リクの少年昆虫記-過去のお話-

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目次


第449話~第452話

2023/2/5

第449話 全日本ゲーマーショー
リク君,だぬちゃん,

トシ君の三人は名古屋市南部にある,

レインボーラインホールという大きな会場に来ていました。





ここでは年に一度のゲーム好きが集まり,

対戦やイベントショー,

新作ゲームの展示など様々な催しが,

行われることになっていました。



7月下旬の夏休みに入ったばかりで,

午前9時をまわったところでした。



「それにしても暑いですねぇ。

会場の熱気なのか,ただ気温が高いだけなのか・・・。」

「両方でしょ!たぶん・・・。」



まだ入口にいましたが,すでに多くの来場者が見られました。



「日本中のゲーム会社が集まってるんだなぁ!」



リク君が感極まっていると,



「え?集まっていませんよ。

ブースを出しているのは主に,

名古屋市や豊橋市に本社を置いてある会社だけです。」



と,だぬちゃんが説明しました。



「え?そうなの?

じゃあなんで"全日本"なんて,

名前をつけたイベントなのよ。」

「そっちの方がハクがつくからでしょ。

元々このイベントは,

東京ゲームショーを意識して今年から設立されたものだし。」



トシ君も今回のイベントにはかなり詳しいようです。



「さすが,ゲーマーは詳しいな!」

「いや,

オイラはそんなに,

ゲームをやらないからゲーマーではない。」



なぜか,その事については否定をするトシ君でした。

3人は会場の中へと入って行きました。



「どこから見ていく?」

「やはり日本有数のゲーム企業であるアイボ・H社からですかね。」



だぬちゃんがブースまで案内していきます。



「たしか,もうすぐ“ヨゾミヤ”の続編が発売されんるだよね。」

「違いますよ。もうすぐ出るのはレジャンドオブ中世(レジェ中)3ですよ。」



さすがにゲームに詳しいだぬちゃんでした。



「他はどんな会社がブースを出しているの?」

「後は豊橋に本社を置くサークル・オニックス(サクオニ)ですね。」



代表的なゲームはチラゴンクエスト(チラクエ)などがあるようです。



「他にはどんな会社が来ているの!?」

「え?その2社だけですよ。」



だぬちゃんの意外な返事に,



「え?そうなの?」



リク君はがっかりしたようです。



「なんかどんどんスケールが,

小さくなっていく感じがする・・・。」



会場の中心にはアイボ・H社の新作ゲームや,

今まで発売されたゲームが並んでいました。



いくつかのブースでは,体験版をプレイしたり,

今までのゲームを遊んだりできるようです。



「ヨゾミヤありますよ,

プレイしていきますか?」

「いや,いい・・・。」



リク君はチラクエ最新作を体験プレイしに行ってしまいました。



「そういえば,

レジェ中3って事前の情報がほとんどないんですよね。」

「そうでしたね。

せっかくだから,ブースに行ってみましょうか。」



二人はレジェ中3のブースへ向かっていきました。



それぞれが自分の好みに合ったゲームについて楽しみ,

時間は過ぎて行きました。



「楽しかった!じゃあ,帰ろうか。」

「そうですね。

でも,結局レジェ中3の情報は,

ほとんど得られなかったのが残念です。」



ちなみにこのゲームを,

発売日に買ったのはトシ君だけでした。(第259話参照)



第450話 少年昆虫団ジャズバーへ
少年昆虫団は早めに昆虫採集を終えました。



そこでだぬちゃんの誘いで,

菊水華の一員である青山さんが,

演奏を行っているジャズバーに行くことにしました。



このバーの名前は“レピオス”といい,

青山さんの旧友が開業したお店です。



お店自体は友人のものですが,

青山さんが名古屋で活動する際の拠点となる場所であり,

不定期ですが曲を開催する権利をもらっているようです。(第267話参照)



「何度来ても雰囲気があっていいお店ですよねぇ。」

「うん,すごくすてき!」



まさらちゃんも気にいったみたいです。



青山さんは,

少年昆虫団がお店に来ていたことに気付きましたが,

他にもお客さんがいたので,

そのまま演奏を続けました。



みんなはしばらく,

青山さんが所属する,

ブルーマウンテンのジャズを聴いていました。





いくつかは有名な曲でしたが,

中にはオリジナル楽曲もありました。



そのうちの一つが,“surgical scalpel”でした。



「なんか,

鋭くってとがっている感じの曲でかっこいいな。」



トシ君が珍しく眠らずに聴いていて,

曲の感想をみんなに話していました。



その時,後ろから二人の男性に声をかけられました。



赤神「かっこいいだろう。

あれはブルマウが奏でる楽曲の中でも人気の一つだ。」

「"ブルマウ"じゃなくて"ブルーMt"ですよ。」



そこには赤神氏とレオンさんが立っていました。



「あれ?レオンさんと赤神さん。

今日はレオンさん用事があったんじゃないの?」



リク君が尋ねると,



「ああ,先ほど終わったから,

一息つこうと思ってここに来たんだ。」



赤神「まさかこんなところで君たちに会うとはな。」



二人は隣の空いている席に座りました。

しばらくすると全ての演奏が終わりました。



最後の曲は決まって"ステレオダブリ"のメドレーでした。



「お,終わったみたいだな。」



青山さんは片付けを終えると,

こちらに向かってきました。



青山「みなさん,おそろいで。」



そう言って,軽く会釈をしました。



青山さんが近づいて来た時,

イツキ君が何か気付きました。



「(ん?)」



タバコのにおいでも気になったのでしょうか。



赤神「今日はご苦労だったな。」

青山「いえ。赤神さんたちも大変でしたね。」



赤神氏は出されたお酒をぐっと飲み干しました。



「青山さんは日中どこかへ行っていたの?」



と聞くと,



青山「ああ,ちょっと病院にな。」



「もしかして,

羽音々(はおとね)さんのお見舞いですか?」



まさらちゃんが少し心配そうな顔をして質問しました。



青山「まぁ,そんなところだね。

今は俺の部下である,

明日暮(あすくれ)を護衛につけている。」

赤神「あまり無理はするなよ。もう若くはないんだから。」



赤神氏がねぎらいの言葉をかけました。



青山「大丈夫ですよ。」



そのやりとりを聞いて,



「青山さんっていくつなんですか?」



と,まさらちゃんが強引に話に割り込むと,



「たしか今年で37ですよね。

オイラより少し年上でしたっけ。」



青山「俺はまだまだ若いつもりだ。

気持ちが若くなければ,

青春時代を奏でることはできない。」



彼はポケットから煙草を取り出しました。

しかし,子どもたちがいたのでそっとしまいました。



この後もしばらくお店の雰囲気を楽しみ,

おいしいジュースを飲んで談笑しました。



こうして眠らない街の夜は深けていきました。



第451話 蚊を取る線香がいる!?
少年昆虫団はこの日,

日中にかおるさんがバイトをするカフェで,

レオンさんと会っていました。



その後でカブクワショップ"キング"にて灰庭さんと会話し,

夜は二宮神社で菊水華の幹部から,

組織が結成された時の話を聞いていました。

(第319~324話参照)



菊の幹部はそれぞれの任務のため,

二宮神社を去って行きました。



少年昆虫団とレオンさんは,

神社内のベンチに座り,

休憩していました。



明日は岐阜県の板取にあるキャンプ場へ,

行くことになっていたからです。(第342話参照)



闇組織JFの作戦により,

目的とは違う場所に行くことになり,

大変な目に会うわけですが・・・。

(第343~354話参照)



「明日のキャンプ楽しみだね!」

「ですね!灰庭さんも参加できるみたいですし。」



二人が楽しそうに明日のキャンプについて話していると,



「油断するなよ。

あの灰庭って男は何かを隠している。」



と,イツキ君が二人を牽制(けんせい)しました。



「(はは・・・。

どのタイミングで伝えようかな・・・。)」



この時点ではまだ,

灰庭さんがレオンさんの友人で,

組織に潜入しているスパイだとは判明していませんでした。



「(今日の昼にキングに昆虫団が来るから,

来た時にさりげなく"自分もキャンプに参加したい"って,

ことを伝える作戦はうまくいったかな。)」



どうやらレオンさんは昨日に灰庭さんに,

電話を入れて事前に打ち合わせをしていたようです。

(第318話参照)



「(先日,大学に行けなかったのも,

小東と連絡を取り合っていたからだしな。

組織にばれないように,

連絡を取らないといけないから時間がかかる。)」

(第180話参照)



「かいかいかいかい~!」



突然トシ君がトイレの方から,

叫びながら転がるようにして向かってきました。



「どうしたの?」



リク君が少し心配して聞くと,



「トイレに入っていたら蚊に刺されまくって!

かゆのなんのって!」

「なんだ,おおげさな。

蚊ぐらい夏なんだからそこらじゅうにいるだろ。」



イツキ君はあきれていました。



「でも,たしかに最近,

蚊が増えたような気がする。」



「うーん,そういえば・・・。」



どうやら蚊が増えてしまい,

昆虫採集にも支障がでているようです。



「そうだ,あれを使ってみよう。」



レオンさんは赤神氏がたまに使っている,

神社内の家に入っていきました。



出てくると,

手には"蚊を取る線香"を持っていました。



「いいですね!

これなら蚊もいちころでしょう!」



線香に火をつけると,

モクモクと煙を出し始めました。



蚊が嫌な羽音を立てて近づいてきます。



「これでもう安心!」



しかし蚊はトシ君の腕にとりつき,

血を吸い始めました。



「おいおい!どうなってんの!

血を吸われているんですけど!」

「おかしいですね。

このメーカーの製品は結構,

優秀なんですけどね。」



そんなやりとりをしている間にも,

蚊はどんどんやってきて,

みんなの血を吸おうとします。



「あほらし・・・。

しょせん,蚊だろ・・・。」



イツキ君はあきれていました。



「蚊をバカにするなよー!

もしかしてこいつらは,

人類を脅かす存在かも!」





イツキ君は相手にしませんでした。



「明日はキャンプなんだし,

もう帰ろうか。」



リク君はレオンさんに,

車を出してもらうようにお願いしました。



トシ君は車内で,

虫さされの薬を体中に塗っていました。



「わたしも気づいたら,

たくさん刺されてたぁー!」



まさらちゃんも蚊にやられていたようです。



夜遅くに帰宅後,

それぞれは明日のキャンプに備えることにしました。



この後の展開は御存じのとおりです・・・。



第452話 ワクのわくわく冒険記 アフター 前編
ワク君とトシ君は二人で,

中村区にある超高層ビルの前まで来ていました。



二人は訝(いぶか)しげにそのビルを見上げました。



ワク君はおもむろに,

ポケットから手紙を取り出しました。



そして書かれている内容を,

じっと見つめました。



「でもなんであの子は,

こんなところにオイラたちを,

呼びだしたんだろうね。」




彼が言うあの子とは・・・。



「ああ,まったくわからん・・・。」



ワク君は考え込みましたが,

思い当たる節が全く見当たりませんでした。



しばらく待っていると,

後ろから声をかけられました。



リサ「やっほ!」





<春夏冬(あきない) リサ 14歳>



そこにはバトルヤバイヤロから一緒に脱出してきた,

リサちゃんが立っていました。



「やぁやぁ,相変わらずカワイイね!」



リサ「相変わらず口うるさいよねぇ!

しゃべらないでくれる?

アタシは頭がいい子が好きなんだ,

クソデブさん!」



トシ君に厳しい態度を取るのは変わりませんでした。



「それにしても手紙なんて,

何時の間に住所交換していたのさ。

そもそもなんで手紙?

イヤコムでもよかったのに。」


「そういえば指切りした後に,

住所を伝えていたっけ。」




ワク君は先日,

リサちゃんと別れた時のことを思い出しました。



「この手紙に書かれていることは本当なのか?」



ワク君は手紙をリサちゃんの前に差し出して,

中身を確認させました。



リサ「うん。

知っていることを全部話すよ。」



「わかった。」



ワク君はうなずきました。



「ねぇねぇ。

どんなことが書いてあるの?」




リサ「頭が悪い子は黙っていてくれるかな?

話が進まないから。」



彼女は笑顔でそう言いました。



「あ,オイラ発言権がないってやつね・・・。」

「ここには,

ヴォイニッチワールドについて知っていることを話す,

と書いてある。」




彼女に視線を向けると,



リサ「そう書いたら来てくれると思って・・・。

ちなみにここなんだ。」



「ん?」



トシ君は首をかしげました。



そして質問をしようとしましたが,

また口をさえぎられると思い止めました。



「まさか。」



リサ「アタシがヴォイニッチワールドへ,

迷い込んだ場所がこのビルだったんだ。」



なんとリサちゃんはこの場所を訪れた時に,

頭に強烈な痛みを感じて意識を失い,

気づいたらあのバトルヤバイヤロをさせられた世界へ,

さまよいこんでいたようです。



リサ「このビルの通っている塾があるの。

塾なんて行く必要ないんだけど,

親がどうしても行けって言うからね・・・。」



「はいはい,

優秀でよかったね。」




トシ君が先ほどのお返しと,

言わんばかりの嫌味を言いました。



「じゃあ,

友達も同じように別世界に?」




リサ「ううん。どうやらアタシだけだったんだ。」



どうやらリサちゃんは,

このビルにある塾に通おうとした際に,

ヴォイニッチワールドへ行ってしまったようです。



リサちゃんはさらにあの時,

帰り際に話せなかったことを伝えようとしました。



その内容とは・・・。





第453話~第456話

2023/3/11

第453話 ワクのわくわく冒険記 アフター 後編
リサちゃんの口からはヴォイニッチワールドへ,

迷い込んだ時の記憶が語られました。



リサ「アタシは授業が始まるまでビルの屋上にいたの。

休憩所として開放されていたの。」



「え?屋上?危なくないの。」



リサちゃんはトシ君の質問をスルーして,



リサ「周りには誰もいなかったかな。

もうすぐ授業が始まりそうだったから。

そして塾の教室へ戻ろうとしたら急に頭が痛くなったの。

ものすごい痛さだったのを覚えている。」



と,話を続けます。



「なるほど,

オレたちと症状は同じだ。

急な頭痛の後で意識を失った。」


「そうそう。

それで目が覚めたらあの世界にいたんだよね。」




彼もそのあたりのことは覚えていたようです。



リサ「だからこのビルの屋上に一緒に行ってくれれば,

何か分かるかもしれないの。」



「それでオレを呼んだのか。」



そこにはトシ君は頭数には入っていませんでした。



三人はビルの入り口から入ったすぐ近くにある,

エレベーターに乗って屋上まで行きました。



屋上につくと,

トシ君はいの一番に外へ出て行きました。



そこは高い柵に囲まれ,

安全対策はしっかりとしてあり,

プラスチックでできた机とイスが,

いくつも置いてありました。



花壇や小さな木もあり,

休憩するにはもってこいの場所でした。



ワク君は屋上のふちまで来て,

そこから景色を見渡しました。



「(絶景だな。

名駅も近くて,

高いビルに囲まれているが,

負けていない高さだ。)」





このビルは高層ビルに分類され,

見晴らしは相当良かったのです。



三人はそこでヴォイニッチワールドへ,

行ってしまった手がかりを探しました。



しかしどれだけ探しても,

それらしい証拠は見つかりませんでした。



屋上にいた他の塾生や社員が,

少し怪訝(けげん)そうな顔で,

その様子を見ていました。



「何もそれらしいものはないよー!」



リサ「無能なお方は黙ってくださいます?」



リサちゃんは相当イライラが,

たまっていました。



「でも,

トシの言うとおり,

これ以上ここを探しても,

仕方ない気がする。」




リサ「そっかぁ・・・。

絶対何か分かると思ったのに。」



彼女は今度はすごく,

落胆している様子でした。



「他に気付いたことはない?

例えば倒れた時と起きた時で,

何か身の回りに変化があったとか。」




リサ「あるある!

目が覚めた時は,

ワク君のそばにいたこと!」



彼女はさらに興奮気味に続けます。



リサ「あの時は異世界に迷い込んで,

そこでみんなと一緒になったから,

戻った時も一緒だったのかなって,

思っていたけど。」



彼女は倒れた時と,

目が覚めた時の場所が,

違っていたようです。



「それはかなり気になるな・・・。」



ワク君は真剣な表情で考えていました。



「まぁまぁ,

ここから見える景色を見て気を休めようよ。

良い景色じゃない!

こっち側はセントラルタワーがあるから,

ちょっと見晴らしが悪いけどさ。」


「・・・。」



三人はビルの入口まで戻ってきました。



リサ「アタシは諦めないよ!

絶対に何かあるんだ!

じゃなきゃ納得できない!」



「たしかにな。

この科学文明の時代に,

異世界に飛んだなんてありえない。」




ワク君は考え込みました。



「これ以上気にしても仕方ないよ!

リク君に相談でもしてみようよ。」


「とりあえずはオレたちの問題だ。

リク兄に頼るのはまだ早い。」




ワク君は自分のプライドにかけて,

この謎を解いてみたくなりました。



ワク君はリサちゃんとイヤコムのID交換を行い,

いつでも連絡をとれるようにしました。



リサ「じゃあ,何か分かったらすぐに教えてね。

こっちも色々と調べておくから。」



「わかった。

でも無理をしないようにな。」




リサちゃんの方が一回りも年上でしたが,

ワク君は同級生のように会話をしていました。



果たしてあの世界は何だったんでしょうか。



本当に異世界があって,

そこに迷い込んでしまったのでしょうか。



彼らがこの謎の真相にたどりついた時,

衝撃の事実が待ち受けることになるのですが,

それはまだ少し先のお話でした。



第454話 聖母 前編
少年昆虫団はまさらちゃんとカイリちゃんのお買い物のお付き合いで,

中野木商店街の中心部まで来ていました。



カイリちゃんは小走りにはしゃぎながら,

とてもうれしそうにしていました。



「ああしてみると,

まだまだ子供だな。」



イツキ君がそう言うと,



「でも頭のキレは相当だよね。

リク君と3つしか年が離れていないのにさ。」

「・・・。」



リク君は何も言わずに,

通りの真ん中をゆっくりと歩いていました。



あまり買い物は乗り気ではないようで,

テンションがかなり低めでした。



「まぁたまには,

ショッピングもいいじゃないですか。」



と声をかけたのは,

その後ろを歩いているだぬちゃんでした。



「でもここってたしか,

三大悪童“マザー”のナワバリじゃなかったけ?」



隣を歩いていた彼がだぬちゃんの耳元で囁きました。



「あわわ。そうでした。

たしか以前まさらちゃんが,

そいつらの部下に襲われたんですよね?」

「襲われたのは事実だけど,

あいつらは部下じゃないだろう。」



リク君が否定すると,



「だろうな。あいつらは弱すぎた。」



イツキ君も同調しました。



「あ,あのお店に行ってみたい!」



まさらちゃんとカイリちゃんが3階建ての,

おしゃれなブティックにかけこんでいきました。



残りの男子陣も仕方なくついて行きました。



そのお店で小一時間ほど過ごしました。

女子二人の手には紙袋が下げられていました。



「いっぱい買えたね!」

「疲れるー・・・。」



すでに彼はぐったりしていました。



「でませんね,

マザーの配下たち。」



だんちゃんはキョロキョロと警戒していましたが,

思い過ごしだったようで少し安心していました。



「だぬも臆病だな。」

「そっそんなことないですよ。

そもそもマザーってどんな人なんですか?」



だぬちゃんが聞くと,



「マザーっていうのは聖母って意味らしいよ。」

「聖母!聖母といえば淑女(しゅくじょ)!

さぞ美しくおしとやかな女性なんでしょうねー。」



彼が勝手なイメージを膨らませていると,

周囲の目が変わりました。



「ん?どうかしたんですか?

だぬ,なんか変なこと言いました?」



だぬちゃんは自分の頭が,

濡れていることに気付きました。



彼が頭についた液体をぬぐい取り,

そのベタベタした液体を見て,



「なんですかこれは?」



そう言って,後ろを振り向くと・・・。



そこには身長180センチ,

体重100kgはあろうかという,

巨漢な少女が立っていました。



<三大悪童の一人 マザー 轟名は"聖母">



だぬちゃんの頭にかかった液体は,

彼女が垂らした大量のよだれでした。



「ぎゃぁぁぁ!化け物ぉぉぉ!」



マザー「誰が化け物じゃぁぁ!」



マザーは大きく息を吸い込みました。



次の瞬間には口から謎の液体を,

吹き出していました。



「あぶねぇ!!」



だぬちゃんはイツキ君に抱きかかえられ,

間一髪でその液体を避けました。



地面に落ちていたごみに付着したその液体は,

ジュウッと音をたてながらそのゴミを溶かしているようでした。



「なになに!?

いったい何!?」



トシ君も軽く混乱していました。



「気をつけろ。

こいつが三大悪童の一人"マザー"だ。

轟名(ごうな)が聖母!」

「あいつがよだれを垂らしたら要注意だ。

口から強烈な胃酸を吐きつける!」



二人がマザーと他の昆虫団の間に割って入りました。



「なんですかそれは!

やっぱり化け物じゃないですか!!」



しかし気づけばマザーの後ろにも,

たくさんの配下たちが集まっていました。



このまま一発触発となってしまうのでしょうか・・・。



第455話 聖母 後編
少年昆虫団は中野木商店街で偶然にも,

三大悪童の一人である聖母“マザー”と遭遇しました。



気づけば彼女の後ろには,

沢山の配下が集まっていました。



「なんか色々きてますけどっ!!」



マザーの右側にいた女性が,



???「マザー,

この二人って,

リクとイツキじゃないですか。」



と言うと,



マザーの左側にいた,

キセルを口に咥えた,

ゴツイ女性が,



???「間違いないね。

庄外川の大戦(おおいくさ)いらいだ。」



と,相槌をうちました。



「それって・・・。」



まさらちゃんがそこまで言いかけたところで,



「俺たちは別にお前たちの縄張りを,

荒らしに来たわけじゃない。」



彼が前に出てきて,

彼女の言葉をさえぎりました。



マザー「だろうね。

どうみてもそんなメンツじゃない。」



マザーはまさらちゃんやだぬちゃんを,

なめまわすように見て言いました。



マザー「結局あの戦では決着がつかなかったからね。

みんなピリピリしているのさ。」



あの戦とは庄外川の大戦,

庄外川合戦,

庄外川の戦い,

とも呼ばれる戦いこのことでした。



日和「先日もうちらの縄張りに,

“シーザー”の配下が入りこんできて,

大乱闘になったんだ。」(第173話参照)





<紫式部連合 総長 紫 日和(ひより)>



この紫 日和(ひより)と言う女性は,

先ほどからマザーの右側に立っている女性で,

組織のナンバー2でした。



「紫式部連合の総長,

ひよりさんだったね。

お久しぶり。」



紫式部連合は区内の暴走族でも,

1,2を争うほど有名で,

その人数は200人を超えます。



マザーグループ(通称マザーズ)の中では,

2番目の規模を誇る組織でした。



リク君は軽く手を振ってあいさつをしました。



どうやらリク君とイツキ君はこの組織とも,

幹部以上とはほぼ顔見知りだったようです。



だぬちゃんは驚きを隠せませんでした。

トシ君に至ってはあっけにとられている状態でした。



マザーの左側に立っていた女性は清水 涼香といい,

清涼納言連合のレディース総長でした。





<清涼納言連合 総長 清水 涼香(すずか)>



この連合も総勢150名規模の巨大連合です。



涼香「あたいらはナワバリの警戒で忙しいんだ。

お前たちを相手にしている暇はない。」



涼香は冷たい目をして,

そう言いました。



この女性こそ,

マザーズのナンバー3だったのです。



つまりこの場には,

ナンバー1から3まで勢揃いの状態でした。



今ここで,他のグループと乱闘になれば,

ほぼ確実に死者がでることは間違いがない,

という規模の戦力が集まっていたのです。



「警戒にしては,

大げさすぎない?

ナンバー1から3までがそろって・・・。」



マザー「あの戦で痛手を負ったのは,

“あいつら”だけじゃない,

うちらもさ。」



彼女が突然,

深刻な顔をしました。



その瞳の奥には悲しげな思いが,

映し出されているようでした。



マザー「これ以上の犠牲者は出したくない。

だから警戒するに越したことはないのさ。」



だぬちゃんはその話を聞きながら,

だからって"だぬに胃液をかける必要はあるの?"と,

心底思いましたが,

口には出しませんでした。



「何を警戒している?」



彼が何かを見透かして,

彼女にそう問いかけました。



マザー「近いうちにでかい戦がおきるよ。

前回の比じゃない・・・。

その前兆は起きているんだ。」



彼女はそう言い放つと,

部下を引き連れて下がって行きました。



その際に,



マザー「小僧,胃酸をかけてすまなかったね。

家に帰ってしっかりとシャワーを浴びな。」



そんな言葉をだぬちゃんに投げかけ,

去って行きました。



「オイラ,

話についていけない・・・。」



トシ君がぼそっと,

つぶやきました。



リク君とイツキ君は去っていく,

マザーズを静かに見送っていました。



つい先日起きたと言われる,

庄外川の戦い・・・。



その全貌が明らかになる時,

これから何が待ち受けるのか,

判明することになるのです。



第456話 世界を支配する一族たち マーボーシリーズ
パクちゃんの叔父であるマーボーは,

多額の遺産を得たにもかかわらず,

投資によって全てを失ってしまいました。



さらに借金まで重ね,

首が回らない状態が続いています。



そこで起死回生の策として,

ウーチューブによる動画公開をして,

広告収益を狙うことにしました。



テーマは特に決められておらず,

マーボーの日常や彼の思ったこと,

考えたことをそのまま,

発信するスタイルのチャンネルだそうです。



今回の動画ではマーボーの自室から,

撮影されているようです。



少年昆虫団はパクちゃんからのお願いで,

その動画を視聴することにしました。



イツキ君の家に集まって,

彼のPCから動画サイトへアクセスしました。



「パクトの頼みとは言え,

めんどうくさいなぁ・・・。」

「まぁまぁそう言わずに。

彼らもアクセス数を稼ぐために必死なんだよ。」



イツキ君は自分のイスに座り,

他のメンバーはベッドに座って,

動画を視聴していました。



「始まりますね。

今度もまた株で損した話ですかね。」

「どうかなー。

同じことばかりやっていると,

飽きられると思うよ。」



トシ君は出されたウーロン茶を,

グビグビと飲みながら,

率直な意見を述べました。



ここからはマーボーチャンネルの内容をお送りします。



インタビュアーはパクちゃん(以下―)です。

「」台詞は全てマーボーです。



―今日はどんな動画にするの?



「今日は世の中のみんなが気付いていないことを,

教えてあげようと思う。」







画面に映し出された彼の姿は,

以前とは違っていました。



ストレスで髪は白くなり,

目は充血し,頬はこけ,

無精ひげがさらに,

濃くなっていました。



背景には自分が使っているPCと,

たまったごみ袋が映し出されていました。



―面白そうだね。例えば?



「結論から言おう。

世界は“とある一族たち”によって,

支配されている!!」



ここでババンッ!と効果音が入ります。



―えっと・・・。

いきなり,

何をわけのわからないことを,

言っているの?



「まぁ,聞け!そもそもなんで俺たちはこんなに貧乏で,

必死になって奴隷のように働かないといけないんだと思う?」



―そりゃ,おじさんが遺産を食いつぶして,

株取引で借金背負ったからでしょ。



「そうじゃない!俺以外の人間だって同じだ。

みんな必死になって働いているのに,

全然豊かになっていないじゃないか。」



―たしかに,言われてみればそうかもね。

でもそれと,さっきの結論と何の関係があるの?



「実は俺たちみたいな平民が豊かになれないように,

世界を支配している一族たちがいるんだよ。」



―うーん・・・。

いまいちよくわからないね。



「もし,そいつらが世界中の富と権力を独占して,

その分,俺達が貧しくなるとしたらどう思う?」



―でもさ,死んだらみんな同じじゃないかな?

だから別に気にしないかな。

どんなお金持でもいつかは死ぬんだからさ。



「それだ!それがすでにやつらの手中にはまっているんだよ。

やつらは俺達が富めるようになろうとする思考を持たせない。

むしろそんなものはむなしいものだと植え付ける。」



彼の自論はまだまだ続きます。



「いいか,俺たちは社会の,

馬車馬(ばしゃうま)ですらないんだ。

その車輪だ!言ってみれば社会の中で,

永遠に回り続けるだけの存在でしかない。」



―うん・・・。



パクちゃんはすでにあきれ返っていましたが,

とりあえず話を聞き続けました。



「そんな世の中が許されていいのか!

だれかこの世の中を変えてくれ!

そんな勇者を絶賛募集中だ!!」



彼は興奮のあまりたちあがっていました。



―ちなみに,

その世界を支配する何たらは,

どこ情報なの?



「ネットだ・・・。」



ここでチーンという,

効果音がなりました。



―・・・。



もう何も言葉が出ない様子でした。



―いまどきの中学生でも,

ネットの情報をうのみにしないよ・・・。



「だからと言って,

テレビなどのオールドメディアなど,

もっと信用できないだろう?

奴らの偏向報道は,

今の時代になってもひどいままだ。」



―えーと・・・,

今回の動画がためになったら,

ぜひチャンネル登録といいね!をしてね!



動画はここまででした。



「今回もなかなか中身のない,

ひどい内容だったね・・・。」

「でも,ホントにネットにそんな情報が,

出回っているんですかね?」



イツキ君はだぬちゃんの質問を見越して,

ネットで検索をかけていました。



「いや,そんな情報はでてこないな。

出てくるのは映画やマンガの設定などの,

フィクション関係ばかりだ。」



だぬちゃんも納得の表情でした。



「じゃあ,

あの人が言っていることは・・・。」

「ただの妄想ってことかな・・・。」



まさらちゃんも,

苦笑いするしかありませんでした。



「とんだ時間の無駄だったね。

さぁ,昆虫採集へ行こうか。」

「え?行くの?」



トシ君は嫌がりましたが,

いつもの日課は,

避けることのできないものでした。



今後のマーボーチャンネルの配信にご期待ください。



第457話~第460話

2023/4/8

第457話 ティンクル☆うるせぇくおんちゃん!
レオンさんは公安警察に所属する人間ですが,

身分を隠すために,

普段は中野木大学の院生として,

大学に通っていました。



大学でその正体を知っているのは,

学長と所属するゼミの,

蟷螂(カマキリ)教授だけでした。



例外としては彼の友人である,

灰庭氏もその一人です。



このゼミに途中編入して,

まだ間もないのですが,

持ち前のコミュ力で,

すっかり他のメンバーと,

打ち解けているようでした。



しかしこのゼミのメンバーは,

一癖も二癖もある学生が多く,

苦労も多いようです。



その中の一人に

一 久遠(にのまえ くおん)と,

いう女性がいました。







今回はこの女性とレオンさんの関係を,

垣間見ることができるお話です。



レオンさんはゼミの教室で一人残って,

レポートを仕上げていました。



教授からは“極秘任務でここにきているのだから,

大学の学業は形だけで良い”と言われていましたが,

完璧主義者の彼は学業もおろそかにしていませんでした。



「これで仕上がった・・・。」



そう言うと,

ノートPCを閉じて,

一息つきました。



この日は天気が悪く,外はあいにくの雨でした。



そこに,久遠さんがそっと入ってきました。



「あれ?どうかしたの?授業なら次は別の教室だよ。」



久遠「微かでも,道を叩く音がしたんだ。

貴方が呼んでいるように聞こえた。」



「は?道を叩いているのは雨音でしょ。」



彼が呆気(あっけ)に取られていると,



久遠「わずかに焼けたように,ほら,まだ少し君がいるよ。」



「(やばい。変なモード入っている。)」



彼女はレオンさんの前まで近づいてきました。



久遠「この淡いままの"もし"じゃあ終われないんだ。」



「へ・・・?もしもし?

(何を言ってるのか,

相変わらずわからん・・・。)」



さらに彼女は近づいてきます。



久遠「いつも雨音が泣いているように,

聞こえるのはなんでだと思う?」



「いっいや・・・。

しっ知らないよ。」



彼はすでに彼女の異常さに気後れしていました。



久遠「それは"君"だよ。君が原因なんだよ。」



彼は全力で首を横に振り,原因を否定しました。



久遠「耳をふさいだまま,手は伸ばせないんだ。」



彼女のポエムは,

レオンさんのIQをもってしても,

理解不能でした。



久遠「滲んでいた高鳴りが,

まだ響き続けているんだ。」



レオンさんは思わず,

ため息をついてしまいました。



久遠「吐きだされた"ため息"で,

理想を描いていたとは知らなかったよ。

あなたの夢を見るくらいなら,

忘れた方がいいのかな。」



「(もしかしてこれは,

告白をされているのか??)」



どうやら久遠さんの意図が見えてきたようです。



「(いやいや,無理だろう・・・。

そもそもオイラには・・・。)」



久遠「全てを知るのが怖いんだ・・・。」



彼女はそっとレオンさんの手に自分の手を添えました。



久遠「だけど今はこの痛みを越えて強くなりたいんだ・・・。

それでも世界なんてただの風で,

希望なんていつか消えていくものなんだよね。」



「あの,ちょっと待って・・・。」



レオンさんは思わず,

目をそらしてしまいました。



久遠「でも,この時をまっていたんだ。

二度と来ないかもしれないからさ。」



彼女はとびきりの笑顔で飾り付けていました。



久遠「あーあ,君の気持ちを引き寄せる,

魔法があればいいのになぁ・・・。」



久遠さんはレオンさんの反応を見て,

脈がないと観念して諦めました。



「ふぅ,助かったぁ・・・。」



久遠「ホントはね,

いつも隣どうしで歩く時に,

何から話そうかなとか,

考えるとドキドキしていたんだ。」



久遠さんは頬を赤くして下を向いていました。



「でもふだんはお調子者と言うか,

あっけらかんというか・・・。

何を考えているか分からないような,

態度ばかり取っていたじゃない・・・。」



久遠「レオンさんってホントに乙女心が分かっていないんだね。

そんなのは振り向いてほしいからに決まっているじゃない。」



いつもとは違う,

精一杯のか弱い声で,

本音を伝えました。



久遠「ホントの自分をさらけ出すと,

恥ずかしくて目も合わせられないの。

でも気づいたんだ。

幸せは自分で作り出すものなんだって。」



「そうだったんだ。ごめん・・・。」



なぜかレオンさんは謝ってしまいました。



久遠「出会ったときから,

抱きしめていた思いを,

伝えようと思って来たんだ。」



「久遠・・・。」



レオンさんは立ち上がりました。



彼女の真剣な思いに,

答えを出すべきだと考えたのです。



「実はオイラは・・・。」



そこまで言いかけた時,

頭に任務のことが横切りました。



ここで正体をばらしてしまっては,

全てが水の泡となってしまうかもしれないからです。



「オイラ・・・―・・・。」



その時大きな落雷があり,

彼の声がかき消されてしまいました。



しかし彼女には,

彼が言うとしていたことが,

伝わったようです。



久遠さんは目に涙を浮かべ,

泣き出しそうな顔をしていました。



しかし,グッとこらえ声を絞り出しました。



久遠「夜空の下で描く理想は,

ときめく乙女のミラクルなんだよ。」



これは諦めないと言う宣言なのでしょう。



久遠さんはそっと教室を出て行きました。



「なんだか今日は疲れたな・・・。

早めに帰ろう・・・。」



気づけば雨は上がり,

空には虹がかかっていました。



世界中に

カラフルな虹をかけよう

それは恋する

カーニバル

(著書:サリーチャン

『恋のバイブル第二章』より)



今回のお話を構成するに当たり,

参考にさせていただいた文献です。

https://www.youtube.com/watch?v=06cP0tsEV_k

https://www.youtube.com/watch?v=51r4mVjyDP8

https://www.youtube.com/watch?v=ryCjwL9WNAs

厚く御礼申し上げます。

第458話 プロローグ

天獄のバベルシリーズ 序章
8月15日



少年昆虫団はこの日,

愛知県警本部へ来ていました。



時刻はお昼12時近くで,

すでに昼食は中野木大学ですませていました。



彼らはここに来る前に,

レオンさんの大学の研究発表を,

聴いてきたのでした。(379話参照)



彼らは1階のロビーで,

レオンさんと赤神さんと,

青山さんを待っていました。



5分ほど待っていると,

三人がそろってやって来ました。



赤神「お待たせ。」



「先ほどはどうも。

今日はなんか忙しくなりそうだ・・・。」



赤神氏が手を振りながら声をかけてきました。



レオンさんはまだ発表の疲れが,

抜けていないようでした。



それでも気を取り直して,



「今日は特別に警察内部を,

案内してあげるからね。」



と,元気に言いました。



「うん,楽しみー!」



ここに来た目的の一つは,

県警署の中を特別に,

見せてもらうことでした。



「それじゃあ,行こっか!」



青山「朝から,元気だねぇ・・・。

俺は昨日もライブで疲れているよ。」



赤神「体調が悪いなら,

知り合いの医者に診てもらった方が,

いいんじゃないか?」



青山さんは,首を横に振って,



青山「そこまでするほどでもないさ。

何時"あいつら"がやって来ても,

返り討ちにできるくらいだ。」



と,言いました。



"あいつら"とは,

日本国を貶め,

悪事を企む闇組織ジャパノフォビア,

通称JFのことです。



赤神さんとレオンさんが先頭でみんなを誘導して,

廊下を歩いて行きました。



途中,背の高い中年の男性に声をかけられました。



???「おや,君たちが少年昆虫団かな?

噂は聞いているよ。」



「え?だぬたちって,

警察内でも有名なんですか!?」



だぬちゃんは思わずうれしくなりました。



赤神「そりゃあ,有名さ。」



彼は続けて,



赤神「紹介しよう。

こちらは広報課の,

蒲郡忠義(がまごおり ただよし)部長だ。」



「広報ってどんな仕事するの?」



トシ君が聞くと,



蒲郡「我々がどんなお仕事をしているか,

市民の皆さんに知ってもらうための活動とか,

事件があった時に,

マスコミの対応なんかをしているんだよ。」







<蒲郡(がまごおり) 忠義 広報課長>



大変そうだな。

今,名古屋市内を飛び回っている飛行船も,

愛知県警の企画なんだろ?」



イツキ君が質問すると,



蒲郡「そうだよ,私自ら計画を立案したんだ。

よく見てくれているね,ありがとう。」



彼はそのあと,

少し赤神さんたちと会話を交わした後,

その場を去って行きました。



その後,一通り署内を見学し,

とある会議室へ案内されました。



「さて,ここからが本題だね。」



リク君は正面に座っていた,

赤神さんにそう言いました。



赤神「ああ。」



リク君が言う本題とは何なのでしょうか。



一方,時は少しさかのぼり・・・・。



第459話 御前会議1

天獄のバベルシリーズ 第1章
8月15日 午前7時

―闇組織JF本部"バベル"内にて―



JFの幹部たちはとある場所へ向かっていました。



この日は月に一度の御前会議が,

開かれる日だったのです。



御前会議とは,

組織のトップである

“御前”が参加する会議のことです。



ただし議題に上がった事について,

御前が意見を言うことは少なく,

議題を承認する形が多いようです。



時には御前が判断を下し,

命令を出すことがあります。



それは“勅命”といって,

組織の中では最も重い決断とされ,

最優先で遂行しなければ,

ならない命令とされます。



本日の御前会議では,

通常と同じような流れとなるのでしょうか。



ここに4人の幹部がそろって,

会議室へと向かっていました。





左からアヤ,山本,

源田,奥に今村と並んでいました。



トップシークレットの場所のため,

内部は暗くよく見えません。



アヤ「アタシ,ここ嫌い。

暗いしジメジメしているしさ。」

源田「文句を言うな。恐れ多いぞ。」




源田がアヤの発言をたしなめました。



しばらくして,

目的の場所へと到着したようです。



源田が扉の前であいさつをし,

中に入って行きました。



その扉は分厚く,

見た目からして,

かなり重い材質でできているようでした。



中には細長いコの字型のテーブルが用意してあり,

それぞれの席は場所が決まっていました。



窓はなく,

湿気が多い部屋で,

じめじめしている感じがします。



一番上座は御前が座るための,

豪華絢爛なイスが用意してありました。



まだ御前はいないようです。



御前の椅子から一番近い位置に,

一人の人物が座っていました。



彼の通り名は石原,

通称“カンジ”と呼ばれていました。



カンジ「皆の者,御苦労。」





<闇組織JF ナンバー2 石原(カンジ)>



なんとリク君たちが以前出会った老人は,

JFのナンバー2である人物だったのです。(105話参照)



カンジ「今日,議題に上がる少年たちに興味がある。

実は少々面識があってな。」

山本「・・・。」



山本は何も言わず静かに,

会議が始まるのを待っていました。



カンジ「ん?東條はどうした。

間もなく定刻を迎えるぞ。」

今村「ふぉっふぉっ。

迷子にでもなったんじゃないですかねぇ。」



今村は今日もテンションが高いようです。



源田「そんなわけないだろう。

何回ここにきていると思っているんだ。」



彼がその意見を否定していると,

扉が開きました。



東條が中に入って来て,

開口一番にこう言いました。



東條「すみません,迷子になっていました!」



さらにその後ろから,

生命工学研究所の所長である,

石井が入ってきました。



彼もこの御前会議の参加者の一人だったようです。



石井「おうおう,

悪そうなツラの連中がそろっておるな。」



嫌味を言いながら,

自分の席に座りました。



これで御前以外のメンバーがそろったようです。



東條「(あれ?僕の向かいの席が,

空いているな・・・?)」



座席はコの字になっており,

上座に御前が座ります。



右奥からカンジと石井が,

座っていました。



左奥から源田,

隣に山本となっていました。



山本の隣にアヤ,

その向かいに今村が座り,

東條は一番入口に近い場所に,

座っていました。



この部屋には先ほど源田が開けた重い扉のほかに,

もう一つ奥の方に扉がありました。



それは御前専用のものでした。



そして,

その扉が静かに開きました。



現れたのは・・・。



第460話 御前会議2

天獄のバベルシリーズ 第1章
御前会議が行われる場所は広すぎず狭すぎず,

必要な人数がちょうど入れるくらいの大きさでした。



そこには闇組織JFの幹部と生命工学研究所の所長である石井,

そして組織のナンバー2とされる石原が着座していました。



山本は珍しく帽子を脱ぎ,

頭を下げて静かに待っていました。



他の幹部たちも同様に,

こうべを垂れてその時を待ちます。



このようなしぐさ一つをとっても,

御前への畏敬の念が見られます。



彼らの多くは“大陸”の言語を母国としているようですが,

ここでは郷に入っては郷に従えということで,

日本語で会議を行っているようです。



上座のすぐ後ろにある扉が開きました。

そこから一人の人物が中に入ってきました。



全員が緊張感のあまり,

声も出さず,

静かに彼の動きを追いました。



その人物が豪華な装飾をした椅子に,

ゆっくりと腰掛けました。



カンジ「御前が有せられた。」



その姿は高齢とは思えないほどの威圧感と,

自信にみなぎっていました。



御前「皆の者,大義である。楽にせよ。」





<ジャパノフォビア(通称"闇組織JF")総帥 御前>



御前のお言葉で全員が顔をあげました。



カンジ「本日の御前会議では,まことに恐れながらも,

御前にも聖慮(考え,意向)いただきたく存じ上げます。」



御前「・・・。」



御前は言葉を発することなく,

静かにうなずきました。



カンジ「それでは,

さっそく議事を進行していく。」



ここからは幹部に向けて話を進めるため,

言葉遣いが変わりました。



先ほどのしぐさ同様に,

彼らにとって御前という存在は恐れ多い,

人間を超越した存在だということです。



カンジ「本日の議題は三つ。

一つ目は新幹部任命について。

二つ目は“御前の大望”に向けての,

進捗状況の確認と詳細について,

そして最後に・・・。」



彼は少し間をおいてから,



カンジ「菊水華の対応について,である。」



と,説明しました。



源田が挙手をし,



源田「空席となっていたユニット“沼蛭”の幹部を,

決めるということでしょうか。」

カンジ「そうだ。

そして先ほど議題といったが,

これについては決定事項でもある。」



カンジは御前に視線を向け,

何かを確認したようです。



今村は何も発言せず,

事の成り行きを見守っているように感じられました。



東條「どういうことです?」



下手(しもて)に座っていた,

東條が質問をしました。



カンジ「入れ。」



合図を受けて,

奥の扉から一人の人物が,

部屋に入ってきました。



その人物とは・・・。



第461話~第464話

2023/5/6

第461話 御前会議3

天獄のバベルシリーズ 第1章
御前会議室の奥にある扉から,

入ってきた人物とは・・・。



影「みなさん,御機嫌麗しゅうございます。」



それはユニット“海猫”の配下だった,

影(シャドー)でした。



<ユニット沼蛭 新リーダー 影(シャドー)>



山本「なぜ,貴様がここに。」



山本がようやく口を開きました。



この時点で,

山本と影はどこかで,

一度顔合わせをしているようです。



今村「ふぉっふぉっ。

この人物が新幹部というわけですよ。」

影「今村さんには色々とお世話になりました。」



影(シャドー)は今村の席の前までやって来て,

深々と頭を下げました。



今村「カンジさんからお話を聞いた時は,

びっくりしましたけどねぇ。」

山本「どういうつもりですか,石原サン。」



山本は石原(カンジ)をにらみつけました。



カンジ「囀(さえず)るな小僧。

これは御前の御聖断である。」



山本「なっ・・・。」



“御聖断”という言葉が出た時点で,

幹部たちは何も言えませんでした。



それほどまでに,

御前が決断したことはゆるぎないことなのです。



影「今日は新幹部としてあいさつをさせていただきました。

この後の御前会議には,私も参加させていただきます。」



そう言って,

東條の横にひとつだけ空いていた椅子に座りました。



東條「なるほど,

君が座るためにここのイスが空いていたってわけか。」

影「ふふふ。何卒よろしくお願いします。」



影は東條にもあいさつをしました。



東條「神出鬼没,

正体不明で通している君が幹部か。

なかなか面白いですね。」

カンジ「それでは議題に入る。」



石原が議事を進めます。



源田「いよいよ本題ですな。」



彼らは手元に用意された資料に,

目を通し始めました。



石井「まずは私から研究報告をするとしよう。」



彼は追加のレジュメを配りました。



石井「7月29日のゲリラ豪雨の夜,

各務原山で漆黒の金剛石が再発見されたことはご存知だろう。」



この手柄は川蝉の東條による功績でした。



山本「俺はそれを聞いて,

すぐに南雲を東南アジアの紛争地域へ派兵した。

奴にもっと殺しの経験を積ませるためにな。」

アヤ「あら?

東條君が手柄を立てたことと,

何か関係があるのかしら?」



彼女が聞くと,



山本「これ以上,

そこの男に手柄を立てられたら,

山犬のメンツが立たない。」



彼は川蝉率いる東條にこれ以上,

出し抜かれないために,

南雲を鍛えなおす決意をしたようです。



それが7月30日のことでした。



その後,

5日ほど現地で過ごし,

多くの生死を懸けた経験を得て,

8月7日に帰国したようです。



そして翌日には,

作戦のために,

精鋭部隊の鷲隊長を,

暗殺しています。(第236話参照)



彼らがなぜ殺されなければならなかったのかは,

ここでは明らかになりませんでした。



東條「山本さんって案外子供っぽいですね。」



彼は山本を挑発するような物言いで,

語りかけます。



しかし,山本は無言を貫きました。



第462話 御前会議4

天獄のバベルシリーズ 第1章
―8月15日―



とある場所にて,

闇組織JFの幹部が一同に集まり,

会議を開いていました。



石井「漆黒の金剛石は,

小早川の奴に絶滅させられる直前まで,

研究が進められていた。」





<故小早川教授 (レオンの父)>



この出来事が起きたのが今年の4月だったようです。



当時は彼の仕業だと気づかれていなかったため,

引き続き組織に身を置いて,

ノアの書を盗む機会をうかがっていたのです。



石井「再発見後はただちに神の遺伝子の抽出に成功。」



御前はただ静かに,

会議の進行を見守っているようでした。



石井「8月6日より培養した“アレ”に組み込んだ,

試験品をばらまいている最中だ。」



アレとはいったい何を指すのでしょうか。



源田「軍医,

そうなると御前の大望はもう目の前なのでは?」

石井「源田よ,焦るな。

実験に焦りは禁物だ。」



少し間を置き,



源田「たしかに。

我々にとっての不穏分子が,

なくなったわけでもない。」



と言って,

自身の発言を,

撤回しました。



東條「それって,菊のみなさんのことですよね。」



この発言に全員が同意見でした。



これが本日3つ目の議題となっているようです。



アヤ「あとは,例のコも?」



それはリク君を指していました。



影「彼は手ごわいですよ。

私は戦ったことがありますが,

並大抵の実力じゃありません。」



どうやら影はリク君の実力を,

高く評価しているようです。



山本「心配するな。

あのガキ共は俺達が必ず消してやる。」



彼は自信満々にそう言いました。



東條「でも南雲さんにその計画の指揮をさせたら,

失敗したじゃないですか。」



彼の発言は嫌味たっぷりでした。



しかし先ほど同様に山本は反論しませんでした。



この後,闇組織JFの懸念事項である“菊”と,

少年昆虫団をどう排除するかが議論されました。



引き続き,

菊暗殺作戦は継続していくということで結論が出ました。



それは全ユニットが連携して行われるということです。



最後に,

御前から御言葉がありました。



全員が直立不動となり,

緊張の面持ちでした。



御前「皆の者,御苦労であった。

引き続き,組織のため尽くしてまいれ。」



そして,御前は奥の扉から部屋を出て行きました。



カンジ「この後は,各自持ち場へ戻るように。」



その前に,

石原(カンジ)よる事後連絡があるようです。



カンジ「本日は“バベル”にて,

午後13時半から一般人に,

見学ツアー企画を行っている。

表向きは超優良企業となっているからな。

これも地域密着型企業による活動の一環だ。」



山本「くだらん。」



彼は一笑に付しました。



源田「そう言うな。

安重昏氏のことも考えてやれ。

その苦労は並大抵のことではないはず。」



彼は表のトップに君する人物の,

気苦労を知っているようでした。



その視線は石原に,

向けられているようにも感じられました。



彼は表と裏の仲介役を,

こなしている存在なのでしょうか。



カンジ「というわけで,

お前たちがここをあまりうろついて目立つとまずい。

午後はバベルから離れて活動をするように。」



この命令で,

山犬は通常訓練のため,

小牧の山奥へ向かうことにしました。



東條は先月に負傷した木戸と共に,

温泉へ行くことにしました。



名目は木戸の傷を回復させるため,

というものでしたが果たして・・・。



藪蛇のアヤはマヤと共に,

JF支部がある豊橋へ車を走らせました。



森熊の源田とキラーには,

休暇が与えられました。



彼はバベルを離れることを少し渋りましたが,

御前による勅命だと言われ,

止むを得ず納得しました。



今村は山犬についていくことにしました。

影はいつの間にか姿を消していました。



こうして12時前には,

御前会議は滞りなく終了しました。



石原は彼らが出ていくのを見送り,



カンジ「これでよろしかったのですね。」

御前「うむ,大義であった。」



扉の奥から物々しい御前の声が,

聞こえてきました。



御前「久方ぶりに面白き日になりそうぞ。」



そしてリク君たちにとって,

忘れられない運命の,

8月15日午後を迎えます。



―第1章 完―



第463話 天獄への見学

天獄のバベルシリーズ 第2章
8月15日 

場面は再び少年昆虫団となります。



少年昆虫団はレオンさんと一緒に,

愛知県警本部に来ていました。



通された部屋は広く,

普段は会議などで使われているような場所でした。



部屋には赤神氏と青山氏も一緒にいました。







リク君は,

自分たちが呼ばれ本当の理由を聞きました。



表向きは県警本部の見学となっていましたが,

本当の目的は別にあったのです。



赤神「察しがいいな。」



彼は感心しました。



「さすがに見学会に来てくれじゃあ,

信じないぜ。」



昆虫団は赤神さんが何を口に出すか,

じっと待っていました。



赤神「実は本当に見学会に行ってもらいたいんだ。」



みんなは意外な内容にびっくりしてしまいました。



「どういことですか?」



まさらちゃんが挙手をして質問をしました。



「これを見てほしい。」



レオンさんは机の上にパンフレットを置いて,

みんなに見えるようにしました。



「何これ?

難しい字が書いてある・・・。」



彼の代わりにリク君が読み上げました。



そこには「名古屋セントラルタワー一般見学会」

と書いてありました。



「『弊社は開かれた地域への取り組みとして,

地域密着型企業としての在り方を,

より多くの方に知ってもらうために,

弊社内の見学会を実施いたします。

多くの市民の方による参加をお待ちしております。』

だってさ・・・。」


「これはなんですか・・・?」



だぬちゃんもいまいち意味がわかりませんでした。



赤神「君たちにはこの見学ツアーに,

翠川と一緒に参加してほしいんだ。」



翠川という苗字は小早川レオンの仮名です。



「なんだと・・・。

ここって闇組織JFの本拠地だろ!?」


「ちょっと正気ですか!?」



みんなは動揺を隠せませんでした。



「つまりこのツアーを利用して,

一般人のふりをして,

敵の本拠地に忍び込んで情報を集める,

偵察活動をして欲しいってこと!?」



まさらちゃんが赤神氏の言いたかったことを,

全部言ってくれました。



「赤神さん,

やはりこの作戦は止めましょう。

リスクが高すぎます。」



話を隣で聞いていたレオンさんが,

割って入ってきました。



赤神氏は少し考え込んだ後,



赤神「そうだな,

君たちにはあまりにも,

無茶なお願いだった。

忘れてくれ。」



そして,

彼がもう一言付け足しました。



赤神「そもそも君たちを巻き込んだ作戦を,

押してきたのは上層部なんだ。」



「上層部って?」



リク君が聞くと,



赤神「“菊水華”の指揮権自体は俺にあるんだが,

助言と言う形で直属の上司や,

もっと上の西春本部長までもが,

口を出してくる時があってな・・・。」



その内容を語る時,

とても苦々しい表情をしていました。



赤神「今回の話は近衛参事官って方が助言してくれたんだ。

俺は君たちを巻き込むことは気が進まなかったんだが,

“一応聞いてみてくれ”と言われたもんで・・・。」



ここで赤神氏の考えに賛同していれば,

良かったのかもしれません。



しかしリク君は赤神氏の考えに対し,



「ボクは行きたい。

連れて行ってほしい!」



と言いました。



この瞬間から彼らは,

闇組織JFとの全面戦争は,

避けられない事となっていくのでした。



第464話 史上最大の作戦 前編

天獄のバベルシリーズ 第2章
リク君が“バベル”へ向かうことを決意すると,

後に続くように他のメンバーも続きました。



「リク君を一人だけ,

行かせるわけにはいかないもん!」



まさらちゃんが威勢よく言います。



「まさらちゃん,

簡単に言いますけど,

だぬたちでは彼らと戦えませんよ。」


「別に戦う必要はないもん。

リク君たちが怪我をしたら手当てをしてあげるの!」



レオンさんは彼女の必死さに,

いたく感銘を受けました。



「それは助かるよ。

今回は戦いに行くわけではないけど,

念のため救護箱を持っていこうと思っていたんだ。

それを君たちに預けるよ。」



そう言うと,

会議室の奥の控室の戸をあけて,

そこから二つの救護箱と何やら必要そうな物を取り出し,

まさらちゃんたちがいる机の上に置きました。



彼女は持っていたリュックの中に,

それらをしまいました。







「オイラは戦うよ!」



トシ君が自信満々に言うと,



「やめておけ。

俺だって力になれるか分からないんだ・・・。」



イツキ君は彼らの巨大な悪の力を,

身をもって知っていました。



「というわけで赤神さん!

作戦を教えて!

史上最大の作戦をね!」



彼がにっこりと笑うと,

赤神氏は少し考えるしぐさを見せた後,



赤神「わかった。

しかし君たちの身の安全が第一だ。

命の危険を感じたら,

翠川の指示に従って,

速やかにその場を離れるんだ。」



と言って,

作戦を慎重に実行するように念を押しました。



「了解!」



全員が大きくうなずいて返事をしました。



赤神「まず見学ツアーの案内は,

抽選で選ばれることになっているんだが,

すでに人数分の当選チケットが手元にある。」



「ラッキーだね。」



赤神氏が机の上に,

見学ツアーのチケットを並べました。



そこには大人チケット1枚と,

子どもチケット5枚がありました。



赤神「色々なツテを伝ってかき集めたんだ。

本当は大人が2枚分あれば良かったんだが,

1枚しか手に入らなかった。」



「だから保護者はレオンさん一人だけなんだ。」



まさらちゃんは納得しました。



赤神「社内はイヤコムやデジタル機器の類は,

持ち込み禁止だそうだ。」



「それじゃあ,

どうやって連絡を取り合うんだ?」



彼がもっともな疑問をぶつけました。



「これを使う。」



それは先ほど,控室から持ってきた危機でした。



イヤコムに似ていますが,

耳につけるタイプではなく,

服の裏につけるタイプの,

薄い盗聴器のような形をしていました。



赤神「これは“ポケコム”といって,

イヤコムよりもずっと通信範囲は短いが,

周囲からばれにくい特徴を持っている。

こういう時のために,

“菊”が開発した諜報機器だ。」



「すごーい!

なんかあたし達ってスパイみたい!」



彼女がはしゃいでいると,

横に座っていただぬちゃんが突っ込みを入れました。



「みたいじゃなくて,

本当にスパイ活動をやるんですよ。」



赤神「俺はバベルタワーの入り口付近で待機している。

そこからならギリギリ通信可能なはずだ。」



イツキ君が質問をしました。



「それで俺たちは,

何を調べてくればいいんだ?」



それは今回の作戦の本質をついたものでした。



赤神「それは・・・。」



いよいよ彼の口から作戦の目的が,

明かされることになるのです。







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