは全員信頼しているよ。

ただ,翠川には幹部結集の時に助けてもらったからな。

とくに感謝している。」



そう言うとレオンさんは照れながら,



「よしてくださいよ。」



と謙遜しました。



赤神「さて,本題に入ろうか。」



赤神さんはどんなことを話してくれるのでしょうか。



第2章 9~16話

第9話 菊の幹部達⑦

菊の華シリーズ第2章
赤神「俺は主に組織の運営と情報の統括が仕事だから,

特別な情報を捜査で得たとかはないぞ。」



彼は,急に高いテンションで話し始めました。



「そうなんですか。」



とまさらちゃん。



赤神「俺からも1つ質問してもいいかな?」



赤神さんがそう言うと,リク君は,



「うん,なんでも聞いて。」



と明るく答えました。



赤神「最初に神社で俺と会ったとき,俺のことをジッと

見ていたけど,何を怪しんでいたんだい?」



「オイラはその現場にいなかったけど,赤神さんのテンションが

高すぎて怪しまれたんじゃないですか?」




レオンさんが珍しくツッコミました。



赤神「いやいや,それを言うならお前の顔のほうが怪しいだろ!」



赤神さんも負けずにやり返しました。



「ああ,あれはね・・・。」



リク君は一度イツキ君と顔を見合わせました。



「まぁ,こちらも色々と聞きたいわけだし,

話してもいいんじゃないか。」




とリク君を促しました。



「実は僕たちの周りを嗅ぎまわっているJFの

人間がいることがわかっているんです。」




赤神「何!?」



それを聞いて,彼の表情がひきつった状態になったのがわかりました。



「海猫の今村っていう人物の部下で大西って言うみたいなんだけど,

組織の中ではグレイって呼ばれているんだって。」




グレイの件は,警察署で赤神氏と会った時には

話していなかった内容だったのです。



赤神「それで俺がそのグレイじゃないか疑っていたのか。」



「まぁ,そういうことだ。俺もリクに

聞いて後で知ったんだけどな。」




するとだぬちゃんが,



「でも赤神さんをどうして疑ったんですか?」



と聞きました。



「グレイってことは灰色ってことでしょ。

だから灰色の袴を着ていた赤神さんを少し疑ったんだ。」




赤神「じゃあ,俺の疑いはもう晴れたわけだな。昨日も言ったけど,

あれは借り物で色に特に意味はない。」



さらっと自分は潔白だと宣言しました。



「でも,赤神さんがグレイじゃないとすると一体誰が怪しいんだろ・・・?」

「僕はグレイかもしれない人物は3人の中のだれかだと思っている。」



リク君は確信をもっていました。



「一人は赤神さんだとして後の二人は?

オイラには見当もつかないよ。」




「でしょうね。」



と,だぬちゃんは当然のようにツッコミました。



「堤防で魚釣りをしていた時に出会った老人と

カブクワキングでバイトをしている灰庭さんだよ。」


「ええ~!?」



まさらちゃんは大声をあげました。



「あの老人は髪の毛を灰色に染めていたでしょ。

灰庭さんは単純に名前に灰が入っているからね。」


「それだけで灰庭さんがグレイだっていうの!?」



さらにヒートアップしています。



「普通に考えれば,俺たちのことを探りに来たんなら一度だけしか

出会っていない老人がグレイとは考えられないな。

赤神サンでもないとすると,消去法であのバイトがグレイってことだろ。」




イツキ君が丁寧に説明しましたが,

まさらちゃんの耳には入っていないようでした。







「そんな・・・。イケメンだったのに・・・。

悪い人の仲間だったなんて・・・。」


「まぁまぁ。まだその人がグレイだと決まったわけじゃないんだろ?」



と,さりげなくフォローをしました。



「まぁね。ただの推測だし,何も証拠がないのに問い詰めても

絶対に認めないだろうから,しばらくは様子見にしよう。」




リク君は灰庭さんがグレイだと思っているようですが,

確信がないのでしばらく相手の出方をうかがうようです。



「そうだな。それよりも緊急の案件があるな。」



イツキ君は菊に潜むスパイのことを言っているようです。



第10話 レオンの過去 前編

菊の華シリーズ第2章
赤神さんは少し,“グレイ”のことを

気にしている様子でした。



それを気にしたレオンさんが,



「赤神さん。とりあえず,その灰庭って人はリク君たちに任せてみませんか。

我々は組織の全貌を突き止めるほうが先だと思います。」




と提案しました。



赤神「そうだな。そうしよう。それにお前も一緒なら安心だ。」



赤神さんも同意しました。



「これで一通り聞きたいことは終わったかな?」



とみんなに聞きました。



「いや,まだ終わっていないよ。」



とリク君。



「リク・・・?」



イツキ君がリク君の顔を見ました。



「レオンさんからも話を聞きたいな。」

「なるほど。オイラが残っていたか。いいけど,

だいたいのことは話したと思うけどなぁ。」




と髪を掻きながら言いました。



「レオンさんって警視庁,つまり東京から来たんだよね。

どうして名古屋に潜入捜査に来たの?」




リク君の質問に,レオンさんは,



「ちょっと昔話をしようか。」



と言いました。



その表情は少し悲しそうでした。



まさらちゃんはたまらず,



「ひょっとしてお父さんの死が関係あるんじゃ・・・。」



皆はレオンさんが父の復讐のために

闇組織JFを壊滅させようとしているのは知っていました。



トシ君とだぬちゃんも珍しく真剣な表情で

レオンさんの後姿を見つめていました。



「ああ,いかん。マジな表情を続けすぎて戻らなくなった!」



もはや誰もツッコミませんでした。



「オイラは元々東京育ちなんだ」



みんなは初めて聞くレオンさんの

過去話を真剣に聞いていました。



「研究者だった父の姿に憧れて帝東大学(通称:帝大)

を目指したんだが,結局は法学部に進学した。」






「ええ,超エリートじゃないですか!?」



意外な学歴に驚いていました。



「卒業後,国家試験1種に合格して警察に入庁。その後,警視庁に配属。

研究者を目指していたはずが,いつの間にか官僚になっていたよ。」




レオンさんは自分の経歴を語りだしました。



「子供のころの夢がそのまま続くとも限らないしね。」



リク君は納得していました。



レオンさんのその表情は暗いままでした。



「父親のことも話しておこう。父はオイラが子供の

ころからずっと研究一筋の研究者だった。」




みんなは黙って話を真剣に聞いていました。



「母はオイラが小さいころに病気で亡くなってしまって,

オヤジは男手一つでオイラを育ててくれたんだ。」




少し間をおいて,



「でも,父の研究はあまりうまくいかなくて,オイラが高校生の時,

ついに研究資金も打ち切られてしまい,生活ができなくなってしまった。」




まさらちゃんが悲しげな瞳でレオンさんを見つめていました。



「そんな時,父の研究に目を付けたのがジャファコンツェルンの生物工学研究所だった。

奴らは家族の生活を保障する代わりにそこで働かないか声をかけてきたんだ。」




話はさらに続きました。



「父は喜んでその話を受けた。だが,研究を続けていくうちに,あることに気づいたそうだ。」



「どんな?」



とイツキ君が質問しました。



「その組織が行っている研究は現在の倫理観と照らし合わせても到底

許されることはない研究をしていると言っていた。

当時はそれ以上聞いても答えてくれず,よくわからなかった。」




「それが,“漆黒の金剛石”,つまり“神の遺伝子”を

使った何かの研究だってことだね。」




と,言うリク君に対し,



「ああ,つい最近になってその事実を知った。」



レオンさんは



「少し休憩しよう。」



と言って,壁にもたれかけました。



第11話 レオンの過去 後編

菊の華シリーズ第2章
レオンさんは自分の過去を少し話し,一旦休憩しました。

しばらくすると再び話を始めました。



「どこまで話したかな。ああ,父がジャファに騙されて

闇の研究に手を染めたところまでだったね。」




みんなは頷きました。







「父はジャファに再就職が決まった時,すごく喜んでいたのを覚えている。

オイラは大学進学を志望していて学費のことも心配してくれていた。

別に就職でも良かったのに,父は無理をしてくれた・・・。」




赤神氏も黙ってレオンさんの話を聞いていました。



「父は本当に悪い研究を手伝わされているとは知らなかったようだ。

つい最近まではそういう研究に手を染めていなかったんだろう・・・。」




「つまり,悪い研究をするように言われたのは最近で,それまでは

普通の研究者として働いていたってことなのかな?」




と,まさらちゃん。



「おそらくね。それまでは東京の施設で研究をしていたんだが,

1年前に名古屋の研究所に転勤になった。オイラも1年前は警視庁の勤務で

忙しかったから父とはしばらく連絡を取っていなかったんだ。」




レオンさんの話はさらに続きます。



「あれは,半年くらい前だったかな。久しぶりに父から電話がかかってきたんだ。

その時は忙しくてゆっくりと話せなかったんだが,何やら仕事のことで悩んでいたみたいだった。」




「きっとその時にはもう神の遺伝子の研究に関わっていたんですね。」



さすがのだぬちゃんも話が見えてきたようです。



「ああ。今思えばあの時もっとオイラがしっかりと話を聞いてあげれば良かった・・・。

そうすれば一人で悩むこともなく,死ぬことにもならなかった・・・。」




レオンさんの表情から相当悔しい思いが伝わってきました。



「父はおそらく研究から抜けたくても抜けられなかったんだと思う。

奴らはおそらく息子のオイラの素性も調べていたはず。」


「なるほど。レオンさんの身分を盾にとって,

ジャファはレオンさんの父親を脅していたかもしれないってことか。」




イツキ君が頷きながらそう言いました。



「イツキ君の言う通りだ。父はオイラの事を心配して研究から

抜け出したくても抜け出せない日々が続いたんだと思う。」




レオンさんの推測の部分もあるようですが,みんなはきっとその通りなんだと確信していました。

なぜならそれが闇組織ジャファのやり方であると知っていたからです。



「でも,レオンさんの父親である小早川教授って“神の遺伝子”の研究を

まとめたノアの書を持って逃げだしたんだよね。どんな心境の変化があったのかな?」




リク君の疑問に対し,レオンさんは答えました。



「実は父がノアの書を持ち出す3日前に電話をしたんだ。」



「何の話を?」



一応トシ君も会話に加わろうと努力していました。



「菊の華が闇組織ジャファを壊滅させるために本格的に動き出したこと,

そのためにオイラは大学院生と身分を偽って潜入捜査をすることを話したんだ。

もう少ししたら名古屋に向かうからそうしたら久しぶりに会おうと言った。」




みんなは納得しました。



「そうか,その話を聞いて,父親はこれ以上,

レオンさんに迷惑をかけられないと思ったのか・・・。」


「ああ・・・。しかし,そのために父は組織に殺された・・・。」



会議室の空気は非常に暗くなり,誰もが下を向いていました。



「でも,レオンさんとレオンさんのお父さんの

ことを聞かせてもらえて良かったよ。」




最初に口を開いたのリク君でした。



「ああ,そうだな。」



イツキ君が続きます。



「みんな・・・。」



「今の話を聞いてはっきりしたよ。」



リク君は力強く言いました。



「何をだい?」



レオンさんが聞きました。



「レオンさんは僕たちの味方で闇組織ジャファを

壊滅させたいと思う正義の心の持ち主だってことがさ。」




リク君はにこっと笑って言いました。



それを聞いていた他のみんなも笑みを浮かべて頷きました。



「なんだよ。まだ疑っていたのかぁ!

だから最初から言っているでしょ!

オイラは少年昆虫団の一員だって!」




レオンさんは少し明るい表情になりました。



そして日が暮れてきました。



第12話 動き出す闇の騎士

菊の華シリーズ第2章
少年昆虫団はいったん赤神氏と別れました。

彼はこの後も県警本部で仕事があるそうです。



何かあればいつでも連絡してかまわないと言われたので,

リク君は赤神氏の直通番号を教えてもらいました。



県警本部を離れ,地元へ戻ってきました。

時間は夜の7時を回っていました。



後部座席に座っていたまさらちゃんのお腹がグーっとなりました。



「なんか,お腹が空かない?」



おなかがなったまさらちゃんは,

少し恥ずかしそうにしていました。



「そうだね。ご飯でも食べに行こうか。

おうちの人にはオイラから連絡しておくよ。」




みんなはお腹がペコペコでした。



レオンさんの運転で近くの外食チェーン店

“ビックリクリクドンキー”というお店に

行くことになりました。



「ここは,ドリンクバーがあって,長く居座るのにはいいですが,

料理はいまいちなんですよね。特にハンバーグがまずい。」




と,だぬちゃんは文句を言っていましたが,

“ワチキモビックリクリクリハンバーグ”を

注文したイツキ君はうめぇうめぇと言って食べていました。



「あちゃー,味オンチですね。」



とだぬちゃんが言いましたが,イツキ君は,



「いや,違うよ。」



とそっけない返事でした。



みんなは食事を終えるとドリンクバーに向かい,

お茶やジュースを持ってきました。



「いや~食った食った!

ワチキモビックリステーキを

3人前も食べちゃったよ。」




支払いはレオンさん持ちだったので,

ちょっと涙目になっていました。



「いいよ・・・。成長期だからね・・・。

どんどん食べてね(経費でコレ落ちるかな・・・)。」




食事もひと段落したところで,

レオンさんがリク君に聞きました。



「今日1日,菊の幹部の人たちに話を聞いたけど,

誰がジャファのスパイである“闇の騎士(ダークナイト)”か見当はついた?」




リク君はコーラを飲みながら首を横に振りました。



「だよなぁ・・・。レオンさんが本当に味方だってわかったことくらい。

まぁ俺はリクと違って最初から信じていたけどな。」




少し皮肉交じりに言いました。



「いや,別に疑っていたわけじゃないよ。

ただ,ありとあらゆる可能性を想定していただけさ。」


「つまり,闇の騎士は残りの4人の中の誰かなんですよね?」



だぬちゃんが確認をしました。



「まぁ,そうなるね・・・。」



一方,リク君たちが食事をしている頃・・・。



名古屋最大のツインタワービル,通称“バベル”。





このビルの上層部はジャファ専用のホテルとなっていました。



その一室に藪蛇のアヤと山犬の山本がいました。



山本はシャワーを浴びた後で,タオルを

頭から覆い被り,上半身は裸になっていました。



その体つきは細身だが,非常に筋肉質でアスリートのようでした。



アヤは窓越しに最高級ワインを嗜んでいました。



アヤ「いい夜ね。でもこの景色も見飽きたわ。」



下には無数のネオンとビルの光が輝くきれいな夜景でした。



すると,アヤの携帯電話に着信が入りました。

その場でアヤは電話を手に取りました。



アヤ「あら,アタシの愛しい愛しい

闇の騎士(ダークナイト)。

どうしたの,こんな時間に。」




電話の相手はあの“闇の騎士”でした。



闇の騎士「今日,再び例の少年たち,それに小早川の息子と接触しました。

どうやら奴らは菊の中にスパイが潜り込んでいることに感づいているようです。」



山本はじっとそのやり取りを聞いていました。



アヤは聞いた内容を山本の耳元でそっと伝えました。



山本「面白いじゃねぇか。それなら先手を打つまでだ。

闇の騎士とやらに伝えろ。動き出せ・・・と。」



山本はタオルで顔を覆っていたので,

表情は読み取れませんでしたが,

口元がわずかに笑っていました。



第13話 狙われた幹部

菊の華シリーズ第2章
バベルの一室にいた山本とアヤ。

アヤの元に闇の騎士から着信がありました。



山本も携帯電話を取り出し,

どこかに連絡を取り始めました。



いよいよ,闇組織ジャファが菊の

幹部暗殺に向けて動き出すのでしょうか。



再び場面は少年昆虫団が食事をしているチェーン店にて・・・。







「まぁ,考えてもわからないし,

少しずつ情報を集めていくしかないね。」


「まぁ,そうですね。」



誰が闇の騎士なのか意見を出し合った

ようですが,結論はでませんでした。



そしてあっという間に時間は過ぎていきました。



「なんか,結構時間が経っちゃったね。もうすぐ20時だよ!」



「まだ,20時か。大丈夫だろ。」



普通なら小学生が出歩く時間ではありませんが,

普段から昆虫採集をしている彼らにとっては

あまり遅い時間だという認識はないようです。



その時,レオンさんの携帯電話に着信が入りました。

その画面を覗き込むと画面には番号のみ表示されていました。



「この番号は赤神さんからだ。」



リク君もその番号に見覚えがありました。

さっき,赤神さんの直通番号を教えてもらったからです。



レオンさんはその場で電話に出ました。



「レオンさんってなんでアドレス登録していないのかな?」

「おそらく,万が一敵に携帯電話を

奪われても情報を漏えいさせないためでしょ。

公安の人間は番号で相手を覚えていることが

多いみたいだよ。それに通話後,履歴もすぐに消しちゃうって。」




リク君の説明にトシ君は納得しました。



「なんだって!?」



その時,レオンさんが急に大きな声をあげました。



みんなは周囲の視線を感じました。



レオンさんは気を取り直して小声で会話を続けています。

そしてしばらくして通話を終え,履歴を消しました。



「いったい何があったんだ?」



と,イツキ君が聞きました。



「黄金原さんが襲われたらしい。今,

警察病院にいるという連絡が入ったんだ。」


「え,それで黄金原さんは無事なの!?」



今度はリク君が聞きます。



「ああ,本人は無事らしい。

ただ,黄金原さんと部下が負傷したとのことだ。

詳細は分からないけど,部下が黄金原さんをかばったみたい。」




レオンさんは赤神さんから聞いたことを話しました。



「じゃあ,その部下の人が死んじゃったの・・・?」



と,言って不安そうな表情をしています。



「いや,狙撃されたらしいんだが,急所は外したみたいで

命には別条はないみたい。今から警察病院に行くんだけど・・・。」




「一緒に行くぜ。」



すかさずそう言いました。



「そう言うと思ったよ。すぐにここを出よう。」



レオンさんは会計を済ませるとすぐに車を出して警察病院へ向かいました。

警察病院に到着し,中に入るとロビーに菊の幹部が集まっていました。



赤神氏はレオンさん達を見つけると声をかけました。



赤神「急な電話ですまなかったな。」



「いえ,それで黄金原さんと部下の方は無事なんですよね!?」



その質問に,その場にいた黄金原さんが答えました。



黄金原「大丈夫だ。俺は腕のかすり傷だけだ。

部下の羽音々(はおとね)も大したことないみたいだ。」



黄金原さんは自分が襲撃された場面を説明し始めました。



第14話 部下の羽音々

菊の華シリーズ第2章
黄金原さんは病院のロビーで自分が

襲撃された時のことを説明ようとしました。



その時,診察室から小柄で若い女性が出てきました。

腕には包帯を巻いています。



「あ,女の人が出てきた。誰だろう?」



黄金原「もう診察は終わったのか,羽音々(はおとね)。」



どうやら黄金原氏の部下は女性だったようです。



羽音々「大丈夫です!銃弾が腕をかすめただけで大事には至りませんでした!」



元気はつらつな表情で黄金原氏にそう言いました。

その後,こちらに向かって深々と頭を下げました。



黄金原「よかった。君がいなかったら俺は死んでいた・・・。」



黄金原氏はねぎらいの言葉をかけました。



赤神「翠川と少年昆虫団も来たので,

もう一度襲撃された時のことを説明してくれるか?」



「何度も悪いね。」



レオンさんは黄金原氏に謝りました。



彼は手を振って,「気にするな」という仕草をし,



黄金原氏は「わかりました。」



と言って,説明を始めました。



場面は黄金原氏がサーカス団での仕事を終えて

部下の羽音々に車で迎えに来てもらった所でした。



黄金原「悪いね,迎えに来てもらって。」

羽音々「いえ,そんな。むしろ頼ってもらって光栄です!」





<福岡県警公安係 羽音々 緋文(はおとね ひふみ)>



警察官とは思えないほどの童顔とかわいらしい仕草は

そばにいた団員をくぎ付けにするには十分でした。



団員は見送りを終え,再び劇場の中へ入って行きました。



黄金原氏は羽音々が運転する車に乗り,

県警本部に戻ることにしました。



県警本部に到着し,二人は車から降りました。



その時,羽音々は向かいのビルの屋上がチカッっと光るのが見えました。

次の瞬間,赤い照準レーザーが黄金原氏の頭に映ったのです。



羽音々はとっさの判断で黄金原氏を抱きかかえ,

体勢を変えることでレーザーの標準からずらそうとしました。



風を切るような音ともに羽音々は腕に痛みを感じました。



黄金原「なっ,なんだ!?」



黄金原氏もその場に倒れこみました。



羽音々「狙撃です!黄金原さんはすぐに

建物の中に入ってください!」



二人はなんとか県警本部の中に身を隠しました。



そして,入口にいた警らの者にすぐに応援を呼ばせました。



二人は厳重な警備の中,この警察病院へ

運ばれて診察を受けたというわけです。



「なるほど,だいたいの話はわかった。」



イツキ君は腕を組みながらそう言いました。



「今回の襲撃はやはり闇組織JFの仕業なんですよね!?」



「そうとしか考えられないだろうな。

どうやら奴らの狙いは黄金原だったというわけか。」




レオンさんが黄金原氏に視線をやりました。



黄金原「そうみたいだな・・・。でも,羽音々が

無事で本当に良かったよ。それが何よりだよ。」



羽音々「そう言っていただけるなんて,本当に嬉しいです。

あたしも黄金原さんが無事で良かったです。

もし貴方に何かあったら,どうしようかと思いました・・・。」



そのやり取りを見ていたまさらちゃんが何か感づいたようです。



「はは~ん。」



急にニヤニヤし始めました。



「まさらちゃん,どうしたの?」



と,リク君が聞きました。



「あら,あの二人を見ていてわからないの?」

「何が?」



リク君はいまいちまさらちゃんが

言いたいことがわからないようです。



「リク君ってこういうことは鈍いよね!たぶん,羽音々さんは

黄金原さんのことが好きなのよ!あれは相当,慕う想いが強いと思うな!」




まさらちゃんは自信たっぷりにリク君に解説をしました。



「そうかな??」



「そうじゃなければ,いくら上司だからって

自分の身を挺してまで守ろうとしたりしないよ!」




まさらちゃんの指摘通り,リク君には

こういうことはあまりわからないようです。



「間違いないわ!私の勘がそう言っている!」



果たして二人の関係は・・・。



第15話 二人の護衛

菊の華シリーズ第2章
まさらちゃんは黄金原さんと部下の

羽音々さんが恋仲にあると予想しました。



「本当にそうかなぁ・・・。そうは見えないけど・・・。」



リク君は恋愛については疎いようです。



「ねぇねぇ,お姉さん。お姉さんってひょっとして

黄金原さんのことが好き・・・だったりして?」




まさらちゃんは音々さんの耳元でストレートにささやきました。



羽音々「なっ何を言っているの!?」



その慌てぶりからまさらちゃんの予想が確信に変わりました。



「やっぱりね!お二人は付き合っているんですか?」

「おいおい,プライベートに食い込みすぎだ・・・。」



黄金原氏は菊の幹部と何やら話を続けていたので,

今の会話は彼の耳には入っていないようです。



羽音々「べっ別に,あたしが勝手に慕っているだけで・・・,

その付き合っているとかはないよ。

まだ・・・。彼とは仕事上の上司と部下,それだけ!」



明るく振舞いましたが,少し寂しそうです。



「なるほど~。羽音々さんは彼のことが好きだけど,彼はそれに

気づいていないんだね。あの人,うちの男たちと一緒で鈍感そうだし。」




少年昆虫団の男たちは一斉にブーイングしました。



「何をー!」



赤神「よし,今日はこれで解散しよう。」



桃瀬「了解しました。でも,黄金原さんと

羽音々さんは病院で入院ですか?」



桃瀬さんが聞きました。



黄金原「いや,傷はたいしたことないし,任務にも支障が出るから県警に戻る。」

青山「大丈夫なのか?また襲撃される可能性もあるぞ。」



青山氏が心配しました。



羽音々「あたしは黄金原さんと一緒ならどこでも大丈夫です。」



「じゃあ,オイラが県警本部まで護衛につくよ。

君たちの運転する車を後ろから追いかける。」




レオンさんが提案しました。



赤神「そうだな。それがいい。俺はちょっと病院で 手続きが残っているから先に帰っていてくれ。」



赤神さんの指示により,菊のメンバーは,本日は解散となりました。





先に病院を出たのは,黄金原氏と羽音々さんの車でした。

そのすぐ後ろにレオンさんとリク君たちが乗った車が後を走りました。



病院を出て,15分くらい経ったころです。



レオンさんは視界遠方にあるビルの屋上が

チカッと光る現象に気づきました。



その異変に気付いた次の瞬間-・・・。



キキィ!!



ハンドルを取られ車が大きくスリップしました。



乗車していた少年昆虫団は何が起こったのか分からず,

車体の内側に頭や体をぶつけました。



「なっ・・・なんですか急に!?」

「いったぁい・・・。」



まさらちゃんは頭を軽くぶつけたようでした。



みんなは何が起こったのかわからない様子で動揺していました。



「どうしたんだよ。レオンさん,

運転テクはかなりの腕前じゃなかったのかよ!?」


「すまない。どうやら,パンクした・・・。

いやパンクさせられた・・・。」




異変に気付いた黄金原氏たちの車は

100mほど離れた距離で停止しました。



次の瞬間,後ろから黒いワゴン車がレオンさんの車を

ものすごい速さで追い抜き,黄金原氏の車の横で停止しました。



「あ,あの車は“古代自動車”の“ローハート”ですね!

昨日,だぬたちを襲ってきた車ですよ!」




リク君が車外に出ようとしましたが,レオンさんが制止しました。



「今,外に出ることは許可できない。」



いつにもまして真剣な表情でそう言いました。

一体何が起ころうとしているのでしょうか。



第16話 徹底した襲撃

菊の華シリーズ第2章
レオンさんと少年昆虫団が乗る車が突然パンクしました。

いったい何が起こったのでしょうか。



リク君が車外に出ようとするとレオンさんが制止しました。



「この車はタイヤを狙撃された・・・!

今,外に出たら格好の的になってしまう。」




リク君はドアノブから手を離しました。



「闇組織ジャファの狙撃手の仕業だね。」



そう言って,みんなに身をかがめるように指示しました。



「でも,後ろから追い抜いてきた車が黄金原サンの

車の横につけた。なんとかしないとヤバイぞ。」




イツキ君が危機感を募らせました。



「しかし,今は君たちの命が大事だ。」



敵の狙撃手はこちらの行動を封じる

ためにさらに撃ち込んできました。



カン!



カン!



車内に甲高い音が響きます。

銃弾が車のボディに当たっているようです。



リク君たちの身動きが取れない状況でした。



すでに黄金原氏の車は,闇組織JFの車に

進路を防がれてしまいました。



車から数名の特殊部隊が出てきました。

昨日,リク君たちを襲撃した部隊と同じような構成部隊でした。



みんなは身をかがめながらも様子をうかがっていました。

すると,車内から黄金原氏と羽音々さんが手を挙げて出てきました。



銃口を突き付けられてどうしようもないように見えました。

そのまま,身柄を拘束され組織の車に詰め込まれました。



そして,車をものすごい勢いで発車させました。



「どうしよう!?羽音々さん達が連れ去られちゃったよ!?」



まさらちゃんは不安そうにしています。



「もう少しだけ様子を見よう。」



レオンさんはそう言って,5分ほど

車内に待機するよう指示しました。



その間,レオンさんは赤神氏に連絡を取り,今起きた

出来事の報告と今後の動きについて確認をとりました。



5分後,最初にレオンさんが慎重に車外に出ました。

周囲に敵がいないことを確認し,みんなを車外に出しました。



すぐに,黄金原氏が乗っていた車に乗り換えました。



「この車で,黄金原さん達を連れ去った連中を追いかけよう。」

「でもどうやって?もうどこに言ったかわからないですよ?」



と,だぬちゃん。



「大丈夫。菊の幹部はお互いの居場所が

常にわかるようにGPSを装着している。」




レオンさんは専用の受信装置を取り出しました。

見た目は普通のタブレットでした。



「まだ,そんなに遠くには行っていない。

赤神さん達の応援を待つよりも追いかけたほうが早い。」




レオンさんはシートベルトをする

ように指示して車を急発進させました。



リク君はレオン差から受信装置を預かり,運転して

いるレオンさんにGPSの位置を提供し続けました。



「名古屋高速に乗る。」







緊急車両用のサイレンを鳴らして,

高速道路を駆け抜けていきました。



「だいぶ距離を縮めてきたよ!」

「いったいどこへ向かうんだ・・・!?」



高速を降りて10分ほど車を走らせると,

名古屋港の金城埠頭まで来ていました。



黄金原氏が持っているGPSの

位置を確認すると,すでに停止していました。



「このあたりのはずだけど・・・。」

「あ,あれじゃないですか!?」



だぬちゃんが古い漁港の使われていない倉庫の

前に先ほどの車が停止しているのを見つけました。



「うん,あれだね。」



レオンさんは車を停止させました。



第2章 17~21話

第17話 鷺(サギ)

菊の華シリーズ第2章
倉庫の前には先ほどの黒いワゴン車が止まっていました。

レオンさんは慎重に車を停止させ,車から降りました。



「みんなはここで待っていて。」



ワゴン車の中を覗くと,すでに誰も乗っていませんでした。



「おそらく倉庫の中だね。」



リク君は勝手に車から降りてきました。

続いてみんなも降りてきました。



「ここに置いておくわけにもいかないか。

絶対にオイラから離れないようにね。」


「うん,わかった。」



みんなはレオンさんの後ろを

ついていくことにしました。







そっと,倉庫の扉を開けました。



中は長い間使われていなかったようで,大量のほこりが

飛び散っており,思わず鼻を覆いたくなりました。



倉庫は2階建てで,中はオフィスビルの一角の

ようになっており,細かく区割りされていました。



みんなは古くなった廊下を進みました。

しばらく歩くと階段があったので,登っていきました。



すると角の部屋から悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきました。

声が聞こえた部屋の扉は少し開いていました。



中をのぞくと黄金原氏と部下の羽音々さんがいました。

二人は部屋の一番奥で両手を柱の後ろに回され,縛られていました。



レオンさんは扉を勢いよくあけて注意をこちらにひきました。



「黄金原さん!」



レオンさんは叫びました。



黄金原「遅いよ・・・。」



かなり衰弱している様子でした。



「みんなは扉の後ろに隠れているんだ。いいね。」

「わかっていますよ。」



だぬちゃんが言いました。



しかし,リク君は戦う気満々でした。



すでに捕虫網を背中から取り出し,

2刀流の構えで立っていました。



闇組織JFの精鋭部隊5人が黄金原氏たちを取り囲んでいました。

その中のリーダーと思われる人物がレオンさんに向かって警告をしました。



精鋭R「我々はJFの精鋭部隊“鷺(さぎ)”。こいつらを消すのが

我らの役目。これ以上近づけば,お前の命も保証しない。」



精鋭部隊の隊長はやせ形で頬が少しこけて,

あまり生気がないような人物に見えました。



「あいつらはやはり精鋭部隊なんだ・・・。

それって昨日のやつらと同じってこと?」


「おい,大声でしゃべるな!」



トシ君が思わず部屋の外から声を出しました。



精鋭部下「どうやら,隠れているガキがまだいるみたいですね。」



トシ君のせいで少年昆虫団の存在が気付かれてしまったようです。



精鋭R「なるほど,お前たちが,昨日,“梟”に襲撃された連中か。

我々を奴らと一緒にするな。任務を失敗した情けない奴らだ。

我々は精鋭中の精鋭,それが“鷺(さぎ)”だ。」



どうやら闇組織JFの中にはいくつもの精鋭部隊があるようです。



精鋭R「堂々と助けに来たのはいいが,

少しでも動けば,こいつらの命はないぞ。」



部下の二人がそれぞれの首元にナイフの

ようなものをつきつけていました。



「・・・。」



黄金原「俺のことは気にするな!お前は任務を全うしろ!」



黄金原氏が叫ぶと,“鷺”の部下が彼の腹を殴りました。



精鋭部下「黙っていろ!」



黄金原「ぐっ・・・。やってくれるね・・・。」



すぐ横の柱にくくりつけられた羽音々が

心配そうな表情で黄金原氏を見つめていました。



「オイラが同じ立場なら黄金原さんと同じことを言ったと思う。」



レオンさんは構えました。



黄金原「そうだ,それでいい・・・。」



「二人とも人質である前に,警察官だ。覚悟もできている。

オイラの任務はお前たちの身柄を拘束して組織の全貌を暴きだすことだ!」




そう言った瞬間,敵の懐へ飛び込んで行きました。



第18話 二人の救出 前編

菊の華シリーズ第2章
レオンさんは一番手前にいた鷺の部隊員に襲いかかりました。

いきなりの奇襲に戸惑った隊員は顎に強烈なフックを食らい,よろけました。



さらに腹に一撃が入り,倒れこみました。



鷺隊長「おい,こいつをさっさと片付けろ!」



鷺の部隊長の怒号が響き渡りました。



「イツキ君,みんなを頼む。」

「ああ,気をつけろよ。」



リク君は扉の後ろにいた少年昆虫団を

イツキ君に任せ,自らは戦闘に参加しました。



「おおおおぉぉぉぉ・・・・!!!」



2本の捕虫網を突き出し,低空姿勢のまま

超高速で敵に突撃していきました。



-大地二刀流- 桜乱舞



乱撃により,敵の体から血しぶきがあがりました。

それはまるで桜の花びらが散るようでした。







部下「ぐおぇっ・・・!?」



そのまま倒れこみました。



「さすが,リク君。よし,あと三人だ。」



鷺隊長「くそっ,信じられん。これが梟が言っていた,

菊の実力者と平成のファーヴルというガキの力か!?」



部下「こうなったら,こいつらから殺してやる!」




残った部下の二人が黄金原さんと羽音々さんを

殺害しようと軍用ナイフを振り下ろしました。



-大地二刀流- 神速の打突 連撃



リク君の放った二本の捕虫網による打突が

敵が持っているナイフに当たり,手からナイフが離れました。



その隙に,レオンさんが相手の懐に潜り込み,

延髄蹴りを食らわせ,一瞬で倒しました。



もう一人は,慌てて,逃げ出そうとしました。



出入り口は黄金原氏たちがくくりつけられている柱から

さらに後ろに設置された貨物用エレベータとリク君達が

入ってきた所しかなかったので,無我夢中でリク君に突進してきました。



部下「どけっ!このクソガキ~!?」



リク君は冷静でした。



元の長さに戻っていた捕虫網を再び構え,

軽く相手のみぞおちに入れました。



部下「ぐふっ・・・。」



もだえながらその場で倒れ込みました。



しかし,意識があったようで,立ち上がり

再び扉を目指して走り出しました。



「しまった!ちょっと手加減しすぎたか!?」



扉の目の前にはイツキ君が,その後ろには

まさらちゃんとだぬちゃんとトシ君がいました。



部下「よし,このガキならたいしたことねぇ!」



闇組織JFの精鋭部隊とは思えないような

情けない姿で,この部下はイツキ君達に襲いかかりました。



「きゃあぁぁ・・・。」

「こっちに来ますよ!?」



まさらちゃんたちはパニックになりかけました。



「イツキ君!?」



リク君が声を上げました。



「大丈夫だ,お前たちは俺が守る!!」



イツキ君が前に出ました。



「うぉぉぉぉ!!!」



イツキ君の右の拳が敵の顔面に入りました。



バゴッ!!!!



相手は鼻血を出しながら思いっきり倒れました。

まだ起き上がろうとしたので,さらに一発食らわせました。



部下「がはっ・・・。」



ついにノックダウンしたようです。



「はぁはぁ・・・。」

「大丈夫か!?」



レオンさんがすぐ近くまで来て

くれていたことに気づきました。



「ああ・・・。なぁ,見ていただろ?

俺だって・・・戦えるんだ!」




イツキ君はレオンさんに向かって,そう言いました。



「ああ,立派だった。稽古が実践に活きるようになってきた。」



イツキ君はレオンさんに稽古を

つけてもらい,実践力がついてきました。



後は,鷺の部隊長だけが残りました。



第19話 二人の救出 後編

菊の華シリーズ第2章
闇組織JFの精鋭部隊,鷺はレオンさんとリク君,

そしてイツキ君によって,壊滅させられました。



残るは精鋭部隊“鷺”の部隊長だけです。



「さてと・・・。」



鷺隊長「こんな・・・こんなはずでは・・・。」



「後は,アンタだけだな。おとなしく

捕まって組織のことを全部話してもらうよ。」




レオンさんは少しずつ,鷺のリーダーに近づいていきました。



その間に,リク君とイツキ君は黄金原氏と羽音々さんに

近づき,縛られていたロープを切りました。



「一つ,先に聞いておきたいんだが,オイラの車を

パンクさせたのも,君達の部隊なのか?」




鷺隊長「・・・。おまえ達はここで死ぬ訳だから教えてやる。

お前たちの車を狙撃したのはわが組織の優秀な狙撃手だ。

ちなみにその方は源田様の直属の部下だ。」



どうやら狙撃手はユニット森熊に属する人物のようです。



「なるほど。桃瀬さんの言った通りか・・・。」



鷺隊長「梟が任務失敗した理由がわかった気が

する・・・。だが,最後に勝つのは我々だ。」



鷺の隊長は部屋の一番後ろに設置された貨物用の簡易

エレベータのスイッチを押して一瞬で下っていきました。



「しまった,逃げられた!」



イツキ君が,悔しそうな表情をしました。

スイッチを押してもすでに反応がありませんでした。



「仕方ない。とりあえず,二人が無事でよかった。」



レオンさんは黄金原氏の無事を確認し,安堵しました。



黄金原「すまない。俺一人なら

多少の無茶はできたんだが・・・。」



ちらっと音羽々さんを見ました。



羽音々「あの,本当にありがとうございました。

私が頼りないばかりですみません。」



そう言って,深々と頭を下げました。



「気にすることはないよ。さぁ,ここから出よう。

もしかしたらまだ追いつけるかもしれない。」




一同は部屋から出ることにしました。



一方,梯子から脱出した鷺の隊長は

1階の中央部屋である人物に遭遇していました。



鷺隊長「申し訳ありません・・・!

人質の殺害は失敗してしまいました・・・。」



南雲「そうか。ならば,すぐにそのスイッチを入れろ。」



その人物とはユニット山犬の南雲でした。







鷺隊長「しかし,私の部下は・・・。」

南雲「残念だが,処分ということになる。」



その言葉に鷺の隊長は言葉に詰まりました。



南雲「スイッチを起動後,1分後に倉庫の

あちこちから火の手が上がる。さぁ押せ。」

鷺隊長「くっ・・・。了解しました・・・!」



敬礼後,手元にあったスイッチを押しました。



鷺隊長「では,我々もすぐに避難しましょう・・・!」

南雲「ああ,そうだ。残念だが,お前はここに残ってもらう。」



南雲氏は拳銃を取り出して,

鷺の隊長にその銃口を向けました。



鷺隊長「なっ・・・。これは一体どういう・・・。」

南雲「お前たちは今回の作戦を知りすぎた。

いや,山本さんはお前たちが何も知らないまま葬りたいのかな。」



南雲はにやっと薄ら笑いを浮かべました。



鷺隊長「どういうことですか!?我々は指示通り,

菊の幹部とその部下を拉致し,この倉庫へ運びました。

菊内部の情報を尋問で聞き出し,口を割らなければ殺害。

邪魔が入れば倉庫ごと燃やす作戦だったはず。」




鷺隊長は必死に自分たちの成果をアピールしました。



鷺隊長「ちょうど,尋問を始めようとした

矢先に邪魔が入ってしまいましたが・・・。」



その時,鷺の隊長は何かに気づいたようです。それは・・・。



第20話 燃えさかる倉庫

菊の華シリーズ第2章
倉庫1階の中央部屋で闇組織JFの南雲と

精鋭部隊の部隊長が対峙していました。



南雲は部隊長に銃を突き付けていました。



鷺隊長「まさか・・・。今回の作戦は・・・。」

南雲「おっと,それまでだ。」



そういうが早いか,南雲は引き金を引きました。



パッシュ!



鷺隊長「ぐはっ・・・。」



南雲の放ったサイレンサー付きの銃は,

正確に鷺の隊長の脳天に一撃を食らわせました。



その時です。



倉庫の壁が燃え始めました。



南雲「おっと,もう火の手が上がり

始めたか。さっさとズラかるとしよう。」



南雲は炎の中,漆黒の闇に消えていきました。



火の手が上がったころ,少年昆虫団達は

1階の階段まで来ていました。



「やばいですよ!なんで急に燃え出すんですか!?」

「これってさっきのリーダーの仕業かな!?」



みんなパニックになりかけていました。



「大丈夫だ。出口はすぐそこだ。あまりしゃべらず,

鼻と口をしっかりとハンカチで押さえておくんだ。」




イツキ君は冷静でした。



先頭を進むレオンさんとリク君は,周囲に敵が

潜んでいないか慎重に調べながら歩いていました。



「さっきの奴が奇襲を仕掛けて

くると思ったが,なさそうだね・・・。」


「うん・・・。もう逃げちゃったのかも。」



黄金原氏はまだ傷が治っていない羽音々さんに

寄り添いながら一番後ろを進んでいました。



そして,全員が無事に倉庫から脱出できました。

その直後,大きな爆発とともにさらに倉庫が燃え上がりました。



そこにいた者たちはただ,燃えさかる倉庫を

見守ることしかできませんでした。







5分後には救急・消防隊と地元の警察が到着して,

レオンさんは事情を説明していました。



黄金原氏と羽音々さんは多少けがを

していたので,病院へ運ぼうとしましたが,

搬送中に襲撃される恐れがあったので拒みました。



遅れて赤神氏が菊の部下と共に警察車両でやってきました。



赤神「大変なことになったな。みんな,大丈夫なのか!?」



彼は車から降りると心配そうな表情で近づいてきました。



「すみません。自分がついていながら・・・。」



赤神「仕方ない。子供も一緒にいたわけだしな。」



赤神氏は全員の無事を確認し,ひとまず安心しました。



赤神「二人はやはり県警本部に戻ろう。黄金原は明らかに

JFに狙われている。お前はしばらく本部で内勤だ。」



黄金原「わかりました。羽音々も一緒でよろしいですよね。」



黄金原氏は彼女のことも心配しているようでした。



赤神「ああ,もちろんだ。そして翠川は早急に

子供を自宅へ送り帰し,明日に備えてくれ。」



「わかりました。」



この後,レオンさんは無事に少年昆虫団を

送っていき,長い一日は終わりました。



第21話 エピローグ

菊の華シリーズ第2章
少年昆虫団は昨夜,闇組織JFの精鋭部隊から

黄金原氏と羽音々さんを救出しました。



彼らはレオンさんの家に集まっていました。



「昨日はお疲れさんだったね。」



そう言いながら,カップのバニラアイスを

人数分出してくれました。







トシ君がすかさず,食べ始めました。



「冷たくてうまぁい!」



みんなはアイスを食べながら昨日の

ことについて質問をしました。



「羽音々さんは大丈夫なのかな?」

「ああ,精神的に少しまいっている

みたいだけど,彼女も警察官だ。大丈夫だよ。」




レオンさんの言葉にまさらちゃんはほっとしたようです。



「二人は県警本部で厳重警備されているよ。

しばらくは用事がない限りは本部から外出する

ことはないと思うので組織も手が出せないだろう。」


「そっか。」



リク君もそれを聞いて安心したようです。



「あの鷺とかいう精鋭部隊はどうなったんですか?」



だぬちゃんは倉庫が燃えてしまったことが気がかりなようです。



「消火活動が終わった後に,焼け落ちた

倉庫を赤神さん達が調べたみたい。」


「それで?」



イツキ君が聞きました。



「中から5人の遺体が出てきた。

おそらく鷺のメンバーだろう。」




レオンさんは真剣な表情で言いました。



「ということは,逃げだした鷺の隊長も死んだのか?」

「確定はできないが,そういうことになるだろうね。」



リク君はアイスを食べる手を止めました。



「じゃあ,誰が倉庫に火を放ったんだろう・・・?

まさか,鷺の隊長が火をつけて逃げ遅れたってこと?」




リク君の疑問に,



「おそらく,もう一人倉庫にはいたんだろう。

鷺の部隊長は拳銃で殺害された痕跡が見つかっている。」




と,レオンさんが答えました。



「まさか!」



一同は驚きました。



「あの現場に誰がいたんでしょうか・・・。」



疑問は深まるばかりでした。



「まぁ,とりあえず,敵の連中が黄金原さんって

いう人を狙っているってわかっただけでもいいじゃない!」




トシ君が珍しくまっとうな考えを示しました。



「うん,トシ君の言うとおりだ。

敵の狙いがわかれば,こちらとしても護りやすい。」




レオンさんも同調しました。



ただ,リク君だけが浮かない顔をしていました。



「どうしたんだ?何か気になることでもあるのか?」

「え?いや,そんなことはないんだけど,

何か引っかかるような・・・。なんだろう・・・。」




リク君は何か気になることがあるようですが,

はっきりとはわからないようです。



「考えても仕方ないですよ。」



だぬちゃんは楽観的でした。



しかし,闇組織JFの菊幹部暗殺作戦はまだまだ続くことになりそうです。



菊の華シリーズ ~第2章 完~



最終章 1~8話

第1話 プロローグ

 菊の華シリーズ 最終章
日本警察が闇組織JFを壊滅させるために

警視庁公安部はJF対策特別

チームとして"菊水華"を立ち上げました。



通称"菊"と呼ばれています。



JFは菊の幹部を暗殺する計画を立てているようです。

しかし,この事をレオンさん以外の菊の幹部は知りません。



そんな中,菊のメンバーである黄金原氏と

部下の羽音々氏がJFに拉致されましたが,

間一髪のところで少年昆虫団とレオンさんに救われました。



リーダーの赤神氏は事態を重く見て,黄金原氏と

羽音々氏を当分の間,署内のみの勤務としました。



ここは眠らない町,栄の一角に

あるJF専用のバー,リ・セッ・シュ。



そこに闇組織JFの幹部がカウンターで酒を飲んでいました。



真ん中に山犬のユニットリーダー山本。



そして右側に海猫のユニットリーダーの今村,

左側に藪蛇のユニットリーダーのアヤがいました。





山本「本日の作戦だが,おおむねうまくいった。

そして計画通り,南雲に下っ端の掃除をさせておいた。」

今村「南雲クンもだいぶ殺しになれてきたのですね。」



今村がウォッカを飲みながらそう言いました。



山本「ああ,この一週間で二けたの人間を殺させたからな。

多少は慣れてきたんだろう。だがまだ足りねぇな。」



山本もグラスをあおって酒を飲み干しました。



山本「これで例の計画を実行に移せる。

御前の許可はすでに出ている。

こちらが練った計画案も完成した。

あとはXデーに実行するだけだ。」



アヤ「いよいよね。闇の騎士(ダークナイト)からの報告だと一応,

“菊”も警戒は続けているみたいだけど,まだ表立った動きはないわ。」



藪蛇は諜報活動を主な任務としているユニットです。

菊の中にJFのスパイを潜り込ませて情報を搾取していました。



そのコードネームが闇の騎士(ダークナイト)でした。



今村「それよりもこちらのスパイが潜入していることは

菊には感づかれてはいませんか?それが心配です。」



今村はフォッフォッと笑いながらアヤに聞きました。



アヤ「それは大丈夫だと思うわ。あの子は完璧主義者だから

きっとヘマはしない。ただ,ちょっと気になるのは・・・。」



アヤは一回ため息をついてから,



アヤ「貴方が昨日言っていた

平成のファーヴルっていう子供のこと。」



子供という言葉に山本が反応しました。



山本「どうかしたのか?」



現実には令和に元号が変わりましたが,この世界では

いまだに平成時代が続いているという設定です。



アヤ「なんか,とてつもない強さらしいっていう報告が上がってきたわ。

アタシは何かの間違いじゃないのって言っておいたんだけどね。」



今村「フォッ~フォッ~!おそらく間違いではないでしょう。

彼は相当な実力者だと思います。実は大西(グレイ)君からも

同じような報告があったんですよ。これは面白くなってきましたね。」



今村は顔がにやけていました。



アヤ「本当に我々の脅威になりうるっていうの?

そんな馬鹿な!信じられないわ。」



アヤはそう言われても半信半疑のようでした。



今村「そうそう,昨日の会議でもお伝えしましたが

今回の暗殺計画は山犬に譲りますからね。」



山本「最初は抜けがけをするなと言ったり

急に譲ると言ったり,どういうつもりだ。」

(菊の華シリーズ第二章 プロローグ参照)

山本は今村を睨みつけました。



今村「いやいや,何も変なことは企んでいませんよ。

ただ,すでにあの各務原山で東條君は

"漆黒の金剛石"を再発見しました。

今度は山犬が手柄を立てる番じゃないですかね。」



山本は黙ったままです。



今村「それにこのことは東條君の

了承もいただいています。

どうやら彼は御前から別件で

動くように指示が出てるようですし。」



なんと,すでに漆黒の金剛石は東條と呼ばれる

組織の幹部によって発見され,探索を終えていたようです。



リク君達はこの事実をまだ知りません。



山本「アンタに手柄を譲られるつもりはないが,

もし菊のターゲットと一緒に現れたらまとめて始末してやる。」



アヤ「あら,闇の騎士(ダークナイト)

から連絡が来たわ。ちょっと失礼。」



アヤは携帯電話を手に取りました。



闇の騎士「この後,例の計画を実行し,菊の指令系統をかく乱します。

その混乱に乗じて,ターゲットの暗殺をそちらの実行部隊の

ほうでよろしくお願いします。ちなみに担当するのは穴熊の源田さんですか?」



アヤ「ええ。兵隊の管理と指揮は源田でしょうけど,実働部隊は山犬よ。

東條クンは別件があるみたいで動けないみたい。」



闇の騎士とアヤのやりとりは数分で終わりました。



そして,その内容を二人に伝えるとアヤは店を出ていきました。

いよいよ,菊の幹部を暗殺するための作戦が動き出すようです。



第2話 突然の告白

 菊の華シリーズ 最終章
愛知県警本部の資料室にて・・・。



一度闇組織JFに命を狙われた黄金原と羽音々は当面の間,

県警本部内で仕事をすることになっていました。



そこで彼らに関する資料をここで集めていました。



羽音々「なかなか,見つからないですね。

よほど徹底して地下に潜り込んだ組織なんですね。」

黄金原「う~ん,そういうもんなのかな~。」



羽音々(はおとね)が本棚から気になった資料に手を

かけたとき,突然,上からたくさんの資料が落ちてきました。



羽音々「きゃっ。」



彼女は手で資料を防ぎ,態勢を崩してしまいました。



倒れそうになった彼女を黄金原氏が

そっと受け止めてあげました。



その時,羽音々氏の手と彼の手が触れてしまいました。

思わず彼女は頬を赤らめました。



黄金原「大丈夫かい。気を付けないと危ないよ。」



黄金原氏は倒れそうになった羽音々氏を

そっと抱きかかえてあげました。



羽音々「あ,あの・・・。その・・・。」



羽音々氏は態勢を整えて立ち上がりました。

そして髪の毛についた埃を手で払いました。



黄金原「どうしたんだい?」



それは突然の告白でした。

彼女はついその言葉を口に出してしまったのです。





羽音々「ずっと前から好きでした。先輩の一生懸命に

仕事をがんばる姿が素敵です。」



ほんの数秒間の沈黙が彼女に

とっては1時間にも思えました。



黄金原「その,ちょっと突然でびっくりしたかな。

そんな風に思われているなんて考えていなかったから。」



黄金原氏はそのあとどうしていいかわからない

感じであたふたしているように見えました。



羽音々「先輩が仕事一筋だってことはわかっています。

だから大丈夫です。私,いつまでも待っていますから。」



黄金原「あ,ありがとう。そうだ,資料を探している

途中だったよね。早くやらないと赤神さんが戻ってきた時に色々と

小言を言われちゃうからさ。さっさとやってしまおうよ。」



再び二人は仕事を始めました。

そのあとも,彼女は彼の横顔が気になって

仕事に集中できませんでした。



一方,赤神氏は捜査本部の

デスクで電話をしていました。



相手はレオンさんでした。



赤神「なるほど・・・。JFの幹部を盗聴した時に,我々の暗殺計画を

実行に移そうとしていたことを聞いたわけか。

それなら黄金原が狙われた理由も納得だ。

しかし,なぜそれをあの少年昆虫団と

引き合わせた場で言わなかったんだ。」



「すみません,なぜなら我々の中に闇組織JFのスパイが

潜り込んでいるかもしれなかったから言えなかったんです。」




レオンさんは真剣なトーンでその事実を伝えました。



赤神「まさか,そんなことがありえるのか!?

というと,幹部か準幹部の中に!?」



「以前,黄金原さんからの報告にあがっていた,闇の騎士(ダークナイト)と

いう人物が諜報活動をしているのではないかと推測しています。」




しばらくの沈黙の後,



赤神「しかし,あの時,せめて暗殺計画だけ

でも伝えてくれれば,黄金原と羽音々(はおとね)が

けがをすることもなかったんだぞ。」



電話越しにレオンさんが

謝っているのがわかりました。



「赤神さん,今の事実を他の三人の幹部に確実に

伝えてもらっていいですか。できたら,この後,すぐに。」




赤神「ああ,そうだな。にわかには信じられないが,

俺も誰がスパイなのかそれとなく探ってみるとしよう。」



レオンさんは話題を変えました。



「ところで,あの二人はどうしています?」



レオンさんは黄金原氏と羽音々さんのことを気にしていました。



赤神「ん?ああ,今日も本部内で勤務をしているよ。

外には出ていない。しかし,なんか二人ともよそよそしくてな。

若手の女性警察官が言うにはなんでも羽音々のやつ黄金原に

自分の気持ちを伝えちまって振られたんだとよ。」



「え?そうなんですか?自分たちが命を

狙われているのに何やっているんですかね・・・。」




レオンさんが聞き返しました。



赤神「はははは。若いっていうのはいいことじゃねぇか。

しかし,あんなかわいい子を振るなんて黄金原の奴,もったいねぇよなぁ~。」



「あ,この会話,昆虫団のみんなが聞いてますので・・・。」



レオンさんはオヤジ丸出しの

赤神さんに少し呆れていました。



赤神「あ?なんだ,あの子たちと一緒にいるのかよ。」



「それでは,先ほどの件と,引き続き,二人の様子を

しっかりと見ておいてください。よろしくお願いします。」




そう言って,電話を切りました。



レオンさんが盗聴した内容を全て伝えた真意とは・・・。



第3話 急展開な予感

 菊の華シリーズ 最終章
もうすぐお昼の12時になろうとしていました。



少年昆虫団はレオンさんの自宅で前回終わらなかった

キャンプの打ち合わせの続きをしていました。



「やっぱ,岐阜の坂取川方面がいいよー。」

「あたしは,絶対に海がいいー!」



それぞれが自分の意見を出し合い,盛り上がっていました。



レオンさんは赤神さんと電話をしていました。

みんなが会話の内容を聞けるように

スピーカーモードにしてくれていました。



そして会話が終わりました。



「そっかぁ!やっぱり告白しちゃったんだ。

いいなぁ。大人の恋ってステキ。」




まさらちゃんは顔を真っ赤にして何かを妄想していました。



「しかし,こんな時に,何をやっているんだか・・・。」

「レオンさん,良かったんですか。

盗聴した内容を全て伝えてしまって。」




だぬちゃんが少し心配そうに言いました。



「実際に黄金原さんの命が

1日に2回も狙われてしまったからね。

全員に伝えることにしたよ。ついでにもしかしたら

菊の中にスパイが紛れ込んでいるかも

しれないっていうことも伝えた。」




レオンさんはちらっとリく君を見ました。

どうやらこの決定にリク君も関わっているようです。



「ねぇねぇ,キャンプの打ち合わせしなくていいのー。

なんか全然,決まってないよー。」




トシ君が話題をキャンプに戻しました。



「そうだね。とりあえず山に行ったほうがカブクワも

取れるだろうし,そっち方面で考えてみようか。」




レオンさんがお昼ごはんにオムライスを作ってくれました。



彼はひとり暮らしが長いので一通りの料理ができるようでした。



「うまいな・・・。」



イツキ君はパクパク食べていました。



「味オンチのイツキ君でもこの

オムライスのうまさがわかるんですね。」






「いや,ちがうよ。」



そのあとも打ち合わせを続け,来週に岐阜県の

郡上方面へキャンプへ行くことになりました。



時間は午後4時になっていました。



すると突然,レオンさんの携帯電話が鳴りました。



「はい・・・。はい・・・

え・・・なんですって!?わかりました・・・。

ええ,まだリク君たちも一緒です。

わかりました。すぐ探します!」




レオンさんは電話を切りました。



「赤神さんからか?」

「ああ。なんか大変なことになってきたみたい。」



レオンさんは外出の支度をしました。



「一体何があったの?」



トシ君が聞きました。



「黄金原さんと羽音々さんが

署内からいなくなってしまったらしい。」




レオンさんは車を駐車場から出しました。



全員がそこに乗り込みました。



「じゃあ,急いだほうがいいんじゃないですか。」

「そうだね。青山さんと桃瀬さんもすでに

捜索に向かっているみたい。オイラたちも急ごう。」




レオンさんは車を急発進させました。

彼らの身にいったい何が起きたのでしょうか。



第4話 君だったんだね・・・

 菊の華シリーズ 最終章
愛知県警本部にて・・・。



小会議室に二人の人物が向かいあっていました。

彼女はその日の朝に目の前に告白をしたばかりでした。



しかし,雰囲気からはそんな甘い感じの様子は無く,

男が目の前の女性を問い詰めていました。



黄金原「悪いが君のデスクを探らせてもらったよ。」



羽音々「・・・。」



彼女はうつむいたまま返事をしませんでした。



黄金原「そしたら,これが見つかったよ。これって,

“菊”の機密情報データが入った媒体だよね。」



彼はポケットからUSBのような小型の記録媒体を

取り出し,彼女の前でちらつかせました。



黄金原「君だったんだね・・・。がっかりだ・・・。

朝の告白は何のつもりだったんだ・・・。」

羽音々「あっあれは・・・。」



二人は何やらやりとりをした直後,

彼女は机の上にあったコップを

こぼして彼に中身をぶちまけました。



黄金原「なっ!?」



そのすきに彼女は部屋を飛び出していきました。

すぐに黄金原氏も追いかけました。



この後,すぐに赤神氏が防犯カメラを確認し,二人が

別々の車で署内を出ていったことを確認しました。



彼は他の菊の幹部に連絡をとり,二人を探し出すように命じました。

Nシステムの追尾により名古屋からさらに北に

向かっていることまでをレオンさんに伝えました。



レオンさんと少年昆虫団は連絡を

受け,北に向かって捜索を開始しました。



レオンさんが運転し,助手席にはリク君が座りました。



後ろにはイツキ君とまさらちゃん,最後部の列に

トシ君とだぬちゃんが座っています。



緊急事態なのでサイレンを鳴らし

ながら,二人の車のナンバーを探します。



「でも,なんで二人は署内から出てしまったの?」

「どうやら,黄金原さんは羽音々さんが

JFのスパイだという証拠を見つけたらしい。

それを問い詰められて逃げ出したん

じゃないかって赤神さんは推測している。」




レオンさんは運転をしながら

それらしい車がないか探しています。



「そうか。朝にスパイの件を赤神さんを通じて伝えて

もらったから黄金原サンも思い当たる節があって探りをいれたのか。

そしたらその証拠が出てきてしまった・・・。」


「うそ!そんなの信じられないよ!だって羽音々さんは

勇気を出して自分の想いを伝えたんだよ。

悪いやつらのスパイがそんなことをするわけないじゃん!?」




まさらちゃんは半分泣きそうにながら訴えました。



となりに座っていたイツキ君が

まさらちゃんを慰めていました。



「でもスパイだってばれないために告白とかをして

自分から疑いを逸らそうとした可能性もあるよね。」


「それを言ったら,黄金原さんが

襲われたのだって自作自演かもしれないじゃん!?」




まさらちゃんは後ろを振り返り,

ものすごい形相でトシ君を睨みつけました。



「う・・・。例えばの話だよー・・・。」

「そう言えば,桃瀬さんがさっきまで黄金原さんと羽音々さんが

拉致された現場を訪れているって聞いたな。ちょっと連絡してみるか。」




最新の携帯電話は番号を直接打たなくても

声だけで発信できる仕組みになっていました。



レオンさん達の車は江南線と呼ばれる

道路を北に向かってどんどん走っていきます。



第5話 誰が闇の騎士(ダークナイト)か

 菊の華シリーズ 最終章
レオンさんは桃瀬氏に連絡を取ってみましたが不在のようでした。



「向こうも忙しいようだ。着信履歴は

残るからそのうち連絡が入るかな。」




レオンさんが彼女に連絡を入れる少し前のことです。



菊の紅一点である桃瀬氏は部下と一緒に,黄金原氏と羽音々氏が

一昨日の夜に病院から本部へ戻る途中で誘拐された現場の前に来ていました。



桃瀬の部下は20代後半の男性で片岡といいました。



<桃瀬の部下 片岡>



彼はどうやら頭髪の主張が少なく,

年齢よりも上に見られることが多いようです。



片岡「桃瀬さん,こんなところに来てどうするんですか?

もう現場検証は終わっていますよ。」

桃瀬「・・・。」



桃瀬はずっと,周囲の建物を見渡していました。



桃瀬「狙撃現場は確認できたんだっけ?」

片岡「あ,はい。ここから500mほど

離れたビルの屋上からです。」



桃瀬氏は別の件で手が離せなかったようで

自分自身でこの現場の検証は行っていなかったようです。



そこで,自らの足で気になることがないかを確認しに来たのです。



桃瀬「500m・・・。よくあの暗闇の中,

翠川君たちの車を狙撃できたわね。」

片岡「敵にすごいスナイパーがいると

いう推理は間違っていなかったですね。」



桃瀬氏は,今度は地面に視線をやりました。



しばらく歩きまわって何か

見落としがないか,探し回りました。



その時,桃瀬氏の携帯に赤神氏から連絡が入りました。



内容はレオンさんが聞いたものと同じで黄金原氏と

羽音々氏が署内からいなくなり,捜索せよとのことでした。



桃瀬「まったく~。一体何をやってるのよ。」



少し面倒臭そうにして現場を離れようとしました。



桃瀬「あれ,これって何・・・?」

片岡「どうかしましたか?」



桃瀬氏は何かを見つけたようで顔が硬直していました。



この表情は闇の騎士を手掛かりを見つけたかも

しれない驚きなのか,自らが闇の騎士で

その証拠を残してしまった焦りなのか・・・。



場面は再びレオンさんが運転する車に変わります。



「じゃあ,みんなは誰が闇の騎士だと思っているの!?」



羽音々さんを疑われたままで怒りがおさまらない様子です。



「やっぱり他に怪しいといえば,桃瀬さんじゃないですかね。」



だぬちゃんが持論を展開します。



「だって彼女は一流のスナイパーなわけですよね。

JFに腕利きの狙撃手がいるって言っていましたが,

それが彼女自身のことなんじゃないですかね。

あの目つきは絶対に何人か殺している気がしますよ。」


「おいおい。女性を見た目で判断するのは危険だぞ。」



イツキ君が大人な意見を述べました。



「俺はあの青山っていうバンドの

リーダーが怪しいんじゃないかと思う。」


「いやいやいや,それはないでしょう。」



だぬちゃんは青山氏に憧れていたのでその意見を否定します。



「でもさ,この前一緒に青山さんのコンサートを

聴いてそのあとに楽屋に行った時,携帯電話で

"グレイ"っていっているのを聞いたよね。」


(第267話参照)

「え?なんだって。それじゃあ

青山サンが組織側の人間ってことか。」




イツキ君も初耳だったようで

驚きを隠せないようです。



「だから,あれは何かの間違いですって!」



みんなはそれぞれが自分の尊敬する人

以外の誰かが闇の騎士だと思っているようです。



そんな会話を最前列のリク君とレオンさんは黙って聞いていました。



誰が怪しいかで持ちきりの中,

レオンさんの携帯電話が鳴りました。



その相手とは・・・。



第6話 そして,あの山へ・・・

 菊の華シリーズ 最終章
レオンさんたちは二人の車を発見できないまま,

北に車を進め,岐阜県との境まで来ていました。



時間はすでに午後6時を過ぎていました。

その時,レオンさんの携帯電話が鳴りました。



レオンさんは声でスピーカーモードに

設定して通話ができるようにしました。



電話の相手は赤神さんでした。



赤神「部下にNシステムで二人の車を追跡させたところ,

どうやら岐阜県の各務原山方面に向かったようなんだ。」



「ちょうど,県境に来ていますのでこのまま向かいますね。

岐阜県警にはそっちの方で許可をとっておいてください。」




少年昆虫団はそのやりとりをじっと聞いていました。



赤神「それについてはすでに話を通してある。

俺や青山,桃瀬もそっちに向かっている。

何か嫌な予感がする。慎重に行動しろよ。」



「大丈夫だよ!僕たちにまかせて!」



リク君が横から会話に入ってきました。



赤神「そうか。君たちも一緒だったな。

くれぐれも無理をしないでくれよ。」



そう言って電話を切りました。



しばらくして一行は各務原山に到着しました。





駐車場には何台か車が止まっていましたが,

その中の2台が黄金原氏と羽音々氏のものでした。



「ここで降りて山の中に入っていったんだな。」

「じゃあ本当に羽音々さんが闇の騎士でそれに

気づいた黄金原さんが追いかけていったってことですか。」




そのまま登山道入り口までいき,

夕暮れの山道を登ることにしました。



「足場が悪い所も多いから気を付けてね。」



レオンさんを先頭にどんどん登っていきます。



その途中で,まさらちゃんが



「やっぱり,私は羽音々さんが悪い人だなんて思えない!

これにはきっと何かわけがあるんだよ!」


「うーむ・・・。リク君はどう思う?」



レオンさんはリク君に意見を求めました。



「一つ引っかかっていることが

あるんだよなー・・・。なんだっけなぁ・・・。」




帽子の上から髪の毛をくしゃくしゃとかく

仕草をしながら思い出そうとしています。



「頑張って思い出すんだ!」



なぜか上から目線のトシ君。



「そうだ,あの時・・・。」



リク君は歩きながら自分が気になって

いることをみんなに話しました。



その時,レオンさんの携帯に

桃瀬さんから連絡が入りました。



桃瀬「さっきは電話に出れなくてごめんね。

でも用件はだいたいわかっている。

貴方たちが狙撃に巻き込まれた現場についてだよね。」



桃瀬さんは先ほどの現場で気になったことを説明しました。



「なるほど,そういうことか。実はリク君がたった今,

君が思っている事と同じことを言っていたんだよ。」




桃瀬「え,本当に?あの子って貴方が

言うようにすごい子なのかもね。」



桃瀬さんはリク君の事をとても

感心した様子で話していました。



桃瀬「私たちも今,各務原山に着いたから追いかけるわ。」



そう言って,通話が切れました。



「実はオイラも気になっていたことを思い出したんだ。」



レオンさんがみんなに何かを話しました。



「じゃあ,やっぱりアイツが闇の騎士なんだな・・・。」

「・・・。」



まさらちゃんの顔は暗いままでした。



「でも,二人を探すのを急いだほうが

いいんじゃないですかね。」


「その通りだ。でもこの山道を

バラバラになって探すことは危険だ。」




そうこうしているうちに山の中腹までやってきました。

そしてそこにあの二人の影を見つけました。



第7話 闇の騎士の正体①

 菊の華シリーズ 最終章
すでに午後7時を過ぎ,日がかなり暮れていました。

各務原山の中腹にあるちょっとした広場の

ような場所に二人の影がありました。



それは署内から飛び出した

羽音々氏とそれを追いかけた黄金原氏でした。



二人は何かを言い合っているようでしたが,

レオンさんは構わず出て行って二人の前に姿を現しました。



その後ろに少年昆虫団も一緒にいました。



「こんなところにいたのか。探したよ。」



羽音々氏は彼の視線をまともに

受けることができませんでした。



黄金原「君たちもやはり来てしまったか・・・。

本当は二人だけで話したかったんだけどな。」



「署内で何があったかのか話してくれるね。」





レオンさんは二人に向かってそう言いました。



リク君は黙って二人の様子を観察していました。



トシ君はレオンさんの顔が最初に合った時とは

別人じゃないか,と突っ込みたかったのですが,

シリアスなシーンだったため自重しました。



黄金原「午前中に君から“JFのスパイが菊の中に

いる”って報告を赤神さんを通じて受けただろ。

部下を疑いたくはなかったんだけどね,

彼女の机を探らせてもらったら出てきたんだ。」



「何が・・・?」



まさらちゃんがレオンさんの後ろに

少し隠れながら恐る恐る聞きました。



黄金原「我々の行動記録や調査記録の入った小型記憶媒体だよ。

こんなものを個人的に所持する許可なんて出ていない。

だとすれば何のために持ち出そうとしたのか。」



「それで彼女がJFのスパイである

闇の騎士だといいたいわけですか・・・。」




今度はだぬちゃんがレオンさんの後ろ

から顔をのぞかせ,そう言いました。



そのやり取りを羽音々氏は

うつむいたまま,じっと聞いていました。



後ろの草陰がゴソゴソと動き,現れたのは赤神氏,

青山氏とその部下らしき男性,桃瀬氏と部下の片岡でした。



赤神「やっと追いついたか。間に合って

よかった。翠川,すまなかったな。」



「いえ,大丈夫です。」



リク君は黄金原氏と羽音々氏に近づきました。



「役者もそろったことだし,今から僕が

全てを明らかにしようと思う。いいかな?」






一瞬レオンさんの方を振り向き,

レオンさんが頷くのを確認しました。



桃瀬「本当に大丈夫なのかしら。いくら頭が

いいっていってもまだ子供じゃ・・・。」



赤神「まぁ,そう判断するのは,

彼の話を聞いてからでも遅くないさ。」



リク君が口を開きました。



「実は,今日の午前中にレオンさんから赤神さんに

この菊の中に闇組織JFのスパイがいるってことを

伝えるようにお願いしたのは僕なんだ。」




そこにいるメンバーは驚いた様子でリク君を見ました。



「赤神さんから他のメンバーに伝えて

もらうことで何か動きが出てくると思ったんです。」


「案の定,こうやって大きな動きがありました。」



その話を羽音々氏は下を向いた

ままじっと聞いていました。



その様子をまさらちゃんが

心配そうに見つめています。



黄金原「確かに,君たちがその事を伝えてくれた

おかげでこうやって敵のスパイが見つかった。

悲しいけれどこれが真実なんだね・・・。」



彼のその発言に対し,リク君がニヤっと

不敵な笑みを浮かべました。



その笑みの意味とは・・・。



第8話 闇の騎士の正体②

 菊の華シリーズ 最終章
各務原山の中腹にある広場に少年昆虫団と

菊水華のメンバーが集まっていました。



広場の奥手には黄金原氏と羽音々氏が,向かい合うようにリク君,

その後ろにレオンさんと少年昆虫団,残りの菊のメンバーが並んでいました。



黄金原氏は羽音々氏が闇組織JFのスパイである旨の

発言をしたところ,リク君は不敵な笑みを浮かべました。



「闇の騎士の正体・・・。それはアンタだよ!!」



リク君は大声で目の前にいる人物を

指さしました。それは羽音々氏ではなく・・・。



黄金原「なっ!!」



黄金原氏をまっすぐに指さしていました。



黄金原「何を言い出すんだい!?」





「黄金原,いや闇の騎士,観念するんだな。

アンタがスパイだって事はもうわかっているんだ。」




レオンさんもリク君の発言をフォロー

するようにそう言いました。



赤神氏は黄金原氏をずっと睨み続けていました。



黄金原「俺が敵のスパイ?何を根拠にそんなことを言うんだ!」



「根拠ならあるよ。アンタが闇の騎士だという証拠を教えてやる。」



イツキ君やだぬちゃんもリク君

の話を真剣に聞いていました。



「あのピエロが闇の騎士だったとはな・・・。」

「一昨日からずっと引っかかっていることがあったんだ。

それはね,アンタと羽音々さんがJFの精鋭部隊に拉致されたときのことだ。」




みんなは固唾をのんで話を聞いていました。



「あの時,二人の乗っている車の前の車が

急停車して仕方なくブレーキをして,

停車したところを無理矢理,車から引きずり

出され拉致されたと思っていた。」




リク君は話を続けます。



「そして,邪魔が入らないように

拉致部隊とは別の人間がレオンさんと

僕たちが乗っている車を狙撃して妨害した。」




黄金原「そう。まさにその通りだ。何がおかしいんだ?」



彼は額にうっすらと汗をかいていました。



「実はそうじゃなかった。最初から僕たちの車を狙撃できるように

アンタが運転する車は停車位置が決められていたんだ。

前の車が止まればレオンさんの車も止まるしかないからね。」




リク君は自分の推理を続けます。



「その証拠をそこにいる桃瀬さんが見つけてくれたよ。」



桃瀬氏は先ほど現場で見つけた証拠について説明しました。



桃瀬「この写真をみて。」



そう言って,部下の片岡が持っていた黒の鞄の

中から一枚の現場写真を取り出しました。



そこには,道路標識が写っており,

ポールの下の方に黒色の印がついていました。



おそらくラッカーでつけられたものでした。



桃瀬「最初はただのいたずらかなと思ったんだけど,

この黒色の塗料,暗闇で光る蛍光塗料だったんです。」





青山「なるほど,その辺のガキの悪戯じゃあないわな・・・。

ただの落書きならそんな手の込んだ事をやる必要はないからな。」



青山氏はたばこを口にくわえながら,

桃瀬氏の写真をまじまじと見ていました。



「つまり,これは“この場所で止まれ”

という組織からの合図だったんだ。

おそらく羽音々さんには“猫が横切った”とか

言って急ブレーキをかけてごまかしたんだろうね。」




黄金原氏の顔色がだんだんと悪く

なっているように見えました。



だぬちゃんは持っていた懐中電灯を写真に

照らして自分も証拠写真を見てみることにしました。



「確かに,これは決定的ですね・・・。」



黄金原氏はどう弁解するつもりなのでしょうか。



最終章 9~13話

第9話 闇の騎士の正体③

 菊の華シリーズ 最終章
黄金原氏が闇の騎士であるという

証拠を突きつけられました。



「オイラからも彼が闇の騎士だと確信した

"あるやりとり"について説明させてほしい。」




黄金原氏はレオンさんから視線をそらしました。



「JFに拉致された黄金原を助け出したとき,オイラは何気なく

“闇の組織JFが狙っているのは黄金原さんなんだ”と言ってしまったんだ。」


「え,それの何がおかしいの?」



まさらちゃんがレオンさんに聞きました。



「あの時は,オイラもちょっと油断して

いたからだと思うんだけど,あの時点では,

JFが菊の幹部を暗殺しようとしている

なんて事は誰も知らないはずなんだよ。」


「あ,そっか。」



トシ君もようやく理解できたようです。



「そう。それなのに,君はオイラのその

言葉に対して"ああ,そうだな"と言ったんだよ。

まるで最初から闇組織JFが菊の幹部を暗殺

する計画だと知っているかのようにな。」




黄金原「それが,どうした。たまたまお前に話を合わせただけだ!

そんなことよりも,ここに罪を認めている女がいるんだぞ!

これこそが何よりの証拠じゃないか!!違うか!?」



黄金原氏は声を荒げて反論しました。



「羽音々さん,もう全てわかっているんです。

本当のことを話してください。」




リク君は彼女に対しては優しく話しかけました。



「貴方はこの男の事を本当に愛していた。だからこそ,

彼のやっていたことを知ったとき,ショックだったはずです。」




羽音々さんは顔をあげました。



「そして彼のことを庇うべきか悩んだ。

でも,それは正しいことじゃないと思います。好きだからこそ,

彼の罪を白日の下にさらすべきだと思います。」




菊の幹部たちはとても小学二年生が

口にする内容とは思えないと感心していました。



しばらくの沈黙の後,彼女は口を開きました。



羽音々「朝,私は長年の想いを彼に伝えました。

振られたようなものでしたが,悲しくはありませんでした。

もっと彼の力になりたい。役に立ちたいと

思う気持ちが強くなりました。」



告白されたその男は横で静かに聞いていました。



羽音々「数日前に彼のPCに小型の情報記憶媒体が

刺したままになっていました。その時は,

ただ抜き忘れただけだと思い,翌日に

お返ししようとしたんですが・・・。」



しかし,仕事の忙しさや本人たちがJFに襲われるという事件も重なり,

返すタイミングを逃してしまったそうです。



羽音々「そして,赤神さんからの報告があり,万が一と思って,

その記憶媒体の中身を見てしまいました。中は我々,

警察内部の機密情報で絶対にそんな媒体に

入れて保管してはいけない内容ばかりでした。

私は気が動転して自分のデスクの引き出しにしまい込みました。」



「そうか。奴はそれがないことに気づき,慌てて探したんだな。

そうしたら羽音々サンの引き出しから見つかった。」




とイツキ君。





羽音々「はい,そうです・・・。」



そして,彼はそのことを問い詰めるため,

彼女を別室に呼び出したのです。



第10話 闇の騎士の正体④

 菊の華シリーズ 最終章
羽音々氏は偶然,黄金原氏が機密情報を

持ち出そうとしていることに気づいてしまいました。



彼女は気が動転して,それを自分のデスクに隠しました。



彼はそのことに気づき,彼女を問い詰める

ため,別室に呼び出したのです。(第289話参照)

黄金原「実は見つかったらまずいブツが

なくなっていてね。自分の机にはなかった。」



羽音々氏は少し涙ぐんでいました。



黄金原「悪いが君のデスクを探らせてもらったよ。」

羽音々「・・・。」



彼女はうつむいたまま返事をしませんでした。



黄金原「そしたら,これが見つかった。これって,

"菊"の機密情報データが入った媒体だよね。」



彼はポケットからUSBのような小型の

記録媒体を取り出し,彼女の前でちらつかせました。



羽音々「そうです。どうしてこんな

ものを貴方が持っているんですか!?

私は貴方のことが好きでした・・・。

なのにどうして・・・。今でも

信じられません・・・!?」



黄金原「そうか,君だったんだね,

これを勝手に俺の机から持ち出したのは・・・。

がっかりだ・・・。君はもっと優秀な

部下だと思っていたのにな。

まさか,最初から俺の正体に気づいていたのか。

今朝の告白は何のつもりだったんだ・・・。

俺を油断させるためか!?」



黄金原は彼女に言い寄りました。



羽音々「あっあれは・・・。本当の自分の気持ちです。」



そして,彼女は部屋を飛び出したのでした。



羽音々「なんとなくこの山まで逃げてきましたが,

結局この場所で追いつかれてしまいました。」



まさらちゃんは彼女が弱々しく

話す姿を見ていられませんでした。



「そして,あんたは彼女にこう言ったんじゃないのか?

俺のことが好きならすべての罪をかぶってくれって。」


「最低なヤローだな。」



すでに全員が,黄金原氏が闇の騎士

であると確信を持っていました。



桃瀬「残念よ・・・。あなたは優秀な仲間だと思っていた。」

青山「しかし,まさに道化のように裏では

闇組織に俺たちの情報を流していたわけか。」



二人の幹部も裏切られてしまった気持ちを

今にもぶつけたい衝動に駆られていました。



黄金原「くははははっ!?」



急に彼が笑い出しました。



黄金原「後ちょっとだったのになー・・・。」



全員が身構えました。



黄金原「そうだよ。闇の騎士(ダークナイト)は僕です。」





リク君は背中の捕虫網に手をかけました。



黄金原「しかし,まさかこんな子供に見破られることになるとは。

組織の幹部の人たちが"油断するな"といっていた理由がわかったよ。」



彼が一歩前に出ました。



黄金原「そして,君には本当にがっかり

させられた。残念な部下だったよ。」



次の瞬間,彼は隠し持っていた大きなナイフ,

ダガーで音羽々氏の背中を一突きしました。



音羽々「がはっ・・・!?」



ナイフを引き抜くと背中から大量の

血が飛び散り,彼女はそのまま倒れこみました。



「きゃぁぁぁぁ!?」

まさらちゃんはショックで意識を失いそうになりました。

倒れそうになる彼女をレオンさんが支えました。



「なっ・・・。なんてことを・・・。」

黄金原「朝は笑いをこらえるのに必死だったよ。

急に俺のことが好きだって言ってくるんだからさ。

何を考えているんだかねぇ・・・。でも,それを

利用できないかずっと考えていた。うまくいくと思ったんだが,

土壇場ですべてを台無しにしてくれた。死んで償うんだね。」



赤神「貴様!?なんてことをしてくれたんだ!?」



彼の残虐な振る舞いにリク君が・・・。



第11話 激高のファーヴル

 菊の華シリーズ 最終章
黄金原氏は隠し持っていたナイフで

羽音々氏の背中を一突きしました。



青山「今,救急車を呼んだ。山のふもとまで運ぶ。」



青山氏と百瀬氏はそれぞれ自分の部下に

指示を出して慎重に羽音々氏を運ばせました。



黄金原「無駄だよ!どうせすぐに死ぬ!」



「死ぬのはお前だ。」



気づくとリク君が黄金原氏の間合いに入っていました。



―大地一刀流 奥義 愛・地球博―





強烈な居合の一撃が黄金原氏を襲います。



ズバァァァァン!!!!!



黄金原「ゴボァァァァ!!!???」



打ちのめされた彼の体が上空に舞った時,



―大地一刀流 墜なる一撃(ファイナルショット)―





大きく振りかぶった捕虫網を上から思いっきり叩き込みます。



黄金原「ゲボァァァァ!!!???」



その一撃は脳天を直撃し,そのまま

地面にたたきつけられました。



彼は胃の内容物を全て吐きだし,転げ回り,

苦しみ,のたうちまわっています。



それは時間にしてわずか5秒足らずのことでした。



そこにいたレオンさん以外の菊の幹部は

今起きたことが一瞬わかっていませんでした。



赤神「何が起きた・・・?」



赤神さんもリク君の実力を

その目で見るのは初めてでした。



黄金原「あ・・・うっ・・・。」



よろめいて立ち上がる黄金原・・・。



―大地一刀流 神速の打突―





超速で伸びる捕虫網の先が黄金原を襲います。



彼の眉間にまるで一流スナイパーが放つ銃弾が

命中したかのような衝撃が走りました。



黄金原「グハッ・・・。」



再び彼はその場に倒れこみます。



黄金原はやっとの思いで立ち上がり,

持っていたダガーナイフを振りかざします。



「そのナイフでお前は・・・。」



リク君が力強く捕虫網を握りしめます。



「自分のことを大切に想って

くれている人を刺したのかっ!!」




黄金原のナイフがリク君の胸に届く

より先に,捕虫網が突き刺さります。



彼は強烈な勢いで背後の木まで

吹き飛んでいきました。



黄金原「あ・・・ううっ・・・。」



すでに黄金原は虫の息でした。



赤神「圧倒的だ・・・。」



と感想を漏らすと,



青山「俺は夢でも見ているのか・・・。」

桃瀬「黄金原は弱くない。それは私たちが

一番よく知っている・・・。

でも今起きていることは何・・・?」



仁王立ちで立ちつくす少年とすでに半死の状態の男が

必死にその場から逃げ出そうとしていました。



黄金原「無理だ・・・。こんな話は・・・聞いて・・・

いないぞ・・・。なんだ・・・あのガキは・・・。」



「平成のファーヴルだよ。時に俺は修羅にさえ・・・なる。」



地面にはいつく張りながら,逃げようとする

彼の背後から強烈な一撃をお見舞いしました。



―大地一刀流 闇の夜月(ムーンライトナイト)―



ボキボキボキ・・・・!!



どうやら背中のあらゆる骨が折れたようです。



リク君の戦闘能力は菊のスパイをも

圧倒するレベルだったのです。



第12話 踏みにじられた想い

 菊の華シリーズ 最終章
黄金原は背骨を折られても,

まだしぶとく立ち上がりました。



黄金原「はぁはぁ・・・。何なんだ貴様は・・・。

貴様がそんなに激高する理由は・・・なんだ・・・。」



「・・・。」



リク君は捕虫網の切っ先を彼の目の前に差し出しました。



黄金原「まさか,あの女を殺したことで

怒りが頂点に達したのか!?くはははっ!?」



「まだ死んでないよ!

今,病院に向かっているんだから!」




まさらちゃんが叫びました。



黄金原「あの女はもうダメだろ。急所を刺したはずだからな。

しかし,ホントに最初から最後まで

やっかいな女だったな・・・。はぁはぁ・・・。」



苦しそうにそう息まきます。



「何が言いたい。」



黄金原「あいつが俺に好意を抱いていたことは知っていたんだよ。

だからそれをいつか利用してやろうとじっと待っていた。

一度はうまくいったと思ったんだがな・・・。」



黄金原はもうひん死でした。



「その傷ではもう戦うのは無理だろう。

おとなしく捕まり,闇組織JFの内情についてしゃべってもらうぞ。」




黄金原「お断りだな。俺が菊の幹部として就任してから1年・・・。

はぁはぁ・・・。その間に相当の情報を組織に送っているんだ。

まもなく"菊幹部暗殺計画"は実行に移される。覚悟して・・・おくんだな。」



彼は渾身の力を込め,隠し持っていたもう1本の

ナイフをレオンさんに向かって投げつけました。



「!?」



しかし,そのナイフはリク君の

捕虫網によって弾かれました。



「しゃべりすぎだ!」



-大空一刀流 青の衝撃(ディープインパクト)-



捕虫網を巧みに使いこなし,一瞬で上空10mほどの

高さへ舞い上がり,そこから強烈な連撃を加えました。



黄金原「ぐほっ!?」



立っているのがやっとだった彼に避けられる

はずもなく,まともに全撃をくらって倒れこみました。





リク君がさらにとどめを刺そうと捕虫網を振り上げました。



「このクズ野郎・・・!!」



振り下ろした手が止まりました。



正確にはレオンさんがリク君の

腕をつかみ,制止していたのです。



「もうそこまでにしておこう。

これ以上やったら本当に死んでしまう。」


「ああ・・・。すまない・・・。」



リク君はその一言で正気を取り戻しました。



「うう・・・。」



まさらちゃんはずっと泣いていました。



「こいつはどうするんだ?」

「もちろん闇組織の幹部クラスだからね。

逮捕して色々と聞き出すつもりさ。」




赤神氏もうなずき,



赤神「そうだな。羽音々の容体も気になる。

ただちに下山しよう。」



その時,桃瀬氏が何かに気づいたようです。



桃瀬「気を付けて!私たち以外に誰かいる!」



次の瞬間,



パシュッ!パッシュ!



という音が聞こえました。



黄金原「ぐはっ・・・!?」



「なんですか,今のは!?

周りが暗くてよくわかりません!」




すでに日は落ちて,辺りは暗く,

視界がよくありませんでした。



「今のって狙撃の音だよね!?」



青山「なっ・・・。おい,黄金原が・・・。」



全員が先ほどまで意識を失って横たわっていた

黄金原を見ると,頭から血を流して死んでいました。



赤神「ばかな!?一体,何がどうなっている!?」

桃瀬「狙撃よ,彼は狙撃されて死んだ・・・。」



全員があたりを警戒し,次の狙撃に備えました。



しかし,狙撃は明らかに

黄金原氏を狙ったものでした。



赤神「緊急事態だ。すぐに県警の応援を呼ぶぞ。俺はここに残る。

お前たちは子供を連れてすぐに下山するんだ。

羽音々の容態についても後で知らせてくれ。」



「わかりました。」



各務原山にはただちに現地の警察が到着し,

赤神氏がその場に残り,現場検証に参加しました。



少年昆虫団と残りの菊の幹部たちは簡単な事情聴取をすませ,

羽音々さんが運ばれた各務原山病院へ向かいました。



手術室の前に少年昆虫団とレオンさん,桃瀬さん,青山さんが

手術中の赤いランプが消えるのをじっと待っていました。



彼女を運んだ部下の二人は,現場に駆り出されたようです。



そして,手術が終わったようです。



第13話 エピローグ

 菊の華シリーズ 最終章
手術室から一人の外科医が出てきました。



彼はこの病院の外科部長の北坂という,30代後半の長身の男性でした。





<各務原記念病院 外科部長 北坂(37)>



北坂「手術は終わりました。とりあえず一命はとりとめましたが,

予断を許さない状況なのでICUで様子を見ることになります。」



その言葉を聞いて全員が安堵しました。



「よかった,よかったよぉぉ・・・。」



抑えきれない感情が涙となって出てきました。



北坂氏は患者の移動させるためその場を離れました。



のちに判明することですが,彼の技術は相当な腕で

他県からも執刀依頼が来るほどの神の手を持つ名医でした。



外科医でありながら全身をくまなく診ることの

できる全身科医(ジェネラリスト)でもありました。



リク君はレオンさんに話しかけました。



「ねぇ,黄金原を殺したのって闇組織JFの暗殺者だよね?」

「ああ,おそらくそうだろう。桃瀬さんがこの前教えてくれた,

優秀なスナイパーがかかわっている可能性が高い。」




二人は桃瀬さんのほうを見ました。



桃瀬「この後,私も現場検証に参加するつもり

だけど,間違いなくキラーの仕業だと思うわ。」



青山「リク君といったね,君はすごいな。大人顔負けの

推理力と,戦闘能力。もはや普通の子供ではあるまい。」



青山さんはリク君をべた褒めしました。



「リク君は青山さんに褒められていいですねぇ・・・。

だぬは一瞬でも青山さんが闇の騎士じゃないか疑ってしまって

申し訳ない気持ちでいっぱいですよ。」




青山「俺が?何か怪しい行動でもとったか?」



青山さんが聞きました。



「この前楽屋にお邪魔したときに,

電話で“グレイがどう・・・”とか言っていたじゃないですか。

グレイってJFの幹部ですよね。」


「確かにその発言は気になるな。

トシも聞いていたんだろ。」




トシ君は,



「う~ん,そんなようなことを

言っていた気もするけどよく聞き取れなかった。」




青山「ああ,あれは,マネから電話がかかってきて何か

買ってきて欲しいものがあるか聞かれたから,

アールグレイが飲みたいと頼んでいただけだぞ。」



全員が一瞬固まりました。



「アールグレイって紅茶の?」

「だははははっ!?こりゃ面白い!

グレイはグレイでもアールグレイかよ!

まったく,人の会話はよく聞けよな!」




イツキ君に馬鹿にされ,



「仕方ないじゃないですか!

誰にでも聞き間違いはありますよ!」




リク君は少し浮かない顔をしています。



「どうしたんだい?」

「いや,黄金原が死んでしまったから

菊の幹部暗殺計画はどうなったんだろう。そもそも黄金原を

除いた4人の誰を狙うつもりだったんだろう。」




リク君の推理に桃瀬氏が,



桃瀬「確かに気になる・・・。もしかしたら作戦は

継続中なのかも。私たちも警戒を続けたほうがいいわね。」



こうして,黄金原が闇の騎士だと判明し,一つの疑問は

解決しましたが,まだ残されている謎も多くあります。



少年昆虫団は病院で一夜を明かし,長い夜が終わりました。



―少し遡り,キラーによる黄金原暗殺が終わった時間―



場所は,闇組織JFの本部であるツインタワー"バベル"。



その一室に,組織の幹部であるアヤと源田,

山本がテーブルをはさんで座ってしました。



アヤ「アタシの可愛い可愛い闇の騎士(ダークナイト)。

死んでしまうなんて可哀そうに。」



山本「よく言うぜ。そいつに仕込んでおいた盗聴器の内容を聞いて,

組織の全貌がバレる前にキラーに射殺命令を出したのはお前じゃねぇか。」







何やらきな臭い会話が漂ってきます。



源田「仕方あるまい。今回は平成のファーヴルと

菊の幹部どもが上手(うわて)だったということだ。」



山本「何も困ることはない。作戦は継続中だ。

多少変更した後,奴を刈り取る。」



彼は持っていた写真をテーブルに置きました。

その写真に写っていたのは・・・。



今は亡き小早川教授と一緒に

写っていたレオンさんでした。



彼らの作戦が今後どのように

実行されることになるのでしょうか。



  菊の華シリーズ 完







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