リクの少年昆虫記-VS闇組織JF-

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6篇 各務原山の交錯シリーズ 序章 第1章1~9話

第1話 プロローグ

各務原山の交錯シリーズ 序章
名古屋駅のリニアホームに二人の男が

ある人物の到着を待っていました。



彼らは菊水華と呼ばれる警察の

特殊チームに所属していました。



クールビズの格好をした中年男性の名前は

赤神といい,通称“菊”のリーダーでした。



隣にいるポロシャツと短パンで手には飲みかけの

炭酸飲料を持っている人物は翠川レオンです。



"菊"の中核を担う人物です。



しばらく待っていると,リニアが駅に到着しました。



中から白のYシャツにスラックスをはいた男が

大きなトランクケースを持って出てきました。



赤神「来たな。」



彼はその人物に声を掛けました。



髪はくせ毛で目には目やに,見た目は

やる気がなさそうな風体でした。





<警視庁組対5課 紺野 航(こんの わたる)>



「おい紺野,大丈夫か・・・。お前がここに来ているのは

特命なんだぞ。それなのにやる気がまるで感じられない!」



紺野と呼ばれる人物もまた警察の人間でした。



紺野「やる気がないように見えるのは生まれつきだ。でも大丈夫だ。

名古屋に来るのはこれで二度目だしな。長期の出張届も出してきた。」



彼は頭をワシワシとかきむしりながらそう言いました。



「ならいいんだが・・・。どうも心配だ。」



紺野氏はレオンの同期で警視庁では

捜査四課の課長を務めていました。



紺野「今回こそ,あいつの無念を晴らしてやりたい。その気持ちは俺も同じさ。

ここに来る前にあいつのフィアンセにも会ってきた。絶対に奴らを許さない。」



彼の目つきが変わりました。



あいつとは,数か月前に闇組織JFに事故死に

見せかけて殺された茶竹(さたけ)氏のことでした。



彼もまたレオンさんたちの同期だったのです。



紺野「楽しみだな,強力な助っ人っていう子供たちに会うのがよ。

本当に"あの時"の子供たちなのか?」



にやにやと不敵な笑みを浮かべています。



「この前,電話で話したことはすべて

本当だ。まぁ信じられないのも無理はないが。」



当然,強力な助っ人とは少年昆虫団,

特にリク君のことでした。



赤神「紺野,とりあえず本部の宿舎へ来てほしい。

そのあとは,翠川と例の子供たちに会い行くといい。」

紺野「わかりましたっと。」



紺野氏は菊のメンバーではありません。



しかし,同期が殺された無念を晴らすために,

名古屋への捜査を希望していました。



色々と事情があり,この時期になってようやく

捜査に参加できることになったようです。



ちなみに少し前にも一度,名古屋を訪れていましたが,

この時は短期ですぐ東京へ戻らなければならなかったようです。



彼らが駅を出ると,大きな影が地面を覆いました。



紺野「なんだ?」

赤神「ああ,これはあれだよ,あれ。」



赤神氏が上空を指さすとそこには大きな飛行船が飛んでいました。



船体には県警のマスコットキャラが描かれていました。





「警察の防犯意識キャンペーンの一環でメッセージを

船体に書いた飛行船を飛ばしてPR活動しているんだって。」



紺野「ご苦労なこった。愛知県警は色々と

市民のための活動をしているんだなー。」



一方,闇組織JFの本部がある,ツインタワー内のとある一室では・・・。



二人の人物が何やら話をしています。

一人はユニット海猫のメンバーである影(シャドー)でした。



何やら一言,二言,話し終えた後,もう一人の

人物は部屋から出て行ってしまいました。



影「これは,これは楽しくなりそうだ。クククッ・・・。」



影は栗林先生の顔に変装した状態で笑っていました。



第1話 休息

各務原山の交錯シリーズ 第1章
少年昆虫団は中野木商店街のカフェ“オーシャン”に来ていました。



一番奥の6人用の席でワイワイと

雑談しながら楽しんでいました。



時間はお昼には早い時間で,お客も少なく

なり,店員も一息つける時間帯でした。



「あ,かおるさん!追加の注文いいですかー!」



だぬちゃんが声をかけると,隣の机を

ふいていたカオルさんがやってきました。



かおる「お待たせしました。ご注文を伺いますっ!」





<カフェの店員 立花 馨(たちばな かおる)>



「かおるさんっていつみても可愛いですよねぇ!」



まさらちゃんの言葉に,



かおる「そっそんなことないですよ。

大人をあまりからかわないでくださいね。」



「トシ君が,ランチメニュー食べたいって

言っているんですが。バカですよねー,まったく。」




一番奥の窓際にいたイツキ君が,



「無理だろ・・・。」



と言うと,



かおる「店長に聞いてきますね。」



かおるさんは奥のキッチンへ戻っていきました。



「そういえば,この前ここに来た時に,レオンさんもいたよね。

あの時ちょっと反応が怪しかったし,もしかして,かおるさんに気があるのかもよ!」




まさらちゃんは年頃の女の子なので

このような恋話が大好きなのでした。



「そうかなー。レオンさんは同じ

大学の久遠さんがいるじゃん!」


「リク君―!人を見る目がないですねー。

あの人にレオンさんは似合いませんよ!」




リク君とだぬちゃんも話に乗ってきました。



「絶対にかおるさんがお似合いだよー。」

「いやいや,同じ大学なら姫色(ひいろ)さんのほうがいいんじゃないですか。

大人の魅力を感じます。清純系がお好みなら紫織さんもいいかもしれません。」




イツキ君は三人の会話を聞きながら,コーラを飲んでいました。

しかし会話の内容に興味はなく,視線はずっと窓の外の景色でした。



すると,イツキ君が耳に着けていたイヤコムに連絡が入ります。



同時にカオルさんがランチメニューを持ってきました。



手にはオーダー票とペンを持っています。



どうやら少し早い時間ですが

特別に作ってもらえるそうです。



トシ君は山盛カツカレーを注文しました。



「え?待ちあわせ時間を変更?ああ,いいけど。」



どうやら相手はレオンさんでした。



かおる「もしかして,イヤコムの相手はレオンさん?」



「みたいだね。この後,会う約束をしているんだ。」



イツキ君はイヤコムの通信を切りました。



「待ち合わせの時間を変えてほしいみたいだ。

なんでもゼミの実験で遅くなるって。しばらくイヤコムにも出られないってさ。」




かおる「そうなんですね。昨日,大学でお会いした時も忙しそうでしたもんね。

それじゃあ,トシ君!すぐに作ってもらえますからゆっくりと食べていってくださいね。」



かおるさんの笑顔にみんなは癒されました。



そうしているうちに客足も増えてかおるさんや

他の店員さんも忙しそうに働き始めました。



「ここのカツカレーうまいなぁ!!」

「良かったね,カレーがあるカフェで!」



時間に余裕ができたので,結局みんなもランチを食べることにしました。

それでもまだ時間がありましたが,店が混んできたので出ることにしました。



「待っていても暇だし,レオンさんの大学へ行こうよ!」

「そうだね,そうしよう。」



彼らは中野木大学まで歩いて向かうことにしました。



第2話 偽装

各務原山の交錯シリーズ 第1章
「かおるさんってホントに可愛いし

オシャレだよね。昨日だってすごくいい香りがしてた。

あれってたしか,“マハーノス”っていうブランドの香水だよ!」


「ふーん,そうなんだ。まぁ年頃の女性だし身だしなみには気を使うでしょ。」



まさらちゃんは得意げになって,説明を続けますが・・・。



「“マハーノス”って言うのはマリン・ハー・・・。」



リク君はまさらちゃんのオシャレ話には

ついていけず,興味を示しませんでした。





「でも,今日は香水付けてなかったみたいだね。」

「仕事中だからだろ。」



彼らは大通りの歩道を南に向かって

歩き,中野木大学へ向かっていました。



すると,リク君たちは後ろから急に声をかけられました。



みんなが振り向くとそこには一人の青年が立っていました。



その青年は単身痩躯で,朱色のサラサラなロングヘアーを

風になびかせ,まるで女性のような顔立ちの優男でした。



とても童顔で年齢はかなり若く見えました。



彼は背中に魚釣りで使う竿を入れる黒くて

大きいロッドケースを背負っていました。



しかし,服装は襟付きの半そでに動きやすい茶色の

綿パンでしたが釣りに行く格好には見えませんでした。



「綺麗な人・・・。男性・・・だよね。」



まさらちゃんは少しうっとりしていました。



「何かご用ですか?」



リク君が聞きました。



優男「道に迷ってしまったんです。この辺りは

土地勘が無いのでよければ助けて欲しいんです。」



みんなは一瞬,お互い目を合わせた後で,



「レオンさんとの待ち合わせ時間に間に合いますかね。」

「でも,この人困ってそうだよ。助けてあげようよ。」



まさらちゃんがそう言うと,



「そうだね。まだ時間もあるし,大丈夫だよ。」

「それで,どこへ行きたいんだ?」



イツキ君が青年に聞くと,



優男「えっと,二十町公園まで行きたいんだ。」



彼はポケットから地図を取り出すとみんなに見せました。



「あ,そこならそんなに遠くないよ!」



まさらちゃんはのりのりで道案内する気になっていました。



「こんな暑い時間にまだ歩くのか・・・。」



トシ君はすでにヘトヘトになっていました。



一つ隣の大通りに出て,目的の

場所まで向かうことにしました。



「・・・。」



一番後ろを歩くイツキ君が何やら考え込んでいます。



「どうかしたの?」



隣で歩いていたリク君が声をかけました。



「いや,地図で見せてもらった場所に何の用があるんだろ?」

「さぁ・・・。」



大きな交差点の信号を渡り,商店街の横をすり抜けていくとだんだんと

道が狭くなっていき,古い民家が立ち並ぶ地域となっていました。



優男「へぇ,みんなは少年昆虫団っていうんだ。

いつも色々な虫を採集しているの?」



みんなは歩きながら自分たちの

ことを話したりしていました。



「背負っているのロッドケースですよね?しかもシマオ製のメーカー品!

魚釣りの帰りですか?それにしては他の荷物がないみたいですけど。」




優男「ああ,これは借り物でね。そこへ

行って返さないといけないんだ。」



さらに歩き続けると,昼でも人通りも

減り,薄暗い雰囲気になってきました。



時々,荒れ果てた田畑や途中で中断

された工事現場などもありました。



「ホントにこっちであってるのー?」

「多分,住所と地図からするともうすぐなんだけどねぇ・・・。」



そして優男が行きたかった場所にようやく到着しました。



第3話 慟哭

各務原山の交錯シリーズ 第1章
地図に示された場所は二十町公園でした。



公園を囲むように黄,黒模様のフェンスが立っていました。



どうやら取り壊しが決まっている古い公園のようです。

優男はフェンスの入り口を開けて中に入っていきました。



優男「みんなもこっちへおいで。」



ニコっと笑う姿は愛くるしく,

まるで女性のように見えました。



「うん。せっかくだから最後まで付き合うよ。」



少年昆虫団は彼に連れられて奥のほうへ入っていきました。



「こんなところがあったんだね。」

「でもよ,こんなところに何の用があるん

だよ?待ち合わせの人もいないみたいだぞ。」




イツキ君が振り向いて尋ねると

そこには彼の姿がありませんでした。



「え?」



リク君は咄嗟に身の危険を感じて

体をねじるようにして倒れこみました。



そこには日本刀を手にした人物が

リク君に一太刀浴びせていました。



それをリク君は常人ならない運動能力で避けたのです。



「なっ・・・!?」



まさらちゃんの顔が青ざめています。



優男「よく避けられたねぇ・・・!

ちゃんと殺気を消して襲ったのに!」



彼は日本刀を自分の後ろ首にかけるよう

にして,楽しそうにそう言い放ちました。



彼のロッドケースには日本刀が入っていたのです。

これを返しに行くというのは真っ赤なウソでした。



彼は鞘をベルトに差し込み,ロッド

ケースを地面に投げ捨てました。



「ななななな・・・何のつもりですか・・・!!」



すぐ隣にいただぬちゃんは驚いて

腰を抜かしそうになっていました。



優男「さすがは平成のファーヴルっていったところだね。」



「まさか,お前・・・闇組織JFの人間かっ!!!」



リク君はすかさず背中に背負っていた

二本の捕虫網を手にしました。



体の目の前で斜めに交差させ

防御の姿勢をとっていました。



まずは相手の出方を探るときの構えです。



優男「僕の名前は・・・。」



場面は変わって闇組織JFの本部“バベル”のとある一室にて・・・



影「彼は今頃,あの子達に接触して

いるのかな。どうなるか楽しみだよ。」



影は窓から外の景色を

見ながらそう言いました。



影の隣には海猫の今村が立っていました。



今村「ふぉっふぉっ。あなたですか,彼に

平成のファーヴルの居場所を教えたのは。」



影「教えていませんよ。所在地は掴んでいませんからね。ただ,

中野木商店街をうろついていれば出会えるかも,と助言しただけです。」



影は抑揚のない声でそう答えました。



今村「彼は何をするかわかりませんよぉ。生まれついての

戦闘狂であり殺人狂ですからね。山本君と並ぶ組織の武闘派です。」

影「殺しを何より楽しむ人物・・・。

川蝉リーダーのお手並み拝見。」



場面は再び圧倒的な窮地に

陥っているリク君たち・・・。



「東條・・・だと。」





<ユニット“川蝉”リーダー 東條>



そう言うが早いか,彼は第二撃を繰り出してきました。



第4話 狂気

各務原山の交錯シリーズ 第1章
東條「さぁ,避けれるものなら避けてごらんっ!」



軽快な掛け声と共に繰り出される彼の斬撃。

彼の放つ刀さばきは疾く・・・そして重い。



リク君は二本の捕虫網で防御するのが精一杯でした。



「ヤバイ,これってヤバイですよね!」

「もう,いきなりどうなってんだよぉぉ!」



二人はパニックを起こしていました。



「落ち着け!リクは負けない!

とにかく今はレオンさんに連絡だ!」




しかし,レオンさんがイヤコムに出ません。

どうやらまだゼミの実験が終わっていないようです。



ガギギギッ・・・ギギギギッギ・・・。



リク君のすぐ目の前には本物の真剣が迫っていました。

必死に二本の捕虫網をクロスさせて攻撃をしのぎます。



それでも,勢いに押され後ろに吹き飛ばされます。



地面にたたきつけられた拍子に

額を怪我して流血してしまいました。



東條「もっと張り合ってくれないとつまらないよ。僕は

とにかく戦うことが大好きなんだ。そして殺しもね!」



彼がそう言いながら不気味に笑う姿は

「恐ろしい」の一言に尽きました。



「一体何なんだ!なんでリクを襲う!」



東條は振り向いて,



東條「安心して。みんなちゃんと殺してあげるから!

組織に頼めば“行方不明”で処理してもらえるから。」



「そういうこと言っているんじゃないですよ!!」



だぬちゃんも震えながら指摘します。



東條「だって君たちって少年昆虫団でしょ。山本さんや

源田さんが組織の脅威になるって気にしていた!」



彼こそ闇組織JF,川蝉のユニットリーダーで

武闘派と恐れられている人物だったのです。



東條「だから僕が先に殺して手柄を頂いちゃおっ

かなと!山本さんが困る顔,見てみたいんだ!」



一足飛びでリク君に向かってきます。



「リク君~!!」



まさらちゃんが悲鳴に近い声で叫びます。



「うぉぉぉぉ!!!」



リク君の心に闘志が湧いてきました。



―大地二刀流 薔薇十字(ローゼンクロイツ)―



この技は頭部への面打ちと横からの

胴打ちを同時に放つ必殺技です。



ガギギギギィィィィィッ!!!



しかし東條は刀の先で上からの攻撃を防ぎ,

柄の部分で横からの攻撃を防いで見せました。



「リク君の攻撃がっ・・・!!」



東條「面白い技だけど,まだまだ足りないね!」



リク君は後ろに下がり,間合いを取って相手の出方を待ちました。



東條「お礼に僕も必殺技を見せてあげるよ。」




彼は刀を突きのように構え,半身になりました。



東條「東南アジアのゲリラ部隊にいた時に,

この技で何人も突き殺したのはいい思い出だなぁ。」



彼は急に遠い目になりました。過去の経験を

思い出して感傷に浸っているようです。



リク君はその一瞬の隙を見逃しませんでした。



第5話 刹那

各務原山の交錯シリーズ 第1章
東條が見せた一瞬の隙をリク君は見逃しませんでした。



―大空一刀流 青の衝撃(ディープインパクト)―



例のごとく一瞬で視界から消え,上空

から強力な一撃を振りかざします。



東條「なんと!これはすごいっ!」



さすがの東條も驚いていました。



ドォンッ!!!



しかし,リク君の攻撃は地面を叩いていました。



衝撃で周りに土が飛び散り,

その場が大きくめり込んでいました。



「避けられた・・・!?」

「(こいつ・・・疾い・・・!)」



再び背中から捕虫網"月読"を取り出します。

だが,目の前にその男はいませんでした。



「はっ・・・!」



後ろからの気配に気づいて振り返った時,

強烈な斬撃がリク君を襲っていました。



ザクッ!!



「ぐぁぁぁぁ!!」



肩先に激痛が走ります。



東條「凄いな!完全に不意を突いて,

今の一撃で殺したと思ったのに。」



リク君は超人的な反応速度で致命傷をかわしていました。

しかし,右肩からは血がしたたり落ちていました。



ポタ・・・ポタ・・・ポタ。



「どうしよっ・・・。リク君が

このままじゃ死んじゃうよ。」




まさらちゃんはトシ君のTシャツに

しがみつき,泣きそうになっていました。



「・・・。」



リク君はめげずに反撃に出ます。



しかし,どの攻撃も当たること

なく,受けられるかかわされます。



「はぁはぁ・・・。なんて,迅さだ・・・。」



ドンッ!!



東條が再びリク君の肢体めがけて切っ先を放ちます。



「ぐっ・・・!(迅さと重さを兼ね備えた攻撃・・・。)」



「まさに刹那のように動く男だ・・・。」



イツキ君達はこの戦いをただ傍観(ぼうかん)するしかありませんでした。



東條が先ほどの構えを取ります。



次の瞬間,間髪入れずに向かってきました。



今度は彼の必殺技が放たれました。



東條「さぁ,一緒に悪夢を見よう!」



―悪夢の最大破局(ナイトメア・カタストロフィ)―



それは強力な一点への突きでした。



刀の長さに対して不釣り合いなほど

長く伸びた衝撃が相手を突き刺します。



まるで世界最後の破局の日に訪れると

言われる大きな彗星の尾のようでした。



「グワワァァァァァァァ!!!!!」



第6話 余波

各務原山の交錯シリーズ 第1章
東條の放った必殺技の一つ,“悪夢の最大破局”は神速

ともいえる迅さで岩をも砕く威力の突きでした。



「グワワァァァァァァァ!!!!!」



リク君は5mほど吹き飛ばされ公園に生えていた

樹木に背中を打ち付けてその場に倒れこみました。



リク君は直撃を受けたかと思ったのですが,生きていました。



東條「へぇ,君ってなかなか仲間想いなんだね!」



東條の後ろにはトシ君がしがみついていました。



「リク君を・・・死なせは・・・しないぞ!」

「トシ君!!何をやっているんですかっ!?」



だぬちゃんが叫びました。



東條が大きく力を入れると,トシ君は

その迫力に気圧されて吹き飛びました。



「グヘッ・・・。」

「お前,死ぬ気か!」



イツキ君が激しく叱責すると,



「ごめんよぉぉ。いてもたっても

いられなくて,なんか体が勝手に動いて!」


「だが・・・よくやった。今のお前の行動は

もしかして日本を救ったのかもしれん・・・。」




イツキ君はトシ君の肩を叩き,

精一杯の言葉でねぎらいました。



「うぐっ・・・。うぐっ・・・。」

「まさら,トシは強くなったぞ。」



今度はまさらちゃんに話しかけました。



「え・・?」



涙をぬぐって,イツキ君を見ました。



「今度は俺たちが強くならく

ちゃだめだ。いつもリクに任せきりだ。」




まさらちゃんは涙目のまま強くうなずきました。



「うん・・・。もう泣かない!リク君を助ける!」

「だぬもがんばりますよ!」



4人は少し離れた位置に立っていた東條に大声で叫びました。



「おい,俺と勝負しろ!」





イツキ君には勝ち目がないことはわかっていました。



そもそもの力量差,そしてイツキ君に

は戦える武器を持っていませんでした。



それでもリク君を救うためには

この男を止める必要がありました。



「ぐ・・・だめ・・・だ・・・。逃げろ・・・。

あいつは強い・・・。みんな死んでしまう・・・。」




リク君は山犬の山本と名駅の地下ですれ違った

時よりもさらに大きな恐怖を感じていました。



これほどまでに東條という男が強かった

とは想像することができませんでした。



東條「殺す順番が変わっちゃうけど,まぁいいか!!」



ためらいもなく人を殺してきた目。



笑顔の奥には冷徹な殺人者の顔が垣間見えました。



リク君は必至に体を起き上がらせます。



しかし,リク君と東條の距離よりも東條とイツキ君の

距離の方が近く,このままでは間に合いません。



「ぐおおおおおっ!!!」



リク君はイチかバチか,二本の捕虫網を大きく振り回しました。



「頼む,間に合ってくれー!!」



東條はじっと構えるイツキ君の気持ちをいたぶるように

一歩一歩近づいて恐怖心を植え付けていきました。



その時です。

彼の髪が少し揺れました。



何かの気配を感じたのか,振り向いて

みましたが何もありませんでした。



東條「(気のせいかな・・・。)」



再びイツキ君に近づこうとすると・・・。



背中に大きな衝撃を受けて,思わず

態勢を崩してしまいました。



一体,何が起きたのか・・・。



第7話 背水

各務原山の交錯シリーズ 第1章
東條は背中に大きな力を加えられ,体勢を崩しました。



そこには10mほど離れた場所に

リク君が瀕死の状態で立っていました。



東條「まさか,今のは君が?」



「はぁはぁ・・・。やっぱり,

うまくできないか・・・。」




リク君はどうやら今まで使った

ことのない技を放ったようです。



東條「ちょっとびっくりしちゃったけど,

全然,たいしたことない技だね!」



「ほっとけ・・・。まだ未完成なんだよ。

大地・・・大空・・・そして・・・。」




リク君は満身創痍ながら天照を

東條めがけて伸ばしました。



―大地一刀流 神速の打突―



東條はなんなくかわしますが,彼と

イツキ君を離すことに成功します。



「リク!大丈夫なのか!?」



イツキ君が心配しますが,



「ありがとう,みんな!オレは

まだ戦える!絶対に勝つ!!」




リク君に再び闘志が戻ってきました。



二人は間合いを取り,向かい合い

ながら廃グラウンドを駆けています。



東條「君って楽しいね!こんなに楽しいのは中東での

ゲリラ戦の時に一人で百人斬りをした以来かも!」



「このクソ殺人鬼めっ!!!」



リク君は話を聞いているうちに

怒りがこみ上げてきました。



東條「何か誤解をしているようだけど,戦争ってそういう

ものなんだよ!僕はそこに楽しみを見出しているだけさ!」



一足飛びでリク君に襲い掛かってきますが,

必死で間合いを取り,攻撃を避けます。





東條「少しは僕の攻撃に目が慣れてきたみたい

だね。じゃあ,もっとスピードをあげるよっ!」



「何っ!?」



リク君が瞬きをした一瞬の間に視界から彼が消えました。

気づくと,真上から真剣を両手に持ち,振りかざしてきました。



辛うじて攻撃をかわしますがそれが精一杯でした。



イツキ君たちはそれぞれができる

ことをしようとしていました。



まさらちゃんとだぬちゃんはレオンさんに

何とか連絡を取ろうとしていました。



イツキ君とトシ君はリク君がまた倒れこんだ時に,いつでも

助けに入れるようにタイミングを見計らっていました。



そして一途の望みでリク君が

東條に勝つことを願っていました。



しかし,現実は酷でした。



リク君はグラウンドの端まで

追い込まれ,まさに背水の陣でした。



東條「よく,ここまでがんばったよ!

実は僕ってかなり強いんだよ!」



「ああ・・・だろうね・・・。。」



リク君はグラウンドの端にある大きなクヌギ

の木を背にしてもたれかかっていました。



東條「こう見えて組織では一番強いからね!」



「え・・・!?なんだと・・・!?」



リク君はその言葉を聞いて,驚きを隠せませんでした。



第8話 悪夢

各務原山の交錯シリーズ 第1章
昆虫団の4人はリク君の元へ駆け寄りました。



東條も襲いかかってきませんでした。



どうせ殺すならまとまっていた方が

やりやすいと思ったのでしょうか。



「今,こいつなんて言った・・・?自分が一番強い・・・?」

「そんな,御前が一番強いんじゃないんですか・・・!?」



だぬちゃんが御前という名を出すと,

東條は急に大声で笑いだしました。



東條「アハハハハ!ウソ,ウソ!正直に言うと悔しい

けど組織で僕より確実に強い人は・・・二人いるよ。」



「一人は御前として,もう一人は山犬の山本・・・か!?」



リク君が問いただすと,東條は,



東條「あの人とは戦ったことはないけど,僕と互角か

僕の方がちょっと強いと思うんだけどなぁ!」

「(山本じゃない!?こいつより強い

やつが組織内に二人もいるのか!?)」




リク君は渾身の力を振り絞り,構えを取りました。



東條「ま,あくまで僕の主観ですから!キラーさんも

きっと自分の方が強いと絶対に思っているでしょうし!

それに直属護衛の“あの四人達”も・・・。」

「冥界の悪魔(キラー),直属護衛の四人達・・・?

どいつもこいつも化け物みたいに強いってわけか。」




東條は標的をリク君に定めなおしました。



東條「時間稼ぎのおしゃべりはここまで。

僕の愛刀“ナイト・メア”で血祭りにしてあげるよ!」



さらに超人的な速度で間合いを

つめて斬りかかってきました。



リク君は瀕死の状態で,相手の

攻撃を受けることが精一杯でした。



東條「やるね!」



しかし,彼の第二撃,第三撃が

波状攻撃のように繰り出されます。



「おい,東條!!」



イツキ君が戦っている二人の後ろから叫びながら声をかけます。



東條「なんだい?昆虫団の・・・誰かさん。今,

いいところなんだから邪魔しちゃだめだよ!」


「俺の名前はイツキだ!覚えておけ!」



イツキ君が虚勢を張ります。



「御前は・・・御前はどんな

奴なんだ!お前たちの目的は何だ!」




東條は手を止めました。



リク君はすかさず,後ろに下がって間合いを取り直します。



「俺はこう見えて,お前たちが持っている

ノアの書,研究書を読んだことがある。」




イツキ君はとにかく時間を稼ごうと,何か話題を探しました。



東條「へぇ,あれを読んだんだ。すごいね!

僕にはちんぷんかんぷんだったよ!」



東條はイツキ君に愛刀を向けます。



いつの間にか彼の立っている位置はリク君と

イツキ君のちょうど真ん中になっていました。



挟み撃ちのような状態になっている

にも関わらず極めて冷静でした。



東條「組織の目的・・・!勝手にしゃべると色んな人に怒られ

ちゃうからねぇ!でも何も知らずに死ぬのも可愛そうかなぁ!」



彼は少し考えるしぐさをして,



東條「じゃあ,ヒントだけ。・・・―,―・・・ってことかな。」

「どういうことですか!?全然わからない

んですけど!!分裂!?統一!?」






だぬちゃんが思わず声を荒げました。



東條「答えはあの世で考えてね!」



彼は大きく振りかぶり,隙のない構えを取りました。



東條「もう一つの必殺技で今度こそ,殺してあげるよ!」



―悪夢の瞬間(ナイトメア・タイム)―



攻撃を向けられたリク君は背筋が

凍るような殺気を感じました。



東條は超攻撃的な迅さで突進してきました。



リク君にはすでに東條の攻撃を避ける

だけの力は残っていませんでした。



東條「これで死なせてあげるよ!」



東條は左から真横に切るような剣閃で斬りかかってきました。



ガキィィィィン!!!



東條の攻撃は何か別の金属に当たり,防がれました。



どこからか投げられた1mほどの工事用鉄パイプが地面にささり,

そのパイプが東條の剣閃からリク君の身を守ってくれたのです。



東條は思わず投げた人物に目を向けました。



その人物とは・・・。



第9話 交錯

各務原山の交錯シリーズ 第1章
リク君のピンチを救ってくれたのは・・・。



東條「あらら,せっかくいいところ

だったのに!今日はよく邪魔が入るなぁ!」



彼の向けた視線の先には・・・。



「遅くなってすまない。」







レオンさんが立っていました。



その横には同期の紺野さんも一緒にいました。



紺野「おいおい,こりゃどういうこった・・・。」



彼は少年昆虫団の元へ駆けつけました。



「・・・。誰だ・・・!?」

「彼の自己紹介はあとにしよう。

今はこの場を乗り切ることが大事だ。」




レオンさんはリク君の元へ

駆けつけ,彼を抱きかかえました。



「すまない。まさかこんなことになっているとは。」

「気を・・・付けて・・・。こいつ,めちゃくちゃ強い・・・。」



リク君はやっとのことで声を振り絞りました。



「ああ,知っているよ。戦ったことがあるからね。」





みんなはそれを聞いてびっくりしました。



「え!?この人と戦ったことあるの!?」



トシ君は思わず聞き直してしまいました。



「こいつの名前はJFのユニットリーダー,東條・・・。」



東條「誰かと思えば,貴方ですか,小早川さん!各務原の

一件以来ですね。あの時の決着でもつけに来ました?」



東條は右手に持っていた刀を

下にさげて構えを解きました。



ただ,その姿に隙は全くありませんでした。



紺野「やっかいな奴にはちあったな。」



紺野さんは4人を守るように立っていました。



東條「ちなみに貴方のお父さんを殺したのは

山本さんですから!僕は関係ないですからね!」



ヘラヘラと笑いながらしゃべる姿に,



「誰だろうと関係ない!お前たちは全員潰す!」



父親のことに触れられ,彼は

いつも以上に激昂していました。



「レオンさん,教えてくれ。こいつは一体・・・。

レオンさんがこいつと戦った時のことも知りたい。」




リク君は多少,体が回復したようで,

自分の力で立つことができました。



東條「せっかくですから教えてあげようか!

冥途の土産は多い方がいいでしょ!」

「冥途の土産にするつもりはないが,リク君たちも

あの時のことを知っておいた方がいいと思う。」




レオンさんは東條が攻撃してこないか警戒しなが

らも彼と戦った一件について話し始めました。



「もしかして,各務原山でのできごとに

ついてか!?確か俺たちも山犬と遭遇したぞ!」


「そうだったね。前に聞いた時,実は驚いていたんだ。まさか

あの時,赤神さんが見つけた子供たちがみんなだったとはね。」




なんと,赤神氏は各務原山でリク君たちを目撃していたのでした。



東條「あの日の僕たちの動きについても教えてあげるよ!」



菊の人間,闇組織JFの人間,そして少年昆虫団が交わった

各務原山での一件の全てがここで明らかとなるようです。



 各務原山の交錯シリーズ ~第1章~ 完





6篇 各務原山の交錯シリーズ 第2章1~8話

第1話 それぞれの前哨戦 前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
7月26日 岐阜県 各務原山



岐阜県各務原市と愛知県の境に各務原山

(かかみがはらやま)という山がありました。





<各務原山全体図>



リク君たちが黄金原や影と対峙した広場は,

東ふもとを小一時間ほど登ったところにありますが,

この地図では省略してあります。(75話参照) (291話参照)



二つのふもとから登頂が可能で西ふもとには

西山道,東ふもとには東山道があります。



それぞれのふもとと中央にも駐車場があります。

ただし中央付近から登る山道はありませんでした。



西山道は道幅も広く,勾配も緩やかで登りやすく,

展望台から山頂までつながっています。



一方で東山道は分岐点で展望台と山頂の道に分かれ,

中山道を進むと展望台へ到着します。



勾配もきつく登りにくいのですが,

クヌギやコナラの木が多く生えていて,

昆虫採集には適しています。



また,山道以外に多くの獣道が存在し,

それらが複雑に入り組んで山道につながっています。



今回ここで起きた様々な出来事はこの獣道が,

ポイントになっていたのでした・・・。



菊の赤神氏とレオンさん,そして急遽東京からやってきた同期の紺野氏は,

まだ日が高い時間からこの山に来ていました。



この場所で今日,闇組織JFが何かの作戦を実行するかもしれない,

ならばそれを機に多くの幹部達をここで逮捕するつもりでした。



しかし,極秘任務のためあくまで三人という少人数で,

臨むことになっていました。



18:30 各務原山 山頂





晴れていれば山頂から見下ろす景色は木曽川を一望でき,

その向こうには猫山という地名の街並みが広がっていました。



しかし天候は悪く,空は薄暗くなり,

町の明かりがポツポツとひかり始めていました。



三人は山頂で警戒しながら身を隠していました。



すでに一般客や登山者は下山し始め,

人気(ひとけ)も少なくなっていました。



赤神氏が少し不安になっていると,

その様子を見かねたレオンさんが声をかけました。



「奴らはきっときます。作戦は成功します。」



赤神「そうだな。一網打尽にしてやる。

残念なのは青山たちが間に合わないことだな。」



当時はまだ,全員が集結することは叶っていませんでした。



赤神「まったく,上の連中は何をもたついているんだかなぁ・・・。

“室江さん”も人が悪い・・・。」

「あ,でも青山さんは少し前まで各務原にいたみたいですよ。

なんでも古い友人に会う用事があるとかで・・・。」




レオンさんが赤神氏にそう言いました。



赤神「何?そうだったのか・・・。」



赤神氏はタイミングがずれてしまったことを少し悔やみました。



紺野「じゃあ,そろそろそれぞれの持ち場につきましょうか。」



紺野氏は一足早く西山道を降りていきました。



赤神「常にイヤコムはONに。何かあったら逐一報告を頼む。」



赤神氏は山頂にて待機し,紺野氏は展望台へ,

レオンさんは東山道の来た道を戻り,

獣道へ入り,山の中腹で待機することになっていました。





彼らがJFの作戦を知りえたのは灰庭さんから,

レオンさんへ情報のリークがあったからでした。



しかし,この時はまだ情報源は赤神氏には知らせず,

可能性があるという言い方で濁していました。



また,リク君たちが廃公園でこの話を聞いている際も,

その場に東條がいたので,彼らが各務原山に来て,

待ち伏せることができた理由については語りませんでした。



この時点で時刻は18:40を過ぎていました。



リク君たちはキングの店長の車で各務原山に向かっていました。



レオンさんと知り合う前はよく伊藤店長に,

あちこち連れて行ってもらっていたようです。



ただし,店長は山には入らず,

ふもとの漫画喫茶で時間をつぶしていました。



仕事が終わった後,山を登って昆虫採集をする気力はなかったようです。



ちなみに少年昆虫団の到着は,時系列的にはもう少し後です。

リク君たちがこの山に到着するのは19:30でした。



一方,バベルで事前に打ち合わせを行い,山犬,海猫,川蝉の3ユニットによる,

"漆黒の金剛石合同捕獲作戦"は実施させることになりました。



作戦コードは“BD”と名付けられていました。



藪蛇と森熊は支援に回ることになっていました。



アヤは部下であるマヤという女性を現場に送り込み,

現場の様子を本部へ報告する役割を担っていました。



源田は支援部隊として精鋭部隊の梟(フクロウ)と鶴(ツル),

雉(キジ),鳶(サギ)の4小隊を現場へ派遣しました。



さらに直属の部下である暗殺のプロ,

冥界の悪魔(キラー)も現場に向かわせました。



バベルから支援に専念する,源田とアヤ。



指令本部が置かれた一室にて・・・。



源田「今回の作戦で“必ず漆黒の金剛石を見つけよ”との“勅命”だ。」

アヤ「あら,御前もせっかちねぇ・・・。」




アヤは源田の隣へやってきてそう言いました。

しかし,彼は視線をアヤに合わせようとはしません。



アヤ「作戦は現場に任せておいて,

アタシ達はもっと楽しいことしましょうよ。」



アヤの手にはワイングラスを持っていました。

どうやらすでに飲んでいるようです。



源田「貴様はもう下がっていろ。ここは俺が仕切る。」



源田はアヤの不真面目さに,

愛想を尽かせている様子でした。



アヤ「アタシとダンスホールで踊る気・・・ないのかしら?」

源田「ない。作戦の邪魔だ,消えろ。」



源田ははらわたが煮えくり返るほど,激高していました。



アヤ「だからモテないのよ!!」



彼女はもはや毎度おなじみの捨て台詞をはきます。



アヤ「つまらない男!それにアタシたちが何かしなくても成功するわ。

3ユニットの幹部がそろっているのよ。それにマヤもいるんだし。」



源田はようやく冷静になり,



源田「油断は禁物だ。我々の邪魔をするために,

“あの連中”が刺客を放った可能性がある。」



と,言いました。



源田の表情は終始険しいままでした。

仕方なく,アヤは部屋を出て,

どこか行ってしまいました。



第2話 それぞれの前哨戦 中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
闇組織JFの作戦開始は20:00となっていました。



集合場所は西ふもとです。



しかし,この時間よりも早く到着したユニットがありました。



今村率いる海猫と東條率いる川蝉でした。



部下の運転する車の,

後部座席の中心に座っている男こそ,

川蝉の東條でした。



そこが彼の特等席だったのです。



車は19:00に到着し,すぐに登山の準備しました。

準備を手早く済ませ,西山道へ入りました。



少し遅れて,19:30に海猫が到着しました。



なぜこのようになったかと言えば,

彼らは直前までそれぞれの任務を遂行しており,

現地集合となっていたのです。



しかし,東條は彼らよりも先に漆黒の金剛石を見つけるために,

早く到着して山道へ入っていったのです。



一方の今村氏は作戦開始時間よりも早く到着しましたが,

ふもとにて定刻まで待つことにしました。



ちなみに東條は早く到着したことを悟られないように少し離れた場所に車を止め,

歩いて西ふもとまでやってくるという徹底ぶりでした。



19:00 各務原山 西ふもと





東條「さて,登るよ。まずは展望台を目指す!」



東條は二人の部下に指示を出しました。

荷物持ちは彼らの仕事です。



東條はお気に入りの某大陸半島の民族衣装は身に着けず,

黒いテンガロハットと黒のコートを身にまとっていましたが,

その下は動きやすい格好をしていました。



ただし,腰には日本刀を下げていました。



この時間帯なら一般登山者の立ち入りは禁止されているので,

見られる心配はないと考えていたようです。



東條の部下は二人とも30半ばの男で,

名前をそれぞれ木戸と佐藤と言いました。



佐藤と呼ばれる男はやせ細っていて,

いかにも気弱そうで雰囲気は山犬の古賀に似ていました。





<ユニット川蝉・準幹部 佐藤>



もう一人の木戸という人物は太った体型で,

黒い丸ぶちの眼鏡をかけ,いかにも能天気なパワータイプに見えました。





<ユニット川蝉・準幹部 木戸>



木戸「東條さん,ホントにこの山登るんですかぁ・・・。しんどいっす!」



木戸はたくさんの荷物を持たされたので,

登る前から不満を言っています。



顔には大量の汗もかいています。

どうやら極度の暑がりと汗かきな体質のようです。



東條「文句言うならここで殺して置いてくよ!」



東條は笑顔でそう言いました。



佐藤「木戸さん,行きましょう。ホントに殺す気ですよ・・・。」



隣にいた佐藤が小さい声で言いました。



木戸「行きますよ!行きます!」



同時刻,バベルの本部では・・・。



海猫よりあと30分ほどで到着するという連絡は入りましたが,

東條から到着したという報告はありませんでした。



源田「今回の作戦で漆黒の金剛石を再発見し,軍医に渡す。」



本部は学校の教室二クラス分ほどの広さになっており,

壁際には多くのモニターが並んでいました。



手前には連絡用の通信機なども置いてあり,

中央部には各務原山の地形図がありました。



数十名の部下がモニターや機器を操作し,

作戦開始に備えていました。



彼は指令用の座席につき,

作戦開始の時間を待ちました。



アヤは先ほどまでここにいましたが,

どこかへ行ってしまいました。



代わりに入ってきたのが石井軍医でした。



石井「頼むよ。私の研究が完成するかどうかは,

君たち次第なんだからね。」



源田「わかっています。ご安心を。調査の結果,

高確率であの山に存在しています。」



源田は自信ありげに答えました。



石井「何せ,御前の“大望”を叶えるためには,

ワシの研究が絶対に必要なんだからねぇ。」



彼はキヒヒヒ・・・と不気味に笑いました。



石井「この特等席で作戦の成り行きを見せてもらうことにするよ。

山本がヘマでもしたら蔑(さげす)んでやるとしよう。」



彼はアヤが座るはずの指令用のひじ掛けのついた,

豪華な飾りのついた木製の席にどかっと腰を下ろしました。



第3話 それぞれの前哨戦 後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 中央ふもと 19:00



東條が到着したのと同時刻,冥界の悪魔(キラー)と,

源田の指揮下にある精鋭部隊,

藪蛇のマヤという女性が数台のバンに乗って到着しました。



この場所には獣道はあっても山道がありませんでしたが,駐車場があり,

その両側からそれぞれのふもとにある駐車場に歩いて行くことができました。



このメンバーはそれぞれのユニットに何かあった場合,

東西どちらにもすぐに駆けつけられるように,

この場所で待機するように命じられていました。



山根「キラー様。全ての準備が整いました。いつでも出動できます。」





<“梟”のリーダー 山根>



梟のリーダーである山根はキラーに報告をしました。



冥界の悪魔「ご苦労様。でも我々の仕事は彼らに何かあったら動く。

何もなければ作戦終了まで暇をつぶすだけ。」



三井「はっ!承知しました。しかし何かあれば,

我々の力を思う存分お見せする次第であります!」





<“鳶”のリーダー 三井>



山根の隣でタバコを吸っていた,

三井という鳶(とび)のリーダーが,

大きな声で威勢よく返事をしました。



雉(キジ)のリーダーである“刈谷”と鶴(ツル)のリーダー“牛尾”は,

作戦に向けての最終確認をしていました。





<“鶴”のリーダー 牛尾>



ちなみに精鋭部隊“鶴”は後に,イツキ君誘拐事件の時に,

イツキ君が逃げ出さないように監視していた部隊です。(第129話参照)



結局,イツキ君とレオンさんに倒されてしまうわけですが・・・。



“雉”は後のキャンプ場暗殺計画で挟み撃ちを命じられ,

レオンさんに全滅させられた部隊でした。





<“雉”のリーダー 刈谷>



さらに組織が放った火による山火事に巻き込まれ,

全員が死亡するという運命が待っています・・・。(第357話参照)



冥界の悪魔「そんなに頑張らなくても,何も起きないよ。きっと・・・ね。」



このやりとりを藪蛇のマヤという人物が見ていました。



彼女はショートカットの黒髪で目つきが鋭く,

身長は170センチを超えていました。





<ユニット藪蛇・準幹部 マヤ>



何らかの格闘技を習っているようで引き締まった躰をしていました。

彼女は一言も発することなく,本部からの指令を待っていました。



各務原山 西ふもと 19:30



海猫の三人が集合場所に到着しました。





牟田は車から降りるなり,



牟田「少し,早く到着しましたね。」



と言うと,



今村「ふぉっふぉっ。他のユニットはまだ来ていないようですね。」



と,言いながら辺りを確認していました。



実はすでに川蝉は入山していたのですが気づいていませんでした。



一番最後に助手席から山下が降りてきて,



山下「用意はできています。いつでもいけますよ。」

今村「しばし,待ちましょう。果報は寝て待て,ですよ・・・。」



各務原山 東ふもと 20:00



駐車場に一台の車が到着しました。



しばらくすると,山犬のメンバーが,

電灯の明かりに照らされながら降りてきました。



南雲「時間ギリギリになってしまいましたね。」

古賀「山本さん,ここは作戦の集合場所とは違いますけど本当にいいんですか?」



古賀が山本に聞くと,



山本「かまわねぇ。同じ道をみんなで仲良くなんて無能のやることだ。」

南雲「そういえば,先ほどから本部への連絡がつながらないんですが・・・。」



南雲は到着した時に,本部へ連絡を入れたのですが,

つながらず,今一度試してみたところでした。



山本「故障だろう。イヤコムが通じるなら問題ない。」



未来通信機器"イヤコム"と通常の無線は別の構造でできているので,

遠距離の無線はだめでもイヤコムだけはつながる,

という現象はあり得るのです。



彼らは特に問題にすることもなく東山道へと入っていきました。



―遡ること半日前―



オレンジ色の髪をした人物がこの山のふもとに立っていました。

まるで獅子のような髪を後ろに束ねたその人物は山へと入っていきました。





背中には大きなギターケースを背負っていましたが,

中身はライフル銃とショットガンなどの銃火器でした。



彼は闇組織JFの人間を殺害するために派遣された暗殺者だったのです。



彼を派遣した団体は,オランダの製薬会社が

闇世界で牛耳る"ダーストニス"でした。



この企業は表向きは巨大な財閥企業でしたが,

裏では欧州のマフィアを牛耳る巨大な悪の組織でした。



彼らは闇組織JFの存在と彼らが行っている闇家業に薄っすらと気づいており,

日本での勢力を伸ばすため,JFを壊滅または屈服させようと企んでいました。



そのために日本に派遣されてきたのが,

伝説の暗殺者,マコト・セルジュという人物でした。



年齢,国籍,本名,すべて不明だとされています。



愛用の“レジェンド・マスター”という英国製の狙撃銃を使い,

多くの要人や指導者を暗殺してきた経験を持っていました。



今回は,闇組織JFの幹部がこの山に入ると

いう情報をつかみ,潜入を開始していました。



セルジュ「・・・。」



いよいよ,この各務原山で少年昆虫団,菊水華,山犬,海猫,川蝉,

冥界の悪魔&精鋭部隊,暗殺者の思惑が交錯する時がやってくるのです。



第4話 少年昆虫団パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
東ふもとから少し進んだ山道にて 19:40





少年昆虫団は曇天模様の空の下,昆虫採集に励んでいました。



やる気があるのはリク君のみで他のメンバーはやる気がなく,

特にだぬちゃんは天気を心配していました。



「この後,雨が降るようでしたよ。」



だぬちゃんの言葉が茂みの中にむなしく消えていきました。



彼らは,各務原山の東ふもとから入り,

10分ほど進んだ場所を歩いていました。



めぼしい木を探してみますがなかなかカブクワには出会えません。



まさらちゃんは立ち止まって水筒に入っていたお茶を飲みます。

リク君はその様子を見て,その場で少し休憩することにしました。





まさらちゃんが休憩中にふと,



「漆黒の金剛石について何かわかった?」



と,リク君に聞きました。



当時はまだノアの書も手に入れておらず,

彼らにとってはわからないことだらけでした。



リク君は自分の考えを説明ました。



しかし,その考察は今では間違っていたことがわかっています。



「しっ!誰かいるぞ!?」



イツキ君はその場にかがんで身を隠し,

みんなにも同じ姿勢をとるように手で合図しました。



茂みの向こうを走っている影は東條率いる川蝉でした。



彼も黒い服に帽子をかぶっていたので,イツキ君は以前,

遭遇した山本だと勘違いしたようです。



何か急いでいるようですぐに消えていきました。

結局,彼らの姿は一番後ろを歩いていたイツキ君しか見ていません。



「虫も怪しい人も怖いよぉ・・・。」



遠くで雷の音が聞こえます。



「まだ大丈夫だな。雷の音はかなり遠い。」



リク君は安全を確認すると先へと進み始めました。



各務原山 分岐点到着 20:10





「あれ?これってどっちに行くんだっけ?」



まさらちゃんが分岐点に立っている

案内板を見て首をかしげました。



「あれ?案内板が変な風に見えますよ・・・。」



実はだぬちゃんは疲労で目の前の案内板が,

しっかりと見えてなかったようです。



本物の掲示板はこのようになっていたのです。





<本物の案内板>





<だぬちゃんが見ていた幻覚の案内板>



「どっちでもいいだろう。

さっさと採集して終わらせよう。」




イツキ君もだぬちゃん同様に早く帰りたがっています。



理由は雨が降りそうで蒸し暑く,

少しでも早く近くの温泉に入りたかったからです。



「あれ?この立札の裏にも細い道がありますよ?獣道っていうんですか。

良く見ると案内板にも書いてありますね。」




実はこの分岐点にはもう一つ細い獣道があったのです。



「そんな細くて狭い道なんか通りたくない!」



結局,東山道を通り,山頂を目指すことに決まりました。

採集をしながらどんどんと山道を進んでいきました。



各務原山 山頂手前 20:45



さすがに勾配がきつく,疲労が出てきたので,

もう一度だけ休憩することにしました。



「山頂まで行けばゆっくり休めるのに~!」



リク君は不満そうでしたが,

まさらちゃんとトシ君の抗議は受け入れられました。



「もう帰りましょうよ~!」



だぬちゃんはここまできても撤退を要求していました。



だぬちゃんが泣き言を言っていると,

山道から誰かが歩いてくる気配がしました。



これが彼らと二回目の遭遇となるのでした・・・。



第5話 少年昆虫団パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 東山道 山頂手前 21:00





少年昆虫団は山頂手前の少し広くなった山道でそれぞれが

腰を下ろして15分ほど休憩することにしました。



そして休憩を終えようとした時・・・。

ユニット山犬のメンバーが目の前に現れました。



山本「久しぶりだな,小僧ども。」





リク君はすぐに身の危険を感じ,

手に持っていた捕虫網を構えました。



しかし,このアミは天照(アマテラス)と月読(ツクヨミ)ではなく,

カブクワキングで購入した少し丈夫なただのアミでした。



彼の技に耐えることはできないのですが,

リク君はそれを覚悟で構えたのです。



「お前達は・・・!カブクワを大量に殺した連中!」



少年昆虫団は彼らのことを“漆黒の追跡者”と名付け,

警戒していました。



今となっては漆黒の金剛石が組織の手に入ったため,

この名称は不釣り合いなのですが,

彼らはまだその事実を知りません。



山本は最初に遭遇した時に気がかかりだったことを思い出し,

こちらの道を選んで少年昆虫団を追ってきたのです。



山本「まさか,また出会えるとはな。神に感謝だ。」



「神なんて信じていないくせに・・・。」



イツキ君が軽蔑したような目で彼をにらみました。



山本「神はいるさ。人が神になればいい・・・!」



山本が何を言っているのかよく理解できず,

呆気にとられていると,

リク君はアミを山本に向け,

彼を間合いから遠ざけました。



山犬は,なぜリク君がカブトムシを殺害したのが,

自分たちだと確信を持てたのか気になっていたのです。



リク君はその疑問に対して,カブトムシが湿ったまま死んでいたから,

何か薬品を注入されて殺された可能性があったと答えました。



彼の説明はわかりやすく,闇組織の連中も納得したようです。



山本はきめ細かく昆虫を観察する少年に対して,

“平成のファーヴル”と名付けました。



そして,組織の秘密を知ってしまった以上は,

子供でもこの場から逃がさずに殺害することを決めます。



都合よく,組織の精鋭部隊が待機しているので,

死体の処理は彼らに任せればよいのです。



その時,雨が降り出しました。

とうとう嵐がやってきたのです。



少年昆虫団は隙を見て逃げ出そうとします。



山本「逃がすな!追えっ!」



古賀がすかさず追いかけると,



リク君の放った大地一刀流奥義,

“愛・地球博”によって古賀を戦闘不能にします。



だぬちゃんは当時,ものすごく驚いていましたが,

リク君の戦闘をまともに見るのが,

ほぼ初めてだったので仕方ありません。



しかし,実はイツキ君はリク君の強さを十分に知っていたので,

特に驚くことはありませんでした。



雨に続いて霧も出てきました。



持っていた懐中電灯で照らしても前がよく見えません。

リク君はみんなを逃がした後,自分もただちに後を追いました。



一度,山頂まで登り,そこから西山道を通り,

展望台経由で西ふもとまで逃げるつもりでした。



そこで彼らは展望台にいた海猫の三人とすれ違うのです。

仏の今村は少年昆虫団を追いかけようとしますが・・・。



リク君たちはこの後,どのようにして

ふもとまで撤退したのでしょうか・・・。



第6話 闇組織JF 山犬パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 東ふもと 19:55





山本が運転する車が駐車場に止まりました。



彼らは作戦開始の集合場所であった,

西ふもとではなく東ふもとへ来ていました。



車から降りると,手際よく準備を終え,山の中に入って行きました。



各務原山 東ふもとから少し進んだ場所にて 20:10



少年昆虫団が分岐点まで到着した時間です。





山本は山歩きにはそぐわない黒いスーツを身にまとい,

一番後ろを歩いていました。



実はこのスーツは防弾仕様で,

全ての幹部に支給されていたのです。



南雲「到着した時に本部と連絡を取ったんですが,音信不通になっていました。

車の中で連絡を取った時はまだつながっていたんですが。」

山本「何かの機械トラブルか・・・。イヤコムが生きていれば問題ない。」



山本はこの件について特に気にすることはしませんでした。



組織が使うライトは天候が悪く,月明かりが無くても,

周囲を十分に照らせるだけの性能を持っていました。



ただし,全員が同時に使うと目当ての昆虫が逃げしまう可能性があるので,

先頭を歩く古賀が代表して持っていました。



あとの二人は小型のペンライトで足元を照らしていました。



南雲は筋肉質な体形で力仕事が主な役割だったため,

大きなバッグを背負っていました。



中には漆黒の金剛石を見つけるための薬品と注射器,

万が一の事態に備えて銃火器などの武器や暗視ゴーグルが入っていました。



山本はそれとは別に愛用のグロッグと呼ばれる拳銃を,

常に内ポケットに忍ばせていました。



南雲「今回の捜索は3ユニットの合同なんですよね。

作戦の立案は源田さんですか?」

山本「そうだ。」



山本と南雲は先頭の古賀が照らす明かりを頼りに歩き続けます。



南雲「なるほど。だから源田さんやアヤさんも協力してくれているんですね。」



実は捜索隊は山犬,海猫,川蝉の合同作戦でしたが,

支援隊として藪蛇と森熊も参加していたのです。



後に山本が源田に「お前も関わっていた」と,

言ったのはこういうことだったようです。(第185話参照)



山本「ああ,源田とアヤは本部にいるが,こちらとは常につながっているはずだった。

無線さえ無事ならな。あとは冥界の悪魔(キラー)が中央付近で待機しているそうだ。」



キラーと精鋭部隊はすでに準備を整え,万が一に備え待機していました。



古賀「藪蛇からは闇の騎士(ダークナイト)の黄金原さんが派遣されているんですか?」



黄金原とは菊水華に潜入していたスパイのことでした。(第185話参照)



三人は少し急な勾配の道もなんなく進んでいきます。



山本「いや,あいつは菊で何か動きがあるかもしれないとかで,動けないらしい。」

古賀「じゃあ,マヤさんですか?」



マヤというのは藪蛇のリーダーであるアヤの,

唯一の部下である人物でした。



山本「おそらくな。」



短時間でかなりの山道を登り,

大きなクヌギの木までやってきました。



南雲と古賀は周辺を探し,

5匹ほどのカブトムシを見つけました。



二人はそれらのカブトムシに注射器を使って,

手際よく薬品を注入していきました。



南雲「どれもダメですね。全部死んでしまいました。」

古賀「こちらも同じです。“神の遺伝子”を持った,

“漆黒の金剛石”なら,死ぬことはありませんからね。」



辺りには無色透明な液体を打ち込まれ,

無残な死骸となったカブトムシが散らばっていました。



南雲「でも,石井軍医の開発したこの薬品はあてになるんですかね。

今のところ一度も反応が無いんですが・・・。」

山本「奴のことは気に入らねぇが,仕事はできる男だ。間違いはないだろう。」



山本と石井軍医は犬猿の仲でしたが認めているところもあるようです。



古賀「それだけ存在する確率が低いってことですよね。」

山本「だから,価値がある。御前の“大望”を叶えるためには絶対に必要なんだ。」



彼らのボスである“御前”とはいったい何を企んでいるのか・・・。



まだまだ多くの謎が残ります。



第7話 闇組織JF 山犬パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
山犬は他にもいくつか気になるポイントを探索し,

カブトムシを見つけては薬品を注入するという作業を繰り返していました。



作業を続けながら,南雲が山本に,



南雲「そういえば先ほど本部とまだ連絡がついていた時に,源田さんから聞いたんですが,

我々を狙っている人物がいるかもしれないという情報をつかんだみたいです。」



と,急に思い出したように話しかけました。



山本「確かか・・・!?」



山本は作業をしていた南雲の方を見ました。



南雲「それと,そういえば例の会社なんですが潰れてしまったらしいですよ。

わが傘下の"ジャファ・メディカルアソート"のことです。

その二点の報告を源田さんから受けていました。」

山本「オランダのあの会社が敵対的買収を仕掛けたって話は本当だったのか。」



オランダの会社とは異国の闇組織"ダーストニス"を支配に置く企業を指しているようです。



古賀「それが本当なら,我々の縄張りに入ってきた,というわけで怖い話ですね・・・。」



彼の耳にもダーストニスの存在と危険性については,

以前から入ってきていました。



古賀「そのオランダの会社が腕利きの暗殺者を雇ったとか。

ちょっと前にアヤさんが言っていました。」

山本「オランダの製薬会社,ダーストニスの連中・・・。

暗殺者が現れたら返り討ちにしてやるさ。」



古賀が話を続けようとしましたが,南雲が話の腰を折ります。



南雲「ちょっと一服を。」



南雲は持っていたシュガーライトという煙草に火をつけました。

この煙草は甘い香りがするので,人を選ぶ銘柄のようです。



山本に火の扱いに注意しろと注意されると,



南雲「雨が消してくれますよ。」



と,気にする様子はありませんでした。



古賀は南雲がたばこを吸っている間に水分を補給していました。





各務原山 分岐点到着 20:30



リク君たちがここを通り過ぎてから約20分後・・・。

闇組織JFの山犬は分岐点にて立ち止まっていました。



どちらに行くか迷っている様子でした。



当初の作戦であれば,西ふもとから登って展望台を経由して,

山頂へ向かうことになっていました。



山本「このまま山頂だ。寄り道せず山頂へ向かう。」



彼は足元に残されていたまだ新しい複数の子供の足跡に注目しました。

その足跡は以前,出会った少年が履いていた靴の足跡と同じだと覚えていました。



どうやらその時に会った少年たちに聞いておきたいことがあるらしく,

展望台を経由せず,山頂を目指すことになりました。



"漆黒の金剛石"の探索は一時中断し,

登山ペースを上げて山頂を目指しました。



そして,山頂手前で少年たちを見つけ,問い詰めることに成功しました。



しかし,急な雨と霧により,逃げられてしまい,追いかけますが,

部下の一人である古賀が返り討ちにあい,動けなくなってしまいました。



二人は古賀を置いて山頂から西山道を下っていこうとしました。



南雲「ちっ!!どこへ行きやがった!!

雨と霧でライトを使っても前がほとんど見えません・・・!」

山本「獣道に入ったか・・・!?」



この山は山道以外にも複数の獣道が存在し,

山道や別の獣道につながっていました。



その時,南雲が身に着けていたイヤコムに川蝉から連絡が入りました。



向こうは向こうで色々とあったようです。



南雲「山本さん,たった今,川蝉の東條さんから連絡が入りまして・・・。」

山本「さすがプラチナバンドか。こんな状況で本部との無線も,

全くつながらないのにイヤコムだけは正常に機能するとは。」



この世界でいうプラチナバンドとは,

イヤコムに使われる特殊な電波のようなものであり,

無線妨害電波などの妨害も受けず,

極めてクリアな音を伝えることのできる近未来の産物なのです。



川蝉からの連絡の内容とはいったい・・・。



第8話 菊水華パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 18:35



赤神氏は山頂にて全体の指揮を執ることになっていました。



紺野氏は途中にある獣道に入らず,

西山道を進み続けて展望台へ向かいます。



レオンさんは東山道を戻り,途中にある獣道へ入り,

闇組織JFを待ち伏せることになっていました。





紺野氏は順調に西山道を進み,19:00ごろに,

「展望台へ到着した。」と,連絡を入れました。



一方のレオンさんは山の中央付近の獣道で待機する予定だったのですが,

間違えて逆の獣道へ入り込んでしまっていました。



それに気づかず,獣道の分岐点付近でじっと身を潜めています。





各務原山 山頂 19:30



山頂からは東ふもとの駐車場が辛うじて見えました。



駐車場にライトの光が見えたので高性能双眼鏡で覗いてみると,

複数の少年たちが入山しようとしていることがわかりました。



それが少年昆虫団だと知るのは後日です。



赤神「こんな時間になんで子供たちが・・・。

万が一組織と戦闘になった場合,巻き込まれたらヤバイ。」



赤神氏はイヤコムを使って,二人に連絡を取りました。



赤神「少年たちが山に入ってきた。展望台まで登ってきたら紺野が保護してくれ。

山頂ルートでここまで来たら俺が保護する。翠川は引き続き,組織の探索にあたってくれ。」



二人は赤神の指令を受け,引き続き任務に励みました。



各務原山 東山道から下に延びる獣道 20:10



「あれ?おかしいなぁ・・・。もしかして道を間違えてる?」



レオンさんは自分が本来いなければいけない場所に,

たどり着いていないことに気付いたようです。



下見をした時と今いる場所が違うことは確かなようです。



ライトは消したまま,



「(仕方ない,一度山道まで戻るか。)」



と,思った時でした。



すぐ近くを二人の男が横切っていきました。



「(誰だっ!?)」



レオンさんは男たちが気になったため,

すぐに後を追いかけていきました。





各務原山 山頂 20:15



赤神氏に連絡が入ります。



レオンさんが闇組織JFの幹部である東條と,

その部下の一人と接触した,とのことでした。



彼は少年たちのことが少し気がかりでしたが,

レオンさんの救援に向かうことにしました。



紺野氏には引き続きその場で待機するように命じました。



紺野「待機命令了解っと。でも,なんか周りが騒がしい気がするんだよなぁ・・・。」



イヤコムを通じて赤神氏にそう言いました。



紺野「間違いなく,闇組織の他の幹部たちも,

この山に入っていますよ。赤神さんも気を付けてください。」



赤神氏は西山道にある獣道から合流するつもりでした。

なぜならその先にレオンさんがいるはずだったからです。



しかし,レオンさんは慌てていたため,

道を間違えていることを伝え忘れました。



また赤神氏もイヤコムに備えられていたGPS機能で

場所を確認せずに動き出していました。



赤神氏が獣道を進んでいくと,突然,多数のサーチライトが,

あたりを照らしていることに気付きました。



赤神「なんだ,あいつらは!?」



赤神氏が思わず身を乗り出すと,

相手に見つかっていまいました。



どうやら彼らは闇組織JFの精鋭部隊のようです。



人数は5人で1小隊でした。



赤神「この忙しい時に,邪魔が入ったか。翠川,

そっちに行くのは少し時間がかかりそうだ。」



しかし,返事はありませんでした。



6篇 各務原山の交錯シリーズ 第2章9~18話

第9話 菊水華パート中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 山の中腹にある獣道 20:35



赤神氏の前にいた精鋭部隊は“鶴(つる)”でした。





隊長の名前は牛尾と呼ばれていました。



牛尾「はぁはぁ・・・。キラー様は見失ってしまうし,

変なのが目の前にいるし,どうなっているんだ。」



どうやらこの部隊は何か大きなトラブルに巻き込まれたのか,

疲労困憊(こんぱい)し,さらに動揺している様子が見られました。



赤神「何をブツブツ言っている。本来ならお前たちの後をつけて,

幹部がいる場所まで突き止めたかったが・・・こうなっては仕方ない。」



彼ら全員をこの場で倒し,逮捕することにしました。



牛尾「貴様。まさか菊水華か!!我々は無敵の精鋭部隊,

こんなところで負けるわけにはいかん!我々は無敵なのだ!」



牛尾は部下に合図を送り,射撃体勢に入りました。



しかし,足場は悪く,道も狭いため,横に広がることすらできません。

さらに藪や木が邪魔になり,まともに射撃体勢に入れませんでした。



牛尾「こんな場所で射殺できるってどんな腕だよ・・・!」



何やら独り言をつぶやいています。



赤神氏はまず一番手前のサーチライトを持った敵を仕留めました。



赤神「どうだっ・・・。」



鶴の部下の一人は羽交い絞めにされて気を失いました。



そして敵が持っていたサーチライトの光を消しました。



こうして次々と光がある場所へ忍び寄り,

不意打ちで鶴の部下を片付けていきました。



彼らは暗視ゴーグルをつけていましたが,

油断していて全員がライトを消し忘れていたのです。



牛尾「まずい!!このままじゃ"鳶(とび)"みたいに全滅する!!」





赤神「知っていることを全部はいてもらうぞ。

うまくいけば組織を一網打尽にできる。」



彼は銃撃を諦めて格闘戦に持ち込みますが,

赤神氏の方が圧倒的に実力は上でした。



あっという間に決着がつき,牛尾はその場に倒れこみました。

手錠をかけようとした時,イヤコムから連絡が入りました。



相手はレオンさんでした。



「はぁはぁ・・・。すみません,詳しい場所を・・・,

お伝えしていなかったですね・・・。実は・・・。」




レオンさんはかなり苦しそうでした。

とにかくすぐに来てほしいとのことでした。



赤神氏は牛尾が倒れているはずの場所を,

照らしてみるとすでに姿はありませんでした。



どうやら一瞬の隙をついて逃げ出したようです。



赤神「くそっ,逃げられたか。それよりも今は翠川だ。」





赤神氏は再びライトを点灯させ,獣道を抜けていきました。

東山道へ出て,さらにそのまま進んで獣道にまた入っていきました。



各務原山 東山道から下に延びる獣道  21:00





赤神がライトを慎重に照らしながら進むと,

木の根元に人影を発見しました。



そこには体中を負傷していたレオンさんが,

木にもたれかかっていました。



赤神「大丈夫か!?いったい何があった!?」



「赤神さんの方こそ,少し息が荒いですよ。

誰かと戦いました・・・?」




レオンさんは自分のことよりも赤神氏の心配をしました。



赤神「俺のことは大丈夫だ。年は取ったが,

まだまだ若い連中に負ける気はしない。」



赤神氏もまたかなりの戦闘能力の持ち主のようです。



軍隊の特殊部隊を凌ぐ実力とも言われている闇組織の精鋭部隊を,

あっという間に片づけてしまうわけですから。



「オイラは・・・はぁはぁ・・・。組織の幹部,

川蝉の東條と遭遇しました・・・。」




赤神「そういうことか・・・。お前がここまでやられるとは・・・。」



赤神氏は持っていたライトを強く握りしめました。



第10話 菊水華パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
「しかし,向こうにも何か事情があるようで,

イヤコムの連絡を受けていなくなりました。」


赤神「どうやら我々以外にもいるのかもしれない,

JFを壊滅させようとしている連中が。」



赤神氏は先ほど戦った精鋭部隊の動揺ぶりからそのように予想しました。



「はぁはぁ・・・。もしかして,

山に入ってきた子供たちだったりして。」




赤神「まさか,それはないだろう。」



彼はレオンさんに,そんな洒落が言えるのなら,

命に別状はないだろうと,茶化しました。



すると,紺野氏から連絡が入りました。



紺野「先ほどからイヤコムで内容を聞いていましたが,

こっちもちょっとやばいかも。」



赤神「どういうことだ!?」



イヤコムはバーチャル空間での会話ができるシステムなので,

お互いの話は全て聞こえていました。



もちろんスリープモードやプライベートモードなどにして,

特定の会話を聴かれないようにしたり,

個別の相手だけと話をしたりすることも可能な機器です。



赤神「JFの幹部がいるのか!?逮捕できそうか!?」



赤神氏が少し声を上げて呼びかけます。



しばらく何も返事がありませんが・・・。



やがて・・・。



紺野「こいつ,強いよ・・・。仏の今村だとさ・・・。

どこが仏だよ・・・。鬼じゃねぇか・・・。」



どうやら紺野氏は展望台にて闇組織JFのユニット海猫と,

戦闘状態に入っていたようです。





赤神氏はひどく後悔しました。



奴らの実力は生半可ではありませんでした。



それぞれが分散して,見張り,見つけ次第,

逮捕をするつもりでしたがそれも徒労に終わりそうです。



赤神「やはり,全員集めてから動き出すべきだったか・・・。」



「赤神さん。ゼェゼェ・・・今回の作戦は,

無駄でありません・・・。紺野を助けに行きましょう。」




二人のやり取りを聞いていた紺野氏は,



紺野「まぁ,俺だって負けるつもりはないけどねぇ!

昔から俺の方がレオンより強いだろ!」



「勝手に言ってろ・・・。すぐ向かう。死ぬなよ。」



レオンさんは赤神氏に支えられ,ゆっくりと歩き始めました。



赤神「紺野,すぐにそこから離れるんだ。

もしかしたら奴らはそこに用があるのかもしれない。

展望台から離れれば追いかけてこないかもしれん。」



紺野「いやいや,せっかく幹部を逮捕するチャンスなのに引けないでしょう!」



紺野氏は今村との戦闘を継続するつもりです。



「紺野,赤神さんの言うことを聞いてくれ。ここでお前を失ったら,

組織を倒すチャンスはもうないかもしれん・・・。」




紺野「・・・。」



紺野氏が黙りました。



「もしかしたら,あいつらを倒せる勇者みたいな人物が現れるかも知れない。

いつか現れるかもしれない勇者と一緒にJFを倒す機会を待とう・・・。」




紺野「ゲームじゃないんだ。そんなモンいるわけないでしょ。妄想しすぎだ・・・。」



紺野氏の反論はもっともでした。



いるかどうかもわからない勇者の存在を頼るよりも,

今ある戦力でどれだけ敵の勢力を削れるかが大事だと言いました。



赤神「いつもはぼーっとしているのに,こういう時は冷静だな・・・。」



赤神氏がそう言うと,



紺野「俺様はTPOをわきまえているんで・・・っと・・・。」



どうやらまだ戦闘が続いているようです。



「頼む,紺野!分岐点まで戻ってきてくれ!」



レオンが必死にイヤコムから訴えかけると,ついに根負けをしたようで,



紺野「はぁはぁ・・・。わかったよ。」



紺野氏は隙を見てその場を離れることにしました。



どうやら赤神氏の予想通り,海猫は紺野氏を追いかけてきませんでした。



各務原山 分岐点 21:15





しばらくすると紺野氏が山を下りてきました。

そして,三人が合流するタイミングで雨が降り出しました。



彼らは直ちに下山する決意をします。



第11話 闇組織JF 海猫パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 西ふもと 20:30



牟田「遅い!いくらなんでも遅すぎる!我々が到着してから,

もう1時間は立つぞ!山犬や川蝉はまだか!?」



牟田が先ほどから苛立ちはじめ,

近くの木々を蹴って八つ当たりしています。



山下「まさか今村さん!?俺たちは出し抜かれたんじゃ!?」



海猫は山犬と川蝉に先を越されたことに気付き,

急いで山へ入っていきました。



山下「今村さん,知っていますか?」



今村に話かけますが,彼の言葉には主語なく,

今村には検討がつきませんでした。



山下「オランダのあの会社が邪魔しようとしているって・・・。」



あの会社とはあるオランダの製薬会社を指していました。



この会社は裏で“ダーストニス”という闇組織とつながっているようです。



今村は以前,源田やアヤからそんな話を聞いたことがある,

と答えましたが,特に気にする様子もありませんでした。



山下「奴ら,手段を択ばないらしく,暗殺者まで雇ったとか・・・。」

今村「物騒な世の中ですねぇ・・・。でも,それはこちらも同じこと。

向こうがその気ならば,こちらも受けて立ちますよ。フォッフォッ。」



彼らは西山道を登りながら,漆黒の金剛石の探索を続けます。





<ユニット海猫・準幹部 牟田(左)と山下(右)>



しかし,すでに川蝉が調べてまわった跡があり,

あちこちにカブトムシの死骸が落ちていました。



山下「くそっ。東條,山本・・・。あいつらめぇ!」



どうやら今村の部下二人はユニット幹部に対して,

良い印象を持っていないらしく,

所々で敵対視する発言が聞かれます。



今村「落ち着きましょう。策は我にありです。」



彼は牟田から水筒を受け取ると,

そのままグビグビと飲み始めました。



もう少しで展望台へ到着するようです。



今村が照明を使って辺りを照らしてみると,

藪や草花が踏み荒らされていました。



まるでこの周辺で少し前まで何かがあったような気配が感じられました。



今村の指示で,一気に展望台までかけ登りました。



各務原山 展望台 21:00



展望台に到着すると,先ほどと同様に,

照明を使ってあたりの木々を照らしました。



牟田「ここで漆黒の金剛石が取れるんですか?」



今村は首を横に振りました。



今村「それはわかりません。だから今からそれを調べるんです。」

山下「なるほど・・・。」



山下は準備を始めました。



今村「今回は,海猫,山犬,川汗の三つ巴の決戦になるでしょう。

最初に漆黒の金剛石を見つけたものが勝者です。」



今村は二人に向かって自説をしゃべりだしました。



今村「あれさえ見つければ御前の“大望”が叶う。

我々も,この世の望むもの全てが手に入るんですから。」



牟田「それってどういう・・・?」



どうやら今村は部下の二人に,

組織の目的などは一切,話していないようです。



山下「今村さんいったい何をお考えです・・・?この世の望むものって・・・。」



今村「君たちには話していませんでしたねぇ。

つまり・・・―――ですよ。ふぉっふぉっ。」



二人は驚きを隠せませんでした。



しかし,彼らがこの場で組織の目的を知ってしまったことは,

不運だったとしか言いようがありません。



なぜなら・・・。



第12話 闇組織JF 海猫パート中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
山には生暖かい風が吹いていました。

嵐の予感がします・・・。



今村は展望台にあった屋根付きのベンチの後ろに人の気配を感じました。



彼らが近づくと,気配の主は観念したのか姿を現しました。



紺野「なんだよ,もう少しお話を聞かせてちょうだいよ。」



彼は髪の毛をわしゃわしゃと,

かきむしりながらそう言いました。



紺野「もっと詳しく知りたいなぁ,

御前の“大望”ってやつをさ・・・。

実は肝心な所がよく聞き取れなかったんだ。」



紺野は半身になり,左手にライトを持ったまま,

ファイティングポーズを取りました。



ボクシングの経験があるのか,そのポーズはいつでも相手の懐に入り,

強烈な一撃をお見舞いできるような構えでした。



牟田「なんだ,てめぇは!いつからそこにいやがった!!」



牟田が挑発に乗って紺野につかみかかろうとします。



紺野はバックステップを踏んだ後,横から右ジャブを繰り出しました。



牟田はもろにくらって,その場でよろけて倒れこみました。



牟田「うぐ・・・。」



山下は戦闘要員ではなかったので,今村の後ろで,

その様子をただ見ているしかありませんでした。



今村「君は,菊の人間ですか・・・?それとも・・・?」



今村は持っていたライトを紺野の顔に照らしました。



紺野「俺は菊の人間じゃない。」



紺野は自身の持っていたライトをポケットにしまいました。



ここは展望台で休憩するための屋根つきベンチもあり,

照明もついていたので,夜でも相手の顔がはっきりと見えたからです。



自販機の明かりに誘われてドクガやフクロスズメなどが周辺にくっついていました。



紺野「俺はあんたらに同期を殺された警察の人間だよ。」

今村「ほう,それはいったい誰のことやら・・・。」



今村はとぼけます。



紺野「もともと俺はのんびりと,

仕事ができればそれでよかったんだ。」



今村は不気味な顔で黙って彼の話を聞いていました。



紺野「それが・・・同期にあんなことが起きちまったら,

さすがにそうも言ってられねぇ・・・。

彼のフィアンセにも申し訳ない。」



今村「貴方たちの過去に興味はないですねぇ。ちょうどこちらも警察の人間に,

話を聞いておきたかったんです。おとなしく捕まってもらいますよ。」



紺野は右手を前に差し出し,親指を下に下げ,拒否のポーズを取りました。



今村「しかたないですねぇ。山下君は牟田君を起こして,介抱してあげてください。」



山下は彼の命令に従い,牟田の介抱に向かいました。



紺野「やるしかねぇようだな。てめぇ,何者だ?」

今村「ふぉっふぉっ。通り名は今村。

組織では“仏の今村さん”,と呼ばれていますよぉ。」



今村は200cm,120kgを超える巨体でした。

しかし,その体格に似合わないほど機敏に動きます。



彼はあっという間に紺野の右側に入り込みました。

そして左の張り手を放ちます。





紺野は辛うじて避けますが思わずバランスを崩します。

すかさず右の張り手が飛んできます。



紺野は左の拳で相殺しようとしますが,

その威力に圧倒され吹き飛ばされます。



紺野が耳につけているイヤコムから,

仲間の赤神氏とレオンさんの会話が続いていました。



第13話 闇組織JF 海猫パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
紺野はとりあえず,JFの幹部と接触したことを二人に伝えました。



そしてこちらも少しやばいことになっていることも・・・。



紺野「こいつ,強いよ・・・。仏の今村だとさ・・・。

どこが仏だよ・・・。鬼じゃねぇか・・・。」



今村は手を緩めることなく間合いを詰め,張り手の嵐を繰り出します。



紺野「お前,もしかして元関取か!?」



今村は不気味に笑っていました。



今村「相撲取りになった過去はありませんが・・・。

きっとやったら強かったと思いますよぉ。」



今度は前傾姿勢を取り,突っ込んできました。



どんっ!!!!



紺野はぶつけられた勢いで,

展望台のふちにある柵まで吹き飛ばされました。



紺野「(俺はレオンより強いはず・・・なんだけどな・・・。)」



紺野はあきらめずに立ち上がります。



イヤコムからは二人がこちらを心配しています。



紺野「まぁ,俺だって負けるつもりはないけどねぇ!

俺の方がレオンより強いしよ!」



「勝手に言ってろ・・・。すぐ向かう。死ぬなよ。」



レオンさんがこちらに向かうと言ってきました。



紺野はすでに体がふらついており,

目の前の小石に躓いて倒れこんでしまいました。



その隙を今村は見逃しませんでした。

彼の強烈なエルボーが紺野の背中にさく裂しました。





紺野「ぐわぁぁぁ・・・。ごはっ・・・。げほっ・・・。」



紺野氏はしばらくその場から起き上がれませんでした。



しかし,それでも残る力を振り絞って,

立ち上がりました。



紺野氏はまだまだ戦う気でしたが,赤神氏に止められ,

やむなく命令に従うことにしました。



紺野「たしかに・・・。ここは一度引くしかない・・・。」



しかし,今村は手を止めません。



猛烈な攻撃を波状攻撃のように続け,紺野は防戦一方でした。



今村「フォッフォッフォー!!!君はその程度の実力ですか!?」



張り手で吹き飛んだ掲示板や柵が飛び散り,

あたりはひどいことになっていました。



赤神氏はそこを離れれば,

追ってこないのでないかと予想しました。



紺野「俺はまだあの人の部下じゃねぇんだが・・・。

彼の顔を立ててここは退かしてもらう。」



紺野はポケットに忍ばせておいた煙幕弾を地面に向けて投げつけ,

展望台から下る山道が続いていたので,そちらへ向かいました。



山下「なんだこの煙は・・・。今村さん追いかけましょう!」



しかし,今村は後を追う気配を見せませんでした。



今村「うーん,残念。何となく彼は逃げるようなタイプじゃない,

と思ったんですが優秀な上司がいるようですねぇ。」



山下が山道を降りようとすると,



今村「深追いは禁物です。我々の一番の目的は漆黒の金剛石です。」

山下「しかしっ・・・。」



山下は納得していない素振りでしたが,

ユニットリーダーの命令は絶対です。



今村「また今度,どこかで菊の人間に遭遇したら,聞くことにしましょう。

私の思い過ごしならいいんですが・・・。ふぉっふぉっ。」



牟田「・・・?」



牟田が目を覚ましました。



特に大きな外傷はなく,しばらくすると立ち上がりました。



今村「牟田君,この辺りにいるカブトムシを,

片っ端から調べてください。もう時間がありません。」

牟田「は・・・はい・・・!」



まだ視線も定まらない状態でしたが,検査薬と注射器を取り出し,

山下と一緒に検査をし始めました。



何十匹か検査をしていると,牟田が大きな声を出しました!



牟田「今村さん来てください!!この反応はっ!!!」



そこには薬品を打たれても腹部が虹色の光を帯びて,

輝くカブトムシの姿がありました。





今村「おお!!間違いありません!これこそ漆黒の金剛石!

色々と策を練るつもりでしたが,

ここで見つかってしまえばもうこちらのもの!!」



今村は甲高い声を上げて笑いました。



しかし,突風が吹き,牟田はその勢いに負けて,

漆黒の金剛石を手放してしまいました。



牟田「しまった!」



そう言ってもすでに時すでに遅しでした。



この暴風の中、漆黒の金剛石は風に飛ばされて,

どこかへ行ってしまいました。



今村「ああ,今まさに手に入るはずだったエモノ・・・。

まだあきらめません!」

山下「急いで探しに行きましょう!」



しかし,暴風に続き,雨も降ってきました。

辺りは一瞬で暴風雨に包まれ,視界が遮られました。



山の気温が一気に下がり,霧が出てきました。



海猫の三人は最初,紺野が隠れていた木材でできている,

大きな傘型の休憩所の中に入り,身を潜めました。





今村「仕方がありません・・・。」



この暴風雨がそれぞれの撤退戦の始まりの合図だったのです・・・。



第14話 闇組織JF 精鋭部隊パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
闇組織JFのユニット“森熊”直轄部隊である精鋭部隊の動きはというと・・・。



19:00 中央ふもと到着 準備を終えて待機

19:33 川蝉の東條より連絡 



「現在,展望台付近で敵の襲撃を受けている。至急支援せよ。」

とのことでした。



彼らは中央ふもとの獣道へ入ることにしました。



冥界の悪魔(キラー)を先頭に,梟(ふくろう),

鳶(とび),鶴(つる)と続きます。





<梟のリーダー 山根>



<鳶のリーダー 三井>



<鶴のリーダー 牛尾>



雉(きじ)はつながらなくなった本部への対応と万が一,

別の緊急事態が起きた場合の遊撃部隊として残るように指示されました。





<雉のリーダー 刈谷>

マヤも同様に中央ふもとで待機し,

“雉”と共に本部との連絡がつながるのを待ちます。



マヤ「・・・。」



19:40 現在の状況で判明している勢力図です。



暗視ゴーグルに切り替えて,獣道を進むことにします。

念の為,ライトも準備してあります。



中央付近からの獣道は東山道にしかつながっていないため,

一度,東山道へ出てから分岐点を中山道へと進軍して,

展望台へ向かうことにしました。



重装備の彼らには獣道を通るよりも多少距離があっても,

整備された山道の方が,早く目的地に到着できると考えたからです。



20:00より少し前の時刻 展望台手前の獣道にて



中山道を進軍中に,東條からキラーに連絡が入ります。



どうやら腕利きのヒットマンがいて,佐藤が射殺されたこと,

後で佐藤の遺体を片付けて欲しい,とのことでした。



キラーは展望台手前で部隊を一時停止させました。

東條からは敵は展望台付近にいると伝えられていました。



暗視ゴーグルとサーチライトを使って索敵を始めます。

地面だけではなく,頭上もサーチライトを使って探すも相手は見つかりません。



それぞれの部隊が中山道とその周辺をくまなく探します。

東條たちが襲撃された場所は,展望台付近でも西山道側でした。



そこでキラーは展望台を通り,敵を後ろから襲撃しようとしていたのです。

キラーは「ここまで足場が悪いと通常の狙撃は難しい。」と考えていました。



そこで,長距離を狙撃するための武器ではなく,

アサルトライフルを使うようです。



東條の話によると展望台付近が危険だと言っていたのでライトを消し,

暗視ゴーグルのみで捜索を続けることにしました。



少し進んだところで,キラーは敵の存在に気づきました。

展望台まであと百メートルの距離でした。



木の上ではなく,茂みの向こうからこちらを射程圏にいれているようでした。



やみくもに撃っては当たりません。

周りを凍らせてしまうような緊張感漂う空気が流れます。



キラーは,後方にいた“鳶”の三井に,

自分の所まで進軍するようにイヤコムで指令を出しました。



三井「了解。」



“鳶”はほふく前進しながらキラーのところまで進みます。



“梟”とキラーはこのまま中山道を直進,“鳶”は茂みに入り右側から,

“鶴”は同じく左側から進軍させることにしました。



慎重に部隊を進める中,鳶の部下が誤って,

ライトを地面に落としてしまい,電気がついてしまいました。



三井「おい,何をやっている!」



思わず三井が叫ぶと,部下の目の前で彼は眉間から,

血を吹き出しながら倒れて絶命しました。







まさにそれは一瞬の出来事でした。



部下たちがパニックになり,騒ぐと,次々と射殺音が響きます。



パッシュ!パッシュ!パッシュ!



あっという間に部下のうちの三人が撃たれました。

少し離れた場所を進軍していたキラーも異変に気付きました。



冥界の悪魔「まずいね・・・。」



キラーは応答を求めますが,返事はありません。



残った部下の一人も逃げ出そうとした時に,頭を撃ち抜かれました。



山根「キラー様!襲撃です!敵は一体何人いるんでしょうか!?」



実は相手はたったの一人だったのです。



暗闇の中で冷静にターゲットを射殺する実力をもった暗殺者がいたのです。



右側を進軍していた“鶴”はイヤコムで状況を確認していましたが,

動くに動けない状況になっていました。



動けば“鳶”と同じように暗闇の中で,

全滅させられてしまう危険性が高かったのです。



キラーは“鶴”にその場で待機を命じ,梟に後方支援を任せました。

敵の部隊が後ろからも来る可能性があったからです。



実際には暗殺者はマコト・セルジュ,ただ一人だったので,

その心配は杞憂に終わることになったわけですが・・・。



暗殺者同士の対決,果たして勝者は・・・。



第15話 闇組織JF 精鋭部隊パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
キラーは足場の悪い場所でも暗殺しやすい“AKT20”という,

アサルトライフルを調達していました。



この武器は大陸製の5.6ミリ弾で有効射程が450m,

暗視ゴーグルで相手を確認できれば十分狙える距離にいました。



しかし,相手もプロなのでなかなか居場所を明かしません。

“梟”は同じ大陸製の自動小銃“M1K1(略してM1)”でした。



こちらはキラーの持つ武器に比べれば,

有効射程は落ちますが,扱いやすい特徴があります。



この武器が闇組織JFの精鋭部隊の標準装備なのです。



後にレオンさんたちを襲撃した時に装備していた,

k-2ライフルはワンランク上の装備だったのです。



よって,この銃では相手の有効射程には届かず,不利な状況でした。



彼らはあくまで居もしない後方からの敵の襲撃に備えることに徹しました。



20時を少し過ぎ,勝敗が見えない状況が続きます。



下手に撃てば相手に自分の居場所を知らせることになります。

このような状況では映画のようにドンパチ撃ちあうことはありません。



天候も悪化の一途をたどり,風も強くなってきています。

ターゲットを狙いづらい環境となっていました。



キラーは鼻をピクリと動かしました。



冥界の悪魔「火薬のにおい・・・風上か・・・。」



風上に視界を向け,暗視ゴーグルで,草陰を確認すると,

わずかに動く影が見えました。



ためらうことなく,引き金を引きました。



この位置からならば,相手に場所がばれても撃たれない自信があったからです。



バンッ!!



銃弾は草陰に隠れていた何かに命中しました。



キラーはいまいち,手ごたえを確認できていませんでした。



パッシュ!!



キラーの腕を銃弾がかすめます。

キラーはすぐに後ろの木に身を隠して,銃を構えなおします。



冥界の悪魔「さっきの影はサルかイノシシか・・・。」



相手はこちらの位置を把握したようです。



“梟”の山根たちがキラーの身を案じ,接近してきた時,



パッシュ!



部下の一人が撃たれ,「ぐあっ!」と,大声で叫びました。



銃弾は肩を貫通したようです。

真っ赤な鮮血があふれ出てきます。



山根「おい,すぐに止血だ。」



隊長の山根は別の部下に応急手当てをさせます。



冥界の悪魔「仕方ない,いったん退こう。

東條さんが任務を遂行するための時間は稼げたはず。」



キラーは全隊に撤退指示を出しました。



この時点で中山道ではなく,

すぐそばの獣道まで追い込まれていました。



やむを得ず,“梟”を先頭に,キラー,

後方に“鶴”の隊列で獣道を下ります。



向こうからの追撃はありませんでした。



キラーは敵の目的がもしかしたら,

別のところにあるのではないかと思いました。



そうでなければ我々を執拗に追いかけてくるはずだからです。



牛尾「はぁはぁ・・・。いかん・・・。

キラー様たちの距離が離れている。全員,急ぎ撤退せよ!」



牛尾が部下に発破をかけます。



しかし,極度の緊張と疲労で部隊の動きは鈍くなっていました。



わずか15分程度の戦闘時間にも関わらず,

彼らにとっては非常に長く感じられました。



各務原山 山の中腹にある獣道 20:35



“鶴”は獣道を遅れて撤退する際に道を間違えてしまい,

菊のリーダーである赤神氏と遭遇,戦闘の末,敗北してしまいます。



鶴の部隊はなんとか隙を見つけ,

道を戻って撤退をします。



各務原山 合流点 20:45



キラーと“梟”は獣道を抜け,分岐点に到着しました。

どうやらここで東條と合流することになったようです。



“鶴”がいないことに気付きますが,

キラーは梟に待機を命じます。



21時過ぎに東條と合流し,

今後の動きを確認することになりました。



また,ふもとにいるマヤとも連絡を取り,

情報の共有を図っていました。



第16話 闇組織JF 川蝉パート前編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
各務原山 西ふもと 19:00



東條は“川蝉”の部下,

佐藤と木戸の二人を引き連れて,

展望台を目指して登山を開始しました。



各務原山 西ふもと 19:30



探索を続けながら30分ほど歩くと,展望台が見えてきました。



高性能ライトを持った佐藤を先頭に,

荷物持ちの木戸,最後尾に東條の隊列でした。



佐藤「もう少しで,展望台です。」



佐藤が振り向いて後ろに声をかけた次の瞬間・・・。



バッシュ!!



佐藤の額に穴が開き,大量の血が吹き出ました。



どうやら振り返った瞬間に前方から頭部を狙撃され,

額を貫かれてしまったようです。



まったく意表を突かれた出来事に木戸は慌てふためいています。



東條の表情は変わらずニコニコと笑って,

部下が殺されても気にも留めていないようでした。



木戸「うっうわぁぁ!!なに!?東條さんっ!!

おい,佐藤!!大丈夫かっ!!」



木戸はその場に倒れた佐藤の体を起こして,

呼びかけますがすでにこと切れていました。



佐藤はライトを持っていたため,最初に狙われたようです。



東條「おやおや,一体どこの誰かな。

こんなバカなことをしでかすのは。菊の連中かしら?」



彼は部下の死に動揺することもなく平然としていました。



木戸「先ほどお伝えしましたが・・・源田さんからの連絡によると,

我々を狙っている刺客がいるかもしれないって!!」



二人はそれぞれが木の裏に身を潜め,会話を続けました。



ライトを消し,暗視ゴーグルに切り替えます。



東條「ははぁん。さてはダーストニスの連中だね!

僕たちに日本をどうこうされるのが気に入らないからって,

暗殺者を送り込んでくるとはね。」



東條は木戸にイヤコムをスリープモードから,

常時オンモードにするように合図を送りました。



木戸「オンにしました!」



彼の体は極度の緊張で多量の汗をかき,

服がびしょびしょになっていました。



東條「あ,あまり大きい声出すと・・・。」



バッシュ!!



木戸「ぎやぁぁぁ!!」



弾丸が左腕をかすめ,皮膚が破け,

血がほとばしってきました。



東條「だから,手で合図を送ったのに・・・。いったんこの場を離れよう。

中央ふもとに待機しているキラーさん達に連絡を取って,暗殺者の相手をしてもらおう。」





木戸「はぁはぁ・・・。わかりました。暗殺者には暗殺者・・・ですね。」



どうやら木戸のイヤコムと冥界の悪魔のイヤコムはすでにつながっていたようで,



冥界の悪魔「聞こえていたよ。すぐに向かう。」



東條「さすがにこの状況で狙撃に日本刀じゃちょっと分が悪いので,

よろしく頼みます!それに僕たちの目的は漆黒の金剛石を見つけることなんで!」



各務原山 19:40 それぞれの動き一覧



二人は来た道を少し戻り,近くにあった獣道へと入っていきました。



東條「のろのろ歩いていると置いていくよ!」



東條は獣道でも速度を落とすことなく走っていきます。



木戸「はぁはぁ・・・。待ってくださいよぉ・・・。」



木戸は太っていたので細い獣道を走ると,

枝が体中にあたり,うまく速度を出せませんでした。

肩の傷口からも出血が続いています。



この獣道を進むと東山道の分岐点より少し手前に出ます。

山道に一度出るとすぐ目の前には再び獣道が続いています。



二人はそこを通り,状況を整理してから,

漆黒の金剛石を再び探そうと考えていました。



ちょうど,東山道に出た時に,

一番後ろを歩いていたイツキ君に姿を見られたのです。



東條はそでを通していないコートを,

ヒラヒラさせながら獣道を進んでいきます。



木戸「はぁはぁ・・・。東條さん!

佐藤の敵討ちをしなくていいんですか!?」



東條は立ち止まりました。



東條「別に逃げているわけじゃないからね。

こんなに楽しいことってないよ!

お互いが命を懸けて戦って殺しあう!最高だよね!」



木戸は東條の恐ろしさを垣間見ました。



東條「でも,今じゃない。今優先すべきことは漆黒の金剛石を見つけること!」



東條は再び速度を少し落として走り出しました。



東條「必ずこの山にいるはずなんだ!僕にはそれがわかっている。

だからほかの連中を出し抜いてでも一番にこの山に入る必要があったんだ。」



木戸は満身創痍ながらなんとか東條の後ろをついていきます。



獣道を奥へと進んでいくと途中でほかの獣道からの合流点がありました。

そこをさらに超えて奥へと進むと少し広い川に出ました。



入って向こう岸へ行けない距離ではないですが,

深さもわからないので危険を伴います。



東條「川か・・・。」



第17話 闇組織JF 川蝉パート中編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
東條は目の前にある川を前にして,

今後の作戦を練り直すことにしました。



木戸は自分たちが走ってきた獣道から,

足音が聞こえることに気付きました。



20:20 各務原山 奥の川原



木戸「誰かこっちに来ます!」



現れたのは“菊水華”所属のレオンさんでした。



「こんなところで何をしている・・・。」



レオンさんはすぐにこの二人が,

一般人ではないことに気づきました。



東條「もしかして“菊”の幹部の人かな?

僕は闇組織JFの東條。ユニット“川蝉”の東條さ!」



「東條・・・。」



レオンさんは東條が腰に下げている,

日本刀に目を向けました。



「とりあえず,銃刀法違反で逮捕できそうだ。」



東條「おやおや。僕に勝つつもり?」



東條は日本刀を鞘から抜きました。



レオンさんは右の拳を前に突き出し,構えました。



東條「貴方がどれだけ強かったとしても,

素手で僕に勝つのは無理だよ!」



「どうかな。」



東條が視界から消えました。

藪の中に入ったようです。



ザザッっと藪をかき分ける音だけが聞こえます。



この森の中では視界はせまく,

どこから攻めてくるか予想がつきません。



東條はレオンさんの背後を取り,斬りかかろうとします。



レオンさんは素早く振り返り,

素手で刀を挟み込んで受け止めます。



いわゆる真剣白刃取りです。



刀を抑え込み,右足で東條の腹部に蹴りを入れます。

彼はその衝撃で吹き飛ばされます。



しかし,右手に持った日本刀は手放しませんでした。



東條「さすが“菊”の幹部!なかなかやるね!」



藪の中にいるので,

彼はうまくスピードを出せません。

レオンさんは相手の動きを見切りながら,

攻める機会をうかがっています。



次の瞬間,東條の袈裟懸け斬りを放ちました。

肩口から切りかかってくる剣閃を間一髪でかわすのですが,

すかさず今度は逆胴が迫ってきます。



レオンさんはこれも紙一重でかわしますが,

体勢を崩してしまいます。



東條はチャンスとばかりに,

頭上めがけて強烈な一太刀を浴びせます。



ザクッ!!



これもなんとかかわしますが,完全には避けきれず,

レオンさんは右肩を斬られました。



「ぐっ・・・。」



東條が振り下ろした刀は木の枝に引っ掛かり,

レオンさんの急所を外しました。



東條「もしかしてこれも狙い通り?足場の悪い場所,

見通しの悪い場所に誘い込んで戦う。」

「どうかな。」



レオンさんは平然と答えます。



数十分の間,二人の激闘が続きました。



お互い一歩も譲らない展開でしたが,

レオンさんが川原のぬかるみに足を取られた,その時・・・。



東條の斬撃がレオンさんの体を斬りつけました。



「ぐわぁぁぁっ・・・!!」



レオンさんの声はイヤコムを通して赤神氏達にも聞こえていました。



しかしこの時,赤神氏もまた菊の精鋭部隊と戦闘中でした。



レオンさんは背中を斬られていましたが,

幸い急所はずれていたようです。



しかし,背中からは血がしたたり落ちてきていました。



「ぜぇぜぇ・・・。はぁはぁ・・・。

くそ,油断した・・・。」




東條「油断?それは違いますよ!

これが僕と貴方の実力差なんですよ!」



東條はすでにこの戦いで勝利を確信している様子でした。



「どうかな・・・?オイラにはこの拳と脚で,

日本刀に勝てるだけの理由がある・・・。」




レオンさんは背中を抑えながら声を絞り出しました。



東條「へぇ・・・。もしかして貴方って僕と同じで・・・。」



そこまで言いかけた時,

東條のイヤコムに連絡が入ったようです。



相手は冥界の悪魔(キラー)でした。



<ユニット森熊・準幹部 冥界の悪魔(キラー)>



東條「え?キラーさん達でも迎撃できませんでした?

え?精鋭部隊もやられちゃったんですか?」



何やら向こうの事態も急変していることが伺えました。



東條「漆黒の金剛石を探し出したかったんですけどねぇ・・・。

わかりました。そちらへ合流します!」



東條は刀を鞘に納めました。



東條「この続きはまた今度ということで!」



「なっ・・・待て・・・!」



東條は木戸という部下を呼び寄せ,

さっき通った獣道を戻っていきました。



「ふぅ・・・。やはり“アレ”を,

履いてくるべきだったか・・・。」




レオンさんはそれ以上の深追いを諦めました。



第18話 闇組織JF 川蝉パート後編

各務原山の交錯シリーズ 第2章
21:00 各務原山 分岐点



東條と木戸は先に到着していたキラーと,

精鋭部隊の“梟”と合流しました。



そこでそれぞれの状況をいったん整理して確認しました。



冥界の悪魔「なるほど・・・。菊の連中もいたか。」



闇組織JFの被害状況がわかってきました。



“精鋭部隊 鳶:マコト・セルジュによる狙撃で全員死亡”



“精鋭部隊 鶴:菊幹部"赤神"による攻撃を受けて壊滅

現在,逃亡中で山中を彷徨っていると思われる”



“精鋭部隊 梟:マコト・セルジュの狙撃を受け,

部下が負傷するも全員生還”



“川蝉 準幹部 佐藤:マコト・セルジュによる狙撃で死亡”



“川蝉 準幹部 木戸:マコト・セルジュによる狙撃で肩を負傷”



東條「なかなかやってくれますね!」



空模様がさらに怪しくなってきました。

間もなく豪雨がやってきます。



山根「先ほど,キラー様より“雉”に指令が出されました。

“鳶”部隊の遺体回収です。」



梟の隊長である山根が報告をしました。



東條「そう,手回しがいいね。ついでに佐藤君の遺体もお願いね!」



東條がそう言ったのでキラーは“雉”の隊長にイヤコムで指示を出しました。



大きな雷鳴と共に雨が降ってきました。

とうとう嵐がやってきました。



21:20 各務原山 分岐点



東條「すごい雨だ!漆黒の金剛石の探索は出直しかな。」



彼はイヤコムの端末を使ってチャンネル回線を変えました。



どうやら別の相手と連絡をとるつもりでした。



東條「山犬の南雲君のイヤネルであってる?

僕,山本さんきっと忙しいだろうから,君に連絡したんだ!」



イヤネルとはイヤコムにそれぞれ振り分けられている個別識別番号のことで,

この番号がわかれば相手とつながることができるのです。



また一つの番号を皆で共有することでその番号のイヤコムを親機として使い,

複数の人間が同時にバーチャル空間で会話できるのです。



南雲のチャンネル番号は木戸から聞いたようです。

東條のイヤコムは山犬の南雲とのみ繋がっている状況です。



この場合,南雲側のイヤコムは山本や古賀との通信を,

スリープにして東條とのみ会話できる状態になります。



もちろん自分の意思で切り替える操作や連絡拒否にすることも可能です。



南雲「はい,南雲ですが・・・東條さんっ・・・!?」



南雲は驚いているようでした。



東條は要点だけを簡単に伝えました。



東條「実は,この山には暗殺者がいて僕たちを狙っているんだ!

だから早めに撤退することをお勧めするよ。」



イヤコムを切ると,



冥界の悪魔「なるほど。自分たちだけが撤退するんじゃ,

割が合わないから他の幹部にも撤退させようと促しているんだね。」



と,東條に問いかけると,



東條「正解!今村さんは別に連絡の必要はないかな。

どうせ彼は漁夫の利を狙っているだけだろうし。」



と,答えました。



“梟”の山根が再度報告してきました。



山根「報告します!たった今,本部との連絡が復旧しました。」



東條が本部へ事情を説明すると,

源田は全員撤退を告げました。



どうやらあの“御前”の勅命のようです。



いよいよ,それぞれの思惑を抱えたまま,撤退することになるのですが,

果たして全員がうまくふもとまで下りられるのでしょうか・・・。



各務原山の交錯シリーズ ~第2章~ 完



6篇 各務原山の交錯シリーズ 最終章1~6話

第1話 それぞれの撤退戦 前編

各務原山の交錯シリーズ 最終章
21:15 各務原山 展望台



とうとう大きな嵐がやってきました。



木々は暴風によって大きく揺れ,

まるで滝が打ちつけるような雨が降り注いでいます。



視界0の豪雨は容赦なく降り注ぎ,

空気が急激に冷やされたため辺りには霧が発生しています。



展望台に備え付けられていた傘型の屋根の下で,

海猫が身を潜めていました。



牟田「すごい雨ですよ,早く戻りましょう。今村さん。」



今村はもうしばらく待機を命じます。



ここで待っていれば先ほど逃がしてしまった漆黒の金剛石を,

山犬か川蝉が捕まえて,この道を通ると予想していたのです。



しかし,残念ながらその予想はあてが外れます。



万が一ここをどちらの幹部が通れば力づくで,

漆黒の金剛石を奪うと発言しますが・・・。



山下「これが,かつて鬼の今村と言われた男の本性か。」

今村「あ,今の発言は冗談ですよ?ふぉっふぉっ。」



今村は急に笑い出しました。



牟田「ええ?」

今村「さすがに私が山本君や東條君と戦えば,

お互いにただではすまないでしょう。」



二人はその姿を想像すると背筋が凍るような感じがしました。



今村「それは御前の望むことではありませんからね。」



彼は彼なりに御前という人物に畏敬の念を払っているようでした。



山下「じゃあ,こんなところで待ち伏せをしてどうするつもりなんです?」

今村「交渉ですよ。彼らは合同作戦をないがしろにしました。そして我々は,

一度は“その存在”をここで確認した。これは大きな収穫です。」



二人は雨の中,今村の考えを聞いていました。



今村「手柄を分け合うことを提案すれば,

向こうも無下にはできないでしょう。」



二人はあまりに意表を突いた発言に次の言葉が出ませんでした。



その時,目の前の山道を下山していく少年たちを目にしました。



山下「子供ですね。ほっておきましょう。」



今村は二人に目の前を通り過ぎた少年たちを捕まえるように指示しました。



理由はこんな時間に山頂から降りてきたということは,

どこかで組織のメンバーと接触している可能性があったからです。



何か組織の秘密を知られているのだとしたら,

ここで抑えておこうと考えたのです。



二人が大雨の中,ずぶ濡れになりながら山道を下って追いかけます。



リク君たちも追っ手に気づきました。



「なんか,また追っかけてきましたよ!」

「とにかく走れ!捕まったら殺されるぞ!?

まぁ俺は返り討ちにしてやる自信はあるけどな。」




イツキ君は振り返りながら自信たっぷりに言いました。



リク君は愛用の捕虫網ではなかったので,

先ほどの奥義でアミが壊れてしまい,

武器がもうありませんでした。



西山道を下っていくうちに追手が来ないことに気付きました。



「あれ?誰も追いかけてこなくなったよ。」



少年昆虫団は衣服に大量の水分を含み,

歩けなくなるくらいへとへとになりながらも,

ふもとまで下りてきました。



「もうだめ・・・。家に帰って休みたい・・・。」

「同感です。たまには気が合いますね。」



こうして少年昆虫団は無事に下山し,ずぶぬれの状態で,

伊藤店長の車に乗って帰路にくことにしました。



伊藤「遅くなって悪かったね。ずぶぬれだけど大丈夫?

それにかなり疲れているみたいだけど何かあったのかい?」



<お迎えに来た伊藤店長>



「いや,何もなかったよ!」



リクは伊藤店長に心配をかけないようにしました。



第2話 それぞれの撤退戦 中編

各務原山の交錯シリーズ 最終章
少年昆虫団を追いかけていた海猫の二人は,

マコト・セルジュによって狙撃されます。



しかし,この暴風雨のため,

プロの暗殺者でも一撃で仕留めることはできませんでした。



何発かはなった銃撃の一発がそれぞれの足に命中します。



山下「ぎゃあぁぁぁ!!」



二人が悲鳴を上げました。



マコト・セルジュは彼らの目の前に姿を現し,

銃口を二人に向けました。



牟田「命だけはっ!!助けてくださいっ!!

なんでもしますからっ!!」



二人は傷口から噴き出る大量の血を,

手で押さえながら命乞いをしました。



山下「え!?」



マコト・セルジュは持っていた翻訳機を目の前に差し出し,

何かを二人に伝えました。



内容を聞いた二人は痛みをこらえながら,

何かをしゃべり始めました。



どうやら組織の情報に関することのようです。



実はこのやりとりがイヤコムの録音機能にデータとして残されていました。



後に“藪蛇”のマヤがデータを分析し,アヤに報告しました。



結果的にこの件がJFにとってはまずい行動であったため,

その後,二人は消されることになったのです。



マコト・セルジュは茂みからの気配に気づき,姿を消しました。



異変に気付いた今村がすぐに駆けつけたのです。



そこには足から大量の血を流し,

うずくまっている二人を発見しました。



今村は暗視ゴーグルを外していたので,

とっさに服の左ポケットにしまってあった,

簡易型のスコープを使って周辺を見渡しました。



するとクヌギの木の上に一つの影が見えました。



今村「これは,ダーストニスが雇った暗殺者の仕業ですね。」



今村はすぐに近くの木に身を隠し,次の狙撃を警戒しました。



彼が神経をとがらせて,相手の出方を待っていると,



源田「全員,撤退だ。作戦は中止。ただちに撤退せよ。

これは御前の命(めい)である。」



無線機から源田の声が聞こえてきました。



今村「ようやく本部と連絡がつながりましたね。

しかし,撤退とは・・・。」



今村は少し悔しそうにしながら,下山を決意しました。



今村「ただ,我々にとって“漆黒の金剛石”に手が届く瞬間でした。

あの時,確かに検査に反応したカブトムシはこの山にいたんです。

それは間違いない。フォッフォッ。」



今村は内心とても悔しかったようです。



あと一歩のところで取り逃がし,後に東條によって,

その手柄を持っていかれることになるのです。



今村「(あの時,あの影の人物が背中に背負っていた銃は,

おそらく英国製ライフル,レジェンドマスター・・・。」



彼は銃の種類にも詳しいようです。



今村「(年代物だが高性能,しかし扱いが非常に難しく,

保守も大変だと聞くが使える人物がいたとは・・・。)」



今村はさきほど消えていった影の姿をさらに思い出します。



今村「(そして一瞬見えたあの獅子のような髪型・・・。

マコト・セルジュと呼ばれる暗殺者で間違いなさそうですねぇ・・・。)」



今村はイヤコムでキラーを呼びだし,

二人の部下を病院へ運ぶように依頼しました。



連絡を受けたキラーは精鋭部隊の梟にその任務を命じました。



雉は遺体の収容,梟は負傷者の救助と,

役割分担をして任務にあたることになりました。



今村はしばらく現場に身を潜めていましたが,

相手が狙撃をしてくることはありませんでした。



この雨で今村を見失ったのか,

武器が使用不能になったのかは定かではありません。



今村は西山道を降りていきました。



負傷した部下を見捨てているように見えますが,

この状況で二人を担いで下山すれば自らの命も危険にさらします。



闇組織の幹部たちはそうまでして部下を甘やかすことはありません。

支援部隊に救助を依頼した今村は組織の中ではまだ穏健派と言えるのでしょう。



彼は無事に西ふもとまで下山することができました。

すでに少年昆虫団は帰路についてそこにはいませんでした。



先ほどまで海猫を襲撃していたマコト・セルジュは・・・。



中央ふもと付近の獣道で東條と対峙していました。



東條は中央ふもとから部隊が撤退した後のしんがりを務めていました。



梟は展望台へ向かっていましたが,負傷した牟田と山下を救助し,

帰路は西山道から西ふもとのルートを通ることになっていました。



中央ふもとから続く獣道さえ押さえておけば,

しんがりの役割は十分に果たすことができます。



東條「貴方が,暗殺者さんですか!

組織のメンバーを結構,殺ってくれましたね!」



マコト「・・・。」



マコト・セルジュは無言を貫きます。

日本語がわからないのでしょうか。



この二人の対決がいよいよ始まろうとしていました。



第3話 それぞれの撤退戦 後編

各務原山の交錯シリーズ 最終章
マコト・セルジュと対峙する闇組織JFの東條・・・。

お互いの距離は10mほどです。



セルジュは中長距離用の狙撃銃ではなく,

懐に忍ばせておいた,

S&M.44ハミントン・マグナムを取り出しました。



すかさず東條は木の裏に隠れます。

そして,相手の背後に回り込もうとしました。



その時,マコト・セルジュが放った銃弾が東條の頭部に命中しました。

その勢いで彼は雨でぐちゃぐちゃになったドロ道に倒れこみました。



しかし,すぐに起き上がると,速度を緩めることなく,

木々の間を走り抜けていきます。



彼がかぶっていた帽子とコートは防弾仕様で,

敵の狙撃にも対応できるものだったのです。



山本も普段からあの服装でいる理由も同じでした。



東條「危なかったー。」



東條は帽子を拾い上げてかぶりなおしていました。



こういう時のために,帽子とコートは必須だったのです。



そして,彼はうまくマコト・セルジュの背後に回り込むことができました。



先ほどのお返しと言わんばかりに,

素早く一太刀を浴びせました。



東條「僕は他の連中とは一味も二味も違いますよ!

これで組織としては一矢報いたことになるかな!」



ザッシュ!



彼は確かな手ごたえを感じました。

茂みには血痕が飛び散っています。



どうやらセルジュに一太刀を浴びせることに成功したようです。



しかし,マコト・セルジュの姿はありませんでした。

雨がさらに強くなり,霧もかなり出てきてほとんど視界がありません。



東條は刀を下ろしました。



東條「逃げられたか。いや,組織としては,

恵みの暴風雨(ストーム)だったのかな!」





マコト・セルジュは負傷が原因なのか,

突如としてこの場から姿を消しました。



彼は刀を鞘に納めると,

ずぶ濡れになりながら獣道を戻って下山し始めました。



二人の戦闘は時間にして30分ほど続いていたようです。

彼が下山を開始した時刻は22時を過ぎていました。



下山の途中,梟の山根に連絡を入れました。



そして状況を確認すると,海猫率いる今村たちも,

暗殺者によって被害を受けていることを知ります。



東條「山根君。ついでといってはなんですがあの人が撃った銃弾が,

どこかにめり込んでいるはずなんで回収しておいてください。」



この暴風雨の中,さらっとめちゃくちゃな命令を出しました。



しかし,彼ら精鋭部隊は幹部達に絶対服従のため拒否権はありません。



“梟”は手分けして銃弾を探します。



そして運よく木にめり込んでいた銃弾の回収に成功します。



こうして精鋭部隊"梟"はマコト・セルジュが残した銃弾と海猫の準幹部,

牟田と山下を抱きかかえながら下山していきました。



途中,妨害が入ることはなく,22:30には下山が完了しました。

すぐ後に,精鋭部隊"雉"が下山してきました。



一人一人が特殊な袋を担いでいました。



中にはマコト・セルジュに殺害された鳶(とび)のメンバーと,

川蝉の準幹部,佐藤の遺体がそれぞれ入っていました。



闇組織JFは全部隊の下山が完了したため,

それぞれの車を使って名古屋へ撤退することになりました。



東條が乗る車には運転手の木戸の他に,

キラーと藪蛇のマヤが同乗していました。



東條は助手席に,残りの二人は後部座席に座っていました。



精鋭部隊は隊長の指示のもと別の車で撤退していました。



木戸「東條さんって優しいんですね。」

東條「僕は紳士(ジェントルマン)なんだよ!」



木戸は東條の“何かの行動”に対して,

そう言いました。



東條「ご苦労だったね。」



東條は助手席の後ろに座っていた,

マヤに声をかけて労いました。



しかし,彼女は返事をしませんでした。



冥界の悪魔「本部からの見解では山全体に妨害電波を出す,

大きな機械が設置されていたんだろうって。

雨でその機械が機能しなくなったから,

本部との連絡がつながるようになったらしい。」



キラーの解説を東條は隣で黙って聞いていました。



木戸「東條さんどうかしましたか?

佐藤のことならホントに残念でしたよね・・・。」



木戸が悲しげな表情でそう言いましたが,

東條は特に気にしている様子はありませんでした。



東條「(菊水華の小早川レオン・・・。

そしてダーストニスの暗殺者・・・。)」



彼は窓から外を眺めています。



暴風雨で窓のガラスには大量の雨がたたきつけるようにあたります。



その先に辛うじて見える景色は田んぼや畑ばかりで,

たまに民家の光が見える程度です。



東條「(これは楽しくなってきそうだ。

でもその前に“漆黒の金剛石”。次は必ず僕が見つける・・・。)」



それぞれの思惑が交差した各務原山での一件は,

これにて幕を閉じることになりました。



第4話 戦況-再び公園にて-

各務原山の交錯シリーズ 最終章
少年昆虫団は全ての話を聞き終え,

改めて今ここに立っている東條という人物が,

危険なのだと思い知りました。



東條「さて,冥途の土産も聞き終わったことだし,

全員に死んでもらいましょう。」

紺野「まさかこの人数相手に勝てるとでも?」



紺野氏が昆虫団の前に立って,

彼らの身を守りながら東條に話しかけます。



東條「当然!一人も逃がさないよ!」



レオンさんは当時と同じく素手で相手をしようとしていました。



東條「遠慮なく,拳銃使ってもらってもいいんですよ!」

「あいにく,急なことなんで持ち合わせていないんだよ。」



レオンさんは少しずつ東條に近づいていきます。

一撃必殺の急所狙いを決めようとしています。



東條はレオンさんの不意打ちに気付いていました。

彼はレオンさんめがけて超速で刀を振り下ろしました。



ガギィィッ!!



レオンさんは右足の足の裏で刀を受け止めました。



東條「やりますね!仕込み靴ですか!」



「銃は持ち歩いていないが,この前と違って,

今日は履いているんだよ!」




ぐっと足に力を入れ,刀を押し返すと,

すかさず左足で蹴りを入れました。

東條はうまく避けきれず,後ろによろめきます。



「なんかよくわからないけどレオンさんが押している!」



イツキ君は夢中になって彼の動きを追っていました。



「俺もいつかあんな風に強くなりてぇ。」



リク君は紺野氏の前に出てきました。



紺野「危ないぜ・・・。」



「もう大丈夫・・・。レオンさんを援護しなきゃ。」



リク君は攻撃の機会を伺います。



紺野「今,この場で大事なことってなんだい?」



紺野氏がリク君に語り掛けます。



紺野「全員が無事に生きて帰ることじゃないのかい?」



その言葉で少年昆虫団は納得しました。



「確かにそうだよ。絶対に死にたくない!」



まさらちゃんが勇気を出して声を上げます。



「そうだね。おいらも無我夢中だったけど,

やっぱり死にたくない!」




「・・・。確かにその通りだよ。

でもだからって俺はあいつらを逃がさない!」




リク君はぎゅっと右手に持っている捕虫網の柄を握りしめました。



紺野「それは,この僕ちんも同じ気持ちだよ。

でも,今は退くべき時だ。戦況を見誤ってはいけない。」





紺野「今,君が飛び出せば,

隙を見て他のメンバー全員を殺しに来るぞ。

レオンと戦っていても,

奴にはそれだけの“力”がある。」



彼はひょうひょうとした恰好で何を考えているか,

いまいち読み取りにくい人物でしたが,

冷静に状況を分析する力に長けているようです。



第5話 冥土

各務原山の交錯シリーズ 最終章
東條「時間があれば,僕の出生から今日までの生い立ちを,

話してあげたいくらいなんですけどね!」



彼は再び突きの構えを取りました。

その切っ先はレオンさんにまっすぐ向いていました。



東條「ただ,鎮魂歌(レイクエム)には長すぎる。」



「貴様のことなど興味はない。

オイラが知りたいのは組織の全貌とその目的だけだ。」




東條は先ほどよりも加速度的な迅さで襲ってきます。

レオンさんは左によけ,相手の横腹に右の中段蹴りを入れます。



東條はうまくかわし,体をひねって,

再び切っ先をレオンさんに向けます。



東條「彼らには十分冥途の土産をあげたんですよ!

いい加減死んでくれないと上げ損ですよ!」



彼は意味不明な持論を展開し始めました。



「そういえば,確かにさっき何か言っていましたね・・・。」



だぬちゃんが何かを思い出したように言いました。



紺野「後で,じっくりと聞かせてもらおう。」



前を見ると,二人が激突していました。

そして,離れてはぶつかり合う,そんな戦闘が続きます。



「レオンさん・・・,だいぶ体力を消耗している・・・。」



リク君は先ほど紺野氏から言われたことを思い出し,

みんなを守るためにその場から動きませんでした。



東條「まだ冥土の土産が足りないの!?なんて欲張りな人達だ!」



「あと一つ聞かせろ・・・。父が盗んだ研究書・・・。

それを取り戻したかったってことは,

すでに漆黒の金剛石はお前たちの手に入っているんだな。」


「(そういえばレオンさんのお父さん,

小早川教授ってどんな人なんだろう。今度,写真でも見せてもらおう。)」




東條は少し考えるそぶりを見せて,



東條「ええ,そうですよ。僕があの各務原山で後日,再発見しました。」





実は,その情報は灰庭さんを通して知っている事実でした。



しかし,その疑惑が彼にいかないように,

ここで組織の人間からその情報を引き出させたのです。



東條が,再びレオンさんに攻撃を仕掛けようとした時・・・。



彼のイヤコムに連絡が入りました。

相手は森熊の源田でした。



源田「影(シャドー)から聞いたぞ。

独断での行動は厳禁だ。すぐに戻れ。」

東條「ええ・・・!?あの人,口が軽いなぁ・・・!

それって源田さんの命令です?」



東條が聞くと,



源田「いや。“石原氏”の助言だ。」



ここで謎の人物の名前が出てきました。



東條「源田さんより“上の方”の命令じゃ,

聞かないわけにいきませんね。」



東條は刀を鞘に納めました。



東條「平成のファーヴル君,小早川さん,

今回はなかなか楽しめました。

次に会う時はもっと強くなっていてくださいね!」



彼はくるっと向きを変え,公園から出ていこうとしました。



現場にいた二名の警察官は彼の追走を諦めました。



街中で騒ぎを起こせば,さらに被害が出る可能性があったこと,

リク君のケガの治療を優先させたことがその理由でした。



レオンさんはすぐに上司である赤神氏に報告をしましたが,

その行動についてとがめられることはなく,

むしろ死者を出さなかったことをたたえられました。



第6話 エピローグ

各務原山の交錯シリーズ 最終章
リク君は近くの警察病院へ運ばれましたが,幸い,

命に別状はなくすぐに帰宅することができました。



その後,レオンさんの車で県警本部に向かい,

詳しい事情を説明することになりました。



赤神「よく無事に戻ってこられた。それが何よりだ。」



小さな会議室の中で,彼は一番の奥の席に座り,

全員が無事だったことに安堵の表情を見せました。



赤神「紺野を呼んでおいてよかった。

翠川だけでは対処しきれなかったかもしれない。」



紺野氏は一番入り口に近い壁際に立って話を聞いていました。



「あいつは,組織で3番目に強いって言っていた。」



もちろん東條の言うことを全部信じることはできませんでしたが,

あの強さならありえるだけの説得力がありました。



「逆に言えば,あいつよりも強いやつが二人も組織内にいるってことだろ。」

「一人は当然,“御前”じゃないんですか?

組織のボスでしょ?」




だぬちゃんがそれらしい推理を披露すると,

トシ君が横やりをいれました。



「でも,“御前”ってずっと昔に,

組織を作ったって言ってなかった?

とういことはかなり高齢なんじゃない?ホントに強いのかな・・・?」




トシ君の考えにも一理ありました。



「たまにはいいこと言うな。確かにその通りだ。

前に見せてもらったパンフの写真に載っていた,

“日暮”って人物も高齢だったし,影武者ならそいつと近い年齢だろう。」




イツキ君もなかなか冴えていました。



「“御前”の正体については今の段階では何もわからないね。」



どうやら組織に潜入している灰庭氏も,

“御前”と直接接触する機会はなかったのか,

“御前”の情報はレオンさんに伝えていないようです。



「もう一人はやっぱり山犬の“山本”ってやつなんじゃないの!?」

「うーん,アイツは自分の方が格上だって,

認識しているみたいでしたけど,あり得ますね。」




紺野「あの男,結構おしゃべりだったんだろ?

冥土の土産とか言って色々聞いたんだろ。」



リク君が振り返って,



「うん,組織の目的について・・・。」



赤神「なんと・・・。」



それは警察の菊水華でもつかんでいない情報でした。



「なんて言っていたんだい?」



隣に座っていたレオンさんが聞きます。



「よく聞き取れなかったんですけど,

分裂とか統一とか言っていましたよね。」




リク君は天照と月読をかまえ,



「ああ,そう言っていた。

“古き力の分裂”と“新しき力の統一”って・・・。」






間近で聞いていたので,

彼がそのような内容を口にしたことは間違いなさそうです。



赤神「それが組織の目的・・・?

どういう意味だ・・・?古い力,新しい力ってなんだ・・・?」



本当にそれが組織の目的なのでしょうか。

真実はいかに・・・。



「分裂と統一・・・。言葉だけ聞いても嫌な予感しかしないな。」



イツキ君の意見に皆も同じ考えでした。



「よーし!絶対に夏休み中に闇組織JFを壊滅させるぞ!絶対だ!」



リク君は急に立ち上がって叫びました。



「でも,あと2週間くらいしかないよ!?」



トシ君の言う通り,もし本当に夏休み中に組織を壊滅させるならば,

残された時間はあまりありませんでした。



それでも彼らの意思は固いようです。



「レオンさん,稽古をつけるペースをあげてくれ!

俺はもっと強くならなくちゃだめなんだ!」




レオンさんは静かに頷きました。



「あ,じゃあついでにオイラもお願いしようかな。」

「いやいや,君は無理でしょ!」



だぬちゃんが突っ込みました。



紺野「まぁ,君たちには期待しているぞ。

何せ小早川のお気に入りの“勇者”もいるんだろ!」



「勇者?ところでこいつは誰だ?」



イツキ君が紺野氏を指さし,赤神氏に聞きました。



紺野「あれ?俺のこと紹介してもらってなかったっけ・・・?」



リク君はそんなやり取りを聞き流しながら,

“天照”と“月読”を握りしめました。



「(実戦で少し試せたけど・・・。

早く“アレ”を完成させなくちゃ・・・。)」




リク君の心中は次は負けられないという思いであふれてきました。



いよいよ組織の中枢と戦う日が近づいているのかもしれません・・・。



各務原山の交錯シリーズ ~最終章 完~




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