2023/5/6
第461話 御前会議3
天獄のバベルシリーズ 第1章
御前会議室の奥にある扉から,
入ってきた人物とは・・・。
影「みなさん,御機嫌麗しゅうございます。」
それはユニット“海猫”の配下だった,
影(シャドー)でした。
<ユニット沼蛭 新リーダー 影(シャドー)>
山本「なぜ,貴様がここに。」
山本がようやく口を開きました。
この時点で,
山本と影はどこかで,
一度顔合わせをしているようです。
今村「ふぉっふぉっ。
この人物が新幹部というわけですよ。」
影「今村さんには色々とお世話になりました。」
影(シャドー)は今村の席の前までやって来て,
深々と頭を下げました。
今村「カンジさんからお話を聞いた時は,
びっくりしましたけどねぇ。」
山本「どういうつもりですか,石原サン。」
山本は石原(カンジ)をにらみつけました。
カンジ「囀(さえず)るな小僧。
これは御前の御聖断である。」
山本「なっ・・・。」
“御聖断”という言葉が出た時点で,
幹部たちは何も言えませんでした。
それほどまでに,
御前が決断したことはゆるぎないことなのです。
影「今日は新幹部としてあいさつをさせていただきました。
この後の御前会議には,私も参加させていただきます。」
そう言って,
東條の横にひとつだけ空いていた椅子に座りました。
東條「なるほど,
君が座るためにここのイスが空いていたってわけか。」
影「ふふふ。何卒よろしくお願いします。」
影は東條にもあいさつをしました。
東條「神出鬼没,
正体不明で通している君が幹部か。
なかなか面白いですね。」
カンジ「それでは議題に入る。」
石原が議事を進めます。
源田「いよいよ本題ですな。」
彼らは手元に用意された資料に,
目を通し始めました。
石井「まずは私から研究報告をするとしよう。」
彼は追加のレジュメを配りました。
石井「7月29日のゲリラ豪雨の夜,
各務原山で漆黒の金剛石が再発見されたことはご存知だろう。」
この手柄は川蝉の東條による功績でした。
山本「俺はそれを聞いて,
すぐに南雲を東南アジアの紛争地域へ派兵した。
奴にもっと殺しの経験を積ませるためにな。」
アヤ「あら?
東條君が手柄を立てたことと,
何か関係があるのかしら?」
彼女が聞くと,
山本「これ以上,
そこの男に手柄を立てられたら,
山犬のメンツが立たない。」
彼は川蝉率いる東條にこれ以上,
出し抜かれないために,
南雲を鍛えなおす決意をしたようです。
それが7月30日のことでした。
その後,
5日ほど現地で過ごし,
多くの生死を懸けた経験を得て,
8月7日に帰国したようです。
そして翌日には,
作戦のために,
精鋭部隊の鷲隊長を,
暗殺しています。(第236話参照)
彼らがなぜ殺されなければならなかったのかは,
ここでは明らかになりませんでした。
東條「山本さんって案外子供っぽいですね。」
彼は山本を挑発するような物言いで,
語りかけます。
しかし,山本は無言を貫きました。
第462話 御前会議4
天獄のバベルシリーズ 第1章
―8月15日―
とある場所にて,
闇組織JFの幹部が一同に集まり,
会議を開いていました。
石井「漆黒の金剛石は,
小早川の奴に絶滅させられる直前まで,
研究が進められていた。」
<故小早川教授 (レオンの父)>
この出来事が起きたのが今年の4月だったようです。
当時は彼の仕業だと気づかれていなかったため,
引き続き組織に身を置いて,
ノアの書を盗む機会をうかがっていたのです。
石井「再発見後はただちに神の遺伝子の抽出に成功。」
御前はただ静かに,
会議の進行を見守っているようでした。
石井「8月6日より培養した“アレ”に組み込んだ,
試験品をばらまいている最中だ。」
アレとはいったい何を指すのでしょうか。
源田「軍医,
そうなると御前の大望はもう目の前なのでは?」
石井「源田よ,焦るな。
実験に焦りは禁物だ。」
少し間を置き,
源田「たしかに。
我々にとっての不穏分子が,
なくなったわけでもない。」
と言って,
自身の発言を,
撤回しました。
東條「それって,菊のみなさんのことですよね。」
この発言に全員が同意見でした。
これが本日3つ目の議題となっているようです。
アヤ「あとは,例のコも?」
それはリク君を指していました。
影「彼は手ごわいですよ。
私は戦ったことがありますが,
並大抵の実力じゃありません。」
どうやら影はリク君の実力を,
高く評価しているようです。
山本「心配するな。
あのガキ共は俺達が必ず消してやる。」
彼は自信満々にそう言いました。
東條「でも南雲さんにその計画の指揮をさせたら,
失敗したじゃないですか。」
彼の発言は嫌味たっぷりでした。
しかし先ほど同様に山本は反論しませんでした。
この後,闇組織JFの懸念事項である“菊”と,
少年昆虫団をどう排除するかが議論されました。
引き続き,
菊暗殺作戦は継続していくということで結論が出ました。
それは全ユニットが連携して行われるということです。
最後に,
御前から御言葉がありました。
全員が直立不動となり,
緊張の面持ちでした。
御前「皆の者,御苦労であった。
引き続き,組織のため尽くしてまいれ。」
そして,御前は奥の扉から部屋を出て行きました。
カンジ「この後は,各自持ち場へ戻るように。」
その前に,
石原(カンジ)よる事後連絡があるようです。
カンジ「本日は“バベル”にて,
午後13時半から一般人に,
見学ツアー企画を行っている。
表向きは超優良企業となっているからな。
これも地域密着型企業による活動の一環だ。」
山本「くだらん。」
彼は一笑に付しました。
源田「そう言うな。
安重昏氏のことも考えてやれ。
その苦労は並大抵のことではないはず。」
彼は表のトップに君する人物の,
気苦労を知っているようでした。
その視線は石原に,
向けられているようにも感じられました。
彼は表と裏の仲介役を,
こなしている存在なのでしょうか。
カンジ「というわけで,
お前たちがここをあまりうろついて目立つとまずい。
午後はバベルから離れて活動をするように。」
この命令で,
山犬は通常訓練のため,
小牧の山奥へ向かうことにしました。
東條は先月に負傷した木戸と共に,
温泉へ行くことにしました。
名目は木戸の傷を回復させるため,
というものでしたが果たして・・・。
藪蛇のアヤはマヤと共に,
JF支部がある豊橋へ車を走らせました。
森熊の源田とキラーには,
休暇が与えられました。
彼はバベルを離れることを少し渋りましたが,
御前による勅命だと言われ,
止むを得ず納得しました。
今村は山犬についていくことにしました。
影はいつの間にか姿を消していました。
こうして12時前には,
御前会議は滞りなく終了しました。
石原は彼らが出ていくのを見送り,
カンジ「これでよろしかったのですね。」
御前「うむ,大義であった。」
扉の奥から物々しい御前の声が,
聞こえてきました。
御前「久方ぶりに面白き日になりそうぞ。」
そしてリク君たちにとって,
忘れられない運命の,
8月15日午後を迎えます。
―第1章 完―
第463話 天獄への見学
天獄のバベルシリーズ 第2章
8月15日
場面は再び少年昆虫団となります。
少年昆虫団はレオンさんと一緒に,
愛知県警本部に来ていました。
通された部屋は広く,
普段は会議などで使われているような場所でした。
部屋には赤神氏と青山氏も一緒にいました。

リク君は,
自分たちが呼ばれ本当の理由を聞きました。
表向きは県警本部の見学となっていましたが,
本当の目的は別にあったのです。
赤神「察しがいいな。」
彼は感心しました。
「さすがに見学会に来てくれじゃあ,
信じないぜ。」
昆虫団は赤神さんが何を口に出すか,
じっと待っていました。
赤神「実は本当に見学会に行ってもらいたいんだ。」
みんなは意外な内容にびっくりしてしまいました。
「どういことですか?」
まさらちゃんが挙手をして質問をしました。
「これを見てほしい。」
レオンさんは机の上にパンフレットを置いて,
みんなに見えるようにしました。
「何これ?
難しい字が書いてある・・・。」
彼の代わりにリク君が読み上げました。
そこには「名古屋セントラルタワー一般見学会」
と書いてありました。
「『弊社は開かれた地域への取り組みとして,
地域密着型企業としての在り方を,
より多くの方に知ってもらうために,
弊社内の見学会を実施いたします。
多くの市民の方による参加をお待ちしております。』
だってさ・・・。」
「これはなんですか・・・?」
だぬちゃんもいまいち意味がわかりませんでした。
赤神「君たちにはこの見学ツアーに,
翠川と一緒に参加してほしいんだ。」
翠川という苗字は小早川レオンの仮名です。
「なんだと・・・。
ここって闇組織JFの本拠地だろ!?」
「ちょっと正気ですか!?」
みんなは動揺を隠せませんでした。
「つまりこのツアーを利用して,
一般人のふりをして,
敵の本拠地に忍び込んで情報を集める,
偵察活動をして欲しいってこと!?」
まさらちゃんが赤神氏の言いたかったことを,
全部言ってくれました。
「赤神さん,
やはりこの作戦は止めましょう。
リスクが高すぎます。」
話を隣で聞いていたレオンさんが,
割って入ってきました。
赤神氏は少し考え込んだ後,
赤神「そうだな,
君たちにはあまりにも,
無茶なお願いだった。
忘れてくれ。」
そして,
彼がもう一言付け足しました。
赤神「そもそも君たちを巻き込んだ作戦を,
押してきたのは上層部なんだ。」
「上層部って?」
リク君が聞くと,
赤神「“菊水華”の指揮権自体は俺にあるんだが,
助言と言う形で直属の上司や,
もっと上の西春本部長までもが,
口を出してくる時があってな・・・。」
その内容を語る時,
とても苦々しい表情をしていました。
赤神「今回の話は近衛参事官って方が助言してくれたんだ。
俺は君たちを巻き込むことは気が進まなかったんだが,
“一応聞いてみてくれ”と言われたもんで・・・。」
ここで赤神氏の考えに賛同していれば,
良かったのかもしれません。
しかしリク君は赤神氏の考えに対し,
「ボクは行きたい。
連れて行ってほしい!」
と言いました。
この瞬間から彼らは,
闇組織JFとの全面戦争は,
避けられない事となっていくのでした。
第464話 史上最大の作戦 前編
天獄のバベルシリーズ 第2章
リク君が“バベル”へ向かうことを決意すると,
後に続くように他のメンバーも続きました。
「リク君を一人だけ,
行かせるわけにはいかないもん!」
まさらちゃんが威勢よく言います。
「まさらちゃん,
簡単に言いますけど,
だぬたちでは彼らと戦えませんよ。」
「別に戦う必要はないもん。
リク君たちが怪我をしたら手当てをしてあげるの!」
レオンさんは彼女の必死さに,
いたく感銘を受けました。
「それは助かるよ。
今回は戦いに行くわけではないけど,
念のため救護箱を持っていこうと思っていたんだ。
それを君たちに預けるよ。」
そう言うと,
会議室の奥の控室の戸をあけて,
そこから二つの救護箱と何やら必要そうな物を取り出し,
まさらちゃんたちがいる机の上に置きました。
彼女は持っていたリュックの中に,
それらをしまいました。
「オイラは戦うよ!」
トシ君が自信満々に言うと,
「やめておけ。
俺だって力になれるか分からないんだ・・・。」
イツキ君は彼らの巨大な悪の力を,
身をもって知っていました。
「というわけで赤神さん!
作戦を教えて!
史上最大の作戦をね!」
彼がにっこりと笑うと,
赤神氏は少し考えるしぐさを見せた後,
赤神「わかった。
しかし君たちの身の安全が第一だ。
命の危険を感じたら,
翠川の指示に従って,
速やかにその場を離れるんだ。」
と言って,
作戦を慎重に実行するように念を押しました。
「了解!」
全員が大きくうなずいて返事をしました。
赤神「まず見学ツアーの案内は,
抽選で選ばれることになっているんだが,
すでに人数分の当選チケットが手元にある。」
「ラッキーだね。」
赤神氏が机の上に,
見学ツアーのチケットを並べました。
そこには大人チケット1枚と,
子どもチケット5枚がありました。
赤神「色々なツテを伝ってかき集めたんだ。
本当は大人が2枚分あれば良かったんだが,
1枚しか手に入らなかった。」
「だから保護者はレオンさん一人だけなんだ。」
まさらちゃんは納得しました。
赤神「社内はイヤコムやデジタル機器の類は,
持ち込み禁止だそうだ。」
「それじゃあ,
どうやって連絡を取り合うんだ?」
彼がもっともな疑問をぶつけました。
「これを使う。」
それは先ほど,控室から持ってきた危機でした。
イヤコムに似ていますが,
耳につけるタイプではなく,
服の裏につけるタイプの,
薄い盗聴器のような形をしていました。
赤神「これは“ポケコム”といって,
イヤコムよりもずっと通信範囲は短いが,
周囲からばれにくい特徴を持っている。
こういう時のために,
“菊”が開発した諜報機器だ。」
「すごーい!
なんかあたし達ってスパイみたい!」
彼女がはしゃいでいると,
横に座っていただぬちゃんが突っ込みを入れました。
「みたいじゃなくて,
本当にスパイ活動をやるんですよ。」
赤神「俺はバベルタワーの入り口付近で待機している。
そこからならギリギリ通信可能なはずだ。」
イツキ君が質問をしました。
「それで俺たちは,
何を調べてくればいいんだ?」
それは今回の作戦の本質をついたものでした。
赤神「それは・・・。」
いよいよ彼の口から作戦の目的が,
明かされることになるのです。