リクの少年昆虫記-VS闇組織JF-

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5篇 冥界の悪魔シリーズ 序章 第1章1~5話

第1話 プロローグ 前編

冥界の悪魔シリーズ 序章
少年昆虫団は夏の暑い日差しを避け,

夜の8時くらいにある場所へ来ていました。



それはいつもの昆虫採集場所ではなく,名古屋港から

車を20分ほど走らせたところにある新海釣りマリリンパークでした。



目的は昆虫採集ではなく,海釣りでした。



ここは家族連れできても大丈夫なように柵が張ってあり,

海に落ちないようになっています。



さらに足場もよく海釣りには最適なのです。

先端に行くとチヌやフッコなども釣れると言われています。



レオンさんは車に積んであった荷物を下ろし,運んで行きました。



「さぁ,何が釣れるか楽しみだね。」

「レオンさんは,釣りをしたことがあるのか?」



イツキ君が聞きました。



「ああ,若いころは休暇を取ったらよく海に行っていたよ。

最近は任務が忙しくてなかなかできなかったけどね。」




レオンさんは自分用のマイ竿を伸ばし,準備を始めました。



横でトシ君が自分の竿から

出た糸に絡まってもがいていました。



「いや,ちょっと,これってどうなってんの・・・!?」



もがけばもがくほど身動きが取れなくなっていました。



「いったい,何をやっているんですか・・・。

事前に準備をしてこないからそんなことになるんですよ。」




だぬちゃんがトシ君にライトを照らしてあげました。



「いやいや,オイラだってライトくらい持ってきているよ。

自転車用のだけど明るさは8000ルーメンにもなるぜ!

それにロッドはあの坊主逃れで有名な"海坊主"だよ!」


「宝の持ち腐れだ。」



イツキ君の一言に,



「何をー!?絶対にイツキ君よりデカイ魚を釣ってやる!」



その隣でリク君が黙々と仕掛けの準備をしています。



「魚釣りって言うとこの前,庄外川で川釣りしたよねー!」

「ああ,そんなこともありましたね。」(105話参照)



だぬちゃんは手慣れた様子で仕掛けを

竿につなぎ,すでにエサをつけ始めていました。



どうやらだぬちゃんはみんながメバルやコアジなどの

小物を狙う中,チヌを釣ろうとしているようでした。



「カニやカメジャコよりもストロームシ!だぬはあれから

実力があがっていますからね!今日は釣りますよー!」


「そういえば,あの時,俺たちに話しかけてジジィがいたよな。

リクはそのジジィを闇組織JFのスパイであるグレイの候補にいれていたよな。」




彼の口が悪いのは御愛嬌。



「いたねぇ。結局あの人は何者だったんだろうね。

今はグレイ候補で一番怪しいのは灰庭さんだしねぇ・・・。」


「どんな人だったんだい?」



レオンさんは準備を終え,リク君たちの会話に加わってきました。



「俺たちのことを童(わっぱ)とか呼んでいたな。

それと,変なことも言っていたよな。」


「“川は自分を映し出す鏡”とか言っていたね。」



リク君がレオンさんに自分が聞いたことを伝えました。



「あれは何と言うとしていたんだろうな。

ほら,“川が汚くなっていずれ魚もいなくなってしまう。

まるで-”って言っていただろ。まるで・・・何だったんだ?」


「!?」



横で聞いていた彼の顔が一瞬,

固まるのがわかりました。



「レオンさん?どうかした?」

「(まさかね・・・。)いや,なんでもないよ。」



リク君たちは本格的に魚釣りに集中し始めました。

果たして釣果は・・・。



―場面は変わって,とある料亭のVIP席にて―



一番奥の上座に一人の老人が座り,横には

お酒の相手をしているだろう女性が二人いました。



その老人の部下と思われる黒いスーツを

着た男が下手で正座をして待機していました。



どうやら彼は先ほどリク君たちが話題に出していた人物でした。

その人物は携帯電話でどこかに連絡を取っているようです。





<“カンジ”と呼ばれる謎の老人>



電話が終わると部下らしき男が,



部下らしき男「カンジ様,お伝えしたいことがございます。」

カンジ「ああ,何も言う必要もないよ。全て分かっている。」



ちなみに昆虫団の釣果は,小物は

釣れましたが大物は釣れませんでした。



チヌを狙った,だぬちゃんは坊主に終わりましたとさ。



第2話 プロローグ 中編

冥界の悪魔シリーズ 序章
愛知県西部の町はずれに大きな病院がありました。



病院の名前はジャファ記念病院。



名前の通り,表向きはジャファコンツェルンが経営し,

裏では闇組織JFの息がかかった病院でした。



その病院の4階の一室に二人の男が入院していました。



それは先日の各務原山で負傷した

今村の部下である,牟田と山下でした。



時間は深夜2時を過ぎた頃,その病室に

向かってひっそりと近づく影がありました。



全身を黒い服で身を包み,フードを

深くかぶり,どんな顔なのかは見えません。



その黒い人物はそっとその病室に入り込み,

懐から注射器を取り出し,彼らの点滴に何かを注入しました。



牟田「ぐっ・・・。」

山下「苦しい・・・。」






<山下(左)と牟田(右)>



数十秒後,二人は苦しみだし,

警報音が病室内に響き渡りました。



その警報を聞き,ナースが駆けつけた時,

黒いフードの人物は病室から姿を消していました。



その後,彼ら二人の死亡が確認されました。



この件は病院長から闇組織JFの源田に伝えられました。

病院長以下数名の幹部のみが闇組織JFとつながりがあるようです。



闇組織JFの本拠地バベル最上階の一室に山犬の山本,森熊の源田,

海猫の今村が席について真剣な表情で会議を行っていました。



部屋の中は高級ホテルさながらの装飾と広さで,

窓からは名古屋の夜景が一望できました。



つい先ほど今村の部下二人が

死亡したことが源田より告げられました。



今村「・・・。私としては心苦しいですが・・・。」

源田「仕方あるまい。彼らはあの各務原山の

一件で大きな過ちを犯した。消す以外に方法がなかった。」



源田は椅子に深く腰掛け,溜息をつきました。







すぐ隣で話を聞いていた山本が,



山本「本当は内心,喜んでいるんじゃねぇのか。

無能な人間はいらないっていうのがあんたの信条だろ。」



彼は不敵な笑みを浮かべました。



今村「フォッフォッフォッ。貴方と一緒にしないでいただきたい。

ただ,御前の御意向は全てにおいて優先される。」



山本「その通りだ。これ以上,“菊”に色々と探られるとやっかいだからな。

“菊”の暗殺計画の件もあり,今村の部下を消すのはこれでも遅いくらいだ。」



山本は右手をテーブルの上に置き,人差し指でトントンとテーブルを叩きました。



今村「何にせよ,組織の防衛は穴熊の源田さんの管轄。」



今村は源田に話を振りました。



源田「組織の警備は任せておけ。直属の部下,キラーにも

菊の幹部,小早川の息子の詳細を探れと命じてある。」

今村「諜報活動は藪蛇のアヤさんの管轄では?」



今村の質問に源田は,



源田「今回のキラーの任務はあくまでサポートだ。

そのために必要な情報を集めることは我々の管轄で問題ない。」



藪蛇のアヤはこの場にはいませんでした。



山本「小早川の息子は必ず殺す。

奴は以前,影(シャドー)の奴に盗聴器を仕掛けて

お前との会話を盗み聞きしている。」



山本が口を開きました。



今村「フォッフォッ。そうでしたね。だから私はすぐに源田さんに

連絡をしてバーを移転してもらったじゃないですか。」(第102話参照)

組織の存在を少しでも隠すためにそこまでやってしまうのが源田という男でした。



山本「それに,俺と源田サンが"例の件"で中野木署を

探った帰りに乗った車にも盗聴器が仕掛けられていた。

後を追わせた部隊の話では相手は小早川の

息子と平成のファーヴルだったそうだ。」(第181話参照)



山本は話を続けます。

源田は黙って聞いていました。



山本「奴らが繋がっていることは懸念事項だぞ。

菊とあのガキこそ,我々にとって最も

危険分子なのは間違いない。」



源田「そうだったな。あの時は部下を連れて,通常訓練の帰りだった。

俺はそのついでにお前と合流して中野木署付近まで行ったんだったな。」




どうやら山本はレオンさんの事をかなり警戒しているため,

今回の暗殺計画を実行し早急に消してしまおうと考えているようです。



第3話 プロローグ 後編

冥界の悪魔シリーズ 序章
山本は小早川教授の息子であるレオンさんの事をかなり警戒していました。

そのため,今回の暗殺計画を実行し早急に消してしまおうと考えているようです。



山本「菊・・・。次は,次こそは必ず壊滅させてやるさ。

奴らは俺たちの組織に楔(くさび)を入れようとした。」



今村「そのセリフ,リ・セ・ッシュでも言ってたらしいじゃないですか。 (第177話参照)

それは沼蛭の彼の死を指しているんですか。でもあれは自殺のはずでしょう。

それにその後,こちらも警視庁のキャリア組を一人葬ったんですから痛み分けでは。

あの時はまだ菊と全面対決したわけではないでしょう。」



シックスユニットの一つ,沼蛭のリーダーは警視庁の

誰かとの抗争の最中に自殺していたようです。



それがどんな抗争だったのかはいずれ明らかになることでしょう。



今村「さて,もう夜も遅い。そろそろ休ませてもらいますよ。」



バベルの中層にも高級ホテルが経営されていました。

JFの幹部たちはそこで不自由ない生活ができるようです。



彼が部屋を出ようとした時,山本が,



山本「ああ,そうだ。元々,ヤツの部下だった

影(シャドー)と大西(グレイ)だったか。

そいつらはちゃんと仕事してんのか?御前に嘆願して,

アンタが自分のユニットに組み込んだんだろ。」



今村が振り返り,



今村「もちろんですよ。私の命じた指令を忠実にこなしてくれています。」

山本「ふんっ。どんな指令を出しているのやら・・・。どうせ教える気はないんだろ。」



山本は特に影(シャドー)の存在が少し気になるようでした。



今村「元々,影(シャドー)とは電話やメールでやり取りをしていたので,

顔を合わせたのは本当につい最近なんです。

君も彼の存在は知っていても面識はないでしょう。

彼って結構,組織の中でも謎な存在なんです。」 (第101話参照)

山本「ずっと一人で沼蛭を運営していた奴の元に,

1年前,御前の勅命により二人の部下が組みこまれた。」



山本の発言に,源田が,



源田「そうだ。だからあの二人は同期ということになる。俺はお前たちと違って,

以前からあの二人と面識がある。森熊は組織の警護と規律を任されているわけだから,

準幹部以上の顔と行動を把握する必要があるからな。」



と補足して付け加えました。



山本「ああ,そうだ。確認しておくが,先ほどの報告にあった,

今村の部下を殺ったのはあんたの直属の部下であるキラーなんだな。」



山本が源田に確認しました。



源田「ああ。奴は殺しのプロだからな。狙撃だけじゃなく

様々な殺しのテクニックを持っている。

遺体を石井軍医に引き渡すことが

決まっていたので,銃を使わずに実行させた。」



山本「俺に勝るとも劣らないコロシ好きなヤツだな。」



山本はなにやら嬉しそうです。



源田「ああ,奴はまさに“冥界の悪魔”だ。

どんな相手でも狙われたら最後,必ず殺される。」



源田は直属の部下であるキラーと

いう人物を相当信頼しているようです。



“冥界の悪魔(キラー)”の異名をもつ

手練れの暗殺者がリク君たちに迫ってくるのかもしれません。



今村は背を向け,手を振りながら部屋を出て行きました。

部屋には山本と源田が残っていました。



山本「まぁいいさ。どのみち菊の幹部は今回の作戦で必ず仕留める。」



彼はいきなりポケットに隠し持っていた

ナイフを壁に向かって鋭く投げました。



刺さった先には写真が貼ってありました。

その人物は今回のターゲットである小早川レオンでした。



山本「親子そろって組織にたてつくとは馬鹿な奴らだ。」



源田「俺はこの後,アヤの所へ行く。アヤから大西(グレイ)に

連絡を取ってもらい,菊の動向を探らせる。

闇の騎士(ダークナイト)が死んだ以上,奴に探らせるしかないからな。」



こうしてそれぞれの思惑を胸に,夜は過ぎていきました。



―少し時間はさかのぼり―



場面は変わってカブクワキングの店内。



すでに営業時間は終わっており,

バイトの灰庭氏が一人で片づけを行っていました。



すると彼の持っていた携帯電話に着信が入りました。







彼は点灯した携帯電話の液晶画面に映る

番号をしばらく見つめ,やがて電話に出ました。



灰庭「こんな時間に何の用で?」



・・・。



電話越しの相手と何か話をしています。



灰庭「なるほど・・・そういうこと・・・。

了解・・・。明日・・・。」



灰庭氏と電話をしているのは一体・・・?



本当にリク君の予想通り,彼が闇組織JFの一員である

大西(グレイ)なのでしょうか・・・?



第1話 レオンのおしゃれな休日

冥界の悪魔シリーズ 第1章
夏の暑い日差しを遮って木々の生い茂る並木道をまっすぐ歩いていくと,

ピンク色の看板に「カフェ・オーシャン」と書かれた,

ブルースカイを基調としたとてもおしゃれなカフェがありました。



先週,新規開店したばかりですが,すでに平日の昼間から

ビジネスマンや大学生の憩いの場となっていました。



そんなカフェに一人の青年が英字新聞を読みながら

熱いコーヒーの香りと味を嗜んでいました。



彼の名前は翠川レオン。



中野木大学の院生で昆虫学を専攻しています。



しかし,それは仮の姿で本当は東京の

警視庁から派遣された警察官でした。



警視庁公安,闇組織JF対策の“菊水華”と

呼ばれるチームに所属していました。



彼は組織を壊滅させるため,闇組織JFの

本拠地がある名古屋にやってきたのです。



「優雅に一人で飲むコーヒーはまた格別にうまい。

こんな時は大学のレポートのことも忘れゆっくりしたいものだ。」




レオンさんは初めて訪れたこの店の

コーヒーをたいそう気に入ったようです。



「しかし現実は,潜入捜査で大学に潜り込んだだけなのに

学生と同じようにレポートの提出をしないといけない・・・。」




レオンさんが一人でぶつぶつと言っていると,

可愛らしい店員が声をかけてきました。



店員「あの,お客様,先ほどから何か独り言をつぶやいていますけれど,

当店のことで何か気になることがございますか。」



店員の胸につけられたプレートには

「立花 馨(かおる)」と書かれていました。



「いえいえ,ちょっと現実逃避していただけなのでお気になさらずに。

あれ,貴方って先日,オイラにこのお店のパンフを渡してくれた人ですよね。」






<カフェの店員 立花 馨(かおる)>



かおる「あ,そういえば!新規開店したばかりなので人が足りなくてマスターと

他のバイトの方と一緒に商店街で宣伝していたんです。」



どうやらレオンさんは街中を歩いていたところ,

たまたまこのお店のパンフをもらい,やってきたようです。



かおる「私,馨(かおる)と言います。

どうぞゆっくりしていってくださいね。」



とても笑顔が素敵な店員でした。



「あ,はい。それじゃあお言葉に甘えて・・・。」



レオンさんが再び英字新聞を読もうとしたとき,

店の入り口から少年たちが声をかけてきました。



それは少年昆虫団のみんなでした。



「あれ,みんな・・・。なんでここに?」



リク君たちはレオンさんの座っている席までやってきました。



「今日はまさらちゃんの長い

買い物に付き合う日だったんだよ。」


「悪かったわね。長い買い物で!」



まさらちゃんは後ろからリク君の背中を小突きました。



「レオンさん,髪型ちょっと変えたんですか?」

「あ,わかる?」







レオンさんは現役の大学生にしか見えませんでした。



「というか,なんかイケメンになりすぎじゃね!?

最初に会った時はもっと,ロン・・・。」(第31話参照)




トシ君はそこまで口に出し,飲み込みました。



「店の前を通ったらたまたまレオンさんが

中にいるのを見かけたから入ってみたんだ。」


「ああ,そういうことね。」



レオンさんは英字新聞を折りたたみ,店員さんを呼びました。



かおる「はい,お待たせしました。」



かおるさんが笑顔でやってきました。



レオンさんは昆虫団のためにジュースを注文してあげました。

オーダーを受けるとかおるさんは店の奥に戻って行きました。



「なんか,可愛い店員さんですね。さっきも何か

デレデレしながら話をしていましたよね。」


「いやいや,別にデレデレなんかしてないよ!」



彼は耳が赤くなり,目が泳いでいました。

動揺していることは火を見るより明らかでした。



リク君が何かに気付いたのか,

レオンさんの体をクンクンとかぎ始めました。



「ちょっと,何してるのよ!?」



するとリク君は,



「いや,なんかちょっと線香の匂いがすると思って。」



と言いました。



「ああ,午前中はちょっと

墓参りに行っていたもんだからね。」


「それってお父さんの墓か?」



イツキ君が聞きました。



「う~ん・・・。」



レオンさんの返事はいまいち曖昧でした。



「まぁまぁ,そんなことよりも追加で

このスイーツも食べたくなったよ!」




トシ君が空気を読まずに勝手なことをしゃべりだしました。



結局,レオンさんは昆虫団と

小一時間ほどカフェで過ごしました。



「実はオイラもこの後,君たちに連絡を

しようと思っていたところだったんだ。」


「ああ,いよいよ明日キャンプだもんね!」



リク君が言いました。



「それもあるんだけど,相談したいことがあったのさ。

それとカブクワキングだっけ?

久しぶりにあの店に行ってみたいんだ。」


「相談?」



リク君はいまいち見当がつきませんでした。



「あんなところに何の用事があるのさ。」



イツキ君が聞くと,



「ほら,オイラは一応,昆虫学の院生でしょ。レポートを

書かないとだめなんだよねー・・・。そのネタに

なりそうなものを探しに行きたいわけ。」




みんなは潜入捜査も大変なんだな,

と思いながらも納得していました。



この後は,キングに向かうようです。



第2話 レオンのゼミ仲間

冥界の悪魔シリーズ 第1章
レオンと少年昆虫団がカフェを出ようと席を

立つと,レオンさんのイヤコムに着信が入りました。



「おっと。こっちはプライベート用か・・・。」



レオンさんはイヤコムの通話ボタンを押し,会話に出ました。



「え?レポートのことで相談したい?オイラも今から材料を

集めようと思っていたところなんだけど・・・。

え?今どこにいるかって?地元に新しくできたカフェ・オーシャンだけど。」




レオンさんの相手はどうやら同じ大学の学生のようでした。



「え?近くにいるから今から店まで来るって?

いいよ,来なくて。え?もうすぐ着くって・・!?」




相手はいきなりイヤコムを切りました。



「相変わらず,マイペースな人だ・・・。

ヤバイ,まじで来るつもりか・・・。」


「なんか,大学院生に成りきって

捜査をするって大変なんだな。」




イツキ君が同情しました。



店の扉が開いて,誰かが入ってきました。



すぐにレオンさんを見つけ,

手を振りながらこっちに向かってきました。



それは,とても大学生には見えないような幼い顔した女性でした。



髪型はセミロングで目がクリっとしていて

とてもキュートな容姿をしていました。



彼女は“一 久遠(にのまえ くおん)”といいました。



久遠「レオン君~!お待たせっだよ!

一緒にレポートを書こうっ!

あ,なんかいいにおいがする。

くおんも何か食べたーい!」



久遠さんはホットドックを注文しました。

程なく料理が届くとパクパクと食べ始めました。





<レオンのゼミ仲間 一 久遠(にのまえ くおん)>



久遠「くおん,コレ大好きなんだー!」



どうやらかなりマイペースな性格のようです。



久遠「さぁレポートだよ!レ・ポ・オ・ト!!一緒に書くんだよっ。

ってかこの子達はレオン君のお知り合い?」



久遠さんはリク達とお互いに自己紹介をしました。



「いや,だからオイラは別に自分一人でも書けるんだって!!」



少年昆虫団はそのやりとりを面白そうに見ていました。



「ははぁん!レオンさんって意外にプレイボーイなんだね。」

「いや,なんでそうなんの!?オイラ,

これでも結構困っている状況なんですけど。」




小声でまさらちゃんにツッコミました。



「いいじゃないですか。可愛い女性が同じ

ゼミにいるなんて。羨ましい限りです。」




「そう,言っていられるのも今のうちだよ・・・。

彼女,ちょっと変わっているから色々と大変なんだよ。」




今度はだぬちゃんにむかって苦言を呈しました。



「でも,この前,大学に行ったときには,

いませんでしたよね?鎌切(カマキリ)っていう

教授だけしか部屋にいなかったと思うんですけど。」




久遠「ああ,え~っとね。う~んと,あの時はぁ・・・。」



大げさなしぐさで何かを思い出そうとしています。



「いや,別にたいしたことじゃないんで

無理して思い出さなくてもいいです。」




久遠「ああ,そうそう。あの日はね,

料理研究部の人たちと料理を作っていたんだぁ!!!」



久遠さんは何かを思い出したようです。



「わぁ,すごい!何を作っていたんですか?楽しそう!!

そういう大学生活ってなんか憧れるなぁ・・・。」




まさらちゃんはうっとりしています。



久遠「えっとねぇ!ゴキブリのチョコレートフォンデュ!

メタリックな色とチョコの色が上手いこと調和して最高なんだよね!」



「チーン!」



まさらちゃんはその場に倒れこみました。



「あたしのあこがれ大学キャンパス

ライフのイメージを返して・・・。」


「まさらちゃん,大丈夫・・・?気持ちはわかるぞ!」



もちろんゴキブリっていってもその辺に生息する

ものではなく,海外から輸入した食用ゴキブリだそうです。



久遠「あとはね,ゲンゴロウのスープ!

これもまた漢方薬みたいな味がしておいしいんだなぁ!」



「それは美味しいというのか・・・。」



今度はイツキ君があきれながらそう言いました。



久遠「あとはねぇ・・・。」



「もういいから・・・。わかったよ,

一緒にレポートを書く,書くから・・・。」




レオンさんはすでに疲れ切っていました。



「な,この人・・・結構大変だろ・・・。」



レオンさんの発言に少年昆虫団は全員同意しました。



第3話 灰庭とレオンと久遠

冥界の悪魔シリーズ 第1章
レオンと昆虫団はカフェを出て,商店街から少し歩いたところにある,

伊藤店長が経営するカブクワ専門店のキングにやってきました。





レオンさんのゼミ仲間である,

一 久遠(にのまえ くおん)さんも

一緒についていくことになりました。



伊藤「おお,リク君。今日も来たのか。いいねぇ,飽きないで!」



店長の威勢のいい掛け声に,



「うん,ここのカブクワはみんな

元気で毎日見ていても飽きないんだ!」




と元気よく答えました。



伊藤店長の胸にはタグがかけられており,

「伊藤 整二(いとう せいじ)」と書かれていました。



伊藤「あれ,後ろの人は・・・。」



「裏のアパートに住んでいる翠川レオンです。

ここへは以前も来たことがあると思います。

前回もこの子たちとご一緒したと思うんですが,

その時は,バイトの方が対応してくださったような・・・。」




すると,奥からまりんちゃんと

灰庭さんが出てきました。



まりんちゃんのタグには「海野 真凛(うみの まりん)」,

灰庭さんは「灰庭 健人(はいば けんと)」

とそれぞれ書かれていました。



まりん「みんな来てくれたんだ。でも,ごめんね。

今,ちょっと忙しくて遊んであげられないんだ。」



どうやらまりんちゃんはまたしても

新商品の棚卸のため忙しいようです。



灰庭「たしか,小早川さんでしたよね。またお会いしましたね。」



「ええ,そうでしたね。リク君から聞いたんですけど,

あなたも中野木大学に通っているんですよね。」




レオンさんが彼に近づき,話しかけました。



灰庭「そうです。僕の場合は,教授のお手伝いをしているだけですけどね。

ただ貴方とは学部が違うみたいなのでなかなかお会いする機会がありませんね。」



久遠「あ,くおんも同じ大学ー!一緒だねぇ!!

なんかすっごいイケメンさんだね!同い年かな!?」



久遠さんが二人の間に入ってきました。



灰庭「ボクはこう見えて結構,おじさんなんですよ。年は30歳です。」



久遠「ええぇ!うっそぉ!そうは見えない!!

なんかすっごいアンチエイチングやっているの??」



久遠さんは一人で勝手にテンションが上がっています。



久遠「年上の男性すごーい!かっこいい!!

素敵すぎてほわわんになってしまうかも。」



「(え,何を言っているんだろう,この人は・・・。)」



まさらちゃんもだんだんついていけなくなってきたようです。



「あれ?確かレオンさんも30だったよね。同い年ってことか?」

「しっ!久遠さんには一応23歳だと

言ってあるので,そのことは内密にね。」




イツキ君は,ああそうだったと納得しました。



「え?久遠さんも23歳なんですか?

全然そうは見えないですね。」




久遠「そっかなぁ?よく言われるけどなんでだろぉ。

あ,そっか!普段から昆虫食ばかり食べているから

美容にいいのかも!?まさらちゃんだっけ?今度一緒に食べてみる!?」



バタッ・・・。



「チーン・・・。」



まさらちゃんは再びその場に倒れこみました。



灰庭「それで今日はどんな御用で?

何か欲しいカブクワでも決まっていますか?」



灰庭さんが接客スマイルで聞いてきました。



レオンさんはしばらく店内を見渡し,

ある昆虫の前で足を止めました。



その昆虫とは・・・。



第4話 キャンプへ行く約束  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
レオンさんはミヤマクワガタの入って

いるケースの前で立ち止まりました。





「う~ん・・・。やはり虫は怖い・・・。」



灰庭「おや,ミヤマですか。好きなんですか?」



「ええ。ミヤマってなんかかっこいいですよね。

せっかくだからコレでレポートでも書こうかな。」




レオンさんはレポートの研究素材を探しているようでした。



久遠「へぇ,面白そうだね!くおんは,

何に何に何にしようかなぁ~しようかなぁ~。」



彼女の同じ言葉を繰り返すしゃべり方に,

だぬちゃんもだんだんとイライラしてきました。



「好きにすればいいと思いますよ・・・。」



灰庭さんはケースを目の前に持ってきてくれました。



店長「ちょっと,ここは任せるぞ~。俺は他の客の接客をしてくる。」



店長はそう告げると,その場から離れていきました。



灰庭「僕もミヤマが大好きなんですよ。

でも名古屋じゃなかなか採集できないですよね。」



「そうなんですよね。」



二人はミヤマの話で盛り上がり始めました。



「あ,でもさ,明日行くキャンプ場の周辺

だったら採集できるんじゃない?

ガイドマップにそう書いてあったと思うよ。」


「そういえば,そうだったね。

じゃあ明日の夜はミヤマ採集ができそうだ!」




レオンさんは嬉しそうにしていると,



灰庭「へぇ,キャンプへ行かれるんですか?どちらまで?」



リク君が場所を告げました。



灰庭「面白そうですね。しかも

ミヤマまで採集できるとは興味深い。」



「なんなら灰庭さんも一緒についてくる?

一人くらい増えてもコテージだから平気だよ!」




まさらちゃんが灰庭さんをキャンプに誘ってみました。



「おい,いいのか!?あいつは“闇組織JF”の

スパイ,“グレイ”かもしれないんだろ?」




イツキ君がリク君だけに

聞こえるように言いました。



「そうなんだけど・・・。でもこうやって

みていると,とても悪い人には見えないんだよなぁ・・・。」




そんなことを言っていると,灰庭さんが



灰庭「え?いいのかい?」



と,すでに乗り気になってきました。



久遠「はいはい~!くおんも

一緒について行きまーす!」



久遠さんが横から立候補してきました。



「いや,今回は久遠さんはちょっと・・・。

また今度,どこかへ連れていってあげますから。」




久遠「ええ~!なんかくおんだけ

仲間外れ~!?ずるいよぉ~!」



久遠さんはしばらくダダをこねていました。



「まぁ,仕方ないわな・・・。いくらなんでも彼女でも

ない女を泊まりで連れて行くわけにはいかんからな。」




イツキ君は相変わらず大人目線での発言ができる少年でした。



しかし,レオンさんの真意は別にありました。



この面倒臭いゼミ仲間とこれ以上,

深くかかわりたくなかったのです。



「え?レオンさんって彼女さんいるのかな?

久遠さんじゃないんだよね?」


「知らないよ。でもあの人は彼女じゃないだろ・・・。

あんなのがレオンさんの彼女だったら俺は泣くぞ・・・。」




レオンさんの女性関係は謎のままです。



灰庭「それでは僕も明日,ご一緒させてもらってもよろしいですか?

もちろん余分にかかる費用はお出ししますので。」



イツキ君は少し渋りましたが,結局,

灰庭さんも参加することが決定しました。



どうやら明日からのキャンプは

灰庭さんも加わり,大賑わいになりそうです。



「久遠さん,レポートの件はキャンプから帰ってきてからでいいかな?

フィールドワークした内容を必ずまとめて報告するからさ。」




久遠「う~ん,仕方ないなぁ・・・。

そのかわり,またあのカフェでデートしようね!」



久遠さんがレオンさんに顔を近づけ,

にっこりとほほ笑みかけました。



「ああ,わかったよ。だから今日は,お開きにしよう!」



久遠「うん,わかった!また連絡するね!」



久遠さんは,その足で自宅へと帰って行きました。



第5話 レオンの相談事  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
キングを出る前に,明日のキャンプのことに

ついて灰庭さんと打ち合わせておきました。



その帰り道,レオンさんは先ほどカフェで

相談しそこなったことを話したいと言いました。



ちょうど近くに噴水のある程よい大きさの

公園があったのでそこへ入っていきました。



みんなは公園内にある噴水のふちに腰掛けました。





「それで,どんなことなの?」

「実は,昨日からどうも誰かに

見張られている気がするんだ。」




レオンさんの表情はいつになく真剣でした。



「え?それってどういうことですか?」



とだぬちゃんが聞きました。



「わからない。もしかしたらJFの刺客が

オイラのことを探りに来たのかもしれない。」




イツキ君は思わず辺りを見渡してしまいました。



「何も・・・いない気がするが・・・。」

「いや,いる・・・。気配をかすかに感じるんだ。

オイラにしか分からない,ほんのわずかだが・・・。」




それを聞いてリク君も周りに注意を

払ってみましたが,わかりませんでした。



「なんかもしかしてヤバイ感じ?」

「ちょっと,不安を煽らないでよ!」



トシ君が不安をあおります。



「そうだね・・・。ひょっとして奴らの

暗殺計画のターゲットはオイラなのかもしれない。」




その推理にみんなは驚きを隠せませんでした。



「確かに,ありえるかもしれない。組織はレオンさんが

小早川教授の息子だってことは知っているはずだよね。」


「おそらくね。少なくとも研究所の人間は知っているはず。」



組織の山本たちがこの事実を知ったのは

つい最近で,石井軍医から知らされたようです。



石井軍医は山本のことを嫌っていたので,

ノアの書の探索と教授を殺害する依頼を出した時も,

必要最小限の情報しか与えなかったのです。



これは闇組織JFとJF生命工学研究所が立場上は対等で,

独立した存在だから許されることなのでしょう。



この時,レオンさんの直感は当たっていました。



公園から200mほど離れた茂みの中から

双眼鏡を使ってレオンさんを観察している人物がいました。



帽子を深くかぶり,サングラスとマスクを

しているので表情は読み取れません。



しかし,レオンさんのことを監視

している人物が確実にいるのです。



「ねえ,この前渡しておいたノアの書は持っている?」



イツキ君は偽ノアの書を作り,影(シャドー)を使って組織へ返し,

本物はレオンさんに預けることにしていました。



「ああ,県警本部の重要機密文書保管室の

中で厳重に保管してあるよ。それがどうしたんだい?」


「いや,もしかしたらあのノアの書が偽物だってバレて,

それでレオンさんが狙われるだとしたらちょっと申し訳なくてさ。」




それはイツキ君なりの気遣いでした。



「大丈夫さ。例えバレたとしても,問題ないし,

そんなことで君が気を病むことはないよ。」




イツキ君はその言葉を聞いて少し気持ちが落ち着きました。



「でも,これからどうします?そんなに心配なら赤神さん

とかに報告しておいたほうがいいんじゃないですか?」




だぬちゃんが提案しました。



「ああ,それがいいかもね。」



トシ君は噴水の水を飲みながら同意しました。



「そうだな,今から赤神さんのところまで行ってみるか。

今日は神社にいるって言っていたから君たちも一緒に来るなら,

この後の昆虫採集も兼ねて神社へ行こうか。」




レオンさんは一度アパートへ戻り,車を取りに行きました。



そして,リク君たちは明日のキャンプの用意を済ませ,

少し早い夕食を食べてから,レオンさんの車で

赤神さんのいる神社へと向かいました。





第1章6~12話

第6話 菊,神社に集結  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
レオンさんが赤神氏に連絡を入れると,

青山氏と桃瀬氏も呼んで,二宮神社に

落ち合うことになりました。



時間は夜の8時を過ぎていました。



駐車場に車を止め,神社の鳥居をくぐると,

赤神氏が境内の前で待っていました。



奥へ進み,赤神が神主でいる時に

生活している部屋の中に案内されました。



部屋は12畳ほどの畳部屋で

机と座布団が置かれていました。



すでに青山さんと桃瀬さんは中で待っていました。



青山「お疲れ。」



桃瀬「昨日は大変だったよね。まだ,

羽音々(はおとね)の意識は戻らないみたい。」



昨日未明に黄金原が闇の騎士だと暴かれ,

自暴自棄になり元部下の羽音々を刺し,重傷を負わせました。



最も,黄金原はリク君に圧倒的な力で打ちのめされ,

組織の狙撃手であるキラーに射殺されてしまいました。



赤神「黄金原の件だが,被疑者死亡のまま書類送検だ。

機密文書の窃盗,地方公務員法違反,そして殺人未遂罪となる。

結局,組織の全容は明らかにならないまま,この件は終わりそうだ。」





<赤神 俊一(あかがみ しゅんいち)>



赤神は一番の奥の席に腰かけ,

少し残念そうに語りました。



昆虫団とレオンさんも空いた席に

座らせてもらい,本題に入ることにしました。



「気づいたのは昨日からですが,どうやら

オイラの周りに不審な気配を感じるんです。」




青山「と,言うと?」



<青山 輝樹(あおやま てるき)>



青山氏は内ポケットに持っていたたばこを

吸おうとしましたが,子供の視線に引け目を感じて引っ込めました。



赤神「まさか,お前が組織の暗殺計画の

ターゲットになっているということか?」



「俺はその可能性が高いと思う。」



イツキ君がそう言いました。



桃瀬「どうして?」



<桃瀬 加奈(ももせ かな)>



隣に座っていた桃瀬さんが

イツキ君に聞きました。



「レオンさんは以前,組織の影(シャドー)っていう奴と

ノアの書の件でやり取りをしていて面識がある。

それに小早川教授の息子だから・・・。」




赤神「そうだな。教授から何か組織の情報が洩れているんじゃ

ないかと警戒して翠川を消そうとしている可能性は大いにある。」



赤神氏は腕を組みながら頷きました。



桃瀬「そうだとしたら,翠川君に護衛をつけて警護

しないと・・・!でないと,あの時みたいに・・・。」



桃瀬さんは悲しげな表情でそう言いました。



「大丈夫,オイラに警護は必要ないよ。

それに明日はここにいるみんなとキャンプへ行く予定だしね。」




青山「おいおい,何を呑気なことを・・・。

敵を甘く見るな。あの時のことをもう忘れたのか。」



青山さんがレオンにくぎを刺しました。



「あの時のことって何・・・?」

「気になりますね。何かあったんですね?」



リク君とだぬちゃんが聞きました。



一瞬,その場が静まり返りました。



トシ君が場を和ませようと机の上に登って

裸踊りをしようとしましたが,

まさらちゃんに睨まれたので止めました。



赤神「・・・。そうだな。君たちには話しておいた方がいいかもしれん。

我々と闇組織JFとのこれまでの抗争の歴史を・・・。」



「ああ,ぜひ聞きたいな。すでにもう俺たちはあの組織と

大きくかかわりのある当事者だぜ。全てを教えてくれ。」




赤神氏は少しためらって,



赤神「翠川,いいな?お前の同期の一人が殺された話を

この子達にすることになるが・・・。この子達の反応を

見る限り,お前の口からはきっと伝えていないんだろう。」



赤神さんの発言に昆虫団のみんなは

驚きを隠せませんでした。



「レオンさんの・・・?」

「同期が殺された・・・?」



二人はレオンさんに視線をやりました。



「もしかして,それってさっき話していたお墓参りのこと・・・?

お墓に眠っている人がレオンさんの同期の人だったの・・・?」


「ええ,かまいません。この子達には

すべてを知る権利があると思います。」




赤神さんは,



赤神「わかった」



と,小さく呟くと少し昔の話を始めました。



第7話 レオンの同期①  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
少年昆虫団と菊の幹部たちは二宮神社に集まっていました。



そこで赤神さんから菊水華の結成と闇組織JFとの

これまでの争いについて深く聞くことになりました。



赤神「2年前,俺は定年退職した上司が以前所属

してた公安部のあるチームについて興味を持った。

その上司から聞くと,日本を壊滅に追い込み,国家を破壊し,

そこに新たな国を作ろうとしている巨大な闇組織があると教えてくれた。」



その闇組織こそがJF(ジャパノフォビア)でした。



上司が所属していたチームは,彼らを壊滅させるために結成したものの,

大きな成果が挙げられていないということで,

当時の愛知県警公安部長によって解体させられてしまいました。



そこで,赤神氏は警察庁へ出向き,自らが

リーダーとなって再度そのチームを結成し,

捜査が続けられるように嘆願しました。



粘り強い交渉の結果,いくつかの条件をもとに,チームは再結成され,

"菊水華"という名前で闇組織JFを追うことになりました。



「そうだったんだ・・・。」



赤神さんの話は続きます。



赤神「そして,JFが全国にネットワークを持っていることが

これまでの資料からわかっていたので,全国の県警本部に

お願いをして優秀な警察官を集めたいと考えたんだ。」



その結果,各方面からの代表として青山氏,

桃瀬氏の二人が採用されたそうです。



それが1年半前のことでした。



レオンさんが菊に加入したのは今から約1年前だったようです。



「オイラは当時,警察庁の勤務だったが,

ちょうど警視庁に出向することになっていた。その時,赤神さんと

出会い,菊に来ないかって誘われたんでしたよね。」




赤神「警視庁に切れ者がいるって聞いたんで,名古屋から飛んで行ったんだ。

二つ返事でOKしてもらったときはとても嬉しかったことを覚えている。」



レオンさんは,自分の父が何か危険なことに

巻き込まれていないか,少し心配をしている時期でした。



そんな時に,日本には闇組織が存在すると

いうことを知って,菊に加入することを決めたようです。



「黄金原さんが加入した時には,すでに本物の彼は・・・。」



赤神「ああ,先ほど福岡県警から連絡があってな。彼の自宅の庭から白骨死体が見つかった。

現在,DNA鑑定中らしいがおそらく本物の黄金原 聡(こがねはら さとし)だろう。

菊へ加入することが決まったことが奴らに知れ渡り,

黄金原は闇の騎士(ダークナイト)によって殺害されてしまった・・・。」



まさらちゃんはその情報を知った時,とても悲しい気持ちになりました。



もし,本物の黄金原さんが生きていて,羽音々さんと結ばれたら

どんなにか幸せだったのだろうと思わずにはいられませんでした。



「それで,さっき言っていた,あの事の話はいつ始まるんだ?」



イツキ君が少しせかしました。



赤神「ああ,そうだったな。あれは4カ月前のことだ。

死んだのは翠川の同期,茶竹(さたけ)という男だ。」



「オイラから話します。」



レオンさんはそう言って,静かに口を開き始めました。



4か月前(4月)の東京都警視庁内部・・・。

レオンさんには警察学校の同期が何人かいましたが,



そのうちの二人が警視庁に勤務していました。



一人は警視庁捜査2課のキャリア組で名前を茶竹 銀(さたけ ぎん),



茶竹 銀(さたけ ぎん)



もう一人は組対5課の課長で紺野 航(こんの わたる)といいました。





紺野 航(こんの わたる)



紺野という名前は内部調査用に使用する偽名です。



昼休みの休憩中にレオンさんは茶竹に

呼ばれて捜査2課内の奥の個室にいました。



茶竹「実は,ついにあの巨大企業の大物に令状が出た。罪状は株のインサイダー取引,

および有価証券偽造の容疑だ。半年ほど前から内々に捜査を進めていたんだ。」



「それがオイラをここに呼んだ理由か?」



レオンさんの返事はいまいちそっけないものでした。



第8話 レオンの同期②  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
捜査2課内でレオンさんは

同期の茶竹と話をしていました。



茶竹「まぁ,お前には本来は関係のない話だ。

警察庁から出向中だし,そもそもが管轄外だからな。」



「ああ,そうだな。だがお前がこうして世の中の悪事を暴き,

自分の正義を貫こうとしていることについては応援しているつもりだ。」




レオンさんは机に置かれていた湯呑のお茶をぐっと飲み干しました。



茶竹「今回の逮捕劇は,世の中がひっくり返るかもしれない。

そして実はお前が今,所属しているチームにも

関係があることがあるかもしれないんだ。」



レオンさんの目つきが変わりました。



「どういうことだ?」



茶竹「逮捕状が出たのはあのジャファコンツェルンの系列企業のCEOだ。

知っての通り,ジャファといえば日本一の巨大企業グループだろう。

彼らは政治家,警察,司法関係にも多くのコネを持っている・・・。

警察だっておいそれと手を出せる存在じゃない。」



レオンは立ちあがって茶竹氏に駆け寄りました。



「ジャファだと!?」



一度冷静になり,もう一度聞き返しました。



茶竹「そうだ・・・ジャファだ。名前は山口多門(やまぐち たもん)35歳。

系列会社のジャファITのCEOを務めている人物だ。

かなり巨額な金を投資で動かしているみたいなんだが,

とある企業を裏で脅迫し,内部情報を事前に得て,インサイダー取引を行っていた。」





どうも容疑が固まったことで裁判所から令状が出たようです。



「ジャファは菊水華が追っている闇組織だと,知っていたのか?」



茶竹「俺は赤神さんとも面識があるんだ。闇組織の

ことは少し前に聞いたことがあった。この山口という人物は

組織の中でもかなりの大幹部らしい。うまくいけば芋づる式に

組織の連中を逮捕できるかもしれないぞ。」



茶竹の顔は自信にあふれていました。



「そうか。これは朗報だ。いつ身柄拘束に動くんだ?」



茶竹「午後から,捜査会議を行う。

終了し次第,会社に乗り込むつもりだ。」



レオンさんは自分も連れて行ってほしいと頼みました。



茶竹「そう言うと思ったよ。捜査会議に参加することを

認めるように現場の連中に言っておく。

今回の件は一応,俺が捜査指揮を担っているからな。」



まだ30歳になったばかりの彼が捜査の指揮を

任されるということは相当の実力と人脈が

なければできることではありません。



この茶竹という人物はレオンさんに

負けず劣らず優秀な警察官だったのです。



「あいつはこのことを知っているのか?」



茶竹「紺野のことか?今回の件はあくまで

捜査2課の仕事だ。組対5課は関係がない。」



紺野氏とはレオンさんのもう一人の同期で

組対5課の課長を任されている人物でした。



「そうか。だからお前は“菊”を

動かすためにオイラを呼んだんだな。」




茶竹「そういうことだ。それにもう一つ報告があってな。」



茶竹氏は一瞬,言葉に詰まりましたが続けて,



茶竹「俺,3ヶ月後に結婚することになったんだ。

だから今回の件で手柄を立てておかないと

格好がつかなくてな。お前の力を借りたかったんだ。」



少し照れ笑いしながらそう言いました。



「お前が結婚!?いつの間に,彼女を作ったんだ。

おめでとう。ったく,抜けがけしやがって!」




レオンさんは自分のことのように嬉しそうでした。



しかし,残酷なことに茶竹氏が

結婚式を迎えることはないのです。



茶竹「お前こそ,結婚の予定はないのか?」



「ない。オイラはひとり身の方が楽だ。

少なくともこの件が片付くまではね・・・。」




第9話 レオンの同期③  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
レオンさんは捜査会議に参加し,終了後,逮捕状を持つ

茶竹氏とその部下達と共にジャファITへと向かいました。



出発前に同期の紺野氏と警視庁の

出入り口手前のせまい廊下ですれ違いました。



紺野「大手柄みたいだな。うらやましい限りだ。」



そう言いつつも心はこもっていませんでした。



茶竹「悪いな,紺野。俺はこれを足掛かりにもっともっと偉くなるつもりだ。

"正しいことをしたかったら偉くなれ",が俺たちが教官から教わった言葉だからな。」



茶竹は部下を引き連れそのまま廊下を進んでいきました。



最後方にレオンさんがいました。



「今回の件は,菊にとっても重要な事件になるかもしれない。

場合によってはお前の力が必要になるかも・・・。

赤神さんのことはお前も知っているよな?」




紺野「ああ。この前,話をする機会があった。

でも俺が力になれるかはわからないって言っておいたよ。

俺は茶竹と違って出世に興味も無い。

無理に手柄をあげる必要もない。」



どうもこの紺野という人物は茶竹氏に比べると

出世欲がなく,惰性で警察官を務めているだけのように見えました。



それでいて課長を任されるということは

一体どういうことなのでしょうか。



レオンさんはため息をついてそのまま彼と別れました。

一行はIT本社の前まで警察車両で仰々しくやってきました。





ジャフファIT本社の受付で用件を伝え,エレベーターに乗り込みました。

そのエレベーターは景色が見えるように透明なガラス貼りになっていました。



ビルの半分くらいまでエレベーターが上った時,上から何かが降ってきました。

それはあまりに一瞬のことでしたが,確かに人影でした。



茶竹「おい,今のはなんだ!?」



「まずいぞ,人だ,今のは確かに人が上から落ちてきた!」



猛烈に嫌な予感を胸に秘め,エレベーターが

最上階に到着するのを待ちました。



すぐに山口がいると思われる部屋に乗り込みましたが,姿が見えません。

ちょうどその時,清掃会社の社員と思われる人物が屋上へ続く階段から降りてきました。



茶竹「おい,あんた。この会社のCEOを見なかったか!?山口という人物だ。」



清掃社員「ああ,その方ならさきほど屋上へ上がっていきましたよ。

私はその階段をずっと掃除していましたから間違いありません。」



清掃業者の社員は一礼をしてエレベーターで下へ向かっていきました。



茶竹氏は下で待機している部下に携帯電話をかけました。

レオンさんは屋上へ上がっていきました。



茶竹「そうか・・・。クソッ!?」



茶竹氏も屋上に行き,レオンさんの耳元で呟きました。



茶竹「山口が自殺した・・・。下に遺体が・・・。

ちくしょう!あと一歩だったのに!!」



彼はこらえきれない悔しさで力いっぱい地面をたたきました。



「これが闇組織ジャファ・・・。組織を守るためには

ためらいもなく自らの命を絶つのか・・・。

オイラはもしかすると,とんでもなく手ごわい連中を

相手にしようとしているのか・・・。」




結局,山口は自殺と断定され,被疑者死亡の

まま書類送検され,捜査は終了しました。



第10話 レオンの同期④  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
山口の死は名古屋にあるジャファの

本部でもすぐに伝えられました。



闇組織JFの本部,通称”バベル”の内部には

JF幹部が集まる会議室がいくつか存在します。



そのうちの一室に,源田,アヤ,今村,東條,山本の

各ユニットのリーダーが集結していました。



さらに源田の横には組織からの命令で暗殺を

担う“キラー(冥界の悪魔)”も同席していました。





源田「沼蛭の山口が死んだ。警視庁の捜査2課の茶竹という人物に追い込まれ,

自らの最期を悟ったのだろう。組織を守るため,死を選ぶとは立派だ。」



山本「源田サン,水を差すようで悪いが俺はそうは思わない。

組織のことを想うならサツに疑われた時点で死ぬべきだった。」



非情な山本の言葉に誰も言い返しませんでした。



山本「ただ,奴らが組織に傷をつけたのは事実。

この借りは今すぐにでも返すべきだ。」



それを聞いたアヤが,



アヤ「そうね,こちらとしてもやられっぱなしと

いうのは気にいらないわ。ねぇ,そう思わない?キラーちゃん!」



アヤは源田の横に立っていたキラーに振りました。

暗にキラーに報復を促しているようでした。



キラーは何も言いませんでした。



源田「当然,報復措置を取る。この茶竹という人物を直ちに殺害する。

しかし,表だってやればこちらが疑われる。

あくまで事故に見せかけることが大事だ。キラーは暗殺全般を

こなすがあくまで専門は狙撃だからな。今回の件には向かない。」



源田は山本を見ました。



山本「任せな。報復は俺たち山犬がやる。いいな,東條。」



山本の反対側に座っていた東條はそう言われ,

首を縦に振り,了承の返事をしました。



<川蝉のユニットリーダー 東條>



源田「山口の部下,大西と影(シャドー)はどうする?

部下に組み込まれてまだ1年もたっていなかったはず。

あいつらもいきなりリーダーを失ってしまうとは・・・。」

今村「フォッフォッ。それはまたいずれで良いのでは

ないでしょうか。なんなら私が引き取ってもかまいませんよ。」



今村の提案に源田は,



源田「そうだな。それについては御前の

判断を仰ごう。御前の勅命が出ればそれが全てだ。」

山本「ああ,そうだ。御前のお言葉は

全てにおいて優先される。それが勅命だ。」



御前の存在はまるで新興宗教の教祖の

ように絶対視される畏怖の対象となっているようです。



それはあの山本ですら例外ではありませんでした。



源田「今日はもう一つ重大な議案がある。」

アヤ「何かしら?」



アヤは自分の髪をいじりながら退屈そうに聞きました。



源田「生命工学研究所から入った情報によると,施設内で

培養していた神の遺伝子を持つカブトムシ,

"漆黒の金剛石"が何らかの理由で全滅したらしい。」



話を聞いていた東條氏が



「それは一大事。」



と発言しました。



源田「東條の言う通り,これはかなりまずいことだ。

すでに御前のお耳も伝わっているが,明日,臨時の

御前会議が開かれることになった。」




なんと漆黒の金剛石は一度,

全滅してしまっていたのでした。



源田「おそらく『再度,漆黒の金剛石を見つけ,早急に

培養させ最後の研究を完成させよ』,と勅命が出ると思われる。」

アヤ「でも,今って4月でしょ?夏にならないと見つけようが

ないんじゃない?そもそもアタシ,あの虫,嫌いなのよね。」



アヤは変わらず面倒臭そうにそう言いました。



源田「だから,今から以前発見した場所を含め,

中部地方一帯を捜索対象にし,目星をつけておく。」




源田氏は話を続けます。



源田「そして6月中旬以降から一斉に捜索をかけることになるだろう。

それまで研究は基礎的な部分を除き,一時的に中断されるようだ。」



どうやら,漆黒の金剛石は今から4カ月前の時点で

何らかの事情により全滅してしまったようです。



そこで,再度捜索されるようになり,旭森林公園で昆虫採集に

来ていたリク君たちと,山犬は偶然にも出会うことになるのです。



こんなバベルでのやり取りなど当時のレオンさん達は知る由もなく,

ただ沼蛭のリーダーである山口をあの世に逃がして

しまった後悔で悲しみに打ちひしがれていました。



そうして,1か月の月日が経ちました。

それは5月,ゴールデンウィーク中のことです。



第11話 レオンの同期⑤  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
今から3か月前・・・。



5月のゴールデンウィーク中のことです。



茶竹氏は休暇を取り,一人で東京の

郊外を自家用車でドライブしていました。







本当はフィアンセと一緒にデートをする予定だったのですが,

向こうの都合でキャンセルされてしまったので仕方なく,

少し遠出して気分転換をすることにしたのです。



平地を抜け,山を1つ超えたその先の峠でそれは起こりました。

急に視界の外から対向車が線をはみ出してきました。



その対向車を避けようと急ハンドルと急ブレーキを

踏んだのですが,なぜかブレーキが効きません。



勢いあまってガードレールを突き破り,そのまま車ごと落下・・・。

救急車が駆け付けた時にはすでに虫の息だったそうです。



知らせを聞いて,レオンさんと同期の紺野氏も

すぐに病院に駆け付けたのですが,会話はできる状態でなく,

懸命の治療のかいもなく,二日後に息を引き取りました。



彼が病院に運ばれた時,すでにかなりの重傷で治すことが

できるのは各務原記念病院に勤める伝説の外科部長

“北坂”だけと言われていたのですが,当日は海外に

出張に行っており,オペに間に合わなかったのです。



「なんでこんなことに・・・。」



遺体は霊安室に運ばれました。



そこには事故後ずっと看病を続けていた

フィアンセとそのご両親の姿もありました。



フィアンセはもう一度,

茶竹氏の顔を指でそっと撫でました。



フィアンセの名前は槙原 愛(まきはら あい)と言って,

年齢は茶竹氏よりも二つ下で,職場の後輩でした。



槇原「こんなことなら,私も一緒についていくんだった・・・。」



「どうしても外せない仕事が

急に入ってしまったんですよね・・・。」




レオンさんも悲しみを必死にこらえ,声を絞り出しました。



親しい人が突然亡くなる時,どんな言葉を

発していいのかわからなくなる・・・。



まさにそんな状態でした。



紺野「レオン,ちょっといいか。」



紺野氏はレオンを連れて,病院の外に出ました。



「どうした?」



紺野「なぁ,茶竹のやつは,本当に事故だったのか?」



レオンさんは最初,彼の言っている意味がわかりませんでした。



紺野「つい先月,あいつは超大物の幹部を捜査して追いつめた。

その1か月後に交通事故で亡くなるって,偶然にしちゃ,おかしくないか?」



レオンさんは胸の奥で猛烈に嫌な予感がしてきました。



彼はすぐに赤神氏に連絡を取りました。

そしてことの顛末をつまびらかに伝えました。



二週間後・・・。



レオンさんは紺野氏と赤神氏の三人で警視庁内の幹部クラスしか

入ることが許されない特別な部屋で打ち合わせをしていました。



紺野「組織的な報復が疑われたので我々が

あいつの車を調べました。その結果がこちらです。」



そこには分厚い報告書がまとめられていました。



「この短期間でよくこんなにまとめられたな。

お前も本気出せばこれくらいやれるんだな。」




紺野「友人のことだからな。ほっとけないだろう。

俺達には真実を明らかにする義務がある。」



赤神氏も深くうなずきました。



赤神「君も我々,菊水華のメンバーに誘いたいくらいだ。」



紺野氏「いやぁ,私などが参加しても何のお役にも立てませんよ。」



第12話 エピローグ  

冥界の悪魔シリーズ 第1章
報告書には主にブレーキの動作環境についてまとめられていました。



強力な妨害電磁波をダイレクトに浴びることで

ブレーキが効かなくなってしまう,とのことでした。



つまり,ぶつかってきた対向車が意図的に妨害電磁波を

茶竹氏の車に発射し,ブレーキを効かなくした状態で,カーブを

曲がらせないようにすればあの事故は起こりえるとのことでした。



これはのちに判明することですが,ニセの黄金原氏の元で

働いていた部下も同じ手口で事故死をしています。



この時も,なぜか上の判断は事故死で処理をしろとの事でした。



赤神「ただ,目撃者もなく,対向車の存在はつかめていないんだろう。」



紺野「ええ,直前に見かけた高齢者がいるのですが記憶があいまいでして・・・。

ただ,日本ではあまり見かけない車だったと証言していました。」



これは闇組織JFによる報復なのでしょうか。



「間違いなく,奴らです。絶対に許さない!」



赤神「証拠がない以上,捜査はできない。それが

上の判断だ・・・。すでに事故として処理されたらしい。」



レオンさんは怒りを抑えきれない様子でした。



「クソッ!どうなっているんだ。」



紺野「まぁ,“正しいことをしたかったら偉くなれ”か・・・。

あいつが特に気に入っていた言葉だったな。」



闇組織JFの幹部を追い詰めながらも

あの世へ逃げられてしまいました。



レオンさんは同期であり友人を犠牲に

してしまったことを何よりも悔やみました。



だからこそ,父親まで失った時,本気で組織を

壊滅させなければいけないと改めて誓ったのでした。



レオンさんは話を終えて,ふぅっと深いため息をつきました。







「俺たちと出会う前にそんなことがあったなんて全然知らなかった・・・。」

「うん・・・。お父さんを失う前に友人まで失っていたなんて・・・。」



少年昆虫団のみんなも話を聞いて気持ちが沈んでいました。



青山「それで,結局どうするんだ?お前に護衛をつけなくていいのか?」



元々はレオンさんが誰かに付け狙われて

いることの相談でここにきていました。



「ああ,それは大丈夫。オイラにはここに

最強のボディガードたちがいるからね。」




レオンさんは昆虫団に視線を向けました。



「いやぁ,照れるなぁ・・・。」

「多分,だぬやトシ君は数に

入っていないと思いますよ・・・。」




赤神さんは少し考えてから,



赤神「わかった。とりあえず今日は報告だけ受け取ろう。

ただし,何かあった場合はすぐに教えるんだ。

奴らは手段を選ばない。いつ,どこで,仕掛けてくるかわからない。」



全員が深くうなずきました。



桃瀬「キラーっていうのが襲ってきたら

アタシが返り討ちにしてあげるから安心してね!」



桃瀬さんがレオンさんの肩を

ポンポンとたたきながら微笑みかけました。



「いや,そう簡単に銃器の携帯許可は

おりないでしょ・・・。頼むから街中でぶっ放すのだけは

やめてくださいよ・・・。ここは日本ですからね!」




桃瀬「ふふふっ!」



この後,いくつかの打ち合わせを

した後,お開きとなりました。



明日はいよいよ灰庭さんも

加えてキャンプへ行くことになりました。



リク君たちは無事にキャンプから

帰ってこれるのでしょうか・・・。



<冥界の悪魔シリーズ 第1章 完>



第2章1~8話

第1話 プロローグ

冥界の悪魔シリーズ 第2章
闇組織JFは警察公安"菊水華"の幹部,

小早川レオンを暗殺する計画を立てていました。



彼らの拠点である名古屋駅のツインタワー,

通称"バベル"にてその作戦の最終確認が行われています。



時刻は20時を過ぎていました。



タワー最上階の会議室に組織の幹部である

山本,源田,今村,アヤが集結していました。



彼らは角が丸くなった細長い

机を囲むように座っています。



豪勢な椅子に深々と腰掛け,打ち合わせをしています。



山本「いよいよ,明日だ。小早川暗殺作戦を実行する。」

アヤ「楽しみ。」





<ユニット藪蛇R “魔性のアヤ”>




アヤはとても上機嫌でした。



源田「ぬかるなよ。」



源田は山本にそう言いました。



山本「いくつか,確認をしておきたい。

まず,源田サンの“森熊”から3部隊ほど借りる。」

源田「ああ。それと俺の直属の

部下も連れて行け。必ず役に立つ。」



直属の部下とは"冥界の悪魔(キラー)"のことでした。



山本「それから,"大西(グレイ)"だったか。

奴の動きが重要だ。いいな,今村?」



山本は今村へ視線を向けました。



今村「ふぉっふぉっ。わかっていますよ。結局,山犬と

海猫が手を組んで作戦を行うことになりましたねぇ。」





<ユニット海猫R “仏の今村”>



山本「勘違いするな。必要なのは

大西だけだ。アンタの指示は必要ない。」




大西というのはグレイのことでした。



山本「もう一度聞くが,なぜ,また手を貸す気になった?前回の会議では

山犬だけで作戦を行おうとしたら『抜けがけは許さない』と言っていよな。」

今村「すぐに撤回して『手を引く』と言ったじゃないですか。」(第286話参照)





彼は相変わらずニコニコと笑い,つかみどころがありませんでした。



山本「それが気になった。あの後,思い返してみればアヤが“平成の

ファーヴル”の名前を出した直後に撤回した。お前,あのガキ共と何か

あるのか?まさかガキを殺るのを躊躇しているんじゃないだろうな。」



今村「何を言っているのか私にはさーっぱりわかりませんねぇ・・・。

憶測で物を言うのは止めていただきたいですねぇ・・・。ふぉっふぉっ。」



山本は今村が何か企んでいると睨んで

いましたがそれ以上は追及しませんでした。



今村「それよりも大西君ですが,彼も元々,秘密主義の人間であまり

連絡をしてこないんですよねぇ。はっきりわかっていることは,彼は

ずっと小早川氏と例の子供たちの周辺に潜み,接触していたってことです。」

アヤ「ホントなんなの!?諜報活動を任されているアタシが源田

に頼まれて直々に連絡したのに全く音沙汰なしだったんだから!」(第318話参照)


山本は椅子の背もたれに身を寄せながら腕を組んだ状態で,



山本「まぁ落ち着け。大西が奴らと接触していると

聞いたから作戦に急きょ組み込んだ。奴らとつながりが

あるんなら利用しない手はないからな。」



と言いました。



源田「しかし,なぜ,詳細な居場所を報告してこない?」

今村「まだ正確な居場所はわからないみたいです。

しかるべき時が来たらきちんと報告するそうです。」



グレイは影(シャドー)と同じく,リク君やレオンさんと接触

しながら,居場所について詳細な報告はしていないようでした。



山本「まぁいい。奴に"あの場所"まで誘い出してもらう。

報告によると奴らは明日,岐阜のキャンプへ向かうらしいからな。

“あの場所”ほど今回の作戦にふさわしいところはない。」



源田「そうだな。今回の作戦は今後の

“あの壮大な計画”への第一歩だ。」



彼のその表情から今回の作戦の重大さが読みとれました。



また,“あの壮大な計画”とは一体・・・。



山本「もう一つ確認しておくが,今回の

作戦の指揮はうちの南雲に執らせる。」




源田とアヤは少し不快な顔をしました。



源田「どういうつもりだ?

失敗は許されない作戦だぞ。」



源田もそれには賛成しかねているようでした。



山本「責任は俺が取る。あいつには今のうちに経験を積ませて

おきたい。いずれ今回の経験が役に立つ時が来るはずだ。」



山本は半ば強引に了承を取り付けました。



そのあと,いくつか細かい事案を

打ち合わせ会議は終了したようです。



その直後,今村は携帯電話を取り出し,

大西(グレイ)に連絡を取りました。



彼はすぐに電話に出ました。



今村「大西君(グレイ)ですか?明日の

作戦について確認しておきますね。」



グレイ「ええ。お願いします。」



電話の相手は・・・。



・・・。



・・・。



なんと,カブクワキングの

バイトであった灰庭健人氏でした。





<ユニット海猫準幹部 大西(グレイ)>



やはり,リク君たちの予想通り彼こそが

闇組織JFの準幹部“グレイ”だったのです。



第2話 キャンプへ前編 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
少年昆虫団はレオンさん,灰庭氏と一緒に岐阜の

板取川にあるキャンプ場へ行くことになっていました。



一緒に行動する灰庭氏は

闇組織JFの一員でした。



彼はリク君たちの動向を探りつつ,今回のレオンさん暗殺計画を

実行に移すために一緒についていくことにしたのです。



待ち合わせ場所はカブクワキングの

すぐ裏にあるレオンさんのアパートでした。



すでに少年昆虫団は全員がそろって

おり,あとは灰庭氏だけでした。



お昼には向こうでバーベキューをする予定

なので出発は朝の8時となっていました。



すでに7時50分を過ぎていました。



皆は車の前で灰庭氏を待ち

ながら雑談をしていました。



「まだかなぁ。灰庭さん・・・。」



まさらちゃんが腕時計を見ながら

少し不安そうにしていました。



「まさらちゃん,わかっているとは思います

けど,あの人はJFのスパイかもしれないんです

からね。気を許さないようにしてくださいよ。」




だぬちゃんが隣で警告しました。



「前も言ったけど,あたしは

信じていないからね!」




まさらちゃんはご立腹でした。



「でもさぁ,JFのスパイかもしれ

ない人をなんでキャンプへ誘ったのさ?」




トシ君がリク君に聞きました。



「え?だって行きたいっていうからさ。」



リク君の答えはあまりにも拍子抜けでした。



「見え透いた嘘はよせ。キャンプへ一緒に連れていき,

怪しい行動をしないか見極めようとしているんじゃないのか?

山奥なら奴らも派手な動きはできないと考えているんだろ。」




イツキ君がリク君に代わって灰庭さんを誘った根拠を説明しました。

しかし,彼らにとって今回のキャンプは格好の舞台になるようです。



レオンさんは車に荷詰めしながら

皆の雑談を聞いていました。



5分ほどたって灰庭氏がやってきました。



灰庭「ごめん,ごめん。用意に思ったより時間が

かかってしまって。今日はよろしくお願いします。」



「なんか眠そうだね?」







まさらちゃんは灰庭氏の眼の下にクマが

できているのを見逃しませんでした。



灰庭「ちょっと,夜通し運転したり,

買い出しに行ったりしていたからね。」



そういうと,買い込んだ大量の花火を見せてくれました。



「なんか,スモーク花火が多いな。好きなのか・・・。」



灰庭氏は,屈託のない笑顔で,



灰庭「盛り上がると思ってさ!」



と言いました。



「そこに置いてある段ボールの中身はなんですか?」

「ああ,僻地(へきち)へ行く時はいつも持ち歩いている物なんだ!」



みんなは少し気になりましたが深くは考えませんでした。

全ての荷物が積み込み終わりました。



みんなはレオンさんが運転する車に乗り込みました。



灰庭「いい車ですね。広くて全員が乗っても

スペースに余裕があるくらい快適です。」



レオンさんはこの日のためにレンタカーを借りてきたようです。



普段乗っている車では全員が入らなかったみたいでした。



「まぁね。いい車はみんな日本製ですから。」

「でもこの車,外国製じゃないですか・・・。

ひょっとしてレオンさんはあまり車には詳しくないんですか・・・。」




だぬちゃんの指摘は図星だったようで

レオンさんは苦笑いするしかありませんでした。



「この車はドイツ製メルセデスベンキ社の

Cクラシコじゃないですか。よくこんな車,借りられましたね。」


「あ,うん・・・。(経費で無理やり

落としたなんて言えんな・・・。)」




レオンさんは車を発進させて国道41号線に出ました。



「そういえばJFの山本たちが

乗っている車も外車でしたね。」




後部座席に座っただぬちゃんがそう言いかけると,



「おい!」



イツキ君がたしなめました。



灰庭さんにあまり聞かれたくなかったのです。



灰庭「なんだい,そのJFって・・・?

知り合いに外車に乗っている人がいるのかい?」



灰庭さんが聞いてきまいたが,



「うん,そうなんだ。だぬちゃんの親せきで

JFって会社に勤めている人が外車なんだって!」




慌ててリク君が適当な話をでっちあげ,その場をしのぎました。



しかしグレイである灰庭氏には

全て把握している内容でした。



だぬちゃんは軽はずみな発言を

みんなから攻められました。



高速道路の入り口まで来ました。

ETCを使い,そのまま順調に進んでいきます。



岐阜へ入り,外の景色がだんだんと

街から山や畑に変わっていきます。





昆虫団は談笑したり,目を閉じて体を休めたり,

各自で好きなことをやっていましたが,

レオンさんはやたらとミラーを気にしていました。



後ろの車が気になるようです。



果たしてそれはJFの手先なのでしょうか・・・?



第3話 キャンプへ後編 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
途中で1度だけパーキングエリアで休息を10分ほど

取り,岐阜県の板取川キャンプ場近くまでやってきました。



山を切り開いて作られた国道を順調に走らせていると,

灰庭氏が何かに気付いたようで大声を出しました。



灰庭「危ない!」



レオンさんは急ブレーキを踏みました。



その直後,目の前に大量の岩が

大きなを音を立てて落ちてきました。



落石のようです。全員けがはなく無事でしたが,

いきなりの出来事に戸惑っていました。



「怖い・・・。灰庭さんが気付いて

くれなかったら全員潰されていたかも・・・。」


「危なかったなぁ・・・。」



レオンさんは車の外に出て様子を確かめに行きました。

リク君,イツキ君も外に出てレオンさんについて行きました。





「駄目だな・・・。道が完全に

ふさがれている。これは復旧に時間がかかるぞ。」


「そうだな・・・。どうする・・・?」



イツキ君が聞きました。



「火薬のにおいがする・・・。」



リク君がかすかに漂う異変に気付いたようです。



「確かに・・・。もしかしてこの落石は

人為的に起こされたものなのか・・・?」


「おいおい。もしかして,レオンさんが

狙われているんじゃないのか!?」




イツキ君は動揺しています。



「とりあえず車に戻ろう。」



三人は車の中に戻りました。



「これじゃあ,キャンプ場へ

いけませんよね。どうしましょう。」




灰庭氏は「待っていました」

と言わんばかりに代案を提案しました。



実は,彼の仕事の一つが闇組織JFの

運営するキャンプ場へ誘導することでした。



灰庭「それなら,ここから少し戻って別の道から僕の知っている

キャンプ場へ行ってみませんか?今なら予約なしで入れるはずです。」



「うん,いいかも!みんな,そうしようよ!」



まさらちゃんが賛成しました。



「そうだね。そうしようか。このまま

ここにいても通れそうもないしね。」


「・・・。」



レオンさんは,落石の件を通報し,道を引き返すことにしました。



灰庭氏の案内でジャファリゾートが経営するキャンプ場へ到着しました。



周囲は山にかまれ,コテージがいくつか点在して

いましたが,彼ら以外に利用客はいませんでした。



作戦のためにあらかじめ他の客を入れないようにしていたようです。

車を砂利で敷き詰められた駐車場に止め,荷物を下ろしました。



「いつの間にか,後ろをつけていた

車がいなくなっているな・・・。」




レオンさんが周囲を見渡すと例の

気配が消えていることに気付きました。



みんなは協力して荷物をコテージへ運び込みました。



灰庭「(全ては作戦通りか・・・。)」



灰庭氏は彼らの様子をじっと見ていました。



「じゃあ,お昼ごはんを

作るための準備をしようか。」




コテージのすぐ目の前にかまどとバーベキューができるテーブルが

設置されていたのでそれを利用して昼食を作ることにしました。



「よーしっ!張り切って作るぞ!

お昼をしっかり食べて,自然を満喫したら昆虫採集へ行こう!」


「いやいや,こんな山奥はまずいでしょ!

どんな虫がいるかわからない!」




トシ君は必死に拒否しましたが,リク君によって却下されました。



第4話 各々タイム 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
お昼は大自然の中でバーベキューを行い,

おいしいお肉をみんなでたくさん食べました。



飛騨牛は灰庭氏の差し入れでした。



コテージの中は2階建てになっていて,1階でリク君や

レオンさん達の男性陣,2階をまさらちゃんの寝室にしました。



荷物を整理して,この後,何をして遊ぶか決めることにしました。



話し合いの結果,トシ君はコテージの外に設置された

ハンモックで昼寝,だぬちゃんとまさらちゃんと

灰庭さんは近くの小川で水遊び,リク君とイツキ君と

レオンさんはコテージ奥に続く森の中を散歩することにしました。



「ねぇねぇ,早く水遊びしようよっ!!」





まさらちゃんは小川に足を入れ,二人を呼びました。





「そんなに慌てなくても川は逃げていきませんよ。」



だぬちゃんと灰庭氏も少し冷たい

小川へとはいって行きました。



リク君はすでに森の中へ入ってどんどん

進み,すでに姿は見えませんでした。



「レオンさん,その箱,何が入っているんだ?

というか,そんなものを持ってきてどうするつもりだ?」




レオンさんは両手で段ボールの箱を

大事そうに持ちながら歩いていました。



「ふふふっ。何が入っているかは,

使う機会があれば教えてあげるよ。」




レオンさんはもったいぶって中身に

ついて教えてくれませんでした。



「まぁいいや・・・。ここって結構入り

組んでいる・・・。というか深い森だな。」


「そうだね。迷ったら危ないね。あとで他の

みんなにも注意するように言っておこう。」




三人はどんどん奥へ進んでいきます。



「それで,何を話したいんだ?」



イツキ君が突然リク君に聞きました。



「何のこと?」

「とぼけるな。何か,大事な話があったから,

灰庭さんにあいつらを預けてから森に入ったんだろ。」




イツキ君には何もかもお見通しだったようです。



「バレたか・・・。重要な話っていうか闇の騎士(ダークナイト)の

ことで気になっていたことがあってさ。」


「なんだろう?」



レオンさんも気になるようです。



「あの日,羽音々さんがもし黄金原が闇の騎士だって

気付かなかったらあいつはどういう作戦を実行するつもりだったんだろう。」


「確かに。あの出来事で彼の作戦は大きく狂ってしまい,

挙句の果てに冥界の悪魔(キラー)に始末されてしまった。」




三人は大きなクヌギの木の下で足を止めました。



「そもそも黄金原が自作自演で冥界の悪魔(キラー)に

狙われたり,精鋭部隊に拉致されたりしたのは疑いの目を自分から

そらすためだよな。その上で菊の幹部暗殺作戦を実行しようとしたのか・・・?」


「おそらくそうだよね。そして,その幹部って

いうのがレオンさんの可能性が高い。」




リク君がレオンさんの顔をちらっと見て言いました。



「ああ,オイラの後をつけ狙っている気配を

感じるからね。そいつが冥界の悪魔(キラー)なんじゃないかな。」


「結局あの男はこちらの指令系統をかく乱

させるためのピエロだったんだろうね。暗殺の本命は

冥界の悪魔(キラー)。そいつがレオンさんの命を全力で狙ってくる・・・。」




リク君の推理は半分当たって,半分外れていました。



今回の菊幹部暗殺計画に冥界の悪魔(キラー)も

参加することになっていましたが,

主な作戦実行部隊は山犬が行うことになっていました。



リク君はクヌギの木に特製の蜜を塗っておくことにしました。

合わせて目印に水性の蛍光塗料を塗っておきました。



レオンさんは段ボールをそのクヌギの木の幹に置きました。



もう少し奥へ進み,一通りカブクワが集まって

きそうな木をチェックしてコテージへ戻っていきました。



レオンさんだけはさらに奥へ行ってみたいと言うことで

リク君たちだけ先に戻り,彼は後から戻ってきました。



少しずつ日が落ちてきました。



辺りの木でヒグラシが物静かに鳴き続けています。



カナカナカナカナ・・・・・。



リク君達が夕食の準備をしている間にも

彼らの魔の手が近づいているのでした。



第5話 レオン暗殺計画発動! 急襲 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
コテージから100mほど離れた駐車場には

1個小隊がワゴン車の中で待機していました。



小隊は全員が自動小銃を装備していました。



そこからさらに1km離れた国道沿いの

駐車スペースに1台の車が止まっていました。



山本の運転する車でした。



彼は今回の作戦の指揮を南雲に任せ,自分は

この場所から作戦の成功を見守るようです。



助手席には源田が乗っていました。



後部座席には今村とアヤがいました。



東條以外の闇組織JFの幹部が一同に

そろい,作戦開始の時刻を待っていました。



リク君たちは,夕飯は川で釣った魚を

焼き,飯ごうでコメを炊き,昼間に

食べきれなかった飛騨牛や黒豚など

を豪快に食べることにしました。



とうとう日は暮れ,時刻は

夜の8時を過ぎていました。



この後行うキャンプファイヤー用

に井桁を組んで火をつけました。



闇組織JFの精鋭部隊は茂みに隠れ,迫りつつありました。



K-2という自動小銃を装備し,ヘルメットに暗視ゴーグルを

装着した精鋭部隊がコテージから100mほど離れた茂みに

隠れ,指揮官の合図を待っていました。



人数は1個小隊で5人いました。



灰庭「さて,花火でもやろうか。」



灰庭さんは大量の花火をリュックに詰めて持ってきました。



「わぁ!楽しそう!やろう,やろう!」



まさらちゃんが大喜びしていました。



「いいですね。外に出ましょう。」



みんなは,コテージを出てすぐ

目の前の所で花火をすることにしました。





「オイラ,ロケット花火がいいな!」

「いいぞ。どうせなら俺がお前を

的にして当ててやろうか。」




イツキ君がひどいことをやろうとしていました。



「いやいや,さすがにそれはだめでしょ!」



だぬちゃんが止めます。



ザワッ・・・。



生温かい風が吹きます。



真夏のジメっとした空気が漂っていました。



闇組織JFの精鋭部隊の隊長に無線で連絡が入りました。



南雲「全ての準備が整った。予定通り作戦を開始せよ。」



隊長「了解(ラジャー)。」



打ち上げ花火が上がった瞬間,精鋭部隊が行動を開始しました。



リク君,イツキ君,レオンさんが異変に気付きました。



「なんだ!?」

「わからない。何か・・・

いる。敵意がむき出しだ。」




レオンさんが叫びました。



「みんな,コテージの裏に隠れるんだ!」



ガガガガガガガガ・・・・・。



無数の銃弾が飛んできました。



「きゃぁぁぁ!!助けてっ!!!」



灰庭「ちょっと,これってどうなっているんですか!?」



灰庭氏は白々しく襲われている演技をしました。



精鋭部隊にも大西(グレイ)が一緒に行動していることは

知らされているので彼には攻撃しないことになっていました。



「闇組織JF!どうなっているんだ!?」

「レオンさんの後をつけてきた奴が,

情報を流してここまでやってきたのか!?」




リク君たちもさすがにあせっています。



「わからないが・・・,これではっきりしたよ。

奴らの暗殺計画で狙っていたのはやはりオイラだった。」


「とにかく逃げようよ!

銃を持った連中に戦うのは無謀だよぉ!」




ガガガガガ・・・ガガガ・・・

ガガガガ・・・・。



バシュッ!!パリンッ!!



銃撃は続きます。





コテージの窓ガラスは

割れ,破片が辺りに飛び散ります。



灰庭「そこのけもの道から山奥へ逃げましょう!」



「とにかく皆の安全が最優先だ!!」



みんなはポケットにしまってあった

懐中電灯を取り出し,全力で走りだしました。



レオンさんは菊の幹部に応援を

呼ぶ暇すら与えられませんでした。



精鋭部隊の銃撃はやむことがありません。



このあたり一帯が組織の土地で,国道に

通じる道を山本が封じていました。



だから一般人が入ってくることも銃撃音を聞く事

もなかったので彼らは堂々と銃を使えたのです。



「はぁはぁはぁ・・・。何がどうなってこう

なるんですかね・・・。まさかだぬたち殺される・・・!?」


「今は走り続けろ!死にたくなかったらな!

奴らは本気だ!とうとう本気で俺たちを殺しに来たんだ!」




けもの道へ入り,茂みをかき分け,どんどん

奥へ進んでいきます。果たして彼らの運命は・・・!?



第6話 レオン暗殺計画発動! 逃亡 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
コテージの正面から多数の銃撃を加えた

闇組織JFの精鋭部隊の名前は“雁(がん)”。



隊長の名前は奥田と言いました。



奥田「作戦通り,ターゲットに銃撃を浴びせました。

ただ仕留めるには至りませんでした。」



無線で南雲に状況を説明しました。



南雲「上出来だ。そのまま,予定通りに動け。」



彼らは銃撃を加えながらコテージ

一帯を支配し,けもの道へ入っていきました。



一方,リク君たちは奥へ奥へと逃亡を続けます。





リク君の背中にはしっかりと

二本の捕虫網が背負われていました。



「リク君。万が一の時は,みんなを

頼む。奴らの一番の目的はオイラだ。」


「・・・。大丈夫だよね・・・?」



リク君は一瞬戸惑いました。



「あれ?いつの間にか灰庭さんがいなくなっているよ!?」

「最後方にいたよな,はぐれたか!?

もしかしてすでに奴らに捕まったのか!?」




イツキ君が少し戻ってみると,灰庭さんが背負っていた

リュックだけが置き去りにされていました。



彼はそれを拾い上げるとみんなの所へ戻ってきました。



「今はとにかく逃げるしかない。あの人のことは後回しだ。」

「そうだね。なんとかして

国道まで出よう。そうすれば何とかなるはずだ。」




みんなは藪の中,道なき道を突き進みました。



その頃,山本達は車の中で

作戦の進行を見守っていました。



今村「たった今,大西君(グレイ)から

連絡が入り,彼らの元から離れたようです。」



山本「南雲,聞いているな。」



山本は車に備え付けられた無線機で呼びかけました。



南雲「はい。全て順調です。上から2個小隊で囲みます。周辺は

事前にフェンスで囲んでありますので最早ターゲットは袋のねずみです。」



アヤ「油断しちゃダメよ。あの子たちはアタシの

愛しい愛しい闇の騎士(ダークナイト)を奪ったんだから。」



アヤは諜報参謀としてこの作戦に参加するという

名目ですが,特に任務があるわけではありませんでした。



今村「アヤさん,冷やかしを言うために来たんなら

帰ってもらってもいいんですよ。フォッフォッ・・・。」

アヤ「あら,万が一何かあった時の

ためにいるんじゃない。ねぇ,源田!」



アヤは源田に色目を使いましたが

源田は相手にしませんでした。



アヤ「だからモテないのよ!!」



アヤは不機嫌にそう言ってそっぽを向きました。



源田「今は,静かに作戦の進行を見守るんだ。」



大真面目な顔で彼がそう言うとさらに

アヤはつまらなさそうな顔をしました。



どうやらリク君たちはすでに闇組織JFの

暗殺部隊に囲まれてしまっているようです。



その頃,少年昆虫団は・・・。



「レオンさん,さっきの追手ならオレと

レオンさんが力を合わせれば勝てると思う。」




走りながら,レオンさんに戦闘することを提案しました。



「だめだ。相手は自動小銃まで持っている。リスクが高すぎる。

まさらちゃんたち,他のメンバーに危害が及ぶ可能性が高い。」


「そうだな。まずは命が最優先だ。」



その時,後ろから確実に追手が近づいている気配がしました。



「なんか,近づいてきている気がするよぉ!」



いつの間にか最後方を走っていたトシ君があせり始めました。



ガガガガ・・・!!ババババッ・・・!!



バシュッバシュッバシュッ・・・!!



小銃を撃つ音が聞こえます。



「これってヤバすぎですよっ!!」



だぬちゃんもあせって逃げます。



「!!」



レオンさんが何かに気付きました。



それは・・・。



第7話 レオン暗殺計画発動! 危機 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
レオンさんは前方からも恐ろしいほど

の敵意があることに気付きました。



リク君とイツキ君も敵の気配を感じました。



「前からも来るぞ!」



ガガガガガガガガ・・・・・・・



ガガガガガガガガガガガガ・・・・。



パパパパパ・・・・パパパパ・・・・。



ガンッガンッ・・・。

バシュッ!バシュッ!



各人が1分間に500発以上の銃弾を

撃つような状況を必死で逃げ惑います。



恐ろしいほどの数の銃弾が

空を飛び交っていたのです。



銃弾が周囲の木や茂み,

葉に当たり,嫌な音が響きます。



「もういやぁぁ・・・。

死にたくないよぉ・・・!」




まさらちゃんは半泣きでリク君

から離れようとしませんでした。



みんなは一か所に固まって

周囲をうかがっています。



「これって囲まれちゃっているんじゃないですか!?」



だぬちゃんの予想は当たっていました。



彼らの作戦は1部隊が正面から攻撃し,リク君たちを山の中に誘い込み,

残りの2部隊で囲みこんで一斉射撃で暗殺するつもりだったようです。



南雲「見事に作戦にはまってくれてありがとう。おとなしく出てくれば,全員,

楽に殺すことを約束しよう。逃げればあちこち撃たれて余計に苦しいだけだ。」



拡声器を使い,南雲の声が響き渡りました。



「この声は,たしか山犬の南雲・・・!」

「うん。間違いない!」



まさらちゃんはグス,グス鳴きながら震えていました。



「まさらちゃん,大丈夫だよ。絶対に

みんなを死なせはしないから。」




リク君はまさらちゃんの涙をそっとふき,笑顔で語りかけました。



「でも・・・。」

「オレはあいつらを絶対に許さない。

人の命を何とも思っていないような連中を野放しになんて

できない。オレは逃げない。絶対に奴らから逃げない。」




リク君は二本の捕虫網,天照と

月読を取り出してかまえました。





その姿を見てまさらちゃんは少し安心しま

したが,同時にリク君の身を案じました。



「そうですよ,まさらちゃん。だぬたちがこんな所で

死んだらあいつらの悪事を暴ける人がいなくなってしまい

ますよ。絶対にここから生きて帰らないとだめですよ!」




「オイラもこんなところで死ねないよ!

まだまだやりたいこともいっぱいあるしね!それに

こんな修羅場いくつもくぐってきた!今度もなんとかなる!」




トシ君はワク君との冒険を通して成長していました。



いつの間にか昼間に立ち寄った大きな

クヌギの木までやってきていました。



レオンさんは先ほど置いていた

段ボールの中身を取り出しました。



そこには少し大きめの円筒形に近い機械が入っていました。

スイッチを押すと中の装置が回転し始めました。



「なんですか,それは?」

「秘密兵器,通称"マグネル"さ。今からここから

脱出するための作戦を伝える。全員でここから生きて出よう。」




レオンさんはみんなに聞こえるように説明を始めました。



「うん,がんばる!きっとどこかに

灰庭さんもいるはず!あたしがんばる!」




まさらちゃんにも闘志がわいてきました。



この間も前からも後ろからも銃弾が飛んできていて

みんなはほふく前進で進むしかありませんでした。



南雲「どうやら降伏するつもりはなしか!

このままハチの巣になってしまえぇ!!」



自らも小銃を持ち,撃ちまくります。



彼のテンションが上がっている

ことが声の調子からもわかりました。



レオンさんはどんな作戦でここ

から切り抜けるつもりでしょうか。



第8話 レオン暗殺計画発動! 反撃 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
冥界の悪魔(キラー)は南雲が指揮する部隊からすぐ

後ろの木の上から暗殺の機会をうかがっていました。



しかし,木の多いこの場所での狙撃は不向きでした。



今回の役目はあくまで南雲のサポートでした。



じっと息を静め,暗殺できるタイミングを狙い続けていました。

すると突然,辺りが煙に覆われ始めました。



冥界の悪魔「!!これはっ・・・!?」



花火で使うはずだった大量のスモークに火を付けたようです。



南雲「なんだこれは!!かまわない,撃ち続けろ!!

この包囲から逃げることなど不可能だ!!」



ガガガガガガ・・・。



しかし,どうも様子が変です。



銃弾がまっすぐ飛んでいかないのです。



南雲「なんだ,どうなっている!?」



隣にいた精鋭部隊の隊長に確認をとりました。



南雲とともに包囲にあたっていた精鋭部隊は以前レオンさんとリク君に

敗れた“梟(第184話参照)”と“雉(きじ)”という名前の部隊でした。



梟はあの時,レオンさんが通報した警察が到着

する前に逃走し,逮捕を免れていたのです。



山根「わかりません!銃弾がまるで何かに

吸いつけられるように飛んでいっています。」



梟の部隊長である山根にも何が

起きているのかわかっていませんでした。



南雲「とにかく撃ち続けろ!!」



しかし,大量のスモークの影響で視界は1mもなく,

すぐ真横を横切られても何も見えないような状況でした。





南雲「くそっ!!」



木の上で待機していた冥界の悪魔(キラー)も一旦,

銃口を下げて周囲の確認を優先することにしました。



実はこの時,イツキ君,まさらちゃん,だぬちゃん,

トシ君の四人は彼らの横を走り抜け包囲網を突破しました。



「よし,うまくいった!このまま

突き抜けて国道に出るぞ!!」


「リク君とレオンさん,大丈夫かな・・・。」



まさらちゃんが後ろを振り向きました。



「心配するな。あの二人は絶対に大丈夫だ。」



イツキ君は昆虫団の他のメンバーを

無事に逃がすための先導役を任されました。



本当は一緒に残って戦いたかったのですが,

レオンさんに説得されこの役を買って出ました。



トシ君も恵まれた体格と冒険記で培ったここ一番での

度胸を買われ,殿(しんがり)を任されました。



イツキ君,まさらちゃん,だぬちゃん,

トシ君の順番で森を横切っていきました。



南雲「まさか,逃げだしているのか!?"雉",

聞こえるか。お前たちは逃げた連中を追え!!」



しかし,反応はありませんでした。



南雲「おいっ!応答しろっ!!」



すると無線機から反応がありました。



ガガ・・ガガ・・。



「残念だがあんたらの作戦は失敗だ・・・!」



南雲「誰だ貴様は!!」



彼にとって見知らぬ声が聞こえてきました。



「あんた達が狙っているターゲットですよ・・・!」



南雲「小早川・・・!?ふざけやがって!!」



どうやら雉の1個小隊はレオンさんによって壊滅させられたようです。



南雲「前方から進攻中の"雁"!すぐに周辺を囲みなおせ!」



しかし,こちらも反応がありません。



少し薄れたスモークの向こうから人の体が

無造作に浮いているのがかすかに見えました。



それも複数の数が・・・。



-大地二刀流 瞬撃の舞(ワルツ)-



「オオオオオオ・・・・ッ!!!!」



ドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!



リク君の猛攻により銃の使えなくなった

精鋭部隊は壊滅させられていきました。



第2章9~14話

第9話 レオン暗殺計画発動! 激突 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
-大地二刀流 薔薇十字(ローゼンクロイツ)- 



奥田「ぐはっ・・・。」



血を噴き出しながら“雁”の隊長は倒れました。



「こっちは片付いたよ。」



リク君がイヤコムでレオンさんに連絡を取りました。



このイヤコムのやりとりを離れた場所で

待機していたJFの幹部たちが盗聴していました。



諜報に精通している藪蛇の

アヤが機械を操作していました。



アヤ「にわかには信じられなかったけど,こうして会話の内容を

聞いているとホントにすごい子供ね。今村が一目置くのもわかるわ。」

今村「なんのことやら?」




今村氏はとぼけて見せました。



山本「おい,じゃれ合っている場合じゃねぇぞ!」



山本は状況が不利になっている

ことを知り,不機嫌になっていました。



源田「・・・。」



源田は何も発せず状況を見守っていました。



山中でリク君たちはついに南雲と

10mほどの距離で対峙しました。



すでにスモークはほぼ消えて

なくなっていました。







南雲「これはどういった手品だ!?なぜ

銃弾があさっての方向へ飛んでいく!?」



リク君の横にいたレオンさんが木陰から出てきました。



「さあて。なぜでしょう。」

「あの機械,ホントにすごいね。」



リク君は先ほど例の段ボールに

入っていた機械の機能を知りました。



あの機械は小型だが強力な磁界発生

装置(マグネル)だったのです。



その磁力を地面から空の方向へ向けて

いるので,マグネルからごく近い場所で



金属を使おうとすると空へ吸い込まれる

ような現象が起きてしまうのです。



南雲は持っていた拳銃を取り出しましたが,上へ吸い

込まれるような力を受け,うまく狙いを定められません。



発砲したとしても銃弾は対象に命中することなく

弧を描くように上空へ吸い込まれてしまいます。



もちろん,空から降ってくる銃弾には気をつける必要がありますが,

この機械のおかげで銃撃に関する脅威はほぼなくなったといっていいでしょう。



南雲「おい,キラー!近くにいるだろう!

お前の腕でも狙えないのか!?」



「キラー!?やはり冥界の悪魔(キラー)もここにいるのか!?」



レオンさんに少し焦りが見られました。



「リク君,南雲だけならオイラがなんとかしようと

思っていたんだが,冥界の悪魔(キラー)までいるとなるとやっかいだ・・・。」


「大丈夫。僕が南雲を相手にするよ。

必ず倒して身柄を拘束する。殺人未遂,銃刀法違反,凶器準備

集合罪で現行犯逮捕できる。現行犯なら一般人にもできるからさ。」




リク君は身を乗り出し,相手に飛び込む準備をしました。



「さすが,頼りになる。どのみちキラーの

狙いはオイラだろうからね。オイラはキラーを倒す。」




レオンさんとリク君はもう一度,集合場所を

確認して二手に分かれました。



先に飛び出していったのはレオンさんでした。



「冥界の悪魔(キラー)!近くにいるんだろう!

オイラはここだ!殺せるものなら殺してみろ!」




レオンさんが叫びました。



冥界の悪魔「!!」



冥界の悪魔はライフル銃を構えました。



レオンさんらしき人影が見えたのですかさず狙撃します。



しかし,マグネルの効果により

狙撃は効果を発揮しませんでした。



レオンさんはマグネルが有効な範囲で

冥界の悪魔(キラー)を倒そうとするつもりでした。



第10話 リクVS南雲 前編 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
リク君はレオンさんがその場から離れた

直後,猛烈な速さで南雲に近づきました。







山根「あいつは,この前のガキ!」



梟の隊長は暗視ゴーグルを使って

リク君の動きを確認しました。



月明かりのおかげでリク君にも

敵の居場所がはっきりと見えました。



山根「殺せ!排除せよ!」



小銃は役に立たなかったので,肉弾戦に切り替えたようです。



「お前たちの相手をしている暇はない!!」



二本の捕虫網を持ったリク君は左手を前に出し,右手を斜め後ろにして構えました。



-大地二刀流 乱激の嵐(ランディングストーム)-



山根「うごっ!?」



リク君の両手から繰り出される高速の攻撃は,

嵐の衝撃を放ち,精鋭部隊の体を吹き飛ばしました。



あっという間に精鋭部隊の5人は地にひれ伏せました。



南雲「なんてガキ・・・だ。」



リク君と南雲が5mほどの距離で対峙しました。



スモークはもうなくなっていましたが,

マグネルの効果が及ぶ範囲内にいました。



「たしか山犬の南雲だったね。」



南雲「ほう。俺も有名になったもんだ。こんなガキに覚えてもらえるとは。」



リク君と南雲が一触即発の状態となっていました。



「後はお前と冥界の悪魔(キラー)だけだ。ここでお前と

キラーを倒せば闇組織JFも一気に壊滅させられる。」




リク君は構えを解きません。



南雲「なるほど。キラーのことも知っている。俺たちのことも菊の連中から

かなり吹き込まれたようだ。挙句の果てに俺たちを壊滅させるだと!?」



南雲は右手に警棒を持ち,左にメリケンサックをはめました。



警棒程度であればマグネルの効果は軽微でした。



南雲「平成のファーヴル!生意気なガキはお仕置きが必要だ。」



彼は作戦に任務中のため愛用のタバコを吸えずイライラしていました。



次の瞬間,南雲の警棒とリク君の捕虫網が

火花を散らしてぶつかっていました。



「ぐぐぐ・・・。」



お互いにはじかれ,着地するとすぐに次の行動に出ました。



「うおおおお!」



リク君が右手から繰り出した攻撃を南雲の左手が防ぎます。



南雲は警棒を叩きつけますが,リク君は

うまく避けて攻撃をかわします。



南雲「なるほど,素人の動きじゃねぇな。各務原山で

古賀さんを倒したのはまぐれなんかじゃなかったんだな。」



「オレにまぐれはない。あるのは実力だけだ。」



リク君には絶対の自信がありました。



南雲「その自信をへし折って,絶望しながら死んでいけっ!!」



南雲がその巨体を揺らして突進してきました。



「お前程度に折られるようなオレじゃない!」



-大地二刀流 神速の打突 連弾-



二本の捕虫網が高速に伸びて相手の体を貫こうとします。



南雲はすかさず飛び跳ねてかわします。



その巨躯からは予想できないような身軽さでした。



捕虫網が元の長さに戻るとリク君は少し

下がってから地面に捕虫網の柄元を向けます。



手元のボタンを押すと柄元がまるでロケットの

ように噴火し,リク君は上空10mほど飛び上がりました。



南雲「なんだっ!?」



南雲は思わず空を見上げました。

上空にて一瞬で捕虫網を1本に持ち替えました。



―大空一刀流 青の衝撃 (ディープインパクト)―



10m上空からリク君が加速度的な速さで突っ込んできました。



その勢いのまま南雲の体を叩きつけました。



南雲「ぐはっ!!」



南雲は避ける暇もなく直撃しました。



ドサッ・・・。



リク君が振り返ると彼は

地面に倒れふさぎこんでいました。



「勝った・・・か・・・?」



そう思ったのもつかの間でした。



南雲「痛いじゃねぇかよっ・・・!!」



南雲の顔から真っ赤な血が垂れていました。

しかし彼はものともせずに起き上がりました。



「はぁはぁ・・・。思った以上にタフだ。

なんてタフガイなんだ・・・。」




リク君は額の汗をぬぐいました。



南雲「はぁはぁ・・・。ははっ・・・後悔しているか?」



「は?」



リク君は思わず聞き返しました。



南雲「あの日,俺たちに関わらずお友達と虫とりを

して楽しんでいればこんな目に合わずに済んだのによ・・・。」



南雲は再びファイティングポーズをとりました。



「後悔?お前たちに出会えたことを感謝しているくらいだ。」



リク君も姿勢を先ほどよりも低くして構えました。



第11話 リクVS南雲 中編 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
南雲「感謝だと?これだからガキは・・・!」



リク君の挑発に乗り,体ごと突っ込んできました。



リク君はすかさずかわし,延髄に天照(あまてらす)をたたき込みます。



南雲「うごっ・・・!?」



「感謝しかないよ。だってお前たちみたいな連中の

存在を知れた。そしてそれを潰す機会を与えてくれた。」




リク君は月読(つくよみ)を突き出します。



南雲「なめやがって!ガキ1匹に

潰される組織じゃねぇぞ!!」



「潰すよ!この国を護るために俺は戦う!!」



リク君は全身全霊の攻撃を放ちました。



南雲はもはや避ける力もなく被弾していきました。



南雲「グホッォォォォォッ!!!」



南雲の服は半分以上破けて体中にあざと

切り傷で血だらけになっていました。



しかし南雲は本当にタフな男でした。



攻撃を何度くらっても立ち上がり, 隙を見て反撃に出ようとしていました。



さすがのリク君も少し焦りを感じ始めていました。



南雲「はぁ・・・はぁ・・・。もらったぁ!!」



一瞬の隙をついて南雲の左拳が

リク君の腹部に直撃しました。







「ぐはっ!!」



リク君は猛烈な痛みでうずくまりました。

しかし,痛みをこらえながら立ち上がりました。



彼の筋力は相当鍛え上げられていたようで拳にも重みがありました。

通常の人間なら内臓破裂を起こしてもおかしくないような威力でした。



「(さすがに幹部だ・・・。一筋縄じゃいかないか・・・。)」



リク君は衝撃の瞬間,体をひねりわずかにその威力を殺すことに成功

しましたが,大きなダメージを受けたことには変わりはありません。



「(しかしなんてタフさなんだ・・・。

全力で撃ち込んでも倒れない・・・。)」




お互いに間合いを取りながら相手の出方をうかがっていました。



一方,リク君と南雲の激突から少しだけ離れた場所では

レオンさんと冥界の悪魔の戦いが始まっていました。



「キラー,いるんだろう!!

隠れていないで出てこい!」




レオンさんから見て斜め後ろの木が生い茂った

辺りから小型の暗殺用ナイフが数本飛んできました。



1本がレオンさんの肩をかすめましたが,

瞬時にかわして事なきをえました。



「そっちか!」



レオンさんが追いかけます。冥界の悪魔(キラー)は

木から木へと飛び移って距離を保とうとします。



「なんて身軽な奴なんだ・・・。」



どんな顔をしている人物なのか確認したかった

のですがなかなか距離を縮められません。



そしてとうとうマグネルの効果が

及ぶ範囲から出て行ってしまいました。



「くそ・・・。しかし,ここで追撃を止めるわけにはいかない。」



レオンさんはさらに追いかけます。



パシュッパシュ・・・。



「うおっ!!」



レオンさんは茂みの中に身を隠しました。



冥界の悪魔「隠れたって無駄さ。このライフルからは逃げられない。」



レオンさんも警察官なので拳銃は普段所持することが

多いのですが今回はなぜか持ち合わせていませんでした。



そのため,この勝負は最初から分が悪かったのです。



彼は自分に注意を引きつけ,その間にリク君が

南雲を倒してくれることを期待しているようでした。



幹部の山本達はこれらの戦闘の状況を

無線で聞きながら静かに見守っていました。



山本「おい,今村。グレイはどうした?

奴に連絡を取って援護に向かわせろ。」



今村「フォッフォッ・・・。そうですねぇ・・・。

ちょっと状況は不利ですねぇ・・・。」



今村は車を降り,少し離れた場所から

イヤコムで大西(グレイ)を呼び出しました。



リク君と南雲の戦いは一進一退でしたが,

攻撃力に勝るリク君が徐々に押していました。



「はぁはぁ・・・。さすがに強いな・・・。」



南雲「くそっ・・・。こんなガキに押されるなんて・・・。

俺はな,山本さんに鍛えられ,殺しのプロになったんだ。」



南雲は自分のことを唐突に語り出しました。



南雲「殺しの経験がほぼなかった俺は,

山本さんのおかげで本当の殺し屋になれた!」



「・・・。それがどうした・・・?」



リク君が睨みました。



南雲「つまり!!そんな俺がガキを殺し損ね

たなんてことはあってはならないんだよっ!!!!

ホントはな,あの武器を使いたかったが・・・。

まぁいい!!これでぶち殺してやるよ!!」



ついにブチ切れてしまったようです。



第12話 リクVS南雲 後編 

冥界の悪魔シリーズ 第2章
南雲が闇雲に警棒を振り回してリク君を威嚇します。



リク君は後ろに下がりながら攻撃を

避けますが足場が悪く,うまくうごけません。



「茂みが多いし,斜面で動きにくいな・・・。」



リク君は捕虫網を二本にして,攻守一体の態勢をとります。



-大地二刀流 瞬撃の舞(ワルツ)-



ガガガガ・・・。



ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!



捕虫網と警棒が激しくぶつかります。







南雲「くそっ!あの武器さえあれば

こんガキに苦労することもないんだ・・・。」



どうやら南雲には愛用の武器があるようです。



少しリク君が押し始めました。



天照が南雲の右手に当たり,彼は

警棒を落としてしまいました。



それを拾おうと姿勢を崩した瞬間に

リク君の容赦ない攻撃が決まりました。



-大地二刀流 薔薇十字(ローゼンクロイツ)-



南雲「ぐはっ!!」



十字の斬撃が南雲を切り裂きます。



南雲「ぐごおおおおおっ!!!!」



山の斜面をゴロゴロと転がっていきます。



すかさずリク君が追いかけ,身柄を確保しようとします。



「どこだ!?」



月夜に照らされているとはいえ,暗闇に

まぎれ南雲の姿を見失いました。



一方,南雲は暗視ゴーグルを用意していたので

リク君の姿は手に取るようにわかりました。



南雲「ここだぁ!」



すぐ後ろから南雲がリク君の首を羽交い絞めにしました。



「ぐっ・・・。しまっ・・・た・・・。」



南雲「所詮はガキ!捕まえればこっちのもんだ!!」



リク君は苦しみながらも天照を南雲の

腹に押し当ててスイッチを押しました。



バリバリバリバリ・・・・!!!!



南雲「おごごごごごごっ・・・・・!!」



南雲はもだえ苦しみ,その手を離してしまいました。



南雲「がはっ・・・。痺れる・・・。」



どうやら強力な電流を流しこんだようです。



「天照にはスタンガン機能もあるんでね。」



リク君はやっとの思いで呼吸を整えました。



「さすがに強い。何より脅威

なのはその体力とうたれ強さだ・・・。」




南雲「ガキに言われたのは初めて・・・だよ!!」



屈辱のあまり声を荒げてしまいました。



左手にはめたメリケンの拳で

リク君の顔をめがけてパンチを繰り出します。



足場の悪い場所でうまく動けず,

拳はリク君の顔をかすめます。



もう片方の捕虫網“月読”で

相手の攻撃を捌こうとします。



南雲「いいか,俺は今回の作戦の指揮を任された。絶対に失敗は

許されないんだよ!あの人の信頼を失うわけにはいかないんだ!」



さすがの南雲も苦しそうです。

すでに満身創痍でした。



あの人とは山本のことを指しているようです。



「ごちゃごちゃうるさいな・・・。お前は必ずここで倒す!!

そして組織の全貌を吐いてもらうぞ!!」




リク君は二本の捕虫網を十字に構えました。



そしてゆっくりとその腕を広げました。



リク君が走りだし,突進してきた南雲と対峙しました。



勝負を決する時がきたようです。



第13話 勝敗の行方

冥界の悪魔シリーズ 第2章
リク君は勝負を決するために,突進してきた南雲と対峙しました。



「これで終わりだぁぁぁぁ!!!」



リクくんが広げた両手を刹那の早さで交差させました。



-大地二刀流 奥義 最期の生誕祭(ラスト・オブ・クリスマス)-







ズドンッッッッッッッッ!!!!!!!



南雲「ウグオェガワァァァ・・・・!!!!!」



リク君の奥義が見事に決まりました。



南雲はその巨躯に大きな傷を負い,

血反吐を吐いて倒れました。



・・・。



・・・。



・・・。



南雲はぴくりとも動きませんでした。



「はぁ・・・はぁ・・・。決まった・・・か・・・!?」



彼はおそらく内臓損傷と肋骨が何本か折れているようです。



「(手ごわい相手だった。幹部の山本はもっと強いのか。

今のままのオレの力で勝てるのか・・・!?)」




勝敗を決したことで山本は作戦を変更するしかありませんでした。



山本「キラー,聞こえるか。南雲がやられた。撤収しろ。」

冥界の悪魔「いいんですか。ターゲットを暗殺しなくても?」




無線の先から冥界の悪魔の声が聞こえてきました。



山本「お前でもあの二人を相手にするのは

時間がかかりすぎる。万が一,先に逃げた

ガキどもに菊の応援を呼ばれると面倒だ。

ここら一帯の証拠を全て消してズラかる。」



リク君は南雲の身柄を拘束するか悩みましたが,

その前にマグネルの回収へ向かうことにしました。



マグネルを持ち運ぶためには電源を切る必要があるようです。



「レオンさんと冥界の悪魔は

範囲外に出て行ってしまったみたいだ。」




電源を切り,南雲が倒れている場所に戻ろうとしました。



するとそこには冥界の悪魔が木の上から身構えていました。



リク君はあわてて姿を隠しました。

まだ気取られてはいなかったようです。



冥界の悪魔「南雲サンはどうしますか?消しちゃいますか?」



そう言うと銃口を南雲に向けました。



山本「それじゃあ,今回の作戦の指揮を任せた意味がなくなるだろう。

回収しろ。近くで寝ている梟の連中は気付け薬でも飲ませて起こせ。たいした

傷ではないだろう。起きたら動ける人間をかき集めて,奴らを追わせろ。」



キラー「源田さんから聞いていたより優しいんですね。」



冥界の悪魔(キラー)が山本の温情的な態度に感心していると,



山本「フンッ・・・。そんなんじゃねぇ。俺は利用価値の

あるものはなんでも利用するんだ。たとえお前でもな。」

キラー「おあいにく様。今回は源田さんに命令された

から協力しただけ。勘違いしないようにしてくださいよ。」



冥界の悪魔は精鋭部隊の何人かを起こし,

リク君たちを追跡するように命じました。



しかし,彼らのほとんどはふらふらでとても

リク君たちに追いつけるような気力は残っていませんでした。



リク君はこのやりとりを遠くから聞いていました。



そのため,冥界の悪魔の声質まではわかりませんでした。



彼は南雲の拘束を残念ながら諦めました。



この状況で出ていけば間違いなく

銃口の餌食になっていたからです。



茂みに身を隠し遠回りして,その場を離れました。



しばらくして,レオンさんに合流しました。



「リク君!無事だったか。すまない,

こちらは冥界の悪魔(キラー)を見失った・・・。」




リク君は先ほど見てきたことを伝えました。



「なるほど,リク君が南雲を倒したから奴はそちらへ向かったんだ。」

「ごめんね,南雲を捕まえられなかった。」



リク君が謝ると,



「十分だよ。それに南雲を倒してくれなかったら,正直やばかった。

自分は冥界の悪魔(キラー)に殺されていたかもしれない。」




二人は先に逃げたみんなを追いかけて森を抜けていきました。

追手が来ていないか念のため確認しながら進みました。



するとフェンスで囲まれた場所までみんなが待っていました。



「リク君!レオンさん!!」



まさらちゃんが手を振りました。



なんとそこには灰庭さんもいました。



「無事だったんだ!!」



灰庭「うん。途中ではぐれちゃって山をさまよっていたら

まさらちゃんたちを見つけてね。一緒に行動していたんだ。」



とりあえず全員が無事だったようです。



第14話 エピローグ

冥界の悪魔シリーズ 第2章
フェンスの下には人が一人通れるくらいの穴が開いていました。



「これってもしかして・・・?」

「ああ,下見をしたときに,ちょっと気になったんで,

持っていた道具で開けておいたんだ。さぁここから逃げよう。」




フェンスの穴をくぐり,山を抜け国道に出ました。



するとそこに一台の車が止まっていました。



「緊急事態だ。この車を借りよう。」

「そんなことしていいの!?」



トシ君が聞きました。



灰庭「仕方ないよ。こんなことが起こるんだから・・・。」



その車はどうやらレンタカーのようで,キーが

刺さったままになっていました。



みんなは車に乗り込みました。



全員が乗れる大きな

ワゴンタイプの車でした。



国道を下りながら走っていると

一台の車とすれ違いました。



それは山本達が乗った車でした。



幸いお互いに気付かず,すれ違っていきました。



「灰庭さん。すみません,こんなことに

巻き込んでしまって。後で詳しく事情を説明します。」


「これって大事件ですよね!?当然,警察も動くんですよね!?」



レオンさんが公安警察だと灰庭さんは知らないことになっていました。



「だぬ!」

「でもっ・・・!?」



だぬちゃんは口をつぐみました。



「いいんだ。こうなってしまっては

灰庭さんにも事情を説明しておく必要があるよ。」




レオンさんは運転しながら

闇組織JFについて説明を始めました。



もちろん闇組織JFの準幹部グレイにとっては

言われるまでもなくわかっていたことでした。



灰庭「なるほど・・・。そんな闇組織が存在していて

翠川さんが公安警察の人間で彼らを追っていたわけですね。」



灰庭氏は助手席に座ったままうなずきました。



その様子をすぐ後ろに座っていたリク君と

隣に座っていたイツキ君がじっと見つめていました。



「(なぜだ・・・なぜ・・・?)」

「・・・。」



車は国道を進んでいきます。



「ねぇ,結局キャンプはどうするの??」

「そうだねー・・・。荷物はあそこに置いてきちゃった

し,車も返さないといけないからまた今度かな。」




レオンさんは出発するときに,菊幹部へ連絡を取っていました。



「赤神さん達はすでにこちらに向かってくれているの?」



リク君が聞きました。



「ああ,岐阜県警と協力してあの付近を

捜索するってさ。銃弾やその他の証拠が出れば

ジャファに少しでも近づけるかもしれない。」




しかし,その目論見は崩れることになりました。



山本の指示ですぐに辺り一帯に火をつけ,

山火事を起こして証拠を隠滅したのでした。







消防にはリク君たちが残していったキャンプファイヤーの

火が燃え移ったということにしていました。



山本達が運転する車と古賀と精鋭部隊が

乗る車に分かれ,名古屋へ撤収していました。



南雲「す・・・すみません・・・。」



南雲は意識を取り戻し,車の

中で何度も山本に謝罪していました。



すぐにでも病院で手当てしなければならない状態でした。



山本「ガキにやられて悔しいか?」

南雲「はい・・・。」



南雲は怒りと憎しみで狂いそうになっていました。



山本「次はぬかるなよ。」

南雲「はい・・・。」



南雲は拳をかたく握って悔しさをあらわにしました。



南雲「あのガキだけは絶対に許さん!次あったら俺が

必ず殺す!どんな方法を使っても必ず殺す!!」

源田「山本,まさかお前・・・。」



源田は助手席から山本に声をかけました。



山本の口元は少し笑っていました。



山本「今村,グレイはどうなったんだ。

あの時,作戦に加担させろと言ったはずだぞ。」

今村「フォッフォッフォッフォッフォ。彼はファーヴル君

たちを見失ってしまったみたいで合流できなかったようです。

先ほど連絡があって,彼は自分で名古屋へ戻るようです。」



隣に座っていたアヤが怪訝な顔で見ていました。



山本「まぁいい。名古屋に戻ったら再び接触させ,奴らが

どこに潜伏しているのかをはっきりと教えてもらうぞ。」

今村「どこに住んでいるかはわからないみたいですが,住ん

でいる地域は判明していると言っていました。接触をもう少し続け,

正確な居場所を聞き出すように指示しておきます。」



今村は少しぼかして説明しました。



アヤ「今回の作戦は御前からの勅命だったのよ。

山本君,どう責任取るつもりなの?」



それを聞いた南雲が震えだしました。



自分の失敗のせいで山本が責任を取らされ

るのではと思うと急に怖くなりました。



山本「作戦は継続中だ。それにそんな事を

言ったら闇の騎士(ダークナイト)を奴らに

暴かれたお前にも責任の一端はある・・・。」



アヤ「ふんっ。」



アヤはそっぽを向き,急に不機嫌になる

少し子供っぽい性格のようです。



源田「次はお前にも,もっと

活躍してもらうからな。」



後部座席の一番後ろに座っていた

冥界の悪魔(キラー)が深くうなずきました。



彼らの小早川レオン暗殺計画はまだまだ継続していくようです。

リク君たちと彼らの戦いはまだ始まったばかりだったのです。



最終章1~8話

第1話 プロローグ

冥界の悪魔シリーズ 最終章
板取山のキャンプ場にて闇組織JFのレオン暗殺作戦が実行され,

リク君たちは山犬の南雲率いる暗殺部隊に猛攻撃を受けながらも

これを撃破し,辛うじて包囲網からの脱出に成功しました。



少年昆虫団には大きな傷はなく,全員が無事でした。



一方の闇組織JF側は精鋭部隊の"梟"と"雁"は撤退することができたようですが,

"雉"は山本が放った火に巻き込まれ,全員が死亡したようです。



消防隊が駆け付けた時には,身元不明の死体が発見されましたが,

その死体から闇組織JFへつながる手掛かりとはならなかったようです。



どうやら武器の類は"冥界の悪魔(キラー)"と

精鋭部隊の中で軽傷だった者が回収したのでしょう。



今回の作戦についての総括が山本の運転する車の中で行われていました。







精鋭部隊は後始末をした後,別の車で先に本部へと撤退するようです。



南雲「・・・・。」



アヤ「南雲ちゃん,残念だったわね。さっきも言ったけど,

これって山本君の責任じゃないのかしら?任命責任ってやつ?」




アヤが空気を読まずに明るい口調で

山本に向かって話しかけました。



南雲「いえ,アヤの姉御・・・。全ての責任は俺にあります。

俺があんなガキに敗けることがなければ・・・。」



満身創痍の状態でやっと言葉を発している様子が見て取れました。



源田「・・・。」



助手席に座っていた源田は腕を組んだまま何も言いませんでした。



山本「作戦はまだ継続中だ。」

源田「一度態勢を立て直すべきだろう。」



彼はようやく口を開きました。



山本「もちろんそのつもりだ。・・・南雲,お前にはまだまだ

やってもらうことがある。今回の事は何にも勝る実戦経験となったはずだ。」

南雲「はっはい・・・!」



南雲の表情が少し明るくなりました。



山本「平成のファーヴル・・・。この先,組織最大の

敵はあいつだ。なんとしても息の根を止める。」



南雲も身にしみてこの言葉の意味を実感していました。



山本「東條には余計な事をしゃべるなよ。」

南雲「・・・といいますと?」



その理由を聞きました。



山本「奴がこのことを聞いたら,真っ先に

戦いたがる。俺と同じくらい奴は"武闘派"だ。」

アヤ「確かに。東條君ならニコニコ

しながら殺しに行くでしょうね~。」



一番後ろの席に座っていた冥界の悪魔(キラー)は

ライフルの手入れをしながら話を聞いていました。



冥界の悪魔「(細かい手入れは戻ってからかな・・・。)」



源田が後ろ振り向き,冥界の悪魔(キラー)に声をかけました。



源田「キラー。戻ったら再び任務に戻れ。奴らが住んでいる

地域は分かっているんだろう。正確な居場所を必ず見つけ

出すんだ。グレイだけには任せておけない。」



今村「ふぉっふぉっ。それは心外です。」



冥界の悪魔はニコリと笑い,頷きました。



源田「来る15日は御前会議の日だ。平成のファーヴルについても

対応を協議する必要がある。嫌でも奴の耳に入るだろうな。」



山本「ちっ・・・。」



彼らが作戦の総括をしている間,

リク君たちは名古屋へ戻ってきました。



そして夜が明けました。



第2話 大学のゼミ仲間 前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
レオンさんはキャンプが中止になったので,

その日の午後から大学に足を向けました。



理由は一 久遠(にのまえ くおん)にメールで

レポートのことについて呼び出されたのでした。



レオンさんは少年昆虫団を誘って大学の

使っていない講堂へ連れてきました。



「いいんですか?だぬたちが一緒についてきても。」



だぬちゃんが聞きました。



「大丈夫。この大学って結構オープン

だから子供がいても誰も気にしないよ。」




どうやらレオンさんは時計を気にしているようでした。

待ち合わせの時間になっても久遠さんが来ないようです。



すると,講堂の扉が開き,女性が入ってきました。



「やっと,来たか。」



しかし,やってきたの久遠さんではありませんでした。



「あれ,なんで君たちがこんなところにいるのさ。」



どうやらレオンさんの知り合いみたいです。



「レオンさんの友達?」



レオンさんの目の前にいたのは

大学のゼミ仲間の女性とその友達でした。



二人は少年昆虫団に気付くと,



???「あら,かわいい子たちね。お名前はなんていうの?」



リク君たちは自己紹介をしました。



姫色「あたしの名前は飛鳥井 姫色(あすかい ひいろ)。

こっちは同じテニスサークルの友達で七夕 紫織(たなばた しおり)。」





<飛鳥井 姫色(あすかい ひいろ)>



<七夕 紫織(たなばた しおり)>



「わぁ,大学生のお姉さんたちだ。

すっごくそれっぽい!憧れる~!」




まさらちゃんが憧れのまなざしで二人を見ていました。



「ひいろ,久遠を知らない?ここで

待ち合わせをしている約束をしていたんだ。」




姫色「あー!もしかしてデート!?・・・。

なわけないか,子供連れてデートするバカはいないわね。」



姫色さんがちょっと冷やかしっぽくと言うと,



紫織「こらこら,翠川君,困っているじゃない。」



おとなしく,真面目そうで少し引っ込み

思案なしおりさんがたしなめました。



「ホントにレオンさんのゼミ仲間・・・?」



イツキ君が意外そうな顔をしていると,



姫色「そうよー。女だから昆虫学なんて似合わない?」



姫色さんがイツキ君に顔を近づけ,ニマリと笑いました。



「いや,別に。」



イツキ君は少し気まずそうに視線を横に外しました。



久遠「おまったー!!」



勢いよく久遠さんが飛び込んできました。



あまりにも勢いよくきたので

目の前で壮大にずっこけました。



「はいはい,お約束,お約束・・・。」



レオンさんは呆れていました。



久遠「あれれれ???確かリク君たちじゃない!!

それにひいちゃんたちもどうしてここに?」



姫色「あたし達は,ご飯を食べに行こうとしたら

たまたまここにレオン君を見つけたから声をかけただけ。」



姫色さんのすぐ横にいたしおりさんも頷きました。



姫色「くぅこそどうして?」



姫色さんは久遠さんのことを親しみを

こめて“くぅ”と呼んでいました。



久遠さんは例のレポートの件について説明しました。



第3話 大学のゼミ仲間 後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
「どうせ寝坊だろ。」



レオンさんは久遠さんが遅れてきた理由を予想しました。



久遠「あったりぃ!!スーパーフトシ君を差し上げようっ!!!」







「相変わらずテンション高いなぁ・・・。」



レオンさんは仕上がったレポートのデータを久遠さんに渡しました。



姫色「どう?一緒にお昼でも食べる?」



姫色さんの誘いに,



「いや,オイラはこれからちょっと・・・。」

「食べます!食べますー!」



レオンさんが断ろうとしましたが,

まさらちゃんが横から割りこんできました。



紫織「ぜひぜひ。」



紫織さんも歓迎してくれたようです。



みんなは大学に二つある食堂のうち,500人は

収容可能な大食堂「キッチンクマー」へ行くことにしました。



食堂につくとみんなはそれぞれ好きなメニューを注文しました。

ちなみにリク君はカツカレー,イツキ君はざるそば定食にしました。



お昼の時間だったため多くの学生が

出入りしており,混んでいました。



そんな時,後ろから見覚えのある声で呼びかけられました。

そこにはカフェ・オーシャンのかおるさんがいました。



カフェで働いているエプロンも着用していました。



かおる「やっぱり,この前来ていただいたお客さん

ですよね。もしやと思い,声をかけてしまいました。」



「あれ?どうして大学の学食なんかにいるんですか?」



レオンさんが尋ねると,



かおる「今,新規オープンのキャンペーンで試飲会をここで

させていただいているんです。私もそのお手伝いできました。」



その様子を見ていた姫色さんが,



姫色「レオンー!なんだ,もてもてだなー!」



「いや,誤解を生むような

ことを言うのはよしてくれ・・・。」




レオンさんが少し焦っていると,



久遠「いいなぁ!あたしもメイド服着てみたい!!」



久遠さんが会話に割り込んできました。



かおる「えと・・・。」



「あ,オイラはこの大学の院生で翠川レオンです。

こちらは少年昆虫団のみんなと,ゼミ仲間です。」




レオンさんと少年昆虫団は改めて

かおるさんに自己紹介とあいさつをしました。



「しかし,レオンさんの周りってうらやましいですよねー。

まるでギャルゲーの主人公みたいじゃないですか。」




だぬちゃんが冷やかし気味に言うと,



「どういうことよ。」



トシ君が聞きました。



「だって,大学の仲間にロリ,清楚,巨乳お姉さんと

そろっておまけに行きつけのカフェにはメイドまで。」


「いやいや,だぬちゃん,その見解は間違っているって!!

しかも,小学生が巨乳なんて言葉使っちゃだめでしょ!!」




珍しくレオンさんが必死でした。



姫色さんはそう言われてまんざらでもなく,



姫色「ははん。確かになー!レオン,

この幸せ者め!ちゃんと本命を決めなさいよ!」



姫色さんがレオンさんにヘッドロックを

決めながらそうおちゃらけました。



紫織さんが必死にたしなめようとしていました。



「なんかレオンさんのイメージが・・・。」



まさらちゃんは少し幻滅していました。



「こんなおいしい状況で満足しないなんて罰が当たりますよ!

いつかきっとしっぺ返しをくらいますからね!!」




だぬちゃんが畳みかけるようにして

レオンさんを追い詰めました。



「リク君,イツキ君,黙っていないで助けてよ!」



レオンさんは二人に助けを求めましたが,

彼らは黙々と出てきた料理を食べているだけでした。



第4話 謎解きはキッチンクマーの中で前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
みんながレオンさんをいじりながら楽しく昼食を

食べていると,突然,隣の席の団体から悲鳴が上がりました。



「!!!」



レオンさんたちが駆け付けると男性が倒れていました。



どうやらこの大学の2年生だそうです。

顔は真っ蒼になって血の気がありません。



リク君たちは悲鳴が上がったテーブルに近づくと,一人の男が

???「今,救急車を呼びます。」



と言いました。



倒れた男性と一緒にいた団体は

同じ読書愛好会のメンバー5人でした。



そのうちの一人,青山修平さん(20)が出された料理を

食べていると突然苦しがって倒れたのでした。



他のメンバーは部長の峰岸 徹(22),副部長の里山 博(22),

森田 彩芽(20),北 峰子(19)でした。



青山さんは救急隊員が駆け付けるまで

レオンさんの救命措置を受けていました。



「あの人,助かるかな・・・。」



まさらちゃんがだぬちゃんとイツキ君の

後ろで心配そうに様子をうかがっていました。



「わからんな・・・。」

「これって・・・事故ですかね・・・?」



二人も事の様子を慎重にうかがって今いた。



ゼミ仲間のひいろさんは怖がるしおりさんをそっと支えていました。



久遠さんもさすがに大人しくしていました。



かおるさんは携帯電話を使って,

お店の責任者に事態を説明していました。



「これは・・・。」



リク君が青山さんの指に注目して何かに気づいたようです。



???「これは,事件だね。殺人事件だ。」



先ほど,救急車を呼んだ青年が,そう言い放ちました。



「まだ息はある!」



レオンさんが訂正を求めると,



???「失礼,殺人未遂事件だね。そして,その犯人は

彼と一緒に食事をとっていた彼ら4人の誰かだ。」



この人物のセリフによって周りに緊張感が走りました。



「あんた,何者だ?警察関係者か?」



イツキ君が近寄って問い詰めるように聞くと,



摩耶野「私か,私は摩耶野 重蔵(まやの じゅうぞう)。

ジャーナリストだよ。フリーの記者だ。」





<フリーの記者 摩耶野 重蔵>



「記者・・・!?」



記者と名乗る人物は見た目はアラフォーでベージュの

ハンチング帽をかぶり,黒縁の眼鏡をかけていました。



机の上にはチコンという有名メーカーの

一眼レフカメラが置いてありました。



摩耶野「職業柄,色々な所に取材へ行くんだが,結構こう見えて

事件に出くわすんだよね。今回もその一つじゃないかな。」



レオンさんは倒れている男性に救急措置を施しています。



「残念だが,これは事件じゃないよ。事故だ。」



彩芽「事故・・・!?先輩は,先輩は助かるんですか!!」



傍にいた森田彩芽さんが泣きながらそう言いました。



「レオンさん・・・。」

「これはおそらく気道異物だ。

つまり食べ物が喉頭などに詰まって呼吸ができていない。」




彼は持っていた人工呼吸用のマウスピースを

はめ,人工呼吸を続けながら説明しました。



摩耶野「ほう,君は一体・・・?」



「この人は,小・・・翠川レオンさんだ。

俺たちの知り合いでこの大学の昆中学専攻の院生だ。」




イツキ君が代わって自己紹介をしました。



姫色「あたしと紫織,くぅは,大学の仲間ってわけ。」



摩耶野「まぁそうだろうね・・・。」



彼はまじまじと彼女たちを

観察するように見ていました。



第5話 謎解きはキッチンクマーの中で後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
キッチンクマーという学食で青山と

いう読書会所属の男性が苦しみ出して倒れました。



救急車を呼んだのは一緒に席にいた

摩耶野というフリーの記者でした。



彼は事件だと騒ぎたてましたが,レオンさんの

見立てにより事故だと判明しました。



摩耶野「根拠を聞きたいね。」



「この人は苦しそうに自分の首を抑えているだろう。

これはチョークサインといって気道異物が起きた時にとっさに取る行動なんだ。」




確かに青山氏にはチョークサインが見られました。



そして,まもなく救急隊員が到着し,

彼は病院へと運ばれていったのです。



読書会のメンバーは全員,

病院へつきそって行ったようです。



「あなたはどうして大学に?何かの取材ですか?」



だぬちゃんが彼に聞くと,



摩耶野「ああ,さっきまで彼らと一緒に食事をしながら

取材をさせてもらっていたんだ。大学生に人気の本についてね。」



彼は,持っていた取材手帳を手に取って見せてくれました。



「それで,ご飯を食べていたら

急にあの人が苦しんで倒れたんですね。」




と,まさらちゃん。



摩耶野「いつもの癖でてっきり事件だと勘違い。

恥ずかしい場面をお見せしてしまった。」



姫色「気にしなくていいんじゃない。ミスは誰にだって

あるし。くぅなんて1日何回ミスっていることやら」



姫色さんが茶かすと,



久遠「なにを~!」



プンスカと怒り始めました。



かおる「でも,殺人未遂事件とかじゃなくて良かったですよね。

ホントに人が目の前で死んじゃったらどうしようかと思いました。」



かおるさんは持っていたお盆を胸に当て,少しおびえていました。



「大丈夫ですよ。人の死なんて滅多に

見られるもんじゃありません。暗殺者でもない限り・・・ね。」




その言葉を聞いて,彼女は少し落ち着きを

取り戻したように見えました。







レオンさんの発言に,



摩耶野「君,なかなか面白いこと言うね!」



彼が食いつきました。



「(おいおい一般人相手に何を言っているんだ・・・。

昨日まで"冥界の悪魔"達の暗殺から逃れていたから

そう言いたくなる気持ちもわからんではないが・・・。)」




ちなみにさっきから一言もしゃべっていないトシ君は

すでに自分の席に戻りずっと昼食に夢中でした。



記者はレオンさんに名刺を渡しました。



摩耶野「君たちに興味がわいたよ。また別の機会に

ぜひ,取材させていただきたい。」



「いや,それはちょっと・・・。」



レオンさんが断ろうとしましたが,すでに

彼はその場から去って行ってしまいました。



「なんだったんだろ,あの人・・・。」



摩耶野氏はリク君から離れたところ

まで来ると,イヤコムの電源を入れました。



摩耶野「こちら,摩耶野。首尾よく目標に

接触しました。引き続き監視にあたります。」



どうやらフリーの記者というのは,仮の姿で

摩耶野氏にはもう一つの顔があるようです。



イヤコムの相手とは・・・。

彼のターゲットは誰なのか・・・。



そしてこの摩耶野という人物の正体はいかに・・・。



第6話 灰色の疑念

冥界の悪魔シリーズ 最終章
レオンさんは久遠さんに徹夜で仕上げたレポートのデータを渡し,

姫色さんと紫織さんに次の授業を欠席することを伝えて別れました。



「授業サボったらダメなんだよ。」



「はは,そうだね・・・。まぁ一応単位は

足りているからさ。じゃなくて,自分は仕事で来ているの!」




レオンさんが弁解しました。



歩いて話をしていたらいつの間にか

校内にある図書館の前まで来ました。



図書館から一人の青年が出てきました。



「あっ!」



だぬちゃんが驚きました。

出てきた青年とは灰庭氏だったのです。



「グレイ!?」



イツキ君が警戒しました。



「まだ決まったわけじゃないでしょ!」」



まさらちゃんは灰庭氏をかばいましたが,



彼は闇組織JFの一員,グレイだったのです。

しかし,リク君たちには確証がありませんでした。



「それにしても今日は色々な人と会いますね。さすが大学ってことですか。」



灰庭「あれ?みんな!それに翠川さん。昨日は大変でしたね。」





彼は昨日,リク君たちと共に行動して,

あの暗殺計画に一枚かんでいたのです。



「いえいえ。大学内で会うのって珍しいですね。」



灰庭「そうですね。昨日のことも気にはなって

いるんですが,またゆっくりとお話できたらと思います。」



灰庭さんは少し焦っていました。



灰庭「講義に遅れそうなんで失礼します。午後はずっと講義なので・・・。」



小走りに少し奥にある本館へと向かっていきました。

彼は教授の手伝いで学生に講義をしているようです。



「ねぇ?彼って本当に悪い人なのかな?」



イツキ君がトシ君に対して少しキレ気味に,



「当たり前だろ!!レオンさんの

お父さんを殺した連中の仲間だぞ!!」


「まぁまぁ,落ち着いてよ。トシ君も悪気が

あって言ったわけじゃないだろうし。」




みんなは図書館の前にある

ベンチに並んで座りました。



「なんか考えないといけない

ことが沢山増えてきたよねぇ・・・。」




「そうかな?」



トシ君が首をひねると,



「まぁ,君は最初から何も考えていないですから。」



と,一言。



「何をー!!」



イツキ君とリク君が近くの自販機で

人数分のジュースやお茶を買ってきました。



ベンチは木陰になっているとはいえ,時刻は午後13時30分を

過ぎたところで,気温は35度を超えています。



みんなは汗をかきながらジュースを

飲みほし,のどの渇きを満たしました。



一息ついたところで,レオンさんが,



「まさらちゃんの言うとおり。ここで

情報を整理しておいた方がいいかもね。」


「そのために,俺たちをこんな所へ呼んだのか?」



イツキ君の読みに,



「まぁね。ここなら人が多いし,冥界の悪魔の目からも

逃れた状態で皆と話ができると思ってね。」


「一つ目の懸念事項はまさにそれだよね。

冥界の悪魔(キラー)がレオンさんを狙っている。」




と言うリク君の話を聞いて,



「今もレオンさんをつけ狙っている気配を感じるの?」



まさらちゃんが心配しました。



「いや,今は何も感じない。周囲にオイラを

探っている人物はいないと思う・・・。」




それを聞いて少年昆虫団は少しホッとしました。



「レオンさんは昨日,キラーと

戦ったんだろ?何か気付くことはなかったの?」




イツキ君の質問にレオンさんの答えは・・・。



第7話 冥界の悪魔はすぐそこに

冥界の悪魔シリーズ 最終章
昨日の冥界の悪魔との対決を振り返り,



「とにかく,隙がなかった。まさに暗殺のプロだと思う。

かなり距離を取って対峙していたからほとんど姿は見ていないんだ。」


「ボクも声は少し聞こえてきたんだけど,

遠かったし,低くこもった声で,よくわからなかった。」




二人を記憶をたどりながら昨日の

死闘について振り返りました。



「戦ったら勝てそうだったのか?」



リク君は,



「わからない。山犬の南雲ですら強敵だった。」



と,思い出すようにそう答えました。



みんなはもう一度最近起きたことを振り返り,

情報をまとめることにしました。



暑い日差しの照りつける中,話を続けます。



「二つ目の懸念事項は,灰庭さんが

JFのグレイじゃないかってことだよな。」




みんなは頷きました。



ただ,レオンさんだけは

訳ありな顔をしているようでした。



「うーん・・・。さっきも言った

けど悪い人には見えないんだよね。」


「賛成―!」



まさらちゃんとトシ君の意見が合いました。



「はは・・・。」

「それは灰庭さんがまさら

ちゃんの好きなイケメンだからでしょ。」




この発言がまさらちゃんの逆鱗にふれたようです。



「なにそれー!ちがうもん!」



まさらちゃんはポカポカと

だぬちゃんの背中を叩いて否定しました。



一つのベンチにまさらちゃんを真ん中に

左側にトシ君,右側にだぬちゃんが座っていました。



もう一つのベンチにイツキ君,

リク君,レオンさんの順に座っていました。



「実際,暗殺されかかった時,途中で

いなくなったのは怪しすぎる。絶対に何かあるぞ。」




イツキ君が鋭い指摘をしました。



リク君は隣に座っていたレオンさんと目が合いました。



「何か思いついたことがあるのかい?」

「いや,特には・・・。レオンさんこそあの人と同じ

大学に通っているわけだし,何か気付いたことがないのかなって?」




レオンさんはジュースを飲み干すとすぐ隣に

設置されていたごみ箱に投げ入れました。



「むしろ,あの人がグレイかもしれないのに,

あまり突っ込んで調べようとしていないんじゃない?」


「そっそうかな・・・?」



レオンさんのその反応には

何か含みがあるような気がしました。



「でも,今は灰庭さんよりやっぱり

“冥界の悪魔”から身を護る方が先じゃないですかね。」




だぬちゃんがまっとうなことを言う

ものだからトシ君が少しやっかんでいました。



レオンさんはもう1本冷たいお茶を買ってきました。



彼が戻ると,先ほどの話題に戻っていました。



「冥界の悪魔はすぐ近くにいる。これは確実だろう。

その対策は菊の重要案件としてこの後,対策するつもりだから心配ないよ。」




レオンさんはできるだけ皆を安心させようとしました。



「あと心配なことは・・・。」

「次の暗殺計画がいつ実行されるかってことだな。」



昨日の計画は山犬の南雲が指揮官として

作戦を実行しましたが,失敗に終わりました。



おそらく次の暗殺計画がすでに

立案されていると警戒をする必要がありました。



「今日かもしれないし明日かも,1ヶ月後

かもしれない。確実なことはわからないね。」


「じゃあさ,レオンさんの協力者って

人に聞いたらどうなのかな?」




まさらちゃんはレオンさんには闇組織JFに

潜入している協力者がいることを思い出したのです。



レオンさんはまさらちゃんの提案を聞き・・・。



第8話 小東との接触

冥界の悪魔シリーズ 最終章
レオンさんには闇組織JFに潜入

している協力者がいるようです。



その人物は小東という名前でした。



小東は警察関係者ではなく,あくまでレオンさんの個人的な

協力者のため,菊のメンバーもその存在を知りませんでした。



そのため,菊に潜入していた黄金原氏から

組織にそのことが漏れることもありませんでした。



少年昆虫団は謎に包まれたその人物に

ついて詳しく聞こうとしました。



「小東か・・・。よし,連絡を取ってみよう。」



レオンさんはまさらちゃんの

提案を受け入れました。



「レオンさんの個人的な知り合いみたいだけど,

どんな人なの?詳しく教えてもらってなかったよね。」




リク君が聞きました。



少し間をおいて,



「かなり暑くなってきたね。空いている教室に移動しよう。」



レオンさんは図書館ではなく,東館にある

空き教室を探し,そこに皆を招き入れました。



廊下にはたくさんの学生がいました。



どうやら午後一つ目の講義が終わったようです。



次の講義に向けて多くの

学生が教室の移動をしています。



「なんか,見ているとみんな大変そう

だけど,やっぱり大学生っていいよね!憧れる!」




まさらちゃんは楽しそうに会話を

している学生を見てそう呟きました。



レオンさんはいつも使っている

携帯とは別の携帯を取り出しました。



それは一昔前の二つ折りになった

とても古臭いタイプのものでした。



「以前,レオンさんの家で見た機種と違うね。」

「あれは,菊のメンバーとやりとりすものだからね。」



レオンさんが番号を打ち込み,

メッセージを書き込み,送信しました。



「これでその小東って人と連絡が取れるのか?」

「うーん,すぐに返事が

来るかどうかはわからないね・・・。」



レオンさんは携帯電話の画面を見つめていました。



リク君がふと廊下を見てみるとすでに

次の講義が始まったのか,人の出入りがなくなっていました。



「どうやら取り込み中みたいだね。

連絡が来るまで待つしかない。」



するとレオンさんのポケットから振動がしました。



どうやらもう一つの

携帯電話に着信が入ったようです。



「こっちは,菊の赤神さんからだ。何だろう・・・。」



レオンさんはみんなにここで待っていて

ほしいと伝え,その場を離れていきました。



「なんか忙しそうだな。」

「あ,あれ?灰庭さんだ。」



まさらちゃんが指差す方に

灰庭さんが歩いていました。





「あれ?午後はずっと講義をするって

言っていませんでしたっけ?」


「さぼったんじゃないのー。」



トシ君が鼻をほじりながらそう言うと,



「トシ君じゃあるまいし・・・。でも教授のお手伝いなら

抜け出しても問題にはならないのかもしれませんね。」



とだぬちゃんがトシ君を馬鹿に

しながら自分の見解を述べました。



「よし,後をつけてみよう。」

「いいの?レオンさんを待っていなくて。」



リク君もイツキ君の意見に賛成のようです。



「大丈夫だろ。あとでイヤコムで連絡入れておけばさ。」



みんなは灰庭さんの後をつけることにしたようです。



最終章9~15話

第9話 グレイ 前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
少年昆虫団は灰庭さんに気付かれないように

距離を取りながら後をつけることにしました。



まず,リク君とイツキ君が彼を見失わないようにし,

さらにその後ろから3人が追いかけるようにしました。



「大学から出るつもりはないみたいだね。」

「ああ,ただ単にやっぱり

授業をさぼって一休みするだけか?」



灰庭さんは大学の入り口から

一番遠い棟へ入って行きました。



誰も使っていない教室を見つけ,中に入って行きました。



リク君たちは外からそっと様子を伺います。



灰庭さんはポケットからレオンさんが持っているような

古いタイプの折りたたみ式携帯電話を取り出しました。



そしてどこかへ連絡をするようです。



「え,何々?どうなっているの?」



まさらちゃんは体を起こして教室の中を覗こう

としましたが,イツキ君に止められました。



「じっとしてろ。気づかれる!」



灰庭「もしもし。こちらグレイ。定期連絡を入れます。」



灰庭氏はどうやら闇組織JFへ

連絡をしているようです。



「やはりっ・・・!」



少年昆虫団は驚きと戸惑いを隠せませんでした。



「そんなっ・・・。」



ついに少年昆虫団は灰庭氏が

グレイだと気づいてしまったのです。



「リク君の推理通りでしたね・・・。」

「リク君,どうするの・・・?」



トシ君が後ろから話しかけました。



「もう少し様子を見よう。」



灰庭「ええ・・・。そうなんです・・・。

僕がグレイだと気づかれました。」



その会話を聞き,さらに驚きました。



「まずいっ。尾行が完全にばれてた!」



思わず大声を出してしました。



灰庭「入っておいでよ。少年昆虫団のみんな。」



灰庭さんの視線は完全に

こちらを向いていました。



勢いよくドアを開けたのはリク君でした。



「尾行には自信があるほうだったんだけどな。」



リク君はすでに背中の捕網虫

“天照”を右手に持っていました。



今日は“月読”を持ってきていなかったのです。



灰庭「尾行に自信のある小学生なんて

日本中探しても君だけだろうね。」



「そんな・・・。そんな・・・。あの灰庭さんが

悪いやつらの仲間だったなんて・・・。」



まさらちゃんは廊下に

座り込んで泣いてしまいました。



それをトシ君が慰めていました。



「尾行に気づいていながらこんな人気のないところへ

連れてきたってことはここでボクたちを始末するつもりだったんだね。」



灰庭「ふふふ。」



不敵な笑みを浮かべています。



「だけど,それは失敗だよ。なぜなら灰庭さん・・・。

いや,グレイはここでオレが倒す!イツキ君,レオンさんに連絡を!」


「さっきからやっているんだが,応答がないんだよ。」



どうやらレオンさんと連絡がつながらないようです。



しかし,誰もいないとはいえ,教室には

たくさんの机といすが並んでいます。



戦うには邪魔が多い場所です。



灰庭「こんなところで戦うつもりかい?どうやって?」



あくまで余裕の態度を変えません。



「こうやるんだよ!」



リク君は一足飛びに灰庭さんとの間合いを詰めました。



-大空一刀流 闇の夜月(ムーンナイトウォーク)-





まるで三日月のような斬撃が

灰庭さんの体を切り裂きます。



ザクッ!!!



しかし,斬れたのは机だけでした。



灰庭「なるほど。制空権は君のものか。」



闘いの火蓋が切られました。



第10話 グレイ 後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
リク君は空き机の上に着地するとすぐに机と机を

ジャンプしながら移動をし,再び攻撃態勢を取ります。



灰庭「こらこら。机の上には乗ったら

だめでしょ。先生に怒られるぞ。」



そう言いながら,灰庭さんも机の上に乗り,リク君と

一定の距離を取りながら机から机へと飛び移ります。



「あの,加勢しなくていいんでしょうか・・・。」



だぬちゃんがリク君の心配すると,



「あいつの邪魔をしたらだめだ。」

「でも,あいつ組織の幹部みたいなもんでしょ?

昨日の南雲って奴と同じくらい強いんじゃ・・・。」



トシ君もさすがに心配なようです。



「いざとなったら俺も加勢する。少しは力になれるはずだ。

だが,もし二人ともやられるようなことがあったら,

すぐにこの場を離れてレオンさんを探せ。いいな!」



二人は頷きました。



まさらちゃんはお山座りをして

グスグスと泣きながらうつむいていました。



二人が激突するたびに教室内の窓ガラスが

振動し,机が崩れていきます。



灰庭氏は武器を持っていませんでした。



しかし,絶妙な間合いでリク君の攻撃をかわします。











それでもかわしきれないと判断した時は,

手の甲や肘で攻撃を受けて耐えます。



「(なんだ・・・。この戦い・・・。これはまるで・・・。)」



リク君はいつの間にか教室の

端まで追い込まれていました。



しかしひるむことなく壁を蹴って反転し,

そのまま灰庭氏に突っ込みました。



大地一刀流 ―獅子奮迅(シーザー・ショット)―



この攻撃も難なくかわされます。



勢いよく教室の端の壁に

激突してしまいました。



「くそっ・・・。」



灰庭氏が机の上を走って

こちらに向かってきます。



そして大きくジャンプしてリク君の頭上へ・・・。

彼のかかと落としを天照で防ぎます。



「ぐっ・・・。うぉおおおおおお!!!」



リク君はやられてばかりでいらないと,

思いっきり彼の攻撃をはじき返しました。



灰庭「さすがだよ!組織が危険視するわけだ!」



彼はバク中しながら

受け身を取りました。



「(グレイ・・・。なんだこの

余裕・・・。全然本気じゃない・・・?)」


「なんだ・・・。この違和感・・・。

俺たちは何かを見落としていないか・・・。」



イツキ君もこの戦いを見て何か違和感があるようです。



「どういうことですか?」

「わからない。ただ,グレイはまるで

本気を出していないように見える。」



まさらちゃんが顔をあげました。



目は真っ赤にはれ,頬には

涙の痕がくっきり残っています。



「でも本気を出していないのはリク君も同じじゃ

ないですか?そもそもアミだって1本しかないわけだし。」


「奥義だって出してないしね。」



みんなは二人の戦いを見守っています。



灰庭「どうしたんだい?もっと本気でぶつかってきていいんだよ。

それとも丸腰の人間相手に本気にはなれないのかな?」



彼はリク君を軽く挑発しているようでした。



「あんたを倒してから色々聞こうと

思ったけど止めた。今聞いておく。」



リク君は3mほど離れた場所で腕を組んで

立っている灰庭さんに“天照”を突き出しました。



灰庭「ふふん。何かな?」



灰庭さんはカラカラと笑っていました。



リク君が聞いておきたかったこととは・・・。



第11話 灰色の正体 前編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
「それは・・・。」



リク君が話を続けます。



「なんで・・・なんで・・・組織の仲間なんだ・・・。

僕たちとキングや昆虫採集で一緒だった時は,本当に

楽しかった。まさらちゃんもあんたのことを・・・。」



そこまで言いかけて止めました。



灰庭「・・・。」



「・・・。」



リク君は“天照”をぐっと握りしめました。



「本当に・・・灰庭さんって

悪い人なんですよね・・・!?」


「ちがうっ!灰庭さんは悪い人なんかじゃない!

それはあたしが一番よくわかっているの!この前だって昆虫採集の

時に転んでけがをした時,心配して声をかけてくれたんだもん!!」



まさらちゃんが貯め込んだ何かを吐き出すように叫びました。



「(待てよ・・・。待てよ・・・。オレ達は何か

大きなことを見落としていないか・・・。)」



この間も灰庭さんから攻撃を仕掛けてくる

ようなそぶりは見せませんでした。



「(組織から俺たちのことを探るために送り込まれた

スパイ・・・それがグレイ・・・。)」



リク君は必死にこの違和感の正体を

探ろうと頭を働かせていました。



「(グレイ・・・。灰色・・・だから灰庭。

組織では確か大西と呼ばれている・・・。)」




リク君の頭脳がフル回転していました。







「(大西・・・大西・・・。)」



灰庭さんはリク君の様子をじっと見つめていました。



「まさかっ!!!!!」

「何かわかったのか!?」



イツキ君が教室の外から

リク君に問いかけました。



「そんなことがありえるのか・・・!?」



自問自答しているようでした。



灰庭「何かわかったのかな?確かめてみようか?」



灰庭さんは背中に隠し持って

いた警棒を取り出しました。

(第364話のイラスト参照)

伸ばすと1m程の長さになりました。



灰庭「僕も気になるな。君が何に気付いた

のか。確かめるにはこれしかないね!」



今まで守りに徹した彼が攻勢に出ました。



灰庭「言っておくが,生半可な攻撃じゃ防げないよ。」



まるで居合のように警棒を左の腰に

当て半身になってリク君に向かってきます。



リク君は奥義の構えをとりました。



「望むところだぁ!!ケガしても

知らないからなっ!!!」



左足を半歩前に出し・・・。



「大地一刀流奥義・・・。」



灰庭氏はまるでワープしたような早さでリク君と

の間合いを詰め,警棒で斬りあげようとします。



警棒がリク君の首筋を掠めようとしその瞬間・・・。



リク君は攻撃態勢を刹那の

瞬間,解除しました。



「何やっているんですか!?死んじゃいますよ!!」

「リク君―!!!いやぁぁぁ!!!」



まさらちゃんは手で

顔を覆い隠しました。



しかし,教室には爆音も斬撃も

響き渡りませんでした。



あるのはただの静寂のみ・・・。



灰庭さんはリク君の首筋ぎりぎり

で警棒を寸止めしていました。



「どういうことだ・・・?」

「これが灰庭さんの正体だ・・・。」



第12話 灰色の正体 後編

冥界の悪魔シリーズ 最終章
リク君は灰庭さんの本当の

正体に気付いたようです。



「どういうことだ・・・?なんで攻撃を止めた・・・。」



灰庭さんは警棒を下ろしました。



「これが灰庭さんの正体だ・・・。」



まさらちゃんがリク君の近くまで駆け寄りました。



「どういうことなの・・・?」



リク君は机の上に乗ったまま,

彼の正体について語り始めました。



「グレイ・・・。組織では大西って呼ばれて

いるんだよね・・・。仏の今村とかいう幹部の部下だ。」



灰庭「組織の情報って筒抜けだね。その通りだよ。」



灰庭さんは感心していました。



「大西・・・大西・・・。この名前がずっと

気になっていた。大西という漢字の反対語は・・・。」



「どういうこと?」



トシ君が首をひねりました。



「まさか・・・。“大”の反対は“小”・・・。

“西”の反対は“東”・・・。つまり”大西”の反対は・・・。」



「小東!!!」



まさらちゃんが叫びました。



「あれ?どっかで聞いた

名前じゃないですか・・・?」



「ああ・・・。以前レオンさんが言っていただろ・・・。」



リク君が話を続けます。



「レオンさんの協力者の名前が小東

だって・・・。灰庭さんはレオンさんの協力者だ。」



まさらちゃんはまだ半信半疑でした。



「レオンさん,そうでしょ!!」



するとイヤコムからレオンさん

の声が聞こえてきました。



「詳細はそこについてから話すよ。

君たちには申し訳ないことをした。」



数分後レオンさんが皆の元へ駆けつけました。



「リク君大丈夫だったか・・・!」

「レオンさん,さっきのリクの推理は本当なのか!?」



イツキ君がレオンさんに聞きました。



「ああ・・・。その通りだ。

彼はオイラの協力者なんだ。」



灰庭「ふふ。ついにばれちゃったね。」



灰庭さんは悪びれる様子もありませんでした。



「なんでこんなことをしたんだ!?

いずれお前のことはみんなに話すつもりだったんだ。」



レオンさんは灰庭さんに駆け寄り

声を荒げてそう言いました。



灰庭「いやぁ・・・。本当に組織に定期連絡を入れるつもりだったんだよ。

だけど彼らの尾行に気づいちゃったからさ。確かめたくなっちゃってね。

本当にあの悪魔の闇組織“JF”と戦える少年なのかね。」



灰庭さんが弁解をしました。



「じゃあ,さっき組織にかけていた電話は・・・。」



灰庭「大丈夫だよ。あれはフェイクさ。

君たちの事は一切組織には伝えていない。」







皆はそれを聞いて一安心しました。



「ちょっと待てよ・・・。つまり灰庭さんは

二重スパイってことか!?」


「そういうことなんだ。表向きは組織の準幹部グレイで

オイラ達に探りを入れている。だけど裏ではオイラと

つながっていて組織の情報を流してもらっているんだ。」



ついに灰庭さんの本当の正体が

判明した瞬間でした。



彼は二重スパイだったのです。



第13話 灰色の行方

冥界の悪魔シリーズ 最終章
とりあえずこの場所に長居することは避けたかったので

多くの学生が戯れることができる多目的ホールへ移動しました。







ちなみにこの後,灰庭さんから大学に事情をうまく

誤魔化しながら話し,教室を復元してもらったようです。



落ち着いて話せる教室に移動し,先ほどの

話を続けることができました。



リク君は多少けがをしていたので,救護室で借りてきた

傷治しセットでまさらちゃんに手当をしてもらいました。



「話を聞いて,戦いのときに感じていた違和感がわかったよ。

灰庭さんには殺気が全然感じられなかったんだ。

昨日,組織の南雲と戦った時とは大違いだった。」



灰庭「なるほど。それも気づかれるきっかけになっていたわけだね。

まさかレオンの仲間を傷つける訳にはいかなかったからね。」



まさらちゃんは灰庭さんに

抱きついて離れませんでした。



「良かったよぉ・・・。灰庭さんが悪い人

じゃなくてホントに良かったぁぁぁ・・・。」



また泣きだしてしまいました。



灰庭「ごめんよ,まさらちゃん。でも敵を騙す

には味方からっていうからね。」



「確かに,昨日の襲撃の前にあんたの

正体を知っていたら,組織にばれていたかもしれないな。」



イツキ君の言葉には重みがありました。



「だから昨日の襲撃の際,途中でいなくなったんですね。」



灰庭「両方から疑われないためには

そうするしかなかったからさ。」



だぬちゃんは自分の予想が当たった

ので少し嬉しかったようです。



「待てよ,それなら暗殺計画を事前にしっかりと

伝えてくれればあんな目に会うことはなかっただろ。」



イツキ君の意見は最もでした。



しかし,彼にはそれができなかったのです。

万が一,自分がスパイだとばれてしまっては

今までの苦労が水泡に帰すのです。



それはレオンさんも重々承知だった

のであえて,詳細は伝えていなかったのです。



「でも,僕たちが必ず助かるように

色々と手回ししてくれていたんだよね。」



リク君はすでに気づいていたようです。



灰庭さんが事前に暗殺計画の場所となるキャンプ場へ出向き,

レオンさんが金網に穴をあける道具を近くに置いてくれていました。



また,襲撃の直前に声をかけすぐに逃げられるようにしたり,

レンタカーを用意して山から下りられるようにしてくれていたのです。(前章参照)



灰庭「さすがだよ。最初に出会ってから結構

たつけど,君にはいつも驚かされているよ。」



「灰庭さんがレオンさんと顔見知り

だって知って,気付いたことがもう一つあるよ。」



みんなはリク君に注目しました。



「気になるね。どんなこと?」

「最初にレオンさんをキングに連れてきた時のことだよ。

レオンさんは新人バイトが入ったことを指摘していたよね。」



みんなは何となくその時のことを思い出しました。



「沢山お客さんがいる中で,それを指摘できる理由は

最初から知っていたってことだよね。」(104話参照)



リク君の指摘を聞き,皆は

「あっ」となりました。



「そんな6年も前のこと良く覚えていますね~!」

「いやいや,つい数週間前のことだろ!」



だぬちゃんは少し時間感覚が

おかしくなっているようです。



「あの時は少し違和感があるなって程度だったんだけど

レオンさんは灰庭さんがキングに潜り込むことを知っていたんだ。」



「うん。様子を見に行きたかったんだけど,一人よりは

みんなと一緒がいいかなと思って連れて行ってもらったんだ。」



レオンさんと灰庭さんが知り合いだと言うことで

色々なことが明らかになってきました。



「そう言えば,灰庭さんって確か30歳だよね。レオンさんも

それくらいだった気がした。もしかして同級生?」(156話参照)



そんなことにもヒントが隠されていたのでした。



リク君たちは灰庭さんから“冥界の悪魔(キラー)”

のことについて聞き出すことにしました。



第14話 冥界への答え

冥界の悪魔シリーズ 最終章
リク君たちは灰庭さんから"冥界の悪魔(キラー)"の

ことについて聞き出すことにしました。



「灰庭さんはキラーのことについて何か知って

いるんでしょ。レオンさんの後を付け回していることも。」



灰庭「レオンにも伝えてあるんだが,

その人物についてはよくわからないんだ。」



リク君たちの期待は空振りに終わってしまいました。



「そうなんだ。でも同じ

組織にいる人物なんでしょ!?」



灰庭「ああ,それはそうなんだが,謎の多い人物で僕も直接会ったことはない。

昨日だって,君たちと別れた後は,組織の計画に乗るふりをしながら,

君たちが逃げられるように手まわしをしていてキラーには会っていないんだよ。」



灰庭さんが嘘をついている

ようには見えませんでした。



灰庭「ただ,仏の今村が言うには組織でも暗殺,

特に狙撃の腕はナンバーワンだと言っていた。」



「レオンさんって最近誰かにつけ狙われて

いるみたいなの。やっぱり冥界の悪魔なんだよね?」



まさらちゃんが少し必死になって聞くと,



灰庭「冥界の悪魔が探りを入れているとは

聞いている。それ以上は本当にわからないんだ。」



灰庭さんは少し申し訳なさそうに語りました。



「オイラも十分警戒すること

にする。小東は引き続き,組織を頼む。」



灰庭氏は静かに頷きました。



「せっかく,灰庭さんの本当の正体が

わかったことですし,この後はみんなで食べに行きますか!」



灰庭「いや,それは止めておこう。組織に疑われたらまずい。

組織内では僕は君たちのことを探っているという立場なんだ。」



灰庭さんは慎重な姿勢を崩しませんでした。



「なぁ,アイツについては何か知っているか?」



アイツとは影(シャドー)のことを指していました。



グレイと影(シャドー)は共に仏の

今村の部下に所属しています。



灰庭「アイツと僕は元々,ユニット“沼蛭”の山口という人物の部下だった。レオンから

聞いているみたいだが,彼が自殺したことで,沼蛭はリーダー不在の状態が続いた。」



それは先日レオンさんから語られた内容と同じでした。



灰庭「それを見かねた今村が我々をユニット海猫に

組み込んだ。もちろん御前の許可は取ったらしい。」



みんなは話に夢中になっていました。



灰庭「奴もキラーと同じくらい謎の多い人物で,

いつも仮面をかぶっていて素顔は僕も見たことがない。」



さらに話を続けます。



灰庭「ただ,僕は御前にあったことはないんだが,あいつはあるみたいだ。

一応組織内では同期ってことになっているので向こうは何かと僕をライバル視している。」



灰庭さんは知っていることを包み

隠さず全て話してあげました。



「御前・・・。御前ってどんな奴なの!?」



みんなが一番聞きたがっていたことを

リク君が聞いてくれました。



灰庭「さっきも言った通り,自分も一度も謁見したことがない。詳細は一切不明

だけど,組織内では御前こそが全てとなっている。まるで宗教の教祖のようにね。」



「なんてこった・・・。」



イツキ君も驚きを隠せないようです。



その後も少し,今後のことについて話をしました。



こうして灰庭氏とは別れ,大学を後にしました。



何か組織で動きがあった場合は,レオンさんを通して

少年昆虫団にも知らせてもらえることになりました。



「昨日と今日で色々なことがありすぎたな。

しかし,だいぶ闇組織JFに近づいたんじゃないか?」



「どうかな?まだまだ全貌が見えてこない・・・。

それくらいデカイ組織ってことなんだろう。」



皆は大通りを歩きながら帰宅していました。

時刻はすっかり夕方になっていました。



するとレオンさんが立ち止まりました。



「どうしたの?おしっこ?我慢

できないなら電柱でしちゃえば?」


「トシ君じゃあるまいし,大人が

そんなことしたら捕まるんですよ!そんなことも

わからないんですか。バカじゃないですか?」







レオンさんは辺りを見渡します。

どうやら再び,彼をつけ狙う気配を感じたようです。



「みんな,先に歩いて。すぐ先に交差点を左に曲がるんだ。」

「でも・・・。」



まさらちゃんが何か言いかけましたが,



「いいから早く!」



レオンさんに強く言われ,少年昆虫団は

レオンさんを追い越し,先を歩いて行きました。



レオンさんは大きな交差点の

一つ手前の小さな小道に入って行きました。



すると少し離れたところに

黒い影が少しずつ近づいてきました。



その正体とは・・・。



第15話 エピローグ

冥界の悪魔シリーズ 最終章
レオンさんをつけ狙う謎の影が忍び寄ります。



その影がビルとビルの隙間の裏道に入ったところで

レオンさんがグッと腕を伸ばし奥へと引きずり込みました。







「やっと捕まえたぞ!」



レオンさんの腕はその人物の肩を

がっちりとつかんで離しませんでした。



その人物は中年の男性で黒の野球帽を

深くかぶり,サングラスとマスクをしていました。



いかにも怪しいその男は必死に

レオンさんの腕を振り払おうとします。



その時,帽子とサングラスが

外れ,顔がはっきりと見えました。



しかし,レオンさんはその顔に

見覚えはありませんでした。



「とにかく,このまま県警本部まで連れて行く。」

「レオンさーん,大丈夫―?」



道の出口からまさらちゃんの声が聞こえました。



レオンさんが一瞬そちらに気を取られた隙を

利用して怪しい男は一気に逃げ去って行きました。



「キャッ!!」



まさらちゃんはその人物に弾き飛ばされ

転びそうになったところをリク君に助けられました。



「今のが冥界の悪魔・・・か?」



イツキ君はすでに消え去った

先ほどの男について自分の見解を述べました。



「わからない・・・。ただ今まで

オイラの後をつけていた人物はアイツだ。」




結局,あの男の正体は分からないままでした。



この後,彼らは冥界の悪魔の暗殺に万全の警戒を

取りつつ,いつものように昆虫採集へと出かけて行きました。



眠らない町,栄の一角にある組織御用達のバー,“リ・セッ・シュ”。



バーのカウンターに今村,山本,源田の三人が並んで飲んでいました。



すぐ後ろの四人用のテーブル席には,治療を終えた

南雲と,古賀,冥界の悪魔(キラー)が同席していました。



南雲「アヤの姉御は来ていないんですね。」



小声で古賀に話しかけました。



古賀「栄までわざわざ来るのが煩わしいみたいですよ。」



カウンターでは源田がジンを飲みながら,



源田「次の暗殺計画はすでに決まりつつある。」

山本「・・・。」



山本は黙ったまま静かにバーボンを飲んでいました。



南雲「俺に,俺にやらせてください!今度こそ成功させて見せます!」



後ろのテーブルから南雲が会話に割って入ってきました。



山本「貴様は黙っていろっ!!」



山本が睨みつけました。



南雲「すみません・・・。」



彼はそのままうな垂れました。



キラー「まぁ,そう気を落とさずに。」



冥界の悪魔(キラー)が落ち込む南雲を慰めていました。



今村「そう言えば,いよいよ御前会議が始まりますねぇ。

どんな勅命が下るか,楽しみですよ。フォッフォッ。」



御前会議ではどんなことが話し合われるのでしょうか。



源田「おそらく軍医から神の遺伝子の研究についての報告があるだろう。」

今村「でしょうねぇ。再発見された漆黒の金剛石から抽出した

“神の遺伝子”を使った最終実験に成功したみたいですからね。」



今村の言葉に,



山本「本来なら,俺たちの仕事だったはずだ。それをあの野郎が横取りしやがった。」



あの野郎とは川蝉の東條を指していました。



そして,彼らが行っている謎の研究は

すでに最終段階を終えていたようです。



組織の目的とは・・・。



御前の正体とは・・・。



それが明らかになる日が

少しずつ近づいていました。



冥界の悪魔シリーズ ~最終章 完~







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