目次
3篇 ノアシリーズ 序章 第1章
第2章 1~8話
第2章 9~16話
第2章 17~27話
2.5章
第1話 影(シャドー)のその後 前編
ノアシリーズ ~第2.5章~
各務原山で正体を見破られた“影(シャドー)”は,
その足で組織のボスである御前の所へ行きました。
その帰りに,ユニットリーダーである今村に呼び出されました。
ここは眠らない街,栄の一角。
組織の幹部以上が入ることが許されるVIPバーがあります。
そのバーの名前は―
―リ・セ・ッシュ―
影(シャドー)が中に入ると,今村がカウンターに座っていました。
今村「ふぉっふぉっ。会うのはこれが初めてですね。」

影「ええ,初めまして。」
今村「お疲れ。影(シャドー)君。まずは一杯どうですか。」
影「いえいえ。それよりもご用件をお聞きしたいのですが?」
今村は用件を切り出しました。
今村「例の少年たちの追跡はどうですか?」
今村は任務の進行状況を確認したかったようです。
影「ええ,順調ですよ。」
彼は平然と嘘をつきました。
今村「そうですか。私はあなたが彼らの追跡に失敗し,
少年たちに正体を暴かれたものだと思っていましたよ。
そしてそれをなぜか御前に直接報告しに行った。違いますか?」
影はあわてる様子もなく切り返します。
影「何のことでしょう?任務は極めて順調です。」
今村は話を続けます。
今村「そうですか。それでは現在わかっていることを報告してください。」
影「それが,まだ何も収穫がないんですよ。」
これは半分当たっていました。
彼は少年昆虫団の居場所は突き止めていたが,
肝心のノアの書は手に入れることができていなかったからです。
今村「困りましたねぇ。居場所さえわかれば・・・。」
どうやら影は少年昆虫団の居場所を
今村に報告するつもりがないようです。
今村「わかっているとは思いますが,我々の任務は・・・。」
影「"漆黒の金剛石"の探索,ですよね。それは承知していますよ。」
今村「ふぉっふぉっ。」
影「(組織内にある6つのユニットのうち,
半分の3ユニットをその探索に割り当てている。
いかに組織が漆黒の金剛石を使った
"あの研究"に力を入れているかがわかる・・・。)」
闇組織ジャファには6つのユニットがあるようです。
それは山犬,海猫,川蝉,そして以前,石井軍医が
名をあげていた,森熊,藪蛇もそのユニットのようです。
(第69話参照)
今村「まぁ,私は君のことを信頼しているんですけどね。
彼が言うことをきかないんですよ。」
影「彼というのはまさか・・・。」
今村「ええ,大西君のことです。」
大西とは影と同じく牟田と山下の代わりに
入った今村の部下のようです。(第29話参照)
第2話 影(シャドー)のその後 後編
ノアシリーズ ~第2.5章~
影「彼というのはまさか・・・。」
今村「ええ,大西君のことです。」
大西とは影と同じく牟田と山下の
代わりに入った今村の部下のようです。
(第29話参照)
影「やはり,グレイですか。」
今村「大西君は“沼蛭(ぬまびる)”では
そう呼ばれていたのですか。
彼とは確か,昔からの知り合いでしたよね?」
影「ええ,“沼蛭”にいたころからの同期ですよ。」
沼蛭というのが6つ目のユニットのようです。
影「本人がそう呼んで欲しいそうで。“グレイ”と・・・。」

今村「ふぉふぉっ。そうですか,彼は“グレイ”ですか。」
影「何か気になることでも?」
今村「いえいえ,なんでもありません。」
二人の会話が続きます。影は高級ブランデーを飲みながら。
今村「沼蛭は“彼”が死んでから,
リーダー不在の期間が3か月ほどありましたね~。
残った貴方と大西君が可哀そうだったので
御前にお願いして私の部下に組み込ませていただいたのです。」
沼蛭というユニットのリーダーは
何らかの理由ですでに死亡しているようです。
影「ええ,それについては感謝していますよ。」
今村「ふぉっふぉっ。」
影「そのグレイがしびれを切らしたわけですか。」

今村「ええ,例の少年昆虫団は自分が探し出すといっていました。」
影「余計なことを・・・。今村さん,任務は私が必ず達成しますのでご安心を。」
今村「期待していますよ。・・・。おや?」
今村は影の首の後ろ側の襟に
何かついているのを見つけたようです。
今村「これはなんでしょう?」
影「何!?」
それは盗聴器でした。
影「(いつの間に!?まさか各務原山で
煙幕を張って逃げた時につけられたのか・・・。)」
今村「盗聴器ですね~,これは。」
影はその小型盗聴器を握りつぶしました。
影「安心してください。おそらくグレイが
我々の会話を聴くために取り付けたものでしょう。」
今村「そうですか,しかし一応,念には念を入れておきましょう。」
今村はどこかに電話をかけ始めました。
影「それでは私はこれで失礼します。」
影は消え去るようにその場から去りました。
一方,レオンと少年昆虫団は
この会話をバーの近くに止めた車の中で聴いていました。
「盗聴器は壊されちゃったけど色々と収穫ありだね。」
「大西,“グレイ”と呼ばれる人物が動き出すのか・・・。」
「その前に影(シャドー)がもう一度何か企んでくるかもしれないな。」
「でも御前との会話は盗聴できなかったですね。雑音ばかりでしたよね。」
「仕方ないさ。電波が拾えない場所で会話していた可能性もあるからね。」
まさらちゃんも影と今村との会話の内容をしっかりと聴いていたようです。
「大西っていうのが本名でグレイがあだ名なんだね。」
「う~ん,正確には違うんだな。」
「え?どういうこと?」
「これは組織に潜入している協力者から
得た情報だから確かなんだけどね・・・。」
「もったいぶらずに早く話せよ。」
イツキ君はレオンに対しても厳しいようです。
「奴らが名乗っている苗字はすべてコードネームなんだよ。
組織では“通り名”と呼ばれている。」
「え!?そうなんだ!さっき影と話していた“今村”っていうのも!?」
「そう,すべてそうだよ。そして幹部以上の人間が御前から“通り名”を与えられることになっているらしい。
だから例えば山犬の山本は“山本”っていう通り名なんだ。本名じゃない。」
今回の盗聴で闇組織ジャファの正体が
少しずつ明らかになったようです。
ちなみに翌日,彼らがそのバーに
行ってみるとすでに閉店していました。
どうやら今村が手を回し,
バーを他の場所に移転させたようです。
これでジャファへの手がかりは
再び無くなってしまいました・・・。
第3話 熱血神主登場!
ノアシリーズ ~第2.5章~
今日の採集場所は二宮神社です。
ここはサイズの大きいカブトやノコギリ,コクワが
採集できる時もあれば,全く何も採集できな日も
あるという当たり外れの大きい場所です。
いつものように少年昆虫団が採集をしていると
後ろから声をかけられました。
みんなが振り返ると灰色の袴をはいた神主がいました。
神主「こんな時間にこんなところで何をやっているんだい?」

彼は神主らしからぬ容貌の持ち主でした。
「だ,誰!?(この人,なんで
灰色の袴なんて着ているんだ・・・。)」
少年昆虫団は警戒して
リク君とイツキ君の後ろに隠れました。
「あんたこそ,こんな時間に何をしているんだ」
赤神「俺は,この二宮神社の神主だよ。赤神竜太という。」
「前,来たときはこんな人いなかったですよね。
今日はいるんですね,神主さん。」
「ボクたちはここで昆虫採集を
しているんです。怪しいものじゃないよ。」
赤神「はははは。別に怪しいと思って声を
かけたんじゃないよ。心配して声をかけたんだ。」
「それなら,心配無用だな。」
赤神「じゃあ,せっかくだからこの二宮神社の
カブクワ穴場スポットを紹介しようか。」
この赤神という男はカブクワにも興味があるようです。
「本当によく捕れるんですか?」
赤神「捕れるさ!まず必ず採集をするぞ!
という気持ちが大事なんだ!とにかく気持ちだ!気持ち!」
「なんかこの人,暑苦しいぞ・・・。」
そして穴場スポットに向かいました。
しかしカブクワはいません・・・。
「いないね・・・。」
すると赤神神主はその木をよじ登っていきました。
「何をやっているんですか?」
赤神「木を揺らすんだよ。上から揺らしたほうが
たくさんカブクワが落ちてくるに違いない!」
「そんなやばいことよくできるなぁ・・・。」
赤神「とにかく根性だ,根性!根性が
あればカブクワは採集できるんだ!!」
「熱血過ぎてうざいな・・・。
それにいまどき根性論って・・・。」
結局,赤神神主のおかげでカブトムシが少し採集できたようです。
「じゃ,帰ろうか。」
「赤神さん,ありがとうございました。さようなら。」
赤神「おう!またな!いつでもおいでよ~!
熱い気持ちがあればいつでも昆虫採集はできるよ~!」
少年昆虫団がその場からいなくなった直後,
赤神神主の携帯電話に着信が入りました。
赤神「おう。そうか―。・・・。
ああ,今,さっき会ったよ―・・・。」
彼は電話で誰かと会話を始めました。
一方リク君たちは帰り道で歩きながら何やら話をしています。
「さっきの人,なーんか怪しいなぁ・・・。」
「そうね。ちょっと熱苦しいもんね。」
「いや、そうじゃなくて袴の色がね・・・。」
「?」
「まぁ、いいや。今はあまり気にしないでおこう。」
こうしてリク君たちはおうちに帰りました。
第4話 新人バイトが来る!
ノアシリーズ ~第2.5章~
少年昆虫団のみんなはカブクワキングに来ていました。
今日は珍しく,たくさんのお客でにぎわっていました。
店長「やぁ,この前はなんか大変そうだったけど大丈夫だったのかい?」
「あ,うん。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。」
リク君は適当にごまかしました。
「へぇ,ここがみんながよくいくペットショップか~。
なかなか品ぞろえがいいね。」
レオンさんも誘われて一緒に来ていました。
「(俺はこいつのこと認めてないからな・・・。)」
店長「えっと,そちらさんは確か・・・。」
「キングの裏のアパートに住んでいるお兄さんで,この前,仲良くなったんだ。」

店長「へぇ・・・。そうなんだ。」
リク君たちが話をしていると奥の方から声が聞こえてきました。
「あれ?あそこにいる彼は新人バイトさんですか?」
「だれかいるんですか?」
まりん「そうそう,昨日から新しくバイトが入ったのよ!」
よく見るとたくさんのお客にまじって
新人バイトがせっせと働いていました。
「・・・。」
「へぇ~,この店にそんな余裕があったんですね。」
店長「まぁな。これからが一番忙しくなる時期だしな。」
そういうと店長は奥から新人を連れてきました。
店長「新人の灰庭(はいば)君だ。」

灰庭「灰庭健人(はいばけんと)です。
よろしくおねがいします。」
現れたのは整った顔立ちの礼儀正しい好青年でした。
「わぁ,イケメンさんだ。」
「いやいやいや,オイラの方がイケメンだろう。」
「話にならんですね。」
新人バイトの灰庭はリク君に声をかけました。
「あ,よろしく。」
それからレオンにも声をかけました。
「初めまして。」
レオンは手を出して握手を求めました。
灰庭「初めまして,よろしくお願いします。」
レオンを見て,にこやかに笑い握手を返しました。
そして彼は奥の持ち場に戻っていきました。
「ねぇ,レオンさんってここに来たのは初めてなんだよね?」
「ん?もちろんそうだよ?」
イツキ君はさっきの新人バイトが気になるようです。
「なんか変わったやつだな。」
まりん「でも仕事も早いし,助かるわ~。」
まさらちゃんは小声で店長に話しかけました。
「あんなイケメンさん雇ったら,
まりんさん取られちゃうんじゃないの??」
店長「ぎくっ・・・。実は俺としては
雇いたくなかったんだが,
まりんがどうしてもっていうから・・・。」
「はっきり断らないからですよ!」
伊藤店長はしゅんとしていました。
この後,彼らはいつものように昆虫採集に出かけましたとさ。
第105話~第108話
2015/11/11
第5話 移りゆく川の流れ
ノアシリーズ ~第2.5章~
リク君の家から少し自転車を
走らせたところに大きな川が流れていました。
たまにはみんなで魚釣りを楽しむようです。
「いや~たくさん釣りますよ!
このだぬの“太公望”が大暴れしますよ!」
「いやいや,オイラのこの
海釣り用ロッド“海坊主”が大活躍だよ。」
「坊主じゃダメだろ・・・。」
どうやら海釣り用の竿で釣るようです。
「魚はちょっと苦手かも・・・。」
生きた魚のぬめっとした感じが苦手のようです。
まさらちゃんはみんなが釣っているのを見ています。
みんなは草がたくさん生えている土手に並んで魚釣りをしていました。
その隣で一人の老人が釣りをしていました。
その老人は見た目は70代で髪の毛は明るい灰色に染めているようでした。
「う~ん,鯉が1匹釣れたくらいか・・・。」

老人「おやおや,魚は釣れないか?」
「え,うん・・・。さっき1匹釣ったんだけどね。」
急に話しかけられて少し戸惑っているようです。
だぬちゃんやトシ君は1匹も釣れず,
諦めてザリガニ釣りを始めています。
「そういう,じいさんは釣れているのか?」
老人「かっかっ。ワシはただこの川を眺めているだけ。釣りはオマケ。」
「変わっているね。」
老人「それでその釣った魚はどうするんだね?」
「逃がしてあげるよ。楽しませてくれて
ありがとうってお礼を言ってね。」
老人「ホウ。今どきの童(わっぱ)にしては立派な心がけだ。」
老人はそういってから再び,川に目をやりました。
老人「この川はどんどん汚くなってきている。
いずれ魚もいなくなるだろう。まるで―。」
「そうかな?結構きれいな川だと思うけど。」
老人の言葉を遮るようにリク君は言葉を返しました。
老人「童(わっぱ)にはそう見えるか。
川は自分の心を映し出す鏡。
お主はさぞかし純粋できれいな心の持ち主なんだな。」
「いや,そんな・・・。」
「そろそろ飽きてきたな・・・。」
イツキ君はすでに2匹釣っていたので満足していました。
「じゃあこの後は,いつものように昆虫採集に行こうか!」
「マジですか!?」
「レオンさんも誘って,久しぶりに遠出しよう!」
みんなは帰る支度をしました。
「じゃ,おじいさんさようなら!」
まさらちゃんはあいさつをしてその場を去りました。
その直後のことです。
堤防の土手に一台の黒い高級車が止まりました。
中から二人の体格の良い男性が降りてきました。
男1「カンジさん,そろそろお時間ですが・・・。」
老人は“カンジ”と呼ばれているようでした。
カンジ「もうこんな時間か。年を取ると時間がたつのが早い。」
男2「なにやら早急に協議すべき件があるようでして・・・。」
カンジ「さてさて,仕事に戻るか・・・。」
そう言って,車に乗り込みました。
移りゆく川の流れに身をゆだねる老人。
この老人とリク君はいずれまたどこかで会うことになるのでしょうか。
最終章 1~8話
第1話 プロローグ
ノアシリーズ最終章
リク君は少年昆虫団のイツキ君,まさらちゃん,
だぬちゃん,トシ君と共に毎日,昆虫採集に励んでいました。
ある日,イツキ君が中野木図書館で謎の書物を見つけました。
彼らはその本をノアの書と名付けました。
実はそのノアの書は闇組織ジャファの研究機関から持ち出されたものでした。
持ち出した人物は小早川教授と言い,カブクワキングの裏にある
アパートに引っ越してきたレオンさんの父親でした。
小早川教授は逃亡の際,組織に殺されてしまいました。
レオンさんは組織の全貌を暴き,父の仇を討とうとしています。
一方,リク君達の担任,栗林先生は
組織の幹部である影(シャドー)が変装ですり替わっていました。
その正体をレオンさんと協力して暴き,各務原山で追い詰めることに成功しました。
しかし,結局,影を取り逃がしてしまいました。
その後,彼に仕掛けた盗聴器と今までの分析から,
闇組織ジャファには6つのユニットがあり,山犬,川蝉,海猫と
呼ばれるユニットが漆黒の金剛石の探索を担当していることがわかりました。
イツキ君の分析によると,漆黒の金剛石とは,神の遺伝子を持った特別なカブトムシのようです。
彼らが何の目的で漆黒の金剛石を探しているかはわかっていません。
そして神の遺伝子とは何かもわかってはいません。
さらに影(シャドー)と顔なじみであるグレイと呼ばれる人物も動き出す可能性があります。
物語は影(シャドー)がある人物と会話をしているところから始まります。
ここは名駅にあるセントラルタワー,
通称“バベル”と呼ばれるビルです。その50階の一室にて。
薄暗い明りの部屋に二人の男が黒いテーブルを挟んで椅子に座っていました。
一人は今村の部下である影でした。
影「・・・というわけで兵隊を少々お貸ししていただきたい。」
影は腕組みをしたまま,テーブルの向こうに対峙する
その人物にそう伝えました。
彼の名前は源田。ユニット森熊のリーダーです。

<森熊 ユニットリーダー源田>
源田「御前の勅命がなければ兵は出せない。
しかもお前はユニットリーダーですらない。
今村氏を通じて正式に要請するのが筋だ。」
立場はこの男の方が上のようです。
影「御前の許可は出ていますよ。」
影は一枚の紙を取り出して机の上に載せました。
それは御前からの許可状のようなものでした。
源田「まさか。」
彼は信じられない,といった様子で答えます。
影「ノアズアーク(ノアの書)を奪還することは
現在の最上級優先事項でしょう。そしてそのための計画は
すでに出来上がっているのです。あとはコマが少し足りないだけです。」
源田「本当に勅命が・・・?」
影「そこまで疑うのなら直接確認してみてはいかがでしょうか?
しかし,御前に恥をかかせるようなことがあれば貴方の首が飛びますよ。
いくらあなた方が組織で強大な権力を持っていようとも・・・。」
影はたたみ掛けるようにその人物に寄りかかります。
源田「む・・・。」
その男は少し悩んだ末,影の要求を承諾しました。
源田「わかった。」
影「助かります。念には念を入れたいので,
なるべく手練れの連中をお願いしますよ。
まぁ二個小隊,10人ほどいれば十分です。」
源田「言っておくが,我々,“森熊”は組織内の
治安維持と外敵からの警護が第一任務だ。」
森熊の任務は組織の中でも重要な役職のようです。
影「わかっていますよ。作戦が終了しましたら速やかにお返しします。」
そして影はその部屋から出ていきました。
果たして影は何を企んでいるのでしょうか。
これから少年昆虫団に何かが起きるのでしょうか。
第2話 家出
ノアシリーズ最終章
夏休みの夜,イツキ君は中野木図書館から家に帰ってきました。
そして自分の部屋で寝る準備を整えていると,
イツキ君の母親が部屋に入ってきました。
「母さん,どうしたの?」
母「どうしたのじゃないでしょ!
あまり言いたくはないんだけど・・・。
最近また,勉強がお留守になっているんじゃないの・・・。」
「わかっているよ。ちゃんと勉強もやっているよ。」
イツキ君は弁解しますが,お母さんは納得しないようです。
母「確かに,少年昆虫団の子たちには色々と
助けられているから,こんなことは言いたくないんだけど・・・。」
「その話はしないって約束でしょ。」
お母さんはイツキ君が勉強をしないことを心配しているようです。
「そんなに色々言うなら,もういいよ!」
母「どうしたの,急に怒り出して。
今日のあなたはちょっと変よ・・・。」
お母さんはイツキ君が急に怒り始めたので少し動揺しています。
「俺には俺のやり方があるんだ!」
イツキ君はベッドの脇に置いてあったリュックを背負い,
お母さんの横を潜り抜けて部屋から出ていきました。
母「どうするつもり!?」
「こんな家にいたくない。家出する!」
イツキ君は階段を下りて1階の玄関から出て行ってしまいました。
母「ちょっと!?」
あわてて追いかけますが,すでにイツキ君の姿は見えません。
イツキ君は深刻な表情のまま暗い夜道を歩き続けました。
「さてと・・・。どうしたもんかな・・・。」
イツキ君は道端の自販機でジュースを買いながら,そうつぶやきました。
―イツキ君の家出から遡ること1時間ほど前のこと―
六町公園のうす暗い街灯の下で影(シャドー)が電話をかけていました。

彼は携帯電話で誰かと話しているようです。
影「君がノアズアークの件であの子たちに近づこうと
しているのは知っている。・・・え,すでに接触済みだって。
ああ,そうかい。」
どうやら組織内のメンバーと会話をしているようです。
影「だが,私はすでに奪還の計画を立てている。
どうしても手柄が欲しければ,私の計画に乗ってみるかい?」
影は意気揚々と電話で話をしています。
影「・・・だろうね。君なら断ると思っていた。
しかし,それならば私の計画が終わるまでは手出し無用で頼むよ。」
そして電話を切るときに一言付け加えました。
影「結果を楽しみにしていてくれ,・・・グレイ。」
ズボンからイヤホンのようなコードを取り出し,携帯電話に取り付けました。
そして真剣な表情で何かを聞いています。
それはイツキ君とお母さんのやりとりでした。
影は,栗林先生に変装中に家庭訪問を行い,
こっそりとイツキ君の部屋に盗聴器を仕掛けていたのでした。
(第85話参照)
影の携帯電話は盗聴の受信機としての機能もあったのです。
そしてイツキ君が家から飛び出していくのを確認しました。
影「ほう。これは何かの偶然か。またとないチャンスが訪れた。」
いよいよ影(シャドー)の作戦が動き出すようです。
第3話 極めて重大な失踪事件
ノアシリーズ最終章
イツキ君は母親とけんかをして,
家を飛び出し,六町公園へやってきました。
時間はすでに夜の11時を過ぎていました。

「まぁ,この辺かな。」
イツキ君はベンチにリュックを置き,
それを枕にして横になりました。
すると,背後から突然,誰かがハンカチのような布で口を塞いできました。
どうやらいつの間にか囲まれていました。相手は一人だけではないようです。
イツキ君が暴れようとすると別の一人が両足を縛ってきました。
「(こっこいつら・・・。)」
イツキ君の意識がだんだんと薄れていきます。
彼は気を失ってしまいました。
また別の人物が袋を用意していました。
その袋に手際よくイツキ君を入れ,公園の脇に止めてあった
ワゴンまで運び,後部座席に押し込んで車を発車させました。
時間にしてわずか2分足らずでした。
???「対象物を捕獲しました。このまま指定地点へ運搬します。」
助手席に乗っていた人物が携帯電話で報告を行いました。
影「ご苦労。このままぬかりなく進めてくれ。」
連絡を受けたのは六町公園に潜んでいた影でした。
影「(なんとも幸運だった。こんな形で彼の身柄を
拘束できるとは。誘い出す手間が省けた。)」
影の計画はイツキ君を誘拐してノアの書を手に入れることだったのです。
影「(さて,私も指定地点へ向かうか。)」
影は闇に消えていきました。
その日の深夜,お母さんはイツキ君が帰ってこないことを心配して,
警察と少年昆虫団に連絡を入れました。
リク君がイツキ君のお母さんを落ち着かせ,
翌朝にイツキ君の自宅へ伺って事情を聴くことを約束しました。
―そして翌朝―
リク君とまさらちゃん,レオンさんの三人は
先にイツキ君の家に到着していました。
そしてイツキ君のお母さんにイツキ君の部屋に
案内され事情を聴いています。
母「どうしましょう・・・。
私があんなことを言ったばっかりに・・・。」
お母さんはかなり動揺しています。
イツキ君はイヤコムを部屋に置いたまま
出て行ってしまったので現在の居場所がわかりません。
リク君,まさらちゃん,レオンさんは
動揺するイツキ君のお母さんをなだめながら話を聞いています。
「それで,警察には連絡したんですか?」
母「一応捜索願は出しました・・・。
でも心配で心配で・・・。」
そこにだぬちゃんとトシ君が遅れてやってきました。
「遅くなりました。」
だぬちゃんとトシ君も合流しました。
その時,リク君がレオンさんに近づきました。
「レオンさん・・・。」
リク君は小声でレオンさんに語りかけました。
「ああ,間違いなく,奴らの仕業だろうね。」
「うん。」
「そういえばポストにこんなものが入っていましたよ?」
だぬちゃんは一枚の封筒を取り出しました。
「何かな??」
「さっきはそんなの入ってなかったはず・・・。」
リク君は封筒を受け取り,中の手紙を取り出してみました。
それは脅迫状でした。差出人は影(シャドー)。
イツキ君の家出は組織の手によって
“極めて重大な失踪事件”へと発展していったのでした。
第4話 影(シャドー)の策略
ノアシリーズ最終章
リク君はだぬちゃんがポストに入っていた
封筒の件を聞くと,窓を開けて様子を伺いました。
「どうしたんですか?」
だぬちゃんが不思議そうに尋ねます。
「イツキ君のお母さん,申し訳ないんですけど,
お茶もらっていいですか?朝から何も飲んでなくて・・・。」
イツキ母「あ,気が利かなくてごめんなさいね。
あの子のことでいっぱいいっぱいだったので。」
イツキ君のお母さんはみんなの飲み物を
用意するために下の階へ降りていきました。
「で,お母さんを席から外したってことは・・・。」
リク君は再び窓から外の様子を伺います。

「この手紙はボクたちがこの家に到着した時は確かになかったはずなんだ。
ボクもポストが気になってのぞいてみたからね。でも何もなかった。」
「ふむ・・・。」
「つまりだぬちゃんたちが到着する直前に入れられたものだ。
僕たちが全員そろったところで読んでほしい連中の仕業だってことだよ。
そのためには近くに張り付いている必要があるでしょ。
だからひょっとしたらまだこの近くにその人物がいるかもしれない。」
「どういうことなの?その手紙の内容と関係あるの?」
「ああ,これは闇組織ジャファからの脅迫状だ。
だからイツキ君のお母さんに知られたらまずい。」
実はこの時,イツキ君の家の近くにある電柱の裏に一人の怪しい人物が張り付いていました。
影が要請した実務部隊の一人でした。
リク君は手紙をみんなに見せました。
手紙にはこう書かれていました。
―親愛なる少年昆虫団諸君―
大事なメンバーの一人であるイツキ氏を預かった。
無事に返して欲しければノアズアークとの交換になる。
本日,20時にノアズアークを持って八町公園の野球場グラウンドに来たれ。
ただし,少年昆虫団以外の人間が公園にいる気配を感じたら取引は中止となる。
また,この手紙の内容を少年昆虫団以外の人間に知られた場合も同様である。
取引が中止となった場合,彼の身の安全は保障できかねる。
―栗林―
「え,そんな・・・。」
「差出人が栗林先生・・・とありますが,これって・・・。」
差出人のことにだぬちゃんが気づいたようです。
「ああ,間違いなく影(シャドー)だ。」
どうやらイツキ君は影(シャドー)の手に落ちてしまったようです。
「あれ?ノアズアークって何?」」
トシ君は物忘れが激しいようです。
「ノアズアークってのいうは君たちが言う
ノアの書のことだよ。組織ではノアズアークと呼ばれている。
むしろそっちが正式名称かな。」
レオンさんが丁寧に説明してくれました。
「でも,ノアの書っていつもイツキ君が
肌身離さずもっているんじゃないのかな?」
「そのつもりで誘拐したんだろうけど,
手元にないことが判明したから,
あんな手紙を送ってきたんだろう。」
どうやらイツキ君はノアの書を持って家出をしなかったようです。
「じゃあ,部屋のどこかにあるんじゃないですか?」
だぬちゃんとトシ君が部屋を見て回ります。
「さっきから机の上や本棚を見ていたんだけど,
どこにもなさそうなんだよね。」
果たしてノアの書はどこにあるのでしょうか。
第5話 ノアの書を探せ
ノアシリーズ最終章
イツキ君は公園で闇組織ジャファの一味である影(シャドー)と
その部下に捕まって失踪してしまいました。
影はイツキ君の身柄の交換条件としてノアの書を求めてきました。
しかし,イツキ君の部屋にはノアの書がありませんでした。
「いったいどこにあるんだろ・・・。」
「・・・。」
リク君は真剣な表情で何かを一生懸命に考えています。
「ところで,この脅迫状にある取引のメンバーって
僕はその現場にいたらまずいのかな?」
レオンさんは少し困った表情でした。
「レオンさんには他にやってもらいたいことがあるんだ。
中野木図書館へ行ってきてほしい。」
リク君はレオンさんに言いました。
「なるほど,裏をかいてイツキ君があらかじめ
図書館に隠している可能性はありますね。」
「わかったよ。それと,ここの部屋の・・・。」
レオンさんは何かの機械をポケットから
取り出して,スイッチを入れました。
そしてこの家に仕掛けられていた盗聴器をすべて外しました。
「レオンさんってホントに何でもできるんだね。」
「まぁね。こういうことは慣れているからね。」
レオンさんは得意げになりました。
「じゃあ,オイラは図書館に行ってるから。
何かあったらイヤコムで連絡してね。」
そう言ってレオンさんは出ていきました。
「さて・・・。」
「今,朝の7時だから,あと12時間くらいしかないよ!」
イツキ君のお母さんがお茶を持って戻ってきました。
「きっとイツキ君は僕たちが見つけます。
それまで,お母さんはここで待っていてください。」
イツキ母「え?」
イツキ君のお母さんは少し驚いてリク君を見つめました。
「わたしたちに任せてください!じゃあ行ってきます。」
まさらちゃんは笑顔でそう言って部屋から出ていきました。
電柱の裏にいた人物はいつの間にか姿を消していました。
時間は少し遡ります。
イツキ君は影に捕えられ,どこかわからない古い倉庫に
手足を縛られて監禁されていました。
「(くっ・・・。)」
あたりを見回すと5,6人の大人が
少し遠くからイツキ君を見張っているようでした。
しばらくすると影が入ってきました。
影「ご苦労。」
見張っていた人物に声をかけると,
そのままイツキ君に近づいてきました。
影「久しぶりだね。」
「てめぇ・・・。」

イツキ君は影を睨みつけました。
手足を縛られ,寝転がっている状態では
睨みつけることしかできなかったのです。
影「さきほど,身体検査をさせてもらったが,
ノアズアークがどこにもなかった。」
影は不敵な笑いを浮かべながら,
イツキ君の顎をしゃくりあげました。
イツキ君はどうなってしまうのでしょうか。
第6話 交渉
ノアシリーズ最終章
暗い倉庫の一室で影(シャドー)とイツキ君が対峙しています。
といっても,イツキ君は体の自由がきかない状態です。
影「久しぶりだね。」
影はイツキ君が所有しているノアの書を探していました。
「残念ながら,ここにはない。ある場所に隠してある。」
影「それは興味深いね。」
影はイツキ君の顎をしゃくりあげ,尋ねました。
影「どこに隠したのかな?」
「言うはずないだろ。」
すると影はイツキ君の顔を力づくで押さえつけました。
影「あまり,手荒なことはしたくない。」
影はそのままその場から出ていきました。
「(ノアの書・・・。大丈夫だろうか・・・。
頼んだぞ,リク,みんな・・・。)」
影はイツキ君がノアの書を持っていなくても
計画に支障がない自信があるようです。
影「(メンバーのだれかが持っているか,
どこかに隠しているかのどちらかだ。少し脅せば出てくる。)」
イツキ君は疲れもあり,そのまま眠ってしまいました。
― 一方リク君たちは ―
みんなはイツキ君が立ち寄りそうな場所を
探してみますが,なかなか見つかりません。
「疲れたよ~。暑いし・・・。」
「弱音を吐いてどうするんですか。イツキ君の危機なんですよ。」
だぬちゃんはトシ君に言い聞かせました。
「わかっているよ~。」
「少し休憩しよう。」
リク君たちは六町公園で休憩することにしました。

「そういえば取引場所って八町公園だったよね?」
「ああ,もうすぐ取り壊されるから現在は
立ち入り禁止になっている公園だね。」
八町公園はこのすぐ近くにある野球グラウンドのある公園でした。
間もなく取り壊しの工事が始まるため,
現在は柵に覆われ,立ち入り禁止になっています。
「影もなかなか考えますね。そんなところで取引とは・・・。」
「警察に知らせたらイツキ君殺されちゃうのかな・・・。」
まさらちゃんはイツキ君の身を常に心配していました。
「そうだね,警察には言わない方がいいと思う。
これは僕たちだけで解決しなくちゃ。」
その時,レオンさんからイヤコムに連絡が入りました。
「ノアの書なんだけど・・・まだ時間がかかりそう。あと1日あれば・・・。」
「わかった・・・。」
話し終わるとイヤコムを切りました。
そこにいた全員が内容を聞いていました。
「まだ,みつかってないってことかな。」
まさらちゃんは心配そうにしています。
「こうなったら八町公園に行ってみよう。
そこで影と交渉するんだ。あと,1日待って欲しいって言ってみよう。」
リク君たちは指定の時刻に八町公園のグラウンドへ到着しました。
するとそこには・・・。
第7話 影現る
ノアシリーズ最終章
八町公園のグラウンドには人影がありました。

それは影でした。
仮面をかぶっているため,素顔はわかりません。
影「久しぶりだね。少年昆虫団諸君。
約束通り,君たちだけで来たみたいだね。」
影は落ち着いた様子で話し始めました。
「イツキ君は無事なんですか!?」
だぬちゃんは影にイツキ君の安否を訴えます。
影「安心したまえ。ノアズアークさえいただければ,彼はお返しするよ。」
「本当・・・!?」
リク君は公園の茂みに気配を感じました。
万が一,影に手を出せば,組織の仲間が加勢に出るかもしれません。
「(なんとか交渉をしなければ・・・。)」
影は手を差し出し,ノアの書を要求する仕草をしました。
「そのことなんだけど・・・。」
リク君は本題に入りました。
「実は,イツキ君がノアの書をどこかに隠したみたいで,
まだ見つかっていないんだ。
だから,もう1日待ってほしい。
必ず探し出して,アンタのところへ持っていく。」
影はしばらく考えこみました。
影「そんな手に乗るとでも思ったのか?さっさと出すんだ。」
「ホントにないの!みんなで一生懸命探したんだから!」
影はまさらちゃんを見ました。
影「どうやら手元に無いというのは本当のようだ。
そもそも取引を引き延ばしても君たちにメリットなどないはずだしな。」
再び影は沈黙しました。
影「いいだろう。あと1日だけ待ってあげよう。
ただし,あと1日だけだ。
明日のこの時刻にノアズアークが手元に無ければ,
彼と二度と会うことはできないと思ってくれ。」
「わかった・・・。」
影はそう言うとその場から去ろうとしました。
「待てっ!」
影は振り返り,リク君を見ました。
影「まだ何か用かな?」
「今回の計画はアンタ一人では実行できないだろ。
他にも計画を手助けする仲間がいるのか!?」
影「仲間ではないが,今回の計画のために用意した兵隊ならいるよ。」
「兵隊・・・?」
影「そう,ユニット“森熊”の源田氏に依頼をして
洗練されたコマを用意してもらったのさ。」
「(森熊・・・。源田・・・。)」
影「世間ではジャファ警備保障となっているが,
一部のメンバーには裏で暗殺などの特殊訓練を受けさせている。
君たちがかなう相手ではないよ。だから明日までに
おとなしくノアズアークを持ってくるんだね。」
影はそれだけ言うとその場から去りました。
「怖かった~。」
「ですね・・・。」
二人はかなり緊張していたようです。
「オイラは別に緊張していないよ!」
トシ君は相変わらず,マイペースでした。
「さて,これからイツキ君の家に行こう。」
リク君はこれからすべきことを説明しました。
「そっか,イツキ君のお母さんに伝えなくっちゃ。」
リク君たちはイツキ君の家に向かい,
お母さんにあと1日待っていてほしいと説明しました。
「とりあえず,わかってもらえたから大丈夫そうだね。」
みんなは安堵しました。
「でも,明日までにノアの書が見つからなかったら・・・。」
「大丈夫。明日の7時にイツキ君の家に集合しよう。
何か動きがあるかもしれないから。」
リク君はみんなにそう伝えて,その場を解散しました。
そして,彼はその足で中野木図書館へ向かいました。
「何とか間に合え・・・。」
そして翌日の朝を迎えます。
第8話 図書館にて合流
ノアシリーズ最終章
-翌日の朝-
イツキ君のお母さんに何か連絡などが
あったか確認しましたが,特に何もありませんでした。
みんなはイツキ君のお母さんを安心させる
ための言葉をかけ,その場をあとにしました。
お昼すぎまでイツキ君が立ち寄りそうな
場所を探しましたが,ノアの書は見つかりませんでした。
「よし,そろそろかな。みんな,図書館に行こう。
レオンさんがいるはずだから。」
みんなは中野木図書館へ向かい,
レオンさんと合流することにしました。
到着すると館長さんが出迎えてくれました。
「こんにちは。」

館長「やあ,いらっしゃい。なんか大変なことになっているみたいだね。」
どうやら館長さんはレオンさんから話を聞いたようです。
「影との交渉はうまくいったみたいだね。」
リク君は小声でレオンさんに話しかけました。
「館長さんにはどこまでしゃべったの?」
「ノアの書のことで色々手伝ってもらっていたから,
それだけだよ。組織のことや影に誘拐されている
ことは触れてないから安心して。」
「そっか。」
リク君は少しホッとしました。
館長さんは奥の部屋に入り,
しばらくするとノアの書を持って出てきました。

「あ!」
まさらちゃんは思わず声をあげました。
「ノアの書,あったんですね!」
館長さんはノアの書をリク君に渡しました。
館長「なかなか大変だったよ。」
「ありがとう。」
リク君はお礼を言いました。
「でもどこにあったの?」
トシ君の疑問はもっともでした。
「とにかく,今はこのノアの書が切り札だ。
これでイツキ君を救い出す。」
リク君はトシ君の言葉を遮り,そう言いました。
「館長さん,ありがとう。後はなんとかなりそうなんだ。」
館長「そうかい。じゃあ僕は仕事に戻るね。」
館長さんは業務に戻っていきました。
「レオンさん,お願いがあるんだ。」
「なんだい?」
リク君はレオンさんに耳打ちをしました。
何か頼みごとをしたようです。
「何をお願いしたの?」
「大事なことをちょっとね・・・!
レオンさんにしかできないことさ!」
レオンさんは図書館を出ていきました。
「お~!」
トシ君も今回はやる気です。
そのやる気が空回りしなければよいのですが・・・。
そして,指定時刻になり,八町公園のグラウンドに到着しました。
最終章 9~13話